第八章 真夏の恋と夢は少年を大人にする? Part2
Part2
夕暮れ、観光客の姿も減ってきた。
僕たちも水着から普段着に着替えて、ある人物を待っていた。
やがてその待っていた人物は笑顔で手を振ってやってくる。
風子
「皆さ〜ん! お待たせしました〜!」
怪人ジバボーグこと、渚風子さんだ。
厳しい特訓も終わり、自由時間になると風子さんを僕たちは待っていたのだ。
当夜
「風子さん、お疲れ様♪ 特訓はどうだった?」
風子
「当夜様、私は大丈夫です! 頑丈ですから!」
風子さんはそう言うと笑顔で胸を叩いた。
やっぱり怪人ってタフだよね、まだまだ元気そうだ。
睦美
「君の特性は磁力だがね」
しかし睦美さんは顎に手を当てると皮肉めいてそう補足した。
ジバコイルって、頑丈っていう特性もあるけど、磁力やアナライズっていう珍しい特性もあるらしい。
風子さんの特性は磁力、だから超電磁怪人ジバボーグなんだね。
当夜
「とにかくお疲れ、どうする? 一旦どこかで休憩する?」
僕たちは勿論遊びに来ただけだから、そんなに疲れてはいない。
はしゃぐ程遊んだ訳でもないし、後半は特訓が終わるまで待っていた位だ。
風子
「あの、私! 当夜様と周辺を散策したいです!」
風子さんは手を挙げると元気にそう言った。
磁力怪人の風子さんは、海で遊ぶことが出来ない。
海では漏電してしまい、またあくまでもサイボーグである彼女の身体は塩害に強いとは言い難い。
寧ろメンテナンス効率を考えると、海は御法度だった。
当夜
「いいよ、皆で……になるけど、いいよね?」
風子
「はい! 構いません!」
美陽
「私は後ろから見ています」
美陽さんはいつものように並び立たない。
やれやれという風に睦美さんも美陽さんの横に付けた。
二人は空気を読むように、僕と風子さんを二人っきりにする。
最も美陽さんたち、あくまで僕の監視は怠らないだろうけど。
当夜
「それじゃ、行こうか?」
風子
「はい♪ お供します♪」
僕たちは歩き出す。
風子さんは楽しそうに、初めて来た町の風景を楽しんでいた。
僕はそんな風子さんの横顔を見ながら微笑んでいる。
戦うことが宿命だとしても、楽しそうにしている風子さんが微笑ましい。
本当なら改造も、戦うことも無ければいいんだけど、僕たちは悲しいことに悪の組織だ。
彼女は悪の怪人として世界征服の邪魔をするゲノセクトエースを倒さなければならない。
当夜
(こんな事口にしたら総統失格だろうけど、仲良くは出来ないのかな〜)
もしゲノセクトエースと和解出来たら、そんな事を考えるのは失礼だろうか?
僕たちデスリーは世界征服を目的にしているが、別にそれは悪意からだろうか?
善意とは言い辛いかもしれないけど、未だ民族問題や、紛争、テロ、難民問題……これらを解決出来ないなら、人類の意思統一も必要なんじゃないかって思ったからデスリー総統になった。
ゲノセクトエースが戦うのは何故だろう?
もし手を合わせる事が出来るなら、きっと色んな問題を解決できるのに。
風子
「あ、当夜様、見てください!」
風子さんが海を指差した。
遠洋に船が見える。
風子
「綺麗ですね」
当夜
「うん、そうだね」
僕はうなずいた。
気がついたら空は茜色から宵闇に移り変わっていた。
暗い海に人工の光は瞬き、海の夜景は恐ろしさよりも幻想さがあった。
風子
「あっ!」
風子さんは今度は浜辺を指差した。
浜辺は岩だらけで観光客は少ない、それを見越したのか、子供たちが手持ちの花火で遊んでいた。
線香花火やねずみ花火がバチバチと音を立てながら、光を彩る。
風子
「貴方達ー! 花火は綺麗ですけど、遊び終わった花火はちゃんと片付けるんですよー!? 海は綺麗にしないといけないんですからー!」
風子さんは近づくと、大声でそう言った。
相手は小学生位の子供たちだった。
恐らく地元の子供たちだろうか?
「はーい!」と元気な返事をすると、風子さんは満面の笑みを浮かべた。
風子
「フフフ♪ 平和が一番です♪」
当夜
(物怖じせずにああやって、知らない人に声を掛けられるのって凄いなー)
風子さんは当初こそ、ターミネーターみたいな雰囲気だったけど、今じゃこんなにも優しく誠実な女性になったんだな。
一日十善、少しでも善い世界をって、僕の命令を忠実に守っている。
本人は望んで今のサイボーグポケモンになったけれど、平和的に幸せになれる道だってあったんじゃないかな?
当夜
「ねぇ、風子さん?」
風子
「はいっ! 何でしょうか当夜様!」
当夜
「風子さんは後悔はない?」
風子
「後悔ですか? 特に無いですが……」
風子さんは本当に後悔とかないんだろう。
きっと根本的に僕とは違う。
僕はいつも後悔しているし、いつも悪い方向に考えてしまう。
当夜
「例えばさ? 今の注意とか、世界を少しでも良くすること、それって今の風子さんでも出来るでしょ?」
風子
「はぁ……そうですね?」
僕はちょっとずるいかもしれない。
でも、あえて僕はこの質問を風子さんにぶつける。
当夜
「もし怪人にならなければ、海で遊ぶことが出来た。過酷なトレーニングもしなくたっていい、そう思わない?」
風子
「……私はそうは思いませんっ!」
当夜
「即答された!?」
風子
「だって! 私が怪人にならなければ! 当夜様に出会う事も出来なかった! 私が怪人に志願したからこそ、ここにいられる! そう! だから後悔なんてありません!」
風子さんは顔を真っ赤にするとそう力説した。
僕は圧倒され、言葉を失ってしまう。
パチパチパチ。
睦美
「はっはっは、これが討論なら風子君の圧勝だな」
遠くから見てたであろう睦美さんが拍手する。
睦美さんは改めて僕を見て、ある事を言った。
睦美
「個人的な解釈に過ぎないが、未来は見えないから楽しいと思っている、それは逆に言えば過去がどうであろうが、未来が明るいなら問題ないという事だ」
当夜
「……そう、ですか」
風子さんは今、凄く楽しそうだ。
時折勢いが凄くて圧倒されるけど、少なくとも僕の思いはやっぱり杞憂なんだな。
風子
「ふふ、私は幸せですよ。あ、見てください!」
風子さんが空を見上げた。
打ち上げ花火だ、僕たちが空を見上げると空に大きな光りの華が咲いた。
睦美
「ほう、風流だな」
美陽
「真っ暗になってきました」
風子
「むう、そろそろ戻らないと怒られちゃいます」
風子さんはまだ一緒にいたいのか不満そうだった。
しかし、夏期集中特訓期間は団体行動が求められる。
あんまりずっと外にいると、うしおさんにどやされるのだろう。
当夜
「もう戻りましょう」
風子
「……分かりました」
僕たちは踵を返す。
知らない町の夜は方向も分からなくなってなんだか怖い。
それでも僕たちは、街の灯りを頼りにホテルへと戻るのだった。
***
当夜
「ふぅ」
僕はホテルで借りた部屋でゆっくり休んでいた。
部屋は美陽さんと睦美さんも同じ部屋で借りたが、今は睦美さんがいない。
睦美さんは一足先に露天風呂に向かったのだ。
美陽さんは部屋にいる、相変わらず僕のお世話に専念するつもりらしい。
美陽
「当夜様、お茶のお替りは如何ですか?」
当夜
「あ、うん……貰うよ」
僕がそう言うと、美陽さんは備え付けの急須にお茶を淹れてくれた。
当夜
「……ズズ」
僕は熱いお茶をゆっくり頂く。
熱いけど、熱すぎはしない。
僕には丁度いい温度だった。
当夜
「……」
僕はこのお茶を淹れてくれた美陽さんを見た。
美陽さんはいつものように鉄面皮で静かに仕事をしている。
そう、このお世話も美陽さんの仕事なんだ。
美陽
「なにか?」
当夜
「美陽さん、プライベートの時間が欲しいとは思わないの?」
美陽さんは僕の言葉を聞くと、少し沈黙した。
美陽さんだって生きている、サイボーグみたいな人だけど、ロボットじゃない。
当然ストレスだって溜まる筈だ。
美陽
「……よく分かりません、私は物心ついた時にはすでにデスリーの怪人でした、デスリーに奉仕するのは当然で、そして日常でした……でも」
当夜
「でも?」
不思議だった。
普段美陽さんは迷うことがない。
なんでも即断即決で、人間的情緒を殆ど見せてくれないのに、今は少しだけ人間らしい。
変な話だけど、今の美陽さんはなんだかとっても自然に思えた。
美陽
「今の私は幸せです……当夜様と一緒にいられて」
美陽さんは言葉の終わりに少しだけ微笑んだ。
僕はその顔にドキリとしてしまった。
もう、今日はドキドキしっぱなしだよ!?
やっぱり特別な時間だから?
とにかく僕は首を振ると平常心を取り戻す。
睦美
「ただいま〜♪」
僕がドキドキしていると、浴衣姿の睦美さんが戻ってきた。
入る時は長風呂する事も多いお風呂大好きな睦美さんは上機嫌で肌も艷やかだった。
睦美
「おや、当夜君、顔が赤いぞ?」
当夜
「あ、いや!? それは!?」
僕は更に顔を赤くする。
睦美さんは訝しむように顔を近づけてきた。
その際、睦美さんいい匂いや、開けたうなじ等、更に僕を惑わしてくる。
当夜
「あーもう! 僕! お風呂行ってくる!」
僕はそう言うと、逃げるようにそこから飛び出した。
とりあえず頭冷やそう! 今日の僕は絶対おかしい!
***
睦美
「……ふーん」
睦美は当夜が出ていくと意味ありげに呟いた。
美陽
「当夜様について、なにか気になることが?」
睦美
「逆に言うが、君は何も思わなかったのかな?」
意外な言葉の返しだった。
美陽は言葉に詰る。
当夜の事は徹頭徹尾頭にインプットしてある。
けれど今日の当夜は分からない事だらけだ。
睦美はその様子から、ある程度察したのか「やれやれ」と首を振った。
睦美
「今日の君たちは変だな、相手を意識し過ぎる」
美陽
「私が……当夜様を?」
美陽は当夜を意識した。
それは事実だ、でも普段の自分と何が違うのだろう?
護衛としてデスリー総統である当夜様を常に見ているのは当然であり、それはいつ如何なる時もだ。
なのに今日はなんだかおかしい。
睦美
「正直に答え給え? 君は当夜君をどう想っている?」
美陽
「大切な方だ、私の命よりも」
睦美
「そうじゃない、それは怪人ペレとしての思いだろう? 私が聞きたいのは山田美陽の本音だ!」
美陽は顔を曇らせた。
山田美陽、その名はいつから自分に使われていたのか正直判然としない。
だが、美陽はその名前があまり好きではなかった。
何故なら美陽を美陽たらしめるパーソナリティは存在せず、ただそこにあったのは怪人ペレの想いだけなのだ。
山田美陽など幻想だ、だから美陽は睦美に答えられない。
睦美
「簡単な質問の筈なのだがな? ただ女のお前に聞いているだけなのに」
美陽
「女の私?」
それは比喩だろうか。
どうにも睦美の言葉を解釈するのは難しい。
だが、女の私、美陽は想像した。
もしかしたらそこに今日の私の秘密があるのだろうか?
美陽
「私は、今日……変でした。当夜様を見ているとモヤモヤしてきて、手を繋ぐといつもより嬉しくて」
そう、今までそんな事はなかった。
美陽は誰よりも自分を厳しく律してきた。
それがデスリーに貢献する事だと思ったからだ。
だが、今自分はデスリーの事よりも自分の事を考えていた?
睦美
「うふふ、そうだ、もっと自分を出し給え」
睦美は嫌らしく笑った。
美陽は自分の中に解決出来ない問題を抱えている。
睦美はその答えを知っているのだろうか?
美陽
「教えてくれ睦美、私はどうなったんだ? どうして当夜様の事を考えるだけでおかしくなる?」
睦美
「ふふふ、そうだな……今教えても良いが、明日風子君に聞き給え、きっと即答してくれるさ」
睦美はそう言うと備え付けのベッドに転がった。
答えをはぐらかされた、美陽は早急にその答えを知りたかったが、睦美はもう答えてくれないだろう。
そのまま睦美は寝返りを打って横になる。
美陽
「当夜様……」
美陽のほぼ無意識の呟き、それは睦美の耳にも入っていた。
ゆっくりを目を閉じ、心を落ち着かせる。
しかし、その内心で睦美は揺れていた。
睦美
(全くこんなに馬鹿らしい事はない、ようは単純だ……好きってだけじゃないか)
当夜も美陽もきっとピュアなんだ。
まして二人はすれ違い、気持ちはピッタリと嵌まらない。
睦美はエーフィというエスパータイプのポケモンだ。
読心も簡単に行えるが、これは心を読むまでもない。
美陽を見ていれば、妬けてくる。
明確に当夜に愛情を注いでいるのは睦美だが、当夜を振り向かせるには至っていない。
かと思えば肝心の当事者達は、自分達の気持ちに気付かず右往左往。
結局睦美はそれをチャンスにするのではなく、助け舟を出してしまった。
睦美
(恋愛感情足り得る……かな?)
睦美は少なくとも、それは恋愛感情だった。
中々当事者が振り向いてくれず、やきもきするが、別に親しい友人関係に不満はない。
当夜を困らせる事は自分の意には沿わないし、何より親友がこの様ではそれどころじゃない。
睦美
(なんだかね……どうして当夜君も美陽君も愚鈍なのか、本当に妬けてしまう)
睦美は少しだけ、当夜を念視した。
当夜は今、一人だった。
***
当夜
「ふぅ……」
僕は大きな露天風呂の隅っこの方にいた。
今は丁度貸し切りのように誰もいない。
それでも僕は目立たない定位置を定め、ゆっくり寛いでいた。
当夜
「今日は楽しかったけど、本当にドキドキしっぱなしだったなぁ」
原因はあの無防備な女性陣だ。
睦美さんは積極的にアピールしてくるし、美陽さんは天然なのか僕を時々ドキッとさせる顔をする。
風子さんと二人で歩いた夜道は、改めて風子さんを知れたな。
うしおさんも結構際どい格好で、ドキリとさせられたっけ。
当夜
(はぁ、それにしてもこれじゃ駄目だ!)
僕はバチンと顔を両手で叩いた。
男らしくなるっていう野望は、こんな軟弱者な僕じゃない。
女性を優しく強く守れる男にならなくてどうする?
当夜
(まぁ、守りたいって女性陣が尽く、守る必要があるのかって人達なのが問題だけど)
なんだかんだ皆怪人だもんなぁ、人間がいくら鍛えても流石に人類の到達できるレベルじゃないだろう?
当夜
(強いて言えば常葉さん、かな?)
常葉さんは美陽さん達に比べたら、PKMとはいえ一般人だ。
男らしく、守ってあげられれば最高に格好良いんだけどなぁ。
当夜
(イメージトレーニングはバッチリなんだけど)
僕は改めて二の腕を見る。
あまりに細い女性みたいな腕だ。
いくら鍛えてもひ弱な身体。
いつも女性に間違わられて、おまけに運まで悪い。
これじゃ駄目だ、人生変えなきゃって思ってはいるんだけど、どこまで頑張れば報われるんだろう?
当夜
「て、ダメダメ! ネガティブな考えは禁止! 病は気から!」
僕は慌てていつものロジックに戻り始めた自分を律する。
こうなってしまうのはやっぱり美陽さんの性だよね?
自分を最大限惑わしたのは間違いなく美陽さんだ。
美陽さんの喜怒哀楽が、僕は彼女を怒らせたと勘違いしてしまった。
でも結局は勘違い、僕が意味不明なんだけど、美陽さんを意識し過ぎただけ、そう自信過剰だったんだ。
当夜
(結局僕って美陽さんからすれば、デスリー総統のおまけなんだよね……)
美陽さんが好きなのはデスリー総統だ。
僕がデスリー総統だから慕ってくれる。
でも僕がデスリー総統じゃなくなれば?
当夜
(やっぱり……あっさり僕の前から消えるんだろうね)
そんな嫌な予感は、僕には確信めいている。
美陽さんの仮面は所詮、怪人ペレの偽りの仮面。
僕じゃ山田美陽の本音を引き出す事は怖くて出来ない。
時に残酷でミステリアスな彼女は、僕を惹きつけた。
僕にとって美陽さんはお母さんのような存在であり、姉のような存在でもある。
僕がずっと求めて止まなかった家族ごっこをしてくれる相手なんだ。
当夜
(一人は嫌だ、孤独は嫌だ……嫌われたくない、独りぼっちは冷たくて、苦しいから……)
僕はブルっと震えると、立ち上がった。
早く皆の顔が見たい。
なんならろとぼんでもいい、今一人でいたら、きっと僕の心は潰れてしまう。
僕は弱いから、結局誰かに甘えてしまう。
***
美陽
「あ、お帰りなさいませ当夜様」
当夜
「う、うん」
部屋に戻ると部屋は静かだった。
見ると睦美さんはいつも通り早寝しており、ろとぼんは充電中。
美陽さんは唯一ただ静かに佇んでいた。
当夜
(やっぱり美陽さんの顔を見ると安心するな)
この感情は多分だけど、光輝君や常葉さんに対する物より特別な気がする。
僕は弱い人間だから寄辺を求めるけれど、きっと美陽さんに向ける感情は特別だ。
美陽
「……如何しましたか当夜様?」
当夜
「な、なんでもない!」
僕はゆっくり床の間に座る。
美陽さん一人だと何をしていたんだろう?
まぁなんとなく予想もつくけど。
当夜
「ねぇ美陽さん、僕がお風呂に行っている間、どうしてたの?」
美陽
「極力精神を無にしていました」
当夜
「せ、精神を?」
美陽
「はい、エスパータイプの読心でもブロックするよう訓練されているので」
……改めて普通じゃないな。
美陽さんは何もしない時は、本当に何もしないんだ。
それこそ心を無にする程。
精神制御もお手の物というか、改めて普通には生きられないんだなぁ。
当夜
「寂しくはなかった?」
美陽
「寂しい?」
美陽さんは首を傾げた。
やっぱり、寂しい訳ないよね、そんな感情あるはずが無い。
美陽
「寂しい……そんな感情は……いえ、訂正致します。寂しいです……」
美陽さんが少し俯いた。
僕は驚いた、寂しいと言ったんだ!
美陽
「当夜様がいない時間を私は寂しいんだと理解しました、当夜様を見ていると時々あり得ない感情が沸き立ちます……故障でしょうか?」
当夜
「こ、故障じゃないよ! ていうか故障って!? サイボーグじゃないんだから!?」
思わずどこからか、風子さんのくしゃみが聞こえてきた。
美陽さん式のジョークなんだろうけど、美陽さんが言うと笑えない。
僕は改めてその感情について質問する。
当夜
「えと、ぐ、具体的にはどんな感情が?」
美陽
「はっきりとはお答えできません……私にはまだ、その答えが得られないのです」
ううむ……それでは僕にも分からない。
僕はなるべく美陽さんには、安心してもらいたい。
これはデスリー総統としてと言うより、僕が美陽さんを守りたいからだ。
だが、当事者としてはこれは難しい。
そもそもこれはデリカシーの問題な気もする。
僕が聞くのって反則じゃないか?
当夜
「わ、分かった! もういい……それはゆっくり答え合わせしていこう?」
美陽
「は、畏まりました」
うむ! これはきっと僕が踏み込んでいい話じゃない。
出来れば睦美さんとかうしおさんに相談してほしい。
当夜
(僕は美陽さんが好きだ、なんとかしてあげたいけど、僕絡みじゃな〜)
結局好きってのも無償じゃないってんだから、苦しい。
僕は誰にも愛されない、愛されるのはデスリー総統だけだ。
それでもいい、せめてもう少しだけ家族ごっこは続けたいから。
美陽
「……当夜様は」
当夜
「え?」
珍しく美陽さんから話しかけてきた。
しかも事務連絡的な感じじゃない、これは?
美陽
「いえ、何でもありません……そろそろお眠りくださいませ、私も入浴致します」
当夜
「あ、う……うん!」
美陽さんはそう言うと立ち上がった。
け、結局何だったんだろう?
美陽さんはいつもの鉄面皮に戻ると、そのまま部屋を出て行った
僕は少しだけ筋トレをすると、今日はもう眠ることにする。
風子さんとは違い、僕たちは何日もここにはいられない。
せめて夏の思い出は最高の記憶にしたいな。
突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語
第八章 真夏の恋と夢は少年を大人にする? 完
第九章に続く。