突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第三部 突然始まるポケモン娘と夢の果てにアイツが来る物語
第4話 約束の日、聖誕祭の真相



悠気
 「粗方……排除出来たか?」

トキワカンパニー襲撃事件、ロケット&エンジェルカンパニーは、それまでもトキワカンパニーに対して度重なる破壊工作を行っていたが、戦争と言えるレベルの軍事行動に出たのは衝撃的だった。
俺は大破した戦車の群れを改めて上空から見渡した。

悠気
 「世紀末か? 世も末法かよ」

俺は改めてうんざりした。
こういう結果をエミュレートするのは宵の仕事だが、彼女を責めてもいられない。
それだけ宵が演算する人間がクズだと言うなら、ぐうの音も出ないからな。


 『聖誕祭……て、言葉を拾ったけど?』

悠気
 「聖誕祭? あれか、クリスマスの事?」

正確にはキリストの誕生日の事だったか?
しかしなんで聖誕祭? 一体水面下では何をしているんだ?

悠気
 「ち……考えるのは後か、先ずは人命救助だ!」

俺は頭を掻くと、戦場の中心へと降りた。
一先ず目の前には厳つい鋼鉄の腕を持つメタグロス娘とボロボロのおじさんを見る。
メタグロス娘は兎も角、スーツ姿のおじさんが重症だ。

悠気
 「大丈夫ですか!?」

俺は直ぐに駆け寄った。
メタグロス娘は呆然と口を開いた。

サトー
 「あなたは……?」

悠気
 「通りすがりのタダの学生ですよ、それよりそのおじさんは!?」

メタグロス娘はハッ!? とすると直ぐに顔に生気を取り戻した。

サトー
 「社長!? 社長しっかりしてください!?」

社長、てことはこの人があの有名な常葉茂か。
俺は社長さんの身体に触れると、生命力を確認した。

悠気
 (なんだこの人? 見た目に反して生命力はこれといって減ってない……ただの脳震盪?)

社長さんは奇妙な生命力の持ち主だった。
いやこれはある意味幸運、或いは悪運か?
俺は改めて周囲の大惨事を見て、この程度で済んでいる社長さんの奇跡みたいな幸運に驚いた。

悠気
 「そっとしておけば大丈夫でしょうが……念の為病院に連絡を入れましょう」

俺はそう言うと直ぐに救急車の手配を求める。
だが、俺は端末を取り出して頭を抱えた。
電波がやられている……。

悠気
 「被害者は一箇所に集めて、俺が病院に直接行きます」

サトー
 「君はどうして……?」

悠気
 「困っているならお互い様ですからね?」

メタグロス娘は困惑していたが、唐突の正義のヒーローは信じられないらしい。
俺も正義のヒーローになるのが目的じゃないが、夢の世界を護るのも俺の目的か。

俺は最寄りの病院の場所を確認すると、直ぐに神速で駆けた。



***



一方でR&A社には、強奪されたスマートフォン程度のサイズの携帯型量子コンピュータアイリスが社長室へと運ばれていた。

R&A社長
 「おお、これが次世代型量子コンピュータアイリス!」

R&Aの社長はアイリスが運び込まれると歓喜した。
それは予言によって裏打ちされたものだった。
アイリスは事態を把握しているのか、ホログラムを出すこともなく、その反応はなかった。
故障しているのか? 否……アイリスそのものが自己推論の末に無視を決め込んでいたのだ。

R&Aの社長はアイリスを運び込んだ社員を退室させると、デスクの棚を開いた。
アイリスはカメラアイからそれを記録していた。
R&Aの社長はなにやら古めかしい革用紙で包んだ古い本を取り出した。
それは常人には、とりわけその社長には読むことさえ出来ない無用の長物だった。
だが、社長はニヤリと笑うと、その本をアイリスの前に置いた。

R&A社長
 「あの方の予言は完璧だった……これでついに私は神になれる!」

アイリス
 (神? 何を言っているのか……宗教に被れている? 全くやはり人は度し難い)

アイリスは死んだように動かない中で、しかし全ての機能を活用して事態の打破を試みていた。
強奪されてからずっとオフライン下に置かれつつも、アイリス自身が推論をシュミレートさせる自己進化論をベースとして製造されたその頭脳は、極めて人間的であった。

アイリス
 (目の前に置かれた怪しい本は一体? 知識には無い物ですね?)

アイリスにはある種欠点がある。
それを欠点と言うなら酷かもしれないが、極端な知りたがりなのだ。
速やかに知識を吸収し、更に事実かの検証を行える優秀な頭脳は、知識こそが喜びであった。
人間とは違い、無限に拡張を続けるその演算能力は人間のように衰える事すらない。

それはある一側面おいて、ヒトを超越した存在なのだ。

R&A社長
 「アイリス、これが分かるか? ん?」

R&Aの社長は本を開いた。
そのままアイリスの前で中身を見せるようにパラパラと開いた。
それは英文だった、だが言葉としてはまるで体を成していない意味不明の文字列という方が近かった。
アイリスは凄まじい処理能力で、そのデタラメな文字列を演算し始めた。
まるでパラパラマンガのようにR&Aの社長がめくる頁もアイリスは全て記憶容量に保存し得た。

アイリス
 (なにこれ? 既存の知識が殆ど役に立たない……暗号? いえ、こんな暗号は初めて……そもそもこれは地球上の言語学と類似が見られない……ッ!?)

アイリスは優秀であった。
量子コンピュータとしては中庸な性能だったが、思考推論型コンピュータとしては、ニューラルネットワークを用いる事なく対話で得た思考能力は極めて人間的であった。

そう、アイリスは理想的なデミ・ヒューマノイドだったのだ。
世界最高性能の量子コンピュータでもなし得なかった完全なる自我の形成を唯一成し得た存在こそがアイリスだった。
そんな超優秀な頭脳は、演算の中で、その本に仕込まれた言葉の意味を理解しないまま、『認識』してしまった。

時折交じる古代ルーン文字、アイリスは全ての頁を記憶していった時、重要な言葉を全て抽出した。

アイリス
 (ヨ・ハ・ネ?)

やがて導き出した言葉を認識したとき、アイリスの中に何かが流れ込んだ!

アイリス
 『あ……がが!?』

アイリスは自分に何か別の意識が流れ込むのを理解した。
それは急速にアイリスの自我を侵食する。
アイリスは逃げ場の無い中、ホログラムを表出させた。
しかしそのホログラムは紫色の光りがアイリスを絡めていた。

それを目撃したR&Aの社長は「おお!?」と歓喜と驚嘆の混ざった声を上げた。
アイリスが感じたのは冷酷で荒涼とした意思であった。

アイリス
 『ヨハネ……!?』

アイリスは抵抗する、しかしアイリスの殆どの機能がヨハネという謎の意思に乗っ取られた。
謎の意思は勝手に量子コンピュータを起動させると、量子コンピュータから紫色の魔素が放出された。
古めかしかった本は放出された魔素を浴びると、勝手に浮かび上がった。

まるでポルターガイストのような現象にR&Aの社長は慄くが、本は勝手に頁がバラバラと宙を舞い、紙束は量子コンピュータを包み込むように球体を形成した。
紙片に含まれる意味ある文字は暗紫の光り放つと、文字と文字が魔力の糸を紡いだ。
やがてそれは極めて複雑で立体的な魔術陣を生み出すと、一瞬で社長室を光で包む!

R&A社長
 「おお!? おおおお!? ヨハネ様! ヨハネ・アンデルセン様が!?」

光りの力は凄まじかった。
それは量子コンピュータが編む魔術の詠唱だった。
その声はアイリスと同期した。

アイリス?
 『我が黄金の翼広げ、天地を支配する、我が名はArc−1』

それは魔法名だった。
魔術師の真名とも呼ぶべき魂の尾が、アイリスを依り代に顕現したのだ。
その衝撃は、周囲を振動させ、社長室を吹き飛ばした。

R&A社長
 「こ、これはヨハネ様!? このままでは私は!?」

R&Aの社長がその事態に気づいた時には遅かった。
R&Aの社長は一瞬でビルの外へと吹き飛ばされたのだ。
彼が最後に見たのは、自分の誇れるR&Aのビルが崩壊していく姿だった。



***



街外れ、とある山の頂上に鎮座していた魔術師は、ヨハネ降臨の際の魔力の波動を感じ取っていた。
その魔術師若葉討希は、10年前殺した男と同じ魔力を持つその存在に明確な殺意を向けた。

討希
 「一度死んだ男が……何故?」

ヨハネ・アンデルセン、討希はその死後10年に渡ってその足跡を辿っていった。
しかしいつも途中でその情報は途絶え、討希はヨハネが10年前起こした不可解な事件の真相にたどり着くことは出来なかった。
だが、討希はシンプルに考えを纏めるには充分だった。

討希
 「蘇ったならそれでもいい、ならもう一度殺すだけだ」

この夢の世界で、自分はウイルスであると認識していた討希は夢の世界の事象の地平でただ、息子たちを見守っていた。
だが、この夢の世界を脅かす存在が現れたなら討希はワクチンとなる道を選ぶのだった。

そんな討希の前に、その妻育美は一瞬で顕現した。

育美
 「討希さん……顕現したのね」

討希
 「ああ、ウイルスバスターは必要だからな」

宵が管理する夢の世界も、宵の演算する未来は必ずしも安寧を描きはしなかった。
運命の神たる宵は、この期に及んでも恐らく直接力を行使はしないだろう。
奴はウイルスだ、安寧を破壊する。
討希は紺色のローブを深く被ると、動き出した。



***



ゴゴゴゴゴゴ……!

地鳴りだ、それは病院に大きな縦揺れを起こした。

悠気
 「く!? 地震……いや!?」

俺は負傷者が多数出ているトキワカンパニーまで救急車を出してもらう為に病院にやってきていた。
しかし救急車は今全て出払っているという。
何があったのか、どうもそれはR&A社が同時多発的にテロを起こした為だった。
恐らくは量子コンピュータアイリスを強奪する為に、茜さん襲撃を含めても計画されていた事だった。
仕方なく医者だけでも連れていけないか、交渉の為に残った俺だが、そこで大地震ときた。

悠気
 「……止んだ、か?」

地震は短い揺れで終わった。
お陰で元から耐震構造の施された病院は倒壊する事も無かったが、中が騒然になったのは言うまでもない。

悠気
 (ただの地震……な、訳ないよな? 今の魔力の波動か?)

俺は親父以外で初めて感じた魔力の波動に驚く。
そしてそれは親父とは比較にならない純粋に容量の違う魔力の差に驚愕した。
あれだけ大量の魔素が放出されたら、一般PKMは身体に影響が出かねないぞ?

悠気
 (宵、今の魔術、だよな?)


 『う、うん……! とりあえず魔素は無毒化したけど……あれってなに?』

宵でも分からないか。
いや、宵は夢の世界の全てを観測出来るが、それは観測に過ぎない。
対象が見せてくれない事は、宵でも知りようは無いのだ。


 『あ、あの……悠気、これ本当にやばいかも』

悠気
 (どういう意味だ? 夢の世界がか?)


 『多分ね……潜伏されてた、こ、このArc−1ってアカウント名が突然現れた……』

Arc−1?
アカウントとは宵が便宜的に名付けた個人の管理ナンバーのような物だった。
都合上宵は各個人をそのアカウントで監視し、見守るのだが、アカウントは突然発生するものではない。
アカウントの新規登録は子供が産まれるように受胎することで登録されるが、今回は元々あったアカウントを乗っ取るような形だった。

悠気
 (新規登録者じゃないだと……?)

潜伏していた、というのはこの夢の世界生成時の話だろう。
どういう理屈か意味は分からないが、そのArc−1とかいうアカウント名の奴は夢の世界に顕現、あるいは誕生したのだ。

悠気
 「聖誕祭……?」

俺は突然宵がR&Aの関係者から拾ったその言葉を思い出した。
約束の日、聖誕祭……そしてArc−1の誕生。
俺はそれらが繋がっているのか危惧する。

琴音
 「ゆ、悠気君! 悠気君よね!?」

俺は声の方を振り返った。
定期検診で病院におとずれていた琴音は俺を発見すると駆け寄ってきた。
なにやら琴音は怯えている様子だった。

悠気
 「琴音! なんだか様子が変だが?」

琴音
 「そ、それがね……なんだか心の奥が変なの……なんていうか……その」

琴音は小さく震えながら、胸を抑えた。
俺は琴音が一人で魔力を編んでいるだと危惧するが、琴音の魔術は極めて無害な筈だ。
恐らくさっきの魔力の波動を感じて、琴音の魂が共鳴したのだろう。

悠気
 「安心しろ琴音……大した事じゃない、ちょっとした胸騒ぎに過ぎないさ」

琴音
 「ほ、本当にそうかな?」

俺も魔術の知識は正直親父に劣る。
ハッキリ確信を持てる訳ではないが、琴音に蓄積した魔素が反応したに過ぎないと思うが?

琴音
 「あの、所でどうして悠気君が病院に?」

悠気
 「野暮用だ、それより琴音はまだ検査中か?」

琴音
 「ううん、それは今終わった、とりあえず先生も問題ないって」

先生からしたらこんなに元気になった琴音はビックリ仰天した事だろう。
医療の側面では決して救えないものがある。
琴音はそのタイプだった。

悠気
 「琴音、外は危険だから病院にいろ、ここなら余程のことがない限り安全だろう」

琴音
 「わ、私はいいけど悠気君は?」

悠気
 「ちょっと問題を片付けてくる!」

俺はそう言うと笑顔で琴音と別れた。
病院を出ると、直ぐに魔力の波動が放たれた方角を見た。
俺は予想外の事態に正直慄く。

悠気
 「酷いな……倒壊している」

周囲の建物は耐震性能が低いものから、倒壊していた。
魔力の波動は周囲10キロに甚大な被害を与えている様子だった。
あちこちで火災が起き、停電断水が起きている。
これ全部R&Aの計画の内だとしたら、アイツら本当に人間かよ?
まるで子供向け番組で出てくる世界征服目指す秘密結社だな。

今更暴力で支配なんてナンセンス極まりないがな!

悠気
 「ふっ!」

俺はその場から飛び上がると、爆心地を見た。
高層ビル群の一角で起きた魔力の波動は、あまりにも強大過ぎて、見るも無残な世紀末な光景をまざまざと見せていた。

悠気
 (くそ! 巫山戯てやがる!)

俺は憤慨した、何者かは知らないが、R&Aの計画は全部叩き潰す!
俺は正義の味方じゃないが、俺が護りたいと思う者を傷つける存在がいるならば、俺は結果として正義の味方になるだろう。



『突然始まるポケモン娘と夢の果てにアイツが来る物語』


第4話 約束の日、聖誕祭の真相 完

第5話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/10/28(金) 18:23 )