エピローグ 夢の果てのアイツが来る
チュンチュン……チチチ!
悠気
「……ん!」
朝の日差しが部屋に差し込む。
俺はそっと目を覚ました。
俺はやや気だるくなりながら、ベッドから起き上がる。
?
「おはよう御座いますユウ様!」
俺はいつものように部屋に鎮座していたジュナイパーのメイドさんを見た。
真理恵さんは今日も俺の寝起きを守っていたらしい。
ゴーストタイプの性か、夜行性だもんな。
悠気
「着替えます」
真理恵
「手伝います!」
俺はこれまたいつものように真理恵さんを部屋から押し出した。
?
「相変わらずねー? いっそそのまま朝勃ち処理して貰えばいいじゃない?」
悠気
「黙れ! 流石にその勇気はない!?」
俺は窓の外から聞こえた声に反応した。
カーテンを開くと、そこには家が建っていた。
そのまま渡れる程隣の家は近く、その家に彼女は住んでいた。
悠気
「おはよう、宵」
宵は既に学生服に着替えており、少し照れくさそうにそっぽを向いた。
宵
「おはよう……ふん! モテモテ野郎め!」
クレセリア娘の月代宵はそう言うとそのまま部屋を出て行った。
俺は苦笑すると着替えるのだった。
***
瑞香
「おはよう〜、ふあ!」
朝飯の時間になると瑞香が階段を降りてきた。
まだ身嗜みを整える前で、瑞香は真っ先に洗面台に向かった。
柚香
「お姉ちゃん、直ぐご飯だからねー!?」
今日はユズちゃんが当番なのか、エプロンを着て、朝ごはんの準備をしていた。
俺はテレビでも見ながら揃うのを待つのだった。
みなも
「ロケットカンパニー、破産申請ですか」
テレビでは大企業ロケットカンパニーが倒産した事をニュースで報道していた。
相次ぐ業績赤字に幹部の不正等、擁護不能の状態に陥っていたようだ。
俺はそれを流し目で見ながら、その意味を探った。
悠気
(ヨハネ・アンデルセンが存在しなくなった事で、R&Aにはならなかった訳か……)
ロケットカンパニーとは昔の社名だったという記憶だったが、肝心のエンジェルを失ったら業績まで落とすとはな。
最もあの裏切りのエンジェルがいなくなったお陰で命まで失う社員はいなくなったようだが。
悠気
「天下泰平……それが一番だな」
俺はそう呟くと、後ろから頭を叩かれた。
叩いたのは瑞香だった。
瑞香
「なーに、老けてんのよ?」
柚香
「お姉ちゃん! 叩くことないじゃない!」
瑞香
「もう癖よねー」
瑞香はそう言って自分の手を見る、もう暴力性は諦めたようだ。
俺もそれも含めて受けれているからな。
今更瑞香の暴力など動じるものか。
真理恵
「そろそろ朝ごはんか?」
外に出ていた真理恵さんが戻ると朝ごはんの準備は終わった。
だが、もう一人揃っていないんだよな。
俺はある少女が来るのを待った。
すると玄関から彼女は来た。
宵
「おじゃましまーす」
俺は宵が来たのを確認すると彼女の席を確保した。
宵は少し遠慮しながら席に座った。
全員座ると俺が号令を出した。
悠気
「じゃ、皆さん頂きます」
***
ワイワイガヤガヤ!
琴音
「おはよう! 悠気君、宵さん!」
教室につくと、琴音が早速挨拶してきた。
宵はやや遠慮気味に琴音に挨拶する。
宵
「う、うん琴音、おはよう」
悠気
「おはよう琴音」
宵はある程度挨拶を済ませると、自分の席に向かった。
琴音はそんな宵を気にしていた。
琴音
「やっぱり宵さん、元気ない?」
悠気
「アイツはアイツで色々あるのさ」
俺深くは気にしないでおく。
宵は宵なんだから。
***
幸太郎
「そういえば悠気、お前進路は決まったか?」
ある休み時間、幸太郎が思い出したように進路の話をした。
悠気
「とりあえず製菓学校を受けてみるつもりだ」
幸太郎
「ほう? 製菓学校、パティシエか」
瑞香
「いいわよねー、才能ある人って、私は就職ねー、流石に大学行く金は無いしー」
瑞香はバイトで貯金を増やしているが、あれは生きるためというより、本人からすれば趣味のようなものだった。
流石に大学となると一人では学費が厳しいというところか。
琴音
「私音大だから、皆バラバラだねー」
悠気
「そういう幸太郎は?」
幸太郎
「全日本柔道選手権が終わってからだな」
幸太郎は相変わらず柔道一直線で、今年も全国大会への出場キップを手にしていた。
柔道部主将らしく、有終の美を飾れるか?
瑞香
「そういえば宵はー?」
宵
「え? 私?」
一人自分の席で必死に教科書を開く宵は話半分だが聞いていたようだ。
だが、宵は困ったように顔色を曇らせる。
宵
「私の場合まず卒業の方が問題だし……」
宵の学力はギリギリだった。
三年にはなんとか上がったが、そもそも選べる進路なんてそう多くもない。
瑞香
「なーに! 私だってなんとかなるんだから、宵なら余裕、余裕!」
宵
「うぅ、瑞香は才能あるだけだよ〜」
宵は馬鹿じゃない、でもハンデも多い。
俺だけはそれを知っているから、深くは言わなかった。
これは宵が自分でなんとかしたいって思ってるからでもあるんだが。
***
放課後帰宅部は直ぐに帰る事になる。
瑞香はバイト、幸太郎は柔道部で、琴音は吹奏楽部だから、三年だと俺と宵は帰宅部だ。
俺と宵は真っ直ぐ二人で帰った。
俺たちの口数はそれ程多くない。
悠気
「なぁ宵? お前楽しいか?」
宵
「え? なにを突然?」
悠気
「理である宵を無理矢理顕現させているってのは自覚している……本当は嫌なんじゃないか?」
俺は真剣な声で宵に聞いた。
宵は少し考え込んだ。
宵
「悠気、こっち来て」
宵は突然走り出すと、ある古寺の石段を駆け上がった。
そこは俺と宵にとってある意味最も重要な場所だった。
宵
「悠気ー! 速くー!」
宵は境内から呼んだ。
スカートがヒラヒラと風に揺れ、見えるか見えないかだな?
俺は急いで追いかけるのだった。
悠気
「で、どうなんだ?」
宵は俯くと、少し間を置いて答えた。
宵
「好きだよ、楽しいし、皆とお喋りできて嬉しい……でも」
悠気
「でも?」
宵
「ちょっとずつ会話についていけなくなったり、私だけ卒業怪しかったり……それが辛い、かな? 」
俺はそれを聞いていた鼻で笑った。
だがそんな態度が気に食わない宵は顔を膨らませる。
宵
「わ、笑わないでよ! これでも真剣なのよ!?」
悠気
「あのなー? お前コミュ障じゃねぇんだから、そんな陰キャな悩みにうつむくなよ? そんなの当たり前じゃないか?」
宵の悩みはあまりにごく普通だった。
ああ、やっぱりそうなんだな……宵は理だ、万物の創造さえ行い、未来を見守る運命の神。
だけど彼女は普通に喜怒哀楽を持つ、普通の女の子だ。
宵はそんな当たり前の自分に苦しんでいた。
宵
「うぅ、だって瑞香ちゃんや琴音ちゃんに最新の話題振られても答えられないの、女子として終わってるよ? うわ、この女子ダサ〜って言われるの一番ショックなんだから!?」
悠気
「そんな細かい事イチイチ気にするな、お前はお前らしくしていろ」
俺はそう言うと宵の頭を撫でてやった。
宵は大人しく撫でられると頬を赤らめた。
宵
「私らしく? いいの? 食べるの大好きだから太るよ?」
悠気
「でもそんな太った君が好き」
宵
「ば、馬鹿だから一杯迷惑かけるよ!? 勉強教えてほしいし! 家事だってもっと一杯知りたいし!」
悠気
「なんでも教える」
宵
「一杯、甘えちゃうかも……」
宵は顔を真っ赤にすると、もじもじと身体を揺すった。
俺は迷わず宵を抱きしめた。
宵は素直になると、俺の背中に手を回した。
宵
「もう馬鹿、愛してる」
悠気
「俺は馬鹿さ、大馬鹿さ……俺も愛してる」
俺たちは愛を確かめあうとギュッと抱きしめる。
ああ、こうして愛し合って、俺達は生きていくんだな。
でも大丈夫だ、未来はきっと明るいから。
宵
「そういえば、育美さんと討希さん、旅行いつ帰って来るんだっけ?」
悠気
「世界一周旅行だからなぁ?」
ヨハネが消滅した結果、親父は魔術師に戻る理由が無くなった。
残念ながら宵の両親に関してはヨハネに関係なく死ぬ運命だったようで、この時代に生きてはいないが、俺の両親はラブラブな気ままに旅行中だ。
時々ビデオメールが届いてくるが、もしかすると弟か妹が出来るかもなんて言ってた位だからなー。
宵
「ふふ♪ 卒業したら私も旅行したいなー」
悠気
「それいいな、一緒に行くか」
宵
「あ! 勿論皆誘ってね!?」
俺は苦笑する、なんなら新婚旅行でも良いって思っていたから、まさか普通の旅行を想像していたのか。
やれやれ俺の気が早すぎるのかね?
悠気
「オーケー! 皆で見積もり建てて旅行行くか!」
宵
「うん♪」
俺達は石段を手を繋いで降りていった。
宵もすっかり笑顔で、やっと可愛らしくなったな。
この世界もこれから色んなことが起きていくだろう。
それでももう宵を困らせるような事態には俺がさせない。
こうして俺と宵の物語はお終いだ。
この先はどうなんだって?
さて、それは想像に委ねるって事で♪
それじゃさようならだ♪
突然始まるポケモン娘と夢の果てにアイツが来る物語 完結
エピローグ 夢の果にアイツが来る 完
突ポ娘U 完