第一部 世界征服を目指す物語
第十一章 Part2

Part2



タキオン
 「状況は?」

各ブロックでの戦闘は沈静化しつつある。
超力戦隊Vファイブも全員が撤退し、残るはロボット部隊のみ。
タキオンは作戦司令室でジバボーグ、シャーク将軍と合流した。

ジバボーグ
 「各ブロックで戦闘は終わり始めています、ロボット部隊も各自撃破、または撤退した模様」

シャーク
 「ふぅ……難局乗り切ったか?」

シャーク将軍はボロボロだった。
白い将軍服も裾が焼け焦げており、激戦があったのだろう。
ジバボーグも装甲が傷ついているが、それは修理できる範囲だった。
タキオンはこの鮮やかすぎる撤退から敵の意図に確信した。

タキオン
 「デスリー総統は? デスリー総統は無事か?」

タキオンは直様ろとぼんに連絡を送った。
すると直ぐに返信は帰ってきた。

ろとぼん
 「ぽーん、お知らせしないといけない事があります」

……それは本当の意味で最悪の事態を意味していた。



***



当夜
 「……そう、そんな事が」

夜遅く、僕は総統執務室でシャーク将軍から事情を聞いた。
デスリー襲撃の直後、そして同時にそれが陽動で本命は僕じゃなく美陽さんだった。
誰もが僕の身の安全を警戒する中、真の目的を僕たちは誰も把握できなかった。
そして美陽さんが誘拐された後、シャーク将軍は部下たちを使いデスリーに関わる一切の痕跡を消していったらしい。
全てはこれ以上僕にデスリーには関わってほしくなかったからだ。

シャーク将軍
 「すみません……敵の目的に気づいてさえいれば」

当夜
 「将軍の責任じゃないと思う」

あの状況、正直僕たちには打つ手なんてなかった。
風子さんさえいれば美陽さんは護れたかもしれない、でもそれはもしもでしかない。
全ては裏目に出た、それだけなんだ。

当夜
 「それよりも美陽さんをどうやって取り返すかだよ!」

シャーク将軍
 「仰る通りです……! しかし、今日はもう遅い、この部屋でよければお休み下さい」

僕は俯いて床を見た。
シャーク将軍は頭を下げ、部屋を出ていく。
執務室には僕ひとりになった。
結局僕一人では美陽さんを取り返す事なんて出来やしない。
ならば僕はデスリー総統として、僕が出来る全てを利用するしかない。

当夜
 「シャーク将軍の言うとおり、もう休もう……今はその時じゃない」

僕はそう思うと部屋の端にあったベッドに転がった。
このベッド、昔お父さんが使ってたんだよね。
僕はここで眠ることで、ゆっくりと意識を微睡わせる。
デスリー総統に身も心も決めるように……。



***



朝……夢を見ない日は久しぶりだった。
僕が意識を戻す時、そこが僕の部屋じゃないと気が付く。
窓の無い部屋、デスリー総統がその一生を過ごす部屋だ。

当夜
 「……いま、何時だろう?」

僕はベッドに放置していた電力ギリギリのスマートフォンを見た。
時間は朝6時だった。

当夜
 「身体……覚えているんだなぁ」

僕は何故この時間に目が覚めたのか知っている。
これでも少し遅い位だけど、毎日風子さんと朝練していたからだ。

当夜
 「よっと」

僕は身体をベッドから持ち上げる。
軽く伸びをすると、執務室を見渡した。
執務室には僕一人、勿論カメラの類もない。
少し寂しいな、と感じてしまうのはまだ僕が上乃子当夜だからかなぁ。

当夜
 「……少し外に出てみよう」

僕はそう思うと執務室を出ていく。
今、デスリー秘密基地は静かだった。
けれど戦闘の余波は至るところに爪痕を残していた。

ジバボーグ
 「ふ! は!」

当夜
 「あ、風子さ……じゃなくて、ジバボーグさん!」

僕は静かな秘密基地内を歩くと、タキオンさんの研究所近くでジバボーグさんを発見した。
ジバボーグさんは拳法の型のような動きをして、日々鍛錬を忘れていなかった。
僕はジバボーグさんの前まで行くと、ジバボーグさんはこっちに振り返る。

ジバボーグ
 「まぁ、まぁまぁ! 当夜様!? あ、じゃなくてデスリー総統!」

当夜
 「はは、ジバボーグさんも変わらないなぁ」

……とはいいつつも、ジバボーグさんの装甲にはダメージの跡がある。
まだ修理完了していないんだ。

当夜
 「ジバボーグさん、お疲れさま」

ジバボーグ
 「あはは……ごめんなさいです。私が判断を誤らなければ」

ジバボーグさんもその選択肢の間違いを悔やんでいるのか。
だけどそれは間違いだ、あの選択は未来でも分らない限り正解なんて選べやしない。

当夜
 「違います、ジバボーグさんの責任ではありません、あれは誰の責任でもない……でも重要なのは美陽さん、ペレの奪還です」

ジバボーグ
 「……はい! ペレさんの誘拐、許せません!」

ジバボーグさんも美陽さんが拐われたのはショックがあったらしい。
でも、僕たちはそこで立ち止まっちゃ駄目なんだ。
皆の力を合わせる必要がある。

当夜
 「ところでドクタータキオンは?」

ジバボーグ
 「ラボにいるかと……ただ、まだ眠っていますよ?」

当夜
 「タキオンさん寝坊助だもんね」

僕は「ははは」と小さく笑った。
タキオンさんって普段は意外としっかりしたお姉さんだけど、やっぱり寝起きは地が出ちゃうもんね。
時々子供っぽい顔するのもタキオンさんの可愛い所かも。

当夜
 「用もありますし、とりあえず行ってみます」

ジバボーグ
 「分かりました、私は基地内を巡回しながら、訓練を続行します」

ジバボーグさんはそう言うと走り出した。
きっとジバボーグさん、自主的に巡回しているんだろうなぁ。
本来怪人は色んな義務的制約から免除される筈だし、本来の巡回警備は戦闘員の皆さんの仕事だ。
それでも今はその戦闘員さん達の姿も少ない。
負傷した人、あるいは必要に合わせて駆り出されている人、今は静かに見えてきっと忙しいのだろう。
僕はそんな組織の今を心配しながらラボへと向かうのだった。



***



当夜
 「失礼しまーす」

僕はラボに入るとラボの中は薄暗かった。
最低限の灯りはあるが、ラボの中は暗く僕はやや慎重に歩く。
タキオンさんの姿を探すが、恐らくいつものハンモックで寝ているのだろう。

当夜
 「あ、いた」

僕はラボの奥でハンモックを見つける。
ハンモックでは誰かが眠っており、毛布が掛けられているが正体までは分らない。
と言っても、タキオンさん意外ありえないだろうけどね?

当夜
 「タキオンさーん、眠ってます?」

僕はなるべく静かに声を掛けた。
でも、ハンモックはゆっくりと上下に揺れるだけで返事はなかった。
僕は直ぐ側に寄ると、タキオンさんの顔を覗いた。

タキオン
 「スゥ……スゥ……」

タキオンさんは横になりながら眠っていた。
その顔はとても穏やかだった。
相変わらずボサボサの髪とか、しわくちゃの白衣とか変にズボラな所もあるけれど、僕の知っているタキオンさんだ。

当夜
 (考えてみたら、タキオンさんの寝顔、こんなにじっくり見たのは初めてかも)

まだ出会ったばかりの頃は、タキオンさんは勝手に僕の布団に入ったり、僕がいるのにお風呂場に入ってきたり、僕に全く余裕を与えてくれなかった。
あの頃の僕は本当に一杯一杯で、タキオンさんが何をしたいのか全然分からなかった。
でも気が付いたら、そんな露骨なスキンシップは減ったっけ。

タキオン
 「んん……」

タキオンさんは寝返りを打つと僕の方を向く。
すると僕はタキオンさんの胸を見てしまう。
タキオンさんは寝相が悪いというか、服が乱れがちだ。
だからその……タキオンさんの胸は。

当夜
 「うう!? 駄目だ見てられない!?」

タキオンさんの胸元は開けており、きれいな肌が覗いていた。
僕はそれが見ていられなくて顔を背けてしまう。
タキオンさんはズボラで美とか全く意識してないんだろうけど、それでも僕にはタキオンさんは直視できない美しさがあると思った。
タキオンさんいい匂いがするし、それに結構胸も大きいんだよね……。

当夜
 「うぅ、それにしてもぐっすり眠ってるなぁ」

僕は勝手に顔を真っ赤にしながら背中を向けた。
今ならタキオンさんに何しても気付かれなさそうだけど、普段の辱めの仕返しをしようという気は微塵も起きなかった。
ていうか、タキオンさんの胸を見ちゃう辺り、僕も男なんだな……。

タキオン
 「ん、ん……」

当夜
 「ふえ?」

突然だった、タキオンさんは静かに僕に向かって手を伸ばしてきた。
そしてタキオンさんは無造作に僕を抱きしめ、引き寄せる。

当夜
 「わ、わわ!? タキオンさん起きてるのっ!?」

僕はいつものタキオンさんのお巫山戯かと思った。
タキオンさんは僕を弟かなにかと思っている所があるし、よく僕を冷やかしてくるんだから。

タキオン
 「ううん……当夜君の匂いが、す、る」

タキオンさんに僕の臭いが嗅がれている!?
僕はすっごく羞恥心が働いた、どうやら完全に寝ぼけているみたい。
前みたいに寝ぼけてサイコキネシスを垂れ流さないだけマシかもしれないけど、どの道このままじゃ僕は動けない。

当夜
 (うう! 後頭部に柔らかい物が当たってる、これタキオンさんの……!?)

気の性かタキオンさんの心臓の音が聞こえる気がする。
僕は色んな出来事に心臓をバクバクさせるしかなかった。

当夜
(め、瞑想……心頭滅却すれば火もまた涼し……!)

僕は精神を落ち着かせる為に兎に角無心になろうと努めた。
そう禅の気持ちだ、僕全然そういうの知らないけど、兎に角無心になるんだ!

タキオン
 「ん、んん……」

しかし、タキオンさんはまるであざ笑うように甘い声を上げ、僕は心を無にすればするほどタキオンさんの甘い臭いや布擦れする音、そして温かい体温が僕の煩悩を刺激した。

当夜
 (駄目だァァ!? このままじゃ煩悩に負けてしまう!?)

もはや僕には打つ手は無いのか!?
既に僕の股間は爆発寸前、いっそタキオンさんにぶちまけてしまいたい!
でもそんな寝込みを襲うような真似が出来る訳もなく、僕は必死に煩悩を抑えて自分の邪念と戦い続けるしかなかった。

タキオン
 「ううん? ふわぁ……ん?」

当夜
 「あ、タキオンさん?」

突然、タキオンさんが欠伸した。
どうやら目を覚ましたみたいだ、僕は助かったと安堵する。
しかし、まだ意識が微睡んでいるのかタキオンさんは。

タキオン
 「当夜君の臭い……んん!」

突然タキオンさんは僕に顔を何度も擦り合わせてきた。
僕は何がなんだかわからず戸惑ってしまう。

タキオン
 「当夜君、当夜君〜!」

当夜
 「あ、あの〜、僕ですけど、大丈夫ですか?」

タキオンさんは暫くすると顔を上げた。
その顔は涙ぐんでいて、心身共にタキオンさんが追い詰められているのが分かった。

タキオン
 「ぐす、当夜君、私もう二度と当夜君と会えないかと……!」

タキオンさんは恐らく僕の前からデスリーの存在を消す主導を取った筈だ。
既にその理由はシャーク将軍から聞いたけど、僕との関係を自ら絶ったタキオンさんの涙は、僕は自分を許せそうにない。

当夜
 「たとえ、タキオンさんが僕の前から消えても、僕は絶対にタキオンさんを探し出しますよ? 僕はデスリー総統なんですから♪」

僕は笑顔でそう言うとタキオンさんは泣きながら顔を近づけてきた。

タキオン
 「ん!」

当夜
 「んんっ!?」

僕は咄嗟のことに抵抗も出来なかった。
タキオンさんの激しいキス、僕は無防備に奪われてしまった。
数秒、いや10秒以上キスしていたかもしれない、最初に唇を離したのはタキオンさんだった。
タキオンさんは顔を紅潮させ、名残惜しそうに唇を離し「はぁ、はぁ」という呼吸も魅惑的で妖艶だった。
僕はタキオンさんに魅了されたのだろうか、タキオンさんから目を離せない。

タキオン
 「当夜君、愛している……だから」

タキオンさんの愛の告白、僕は正直言葉が見つからなかった。
ただ、タキオンさんはそっと上着の白衣を脱ぐと、カッターシャツのボタンに手を掛ける。

タキオン
 「私を抱いて……」

ジバボーグ
 「破廉恥な事はいけないと思いますっ!!」

突然だった、電気をバチバチ放つジバボーグさんが後ろから現れた。
巡回が終わったのか、偶然濡れ場に遭遇したジバボーグさんは電撃を放つ。

タキオン
 「あばばばば!?」

タキオンさんは一瞬の内に電撃を浴びると、ジバボーグさんはすかさず僕を思いっきり抱きしめてタキオンさんから引き剥がす。

当夜
 「え!? あ、あの! そのジバボーグさん? これ、やり過ぎなんじゃ?」

ジバボーグさんは顔を真っ赤にしながらぷるぷる震えている。
残念ながらジバボーグさんに抱きつかれてもその無骨な胸部装甲の性で、全く柔らかさ等なく寧ろ硬くて痛い位だ。
これ、怒っているのか対抗しているのか、さっぱり分からない。

ジバボーグ
 「ドクタータキオン、○ックスはもっとムードがある時にするべきだと思います!」

当夜
 「え!? そっち!?」

ていうか、堂々○ックスって言っちゃった!?
僕は先程までの行為を意識すると顔を真っ赤にして恥ずかしくなる。
間違いなく僕はタキオンさんの雰囲気に飲まれていた。
ジバボーグさんが現れなかったらきっと僕は抵抗もしなかったろう。
そ、そういう意味では惜しい事しちゃったなって思うけど、ま、まだ僕にその勇気はちょっとないよね。

当夜
 (で、でもタキオンさん、僕の事愛しているって……あれって)

ま、間違いなく愛の告白だよ!?
僕初めて告白された!?
え!? こういう時ってどうすればいい訳!?

ジバボーグ
 「むぅ〜、デスリー総統、心拍数上昇、脳波に乱れあり。やっぱりドクタータキオンに即落ちですか?」

当夜
 「ええっ!? どういう意味!?」

タキオン
 「痛た……まだ痺れる」

タキオンさんは頭からプスプスと煙を上げる。
気の性か、髪の毛がパーマを掛けたみたいなってるね。
タキオンさんは瞼を擦ると、まだ眠そうだった。
改めて僕はタキオンさんに返事をしないと駄目だよね?

当夜
 「あ、あのタキオンさん……僕」

タキオン
 「ううん? 何があった? なんだか記憶が曖昧なんだが?」

僕は愛の告白に返事をしようとした時だった。
タキオンさんはまるで寝ぼけているのか、さっきまでの事を覚えていないみたいだった。

タキオン
 「で? どうしたんだい当夜君? いや、やっぱりデスリー総統と呼ぶべきか」

タキオンさんはすっかりいつもの調子だ。
僕はなんだか空回りしたみたいで、顔を真っ赤にしてしまう。

当夜
 「あ、あはは〜! ぼ、僕タキオンさんの事は好きだよ!」

タキオン
 「うん? ふむ……まぁその好意は快く受け取っておこう」

駄目だ、完全にタキオンさん直前の出来事を忘れている。
いや、寧ろ寝ぼけてやっていたのか?
どっちにしろ何するか全く読めないタキオンさんはどっちが素面だったのか僕にはさっぱりだった。

当夜
 (で、でも少しラッキーだったかな? 愛の告白凄く嬉しかったけど……僕にはまだその愛情を受け入れる決断が出来ないよ)

それは、やっぱり心のどこかに美陽さんがいたから。
僕の初恋は常葉さんだった、でも常葉さんは光輝君がいるし、僕はおじゃま虫になりたくはないから、常葉さんの事は遠くから見ている事にした。
そして次に僕の心を射止めたのは美陽さんだった。
最初はターミネーターみたいで怖かったけど、次第に人間らしい感情を不器用に見せてくれた彼女に僕はどんどん惹かれてしまった。
勿論風子さんや睦美さんが嫌いな訳じゃない。
そう簡単に割り切れる程、僕の恋の方程式は簡単じゃなかった。

タキオン
 「ふあ! それにしてもやっぱり来たか、いや信じていたがね」

ジバボーグ
 「はい、デスリー総統はやっぱり当夜様しかいません!」

ジバボーグさんは僕から離れると笑顔でそう言った。
二人にとって僕はきっと情けないデスリー総統だろう。
それでも二人は僕を認めてくれている。
それは純粋に嬉しかった。

当夜
 「あの、タキオンさん、お願いがあります!」

タキオン
 「ふっ、なんでも言ってみたまえ、なんなら操を捧げろというお願いも聞いちゃうぞ♪」

本気か冗談かも分からない事を言うタキオンさんに僕はドン引きしながら、彼女にしかお願いできない本題を僕はタキオンさんにぶつけた。

当夜
 「ペレさんを助けたい! その力を貸して下さい!」

悔しいが僕は無力だ。
ゲノセクトエースには全く葉が立たず、挙句僕は変身スーツを失った。
あの時僕が変身しなかったのは軽率だった、しかし例え変身していたとしても勝てたろうか?
いや、きっと無理だ……僕には圧倒的に実践経験値が足りない。
海の時のようにがむしゃらにやって勝てる程ゲノセクトエースは甘くないんだ。
だったら僕はもう、神でも悪魔でもいい……ペレさんを取り返す力が欲しい!

タキオン
 「勿論デスリーとしても、私個人としてもペレ君は取り返すつもりだ……しかし」

当夜
 「無理、ですか?」

タキオンさんは首を振る。
タキオンさんは曖昧な表現は殆どしない人だ。
基本的に欲求に素直で、ズバズバ目上相手でも正論を言っちゃう、それがドクタータキオンだ。

タキオン
 「その前にデスリー総統に覚悟を決めてもらいたい」

当夜
 「僕に、覚悟?」

タキオンさんは頷く、どういう事だ?
一体なんの覚悟が求められているのだろう?

タキオン
 「ペレ君は今ある意味で親元にいる、ゲノセクトエース、彼女はペレ君の妹であり、その名を山田紫穂という」

当夜
 「なっ!?」

衝撃の事実だった。
僕は情報ではゲノン・セッターがゲノセクトエースだと説明されていた。
しかし、あれは偽名だった?
それに山田紫穂……そ、それじゃ?

当夜
 「ゲノセクトエースがペレさんを狙ったのは、家族を取り戻すため?」

タキオン
 「そう、そのために基地襲撃と誘拐を同時に行ったんだ、それだけ敵にとってペレ君は大切な存在だったんだろう」

僕は何も言えなかった。
ただ身体が震えて止まらない。
ジバボーグさんはそっと僕の肩を掴んで僕を心配してくれる。
僕は、僕は……その意味を理解してしまった。
僕はずっと家族に憧れてしまった。
両親を失った僕は頼れる親族は居なく、ずっと大きな家でただ一人、そんな孤独が僕は嫌いだった。
だからこそ皆が家にいるのは、僕にとって家族ごっこをしてくれる大切な人達だった。

だからこそ覚悟の意味を知ってしまった。
覚悟とは、家族を失ったその痛みを知る僕に、その大切な家族をもう一度奪えと言っているのだ。

当夜
 「ぺ、ペレさんは……知らない様子でした、ゲノセクトエースにも凄く怖い顔で抗っていたんです……」

タキオン
 「こういう言葉で君を追い詰めたくはないのだが、ペレ君は記憶操作されている」

ジバボーグ
 「感情を制御しているとは聞きましたが、記憶まで?」

ジバボーグさんも初耳だったのか驚いた顔をした。
記憶を? それじゃ本当に知らずに姉妹で争っていたの?

タキオン
 「そう、悪質な言い方をすれば、ペレ君を都合の良い駒にするために不必要となる記憶を消し去ったのだ」

僕は目の前が真っ暗になると、美陽さんの顔が何度も思い出された。



ペレ
 「お願いします……我々は貴方様をずっと待っていたのです」



美陽
 「当夜様は……とても喜怒哀楽が激しいのですね」



美陽
 「もし、私があの時、当夜様の腕を掴まなければ……当夜様は今も普通の生活を……」



ペレ
 「デスリー総統が就任した事で、世界征服計画は進みます……本当に、1年後私は……」



美陽
 「アッハッハッハ」



ペレ
 「デスリー総統、お身体に悩みがあっても、私はそれを支えてみせます」



美陽
 「今の私は幸せです……当夜様と一緒にいられて」



美陽
 「私などいいのです、私は当夜様に全てを捧げた身、私はいくら傷つこうとも構いません」



美陽
 「……ありがとうございます、当夜様……こんな私を、家族と言ってくれて」



当夜
 「っ!」

僕は拳を握り込んだ。
あれが、あれ全部が捏造された記憶?
強制的に植え付けられた忠誠心で彼女は僕たちと付き合っていたのか?
僕は一杯彼女に感謝しないといけない、でもそれは記憶を都合良く改竄されたペレさんにか?
僕はどうしても、その最後の一歩で踏み止まってしまった。

当夜
 (そ、そんなの……どうして幸せな家庭を壊せっていうの!? それを理不尽に奪われた僕が決断しろと!?)

タキオン
 「酷だろう? だから私はシャーク将軍と共謀し、君からデスリーの証を全て奪った」

当夜
 「ぼ、僕には分かりません……ペレさんを、取り返すことが彼女の幸せになるのでしょうか? ぼ、僕は本当は身勝手に、彼女を欲しがっただけなんじゃ!?」

僕は心が折れかけている。
彼女が好きだ、彼女とあんな理不尽な別れを体験して、僕は怒りと虚しさを同時に味わった。
でも、僕はデスリー総統だから、そう強く思い込む事で僕はペレさんを取り返そうと躍起になった。
なのに……今僕は絶望している、タキオンさんが求めた覚悟は重すぎた。

タキオン
 「やはり覚悟出来ない?」

ジバボーグ
 「無理もありません……私自身だって納得しろって言われたら、組織の怪人だから飲み込めますけど、下手すれば誘拐ですからね」

ジバボーグさんやタキオンさんはやっぱり強いな。
僕はなんでこんなにも弱いんだ?
皆は理由を知った上で怪人ペレの奪還を実行するだろう。
それは彼女の善悪や主観を無視してしまうかもしれない、僕はそれが怖くて堪らなかった。

タキオン
 「まぁ、デスリー総統は何もせず成果を期待するって選択肢もある……辛いならペレ君の任務は全て終了させる」

それって、ペレさんの任務は僕の身辺警護と身の回りのお世話。
その任務が終われば、僕とのペレさんの接点は何もなくなる……。
僕は背筋がゾッとした。
ずっと恐れていた……ペレさんはただ任務だから、上辺だけで僕と付き合っているんじゃないのか?
本当は僕の事は迷惑で、それでも任務だから仕方なくやっているんじゃないか。
僕は怖かった、だからもっと優秀なデスリー総統であろうと思った。
僕の身勝手な独占欲をいつも恐れていた。

当夜
 「す、すみません……少し時間を下さい」

僕はそう言うと、フラフラとラボの出口に向かった。
やっと好転したと思ったのに、目の前はまた真っ暗だ。
どうして僕はこんな思いをしないといけないんだろう?
これは神様が与えた罰なのか?
僕は何も無い無力な少年なのか?



***



気が付くと僕は秘密基地の外まで出ていた。
朝日が眩しく僕を照らす。
僕は本当にどうしていいか分からなかった。

当夜
 「はぁ……」

僕はため息を吐く。
こんな事をしたって意味がないのは重々承知なんだけど、だからって気分が良くなる事なんてなにもないんだもんなぁ。


 「ノンノン♪ ため息は幸運も逃げちゃうデス♪」

僕は顔を上げた。
気付かなかったが真横にモアナさんが立っていた。
モアナさんはいつもニコニコ笑顔、幸せそうだ。

モアナ
 「ハーイル、デスリー♪」

僕が振り返るとモアナさんはすっかり間違えて覚えた敬礼を元気にした。
僕は少しだけそれを見て元気を貰った気がした。

モアナ
 「デスリー総統、ン♪」

モアナさんは敬礼を終えると僕に顔を近づけ、鼻をくっつけた。

当夜
 「て!? これ女性同士の挨拶じゃないの!?」

僕は顔を真っ赤にすると、モアナさんから離れた。
モアナさんも多少恥ずかしかったのか、少しだけ照れていた。

モアナ
 「これは親愛の挨拶デス、本来は性別は関係ありませン。まぁ男性にするには少し恥ずかしいデスガ」

僕はドキドキする胸を手で抑えつけると、心を落ち着かせる。
やがて平常心を取り戻すとモアナさんは言った。

モアナ
 「そういえばいつも一緒にいるペレさんはどうしたのですカ?」

ああ、モアナさんは知らないんだ。
そりゃ単なる清掃員が知っている訳が無いか。
僕は彼女に説明してもいいか迷った。
でも結局は僕はモアナさんを頼るのだった。

当夜
 「ペレさんはいないんだ……誘拐されて」

モアナ
 「ワォ!? 直ぐ取り返しましょう! いや営利誘拐ならなにか連絡が!?」

モアナさんは当然事情を知らないから、ちょっと前の僕と同じ反応だった。
本当はこんな事教えちゃ駄目なんだろうけど、僕はモアナさんでも頼らないといけない程追い詰められていた。

当夜
 「でも、本当は家族の元に行ったんです」

モアナ
 「ホワイ? 意味が分かりまセン……どういう事でしょうか?」

僕は詳しいことをモアナさんに説明した。
正直この問題はどうやったって歪が出来る。
モアナさんだって簡単に答えは出せないと思うけど。

モアナ
 「つまり生き別れた姉妹……」

当夜
 「僕……どうすればいいんだろう?」

僕は本当に泣きたくなった。
だけど、モアナさんは少しだけ険しい顔で黙考した後、直ぐに僕に言った。

モアナ
 「デスリー総統は本当にそれでいいのですか?」

当夜
 「え? どういう意味?」

モアナ
 「事情は分かりました、でもペレさんの本当の気持ちなんて、誰にも分かりまセン! だったらせめて! もう一度会いたくないんですか!?」

それは僕に一番突き刺さった言葉だった。
会いたい? そりゃ会いたいに決まっている!
あの顔がもう一度見たい! あの声をもう一度聞きたい!

当夜
 「ペレさんに会いたい!」

僕は本音を大声で吐露した。
それを聞いたモアナさんはまた太陽のような笑顔を浮かべ。

モアナ
 「それじゃシンプルデス♪ ペレさんが嫌だって言ったらそれまで、帰りたいって言ったら悪の組織らしくこう言いましょう! ペレさんは貰って行くって!」

僕は苦笑した。
モアナさん、やっぱりデスリーを悪の組織とは思ってたんだ。
て、そりゃまぁ世界征服に洗脳肉体改造、どれをとっても正義の組織じゃないよね。

モアナ
 「私皆の事はよく知っています、皆良い人、ペレさんも良い人、ドクタータキオンも、ジバボーグさんも、シャーク将軍も、勿論デスリー総統も♪ だから確信出来ます! ペレさんは帰ってきます♪」

モアナさんの確信、僕は素直にそれを納得出来た訳じゃない。
でも僕はペレさんの事を信じよう、僕はデスリー総統だ、相手からすれば正に悪の限りを尽くす悪の首領。
それでももう構わない……世界を少しでも幸せで平和な理想社会を目指してきたけど、それを欺瞞だと否定されてもいい。
ただ、僕は産まれて初めて悪事に手を染める。

当夜
 「僕、決心したよ……ペレさんを奪う!」



Part3に続く。


KaZuKiNa ( 2022/02/16(水) 18:00 )