第一部 世界征服を目指す物語
第六章 それぞれの日常 Part1

当夜
 「はぁ……」

ろとぼん
 「ポーン! ケイサンマチガエテイマス!」

当夜
 「え? 本当に?」

今日は祝日だった。
学校は休みであり、僕は家で勉強に勤しんでいた。
ろとぼんはいつもの様に僕の勉強を見てくれているけど、僕は相変わらず間違えてばかりだ。
まるで某青狸が出てくるアニメの主人公みたいに、僕は勉強が苦手だ。
それにはろとぼんも、苦言を呈する。

ろとぼん
 「ポーン! ドウシテトウヤサマハ、コンナニモマチガイガオオイノデショウ? イチドドクタータキオンニソウダンシテハ?」

当夜
 「ドクタータキオン、睦美さんか〜」

丁度、睦美さんは僕の部屋の向かいにいる。
お互いの部屋を挟んで、通路の奥にはジバボーグさんこと、渚風子さんの部屋がある。
風子さんはゲノセクトエースと戦い、敗北した後無事修理も完了した。
今はデスリーの活動も一先ず頓挫した事から、暫くは大人しい状態だ。
僕からすれば、卒業も危ういって方が問題があるんだけどね。

当夜
 「そうだね、睦美さんに聞いてみようか」

僕は机から立ち上がると、部屋を出る。
睦美さんの部屋は目の前、その扉を叩こうとした瞬間。


 『だぁかぁらぁ!! そんな経費出ませんからー!?』

突然の大音声!
僕は耳を劈く音に思わず体を仰け反らせて怯むのだった。



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第六章 それぞれの日常



睦美
 「まぁまぁ、落ち着き給え? いいかい? 偉大な研究と言うのはだね?」

深雪
 『だからといってこれ以上組織からお金は出せません! 以上!』

ブツン!

睦美
 「あー……ち」

ドクタータキオンこと、牧村睦美はスマホをベッドに落とすと項垂れた。
電話の相手は経理部の吾妻深雪。
睦美は、新たな怪人計画の予算を取ろうと、話を付けようとしたのだが、経理の深雪には、逆鱗に触れてしまった形だ。

睦美
 「ぬぅ、ジバボーグ君の修理費が思いの外掛かったからなぁ」

コンコン!

当夜
 「睦美さーん? 大きな声が聞こえたけど、大丈夫ー?」

睦美
 「おや、当夜君、ああ、心配を掛けてしまったね?」

当夜
 「入ってもいい?」

睦美
 「どうぞ、入り給え」

睦美はベッドに腰掛けるとそう言った。
当夜は扉をゆっくり開くと、心配そうに覗き込む。

睦美
 (ああ、今日も当夜君は可愛いなぁ、一杯甘やかしたくなるじゃないか♪)

睦美は先程の電話も既に忘れて意識を当夜に切り替えた。
この素早いテンションの変更も、睦美のマインドセットだろう。

当夜
 「うーん? 特に異常なし?」

睦美
 「ハハハ! だから、なんでもないさ! 当夜君が心配することなど無いさ!」

睦美は足を組むと、そう言った。
当夜の後ろからはロトボットが入ってきた。

睦美
 「あ、そうだろとぼん、そろそろアップデートしようか?」

ろとぼん
 「ポーン! アップデートデスカ? ソレデハオネガイシマス」

ろとぼんは睦美の手の中に着地すると、ローターを停止させた。
睦美は手慣れた手で、ろとぼんの接続端子カバーを開くと、パソコンに接続する。
そのまま、睦美は手早くろとぼんにアップロードデータを転送した。

当夜
 「あ、その……睦美さん?」

睦美
 「ん? このドクターに相談かい?」

当夜は少し恥ずかしそうに俯いた。
睦美はその天然であざとい動きにさえ、萌えてしまう。
本当に弟のようで可愛らしいのだ。

当夜
 「僕、どうも勉強が下手なんだ……どうにかならないかな?」

睦美
 「うん? 苦手じゃなくて、下手? 普通勉強が苦手な原因は続かない事が原因だ、しかし下手とは?」

睦美は首を傾げた。
しかし当夜は深刻そうに俯いてしまう。

当夜
 「言葉通りなんだ、僕別に勉強は嫌いじゃないんだ、続かないって事もない……でもいつも間違えてばかりで、ろとぼんにもいっぱい指摘してもらっているんだけど」

睦美は当夜の話を聞きながら、パソコンを操作しろとぼんの記録データを確認した。
そこには当夜の様々な観測データを蓄積している。
ろとぼんが当夜のスペックデータとして蓄積したものは、睦美にも怪訝とする物だった。

睦美
 「学習、記憶に障害でもあるのか?」

当夜
 「えっ?」

当夜は驚いた顔をした。
睦美は厳しい表情で、データを吟味する。
運動の割に体重、筋肉量は変化無し。
ろとぼんに指摘された部分も、特に学習した様子がない。
はっきり言えば異常だ。
当夜は健康に問題はない、ジバボーグが収集したデータと合わせても、当夜は健康そのものだ。

睦美
 「当夜君、一度精密検査を受けてみないかい?」

当夜
 「精密検査!? 僕って、そんなにやばいの!?」

当夜は驚きのあまり、オーバーなリアクションを取った。
あくまで睦美は危険はないと落ち着かせる。
しかし、そのデータは興味深いなんて物ではなかった。

睦美
 「美陽君に車を出して貰おうか、ラボに行けば精密検査が出来る」

当夜
 (う、うーん? 勉強のコツとかあれば、聞きたかっただけなんだけど、大事になったかなー?)



***



モアナ
 「オーウ! デスリー総統、ハーイル、デスリー!」

清掃員のモアナは今日もこの広すぎる秘密基地の清掃を楽しく行っていた。
デスリー総統こと、上乃子当夜は素肌の見えない専用スーツを着ていた。
相変わらず間違った敬礼をするモアナに、当夜も苦笑いだがモアナは気にしない。

モアナ
 「ペレも、ドクタータキオンも♪」

モアナはいつもの様に太陽のような笑顔を浮かべると、ペレの鼻に自分の鼻をくっつけた。
ペレは相変わらずの鉄面皮だが、流石に慣れたのか、最初の頃よりは動じなくなった。

ペレ
 「モアナさん、普通の握手では駄目なのですか?」

モアナ
 「スキンシップは愛情デス♪ はい、タキオンも♪」

タキオン
 「はは、まぁいいじゃないか♪」

タキオンはノリノリで鼻をくっつけた。
少数民族の挨拶だが、タキオンはあまり気にした風もない。

当夜
 「それじゃ、ラボに行こう?」

モアナ
 「デスリー総統! お疲れ様デス!」

モアナは満面の笑顔で敬礼すると、三人はラボに向かった。



***



当夜
 「それで、精密検査ってどうするの?」

タキオン
 「とりあえず、そこに横になって」

タキオンは手術台のような機材を指差すと、当夜は言われた通り横になった。

ジバボーグ
 「検査でしょうか?」

今日も一日十善を心掛けるジバボーグはラボを掃除していると、気になって当夜達の下に向かう。

当夜
 「あ、うん……なんだか人間ドックみたいで、ちょっとドキドキするよ」

タキオン
 「ジバボーグ君、君も検査に付き合ってくれるかい?」

ジバボーグはそれを聞くと、顔を明るくした。
身体の大部分を機械に置換したサイボーグ怪人だが、情緒は豊かな物だ。
それは当夜への好意の現れか、少なくとも興味はあるのだろう。

ジバボーグ
 「はい! 喜んで!」

タキオン
 「うむ、それじゃ総統は、そのままじっとしてて」

当夜
 「はーい」

当夜はドキドキしながらどんな検査がされるのか期待した。
ジバボーグは自身に装備された様々な機能から、当夜の生体データを収拾する。
当夜から発せられる微弱な電波は、心音に揺れ、ジバボーグはそれを肩のサブアイが収拾するレーダーからキャッチする。
だが、そのドキドキは当夜の時、ジバボーグのドキドキと重なる。
3怪人の中でも、最も素直に当夜に好意を表現するジバボーグはその意味がまだ分からないが、ただ当夜だけを見ていた。

タキオン
 「ペレ君、少し時間が掛かる、たまには一人になってみては如何か?」

ペレ
 「別に構わない……デスリー総統の側にいるのが私の任務だからだ」

ジバボーグはペレを気にする。
傍から見れば、当夜とペレはジバボーグがヤキモチを焼く程だ。
しかし、ペレは任務だから、デスリー総統だからと全く当夜に好意を寄せる素振りがない。
だがそんな筈はない、でなければジバボーグがペレに嫉妬する理由にはならない。
ペレが明らかに当夜を意識しているからこそ、ジバボーグはペレを恋敵として認識出来るのだ。

タキオン
 「クス♪ なら適当に寛いでいたまえ♪」

タキオンは検査装置を動かしながら笑った。
ジバボーグはもう一人判断しかねる相手はこのドクタータキオンだ。

ジバボーグにとって、タキオンは尊敬するべき相手だ。
彼女は自ら志願して強大な怪人になった。
ドクタータキオンを支えるのは、自分の務めだと認識する。
しかし同時に、タキオンもまた当夜に好意を寄せる一人だ。
しかもタキオンはペレよりも情熱的だと言える。
当夜もやはり、タキオンに好意を持っているのは明白で、普段の余裕もその現れなのかと推測する。

タキオン
 「ふむ、データの方はどうかね?」

ジバボーグ
 「これといって異常なデータは見られません」

当夜の検査データはいずれもホモサピエンスの数値としては正常な物だった。
当然だが、改造されたような跡もない。
しかし、タキオンは顎に手を当てると真剣に考える。

タキオン
 「不自然だな」

ジバボーグ
 「不自然ですか?」

タキオン
 「デスリー総統は脳波も、脈拍、伝達パルス、全て人間として実に健常だ……だが、それがおかしい」

脳を改造されたジバボーグでも、タキオンを越える天才ではない。
逆に言えば、世界でも三指に入る天才は常人の測り知れない思考をシュミレートしているのだ。

タキオン
 「異常がなければおかしい、筋肉の増加量といい、アルツハイマーのような記憶障害といい」

ペレ
 「デスリー総統は……大丈夫なのか?」

ペレは心配そうにタキオンに尋ねた。
タキオンは首を振ると、お手上げと言うように手を上げた。

タキオン
 「人間としてはな、遺伝子も調べてみる必要があるか……」

上乃子当夜は、様々なコンプレックスを有する等身大の少年だ。
身長に悩み、女性のような見た目に悩み、運動神経も頭も良くない事を悩む。
だが、それを科学的に裏付けることが、タキオンには出来なかった。
科学者としては屈辱的でさえある。
それでも、追求する学問こそ科学だ。

タキオン
 「さて、これは予想以上に時間が掛かりそうだ」

タキオンは背筋を伸ばすと、何かを探しにその場を離れた。
ジバボーグは寝かせられた当夜を見た。
心拍数は正常、思考は低下しており、睡眠状態にあった。

その後、当夜はレントゲン撮影をされたり、唾液を採取されたり、血液の検査など、多岐に渡る検査を受けるのだった。



***



当夜
 「はぁ〜、疲れた」

検査が終わったのは、夕方だった。
僕は改めて人間ドックに行く働くお父さん達の気持ちが少しだけわかった。
ただ、検査するだけって言っても、これは一日潰れるし、おまけに検査数も多くてヘトヘトだった。
まぁ僕が体力無いっていうのも原因なんだけど。

ペレ
 「お疲れさまでした、デスリー総統」

ペレは紙コップを持つと、当夜に差し出した。
当夜はなるべく笑顔を浮かべると、それを受け取る。

当夜
 「う! こ、これは!?」

当夜は紙コップに口をつけると、得も言えぬ味に顔を顰めた。
ペレは極めて無表情に言う。

ペレ
 「シャーク将軍に教えてもらった、特製プロテインドリンクです」

当夜
 「ああ〜、プロテインか……道理で」

僕はプロテイン系は何度か試した事があるので、この味は馴染みがあった。
とはいえ、既製品では感じたことの無い味でびっくりしたよ。

ペレ
 「デスリー総統、お身体に悩みがあっても、私はそれを支えてみせます」

当夜
 「はは、うん♪ ありがと♪」

僕はそう言うと、このプロテインドリンクを飲み干す。
ちょっと不味いけど、きっとあの筋肉ムキムキのシャーク将軍に教えて貰ったって言うなら、効果抜群なんだろうなぁ。

当夜
 「もうすぐ夏休みだし、今年こそ結果を出したいなぁ」

ペレ
 「結果、ですか?」

僕は小さく頷く。
ペレさんは知らないでも当然だけど、僕は毎年夏休みは身体を鍛える事に集中した。
勿論宿題も大切だけど、僕の目標はやっぱり男らしくなること。
理想はやっぱりペレさん達を守れる位、……て、これは流石に夢を語り過ぎかな?
現実は残酷だけど、理想は高く持ちたいからね。

タキオン
 「やあやあ、おまたせ」

白衣のエーフィ娘、タキオンさんは僕の検査データを持って研究室に籠もっていたみたいだが、やっと検査結果が出たのかな?

当夜
 「えと、それで結果は?」

タキオン
 「まぁ落ち着きたまえ、検査結果は1週間後だ、追って説明もするよ」

そうかぁ、すぐには分からないんだ。
まぁ仕方がない、僕は僕で頑張るしかないもんな。

当夜
 「それじゃ、家に帰りましょうか」

ペレ
 「はい、お車をご用意します」

タキオン
 「ジバボーグ君も呼んでこよう」

僕は立ち上がると、いつものように車の搬入口に向かう。
今日も疲れたな、て、タキオンさんやペレさんの働きを見れば、僕程度が愚痴っていられないよね。

当夜
 「明日も頑張るぞいっと!」

僕はそう言うと、自分に活を入れる。
ペレさんを追うと、今日もデスリー総統としての仕事を終える。



***



次の日、僕は早朝からランニングコースを走っていた。

当夜
 「はっ、はっ!」

僕の足は遅い、それこそ早朝ならランニングウェアを着たランナーがいるけど、僕は誰よりも遅く、体力が無かった。

風子
 「はっ、はっ!」

そして僕の隣には、同じように風子さんが走っている。
今の風子さんは体操服にブルマの姿に見えた。
これも光学迷彩って奴で、本当の風子さんは今もジバボーグの姿だ。

当夜
 「はぁ、はぁ!」

風子
 「当夜様、大丈夫ですか?」

僕は速度を落とすと歩き出す。
気温も高くなってきており、気持ち悪い汗も吹き出している。
僕はまだ30分程、軽く流していた筈なのに、知らず知らずにペースを上げていたのだろうか?
怪人としては足の遅い風子さんでも、息を殆ど切らしてはいない。

当夜
 「はぁはぁ! うん……」

風子
 「タオルをどうぞ、それとスポーツドリンクですが」

風子さんも疲れている筈なのに、僕への気遣いは至れり尽くせりだった。
僕は受け取ったタオルで汗を拭き、ペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲む。

当夜
 「ありがとう、はは……やっぱり風子さんは凄いですね」

僕は笑いかけると、風子は顔を暗くした。

風子
 「私なんて全然駄目です……」

当夜
 「え?」

風子
 「だって、私はゲノセクトエースを倒す事も出来ず、当夜様に尽くす事もきっと美陽さんに勝てません……」

僕は風子さんの背伸びしたい思いには共感できた。
でも、僕は風子さんが憐れに思えて仕方がない。

当夜
 「風子さんは風子さんだよ、誰かと比べる必要はない」

「え?」と風子さんは顔を上げた。
僕はなんだか言ってから恥ずかしくなり、顔を赤くする。

当夜
 「こ、これ友達の光輝君からの受け売りなんだけどね? ご、ごめん年下なのに、生意気だったかな?」

僕自身それを親友に何度も咎められてきた。
僕もそれを理解していると同時に、今も理想を追っているジレンマがある。
だからこう考えるのだ、誰かの代わりになる必要はないけど、誰かを目標に目指すのは良いんだ。

風子
 「……クス♪ 当夜様が謝るなんておかしいです♪」

当夜
 「あ、はは♪ 風子さん笑っている方が似合ってますよ?」

風子さんが笑うと、僕もつられて笑った。
なんだか変な空気になったけど、これでいいんだよね?

風子
 「あの、当夜様! ご提案があります!」

風子さんは突然顔を真剣にすると、僕に顔を近づけた。



***



睦美
 「ふむ? 今なんと言った?」

部屋にいた寝坊助の牧村睦美は、彼女の補佐をするロトボットのろとぼんver2にある珍妙な報告を受けていた。

ろとぼん
 「ポーン、ジバボーグ女史ガ、特訓ヲ開始シタ模様デス」

バージョンアップにより言語野を改善したろとぼんは流暢な日本語で喋った。
人工知能は自己学習型故に直ぐに劇的な変化は訪れないが、一先ずろとぼんはまた一つ完成に近づいている。

睦美
 「風子君がねぇ?」

ろとぼんはジバボーグと通信を繋ぐ事で、情報共有が可能になっている。
そのため、電波が届く限り、ろとぼんとジバボーグはアシストしあっているのだ。

ろとぼん
 「ポーン、随分非効率ナ方法ノヨウデスガ」

睦美は「ふむ」と口ずさむと顎に手を当て考えた。
ジバボーグこと、渚風子は完全なサイボーグではない。
大部分を機械に置換してはいるが、それは風子がジバコイルという機械化に適した身体を持っていたからだ。
それが特訓など、ろとぼんは完全な人工知能で論外だと断ずる。
だが睦美はそれを否定はしなかった。

睦美
 「ククク、面白いじゃないか♪ サイボーグが特訓なんて♪」

そこには必ず当夜がいる。
当夜は自分を無能と考えているが、睦美の論では違う。
パラメータ化出来ない物を当夜は持っている。
それが美陽や風子、そして睦美自身に強く作用している筈だ。

睦美
 「映像、いけるかな?」

ろとぼん
 「ポーン、映像出力開始」

ろとぼんはパソコンに無線接続すると、モニター上に風子の映像が回された。



***



当夜
 「頑張れー!」

僕は自転車を漕ぎながら、走り込みをする風子さんを応援した。
自転車に乗るなんて久し振りだけど、これはこれで運動になる。
風子さんは自ら特訓を申し出て、僕はそれをトレーナーとして監督する事になった。
サイボーグ怪人の風子さんは普通なら、より性能の良いパーツと交換してパワーアップするのが普通のはずだが、僕は風子さんの熱意の方を汲み取った。

怪人開発費用は赤字らしく、ジバボーグの強化改造は難航どころか不可能に近い。
予算承認を求めようにも、新型怪人開発の方が幹部方には求められており、タキオンさんも攻めあぐねている状態だ。
ならば、自らを鍛えて強くなろうというのは極自然な回答だった。

風子
 「はぁ! はぁ!」

風子さんは息が乱れるほど、厳しい走り込みをしていた。
それでも甘える事は許されない。
河川敷を全力ダッシュする訓練を繰り返し、僕はそれに徹底して付き合った。
速度が落ちれば注意して、風子さんに限界へと挑戦してもらう。

当夜
 「これで20本終了!」

風子さんは膝を落とし、大きく息を吸う。
玉のような汗もかき、厳しい特訓だった。

風子
 「つ、次お願いします!」

当夜
 「だめ! 疲れを取り除いてから! 無茶は怪我の元だよ?」

僕はそう言うと、風子さんは素直に頷いた。
僕は改めて風子さんが走った土手の跡を見た。
土が抉れ、芝生に人の足の穴ぼこが幾つも出来ている。
それが風子さんの重量とパワーだ。

風子さんはこれでも怪人としては足は遅い方だ。
それでもこのパワーはやはり凄まじい。
並のPKMは遥かに凌駕している。
それでもゲノセクトエースには勝てないのだ。

風子
 「ふぅ、ふぅ!」

当夜
 「風子さん、ちゃんと水分も摂ってね?」

僕はスポーツドリンクを風子さんに差し出した。
風子さんはそれを受け取ると、一気に飲んだ。

当夜
 「あんまり飲みすぎる身体が重くなるから、程々にね?」

風子
 「す、すみません! 気をつけます……!」

風子さんはゆっくりと立ち上がった。

当夜
 「よし! 次へ行こう!」

僕たちの特訓は始まったばかりだ、僕は風子さんの様子を見て、次の特訓場所に向かうのだった。



第六章 Part2に続く。


KaZuKiNa ( 2021/11/23(火) 18:49 )