突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第0部 突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語
第4話 守るべきは―protection―



討希
 「あの男、羽黒芸知巣と言うのか」

妻である育美と合流した俺、その連れの男石蕗大護も時同じくして同じ男を追っていた。
復讐代行との事だが、余計なお世話だな。

大護
 「しかしまさかアンタがな……タダ者じゃないって事は分かっていたが……」

この大護という男、魔術師ではないが魔術師相手でも臆する事なく殺し合う胆力の持ち主だった。
大護の深淵の闇には興味があるが、この男が此方側に来るとは思えないな。

大護
 「確か……4年前ローマで、だったか?」

4年前ローマというのは、俺がローマで仕事をしていた時偶然バッティングした事だろう。
対象の相手こそ違ったが、偶然戦場で遭遇、互いの獲物を向け合う敵対者としての遭遇だった。

討希
 「……」

大護
 「ち! 信用されてないってか?」

育美
 「討希さんは口下手なんですよ」

余計な事を……と俺は口籠る。
だが、口下手かと言えばその通りだろう。
むしろ異常に社交的な育美達が異常なんだ。
口は災いの元、簡単な言葉一つで魂の根を掴む魔術師だっている以上、無駄口は危険だ。

大護
 「口下手ってレベルかよ……?」

討希
 「……羽黒の始末はどうする?」

俺は話題を変えるべく、羽黒に件に変わった。
大護は頭を掻くと、彼なりの戦術眼を持って判断を述べた。

大護
 「一度奇襲が失敗してるってんだろ? なら今日中につったら無理な相談だろう……まぁ向こうの装備とかが解った事は幸いか」

それはまるで自分なら確実に暗殺出来た、そんな風な言い方だった。
実力においては曲りなりにもこの男の事は認めているつもりだ。
確実に表の世界なら世界最高の殺し屋だろう。
だが、暗殺なら俺にも一日の長はある筈だ。
お互いロクな人生を歩んでいないのだろうが、これが同じケモノを追うハンターとはな。

大護
 「とりあえず、一旦引き返すぞ。装備の新調も必要そうだしな……?」

討希
 「勝手にしろ、俺は奴を追う」

大護
 「て、おいおい……アンタが行っても警戒されるだけだっつーの! ここはまず相手の事を調べて……!」

俺は大護にナイフを振った。
ナイフは大護の首元で止まると、大護の軽快な喋りは停止する。

大護
 「っと、あぶねーな? 俺は敵じゃねえぞ?」

危ない、と言うにはあまり焦ってはいないな。
戦闘者の勘で当たらないと即座に判断したか?

大護
 「とりあえずこのナイフ下ろしてくれねえか?」

大護はナイフには触れず、そう言ってヘラヘラ笑った。

討希
 「良い判断だ、触れれば毒に被れていたのにな」

大護はそれを聞くと「げっ!?」と顔を青くした。
警戒して触れなかったのは流石戦闘のプロだ。
俺はナイフを仕舞うと、大護は育美を呆れたように見た。

大護
 「アンタの夫、俺よりやべぇな」

だが、育美は頬に手を当てるとうっとり顔で惚気けた。

育美
 「だからこそ、選んだんですもの♪」

しかし流石にそれはおかしいとあの大護も顔色を変えて突っ込む。

大護
 「いやいや、それだとコイツよりやべぇ奴ならアンタホイホイされるのか!?」

育美
 「勿論、神様に喧嘩を売れる度胸とか、いざという時守ってくれる優しさとか必要ですよ♪」

育美の向ける無償の愛、俺は戸惑いながら明後日の方角を見た。
結局この中で一番強いのは育美だ、俺も育美には何をやっても勝てん。
いつの世も女の方が強い、か。

大護
 「……たく、クレイジーサイコ夫婦かよ……兎に角旦那も帰るぞ! アンタ一度休め! 集中力落ちてパフォーマンス下がるのが一番悪いんだよ!」

育美
 「大護君は肉体言語系に見えてロジカル系ですね?」

大護
 「逆にアンタの旦那冷静そうに見えて熱血馬鹿だな?」

……自分の性格判断はあまり好まない。
隠蔽体質は恐らく魔術師の性だろう。
大護は一度落ち着くと、懐からタバコを取り出した。
そのまま慣れた手付きでライターで火を灯すと一服する。

大護
 「アンタも吸うか?」

討希
 「貴様死にたいようだな? タバコを俺と育美に向けるとは……!」

俺はタバコが大っ嫌いだ。
タバコを魔術に利用する奴もいるが、そんなものニコチンとタールの幻想に過ぎない。
こう見えて俺は健康派なんだよ!

大護
 「ちょ!? タバコに恨みでもあんのか!?」

討希
 「副流煙を出すな!」

俺はそう言うと、そのままタバコをナイフで切り裂く。
火のついたタバコの切れ端は、大護が咄嗟に携帯灰皿で受け止める。

大護
 「勿体ねぇ!? いや……悪い、まさかタバコが嫌いとはな?」

育美
 「いいえ、大嫌いよ……この人はタバコもお酒もやらないんだから」

大護はそれを聞くと「うへぇ」と項垂れた。

大護
 「アンタ人生の楽しみどんだけ損してんだよ?」

逆にコイツはどうしてそんなにヘラヘラ出来るのか。
メンタル面は確実に強いが、掴み所が無い。

大護
 「アンタと敵対しなくて本当に良かったぜ……敵として出会っていたら、こうやってる事もなかったろうからな」

育美
 「そうですね、私が本気を出したら大護君じゃ敵う筈がないですもんね?」

大護
 「ちょっと待て!? 依頼主が敵に周るのかよ!?」

育美はそう言うと俺に肩を寄せた。

育美
 「当然です♪ 愛する夫ですもの♪」

大護
 「かぁ〜! なんて羨ましい野郎だ、独身は辛いねぇ」

育美
 「大護君は結婚したいとは思わないんですか?」

育美はある核心を突いた。
俺達は見ての通り結婚している、名前も若葉を共有している。
だが大護は逆に顎を擦ると、タンパクに返答した。

大護
 「無いね、第一俺ぁ殺し屋だ、そんな奴の子供じゃ可哀相だろう?」

討希
 「詭弁だな」

大護
 「なに?」

大護が珍しく睨みつけた。
だが俺には涼風に等しかった。

討希
 「もう一度言ってやる、それは詭弁だ」

育美
 「大護君、見ての通り私達も訳ありです、夫はテロリストですし、私は私で訳ありのPKM、ですが不幸なめぐり合わせでしょうか?」

大護はそれを言われて「ハッ」と気が付く。
どんな親であれ、子にとってそれは親だ。
俺は大護が親として間違った事をするとは思えない。
逆にどれだけ聖人君子のような男でも、子供にとって毒親ならその方が不幸な筈だ。

大護
 「だが……やっぱり俺は無理だ」

大護は納得はした、しかし無理だとも通した。
そこには暗い翳があり、大護のトラウマに起因する部分なのだろう。

討希
 「分かった、ならいい……一旦引き上げる」

俺はそう言うと踵を返した。
育美と大護は慌ててついてくる。

大護
 「たく! 急に物分りが良くなりやがって! 扱いづらい夫婦だぜ!」

育美
 「そこはご容赦を、そういう生き方しか出来ないもので」

育美はそう言うと軽やかだった。
きっと不安も多かったろう。
色んな感情が綯い交ぜになって、晴香の死を受け止めきれなかったのだろう。
強かに見えて、本当は誰よりも弱い、心優しい育美には復讐は似合わない。
晴香の一件は俺だって軽くはない。
それでも夫婦でなら、育美はそう思ったのだろう。
皮肉なのは、それが俺の想いとは正反対な事だが。



***



討希達が羽黒を追うその頃、あの魔術師ヨハンはあるビルに訪れていた。
ロケット&エンジェルコーポレーション、かの総合軍需メーカーの社長室を訪れたヨハネはにこやかだった。
そんなヨハネを出迎えたR&A社長は非常に焦った様子でヨハネに平伏したのだった。

社長
 「こ、これはヨハネ様! こ、こんな夜分遅く、出迎えも出来ずに申し訳御座いません!」

ヨハネ
 「構いませんよ、勝手に来たのは此方なのですから」

まるでその光景は主従が逆の様子だった。
そう、ロケット&エンジェルコーポレーションの真の支配者とはこの魔術師ヨハネ・アンデルセンだったのだ!

魔術師は微笑むが、社長の顔は真っ青だった。
この様子を社員が目撃すればどんな顔をするだろう。
だがここには今はこの二人しかいない、それは幸運だろうか、不幸だろうか?

社長
 「そ、それで今回は何用で?」

ヨハネ
 「エンジェルプロジェクト……」

ヨハネの言葉に社長は「ハッ!?」とした。
R&A社のロゴにも使われている天使の抽象化、しかしそこに大きな意味があったとしたら?

社長
 「エ、エンジェルプロジェクトはまだ完成には……!?」

ヨハネ
 「ええ、勿論存じ上げております。後10年は歳月を要するでしょう」

ヨハネは穏便にそう言うと社長の心象は安堵していた。
しかし不意にヨハネの視線が強まると、社長は心臓を掴まれたように震え上がった。

ヨハネ
 「……ですが、貴方を未だ社長の席に座らせている意味、理解してほしいですね?」

未だ? 未だとヨハネは言った!
なんとこの魔術師は天下の巨大財閥の社長の任命にさえ関わっていたのだ!
社長は自分の事を指摘されると、全身を青くし、へたり込んだ。

社長
 「ご、ご容赦を……私はヨハネ様への忠誠心に翳りなど……」

ヨハネは無言で社長に近づく。
その一歩一歩はまるで死刑宣告のカウントダウンのようだった。
生きた心地がしない中、不意に社長の肩を魔術師は叩いた。

ヨハネ
 「期待してますよ?」

社長は「ヒィ!?」と声にならない悲鳴を小さく上げた。
ヨハネは終始涼やかな顔のまま、その場で天使の片翼を広げると消え去った。
残された社長は呆然とし、ただ床に失禁したシミのみを残していた。



***



悠気
 「宵! 一緒に遊ぼう!?」

討希
 「……」

久し振りに家で一夜を過ごした気分だった。
なんとなく宵の顔を見るのが怖かった。
宵が母親の死を理解するには幼すぎて恐ろしかった。
だが、そんな宵を精一杯支えていたのは悠気だった。


 「ま、待って悠気お兄ちゃん!」

宵はいつでも悠気にべったりくっついていた。
悠気もまた幼いにも関わらず、懸命に兄であろうと努力していた。

育美
 「子供たちが心配?」

討希
 「ああ」

後ろから育美がやってきた。
俺は振り返らず子供を見守りながら頷く。
子供がいくら立派な行動を取ろう、人生経験の無い、失敗を知らない子供だという事実は変わらない。
だからこそ俺は客観的事実でしか物事を測れないのかもしれない。

育美
 「大丈夫よ、皆見守っているから」

萌衣
 「悠気、宵ちゃん! 今日は何して遊ぶ?」

近くに住む高尾家の末女萌衣が二人の下にやってきた。
家の前では母親萌が優しく手を振っていた。

討希
 「そう……だな」

俺は納得する、育美や萌の方が俺よりも余程子供達を守ってやれるだろう。
子供たちが心配なくなるまで、後何年かかるか……そこまで俺は見守ってやれるのだろうか……?

育美
 「不安……なの?」

育美は俺の感情を鋭い洞察力で読んできた。
つくづく育美にはお見通しか。

討希
 「ああ、そうだな……」

育美
 「原因は? 晴香の件? それとも……」

討希
 「全てだ、俺は疫病神だからな……」

俺は自身の魔術『希望』の特性を良く把握しているつもりだ。
少しでも良く考えれば上振れ、少しでも悪く考えれば下振れるこの魔術は凄まじく強靭な精神力を要求する。

育美
 「いいえ、それは違うわ、私が保証する! 討希さんは疫病神なんかではないわ!」

討希
 「だが、俺は悠気や宵を巻き添えには出来ん」

少なくともイスカリオテの魔術師達は宣戦布告をしてきたのだ。
奴らなりふり構わぬ魔術師達ならば、確実に悠気や宵も標的にされるだろう。

討希
 「俺が全て終わらせる……!」

育美
 「討希さん……私は」

俺は静かに覚悟を決めた。
平穏に価値を見出すならば、平穏を勝ち取るための努力をするしかない。
結局の所俺はそんな平穏から最も遠い対極にいただけなのか。

育美
 「私は討希さんを放ってはおけない、それじゃ貴方は孤独になってしまう!」

討希
 「孤独なんて慣れている」

育美
 「耐えられる訳がない! 神々でさえ誰一人耐えられなかった……」

育美はそう言うと震えていた。
そうか……育美はそんなに俺が失踪した時辛かったのか。

討希
 「すまない育美……」

育美
 「謝らないで下さい……そうでなければ私が耐えられない」

育美は気丈だ、だが俺からすればそれは子供のようにか弱かった。
俺達は5年で大分分かりあった筈だ、それでもお互い進歩が無いのかもな……。

育美
 「討希さん……私はもう二度と貴方を離しません、それだけは覚えてください」

討希
 「俺も今更逃げようとは思っていない……」

俺は空を見上げた。
今は青空が広がっているが、夜にかけて天気が愚図つきそうだ。
それはまるで今の俺の状態を現している気がした。
しかし俺は黙って運命とやらに従うつもりもない。
俺は、俺の命を守り、そして家族守る……守ってみせる!



『突然始まるポケモン娘とあの夏の運命の物語』


第4話 守るべきは―protection― 完

第5話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/10/08(土) 18:40 )