突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第0部 突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語
第7話 理が降りた日―Advent of God―



イリアナ
 「ち……この辺りだが」

イリアナは討希を追撃するため、倉庫街にやってきた。
そこは視界が悪い、いつ奇襲を受けるか分からない状況にイリアナは緊張を高めた。
すぐにでも魔力を魔術に変える準備は万端だった。
だが、想定外にイリアナの前にあの忌々しいPKMが姿を現した。

育美
 「おやおや、随分怖い顔ですね」

イリアナ
 「テメェ!?」

イリアナは直様炎を練った。
育美はクスクスと笑い、イリアナを苛立たせた。

イリアナ
 「何笑ってやがる!? ウラァ!」

イリアナは炎を放った。
炎は不可思議な動きで育美を襲うが、育美はあっさりとそれを回避した。

育美
 「クスクス、当たらなければどうという事はないですね♪」

育美は挑発するように背中を向けた。
まるで当たる気がしないという態度にイリアナは更に怒りのボルテージを上げた。

イリアナ
 「上等だぁ!! 焼き尽くしてやる!!」

イリアナは猪突猛進に育美に襲いかかる。
火の手は至る所に引火を始めた。
育美はイリアナに見えない笑みを浮かべた。

イリアナ
 「この! すばしっこい!」

育美
 「典型的魔術師ですね、体力がない」

イリアナ
 「ムキー! あんだとぉ!?」

イリアナはもはや育美しか見えていなかった。
だからこそ、それは迂闊だった。
突然イリアナの足元に紫色の魔術陣が展開された。
イリアナは不味いと、冷静さを取り戻すには少し遅かった。
討希の仕掛けた魔術陣がイリアナの身体を拘束する。
その瞬間、イリアナは直ぐに魔術陣を破壊しようと魔力を練るが……!

ズキュン!

銃弾がイリアナの杖に直撃した。
イリアナの杖は一撃で粉砕されると、練られた魔力はイリアナに逆流し、イリアナは身体を仰け反らせた!

イリアナ
 「あああーっ!!?」

イリアナの絶叫、討希はイリアナの前に現れた。
討希は無慈悲な眼差しだった。
確固たる殺意でお前を殺すと無言で語る討希に、イリアナは立っている事がやっとだった。

討希
 「これ程のチャンスはそうはない……死ね」

討希はそう言うと銃のトリガーに指を掛けた。

イリアナ
 「く、そ……!」

イリアナの身体は動かない。
魔力の暴走で、身体はボロボロになり、もうまともな魔力も練れそうになかった。
ただイリアナは闘志だけで討希を睨みつけた。

討希は無慈悲に引き金を引いた。
銃弾はイリアナの額に吸い込まれる。

だが、銃弾はイリアナには当たらなかった!

ヨハネ
 「生憎ですが、イリアナはやらせません」

ヨハネは金色の魔術障壁を発生させると、それを前に討希を押し出した。
フラフラのイリアナはヨハネの顔を見上げた。

イリアナ
 「な、なんで……ヨハネ?」

ヨハネ
 「貴方にはやって貰いたい仕事がある、此処に向かいなさい」

ヨハネはイリアナの額に手を触れた。
イリアナはヨハネの思考を通じて、その脳内にとある廃寺が映った。

イリアナ
 「おい、ヨハネ……どういう意味だこりゃ?」

イリアナは首を傾げた。
だがあのヨハネが必要以上に説明するはずはなかった。

ヨハネ
 「お行きなさい、ここは引き受けます」

ヨハネがそう言うとイリアナは舌打ちした。
イリアナは踵を返すと指定された廃寺に意味も分からず向かうのだった。
それを見送るヨハネは満足そうに頷き、正面にいる討希と育美を見捉えた。



***



討希
 「ヨハネ・アンデルセン……」

俺は自分の知る限り最強の魔術師と呼んで過言ではない相手に緊張感を高めた。
ヨハネは光り輝く片翼を広げて、迎え撃った。

ヨハネ
 「お久し振りですね」

討希
 「……!」

俺は無言で銃をヨハネに向けた。
しかしヨハネに弱点はあるのか?
果たして勝てるのだろうか?

育美
 「討希さん、後ろ!」

俺は育美に促され後ろを見た。
そこにはマウロがいた。

討希
 「ち……!」

四面楚歌、か。
俺は両者に警戒しながら、挙動の隙を伺った。

ヨハネ
 「ふふふ、怖れているね?」

討希
 「……」

怖れはある、怖れを失えば危機感を失い、やがてこの身を破滅させる。
怖れは根源的恐怖だ、それが欠如した人間は不完全でしかない。

マウロ
 「ヨハネ様、私にお任せを」

ヨハネ
 「ええ、お任せします」

育美はマウロを警戒した。
マウロは両手に嵌めた指輪の宝石を介して大地の魔術を操る。
本人の性格も冷静沈着、確実に相手を追い込む。

マウロ
 「我が力を誓いに、大地の精髄よ、我が前の敵を討て!」

マウロの指輪の宝石が輝く。
マウロは目の前に地面を砕きながら巨大なゴーレムを顕現させた。

育美
 「あらまぁ、まるでゴルーグですね」

討希
 「ポケモンの事はよく知らん……」

マウロのゴーレムは土と石が混在した混ざり物のゴーレムだった。
上等な戦術級のゴーレムとは違い、あくまでインスタントなゴーレムか。
しかしインスタントといえど、相手の技量次第で実力も変わる。
マウロのゴーレムは高さ4メートルはあり、侮れる相手ではなかった。

討希
 「育美、無理はするな」

育美
 「それは、敵次第……ですね!?」

まず動いたの育美だった。
育美はゴーレムを蹴り上げると、ゴーレムの頭部は簡単に吹き飛んだ。

育美
 「あら? 呆気ない」

討希
 「油断するな!」

俺は迷わずゴーレムを撃つ。
銃弾は全てマギアバレッドだ、ゴーレム相手でも有効の筈!
しかしゴーレムは直様身体を新たな土塊で再生し、育美に襲いかかった!

育美
 「くっ!?」

討希
 「『撃ち抜け!』」

俺は育美に掴みかかるゴーレムの腕部を銃弾で吹き飛ばした。
だが、直ぐ後ろに魔術師本体は迫っていた!

マウロ
 「喰らえ!」

マウロは無数の鋭利な石柱を放ってきた。
俺は回避が間に合わず、魔術障壁を即座に貼る。
石柱は俺に触れる直前に砕けた。

育美
 「ああ!?」

マウロに手間取っている間に育美はゴーレムに捕まっていた。
その全身は既に再生しており、硬くはないが非常に再生力の高い相手だった。

討希
 「く……!」

……どうする?
マウロとゴーレムを同時に相手する方法がない。
マウロは俺だけを狙い、確実に致命の一撃を狙ってくる。
どうすればこの事態を切り抜けれられる?

育美
 「大、丈夫……! 討希さん、魔術師を!」

討希
 「育美?」

育美はゴーレムに握られながら気丈にも笑った。
ゴーレムでは育美を握りつぶせないのか、柔らかさが欠点になっていたようだ。
俺は育美を見て頷く。

討希
 「分かった、任せる!」

俺は育美を信用する事にした。
マウロに向き合うと、俺はマウロだけに集中する。

マウロ
 「……ぬん!」

マウロは地面に拳を振るった。
するとまるで間欠泉ように石柱が次々生えて迫りくる。
俺は脇を逸れて回避すると、マウロに接近戦を仕掛けた。

マウロ
 「ぬう!?」

マウロは警戒する。
当然だ、魔術は精神力が命、故に至近距離の乱戦ではまともな魔術を行使するのは難しいだろう。
その分魔術師は懐に入られるのを嫌う、そこに強引に割り込むのは容易じゃないだろう。
だが関係ない、俺は強引にマウロの懐に入り込んだ。

マウロ
 「くっ!? 大地よ!」

討希
 「出来るか? この距離で?」

俺は既にマウロを自分の『現実』の内に引きずり込んだ。
マウロは魔術を行使しようとするが、俺の言葉にマウロの集中は乱れた!

マウロ
 (むう!? いかん! 距離を取らなければ!?)

討希
 「読めている!」

俺はマウロの五感全てを捉えていた。
マウロが一歩退けば、俺は一歩前へ、それを全く同時に出来る程の精度だった。
俺は迷わず腰に差していたナイフを取り出した。
俺は問答無用でマウロの太ももを切り裂く。

マウロ
 「ぐうう!?」

鮮血が舞った。
深く切り込んだナイフには血が滴り、俺は勝利を確信する。
マウロは咄嗟に大地の精髄に頼り、その傷を治療した。

討希
 「ククク……」

俺は相手を動揺させるように笑う。
マウロはフラフラと後退した。

マウロ
 「これは……毒!?」

ナイフには全身をマヒさせる毒が塗られていた。
マウロの直ぐに気付き、魔術で解毒を行うが、その全てが読み通りだった。

討希
 「お前の魔力、あとどれくらいだ?」

マウロ
 「あ、甘く見るな……私はまだ……!」

マウロは魔力を精錬する。
それは宝石を介してブーストされるが、マウロはその瞬間まで気づいていなかった。
宝石がドス黒く汚染されていることに。

マウロ
 「これは……しま!?」

バァン!!

俺は自身の魔術の射程距離に収めた時点でマウロの魔道具に細工を施していた。
マウロの魔力に反応した宝石は禍々しさを増し、やがてそれは粉々に爆発していった。
マウロは咄嗟に魔力の回線を切断し、フィードバックを逃れたが、マウロの大柄な身体が後ろに倒れた。

マウロ
 「が……は!?」

討希
 「底をついたな?」

俺は無慈悲に倒れたマウロに銃口を合わせた。
マウロは冷や汗を流した、魔力が枯渇し、全身が動かないだろう。
普通なら一瞬で眠気のような物に襲われ、意識を失うのだが、そういう意味でもマウロは強靭な精神力を持つ優秀な魔術師だった。

マウロ
 「ぐ……!? わ、私がやられてもヨハネ様は……!」

ヨハネ……俺はヨハネを振り返った。
ヨハネは仲間が窮地だというのに、非常に穏やかに静観していた。
まるで観客だな、つまらない映画を鑑賞して辟易している観客に思える。

討希
 「……!」

ダァン! ダァン! ダァン!

俺はマウロに銃弾を打ち込む。
銃弾は全てをマウロの額に吸い込まれた。

討希
 「ヨハネ……次はお前だ」

俺はマウロを始末すると、ヨハネに狙いを定めた。
しかしヨハネはそんな俺に対してなんの感情を見せなかった。

ヨハネ
 「さようならマウロ、君は優秀でした」

討希
 「……それだけか?」

俺は銃をヨハネに向けながら育美を見た。
ゴーレムは魔術師を失うと、魔力が切れ自壊した。
育美はゴーレムとの戦いを終えると、同じようにヨハネと向き直った。

育美
 「人を道具のように解釈する……傲慢ですね」

ヨハネ
 「ふ、これは失礼……しかし価値とはそうやって付加されるものでしょう?」

俺は怪訝な表情でヨハネを睨んだ。
こいつは……これまで見てきた魔術師達と比べても異端だった。
魔術師はすべからく闇に魅入られた眷属だ。
極稀に反属性のような魔術師はいるが、ヨハネもそのタイプか?
しかしそうだとしても、何故これ程人間味が薄い?
まるでコイツ自身さえ、部品かなにかのように考えているのか?

ヨハネ
 「さて……それでは私がお相手をさせて頂きましょう」

ヨハネはそう言うと前に出た。
俺はその前にある疑問をヨハネにぶつけた。

討希
 「貴様、本当に俺を殺す気があるのか?」

ヨハネの所属するイスカリオテ機関は異端者狩りを専門する機関だ。
異端者狩りとは、オカルトのような異様や、俺のようないずれにも所属しない魔術師を狩るのが仕事だ。
広義で言えばPKMも異端であり、狩りの対象にするような奴らだが……?

ヨハネ
 「……これは異な事を」

討希
 「もし逆の立場なら、俺なら最初の奇襲で終わらせていた、態々手を抜くような事はしない」

釈然としないが、それはヨハネが意図的に手を抜いているとしか考えられなかった。
だがイスカリオテ機関の魔術師が何故?
その答え……コイツは?

討希
 「お前、異端者だな?」

そう、それが俺の答えだった。
コイツは自分の立場、更に俺や育美さえも利用してイスカリオテ機関の魔術師達を抹殺するのが目的だったんだ。
かくして、マウロは死に、イリアナは死に体だ。
ほぼヨハネを制止できる存在はいなくなったという事だ。
そんな俺の独自解釈を聞いたヨハネは顔面を抑えると身体を震わせた。

ヨハネ
 「クク……ハッハッハ! 面白い! 私が異端者と!? ハッハッハ!」

育美
 「なに……こいつ?」

育美も気味悪がるヨハネの狂笑は始めて見せた感情だった。
ヨハネは顔を半分見せると、その目には生気が宿るようだった。

ヨハネ
 「違いますよ! 私が異端者じゃない! 奴らが異端者なのですよ!?」

討希
 「マウロとイリアナが異端者だと?」

ヨハネ
 「フフフ! ですがだからといって貴方は私の敵です!」

ヨハネは片翼を広げた。
圧倒的な魔力の奔流が周囲に渦巻くと、周囲を吹き飛ばす。

育美
 「く!? なんて力……本当に人間がこれを!?」

育美が怯むほどの膨大な魔素の量に俺は危惧した。

討希
 「育美、ここは俺一人で充分だ、子供たちの下に向かえ」

育美
 「で、でも……!」

育美は逡巡する、子供達と俺を天秤に掛けたか。

討希
 「いい加減にしろ、子供達がどれだけ今も不安だと思っている? それでも俺を選ぶなら離婚するぞ」

育美
 「ッ!? それ今更言うの卑怯じゃありません? 分かりました!」

育美はようやく納得すると、その場を離脱した。
ヨハネは育美には興味がないのか、その動きはスルーした。

討希
 「感謝するぞ、育美を通してくれた事は」

ヨハネ
 「構いません、間もなく理が降臨する。その為の些事など」

討希
 「理が降臨……?」

何を言っているんだ?
理(ことわり)、世界のルール、あるいは世界の法則?
いや、その意味は……。

討希
 「まさか神を降臨させる気か?」

ヨハネ
 「まさか、するんですよ……向こうから」

神が降臨するだと!?
俺は驚愕した、しかし同時に俺は得も知れない謎の魔力の波動をその瞬間感じ取った。


 『オリジナルはやらせない!』

討希
 「ッ!?」

俺は突然女の声を聞いた。
いや、聞いたというより感じた、だ。
それは魔力を伴っていた。
だがかなり違和感のある魔力だった。
なにか異なる法則のような力、それでいて俺の魔力に似ていた?

討希
 「まさか今のが……理?」

ヨハネ
 「ほお! 理を感じ取る事が出来るのですか!?」

ヨハネは理解っていないのか?
あの謎の女の声、オリジナル等言っていたがそれは?
しかし、その時突然悠気達がいる廃寺の方角からピンクの光線が空へと放たれた。

討希
 「これは!?」

それは魔術ではなかった。
どちらかというと育美の力に近い。
つまりPKMの能力か?

ヨハネ
 「ふふふ、遂にこの時が……!」

ヨハネは今その瞬間を大いに喜んでいた。
理が降臨した、あの声、あの光がそうなのか。
俺は子供達が心配だった。
だが同時にこの男を放置も出来ない。

討希
 「ヨハネ……貴様を殺す!」

俺は銃をヨハネに向けた。
ヨハネの目的は判然としない。
だがこれだけは理解る、この男は危険だ。
家族だけではない、世界に害する存在なのだ。

ヨハネ
 「ハッハッハ! 私を殺すと? やってみたまえ!」

討希
 「脅しと思うか! 『命を狩れ』! マギアバレッド!」

俺は自分の魔力を込めた弾丸を銃から発射した。
その弾丸は紫色の燐光を放ちながら、ヨハネの心臓に吸い込まれた。


ヨハネ
 「ぐふ!? がは……!」

ヨハネは血を吐いた。
以下に強力な魔術師でも心臓を撃ち抜かれて生きてはいまい。

ヨハネ
 「フフフ……! き、君の勝ちだ、笑いたまえ……!」

討希
 「……!」

ダァン! ダァン!

俺は問答無用でヨハネに止めを刺す。
銃弾は全てヨハネに命中し、俺はヨハネの戯言を聞く気はなかった。
ヨハネは真後ろから倒れると、光の翼は消失する。
ヨハネは呆気なく死んだのだ。

討希
 「……悠気、宵、無事でいてくれ!」

俺はそう呟くと急いで廃寺を目指すのだった。



『突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語』


第7話 理が降りた日―Advent of God― 完

第8話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/10/12(水) 18:07 )