第一部 世界征服を目指す物語
第二章 世界征服、それを阻止する正義のヒーロー Part1

当夜
 「いやいやいや!? 世界征服ってどういう事!?」

シャーク
 「それは我が組織千年の悲願! わたくし先代より仕える若輩の身ですが、粉骨砕身! 世界征服の礎になる次第!」

戦闘員
 「「「デスリー総統! ご采配を!!」」」

当夜
 「いやいやいや!? 無理だし!? そもそも世界征服ってどうやるの!?」

ぎゃあぎゃあやかましい玉座の間、デスリー総統になって間もない僕は、てんやわんやだった。
結局その日は僕の総統就任を祝う形で形式的に終わり、僕は夜も耽る時間、家へと帰るのだった。



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第二章 世界征服、それを阻止する正義のヒーロー



***



チュンチュン、チチチ♪

当夜
 「う……?」

小鳥の囀り、遮光カーテンから僅かに溢れる朝日は、朝を知らせてくれた。
僕は気怠い身体を起こしながら、呆然と自分の手を見た。

当夜
 「デスリー総統、か……夢じゃ、ないよね?」

悪の秘密結社デスリー、僕はお父さん亡き後、その地位を引き継ぎ総統となった。
……なったのはいいのだが、組織の目的は世界征服だという。
実に稚気地味て、壮大な風呂敷だ。
これはあれか?



教師
 「上乃子、お前進路は?」

当夜
 「悪の秘密結社の総統です!」



当夜
 「て、言える訳ないだろう!?」

僕は思わず進路相談の光景を妄想し、ノリツッコミしてしまう。
間違いなく次の言葉は「お前、頭正気か?」だろう。
正直いえば僕だって、正気を疑っている。
普通じゃないのを憧れた僕がただ妄想の中に耽っているだけじゃないか、そんな思いが過ぎった。

当夜
 「……はぁ、学校行く準備をしよう」

僕はいつものように朝、軽く筋トレを熟し、汗を流す。
悪い汗を外に放出したら、シャワーだ。
一気にさっぱりしたい。
僕はそう思い、パンツ姿のまま部屋を出る。

当夜
 「? あれ、何かいい匂いが……」

隣の家からかな? そう思いながら階段を降ると僕はあ然とした。
台所に誰かがいる。

トントントン。

包丁を叩く音、豆腐が綺麗に賽の目に切られ、それが味噌の匂いのする鍋に投じられた。
一体誰が? そう思ってその背中を見上げると。

ペレ
 「あ、おはよう御座います、当夜様」

そこにいたのはペレさんだった。
エプロン姿で、何故か朝ごはんを用意していたらしい。
しかしそれよりも僕は自分の格好に恥ずかしさが爆発した。

当夜
 「うわああああ!? ナンデ!? ナンデペレさんが家に!?」

僕はパンツ一丁の下半身を隠して、その場で縮こまった。
ペレさんは全く動じず、テーブルに朝食の用意をする。

ペレ
 「こちらへお越しください、朝ごはんを用意します」

当夜
 (なんで!? なんで平然としてるの!? 僕がおかしいの!?)

僕は昨日の記憶を探った。
昨日はあまりにも非現実的なことが相次ぎ、もう後半は殆ど覚えていない。
なんとか家に帰った僕はフラフラになりながら自分の部屋に戻りそのまま眠ったんだ。

当夜
 (あれ? そもそもどうやって帰ったんだっけ?)

僕は肝心のその記憶がすっぽ抜けていた。
翌々思い出すが、あの秘密基地からここまで結構遠い、それこそ車が必要な位。
車? そうだ少しづつ思い出してきた!
ペレさんが車を運転し、家まで送ってくれたんだ?
あれ? ていうかペレさんもしかして家に泊まってた?

当夜
 「あの〜、差し支えなければ教えて頂きたいんですけど、昨夜はどこに?」

ペレ
 「この場所で一宿頂きました」

ペレさんはそう言うと、リビングの床を指差した。

当夜
 「うわあああああ!? やっぱりー!? しかも床寝をさせてしまったー!?」

ペレ
 「なにか、問題ございましたか?」

当夜
 「問題だよー! 泊まるなら部屋案内したのにー!?」

この家は元々3世帯向け住宅。
1階に3部屋、2階に4部屋ある。
ペレさんを泊める位なら余裕なのだ。

ペレ
 「それは申し訳ございません……疲れていらしたので……」

ペレさんはそう言うと頭を下げた。
だーもう! ペレさんが謝る所じゃないのに!

ペレ
 「ところで」

当夜
 「こ、今度はなに?」

ペレ
 「何故、屈んでいるのですか?」

ペレさんはそう言うと可愛らしく首を傾げた。
僕はその時今の状態に素っ頓狂な叫び声を上げた。

当夜
 「いやああああ!? ごめんなさいー!?」

僕はそう言うと走って部屋に戻り、恥ずかしくない格好で出戻りするのだった。



***



ペレ
 「なるほど、普段は朝にシャワーを浴びるのですか」

当夜
 「はい……そうです、朝ごはん美味しいです」

あの後、僕はペレさんの用意してくれた朝ごはんを食べていた。
僕は朝ごはんは軽く済ませる方だったから、しっかりとした和食の朝ごはんを頂いたのは久々だった。

当夜
 「ペレさん、料理上手だね」

ペレ
 「恐縮です、当夜様の身の回りの世話が出来るよう訓練してきましたから」

なんだか不思議だった。
ペレさんは感情の起伏が少なく、サイボーグかアンドロイドみたいなイメージがあるが、それがやってきた事がこんなにも家庭的なことだなんて。

ペレ
 「改めて自分の役割を説明させていただきます、私は当夜様の身辺警護及び、その身の回りの世話を任務とします」

当夜
 「えと、その任務は誰から?」

ペレ
 「2年前です、私はその時、誰かからこの任務を託されました」

2年前……そんな前からペレさんは会ったこともない僕のためにその訓練をしていたのか。
僕には不思議だったが、ペレさんにとってはそうでもないのか。

当夜
 「えと、辛く、ない?」

ペレ
 「? いいえ、しかし何故でしょうか?」

当夜
 「えと、その……ペレさん堅苦しいていうか、ずっとかしこまってるし」

僕はなんとか言葉を探した。
ペレさんが僕の世話をするなんて、なんだかくすぐったいのだ。
それはまるでペレさんがお母さんみたいで。

ペレ
 「……分かりません、私は当夜様にとってもしや、負担なのでしょうか?」

当夜
 「そ、そんなことないよ!? 僕の方こそ、負担になってないかって!?」

僕は思わず席から立ち上がってそう言ってしまう。
言ったあと、気恥ずかしくなり、僕は小さくなって席についた。

ペレ
 「ご飯、冷めてしまいます」

当夜
 「う、うん」

僕は急いでご飯を食べた。
最後まで噛んで食べると僕はお椀をテーブルに置き。

当夜
 「ご馳走さまでした」

ペレ
 「お粗末様でした」

ペレさんはそう言うと、食器を片付け始める。
僕はそれを見ながらある疑問について聞いた。

当夜
 「あの、ペレさん朝ごはんは?」

ペレ
 「? 頂いておりませんが」

当夜
 「え!? どうして!?」

ペレ
 「主人と食事を共にするものではないかと」

当夜
 「いやいやいや!? 朝ごはんは一緒に食べた方が美味しいって!」

僕は迷わずそう言った。
するとペレさんは少しだけ困った顔をする。

ペレ
 「そうなのですか?」

当夜
 「そうなの! だから次からは一緒にご飯食べよう?」

ペレ
 「任務了解」

なんでも責任感強く感じるペレさん。
でも僕は少しだけ嬉しかった。
僕はずっと一人ぼっちのこの家が嫌いだった。
まるで秘密基地みたいで、僕だけが孤独な世界に住んでいる気がした。
だからこそ、どんな理由であれペレさんが一緒にいるのは嬉しかった。
勿論こんなこと言葉にはできないけど、彼女には感謝するしかなかった。



***



ガチャリ。

家の戸締まりを確認するといつものように家を出た。
のはいいのだが、サングラスを掛けたペレさんは僕の後ろにびっしりと張り付いていた。

当夜
 「あの?」

ペレ
 「因みに私の人間名は山田美陽(やまだみよ)と申します」

当夜
 「え? 山田さん?」

美陽
 「普段はペレではなく、人間名の方でお願いします」

当夜
 「う、うん」

それにしても山田って……びっくりする位普通の名字なんだね?
多分偽名なんだろうけど、あんまりみだりに組織の名を出さないってなんだか、格好良いね。

当夜
 「つまり僕も、普段は上乃子当夜、しかし裏の顔は! てね!?」

思わず格好良いポーズをとってしまう。
うんうん、こういうのって少しだけ憧れがあったかも♪

当夜
 「さて、学校に行かなくちゃね♪」

僕はなんだかそういう秘事を持つ事が少しだけ楽しくなり、いつもより気分よく登校出来る。
思わずスキップしたくなるが、それはあからさまに怪しいので自重する。
しかし、気の性かなんだかキョロキョロ見られている気が?

僕は思わず後ろを見て納得する。
ピッタリと張り付くペレさん、もとい美陽さんが無言で張り付いているのだ。
それこそまるでアメリカのシークレット・サービスのように。

当夜
 「あの、山田さん?」

美陽
 「何でしょうか?」

当夜
 「もう少し距離を離してくれません?」

美陽
 「何故でしょうか?」

当夜
 「その視線が……」

美陽さんは結構大きい。
僕より20センチは上だから、否が応でも美陽さんは目立つ。
しかもサングラスをバッチリ決めているんだから威圧感もやばい。
なんだかヒソヒソ話も聞こえてきて、僕はいたたまれなかった。

当夜
 「せめて2メートル! 2メートル離して!」

美陽
 「……畏まりました」

ペレさんは無表情のまま思案して、やがて距離を離した。
僕は「はぁ」と溜息を吐き、歩き出す。
これで少しは落ち着くかな。

当夜
 (それにしても美陽さん、本当に身辺警護するつもりなのか)

美陽さんの本気っぷりはすぐにでも見せてきた。
でも流石に不器用すぎないか?
大統領が車から出てくる時、身辺を固めるメン・イン・ブラックを思い出すが、美陽さんのそれは同じ雰囲気だ。
僕一応普通の高校生な訳で、サングラスの美人がピッタリ張り付いていたら不自然過ぎる。

当夜
 「う……!?」

僕はある人物を見つけて、思わず足を止めてしまった。
不良だ、嫌だなぁ……僕、なんでか知らないけど絡まれ易いんだよねぇ。
兎に角不良は怯えた奴に絡んでくる、逃げる奴は特に追う!
奴らは熊のような習性だ!
兎に角、背景に紛れるように通り過ぎるのだ!

不良A
 「お! 上乃子ちゃんじゃーん!」

当夜
 「げ!?」

金髪リーゼントの不良が速攻で僕を発見しやがった!
周囲に屯していた他の不良まで僕を見た。
ああもう最悪だ! 僕は速攻で3つの選択肢を脳内に提示した。

選択肢1
『や、やあ! 久しぶり!』、と仲良さそうに話しかけ、敵じゃないアピール!
選択肢2
『来るなら来い! 返り討ちにしてやるぜ!』、僕は構え、不良に飛びかかる!
選択肢3
『逃げる! 脱兎の如く!』

当夜
 (選択肢2は論外だ! 僕は付け焼き刃だぞ!? 選択肢1は博打だが、危険度が高い! ならば!)

僕が選んだのは迷わず選択肢3!
脱兎の如く逃げるのみ!
と言うわけでダッシュ!

不良A
 「あ! 待てやこらー!?」

当夜
 「やばい追いかけてきた!?」

不良は三人いる!
一人は金髪リーゼント、僕より体格もよく運動神経がいい。
二人目は角刈り、ガタイが良く、頬に切り傷がある、謎だが怖すぎる!
三人目はスキンヘッドデブ! デブだからと言って侮ってはいけない! 動けるデブ程怖いものはない!!

僕は顔を青くして涙目になりながら全力で走った。

不良A
 「ぐお!?」

不良B
 「ごでりば!?」

不良C
 「もぽえー!?」

なんか、不良が変な叫び声上げてる!?
怖いよー! 僕は兎に角我武者羅に逃げるのみだった。
後ろを振り返ったら間違いなくやられる!



***



美陽
 「……排除、完了」

美陽は当夜の危機を察知すると、すかさず危険分子を鎮圧した。
危険分子は全く大したこともなくあっさりと沈黙したが、当夜の姿は見えなくなってしまいました。
データより健脚だ、火事場のクソ力であろうか?

美陽
 「タキオン、聞こえているか? 当夜様を見失った」

美陽は胸元のピンバッジに話しかけた。
よくある古典的な装置だそうだが、直通でドクタータキオンと連絡をとることができる。

タキオン
 『今、学校に入ったようだよ』

タキオンの声が、ピンバッジから聞こえてきた。
そうか、当夜様は無事、学校に辿り着いたのですね、美陽はそう安堵した。

美陽
 「では、潜入を開始します」

タキオン
 『それはよした方がいいんじゃないかな?』

美陽
 「? 何故だ?」

当夜を護衛するならば、直ぐに手が届く場所でなければならない。
しかし、タキオンはその理由をやれやれと説明する。

タキオン
 『彼はティーンな男子だ、美陽君よ、君は些か刺激的過ぎる、君は彼の安寧を壊してしまうぞ?』

美陽
 「そんな……ではどうする?」

タキオン
 『ふふ、そこはこのドクタータキオンの力の見せ所だねぇ』

タキオンはそう言うと、怪しく笑った。
どうする気だ? 離れた場所からどうやって護衛する?



***



当夜
 「はぁ、はぁ!」

僕は息を切らしながら教室に入った。
良かった……逃げ切れた。
流石にここまでは追いかけて来なかったな。

光輝
 「どうしたんだ当夜? 息切らして」

当夜
 「な、なんでもない……」

光輝君は僕を見つけると、そうやって心配してくれたが、僕は実際なんともない。
将来有望な光輝君を巻き込む訳にもいかないもんね。

当夜
 「はぁ、はぁ……ふぅ」

僕は息を整えると席へと向かう。

里奈
 「上乃子君、凄い汗……大丈夫?」

当夜
 「うっ!? 常葉さん!?」

僕の密かな憧れの常葉さんは僕の汗を指摘してきた。
朝から全力ダッシュの結果、僕は全身から汗をかいていた。
うう、僕これでも体臭気にする方なのに、汗臭いのかなぁ?
そういえば今日は朝にシャワー浴びれなかったし、そういえば昨日の夜もお風呂に入っていなかった。

当夜
 (さ、最悪だ……嫌われちゃったかなぁ?)

僕は泣きたいのを我慢しながら窓側の席に座る。

キンコンカンコーン。

チャイムは直ぐになり、担当の先生は直ぐにやってきた。


 「おーし! 今日も元気かガキどもー♪」

先生は今日も元気だなー。
僕は早速気分下げてるのに。
汗を気にする男子って、女々しいと思われるかもしれないけど、僕的にはこれは譲れない。
今は割と体臭気にする男子高生も普通だよ?



***



タキオン
 『なるほどなるほど』

当夜の学生生活は撮影されていた。
小型のドローン型のマシンは当夜をフォーカスすると、それを自動で追尾する。
だが、当夜も窓から外を眺める学生たちもその存在に気づきはしない。
ドクタータキオンが開発したミラージュスキンという、周囲に溶け込み透明化する技術で、光学的に消えているのだ。
その映像は美陽の持つスマートフォンにもリモートされていた。

美陽
 「当夜様……」

タキオン
 『見えていれば少しは安心だろう?』

タキオンの声は胸元のピンバッジから聞こえた。
美陽はタキオンにある質問をする。

美陽
 「あの学生の中に暗殺者がいた場合、そのドローンで当夜様は守れるのでしょうか?」

タキオン
 『……』

珍しく饒舌なドクタータキオンが口を閉じた。

タキオン
 (そういう想定はしていなかったな……)

美陽
 「タキオン? どうなのです?」

タキオン
 『ああ、うん……大丈夫だよ、一応そいつ放電して痺れさせる事ができるから』

美陽
 「なるほど」

タキオン
 (もっとも、最終手段なんだけどね)

美陽の心配性は筋金入りだった。
タキオンも美陽の出す予想外の注文は、タキオンのニューロンを良い意味で刺激していた。
早速デスリー秘密基地のラボに泊まり込んでいたタキオンは作業に取り掛かる。

タキオン
 (クスクス♪ ペレは本当に良い仕事するな♪ さてどう改造しようかなー?)

そう言うドクタータキオンの目の前には作りかけの飛行型ロボットの姿があった。



***



キンコンカーンコーン。

チャイムが鳴った、4限目が終了すると、それぞれ生徒たちが動き出す。
僕は食堂に移動しようとするが……ふと思い出した。

当夜
 「あ、そういえば」

僕はバッグの中を見た。
そこには中学生時代に使っていた弁当箱が入っていた。
両親が死んでから使っておらず、ずっと食堂の学食を利用していた。
だけど今日は家を出るとき、美陽さんが渡してきたんだ。

光輝
 「あれ? 当夜今日は弁当?」

当夜
 「あ、うん」

光輝君はいつもお弁当だ。
なんでもお姉さん作ってくれるらしく、弁当箱を欠かしている日は見たことがない。

里奈
 「へえ、珍しいね」

一方で常葉さんも必ずお弁当を用意している。
常葉さんは自分で用意している時もあれば、家の人が用意している事もあるみたい。
常葉さんの家は結構な大家族みたいだし、大変そうだ。

里奈
 「ねぇ、それじゃあさ? 3人で食べない?」

当夜
 (え!?)

僕は心の中で驚いた。
常葉さんから誘われた!
それは心が踊る程嬉しい言葉だった。

光輝
 「いいぜ! じゃあ席くっつけるぞ!」

当夜
 「う、うん!」

僕は席を持つと光輝君の席と合体させる。
後はこれをテーブルにして、お昼ごはんにしよう。

光輝
 「今更だけど、常葉、友達良かったのか?」

友達、というと常葉さんはいつも2〜3人前後の友達と学食で食べている。
常葉さんは人当りが良いから、友達も多くて、いつも誰かと一緒にいるイメージだもんねぇ。

里奈
 「別に大丈夫よ、いつも約束して集まっている訳じゃないし」

当夜
 (僕なんて約束してもボイコットされた事もあるけどなぁ)

常葉さんの人望の高さは筋金入りだ、放っておいても人が集まるというのも才能なんだろう。
少し羨ましいような、でも僕には無用なような才能だよねぇ。

里奈
 「新央君、今日もお姉さんが?」

僕たちは弁当箱を取り出すと、光輝君の弁当箱は3人の中で一番大きかった。
蓋を開くと、家庭的な食材が弁当箱を彩っている。

光輝
 「ああ、社会人になって忙しい筈なのに、毎日欠かさずなぁ、お、今日は唐揚げ♪」

里奈
 「ふふ、それだけお姉さんは、新央君を大切にしているのね」

光輝君は僕も見たことはないけど、歳の離れたお姉さんがいるって事は知っている。
光輝君の家は少し複雑だ、ご両親が何度も転勤を繰り返しており、その度に転校していては良くないと、お姉さんと一緒にこの街に暮らしている。
そのおかげでご両親と顔を合わせるのは年一回あるかないかなんだと。

僕は美陽さんから頂いて弁当箱を開いた。
弁当箱の中は質素な物だった。

里奈
 「あ、上乃子君、お弁当少ないね?」

当夜
 「う、うん……僕そんなに食べないから」

光輝
 「だから小さいんじゃないか?」

当夜
 「うぅ、放っておいてよ」

僕は身長の話でイジられると嫌な顔をした。
光輝くんだから別に悪気がある訳じゃないんだろうけど、傷つく言葉はあるのだ。

光輝
 「おーし、んじゃ、いただきまーす!

光輝君は手を合わせると、勢いよく食べだした。
僕と常葉さんも手を合わせると、食べ始める。
僕は美陽さんの作ってくれた弁当を口に運ぶ。
それは確かに質素で、高校生が食べるには渋いチョイスだったが、僕は嬉しくて涙した。

当夜
 「うぅ、ぐす!」

常葉
 「上乃子君? 泣いているの?」

当夜
 「う、うん……なんでだろうね? 涙が出てきちゃった」

これは悲しいからじゃない。
嬉しくて泣いているんだ、男がメソメソ泣くなんて男らしくないって思うけど、僕は泣き虫だ。
目元を袖で拭き取ると、そのまま昼ごはんを食べる。



***



美陽
 「……当夜様、タキオン、何故当夜様が泣いている?」

タキオン
 『嬉し泣きだ、気にする必要はない』

美陽
 「嬉し泣き?」

美陽は周辺を警戒しながら、スマートフォンで当夜のライブ中継を確認した。
無表情の裏で美陽は当夜の心配ばかりだ。
自分の役目こそ、デスリー総統を命懸けで守ること、その使命感は並ではなかった。
だが、上乃子当夜は分からない事だらけだ。
良く泣き、その度に心配を掛ける。
喜怒哀楽が激しくて、美陽はその複雑な当夜の思考を理解できないまま、空回りしてしまった。

美陽
 「つまり、最菌兵器が使われたとか」

タキオン
 『無茶苦茶言うね、興味深いが、それはない』

タキオンは通信機越しから「ククク」と笑っていた。
今もタキオンはラボに篭りながら何か作業をしているのだろう。
タキオンは機械工学のスペシャリストだ、今度は何を作っているのか?

タキオン
 『ときに美陽君、君は食べなくて大丈夫なのかい?』

美陽
 「問題ない、無補給で72時間は行動可能なよう訓練を受けている」

タキオン
 『ククク……流石だが、ちゃんと栄養補給はしたまえよ? 咄嗟に身体が動かなかったじゃ、笑い話では済まされないからな』

美陽
 「注意する」

そう言うタキオンはどうなのか、ふと美陽は思った。
タキオンも相当無茶をする質だ、機械いじりしている時は何時間でも、集中していられる。
今も若干ハイになっていないか?

美陽
 「タキオンは……ちゃんと食べているのか?」

タキオン
 『君が私の事を心配している? 素晴らしい! 実に興味深い! アッハッハ!』

美陽
 「……貴方が倒れれば、結社の行動に支障をきたすと考えたからです」

タキオン
 『アッハッハ! うんうん♪ そうだねぇ、美陽君が……ああ、因みに解答だが、まぁ最低限は問題ないさ♪』

美陽
 「……」

最低限がどの程度か、美陽には判断しかねる。
タキオンは出不精だが、天才だ……美陽には出来ない事もタキオンなら幾らでも出来る。

タキオン
 『ああそうだ、今日は総統を私のラボに連れて来てくれ給え? 総統に見せたいものがあるんだ!』

美陽
 「任務了解」



***



キンコンカーンコーン。

今日も平和に授業が終わった。
帰宅部の僕は早速帰る。

光輝
 「それじゃまた明日なー!」

当夜
 「うん! また明日ねー!」

光輝君はいつも通り部活に向かい、常葉さんはひと足お先に出て行った。
僕はいつものように学校を出ると。

美陽
 「当夜様」

当夜
 「あれ? 山田さん待ってたの?」

美陽
 「はい、身辺警護が任務ですので」

当夜
 「え? もしかしてずっと監視してた?」

美陽
 「はい、でなければ守れません」

当夜
 「うわああああ!? 恥ずかしいー!?」

僕は顔を真っ赤にすると頭を抱えた。
僕今日も情けない姿見せたし、美陽さんに見れるのは精神的にキツイ!

美陽
 「当夜様は……とても喜怒哀楽が激しいのですね」

当夜
 「ふえ? なんで?」

美陽
 「私には少し理解しかねます、何故そんなに泣けるのか、喜べるのか、悲しめるのか」

僕は真顔で美陽さんを見た。
美陽さんはサングラス越しで目元は分からないが、どこか不安を感じる姿だった。

当夜
 「山田さん、サングラス外して」

美陽
 「了解」

美陽さんは迷わずサングラスを外した。
やっぱり吊り目だけど、美人だ。
常葉さんとは違う大人の美人だ。

当夜
 「正直サングラス似合ってないよ? それに目立つし」

僕はそう言うと苦笑する。
美陽さんはキョトンとしていた。

当夜
 「一緒に帰ろうか♪」

美陽
 「は……あ、当夜様、ドクタータキオンがラボに来ていただきたいと連絡が来ていますが、いかが致しましょう?」

当夜
 「え? タキオンさんが?」

そう言えばタキオンさん、僕が総統就任してから、姿見てなかったなぁ。
ラボってやっぱり秘密基地にあるのかな?

当夜
 「うん、けどそれって遠いよね?」

美陽
 「車を出しましょう」

こうして、午後からは僕の裏の顔であるデスリー総統としての活動が始まる。



第二章 Part1 完

Part2に続く。


KaZuKiNa ( 2021/12/02(木) 22:08 )