突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第0部 突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語
第8話 未来へと紡ぐ―After―



討希
 「育美! 子供達は!?」

俺はヨハネを始末すると急いで子供達のいる古寺を目指した。
石段を登り、境内を見るとそこには育美と子供達がいる。
悠気は育美に膝枕されて眠っていた。
宵はそんな悠気を心配そうに見ていた。

育美
 「討希さん……ええ、子供達は無事よ」

育美の表情は嘘はついていないが、なにか引っかかるものがあった。

討希
 「なにかあったのか?」

育美
 「そこの彼女が子供たちを襲ったの」

育美は目配せすると、境内の端にあのイリアナが捕縛されている状態だった。
イリアナはぐったりしており、育美にやられたようだ。

討希
 「おい……! イリアナとか言ったな? 何故子供たちを狙った?」

イリアナ
 「……お前、ち、てことはヨハネもくたばったか……殺せよ」

俺はイリアナの襟元を掴み無理矢理振り向かせた。
イリアナは既に諦めている様子で、魔力も欠片も感じない。

討希
 「質問に答えろ、何故ヨハネはお前をここに向かわせた?」

イリアナ
 「そんなのアタシが知るか……」

イリアナはそう言うと顔を逸した。

育美
 「どうやら本当のようです、偶然子供たちと鉢合わせただけで……」

イリアナ
 「け! あの訳のわかんないPKMが現れなければ!」

討希
 「PKMだと?」

イリアナは宵を見た。
宵はビクンと身体を震わせる。
余程恐ろしい思いをしたのだろう、だが今は確証が欲しい。

イリアナ
 「そこのガキと同じ光の翼を持ったPKMだ」

討希
 「宵と同じだと……まさか晴香?」

育美
 「クレセリアは大変珍しいポケモンです、とはいえ晴香ではないようです」

俺は晴香を想像するが、確かに晴香は死んでいる。
死人が生き返る事はない。

育美
 「空に打ち上げられたムーンフォースがなければ間に合わなかったかも知れません……」

ムーンフォース?
確かフェアリータイプの技だったか?
俺はその時、ヨハネの言葉を思い出した。

討希
 「理……?」

そう、ヨハネは理が自ら降臨すると言っていた。
所詮は死人の戯言だが、ヨハネはイリアナに何を期待したんだ?

イリアナ
 「けっ! なんでPKMなんて現れやがる……おかげで魔術師の価値はドン底だ……」

イリアナは強くPKMを憎んでいる。
いやイリアナに限らずPKMを嫌う魔術師は多い。
どれだけの労苦を持って、どれだけを犠牲にして得た魔術も、PKMからすれば元々持っていた力のような物。
当たり前のように炎を出し、雷を操り、吹雪を吹かせるPKMは魔術師達にとって畏怖の対象だ。

討希
 (ヨハネはマウロを裏切った、恐らくだがイリアナもヨハネの抹殺対象の可能性が高い……だが)

俺は必死に考える。
なら何故イリアナを子供達の下に向かわせた?
イリアナの本当の役割………。

討希
 「コイツと理に関係があるのか……?」

イリアナ
 「……?」

イリアナは意味が理解できず首を傾げる。
そもそもイリアナは理の意味さえ理解していない。
イリアナは本当にただ利用されただけだった?
だが……それならまだ不明な点も多い。
理を降臨させたヨハネは、その戦いの中で死んでいる。
あまりにも呆気なかった、いや戦いに浪漫など必要無いが。

討希
 (少なくとも理は降臨した……だが、何故降臨した?)

俺は子供達を見る。
宵と悠気、この幼い二人のどちらかに理が降臨する程の何かがあるのか?

討希
 (考えたくはない……だが、あの時感じた魔力は俺の魔力に似ていた……)

もし……もしも子供に俺の力が遺伝したのなら……、悠気こそが理なのか?

討希
 「育美、イリアナを適当な場所に捨ててこい」

育美
 「それは構わないけど……貴方?」

討希
 「少し調べたい事がある……」



こうして……あの夏の日の悲劇は終わりを告げた。
晴香の死、そしてヨハネの災厄。
本当に、本当にあれがたった1週間に詰め込まれたかと思うと、うんざりする。



***




 「悠気お兄ちゃん?」

事件後の翌日、悠気はベッドで意識を取り戻すと、宵は悠気の側を離れようとはしなかった。
悠気はぼんやりと自分の小さな手を見た。
いや、悠気が見たのはその先にあった深淵の闇だった。
悠気は自分の中のアルセウスの力を発現させ、同時に魔術の入口に立っていた。
ただ、子供ながらの想いを秘めて。

悠気
 「宵……僕は必ず宵を護るから」

それが、その願いこそが魔術の触媒として、彼を不幸にする願いだと知らずに。
ただ悠気は少しだけ強くなっていた。



***




 「え? 引っ越す?」

育美
 「ええ」

育美は親友の萌にこれからの事を説明した。
まずは引っ越すこと、そして宵を正式に養子縁組することだった。
市役所を通せば改めて月代宵は若葉宵となる。
今度こそ新しい土地で幸せになるつもりだ。


 「そう……寂しくなるわね」

育美
 「別に今の時代連絡が取れなくなる訳じゃないでしょ?」

それに引っ越しの場所は今の街から2つほど離れた場所だ。
会おうと思えばいつでも会える。


 「育美、元気でね?」

育美
 「ええ♪ 萌こそ」



***



討希
 「ヨハネ・アンデルセン……来日回数は10を越える……その他世界各地を渡り歩き、何かを調べていたようだが」

俺はヨハネの足取りを追っていた。
しかし分かったら分かったで謎も数多く増えていた。
特にヨハネは日本に来ると、ロケット&エンジェルカンパニーに用があったようだ。
俺はR&Aの名前に嫌でもヨハネの翳が見えた。

討希
 「エンジェル……か」

俺はR&Aカンパニー本社ビルの前で、そのシンボルロゴを見た。
ロケットを優しき天使が羽根で包むロゴ、皮肉にも一対の翼はヨハネは持ち得なかった。
ヨハネは最も高名な魔術師だったかもしれない……だがセフィロトの樹の上位存在にはなり得なかった訳だ。

討希
 「……ヨハネ、奴が何をしようとしていたのか」

俺はそこから歩き出す。
街は急ピッチで復興作業に取り掛かっていた。
世間では原因不明の火災扱いされており、魔術師達が暴れた跡は綺麗サッパリ消されていた。
無用な混乱は避ける、当然だ。
だからこそ俺達闇を生きる魔術師達は人の歴史に語られないのだから。



***



見果てぬ夢がそこにある。
時を乱し、絶望の未来を変える為に『月代宵』という存在は己を知覚していた。


 (あれ……私、消滅していない?)

大凡15歳前後を思わせるクレセリアのPKMは今の宵を10年程未来に送った姿と捉える事も出来るだろう。
しかし実際にはその少女は今の宵を基準とする存在ではなかった。
言ってしまえば宵のフェイク、模造品と言う方が正しい。
たった一年の稼働期間と寿命しかなかった宵は未来の悠気を救済する為に、自らの機能すら破壊する無茶をやってしまった。


 (現世に出現するなんて夢の存在がやっちゃいけない事よね……ま、事後じゃ意味ないけど!)

宵がそれだけ無茶を出来たのも、そんな彼女が極めて高度に出来ていたからに他ならない。
優れた現実改変すら可能とする魔力の核と、アルセウスの創造の力で外殻を覆った、宵という演算機は現実において、理と呼ばれた。


 (システムチェック……あちゃあ、やっぱり殆ど動けないや)

宵は身体中が機能不全だった。
とはいえ完全に壊れた訳ではない。
これから宵は長い年月を掛けて自己修復を行っていくのだ。

彼女の周囲は真っ白だった。
ただ、雪に似た光が寂しく降り注ぐ、窮極の事象の狭間だった。



『突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語』


第8話 未来へと紡ぐ―After― 完

第零部 突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語 完

第三部に続く。


KaZuKiNa ( 2022/10/14(金) 18:00 )