突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第0部 突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語
第6話 汝咎人なり―sinner―



テレビ
 『現在街はまだ侵入禁止区域になっています! 昨晩謎のPKMの暴走によって街はまるで戦争でもあったかのように変わり果て、住民は早くの復興を待ち望んでいます!』

羽黒抹殺の翌日、羽黒の事が表に出ることはなかった。
報道されたのはメルトの事ばかりであり、その混沌の中で育美も出てくる事は無かった。


 「うう、怖いよぉ」

育美
 「あらあら大丈夫よ? おばさんがついてますからね♪」

テレビに映った荒廃とした街に宵は素直に怖いという感情を持った。
育美はそんな宵を我が子のように抱き締めた。


 「ママ、いつ帰ってくるのかな?」

育美
 「あ……それは、その」

宵はまだ自分の母親が死んだという事実に気付いていなかった。
育美はどう答えていいものか、顔を暗くした。

討希
 「宵ちゃん、君のママはね? もう帰って来れないんだ」

育美
 「討希さん!?」

俺は堪らず、宵の目線の高さまで屈み込むとはっきりそう言った。
育美は驚くがいつまでも嘘はつけない筈だ。
だが、勿論これは俺が悪役を演じる事を意味する。
宵の為ならば、悪役になるなど造作もないがな。


 「嘘、だよね? なんで嘘つくの?」

討希
 「嘘じゃない、ママはね? お月さまになったんだ」


 「お月さま?」

陳腐な言い訳だとは思う。
だが今の宵に死を理解しろというのが無理だ。
ならば今はこんな遠回しな説明しか出来なかった。

討希
 「そう、だからママはお月さまとして宵を見守っているんだ」


 「お月さまに……」

育美
 「討希さん……」

いずれ宵はその意味を嫌でも知る時がくる。
その時俺をいくら恨んでくれても構わない。
晴香を殺したクソ野郎を始末はしたが、それで残された者はなにも救われないのだ。

悠気
 「宵! こっち!」

突然悠気は宵の手を引っ張った。
宵は慌てて悠気に引っ張られた。


 「きゃ!? お兄ちゃんなぁに?」

悠気
 「お絵かきしよ! ほら!」

これは、悠気なりの優しさだろうか。
悠気は5歳ながら本当に優しい兄に成長していた。
願わくば俺のようなクソ野郎にならない事を願うが。

育美
 「討希さん、本当にあれで良かったのかしら?」

討希
 「遅かれ早かれ事実は知る事になる、宵もいつまでも子供じゃない」

育美
 「そうだけど……やっぱり残酷だわ」

宵がママに甘えられない、それが育美を苦しめた。
育美がいくらママを努めようとも、宵のママは晴香だ。
この現実を俺達も子供たちもいつか受け止めるのだから。

討希
 「……さて」

俺は悠気達がお絵かきに集中しているのを見ると、準備を始めようと思う。
イスカリオテの魔術師達、宣戦布告があった以上、その対応が必要だ。
出来るならばこちらから奇襲を仕掛けたいが。



***



とある高級ビルにヨハネ・アンデルセンはいた。
ヨハネは窓からメルトの災害によって被害を受けた区画を見下ろし微笑んだ。

ヨハネ
 (さて、筋書きはここまで一致した、後は)

ヨハネの後ろ4メートル、突然そこにあの黒人魔術師が転移した。
彼の名はマウロ、ヨハネの忠実な部下であり、イスカリオテの使徒だ。
マウロはヨハネの背中に敬服すると厳かに言った。

マウロ
 「委細準備整いました、いつでも異端者狩りを実行できます」

ヨハネ
 「分かりました、では今夜実行してください」

ヨハネは表情を正すと、振り返る事なくそう言った。
マウロは初歩的な転移術でその場から消え去った。

ヨハネ
 「さぁ咎を背負いし者……精々抗いなさい」



***



その日何事もなく夜を迎えた。
家族と団欒を迎え、僅かばかりに幸福を享受しながら、俺は家を静かに出た。

育美
 「待って! 貴方……!」

家を出ると、すぐに育美が追いかけてきた。
俺は足を止めると育美に振り返る。

討希
 「育美、来るな」

育美
 「嫌です! 貴方についていきます!」

俺は魔術師の好む夜は家で過ごすつもりはない。
遅かれ早かれ、俺をターゲットにした殺し合いは始まるのだ。
それに育美が付き合う必要はない。
だが育美は否定した、ここから先なにがあるかも分からないのにだ。

討希
 「悠気と宵の為にも家にいてくれ」

育美
 「私は貴方の方が……」

その時だった。

ズドォォン!

火球が俺達を襲った。
俺と育美は飛び退くと、火球が飛んできた方角を見た。

イリアナ
 「アハハハ! 時間だぞほらー!? アハハハ!」

イリアナという女魔術師だった。
イリアナは杖を振るうと炎が舞う。
俺はすぐに育美に叫んだ!

討希
 「育美! 子供たちを!」

俺はそう叫ぶと、子供たちから離れるように走り出す。
イリアナは俺に向けて炎を放った!

ズドォン!

討希
 「ちっ!?」

イリアナの炎が民家に直撃した。
民家は一瞬で燃え上がる。
このままでは延焼が起きるぞ?

討希
 「正気か!? 民間人を巻き込んで!?」

イリアナ
 「それがどうした!? ほらほら! さっさと燃えちまいなぁ!!」

イリアナは杖に魔力を込め、その足元に炎の魔術陣を浮かび上がらせた。
強大な炎の魔術師は炎の嵐を吹き上がらせた。

育美
 「討希さん!?」

育美が両脇に子供を抱きかかえると叫んだ。
俺は頷くと、育美はすぐに飛び去った。

イリアナ
 「ああ? まぁいいか、殺せって言われてるのはアンタだけだし!」

イリアナは育美を見て、面倒臭そうに見逃す。
育美は子供たちを安全な場所まで避難させたら、俺はイリアナを誘導するように走り出した。

イリアナ
 「おらおら! 逃げんなぁ! さっさと死んじまいな!?」

イリアナの炎は驚異的だ。
防ぐだけなら難しくはないが、その炎は生きているのだ。
本来ならイリアナの魔力の高さは身の丈に合っていない筈だが、杖の力で魔力をブーストしているのか?

討希
 「ち!」

俺は拳銃を取り出すとイリアナを撃った。
イリアナは炎のカーテンでそれを受け止める。
銃弾は熱波に弾かれた!

イリアナ
 「アハ! まるでワームだな! 惨めなもんだ! アハハハ!」

イリアナは勝ち誇っていた。
調子にのったその姿、こちらは豆鉄砲で向こうはナパームだと考えれば納得だが、そこが付け入る隙だった。

討希
 「『当たれ』!」

俺は弾丸に魔術術式を書き込んだ。
この程度の簡単な術式ならギリギリ弾丸に収められる。
即席のマギアバレッドはイリアナに向けて放たれた。

イリアナ
 「そんなもの!」

イリアナは同じように炎のカーテンを貼る。
マギアバレッドは炎のカーテンが放つ熱波に弾かれるが、不可思議な軌道を描いて、弾丸はイリアナ……否、杖を襲った!

イリアナ
 「なに!?」

イリアナがそれに気づいた時には遅かった。
いくらこれほど強大な魔術師でも即座に魔力を精錬は出来まい。
だが、弾丸は突如現れた石の柱に防がれた!

マウロ
 「油断大敵だぞ」

その異なる魔術を行使したのは、黒人の魔術師だった。
黒人魔術師は手を地面につけると、大地の魔術陣を張り巡らせ、無数のオベリスクめいた石の柱を大地に生やした。

イリアナ
 「ち! マウロ! 人の獲物を!」

討希
 (マウロ……大地の魔術師か)

俺は二人の魔術師に挟み込まれ、未動きが取れなくなった。
周囲はまだ民家を含む都市部だ、ここで戦闘を行うか。

マウロ
 「神降ろしの異端者よ、ここまでだ」

討希
 「ふ、そんなに神がいない事を証明するのが罪か?」

俺はやや自虐的にそう言った。
そんな事が魔術師にとっては大罪なのだ。
マウロという魔術師は目を細めると、大地に魔力を行使する!

ズガガァン!

無数の石の槍が俺に襲いかかる。
俺はなんとか回避するが、そこにイリアナ放つ炎が襲いかかった。

討希
 「っ……!」

イリアナ
 「ハハッ! 決まった!」

俺はまとわりつく炎に手を翳した。
俺の魔術で炎の魔力を魔素に還元して、炎を消滅させる。
するとイリアナは舌打ちするが、マウロは冷静だった。

マウロ
 「Hope49、望みのままの現実を手に入れし者よ、流石だ……しかしお前の魔力は何時まで保つ?」

討希
 「……ち」

マウロは冷静に俺を見極めていた。
こういうタイプは厄介だ。
力任せに攻めてこない、こちらの弱点が正確に把握されている、か。

イリアナ
 「この三流魔術師が、手こずらせやがって……!」

俺はどちらから始末するべきか考えた。
危険なのはイリアナだ、しかし潜在的にはマウロの方が危険かも知れない。
なにより……。

討希
 「おい、お前達のボスはどうした?」

俺はヨハネがいないことに気がついた。
明らかにこの二人よりも格上の魔術師が見当たらないのだ。

マウロ
 「ヨハネ様はいない、このような些事は我々で充分」

イリアナ
 「ち! 気に入らねぇ! アタシ達じゃ不満ってか!?」

イリアナは炎を練る、杖には炎が高速で渦巻いた。

イリアナ
 「チェア!!」

イリアナは杖を振るった!
高速回転する炎はプラズマ化しており、あらゆる物を意図も簡単にスライスした!
俺はそれを魔術で無力化するが、プラズマカッターはマウロの石の槍さえも切り裂きながら、周囲を切り裂いた!

バァアン!

どこかでガスが引火したのか爆発が起きた。
周囲を炎が包み込む。

マウロ
 「覚悟!」

マウロも怯むことはない、直様肉弾戦を仕掛けてきた。
マウロの両腕には指輪が散りばめられていた。
アメジスト、ガーネット、ルビー、そしてダイアモンド。
マウロは宝石を介して魔力をブーストしていた!

マウロ
 「フン!」

マウロの拳から石の槍が飛び出した!
俺はそれを回避すると、同時に銃弾を放った。
だがマウロの足元から生える石柱が阻む!

イリアナ
 「くっそ! しぶてぇ!」

イリアナが悪態突いて俺を睨んだ。
一方無言だが確固たる殺意で俺を着実に追い込むマウロも距離を詰めてきた。
流石にこれは厳しいか……俺は万が一のナイフに手を掛けた。

イリアナ
 「いい加減! 死にやがれぇ!!」

イリアナが杖を振り上げた。
炎が渦巻く、空を赤く染め上げる強大な魔力の本流を炎に変えてイリアナは炎の嵐を振り下ろした!

討希
 「ち!」

マウロ
 「逃がさん!」

マウロが後ろから魔術を行使する。
足元がぐらつく、イリアナのアシストを確実に実行してきたか!?
俺はやむなく防御に魔力を注ぐ、イリアナの炎の嵐は一気に迫った!

万事休す、その直後!

育美
 「はぁ!」

育美が戦闘に割り込んできた!
育美は俺を掴むと一気に跳び上がる!

ズドォン!!

炎の嵐が地表を渦巻いた、周囲数十メートルは火の海に落ち、数百メートルの範囲にまでその影響は及んでいた。
しかし幸運なのは風向きか、炎の影響は我が家の方向とは反対、つまり高雄家には危害は及んでいなかった。
俺は育美に抱きかかえられたまま、まずは子供の事を聞いた。

討希
 「悠気達は?」

育美
 「あそこ、私達が昔出逢ったお寺に避難させたわ」

数百メートルを一気にジャンプした育美は、そのまま方角を指差した。
俺はその懐かしい場所を確認し、戦場から充分離れた場所に安全を確認する。

討希
 「となると、あの二人か」

俺はもはや地表の点となった二人の魔術師を確認した。
いかに強大な力を持つ魔術師といえども、これは射程外だろう。
改めて育美の異次元な強さに助けられたか。

育美
 「このままじゃ街の被害が拡大するわ」

討希
 「戦場を変える必要があるな」

育美
 「貴方は何処へ落ちたい?」

育美はわざとらしく微笑むと、降下を開始した。
とりあえず態勢を整えなければ。



***



イリアナ
 「クソが! あと一歩の所だったのに!」

イリアナは討希を取り逃すと地面を蹴った。
血の気の盛んなイリアナは憎悪に満ちた眼で逃げ去る討希と育美を恨めしく睨んだ。

ヨハネ
 「短気は損気ですよ、イリアナ?」

そこへヨハネは天使の片翼を広げて転移してきた。
マウロは直様姿勢を正してヨハネを迎えた。

イリアナ
 「ち……! 性分なんだ! それよりどうする? 逃げられたぞ?」

ヨハネ
 「ふふ、逃げられはしませんよ」

マウロ
 「ヨハネ様、いかが致しましょう?」

魔術師達は勿論討希を追撃する。
育美が来る前に仕留められなかったのは想定外だったが、ヨハネは余裕の笑みを浮かべた。

ヨハネ
 「追いかけましょう、なにどの道向こうもこちらを狙っている」

イリアナ
 「ち……! 大方魔力を補充しようってんだろうが」

イリアナは苛立ちながら追撃に歩み出した。
ヨハネはマウロに目配せすると、マウロも討希追撃に参加した。
ヨハネは未だ手を出さないのか?
その不気味な笑みの向こうで、ヨハネは何を見ているのだろう?



***



討希
 「……」

人のいない寂れた倉庫街で俺は戦いの準備をしていた。
少ない魔力を補う為にも、俺にも魔道具が必要だった。

育美
 「魔術師の杖、ですか?」

討希
 「杖は象徴だ、杖の役割があるなら物は何でも良い」

イリアナのように杖を使うのは魔術師としては古典的だがスタンダードだ。
マウロのように宝石を介する者もいるが、どうしても杖よりは見劣りしがちだ。
その分杖にもデメリットがある、あまりにもわかり易すぎるからな。
杖を破壊すればブーストは得られない、その隙を突いて始末する。

育美
 「まるでプレートですね?」

ポケモンが使うプレートと言うのは俺にも理解が及ばないが、ある種のブーストアイテムとしては似ているのかもしれないな。
最も魔術師がプレートを持ったとしても意味は無いし、逆でも同じだろうが。
俺は銃の弾丸に一つ一つ魔術を刻んでいった。
マギアバレッドはそれ自体が一種の魔力タンクとして機能する。
根本的な魔力が少ない以上、俺には小細工が必要だった。

育美
 「私を少し信用して欲しいですね」

育美は少し離れた場所で不満そうにそう言った。
育美ならあんな魔術師敵ではないと言いたいのだろうが。

討希
 「魔素を甘く見るな」

育美は俺の辛辣な言葉にギュッと拳を握った。
育美に限らずPKMが魔素に抵抗が無い事は分かっている。
PKMは魔術に対する防護が全くない、全て100%以上に通じてしまうのだ。

育美
 「だから距離を取られるのって、やっぱり辛いです」

討希
 「俺は災厄だ、育美や萌にそんな重荷を背負わせたくない」

魔術師と共に暮らすという事は、育美の身体は魔素が蝕む事を意味している。
魔素に汚染されたPKMは心身ともにボロボロになって、地獄のような人生を送るだろう、純血のPKMは特に危険なのだ。
半血の悠気や宵ならある程度抵抗もあるだろうが、よりにも寄って最愛の妻にその特性があった事は、俺に決断を促した。
魔術を捨て家族の下で暮らすか、家族を捨て魔術師として生きるか。

俺は一度魔術を捨てた。
育美や悠気の為に良い父親なろうと必死に抗った。
だが、世界は魔術師の俺を殺しにやってきた、俺は無抵抗のままやられるつもりもない。
俺は結局、魔術師だったんだ。

討希
 「育美……俺はお前を愛している、だからこそ」

育美
 「私が……邪魔」

育美は辛そうに視線を逸した。
俺は静寂の中、ただ殺意を高めるのだった。



『突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語』


第6話 汝咎人なり―sinner― 完

第7話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/10/11(火) 21:43 )