突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第三部 突然始まるポケモン娘と夢の果てにアイツが来る物語
最終話 愛を取り戻せば



Arc−1はその時、たしかに見た。
悠気と力と力を極限にぶつけ合う中で、月代宵の姿を。
Arc−1は法悦の極みだった。
悠気を徹底的に追い込み、痛みつける事は彼が産まれた時から計画していたことだった。

そう、Arc−1、ヨハネ・アンデルセンとは月代宵の現実改変の影響で誕生したパラドックスそのものであった。
Arc−1は悠気の人生に大きな陰を落とした。
悠気が夢の世界を作る為のピースを一つ一つ丁寧に調整し、悠気の精神を追い込む。
それと同時に理たる宵が消滅しないようにArc−1は夢の残骸として宵を護っていた。

Arc−1の役割は、全てが悠気にその全てを捧げた歪な神、宵の顕現であった。
その為にトキワカンパニーのアイリスを強奪し、アイリスの特異な性能を持って、Arc−1を夢の世界に顕現させた。
そして目論見の通り、Arc−1は圧倒的な力で悠気さえも圧倒する。
だがこの時点で悠気の勝利をArc−1は『知っていた』。

Arc−1はコアを撃ち抜かれ存在を維持できなくなった。
だが、この時悠気も討希でさえもArc−1の持つ固有の魔術を知らなかった。

Arc−1の魔術とはハッキングだった。
現世ではあまり有効に使える力ではなかったが、夢の世界では無類の強さを発揮するその力は顕現した宵にたしかにアクセスしたのだ。




 「……」

Arc−1は気がつくと、真っ白の空間にいた。
そこが神の世界だと気づくにはコンマ1秒も必要なかったが、目の前には理たる月代宵がいた。
宵は悲しい顔で押し黙っていた。
Arc−1は彼女の目の前で跪いた。

Arc−1
 「ああ、愛しき神よ、その姿ようやく」


 「……」

宵はArc−1を見なかった。
まるでArc−1を畏れているように。
力で言えば、Arc−1では宵には敵わない。
夢の世界に限定すれば、宵は天上の存在だ、神々でさえ宵のルールに従うしかない。
だが、そんな絶対者である筈の宵が何故Arc−1を恐れるのか?

Arc−1
 「その顔、全てを知っているのですね?」


 「っ!?」

宵はArc−1のその言葉に反応した。
そう、宵は全てを知っていた。
これから起きる事は勿論、過去に何があったかさえ宵は理解したのだ。


 「お前は……、理になって何をしたいの?」

宵は知っていた、Arc−1の目的は宵のコアだと。
Arc−1の誕生した理由こそが宵であり、これはその通過儀礼だと宵は知っていた。
だから宵は醜くも抗うような真似はしなかった。
そう、結果を受け入れているのだ。

Arc−1
 「私は完全なる者になりたい……そして運命を正しく導く義務がある」


 「まるで独裁者だね?」

宵はArc−1を皮肉った。
しかしArc−1はその程度では動じない。
Arc−1にとって宵は正に唯一信用できる神だった。
しかし同時に尊い存在でありながら、Arc−1の邪悪さが宵を道具にしか出来ないのだ。

Arc−1
 「なんとでも仰ってください、私は……!」

Arc−1は立ち上がると宵に迫った。
宵は一歩も動かず、抵抗を見せない。
Arc−1はそのまま宵の胸に手を差し込んだ。
宵は苦しそうに顔を歪める。


 「ふふ、哀れね……貴方はキャストを演じているに過ぎない……!」

Arc−1
 「キャスト?」

Arc−1は疑問を覚えた。
何故宵はこうも落ち着いていられるのか?
まるで強姦魔に犯されているように宵は顔面蒼白で怯えているのに、本質的には宵が冷静だと気がついた。
そしてArc−1はその顔を、勝利者のそれだと認識した。

Arc−1
 「不自然だ、何故勝ち誇る?」


 「だって、貴方負けるよ? もう遅いけど……!」

それはまるで死刑宣告だった。
Arc−1はゾクリと恐怖した、しかし今更Arc−1も足を止められない。

Arc−1の腕は宵の中に殆ど入り込むと、Arc−1は宵のコアを掴んだ。
それは宵を神たる存在にする時空さえも演算する魔道具だった。


 「あ、あ……ゆ、うき」

Arc−1は宵を取り込むと、宵は悠気の名を今際の言葉に選んだ。
宵の姿が消滅していくと、Arc−1の姿は変質した。
光の天使はピンク髪の女の子になっていた。
その姿は月代宵の学生の姿そのものだったが、唯一象徴たるクレセリアの羽根は二対の天使の羽根に変質していた。

Arc−1
 「……はは、これで、これで私はもう不完全ではない! Arc−1ではない! 本物のアークなのだ!」

その存在は自分のアカウント名が消滅している事を知った。
そしてその存在は自分をアークと設定する。
理たるアークは感情を剥き出しにし、高笑いを浮かべた。
もはやアークを止められる者など存在しなくなったのだ。

アーク
 「ハハハハ! これが神たる身体! ふん!」

アークは手始めに時空への干渉を行った。
それは夢の世界の時空を振動させた。



***



悠気
 「宵……じゃない!?」

突然眼の前に宵ソックリの女性が顕現した。
しかし俺はそれが宵じゃないと何故か理解出来た。

アーク
 「お初目お目にかかります、私はアーク、神の愛しき者よ」

アークと名乗る女性はそう言うと悠気に恭しく頭を下げた。
一方で討希は怪訝とアークを見る。

討希
 「貴様、ヨハネなのか?」

アーク
 「正確にはヨハネは既にこの世に存在しません、それは記憶の残症に過ぎないのです」

アークは遺恨無礼に討希に説明した。
たしかにその態度はヨハネにソックリだが、ヨハネやArc−1が持っていた傲慢さはもはや感じなかった。

アーク
 「私はヨハネという存在を前身とした新たな理、アークとお呼びください、最も直ぐに私の事など知覚出来なくなりますが」

アークはそう言うと邪悪に微笑んだ。
母さんはそれを誰よりも速く見逃さなかった。

育美
 「何をするつもりです!? 貴方は!?」

アーク
 「ふふ、勿論新しき可能性の創造ですよ!」

アークはそう言った瞬間、夢の世界は一瞬で崩壊した。
俺は暗黒の中に投げ出されると、アークは周囲を見て感嘆の声を上げた。

アーク
 「おお! ご覧下さい! これは全ての可能性が一堂に!」

俺は周囲に力が凝縮された玉が無数に浮かぶ暗黒空間に浮かんでいた。
それは言ってみれば宇宙だろうか、ここは大宇宙のようで、周囲にはマルチバースが浮かんでいる?

悠気
 「アーク! 宵に何をした!? こんな物を見せてどうする気だ!?」

アーク
 「アハハ! 何を仰る! 創造主よ! 幸福の世界を生み出す事こそが私の役割でしょう!?」

俺はアークが不自然だと気がついた。
Arc−1と近い精神をしている筈なのに、所々宵が混ざっている?
しかしその言動は微妙に俺と一致しない。
つまり平行世界の彼と俺を誤認しているのか!?

アーク
 「例えばです! あの世界!」

アークはある世界に触れた。
その瞬間、俺は目の前が一瞬で変わるのを知覚した。



***




 「お兄ちゃん朝だよ?」

悠気
 「え?」

気がつくと俺はベッドで眠っていた。
眼の前にはピンク髪を腰までストレートに伸ばしたクレセリア娘がいた。
俺はその少女を見て、思わず抱きついてしまった。

悠気
 「宵!? お前なのか!?」

それは間違いなく妹の宵だった。
優しく家庭的で、俺の事を誰よりも理解してくれている妹。
妹は俺が抱きつくと照れくさそうに顔を赤くした。


 「もう、お兄ちゃんったら……恥ずかしいよぉ」

悠気
 「あ、ああ……ごめん」

俺は慌てて宵から離れた。
宵はよく見ると学生服だ、ああ、そうか今日は平日か。

悠気
 「宵、お兄ちゃん着替えるから部屋を出てくれ」


 「うん♪ 二度寝しちゃ駄目だからね?」

宵はそう言うと笑顔で出て行った。
俺はその間に服を着替える。
だが、唐突に扉が外から開かれた。
俺は着替えの途中であり、ドッキリして叫んだ。

悠気
 「着替え中って言っただろ宵!?」

しかし扉を開けて中に入ってきたのは妹ではなかった。
そこにいたのはジュナイパーの女性だった。

真理恵
 「はーい♪ 着替えをお手伝いさせてくださーい♪ ユウ様ー♪」

俺は「え?」と顔を凍らせた。
いや、だって……それは間違いなく真理恵さんなんだ。
でもなんで真理恵さんが妹と共存している?
いや、そもそもこの真理恵さん……なにか違う?

ドタドタドタ。

騒がしくしていると、階段を登る音が聞こえた。
今度こそ宵だった。


 「もう! またなの真理恵さん!?」

真理恵
 「あ、宵様、えへへ♪ ユウ様にお着替え手伝うのもメイドの仕事ですから!」

俺は呆然とする、宵と真理恵さんは既知の存在として面していた。

悠気
 「な、なぁ真理恵さんはどうして?」

俺は顔を青くして真理恵さんの事を宵に聞いた。
しかし宵は不思議そうの眉を顰めて言った。


 「真理恵さんがどうしたの? もう10年来じゃない」

悠気
 「は、はぁ!? 真理恵さんいつからいるんだよ!?」

真理恵
 「正確に言えば13年ですかね? まだ私がフクスローの頃からですねー♪」

俺はあ然とした。
俺の全く知らない歴史だった。
だが……。



***



みなも
 「あらユウ様……おはよう御座います」

1階にはみなもさんもいた。
真理恵さんとみなもさんが存在し、それでいて妹がいる世界だった。

悠気
 (なんだよ……)



***


瑞香

 「悠気ー、ヤッホー♪」

柚香
 「あ、悠気さんおはよう御座います♪」

通学路ではいつものように山吹姉妹が仲良く登校していた。
二人の仲は良く……それ以上に明るい顔だった。

悠気
 (なんなんだよ……)



***



琴音
 「悠気君♪ 一緒に教室行こう?」

学園につくと、元気な姿の琴音がいた。
琴音は魔素に冒されることもなく、健康な学生として過ごしていた。

悠気
 (なんだってんだよ……!)



***



この世界は驚くべき程、平和だった。
冗談みたいに、誰も不幸にならず、皆幸せになれてる。
それがどれだけ尊くて、どれだけ苦難の末だったか、俺が知らない訳が無いだろう。
だが……!

悠気
 「こんなのってねぇぞアーク!? こんな幻を見せてどうする気だ!?」

俺は気がつくと無数の世界が浮かぶ暗黒空間に戻っていた。
眼の前にはアークが満足気に微笑んでいた。

アーク
 「幻ではありません、あれも可能性なのです」

悠気
 「だが宵がいない! あんなのは欺瞞だ! 俺は偽りの幸せを望んだんじゃない!?」

俺の知る月代宵、彼女は本来なら存在してはいけないジョーカーだった。
妹の若葉宵こそがオリジナルであり、そのフェイクである月代宵がいかにイレギュラーかは知っている。
それでも俺は……!

悠気
 「俺は宵が好きなんだ……あの馬鹿がいるんだ……!」

それはどれだけ世界を探しても居るはずの無い存在だった。
宵はとある平行世界の夢の世界で産まれた特異な存在であり、遍く平行世界を見渡しても存在はしなかった。
俺は血の涙を流すかのようにアークに叫んだ!

悠気
 「宵を返せー!!」

アーク
 「ならば私を愛して下さい、私が宵の代わりになりましょう」

アークはそう言うと微笑んだ。
俺は愕然とする、アークは宵の顔でそう言うんだ。
それは侮辱だった!

悠気
 「ふざけるなー! お前が宵の代わりだと!? 宵に代わりなんているかー!?」

俺は泣きながらアークに殴りかかった!
しかしアークは涼やかに俺の腕をその軟腕で掴むと、キスしそうな程の至近距離で彼女は呟く。

アーク
 「私は誰よりも貴方を愛しましょう、これは尊くはなくて?」

悠気
 「う……く!?」

俺は力を込めて抵抗するが、アークの力は凄まじい。
しかしアークは俺をどこまでもコケにするかのようだった。

アーク
 「もうおよしなさい、そもそも私と貴方が争う理由はないのです」

それは心に突き刺さる宣告だった。
争う理由……本気で言っているのか?
俺はコイツが憎い……!
夢の世界を破壊した張本人、宵の顔をしたアークは、俺の全部を奪っていった。
なのにアークはそれを歯牙にもかけない。
ただ、俺を愛すると嘯く存在は俺の想いを何も理解しているとは思えなかった。

悠気
 「本気でお前は俺を愛すると言うのか……?」

アークはその言葉に「ええ」と極めて明るく可愛い笑顔で返した。

アーク
 「勿論です♪ 悠気さん、だから一緒に……」

俺はアークの手を跳ね除けた。
アークは意外そうに目を丸くした。

悠気
 「お前は宵じゃない……なのに宵を無かった事にするのか?」

俺の心は憤怒と憎悪が綯い交ぜだった。
だが、アークはその時初めて不快そうな顔をしたのだ。

アーク
 「だから宵などもう何処にも存在しないのです、なんなら百万の可能性世界を見せましょうか?」

アークが初めて見せた綻びだった。
アークの中で徐々にだが宵が不快になって来ているようだった。
俺は負けない、その意思だけは絶対に守り抜き、彼女に言った。

悠気
 「百万回? その程度で諦められるかよ! 1億回でも! 1兆回でも試してやる!! 俺がどれほど宵を愛してんのか!!」

俺はガキのような屁理屈、ガキのようなワガママをアークにぶつける。
アークは俺の気迫に慄いた!

アーク
 「ふ、不愉快です! 何故です! あんなもの所詮偶然の産物でしょう!? 私は違います! 私なら遍く世界に、貴方に幸せを……!?」

アークの想い、それはシンプルな想いだった。
その独善的な想いは、それ自体が間違いではない。
だが幸せは人それぞれに違う事をアークは理解していない。

悠気
 「俺を見ろ……!」

アーク
 「……!」

アークは言葉を失った。
アークは必死で俺を理解しようとしているだろう。
それでもアークは俺を都合良く解釈している。

アーク
 「な、何故です……!? 何故貴方は幸せになれない!? そんな筈はない!? 私は完全なる!?」

アークはきっと、悠久なる可能性を試し、そして俺を見ただろう。
だがその結果が無残な事はアーク自身が証明していた。

悠気
 「お前は完全じゃない……いやそもそも完全なる者こそが不完全な幻想だ」

俺の一言は、アークにクリーンヒットした。
彼女はよろよろと、距離を離す。
しかしワナワナと顔を強張らせると叫んだ。

アーク
 「そんな事はない! 私は完全なる存在になったのだ! 現に!」

彼女が力を振るう、すると宇宙の法則が上書きされた。
彼女は独自のユートピアを築こうとしたのだ。
実際その力は凄まじい、宵の力をなんの自重もなく振るえば、あらゆる可能性を引き出せるだろう。
ただ、宵はあえてしない……いや出来ないのだ。

アーク
 「私は遍く世界に救済を! アハハハ! ッ!?」

アークは自己陶酔している。
だが直ぐに芳香とした表情は凍りついた。

俺がいるからだ、憎悪と怨念の塊のような俺は彼女の明るい光に闇を堕とす。
アークの世界を俺は徹底的に否定した。

アーク
 「ああ、見るな……! そんな目で見るな! もう悠気なんて要らない!!」

アークは遂に俺を否定した、その力で俺の隔離を図る。
だが、俺はアークの腕を掴んだ!

悠気
 「いい加減にしろ……宵! そんな奴にいつまで好きにさせる気だ!?」

アーク
 「な、なにを!?」

俺はアークの中にいる宵に呼びかけた。
間違いない、アークは宵をどういう訳かコアにしている。
俺は宵に接触を試みる、うまく行けば宵を取り返せる!

アーク
 「離せ! この!」

アークは4枚の天使の翼を広げた。
その翼からは無数の光が溢れる!
光は全て宵の力で出来ており、触れば存在さえ壊れるか!?

悠気
 「ち!? 無茶がなんだ!?」

俺は全てのプレートを体内から出すと、プレートは複数が相互作用し、特殊なバリアを形成する。
火の玉、雫、緑の三枚のプレートは三位一体の力、そこに龍のプレートを中心に合わせる事で、それは白き波動を周囲に放った!

俺は合わせて4枚のプレートの力で、アークの力を弾いたのだ!
だが、こんなのは時間稼ぎだ!
仕組みを理解されたら、アークは直ぐに対策する!

悠気
 「宵! 巫山戯るのも大概にしろ!」

アーク
 「やめろ! やめろー!?」

アークは翼を振るった!
俺はその力に吹き飛ばされた!

悠気
 「ぐわー!?」

ある種ポケモン的に言えば翼で打つだが、使う相手が使う相手だからまるでギガインパクトみてーな衝撃だな!?

俺は態勢を整えると再び、接触を試みる。

アーク
 「私に近づくな!? 貴方なんて嫌いだー!」

悠気
 「宵ー! お前はどうなんだー!?」

俺は強面、物の怪、鋼鉄プレート三枚を組み合わせる。
この三つの力は鋭利な刃となって、アークに襲いかかった。
だが、アークは簡単に翼で弾き飛ばした!
それで充分、牽制になればな!
俺はその隙にもう一度アークの至近距離に入った。

悠気
 「宵! 俺の声を聞け!」

アーク
 「あああ!」

アークは翼から力を放出した。
それは魔力が混ざっているが、それは宵の力も多分に濃い。
護るだけなら、ギリギリか!?

アークの翼から放たれる白い光の光線は無数に放たれた!
それらはホーミングレーザーのように俺を正確に狙った。
俺は護る為に備える……だが!?

悠気
 「ぐあ!?」

ホーミングレーザーは俺のバリアを貫通した!
俺は全身を貫かれるが、ギリギリで魔術障壁がダメージを減衰させた。

悠気
 「ぐは!? く……!」

俺は全身から血を吹き出し、この危険な状態でも歯を食いしばって堪えた。
アークの力は、やはり規格外だ……だが宵さえ取り返せばアークは存在出来ない。
後は賭けだな、と内心苦笑してしまう。
一方で困惑しているのはむしろアークだ。
アークという自我が徐々に完成しつつある中、アークが宵を否定し続ければ、やがて齟齬が生まれる。
放置していれば、宵の奴人格を消されかねないぞ?

アーク
 「もうやめ、て……」

悠気
 「そりゃこっちの台詞だ、さっさと宵を返せ」

アーク
 「く!? どうしてそればっかり!?」

いい加減にして欲しいぜ……。
宵は宵でなんで反応しねぇ?
アイツは明確な自我を持つ、道具扱いされてもおいそれとコントロール出来るのか?

悠気
 (さてどうする?)

俺は自己再生を使いながら、次の手を考えた。
アークの力は俺の明確な上位互換みたいなもんだ。
今はアーク自身の個性がその戦い方にも違いを発生させているが、そもそも宵はアルセウスのプレート18枚で現実改変の魔力を内包し、それが時空改変の結果を演算する。
平行世界の俺が創った存在だが、基本的には俺と同質なのだ。
俺は彼程の天才ではない、悔しいが妹を目の前で失った彼の執念はどこまでも恐ろしい物だった。

悠気
 (だが、同時に俺は理論的に彼に辿り着けるはず)

彼ならどうする?
宵を創った彼なら、俺以上に仕様を理解している筈だ。
考えろ……改善、改善あるのみ……そこに解はある筈だ。

アーク
 「もう消えろ! 貴方の存在が邪魔なのよ!? なんでそんなに愛されるの!?」

アークはもはや子供の駄々っ子のように言葉を汚く放ちながら、光の波動を放った。
やば!? 次は流石に無いか!?
俺は咄嗟に最大限のバリアを張るが、それは面白い位簡単にパリンパリンと割れていった。
死を予感する中、俺は確かにその時、俺の背中に力を感じた。
いや、力と言うにはそれはあまりにも心弱かった。

俺はその瞬間、そこにはいなかった。



***



真っ白な世界、それは夢の世界に似ているようで、夢の世界ではない。
ただ、何もなく荒涼とした世界に、エメラルドグリーンの髪の少女がいた。

瑞香
 「悠気……アンタがなんであれ、アンタは私の事本気で助けてくれるってのは本当よね?」

悠気
 「ああ……そうだ瑞香」

瑞香は全てを理解していた。
理解した上で、瑞香は自分の腕を掴むと、少し震えていた。

瑞香
 「そう、よね……アンタはやっぱり優しいわ、残酷な位」

悠気
 「残酷?」

瑞香
 「だって本当に私を愛してくれる……なのに一番にはなれない」

俺は少し悲しくなった。
悪気がある訳じゃない、だが俺も半端な覚悟ではない。

瑞香
 「いいわ、その代わり……宵を助けてあげて」

瑞香はそう言うと俺の背中を叩いた。
その瞬間、瑞香は消え、その代わりに現れたのはユズちゃんだった。

柚香
 「私はお姉ちゃんに負けたくなかった……でもそれ以上にお姉ちゃんが愛おしかった」

悠気
 「ユズちゃん……」

ユズちゃんは後ろに現れると、独白を行った。

柚香
 「お姉ちゃんの事を悠気さんが本気で好きになったのは、嬉しくて、でも悔しかった……。そしてそんな悠気さんが一番好きなのは宵さんなんですね?」

悠気
 「ああ」

ユズちゃんは、それを聞くと笑った。

柚香
 「助けてあげてください、宵さんを、私まだ負けてませんから」

俺は頷く、その瞬間ユズちゃんはいなくなった。
代わりに現れたのはみなもさんだった。

みなも
 「ありがとう御座います」

悠気
 「みなもさん?」

みなもさんは胸を抑えると頭を下げた。

みなも
 「本来私はユウ様と接点なんてなかった……なのに私に生きる甲斐を与えてくれたんですね?」

悠気
 「生きる甲斐なんて、大層な事かは分からないけどね?」

みなもさんはクスリと笑った。

みなも
 「宵様は必ずお救い下さいませ、もっと手料理を食べてもらいたいのですから♪」

みなもさんが消えた。
次に現れたのは真理恵さんだった。
真理恵さんは俺を見ると、まず元気に笑顔を見せた。

真理恵
 「私はユウ様に拾われて本当に幸せでした! みなもに比べて全然メイドとして駄目なのに! あんな夢みたいな生活が出来て本当に良かった!」

悠気
 「良かったじゃないよ、これからも続くんだから」

真理恵
 「違いますよ、宵様がいません……だから速く取り返して下さい!」

真理恵さんは最後まで笑顔でそう言った。
そして消えると、今度は幸太郎だった。

幸太郎
 「ふ、余計なお世話かもしれないが、俺はお前に感謝しているぜ?」

悠気
 「気づいていたのか?」

幸太郎は腕組すると微笑を浮かべる。

幸太郎
 「お前達とのドタバタ生活は嫌いじゃない、だからさっさと月代を取り返せ」

幸太郎はそう言うと消える。
次に現れたのは琴音だった。
琴音は控えめに微笑んだ。

琴音
 「私の事愛してくれてありがとう御座います、ですが私は可哀想でしたか?」

悠気
 「ああ、憐れに思ったさ」

琴音
 「んべー! 残念ですが私はどんな自分でも後悔なんてありませーん!」

琴音は舌を出すと、そう悪態づいた。
だが俺は知っている、琴音は俺よりずっと強い女性だからな。
だからか、琴音は直ぐに機嫌を直すと、俺に駆け寄った。
俺の肩を叩くと、彼女は笑顔で言った。

琴音
 「宵さん、ちゃんと取り返してね? うふふ♪」

琴音は目の前から消えると、次に現れたのは両親だった。

討希
 「悠気……済まなかった、お前のことを俺は」

悠気
 「後悔は後に悔いるから後悔なんだ、だから後悔はしない」

俺は父さんにそう言った。
すると、父さんは苦笑して受け入れた。

育美
 「悠気……アルセウスの宿命は過酷です、その覚悟は出来てますか?」

悠気
 「全く勝手だよな……俺は俺らしくその宿命を受け入れるさ」

母さんはそれを聞くと笑った。
第一おちゃらけた母さんが、今更そんな事言うのも遅すぎるんだよな。

討希
 「俺は宵を利用した、その責任をまだとっていない」

育美
 「宵ちゃんは私達にとっても大切な人ですからね?」

俺は二人に笑ってみせた、俺は二人よりも宵の事を分かっているつもりだからな。

悠気
 「ああ、宵は必ず取り返す!」

二人はそれを聞いて満足したように消え去った。
そして……最後、彼女はそこにいた。
流れるようなピンクの髪、特徴的な2対の光の翼を持つその少女はこちらを振り返った。


 「あ、お兄ちゃん!」

悠気
 「宵……」

妹の若葉宵だった。
だが、妹が?
俺は妹と宵の接点がイマイチ分からなかった。


 「不思議そうね? でもこれは私の問題でもあるでしょ?」

悠気
 「そうといえばそうだが……?」


 「私が存在するのも、あの人のお陰、そしてお兄ちゃんの心を救ったのもあの人……ちょっと悔しいね、私のクローンみたいな人なのにね」

俺は何も言えなかった。
というより、この話題を妹にするのは色々複雑過ぎた。


 「ねぇ、お兄ちゃんは私のこと好き?」

悠気
 「当たり前だろう?」


 「私はね……愛してる、お兄ちゃんのこと誰よりも」

宵はそう告白すると照れくさそうに頬を赤くした。


 「もう一人の私を助けてあげて、お兄ちゃんを奪った責任とって貰わないと!」

妹はそう言うと消え去った。
俺は宵を想う多くの人の心に触れた。
それは夢という曖昧な中でもしっかりと生まれた絆だった。
俺は最後に手を伸ばした。



***



悠気
 「宵ー! 愛してるー! お前が欲しいー!!」

俺はアークに手を伸ばした。
アークは光の波動で俺を押し返す!
俺は歯を食いしばった。
後ろから押す僅かな心の力。
それに俺の魔力は反応した。

俺はプレートを全てかき集めた。
18枚のプレートを全て合成すると、一枚のレジェントプレートを生み出した。
俺はレジェントプレートを取り込むと、魔術の触媒に使う!

悠気
 「うおおお! 届けー!!」

俺は七色のオーラを纏いながら、光の波動を貫通した。
アークの身体に腕を突っ込むと、俺は宵に呼びかける。

アーク
 「ああああ!?」

悠気
 「宵! 一緒に帰るぞ!? 嫌だと言っても力づくで連れて行く!!」

俺はその瞬間宵に触れた。
宵はビクンと反応を返すと、アークに異変が起きた。
まるでアークの背中から羽化するように、宵は飛び出したのだ。

悠気
 「宵ー!」


 「プハァ!? 悠気ー! 私も貴方を宇宙一愛してるー!!」

宵が手を伸ばした。
俺も宵に手を伸ばす、二人の手が繋がった。
俺は宵の温もりを手に取ると、お互い微笑んだ。
一方でアークは宵を失い、暴走状態だった。

アーク
 「ああああ!? わ、私が!? 私を返せぇぇ!?」

アークは姿を不安定にさせて、狂乱するように宵に手を伸ばした。
だが、俺は宵にアクセスしている、今更宵をNTRなんて不貞奴だ。

悠気
 「宵、やるぞ?」


 「うん、可哀想だけど……!」

宵はあくまでこんな奴でも憐れむらしい。
本当に呆れる位温情のあるやつだ。
それでも俺は理の力を引き出した。

悠気
 「創造と破壊の力……」

 「貴方に力を……!」

俺たちは力を合わせた。
レジェントプレートの力に理の力が混ざり、それは究極の光となってアークを飲み込んだ。

アーク
 「あ……あ! 消える……私、が……!?」

アークの存在が崩壊していく。
理の力に触れたアークはあらゆる可能性世界からその存在を消滅させていった。

やがてその暗黒空間に静寂が訪れた。
俺は改めて無数に広がる可能性世界を見た。


 「理想の世界はあった?」

宵は俺の顔を覗き込んだ。
俺は苦笑すると首を振った。

悠気
 「お前がいない世界じゃな?」

俺は宵が欲しかった。
宵が恋しかった、宵を愛してしまった。

悠気
 「宵、愛してる」


 「ん、私も……!」

俺たちはそっとキスをした。
そのまま抱き合い、宵はゆっくり目を開いた。


 「ねぇ、悠気……どんな世界に降りたい?」

悠気
 「某サイボーグネタかよ、ボケてないで帰るぞ?」


 「テヘペロ♪」

宵は理の力を持って、その手に宇宙の卵を生み出した。


 「天地創造……今度こそ、あんな悲しいヒトが誕生しませんように」

宵はそう言うと新たな宇宙を創造するのだった。



『突然始まるポケモン娘と夢の果てにアイツが来る物語』


最終話 愛を取り戻せば 完

エピローグに続く。


KaZuKiNa ( 2022/11/01(火) 18:18 )