第一部 世界征服を目指す物語
第九章 怒りと哀しみの跡にあるものは Part2

Part2



デスリー総統
 『……っ』

僕は砂浜に着地した。
全身が痛い、かなり無茶をしたかな?
でも、僕は傷つく怪人も、戦いに巻き込まれる人たちの悲しい顔も見たくなかった。
だからこそペレさんにも無茶だと忠告されても、僕は意地を通した。
これでもう僕は上乃子当夜じゃなくなっちゃったかな。
もうデスリー総統でもある、そんな甘えで生きる事は出来ない……か。

うしお
 「で、デスリー総統!? ご、ご無事ですか!?」

デスリー総統
 『……あ、シャーク将軍、君こそ大丈夫かな?』

シャーク将軍の姿はボロボロだった。
上着など至るところが破け、まるで中破グラだ。
絶対に見せたくないと言っていた水着はピンク色のビキニだった。
僕はキャラ作りに四苦八苦しながら、なんとかデスリー総統を演じる。

風子
 「はふぅ……なんとか戻ってこれました」

デスリー総統
 『ふう……ジバボーグも無事だったか』

思わず風子さんって呼びそうになってしまう。
慣れってやっぱり怖いな、普段ジバボーグって呼ぶこと殆どないもんな。
しかも呼び捨てなんて、本部で位しかしないし。

デスリー総統
 『ドクタータキオンは?』

ペレ
 「あちらに確認」

ペレさんは浜辺から離れた高台を指差した。
僕は頭部を覆うヘルメットのバイザーから、ドクタータキオンを検出する。
ドクタータキオンにフォーカスが集中すると、睦美さんは笑顔で手を振っていた。

デスリー総統
 『後は……』

僕は最後にゲノセクトエースを見た。
ゲノセクトエースは全身が装甲のようなスーツに包まれており、怪我の様子はない。
最も僕と同じく、あくまで装着するタイプのスーツなら、目には見えてないだけかもしれないけど。
ゲノセクトエースは僕たちから距離を取り、少なくとも攻撃的な意志は感じなかった。

ゲノセクトエース
 「まさか、貴様が今のデスリー総統、か?」

デスリー総統
 『……』

僕は何も言えなかった。
ただ、皆は僕を護るように盾になった。
僕は悲しくなる、僕はゲノセクトエースとだって手を取り合いたい。
出来る事ならお互い争わなくてもいい世界にしたいだけなのに。

デスリー総統
 『そう、私がデスリー総統だ』

僕は結局こうするしかないのか、ただ悲しくなるのは隠して自分がデスリー総統だと公言する。
ゲノセクトエースは拳を握り込んだ、彼女にとって僕がラスボス、最も憎くて悍ましい存在なのだろう。

うしお
 「ふん! デスリー総統はやらせんぞ!?」

風子
 「はい! まだ本調子ではありませんが、命に替えてお守りします!」

ゲノセクトエース
 「……!」

ゲノセクトエースは油断なく構えた。
うしおさんと風子の構えを見て、お互い警戒せざるをえなくなる。
どうしても結局はこうなるのか。
争いあうことしか今は出来ない。

グググ……。

デスリー総統
 『皆、待って!?』

お互いが警戒心を強めていた時だ。
突然真後ろに倒れた巨大ロボットが動き出した。
そうだ! まだ巨大ロボットが完全に動かないか把握していないんだ!
これ程の巨体、自力で起き上がれるのかは疑問だが、少なくとも動けないほど破壊した訳じゃない!

カラマネロ
 『み、見事だと言っておこう……! だが、私はまだ諦めた訳ではない!』

巨大ロボットから、男の声がスピーカー越しに聞こえる。
巨大ロボットの脚の一本が鎌首を持ち上げた蛇のように、此方を向く。
足の先端には穴が開いており、そこから放たれたのは!?

うしお
 「魚雷だ!?」

デスリー総統
 『っ!?』

僕は選択するしかなかった。
皆はまだ万全な状態ではなく、PKMとしての力を封印されている。
つまりだ、あの魚雷が爆発したら如何に怪人と言えど一溜まりもない。
そして、僕は皆を抱えて一目散に退避出来るだけの力はない。

デスリー総統
 『美陽さん、ごめん』

ペレ
 「え?」

僕は痛む身体を動かし、飛び出した。
僕は決心すると、ペレさんの想いを裏切る事に心を苦しめた。
これじゃとても僕はペレさんを安心させる男にはなれない、それでも僕は!
スーツの性能を全力で活かし、僕は魚雷に飛びかかる。

デスリー総統
 『うわああああ!!』

僕は落下する魚雷をキャッチすると、それを巨大ロボットに投げつける!

ズガァァン!

魚雷は弾頭が拉げると大爆発が起きた。
圧縮された酸素が周囲に衝撃波となって爆発する。
僕は衝撃波に飲まれた。

ああ、死ぬんだな……と、僕は経験も無いのにそう思ってしまう。
僕はこんな時なのに何故か、心は穏やかだった。



***



ペレ
 「あ……あ」

ペレはその時何も出来なかった。
ただ、酸素魚雷の爆発に巻き込まれた当夜は人形にように砂浜に激突した。
ペレはそれを優れた動体視力で見ている事しか出来なかった。
当夜が動かない、ペレが護らなければならない最重要護衛対象が目の前で傷付いている。

ペレ
 「ああ」

ペレは絶望した。
同時に憤怒が湧き上がる。
ふと、顔の見えない誰かがフラッシュバックした。

白衣を着た謎の男性
 『美陽、お前はパーフェクトだ……しかし、一方で君は危険過ぎる力も有している。……美陽、君の精神制御に、私は反対だ……しかし私には決定権などない、すまないこんな駄目な父親を許してくれ』

意味がわからない。
確かにペレは精神制御を施されている。
だが、何故かそれがいつされたのかが思い出せない。
ペレはそれを気にした事はなかった。
自分の一生はデスリーのために消費されるべきであるし、自分の記憶など些事だと思った。
しかし、自分に危険な力?
確かにペレの能力は素晴らしい、旧世代怪人でありながら、ジバボーグやシャーク将軍にも劣らないだろう。

しかし、それがもしリミッターの設定された状態の物なら?
もしもたった3割の力でシャーク将軍やジバボーグにも匹敵する力があったとしたら?

今、ペレはそのリミッターを自ら解除した。

ペレ
 「あああああああ!!!」

ペレは絶叫すると、背中から凄まじい火が噴き上がった。
まるで火山の噴火だ。
凄まじい熱は、光熱となって周囲を燃やし、溶かしていく。

うしお
 「ペレ!? あの姿は!?」

ゲノセクトエース
 「く……!? 山田美陽、まさかリミッターが!?」

ペレは爆風を後ろに噴射すると、ジェット機のように飛び出した。
怒れる炎の女神と化したペレの力は凄まじい、全身の熱を高めると手から放熱、巨大ロボットをまるで溶鉱炉で溶かすかのように放熱をぶつけた。
赤く赤熱する巨大ロボット……ペレは邪魔な金属板の装甲を溶かして無理矢理抉じ開ける。
すると、目の前に見えたのは草臥れたカラマネロの中年男性だった。

カラマネロ
 「ぐ、ぐ……!?」

頭から血が出ており、それなりに負傷も見られる。
だが、そんな事はペレには関係ない。
今やこの哀れな反社会的な男は、ペレの憎悪の対象でしかない。
その全熱量を持ってこの世界から消し炭にしてやる!

ペレ
 「あああああ!!!」

しかし、熱をカラマネロにぶつけようとした瞬間、巨大ロボットは大爆発を起こした。
何か火気厳禁のパーツにペレの炎が触れたのだろう、ペレの視界は一瞬で爆炎に包まれた。

ズカァァァァン!!



***



それは浜辺を吹き飛ばす大爆発だった。
それは少なくとも3キロ先の閑静な水辺のカフェテラスでも目撃されていた。
店員や観光客が色めき立つ中、何かを確信したのか、サングラスに花柄のドレスを着たレパルダスの女性は、ゆっくりと視線を落とした。

レパルダス
 「ナンバー48、お前はやっぱり……」

それはかつてナンバー09と呼ばれた女の悲哀だった。
束縛する組織は潰れ、例え自由の身になっても、自由にはなれなかった者達の定め。
分かっていても、レパルダスにはただ涙を流すだけだった。



***




デスリーの怪人達が吹き飛ぶ中、ゲノセクトエースは身を挺して皆を護ったデスリー総統を見た。
そしてゲノセクトエースはほぼ無意識にデスリー総統を受け止めると、爆風からデスリー総統の身を挺して護った。

ゲノセクトエース
 「くうう!?」

ゲノセクトエースの強固なヒーロースーツは多少の事では傷つかない。
爆風は問題ないが、今は不完全な状態であり、何よりもデスリー総統を護ることで必死だった。

やがて、爆風が止むとゲノセクトエースに力が戻ってくる。
PKMの能力を抑制する波動の力が完全に抜けたのだろう。
ゲノセクトエースはバイザーに表示される様々な情報を見た。

『損耗率60%』

ゲノセクトエース
 「……何をやっているんだ私は」

ゲノセクトエースはスーツのダメージが深刻な物だと理解した。
その原因が、敵の大将を庇った為だ。
苦笑するしかない、しかし無視はできなかった。
ゲノセクトエースは何故かデスリー総統に憎しみを持てなかった。
寧ろ何故争わなければならないのだろう?

ゲノセクトエース
 (いや、司令を……お父様を疑ってはいけない)

ゲノセクトエースはデスリー総統を楽な体勢に寝かせた。
その姿は驚くべき程傷一つもない。
余程スーツの性能が優秀なのだろう、だがそのスーツの下が問題だ。
酸素魚雷の爆発を至近距離で受けたのだ。
もし生身ならミンチになっていただろう。

ゲノセクトエース
 「今なら何でも出来る、か」

それはデスリー総統をこのまま仕留めることも、そのヘルメットを奪い正体を見る事も。
しかし、ゲノセクトエースはそのどちらもしなかった。
そんな不義理な事、正義の味方であるゲノセクトエースには選べない。

ゲノセクトエース
 「見た目より華奢なのに……こんな女の子みたいな細い腕で……」

でも、デスリー総統はゲノセクトエースを2度も助けてくれた。
その漆黒のスーツは禍々しくもあるが、ゲノセクトエースは正義の心を見た。
正義とは主張であり、悪とは結果でしかない。
古来より勝ったものが正義で、負けたものが悪となった。
だからこそ、最後は正義が勝つというのだろう。
ならば、今のデスリー総統は悪か?

ゲノセクトエース
 「違うな……それは間違っている」

身を挺して、誰かを護れる者が悪の筈がない。
義は、時として傷付き血を要求もするだろう。

ビービー!

突然、ヘルメットに内蔵された通信機からけたたましくコールが鳴る。

ゲノセクトエース
 「こちら、ゲノセクトエース」

司令長官
 『ゲノセクトエース君! 通信が回復した! 今の状況を説明したまえ!』

それはゲノセクトエースにとって、お父様と呼び慕い、そして正義の味方をしている事が出来るのは声の主おかげだった。


ゲノセクトエース
 「テロリストと交戦、しかしもう撃破しました」

司令長官
 『なに? テロリスト?』

ゲノセクトエース
 「それよりも司令、この場にはデスリーもおります、そして山田美陽も」

山田美陽、その名前を聞いた司令長官は驚きを隠せなかった。
その声はいつもよりも荒げであり、ゲノセクトエースに叫ぶ。

司令長官
 『美陽は!? 私の娘は!?』

司令長官の名前は山田裕次郎(やまだゆうじろう)、この平凡過ぎる名の持ち主は美陽の父親だと言う。
ゲノセクトエースにとっては義理の父親だ、しかしある理由により二人は袂を別れた。

ゲノセクトエースは爆発の中心を見た。
火災が広がるロボットの残骸の上、ゲノセクトエースは呆然と立ち尽くすペレの姿を見た。
ゲノセクトエースはその背中に近づくと、ペレはゆっくりとゲノセクトエースに振り返った。

ペレ
 「……なに?」

ペレは背中の炎も消え、気怠げだった。
司令長官から聞いているが、ペレは精神制御されている。
憤怒のペレという怪人名は知っていた。
何故憤怒なのかは知らなかったが、あの炎と怒りの女神と化した姿を見れば納得も行く。
しかし今はその怒りさえ消え、鉄面皮ともいえる表情をゲノセクトエースに向けた。
ただ、ペレの頬には決して消えない涙の跡があった。

ゲノセクトエース
 「憤怒のペレ、山田裕次郎の事は覚えているか?」

ペレ
 「誰? そんな人知らない……」

ペレはどうでも良さげに答えた。
生きる気力を失っている。
ゲノセクトエースがデスリーと戦う理由はこのペレにあった。

ゲノセクトエース
 「私のお姉様、私の本当の名前を教えてあげる、私の本当の名前は山田紫穂(やまだしほ)、貴方と同じ平凡な名前でしょ?」

ゲノン・セッターは偽名である。
デスリーでさえ、ゲノセクトエースの本当の詳細は知り得なかった。
だが、山田美陽の前なら別だ。
お互い山田の性、それは同じ父を持つ事を意味している。

ペレ
 「貴方も山田……?」

だが、ペレの心は動かなかった。
感情にリミッターが付けられており、喜怒哀楽が欠落している。
例えゲノセクトエースが正体を明かそうとも、ペレには興味がないのだ。
何故ならもう生きる意味が見いだせないから。

ゲノセクトエース
 (山田美陽は連れ帰らなければならない、それこそがお父様の悲願)

今のペレなら容易だろう。
もしもあの憤怒のペレならば、ゲノセクトエースでも連れ帰れるかは怪しい。
しかし、今はまるで泣きじゃくる子供そのものだ。

ゲノセクトエース
 「……デスリー総統が待ちかねているぞ?」

ゲノセクトエースは手を握り込むと、直ぐに開いた。
逡巡する心の中、少なくとも生きる気力のない姉を連れ帰るより、元気な姉の姿を見たかったからだ。
ペレはデスリー総統の名前を聞くと、顔色を変えた。
目の前には宿敵ゲノセクトエース、しかしペレはそれさえも無視して当夜の下に駆ける。

ペレ
 「デスリー総統!?」

ゲノセクトエースは手を出さなかった。
ただペレの背中を見届け、直ぐにその場を離れた。
今はただ、休戦と行こう……。



***



ペレ
 「デスリー総統!? 総統!?」

ペレは普段なら見せる筈もない冷静さを欠いた表情で、倒れたデスリー総統の前に向かった。
しかし、当夜はピクリとも動かない。
ペレは泣きじゃくりながら、当夜の肩を揺らす。
だが、そんなペレの肩を掴んだのはドクタータキオンこと牧村睦美だった。

睦美
 「デスリー総統なら無事だよ、私の造ったスーツを甘く見ないことだ」

ペレ
 「タキオン?」

睦美はボロボロになりながら、当夜のヘルメットを外す。
すると、当夜はすやすやと寝息を立てていた。

睦美
 「心音、呼吸、共に正常」

睦美はエスパー能力を使い、当夜の状態を分析する。
ペレは当夜の顔を見ると抱きついた。
ペレの身体は震えており、ここまで取り乱したペレを見たのは睦美も初めてだ。
だが、気になることもある。

睦美
 「ろとぼん、ペレ君の事……」

今までどこにいたのか、ミラージュスキンによって不可視の状態になっていたろとぼんは睦美の前に姿を表す。

ろとぼん
 「ポーン! はい、きっちり記録しました」

ろとぼんは全てを記録していた。
山田美陽の意味、憤怒のペレの姿。
だが、今は言及する時ではない。
ただ、当夜の無事を喜ぶだけだ。



***



当夜
 「……?」

僕は目を覚ますと旅館だった。
身体が痛い、ゆっくりと身体を持ち上げると布団で眠っていた。

風子
 「あ! 当夜様が目を覚ましました!」

当夜
 「風子さん?」

まず目に入ったのは風子さんだった。
風子さんは僕が目を覚ますと、嬉しそうに抱きついてきた。
僕はビックリするが、身体は言うことを聞いてくれない。
まるで全身筋肉痛のようだった。

睦美
 「おお、当夜君、やっとお目覚めかね!?」

当夜
 「睦美さん? えーと……その?」

睦美
 「ふむ? 記憶が曖昧かね?」

正直言えばその通りだ。
一体何があったんだっけ?
僕は記憶が曖昧だった。

美陽
 「当夜様……」

最後に、一番後ろで心配そうにしていたのは美陽さんだった。
僕は美陽さんを見ていると、何故か不思議な感じがした。

当夜
 「美陽さん、泣いているの?」

美陽
 「え?」

違った、僕の勘違いだ。
だけど泣いているように見えたんだ。
それ位、美陽さんの顔を見ると悲しくなってしまう。

睦美
 「やれやれ、それじゃ外を見てみるといい」

睦美さんはそう言うと、テラスを遮るカーテンを開いた。
テラスからはビーチが一望出来る。
僕はゆっくりと立ち上がると、ビーチの惨状の絶句した。

睦美
 「思い出したかね?」

当夜
 「はい、思い出しました」

ビーチにはクレーターが出来ており、巨大ロボットの残骸が散らばっていた。
それ以外にも沿岸部は被害甚大だ。
今復旧作業の最中のようで、多くの人が瓦礫の撤去をしていた。

当夜
 「痛たた……でも、生きてる」

僕は痛みに呻くが、しかし生きていた。
魚雷の爆発に巻き込まれた時、死を覚悟したのに。

睦美
 「私の開発したスーツを甘く見ないでくれ給え、あの程度で君を死なせはしないよ♪」

さ、さすがは総統専用服。
とはいえ、全身痛いんですけど。

当夜
 「あの、この全身の痛みは?」

睦美
 「火事場の馬鹿力の結果だな」

当夜
 「火事場の馬鹿力?」

僕は目を細めて首を傾げる。
睦美さんは「ふむ」と顎に手を当てると、簡単に説明した。

睦美
 「要するに肉体のリミッターが外れて、それが原因で全身を痛めたのだよ。いくらスーツで補強しているとはいえ肉体が限界を超えればねぇ?」

そういえば僕には心当たりがあった。
いくら強化スーツがあるとはいえ、ちょっと無茶をし過ぎたと思う。
空気を蹴るとか、いくらスーツは無事でも中の僕が無事な訳ないよね。
戦っている最中はアドレナリンが出てたのか、あんまり痛く無かったけど、これは無茶した代償っぽい。

当夜
 「痛た……どこか折れてたり?」

風子
 「スキャニングの結果、どこにも異常は見当たりません」

風子さんはざっくばらんにそう言い切った。
良かった、骨が折れたりはしてないんだね。

美陽
 「当夜様……どうかご自愛を」

美陽さんは胸に手を当てると、不安そうにそう言った。
相変わらずの鉄面皮だけど、やっぱりなんとなく分かっちゃう。
本当はペレさん感情表現が苦手なだけで、喜怒哀楽はしっかりあるんだよね。

当夜
 「うん、ごめんね美陽さん、無茶させちゃって」

美陽
 「私などいいのです、私は当夜様に全てを捧げた身、私はいくら傷つこうとも構いません」

美陽さんの自己犠牲心はどこか僕には複雑だった。
だけど睦美さんはポカンと僕の頭を叩くと。

睦美
 「いいかい当夜君? 美陽君じゃないが君はご自愛を持ち給え! いくらスーツが優秀でも護衛対象に戦場でちょこまかされたら困るんだよ!?」

当夜
 「は、はい……本当に申し訳御座いませんでしたぁ!」

僕はその場で正座した。
あの時は感情のままに動いてしまった。
上乃子当夜は無力だから、デスリー総統の仮面を被って皆を助けたい一心だった。
でも僕がいたら満足に戦えないっていうのは事実だろう。
今頃うしおさんも怒っているだろうか?

当夜
 「あれ? そういえばうしおさんは?」

風子
 「うしお様なら」



***



うしお
 「ほら! お前たち! ちんたらやってたら復興作業は終わらんぞ!?」

うしおさんはビーチにいた。
いつものように特訓中かと思えば、なんとデスリー総出でボランティア活動中だった。

深雪
 「ヒィヒィ! なんで私まで〜!?」

深雪さんは相変わらず愚痴を零しながらも、必死に瓦礫を掻き集める。
深雪さんの場合電気タイプだからか、瓦礫を電力で引き寄せそれを屈強な戦闘員部隊が運んでいった。

当夜
 「お疲れ様でーす」

僕は痛む身体を睦美さんと風子さんに支え貰いながら現場に来た。
予想以上にビーチの惨状は凄まじく、今は客も入れる状況ではない。

うしお
 「おお、当夜様、目を覚ましたんですな!?」

深雪
 「ぴぎょえ!? と、と、当夜様ァ!?」

なんか、凄く正反対な対応をされたなぁ。

当夜
 「あの、深雪さんもお疲れさまです」

深雪
 「な、ななななな何のこれしきー! あははははは!?」

深雪さんは顔を真っ赤にして、すっごい笑顔になると、急に張り切り出した。
やっぱり深雪さんって僕にはよく分からない人だなぁ。

当夜
 「それにしても、撤去作業ですか」

うしお
 「このビーチは毎年使わせて貰っております! それならばと復興作業を手伝わせてもらっているのです!」

それは文字通りただのボランティアだ。
今頃警察や自衛隊も動いている筈。
悪の組織が街の復興作業というのも皮肉だけど、利用させて貰ってる訳だもんね。

うしお
 「しかし当夜様……当夜様の覚悟、この鮫島うしお、感服しました……が! やはり当夜様はやんごとなきお方! その御身大切にしていただかなくては!?」

当夜
 「あ〜……」

僕はしまったと思った。
うしおさん、説教が長いんだよねえ。
もうそれ皆に言われているし、結構今更なんだけど。

うしお
 「聞いているのですか当夜様!?

当夜
 「あ、すみません!」

僕は背筋をピンと立てると、説教に集中した。
身体がズキズキする中、僕はただ現状を甘んじて受け入れるのみだった。



***



正義の味方であるゲノセクトエースが所属する正義の組織の本拠地は街の一等地にあった。
表向きは商業ビルで、実際2階から地下一階までは大手の企業が入っており、多くの一般客が出入りしている。
秘密基地があるのは地上4階より上だ。
3階はダミーであり、4階以降は表向きは科学ミュージアムとなっており、未来の日本をテーマにした科学技術を見る事が出来る。
しかし、その裏にはゲノセクトエースの特殊なスーツを造った研究所があった。
更に上階ではゲノセクトエースのパワーアップキットの開発等も行われており、山間にひっそり隠れ潜むデスリーとは対極的である。
そんな最上階には司令長官の私室があった。

裕次郎
 「美陽……生きていたんだな」

司令長官の山田裕次郎は、写真立てに一枚の写真を飾っていた。
それは白衣の姿の自分と、まだ幼げなバクフーンの少女の姿だった。
少女は優しく微笑んでおり、強く白衣の男を慕っている。
これこそが山田美陽、憤怒のペレの子供の頃の姿だ。

裕次郎
 「あの時、私にもっと力があれば……! 時夜様、申し訳御座いません……デスリーの野望は必ず私が止めてみせます!」

時夜様、そう緋扇時夜、即ち上乃子当夜の父の名を使う裕次郎は一体何者なのだろうか?
何故これ程までデスリー壊滅を目論むのか。
そして、山田美陽との関係は?



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第九章 怒りと哀しみの跡にあるものは 完

第十章に続く。

KaZuKiNa ( 2022/01/12(水) 21:01 )