第2話 常葉茜
瑞香
「ふんふんふーん♪」
瑞香は上機嫌に手を振って歩いていた。
本人からすればデートという事で張り切っているようだが、俺はというと平常運転だった。
そもそも気分の盛り上げ方とか全然分からないし、俺は瑞香が幸せならなんでも良いとさえ思っている。
とはいえ瑞香に合わせろと言われたら、流石に俺も困惑するだろうが。
悠気
「いつものゲーセンでいいか?」
俺は淡白にそう言うと、やはりというか瑞香は不満顔だった。
どうも瑞香はもっとイチャイチャしたいという欲望がずっと見え隠れしていた。
瑞香
「ねぇ? もうちょっとさぁ? 折角女の子と二人っきりなのよ?」
悠気
「苦手なんだよ……そういうのは」
瑞香としてはもっと頼れる俺がいいのかも知れない。
とはいえ今更俺がそんな絵に描いたラブコメ野郎になれるかって言ったら無理だ。
改めて人生ハードモードに考えすぎて、人生の諸行無常観を得てしまったのは損だったな。
ここが理想の叶う夢の世界というのを勘定しても、俺という個人の性格まではままならん。
瑞香
「はぁ……まぁ情熱的な悠気とか期待した方が馬鹿なんだろうけど」
悠気
「……無理難題を」
瑞香
「お父さんに啖呵を切って私達を護ってくれた時は最高に格好良かったのになぁ」
俺が自己犠牲の男なのは嫌でも自覚している。
現実にはヒーローは存在しなかったから、俺が理想のヒーローになるしかなかった。
いや、一般人の考えるヒーロー像に任せるには、現実は艱難辛苦のフルコースで、どうしろというような無理難題だったんだが。
結局の所、俺は全てを賭けるべき場所では迷わず賭けられるが平時はやっぱり怠惰なのだ。
そういうギャップに瑞香は幻滅しているのかもな。
瑞香
「もしかしてつまらない?」
悠気
「なんでそう思う?」
俺は頭を掻いた。
そんなに顔に出ていた程だろうか?
だが瑞香は少し不安そうに胸を抑えた。
瑞香
「だって……あまり乗り気に見えないんだもの……」
悠気
「不安にさせたならごめん、でも俺はつまらないんじゃない、ただ平穏には怠惰になりたいだけなんだ」
そう、平穏だ。
瑞香とこうやって戯れるのはもはや理想と言っていい。
現実ではどうしても得ることが出来なかった理想、それを手に入れる為に俺は燃え尽きたのかも知れない。
怠惰なのはきっとその反動だろう。
瑞香
「そう……ううん、きっと私のわがままね、つい理想の悠気を求めてしまう」
瑞香の言う理想の俺とは、それだけ格好良い俺なんだろう。
だがその理想は必ず破綻する、仮に俺が瑞香の理想を叶えても、きっとユズちゃんの理想からは程遠くなるだろう。
夢の世界は極端に平穏を勝ち取った世界だが、平穏の代償はフラットな世界かも知れない。
悠気
「悪いな理想の俺じゃなくて」
瑞香
「もう、そういう謙虚さはいらないのよ! ほら、せめて手を繋ごう?」
瑞香はそう言うとリードするように手を差し伸べた。
俺は断る理由も無いので、その手を掴むのだった。
瑞香
「やっぱり……敵わないなぁ、手も悠気の方が大きい」
悠気
「俺は男だぞ? 諦めろ」
瑞香
「そう、私は女……やっぱり女なのよね?」
俺は瑞香の考えている事が分からなかった。
瑞香は何か己に整理をつけたようだった。
瑞香
「ねぇ中学生までは私のほうが運動能力も上だったでしょ? 背だって極端な差なんてなかった」
悠気
「そうだな、だからこそ瑞香は陸上部なんだし」
瑞香と初めて出逢った中学校入学の時、瑞香は殆ど今と変わらない少女だった。
根っからの陸上少女であり、性格も竹を割ったような快活なもの、俺のような根暗とは住む世界がそもそも違っていた。
だが流石にあれから6年、俺は背も伸びたし、運動神経でも瑞香には負けていない。
瑞香
「私やっぱりもうしおらしくなるべきかもねぇ?」
それは諦めだった。
俺は瑞香が自らの意志で自分を変えようとしているのだと実感する。
それはある意味で当然なのだが、長く時が止まったように自分の生き方を諦めた俺には意外だった。
悠気
「大人になるんだな……」
瑞香
「ま、悠気みたいにいきなり大人には無理だけどね?」
瑞香はそう言うと「にはは」と笑った。
俺が大人か、俺は苦笑する。
俺は子供だよ……大人の気持ちを理解しようと頑張っているが、大人は現実ばかりで理想を吐けない。
俺はもしかしたら一生大人になれないのかも知れない。
瑞香
「よし! 今日は遊ぶぞ!」
瑞香は見えてきたゲーセンに向かって俺の手を引っ張った。
結局言葉とは裏腹に瑞香は俺を引っ張り回すのだろうな。
***
一応家には帰りが遅くなることは連絡した。
ゲームセンターで遊んだ俺と瑞香は休憩中だった。
瑞香は体感ゲームを好むから疲れるのだ。
瑞香
「あはは♪ ユズ怒ってる!」
瑞香は自分の携帯端末で勝手にデートしている事をユズちゃんに報告して、ユズちゃんは抜け駆けに怒っているようだ。
正直笑っている場合じゃない気がするが、瑞香は勝者の余裕だった。
瑞香
「ちょっとお腹空いたわね〜」
悠気
「帰るか?」
瑞香は「うーん」と顎に手を当てた。
正直まだ遊び足りないという感じか。
瑞香
「折角だから外食しない?」
悠気
「あまり乗り気はしないが」
瑞香
「奢ってあげるわよ! たんまりバイト代貯めてるんだから!」
瑞香はそういえば結局バイトをずっと続けていた。
元々一人暮らしの生活費の為にバイトしていたが、今や家賃に関しては問題がなくなったので、彼女は好きでバイトを続けたようだ。
悠気
「無駄な浪費もどうかと思うぞ?」
瑞香
「もう! この守銭奴め! モテないぞ!?」
今更誰にモテたいと思うのか。
生活費の意味を知る俺は自ずと倹約家になっただけだ。
瑞香は浪費癖が無いわけじゃないからな。
悠気
「食べたいなら俺が作ってやる」
瑞香
「え? 悠気が? うぅん……?」
瑞香も俺の腕は知っているだろう。
俺も練習に練習を重ねて料理の腕は大分上がってきた。
まだまだ超一流には敵わないが、瑞香を満足させる事なら可能な筈だ。
瑞香
「ち……主夫ね」
悠気
「一体どこに舌打ちを!? ほら、食べたい料理言ってみろ? ついでにスーパーに寄るがな?」
瑞香
「じゃあオムライス……とか」
オムライスか、満漢全席のような無理ゲー言われたらどうしようと思ったが、意外と普通だったな。
悠気
「因みに理由は?」
瑞香
「あれって、めっちゃ料理人の腕に左右されるらしいじゃん? その検定!」
オムライスは形は勿論、焼き加減や盛り付け方、そして当然味に至るまで料理人のセンスが問われる料理だ。
洋食の基本でありながら、それを極めたプロは少ないと言われる程奥が深いからな。
悠気
「いいだろう、見極めさせてやる!」
俺は自身満々そう言った。
瑞香その言葉に満足すると立ち上がる。
俺達はゲーセンの出口に向かった。
瑞香
「あっ」
ふと、瑞香があるレトロゲームコーナーを見て足を止めた。
釣られて俺も足を止めると、古い対戦格闘ゲームで遊ぶ、中学生位のイーブイ娘がいた。
ていうか……?
悠気
「常葉か?」
常葉?
「うん?」
そのイーブイのPKMは俺の呟きに反応して振り返った。
俺は現在二年の常葉命かと誤認したが、そのイーブイ娘はおっとり顔の常葉によく似た女性だった。
常葉?
「私は常葉茜だけど……貴方は?」
瑞香
「え? じゃあもしかして命のお姉さんとか?」
瑞香の奴、考えてみれば常葉の知り合いなのか?
いや武芸百般を地で行く常葉の事を考えれば、陸上部でも噂されていても不思議じゃないか。
俺も一度剣道部の代理をする彼女を見た事あるが、常葉命自身は生粋のナードだからなぁ。
茜
「あ、私は母です、命は娘よ?」
瑞香
「えっ? 母親ー!? 若!? 何歳!?」
瑞香が相手の素性に驚くと、茜さんはクスリと微笑んだ。
正直俺も驚いたわ、中学生と誤認したぞ?
茜
「年齢は内緒、うふふ」
このママさんはそう言うと唇に人差し指を乗せウィンクした。
とりあえずこの人孕ませた父親はロリコンではないだろうか?
まぁ合法ロリという奴なんだろうが。
瑞香
「えと、時々見かけますけど、いつもレトロゲーム遊んでいるんですか?」
茜
「ん、レトロレトロって言うけど、15年前顕現した私からしたら充分最新ゲームだよ」
おっと、当然といえば当然だがこの人第一世代だもんな。
第一世代にとってこの世界に顕現した当時はまさにカルチャーショックだったろう。
現代人目線では古臭いレトロゲームも、そもそもその歴史を知らない第一世代にとっては最新ゲームに等しかった訳だ。
茜
「それにレトロゲーム馬鹿にしてるみたいだけど、面白い物は何年経っても面白いわよ?」
悠気
「その通りですね、本だって面白い物は百年前のものでも面白い」
俺もそれは肯定する。
良いものは良い、宵だって古い漫画でも気に入っていたからな。
瑞香
「そんなもんかー」
瑞香からすればそれでも茜さんは正常に懐古厨だろうか。
見た目こそ若くて麗しいお嬢様然としているが、列記とした目上だ。
ジェネレーションギャップは避けられないだろう。
茜
「良かったら、遊んでみる?」
茜さんはやや納得していない瑞香に席を譲るようにそう言った。
瑞香は「えーと」と迷ったように俺を見た。
俺はどちらでも良かったが良い機会でもあるか。
悠気
「やってみたら? 良い経験になるかもな?」
瑞香
「……悠気が言うならまぁ」
瑞香はそう言うと茜さんが譲った席に座った。
茜さんはそのまま隣に座りレクチャーするつもりのようだ。
茜
「操作は簡単、左のボタンから……」
瑞香
「いや、やりながら覚えるんで!」
瑞香はそう言うと適当にコインを投入した。
先ずは操作キャラクターの選択だが、瑞香はアメリカ軍人なキャラクターを選んだ。
悠気
「なんでソイツを選んだ?」
瑞香
「なんとなく! フィーリングよ、フィーリング!」
瑞香はそう言うとキャラの動きとか後はプレイしながら覚える気のようだ。
一方茜さんは顎に手を当て瑞香のプレイを見守った。
瑞香
「よっ! ほっ!」
茜
「ふふ♪」
声を出してプレイする瑞香に思わず茜さんは微笑んだ。
俺まで微笑ましくなる光景だが、本人はいたって真剣だろう。
茜
「そのキャラクターは溜めキャラなの」
瑞香
「溜めキャラって?」
茜
「必殺技を使うのにレバーを後ろや下に押しっぱなしにして、技を放つ時に反対に返して攻撃よ」
瑞香は言われた通り後ろを押し続ける。
キャラクターはどんどん後ろに後退すると、やがて画面端を背負った。
やがてコンピュータの操作するキャラクターが接近してくると、瑞香の操作するキャラクターが。
瑞香
「えい! あ、飛び道具出たわ!」
茜
「逆に下に溜めて上と同時にキックボタン、こっちでは別の必殺技が出るからね?」
瑞香は必殺技に味を占めると、積極的に活用しだした。
それでもそれは対戦ゲーム、コンピュータも対応してきたり、瑞香はしばしば押されていた。
瑞香
「うー、コンピ飛び道具を飛び越えてくるのね」
瑞香は試行錯誤しながらなんとか勝ち進んだ。
茜さんはそれを楽しそうに眺めていた、あえてアドバイスは最低限に留めて、必要と思ったら口を出すつもりらしい。
だが、そんな拙いプレイの最中、突然ゲーム画面が切り替わった。
瑞香
「え? ら、乱入!?」
瑞香は戸惑ったが、そのゲームは対面側にも同じゲームがあり、対戦をする事を前提としたゲームなのだ。
ましてそのゲームは古く、乱入を制限するような機能もない。
瑞香は戸惑いっぱなしだったが、やがて対戦相手はキャラクターを決めたようだ。
茜
「同キャラ戦?」
茜さんが少し顔を険しくした。
なんと対戦相手もカラーの違う同じキャラクターだったのだ。
茜
「落ち着いてえーと?」
瑞香
「山吹瑞香です!」
そういえば、自己紹介してなかったな。
茜さんも大して気にしてなかったし、見た目通りフレンドリーな人だったからか。
兎に角瑞香は緊張の面持ちで対戦に挑んだ。
瑞香
「いきなり屈んだ?」
対戦相手はいきなりその場で屈む、対空警戒か?
瑞香は慎重に地上から接近する、しかし!
瑞香
「嘘!? 飛び道具!?」
突然対戦相手は立ち上がると牽制の飛び道具が飛んできた。
瑞香はそれ全く警戒しておらず直撃を貰ってしまう!
茜
「斜め下に入力する事で、どちらの必殺技も出せるの」
瑞香
「そうなんだ……く!?」
茜
(基本戦術とはいえ……この娘のプレイを見て乱入?)
茜さんは一層険しさが増した気がした。
瑞香はあれやこれやしている内にも徐々に追い込まれて、そのまま負けてしまった。
瑞香は落胆するが、無理もない、今日触ったばかりなんだから。
瑞香
「あちゃー、負けちゃった」
茜
「お相手は経験者よ、同じキャラを使えば地力で勝る方が勝つわ……とはいえ」
瑞香が席を立つと、茜さんは迷わずコインを投入した。
乱入だ、茜さんが選んだのは先程と同じアメリカ軍人だった。
瑞香
「茜さん?」
茜
「敵をとってあげる……少々マナーの悪いお客さんのようだし」
茜さんがそう言うと、試合は直ぐに開始された。
相手は最初と変わらず屈んで待つスタイルだった。
しかし茜さんは迷わず進む。
瑞香
「そのままじゃ!?」
茜
「大丈夫」
相手が立ち上がった!
しかしその瞬間茜さんの操るキャラクターがリバースブローを放った!
飛び道具が発生するより早く、攻撃を叩き込んだ茜さんはそのまま相手を押し込む。
茜
「そんなに発生は早くない、当たるギリギリを測れれば強パンチの方が先に当たる、それに」
相手は苦し紛れに弱パンチを連打した。
茜さんは冷静にガードするが、弱パンチのノックバックで徐々に茜さん側が後退する。
弱パンチが空振った瞬間、彼女は飛び道具を放った!
茜
「このキャラは性質上待ちが強いのは事実だけど、結構基本性能が高いのよね」
飛び道具が画面端でヒットすると、そのまま茜さんの屈み強キックが繋がった!
相手は転ぶと、茜さんはその場で屈んだ。
瑞香
「え? どうしてその距離で?」
それは攻撃が届く距離だった。
通常なら茜さんの説明通り、距離を離す方が良い筈だが?
茜
「問題ない、択攻めにどう引っかるかな?」
茜さんはなんだか楽しそうだ。
やっぱりこの人根っからにレトロゲームが好きなんだろうな。
ゲームに画面を移すと対戦相手は強パンチを放った。
ギリギリ届く距離、しかし茜さんは対空必殺技で迎撃した。
地上の相手にも関わらず、その必殺技は相手に当たり、そのまま戦闘不能だった。
茜
「強パンチは当たり判定が腕に残っているから、出始めに無敵のある対空で狩れる、弱パン誘発なら逆に投げられてたけど」
瑞香
「す、すごい……同じキャラとは全然思えない……」
茜さんのスーパープレイは瑞香だけでなく俺も絶句だった。
茜
「まぁ、持ちキャラじゃないから、そこまで芸術プレイは自信ないけど」
悠気
「持ちキャラじゃない人がなんで技の発生とか当たり判定とか知ってるんですか?」
茜
「キャラ対策は対人戦において基本だよ?」
さも当然というように茜さんは答えるが、そりゃ瑞香とはレベルが違うわ。
茜さんは多分全キャラ使える、その上そのキャラにどういう反応を返せば勝てるか熟知している。
こんな人に並の相手が対戦相手に務まる訳がない。
茜
「ん……国へ帰るんだな、お前にも家族がいるだろう」
茜さんはそのまま2ラウンド目も完勝し、軍人の勝ちゼリフで締め括った。
瑞香
「茜さん、もしかしてプロゲーマーですか?」
プロゲーマーと疑ってしまうレベルなのは確かだが、茜さんは首を振った。
茜
「アマチュアよ、プロは仕事にしなくちゃならない、けど私は趣味で講じているだけだから」
悠気
「娘さんはプロゲーマーを志しているようですが?」
茜
「命は命、私は私よ……娘がやりたい事なら母親として応援するだけ」
瑞香
「勿体ないなぁ、親子そっくりプロゲーマーってなったら、間違いなく有名人になるだろうに!」
瑞香ならそう思うだろうが、俺は逆だった。
俺なら静かに好きなことして暮らしたい。
なんとなくだが、表舞台には上がろうとしない茜さんの生き方は共感出来た。
茜
「そういえば、そっちのイケメン君は?」
悠気
「そんな格好良いものではないですよ、俺は若葉悠気と言います」
茜
「若葉……? ああ、そういうこと」
茜さんは若葉という姓にピンとくるものがあったようだ。
もしかして母さんと知り合いか? しかし茜さんは微笑むだけで深くは突っ込まなかった。
茜
「ふふ、久し振りに君たちみたいな若者とお喋り出来て楽しかったわ」
瑞香
(茜さんも充分若く見えるのよね〜?)
悠気
(見た目詐欺だよな)
茜さんはまるでおばあちゃんのような反応を返して立ち上がる。
一通りゲームをクリアしたようで、そろそろ帰るのだろう。
瑞香
「て、あ!? オムライスの約束!?」
悠気
「しまった……失念していた」
俺は瑞香にオムライスを振る舞う約束をすっかり忘れていた。
つい知り合いに似ていた女性を見つけて注意が完全に逸れていたな。
茜
「オムライス? 若葉君が作るの?」
悠気
「ええ、そうですが?」
茜
「良い主夫になるね?」
茜さんは主夫になる俺を想像したようだ。
主夫か、実際そんな未来図はありありと思い浮かべられた。
とはいえ、未来の事か。
悠気
「未来は分かりません、まだ何をしたいのかも分かりませんから」
茜
「ん、それでいいと思う、可能性のキャスト達よ」
キャスト? 不思議な物言いだな?
茜さんはそのままゲーセンの出口に向かった。
茜
「貴方達も早く帰りなさいね?」
瑞香
「はーい! 今日はありがとう御座いましたー!」
俺達もゲーセンを出ると、手を振って別れた。
そんな時、突然彼女が声を掛けてきた。
宵
『今の人……なんだか記憶にあるんだけど?』
悠気
(茜さんを知っているのか宵?)
随分久し振りだが、宵は茜さんを知っているのか、頭を捻って唸っていた。
相手がどんな大物だとしても他人は他人、そこまで気にする事じゃないと思うが。
宵
『なんだか気になるの……杞憂だといいけど』
悠気
(杞憂?)
気になる言い方だな。
理である宵が不安になる何かが茜さんにはあるのか?
俺は少し沈思黙考すると、決断した。
悠気
「瑞香、先に家に戻っててくれるか?」
瑞香
「え? それはいいけどアンタは?」
悠気
「野暮用だ! すぐ戻る!」
俺はそう言うと神速でその場から飛び去った。
宵の杞憂、しかしそれは物凄く引っかかるのだった。
俺は上空から茜さんを探す。
まだそんなに遠くには行っていない筈だが?
『突然始まるポケモン娘と夢の果てにアイツが来る物語』
第2話 常葉茜 完
第3話に続く。