第一部 世界征服を目指す物語
第一章 総統になってしまった少年

ここは地球、今キミたちがいる世界からすれば、少しパラレルワールドを進んだ世界だ。

世界には80億の人類と数千万のPKMと呼ばれるポケモンが人間化、即ち擬人化して現れた架空の未来だ。
物語は20XX年、日本から始まる。



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第一章 総統になってしまった少年



***



少年
 「はぁ、はぁ、はぁ!」

少年は暗闇を走っていた。
その顔は焦燥しており、何かから我武者羅に逃げているみたいだった。
だが、いくら走っても、少年に安堵の顔は訪れない。
やがて少年は足を止めた、崖だ。
崖の縁に立った少年は息を切らしながらその顔を上げた。
男と言うには幼く、女の子のような顔をした少年は絶望したように叫んだ。

少年
 「何故!? 僕が何をしたって言うんですか!?」

やがて少年の眼の前に巨大な存在が聳え立った。
有に100メートルはあるか? その超巨大な存在は少年を見下ろすと。

巨人
 「黙りなさい、貴方は裁かれなければならない!」

少年
 「なぜ? 僕は普通の高校生ですよ!?」

巨人
 「いいえ、貴方は……!」

やがて、巨人はその手を振り上げた。
少年は恐怖に怯えて、顔を覆った。
見なくても分かる、死だ。
巨人の手が振り下ろされた時、少年のちっぽけな命が終わりを迎える。

少年
 「うわあああああ!?」



***



少年
 「うわあああ!?」

僕は顔を上げた。
気がつくと僕は自分の部屋にいた。
やがて僕は荒々しい息を整えながら、何が起きたのか理解した。

少年
 「夢、か……!」

安堵した、怖い夢だった。
高校生にもなって、夢に怯えるなんて格好悪くて嫌だけど、そういう夢を見てしまったのは仕方がない。

少年
 「はぁ……嫌だなぁ、どうせならヒーローみたいに格好良く活躍する夢の方が良いのに!」

僕はそう言うとベットから降りて、シャドーボクシングをするように、ジャブをした。
僕の身体は細く、平均よりも身長も低い。
男性ホルモンが少なかったのか、この女の子みたいな容姿はコンプレックスだ。
それでも僕は自分を変えようと、毎日筋トレを欠かさない。
イメージトレーニングもバッチリで、今の僕はそこそこ強いんじゃないかな?

少年
 「なーんてね、はぁ、馬鹿らしい、早く学校に行く準備をしよう」

僕はそう言うと、部屋を出る。
悪い汗をかいたからシャワーを浴びよう。
僕の部屋は2階にある、階段を降りて1階に降りると、ため息を吐いた。

少年
 「はぁ、もう慣れたけど、やっぱり寂しいよね」

家は驚くべき程静かだった。
それもそのはず、この家には僕一人しかいない。
1戸建ての住宅に高校生が一人、それには事情もある。
僕の両親は2年前、とある事故で亡くなってしまった。
僕にはおじいちゃんやおばあちゃんもなく、身寄りの無い僕は親の財産を引き継ぐ形になった。
その結果、かつては家族で使っていた家は僕だけの秘密基地と化してしまった。
早く慣れなきゃ、そうは思うんだけど、やっぱり一人は寂しかった。

少年
 「ううん! 頑張れ、僕! 頑張れ!」

僕は顔を叩くと、男らしくシャワールームに向かう。



***



ガチャリ。

時刻7時30分、少年が家を出た。
家は変哲もない普通の住宅街にあり、少年は違う学生服の少年少女達に混ざりながら、真っ直ぐ学校に向かっていく。
それを眺める女がいた。


 「上乃子当夜(かのことうや)、街の私立高校に通う三年生、間違いない」

黒いややアンティーク地味た車のドライバー席に座った女は言った。
女はPKMだった、PKM……異世界から顕現したホモサピエンスに似た特徴を持つ異世界人。
ポケモンという種族が擬人化した姿で、今日ではその2世が活躍する時代だった。
女はサングラスをしており、目元は分からない。
しかし、きめ細やかな肌、そして髪は緑がかった黒い長髪。
今はコントロールしているが、バクフーンと言われる種族のPKMだった。

バクフーン
 「聞いてる?」

バクフーンのPKMは後ろを見た。
後部座席にはゆったり横になったポケモン娘がそっちのけで、何か作業をしていた。

バクフーン
 「タキオン? 聞いているの?」

タキオン
 「少し静かにしてくれたまえ、もう少しで完成なのだ」

タキオンと呼ばれたポケモン娘は2本に枝分かれした薄紫の尻尾をゆらりと揺らした。
エーフィと言われるPKMで、白衣に身を通したボサボサ髪の女だった。
バクフーンの女は「はぁ」とため息を吐いた。

バクフーン
 「タキオン……彼を見たいというから、連れてきたけど」

タキオン
 「いやいや、ちゃんと『視ている』よ? アレが我々の上司という訳、か」

タキオンは実際視ていた。
エスパータイプである彼女は、念視など造作もない。
それこそ作業の片手間で、別の事をするなど朝飯前なのだ。
それを聞いてバクフーンは益々ため息を付く。

バクフーン
 「まだ、よ……、それよりも念視できるなら、車に載る必要はないのでは?」

タキオン
 「そうでもないさ、私は第六感をそこまで信用していない、五感は需要な要素だからね」

そう言ってタキオンは顔を上げた。
後部座席から外を眺めるその顔は怪しく笑っていた。



***



男子生徒
 「上乃子ちゃーん! おはよう!」

当夜
 「ちゃん付けは止めてくれる? ああ、うん……おはよう」

女子生徒
 「おはよう、上乃子君!」

当夜
 「うん、おはよう」

僕は学校に行くと、いつもこんな調子だ。
高校生3年生にもなって、身長は下から数える程低いし、顔も可愛いから男の娘と弄られてしまう。
これでも必死にイメージ変えようと頑張ってるのに、無駄なのかなぁ?
やがて、教室に入る。
生徒も揃いつつあり、僕は窓側にある自分の座席に向かった。

PKMの女の子
 「あ、上乃子君、おはよう」

当夜
 「うん、おはよう常葉さん」

嫌に落ち着いた雰囲気で挨拶してくれたのは常葉里奈(ときわりな)という女の子だった。
アグノムというポケモンのPKMらしく、腰から白い先端が槍状の2本の尻尾が特徴的な美少女だ。
常葉さんは僕より身長が高いが、僕の事を女の子扱いしないから僕は好きだ。
勿論恋愛感情とかではなく、純粋に尊敬出来るとかそういう意味でだけど。
いや、本当は恋愛感情はある思う……でも。

身長の高い男子
 「お! おはよう当夜!」

当夜
 「あ、おはよう光輝君」

僕の名前で呼んできたのは新央光輝(しんおうこうき)君だ。
身長も高く、筋肉質で男らしい上に、快活で爽やかな反則級の男子高生だ。
しかもサッカーの天才で、日本代表にも声が掛かっているらしい。
僕と光輝君は中学校からの付き合いで、光輝君は数少ない僕が安心して話せる相手だった。

光輝
 「常葉もおはよう!」

里奈
 「うん、朝練お疲れ様」

光輝君と常葉さんは幼馴染で、長い付き合いがあるらしい。
正に美男美女の二人であり、人気も高いが、付き合っているんじゃないかって噂されている二人だ。
実際のところ、付き合ってはいないらしいが、それでも仲が良すぎるとは思うんだけどね。

光輝
 「そういえば常葉、進路って決まってんのか?」

里奈
 「うん、製菓学校に進学するつもり」

常葉さんは洋菓子屋マリアンルージュと言うスイーツショップ兼喫茶店でバイトしており、既にお菓子の腕がプロ級だったりする。
将来的にはパティシエを目指しているらしく、僕は凄いなと素直に思う。

当夜
 「常葉さんは、凄いね……僕は全然将来なんて分からないよ」

光輝
 「つっても、俺たちそろそろ進路決めないと行けないからなぁ」

当夜
 「光輝君はいいよね、推薦入学できるでしょ? それともJリーグデビュー?」

光輝
 「ハッハッハ! 俺なんてまだまだだよ! だがどうせならバルセロナとかドルトムントとか行きたいよなー!」

里奈
 「日本は狭い?」

当夜
 「スケールが大きいねぇ」

欧州リーグを目指すなんて、現実的じゃない。
でも光輝君なら、それが嘘にも思えないから不思議だ。
それだけの実力が光輝君にはあるからね。

当夜
 (僕は全然ビッグになる未来は見えないな〜)

僕は普通の大学に行って、普通の会社に勤めて、平凡に生きるだけだろう。
将来的に経営者も視野に目指す常葉さんや、サッカー一筋でプロを目指す光輝君は僕には眩しすぎる。

光輝
 「当夜なら、アイドル目指せるんじゃないか?」

当夜
 「ちょ!? 僕が!?」

里奈
 「クスクス♪」

ちょ、常葉さんが笑ってしまう。
僕は恥ずかしくて蹲った。
アイドルとか、もっと身長が高くて格好良い人がなるべき職業でしょう?
僕なんか到底無理だよ〜。

キンコンカンコーン♪

光輝
 「おっと、先生すぐ来るぜ!」

里奈
 「またね? ふたりとも」

やがてホームルームが始まる。
皆が席につくと、教室に入ってきたのは美人のアリアドスという種族の先生だった。
御影杏(みかげあんず)というこのクラスの担任だ。


 「よーし! 元気かガキどもー♪ 出席取るわよー!?」

御影先生は色白の肌で、塗りつぶされたような黒目が特徴的な女性だった。
誰が見ても美人だと言うプロポーションも見事で、くびれた腰は男子高生の注目の的だ。
虫タイプらしく、腰から補助の脚が生えているが、そちらは平時では使い道がないらしい。


 「うん♪ 全員いるわね♪ 元気でよろしい! それじゃ1限目の準備して待ってなさい!」

ぶっきらぼうな先生は点呼を終えると、教室を出ていく。
その僅かな間は雑談タイムとなるのだ。

女子高生
 「常葉さん、数学の宿題見せて!」

里奈
 「え、う、うん」

女子高生
 「ありがとう! 今度お礼するから!」

男子高生
 「あー、1限目から数学かー、ダリィ」

光輝
 「当夜、お前大丈夫か?」

僕の斜め前の席に座る光輝君は席を寄せるとそう聞いてきた。
多分宿題のことだろう。

当夜
 「大丈夫だよ」

光輝
 「そうか、お前成績悪いからな……」

当夜
 「う……!?」

そう、僕は実は結構学業がやばい。
何故なら僕は成績が悪くても叱ってくれる人もいないし、教えてくれる人もいない。
殆ど天才と言って差し支えのない常葉さんは別格だけど、光輝君もスポーツ少年なのに僕より頭が良い。
そう、僕ってなんの取り柄もないんだよね。
顔は女の子みたいで、運動も駄目なら、頭も良くない。
なんのために生まれたんだろうとは、日々自分に問うテーマだ。
せめて妄想の中だけは強くて格好良いヒーローでありたい。

当夜
 「はぁ……」

もう何度目かな、自分に幻滅して溜息溢すなんて。



***



キンコンカンコーン。

その日も授業はいつも通りだった。
6限目が終わると、下校となる。

光輝
 「それじゃ、また明日な! 常葉、当夜!」

光輝君は授業が終わると、早速部活だ。
誰よりも速く教室を出る姿は、それだけサッカーを愛しているんだなって分かる。

当夜
 「3年生で他に頑張らないといけない事あるだろうになぁ」

里奈
 「ふふ、それだけ意志力が強いのよ、新央君は」

当夜
 「意志力……て、制御装置付けて分かるの?」

常葉さんの細い右腕に付けられたやや不格好な白い腕輪。
それはPKMの異能を制御する装置だ。
全てのPKMが装備を義務付けられており、常葉さんはアグノムとしての力は使えないはずだけど。

里奈
 「分かるよ、新央君は変わらないからね」

それは、それだけ長い付き合いの顔だった。
改めて少しだけ妬いちゃうかも。
光輝君と常葉さん、以心伝心なのかもなぁ。

里奈
 「さてと、私もバイトに遅れないようにしなくちゃ」

当夜
 「あ、それじゃさようなら、また明日ね」

里奈
 「はい、ごきげんよう」

常葉さんはペコリと頭を下げると、バッグを持って教室を出て行った。
僕はそんな常葉さんを見送る。

当夜
 (途中まで一緒に……て言える勇気ないよね)

僕は生徒の半分が捌けると、改めてバッグを抱えて、教室を出ていく。
放課後は部活動も活発で、廊下を走る姿も多い。


 「こら! 廊下を走るなガキどもー!」

先生の怒号も響きながら、小市民の僕はいそいそと下校する。
下駄箱で靴を変え、校門に向かうとなんだか様子がおかしかった。

ザワザワ、ザワザワ!

当夜
 「うん? 一体何が……」

なんだか、人だかりが出来ている。
僕は身長が低いから、後ろからでは何が起きているのか分からない。
なんとか、人の捌けている場所を見つけると、人だかりの出来た校門を抜けて、何が起きているのか把握する。

当夜
 「一体なにが……?」

校門の前には一台の車が止まっていた。
黒いやや古めのアンティーク地味た車で、外に身長の高いサングラスをした大人の女性が立っていた。
僕は思わず「はぁ〜」と声が出てしまう。
その女性はPKMみたいだけど、もの凄く美人で、格好も大人っぽく、思わず見惚れてしまった。
モデルとか芸能人なのかな?

ボサボサ髪のPKM
 「おやおや、お出ましのようだよ、同志?」

美人のPKM
 「分かってる」

美人のPKMは僕を見ると、突然動き出した。
思わず人並みが捌ける、僕は「え? え?」と戸惑いながら、その場で足を止めてしまった。

当夜
 「え? あの……?」

美人のPKM
 「上乃子当夜君ね?」

当夜
 「っ!?」

なんで僕の名前が!?
僕は戸惑っていると、女性はサングラスを外した。
赤い瞳が吊り目の女性だった。

当夜
 「そ、そうですけど……貴方、は?」

美人のPKM
 「少し、付き合って貰うわよ」

当夜
 「え? ええええ!?」

赤い瞳の女性は突然僕の手を掴むと引っ張り出した。
僕は突然女性に手を捕まれ、顔を真っ赤にしてしまう。
しかし、抵抗は出来ず、僕は車の助手席に載せられてしまう。

当夜
 「え? あの? これどういうこと?」

ボサボサ髪のPKM
 「おやおや? 事情が理解出来ていない様子だぞ?」

当夜
 「うわ!?」

僕は思わず飛び退いた。
白衣を着たボサボサ髪の女性が顔を近づけてきたからだ。

ボサボサ髪の女性
 「怖がらないでくれたまえ、君に危害を加えるつもりはないさ♪」

当夜
 「あ、貴方達誰なんです!? ぼ、僕を誘拐したって身代金なんて取れないですよ!?」

僕は精一杯の勇気を出して、この怪しい二人にそう言った。
しかし女性達はそれを聞いても何も動じなかった。
ただ、車は無情にも発進してしまう。
僕はビクビク震えるが、これってやっぱり誘拐!?
車が動き出した以上、もはや僕の命運はこれかでなのか?
そう、絶望していると後部座席に座っていたボサボサ髪の女性は言う。

ボサボサ髪の女性
 「ハハハ! 安心したまえ! 勿論そんなつもりはないさ! 私はタキオン、ドクタータキオンさ!」

ボサボサ髪の女性はタキオンというらしい。
日本人じゃないのかな? それにしては日本語上手だけど。
薄紫色の尻尾が揺れており、エーフィというポケモンだと思うけど。

タキオン
 「ほら、君も自己紹介したらどうだい?」

タキオンさんはそう言うと、ドライバー席で無言の美人に言った。
なんていうかこの美人、まるで○ーミネイターみたい、無駄口が嫌いなんだろうか?

美人のPKM
 「コードネーム、ペレ」

当夜
 「こ、コードネーム?」

タキオン
 「ハハハ! 許してくれはしないか? 彼女は不器用なのさ!」

ペレ
 「任務遂行中に無駄口を叩くな、タキオン」

当夜
 「……」

僕は呆然とした。
サイボーグみたいなペレという女性と、饒舌なタキオンという白衣の女性。
どちらもPKMで、僕よりも大人に見えた。
僕は不意に夢を思い出す。

当夜
 「僕は……普通の高校生、ですよ?」

ペレ
 「それを判断するのは、まだ早い」

当夜
 「え?」

どういう事だ?
ペレさんはそれ以上何も言わなかった。
サングラスを掛け、ただクールでストイックに車を運転し、後ろの後部座席から前にもたれかかるタキオンさんはニヤニヤと笑っている。
やがて、僕は知らない場所に案内されてしまった。



***



街を2つ程離れて山間部に謎の地下通路があり、車は地下へと入っていった。
中は電波が遮断されているらしく、GPSも機能しない。
薄暗い地下通路を抜けると、やがてまるでヘリポートのような場所に辿り着いた。
そこは昇降リフトで、僕たちは車ごと上へと昇って行った。

当夜
 「あの、ここは?」

タキオン
 「秘密基地さ♪」

ペレ
 「タキオン、今の彼はまだ部外者よ、余計な事を言わないで」

タキオン
 「やれやれ、堅いことを言う」

タキオンさんは辟易とすると、後部座席にもたれ掛かった。
やがて、リフトが止まると車は更に別のリフトでまるでベルトコンベアーで運ばれるように、奥へと運ばれた。
数百メートルは運ばれたか?
最後のリフトを終えると、ペレさんは車の扉を開いた。

ペレ
 「どうぞ」

ペレさんは助手席側の扉を開くと、僕が出るように促してくる。
僕は抵抗しても仕方がないので、素直に従った。

タキオン
 「うーん! やっぱり車移動は疲れるねー!」

タキオンさんはそう言うと伸びをした。
タキオンさんは改めて見ると、身長はペレさんより低いが僕より大きい、160センチ位だろうか?
結構胸が大きくて、思わず僕はタキオンさんから視線を反らした。

タキオン
 「おや? 一体どうしたのかな?」

当夜
 「い、いえ! なんでも!?」

ペレ
 「こちらへどうぞ」

ペレさんは僕とタキオンさんのやり取りに興味がないのか、少しだけ先へと進んで僕たちを待つ。
タキオンさんは「やれやれ」と首を振りつつ、歩き出す。
僕は素直に従った。

当夜
 (なんだか、豪奢な部屋だな)

ペレさんが案内する通路は赤いカーペットが敷かれた通路で、わざわざ通路の脇にはアンティーク地味たランタンが配置されている。
車といい、そういう趣味があるのかな?

やがて、装飾の派手な大きな扉を前にすると、おもむろにペレさんが開く。
僕は中を見てギョッとした。
中は大広間で、覆面と全身タイツで覆われた没個性な人たちが所狭しと詰まっていたのだ。
ペレさんはその中を進むと、部屋の中央に白い妙なコートを纏った軍人みたいなPKMがいた。
その隣には誰も座っていない玉座のような椅子があった。

将軍
 「彼が……あの方の遺児、か」

ペレ
 「は、上乃子当夜、間違いなくご本人です」

当夜
 「えと、あの……」

僕はペレさんの後ろから、初老のこの男性を見た。
よく見ると、ギザギザのサメみたいな牙を持ったPKMの男性だった。
その厳つすぎる男性PKMは僕を見ると、いきなり膝を折った。

当夜
 「え!? あの、大丈夫!?」

その人は僕よりずっと大きくて身長は2メートル近い。
そんな大男だけに、どこか身体が悪いのかと思わず心配してしまったが、違った。

将軍
 「よくぞお越しくださいました、当夜様、お初目かかります、私はシャーク将軍!」

当夜
 「しゃ、シャーク将軍? ていうか、当夜様?」

シャーク将軍はサメハダーのPKMだろうか、目付きは鋭く赤い瞳孔が正直怖い。
僕はオロオロしていると。

シャーク
 「当夜様、貴方は我々デスリーの総統となるべきお方なのです」

当夜
 「え? 総統? な、何言って……?」

シャーク
 「貴方様の父上、緋扇時夜(ひおうぎときや)は先代のデスリー総統でありました。しかし不慮の事故によりお亡くなりになり、我々は総統を失ってしまいました……しかし貴方様の存在を見つけたのです!」

当夜
 「と、父さんが!?」

父の名は上乃子時夜、でも確か旧姓は緋扇だった。
でもおかしい……父さんは普通の会社員だったはずだ、こんな怪しい組織の話は聞いたことがない。

シャーク
 「……やはり、なにも聞いていないのですね?」

当夜
 「……っ」

シャーク将軍は仕方がないというように首を振った。
僕は言い当てられて、戸惑ってしまう。

シャーク
 「時夜様は、きっと当夜様を巻き込みたくなかったのかも知れませんな」

本当に……そうなのかな?
母さんは知っていたのか?
僕におじいちゃんやおばあちゃんがいないのって……!

当夜
 「お、教えてください! 母さんは!? 上乃子鈴(かのこべる)はこの組織の関係者だったんですか!?」

シャーク
 「いえ、ご婦人は一般人です、そのため時夜様も緋扇の姓を捨てたのでしょう」

当夜
 「そう……なんだ」

僕はなんだか胸が苦しくなってきた。
僕はしがないただの高校生だと思っていた。
でもペレさんは、それを決めるのはまだ早いと言った。
その答えが、これなのか?

ペレ
 「失礼ですが、当夜様の素性調べさせて頂きました、上乃子家全ての遺産を引き継いでいますね?」

当夜
 「う、うん」

ペレ
 「で、あれば当夜様はデスリーも引き継いだ事になります」

当夜
 「そ、そんな無茶苦茶な!? ほ、他に総統を出来る人はいないんですか!? 僕優秀じゃないですよ!?」

僕は正直、そのデスリー総統という地位に戸惑った。
父さんがそうだったとして、僕がそれを引き継がなければならないってのがおかしい。

しかしペレさんは。

ペレ
 「お願いします……我々は貴方様をずっと待っていたのです」

ペレさんはそう言うと、頭を垂れた。
膝を付き、最大限の誠意を見せてきた。
僕は、良心がせめぎ合い、どうするべきか逡巡した。

当夜
 「ぼ、僕がそれでも拒否をすれば?」

タキオン
 「なに、気にする事はないさ、『忘れて』もらうだけさ」

突然、後ろから腕を首に回してニヤニヤするタキオンさんが喋った。
僕はドキリとしながら周囲を見る。
覆面の戦闘員っぽい人たちは皆、僕を見ていた。

当夜
 「ぼ、僕でいいんですか!?」

シャーク
 「貴方様でなければならないのです!」

分からない、何故僕なのか?
それでも彼らは僕を待っていた。

当夜
 「や、やっぱりおかしいですよ……僕は顔だって男らしくないし、頭も悪いし、運動神経も悪い……」

ペレ
 「……」

ペレさんもシャーク将軍も何も言わなかった。
まるで僕の才はそこではないという風に。

当夜
 「本当に……僕でいいんですね?」

ペレ
 「……はい」

僕は喉を枯らしながら、震える手を握った。
僕は普通の高校生……じゃ、なかったのか。

当夜
 「分かりました、なればいいんでしょう? その総統ってのに」

僕がそう言うと、シャーク将軍は素早く立ち上がった。
優に2メートルに達する偉丈夫は声を張り上げ、手を掲げる。

シャーク
 「今、新たなるデスリー総統が誕生したっ!!」

戦闘員
 「「「ハイル!!! デスリー!!!」」」

当夜
 「ひいい!?」

突然部屋を埋め尽くす全身タイツの人たちが、一斉に独特の敬礼を上げた。
僕はそれに怯えていると、タキオンさんがパチパチと手を叩いた。

タキオン
 「ハッハッハ! ようこそ秘密結社デスリーへ! デスリー総統!」

当夜
 「た、タキオンさん……」

タキオン
 「改めて自己紹介だ、私はドクタータキオン、この組織で主に科学関係の責任者だ、まぁいわゆる兵器開発者だな!」

当夜
 「へ、兵器開発!?」

い、いきなり物騒な言葉が出てきたよ!?
僕はビビっていると、更にシャーク将軍が続ける。

シャーク
 「私はシャーク将軍! デスリー幹部にして、総統閣下の参謀を務めます!」

ペレ
 「コードネーム、ペレ。デスリー総統の身辺警護及び、そのお世話を任務とします」

当夜
 「え? え? あのこの組織って?」

シャーク
 「さぁ! 我らの悲願! 世界征服を今こそ再開しましょう!!」

戦闘員
 「「「おおおーっ!!」」」

世界征服、その途方も無い言葉に僕はポカーンとした。
僕は上乃子当夜、自分の容姿をコンプレックスに持つ程度の普通の高校生……の筈だった。
僕は悪の秘密結社デスリーの総統になってしまった。
これはそんな普通じゃない僕が始める世界征服の物語である……。



突然始まるポケモン娘と世界征服を目指す物語

第一章 総統になってしまった少年 完

第二章に続く。


KaZuKiNa ( 2021/11/23(火) 15:09 )