突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第41話 幸せの在り処



夢の世界が完成した。
そんな夢の世界で俺は微睡みの中にいた。
夢の世界で微睡みというのもおかしいのだが、ここは夢だが現実のような法則が通用するのだ。

さわさわ。

悠気
 (ん?)

股関になにか感触があった。


 「ここ、ここをマッサージするのよね?」

この声は麻理恵さん?
俺はそっと瞼を開いた。
すると見えたのは俺のズボンを擦るジュナイパーの麻理恵さんが見えたのだった。
麻理恵さんは顔を赤くすると、何度も股間を擦る、その行為も意図もきっと分かっているだろう。

悠気
 「麻理恵さん? 何してるの?」

麻理恵
 「あ! ユウ様おはよう御座います!」

麻理恵さんは隙かさず姿勢を正した。
おはよう……俺はゆっくりと上体を持ち上げると窓を見る。
朝日が部屋には差し込んでいた。

悠気
 「おはよう麻理恵さん、今何時?」

麻理恵さんはいつものように俺の部屋で眠りを護衛していたらしい。
元違法組織の暗殺者は今ではちょっと怖い所もある程度のお姉さんだった。

麻理恵
 「は! 今7時になります!」

麻理恵さんは腕時計を確認すると快活にそう言った。
もう7時か……まずいな、寝過ごした。
俺はゆっくりと起き上がると、背伸びをした。
麻理恵さんはウズウズと身体を揺らしていた。

悠気
 「えと、麻理恵さん?」

麻理恵
 「はい! お着替え手伝わせて下さい!」

いわゆるお召し替えをしたいと言う事だが、俺は難色を示した。

悠気
 「子供じゃないんですから、みなもさんの下に行ってあげてください」

麻理恵さんはそれを聞くとシュンとテンションを下げた。

麻理恵
 「了解、退出します」

麻理恵さんは頭を下げると部屋を出て行った。
俺は一人になって落ち着いた所で着替えを開始する。
クローゼットにある学園指定の制服を手に取ると、俺はクリーニングに掛けたような制服に気がついた。

悠気
 「やっぱり不思議だな」

恐らくみなもさんが一着一着整えていったのだろう。
全てを失った現実と比べて、ここには全てが奇跡的に存在している。
存在しているという事は、全ての事象にもifを起こす。
だけど……。

悠気
 「やっぱり無い、か」

俺は制服に着替えながら、窓の外を見た。
窓の外には相変わらず更地が広がっている。
買い手を求めている状態の空き地は哀愁が漂っているな。

悠気
 「宵……聞こえるか?」

俺はこの世界の神とも呼べる存在、月代宵に呼びかけた。
すると脳に響いたのは優しい少女の声だった。


 『聞こえているよ♪ どうしたの?』

悠気
 「お前、やっぱりそこにいるのか?」

そことは、宵が世界を見守るデバックルームのような場所だ。
宵はそこから動いてはいなかった。


 『そりゃねぇ?』

悠気
 「こっちに来る気はないか?」


 『駄目、嬉しいけど駄目だよ……私は皆を見守る理だもの……』

ある意味で分かっていた言葉だ。
宵がそうやってこの世界を守る。
誰にも知られない、誰も宵を知らない。
そんな寂しすぎる世界でも、彼女は健気にわらってくれる。
俺はそんな宵を絶対に忘れない。
俺だけは宵の為にいよう。


 『ほら悠気、朝ごはんまだでしょ! 急いだ急いだ!』

悠気
 「ああ、そうだな」

俺は着替え終えると部屋を出た。
部屋の向かいには『みなもと麻理恵』と書いてあるネームプレートの貼られた部屋があった。
元々は妹の部屋、でも妹に救いは必要が無かった。
俺よりもずっと強い娘で、俺なんか必要が無かった。
この結果はお互い納得済みだ。
今更気に病む事じゃないんだけどな。

俺は階段を下ると仲良く朝ごはんを用意しながら会話する二人を見つけた。
二人はこちらに気づくと、笑顔で振り返った。

みなも
 「ユウ様、おはよう御座います♪」

柚香
 「おはよう、悠気さん」

真理恵さんの妹でアシレーヌのみなもさんと、絶賛家出中のサーナイトのユズちゃんだ。
二人は料理の話に花を咲かせながら、お互い技術を競い切磋琢磨している様子だ。

悠気
 「ああ、おはよう」

俺はそんな二人に明るく返事を返すのだった。
俺はキッチンまで来ると、周囲を伺った。
真理恵さんの姿がない、と思うと真理恵さんは裏庭にいた。
どうも精神集中しているようで、前にも見た然の精神だろうか?
真理恵さんは度々ああやって精神集中をする機会がある。
幸太郎もするのを見たことあるが、武道の精神は似通るのだろうか。

柚香
 「朝ごはん準備完了! お姉ちゃん起こしてこないと!」

ユズちゃんはそう言うとエプロン姿のまま、2階に登って行った。
姉というのはユズちゃんの一つ上の瑞香だ。
瑞香はユズちゃんと同じ血を引いているが、人間の血の方が濃く反映された人間、医学的には陰性のPKMである。
しっかり者のユズちゃんに比べ、普段は割とだらしない瑞香は今日も妹と仲良しなら、俺も満足だ。

悠気
 「配膳手伝います」

俺は朝ごはんを用意するみなもさんにそう言った。

みなも
 「いえ、これも家政婦としてのお仕事です、ユウ様はお掛けになって」

みなもさんはやっぱり職務に対して大真面目だ。
いない方が普通だったと考えると、この家政婦さんの存在はありがたいような、困ってしまうような。

悠気
 「みなもさんがいると俺やる事ないね」

みなも
 「であれば、学業に専念出来ますかと」

俺はそれを言われると「たはは」と苦笑いした。
学園での態度は可もなく不可もなくな俺は、そろそろ本気を出さなきゃと思えた。
とはいえ学園での態度意外は今更授業を学んでも大してメリットが無いんだよな。
何度も学んだ授業内容は流石に飽き飽きだ、テストをすれば満点取れる自信あるぜ。

みなも
 「さて……姉さん! 朝ごはんにしましょう!」

みなもさんがそう言うと、真理恵さんは目を開いた。
みなもさんとは対象的に家事が壊滅的な真理恵さんはこの時間はやることが無い。

瑞香
 「ふあ〜、おはよう」

直後、まだ眠そうに欠伸する瑞香が階段を降りてきた。
瑞香の髪型はボサボサだった。

悠気
 「瑞香、顔洗ってこい、良い顔も台無しだぞ?」

瑞香
 「え!? 良い顔って!? もう! 覗くんじゃないわよ!?」

瑞香は一瞬喜ぶと、直ぐに洗面台に向かった。
心配せんでも覗かんわ。

俺は全員起きると皆を見渡した。
みなもさんと真理恵さんは仲良く配膳を進め、ユズちゃんは洗い台を清掃し始めた。
今日は母さんは父さんの所に行っているんだったな。

悠気
 「ん、ちょっと賑やか過ぎるな」

俺はそう言って苦笑した。



***



悠気
 「それじゃ行ってきまーす!」

登校時間を迎えると、バッグを片手に俺は家を出た。
続いて瑞香、ユズちゃんも同様の格好で出てきた。

みなも
 「行ってらっしゃいませユウ様、瑞香さん柚香さん」

真理恵
 「ユウ様ー! オタッシャデー! 悪漢が現れれば必ず制裁に参りますよー!」

俺は「ははは」と乾いた笑いを浮かべた。
真理恵さん、熱烈なラブコールみたいだったが、物騒な内容の性で肝心の所が台無しだった。
俺達はお見送りする二人を他所に、学園へと歩き出す。

瑞香
 「あのねーさん達相変わらずねぇ?」

柚香
 「あはは、愛されてるんですね悠気さん」

二人は最初に比べたら出海姉妹とも仲良くなっていた。
瑞香はみなものねーさん、真理恵のねーさんと次第に信頼もし始めていた。

悠気
 「ま、愛され方が絶妙に的を外しているんだがな」

特に真理恵さん、熱烈ラブ勢なのに、いつもピントが外れたラブコールばかりで正に空回りという感じだ。
一方でみなもさんは奥ゆかしくそこまで表面的にはラブコールは見せない。
とはいえ嫉妬心を爆発させると、生粋のエロお姉さんだから流石に俺も抵抗出来ない。
困ったお姉さん達だが、俺はあの二人も愛すると誓ったんだからな、そりゃ受け入れるさ。

瑞香
 「むぅ……私も真理恵のねーさん位積極的にいくべきか?」

瑞香は俺を値踏みするように目を細めると、そんな物騒な事を言ってきた。
真理恵さんが二人に増えたら冗談じゃないぞ、ただでさえ瑞香も駄目女だというのに!

悠気
 「お前はお前らしくしていろ」

瑞香
 「む? どういう意味よ?」

悠気
 「今のお前が一番信頼出来るって事だ」

それを聞くと瑞香は目を丸くした。

瑞香
 「まぁ、アンタ程の男がそう言うなら」

瑞香はそう言うと嬉しそうに髪を掻いた。
瑞香まで四六時中真理恵さんみたいになったら、俺の身体は絶対足りないからな。
常識人が足りないのだ、常識人が!

柚香
 「ふふ、良かったねお姉ちゃん、愛されてるんだ♪」

反対を歩くユズちゃんはそう言って微笑んだ。
姉のことで一々一喜一憂しているが、そんな妹を見た姉は。

瑞香
 「アンタこそ愛されたいんでしょ〜? ほら、ポイント稼ぎは?」

瑞香はそう言うと俺の腕に抱きついてきた。
それを見てユズちゃんは顔を真っ赤にした。
姉の真似をする癖のあるユズちゃんはウズウズするが理性が勝ったのかプイっと顔を背けた。

柚香
 「もう! 私は私流でポイント稼ぐんですー!」

悠気
 「ああ、ユズちゃんの朝ごはん美味しかったぞ、好感度+1」

柚香
 「因みに今好感度はいくつでしょうか!?」

めっちゃ食いついてくるな……俺は口元に人差し指を当てると。

悠気
 「秘密」

瑞香
 「ていうか、数値化出来るものなの?」

瑞香は俺から離れると、そう疑問を浮かべた。
まぁネタみたいなものだからな、数値化なんてしなくても俺はユズちゃんも愛している。
口にするのは少し恥ずかしいがな。

幸太郎
 「よう、お前たち平和そうだな?」

後ろを振り返ると質実剛健を地で行く偉丈夫が歩いて来た。
親友の百代幸太郎だ、相変わらず達観したその男は腕組みをすると俺達と合流した。

悠気
 「幸太郎、今日は朝練無いのか?」

幸太郎
 「忘れたのか? テスト期間だぞ?」

あ? そうだったか。
俺は頭を掻くと、呆れたように瑞香が突っ込んだ。

瑞香
 「てか、私がいるんだから、気付きなさいよ?」

陸上部の瑞香は朝練があると先に家を出ている事がある。
そう言えばその通りだったな。

悠気
 (いかんないかん……いい加減のこの時間軸に慣れないといけないんだな)

俺はそう思うと、空を見上げた。
蒼天はどこまでも広がっており、ここが安寧の世界だと分かる。
俺と宵で創り上げた世界だ。
夢であり、いくつもの枝分かれした可能性世界線から分岐した新たな世界線。
せめて100年は護りたいものだな。

瑞香
 「あー、そう言えば悠気、テスト対策大丈夫?」

悠気
 「普段の授業を聞いていれば問題ない」

瑞香
 「うぅ、そう言って絶対勉強してる! お願いテスト範囲だけでも教えて!」

瑞香は余程自信が無いのだろう。
手をパンと合わせると懇願するのだった。

悠気
 「性がないな……落第されても困る」

俺がそう言うと瑞香は嬉しそうに顔を上げた。
コロコロ表情を変える瑞香にはユズちゃんも呆れた。

柚香
 「お姉ちゃん私情けないよ……どうして私が教えた範囲さえ分からないの?」

それを聞いた幸太郎は「え?」と瑞香に疑いの眼差しを向けた。

幸太郎
 「お前、下級生に教えて貰っているのか?」

瑞香
 「うう! どうせ馬鹿ですよーだ!」

瑞香はそう言うと悔しそうに走り出した。
相変わらず体力だけは馬鹿みたいにあるな。

柚香
 「もう! お姉ちゃん待ってー!」

ユズちゃんはどうせ道は同じなのに慌てて姉を追いかけた。
あっという間に二人の少女が見えなくなると俺は肩を竦めた。

幸太郎
 「騒がしい事だな」

悠気
 「だが今では好ましい騒がしさだよ」

少なくとも俺はそう思っている。



***



学園を目の前にすると、学生は溢れかえっていた。
そこでは挨拶が飛び交っており、違う地区から多くの学生が集まっている証拠だった。
そんな中、控えめな眼鏡の少女が幸太郎に手を振っていた。

吹寄
 「百代さーん!」

幸太郎
 「吹寄か、おはよう」

隣のクラスの薄幸の少女吹寄は嬉しそうに幸太郎の下にやってきた。
お互いの関係は良好そうで、俺は少し距離を離した。

幸太郎
 「吹寄はテスト大丈夫か?」

吹寄
 「現国は大丈夫だけど、化学がちょっと自信無いかな?」

恋人関係のようにも見えるが、あれで不思議な事に友人関係なのだ。
幸太郎のフェチが相当拗れている以上簡単じゃないだろうが、吹寄も嬉しそうだし、幸太郎が不義理を働くとは思えない。
いずれお互い納得の答えを出すだろう。

と、やや後方で分析していると。

琴音
 「悠気君、おはよう♪」

後ろから線の細い美少女が声をかけてきた。
メロエッタの大城琴音だ。
琴音は嬉しそうに駆け寄った……が。

琴音
 「きゃ!?」

琴音は前のめりに倒れた。
俺は直ぐに琴音を抱きしめるように受け止めた。
琴音はなんとか地面に激突は防がれるが、不用心だったな。

悠気
 「琴音、気を付けた方が良い、まだ万全じゃない」

琴音
 「う、うん……ごめんなさい」

琴音は魔素を魔力に精錬する事で魔術として外部に放出し、かつての虚弱少女からは目に見えて健康になっていた。
とはいえ転び癖が治っていないのか、よく転ぶな。

悠気
 「ふむ……体重増えたな?」

琴音
 「ッ!? 悠気君の変態! 変態! 変態!!」

琴音は耳まで真っ赤にすると身体を離して胸を隠しながら俺を盛大に避難した。
意外とボキャブラリーの少ない琴音の批難は周囲の注目を集めた。

悠気
 「いや、別に他意はないのだが……」

琴音
 「お、女の子はね!? 体重は秘密なんだよ!?」

やれやれ……やはり女心とはかくも奇妙なものだ。
体重を気にするのが女子の常識だというのは理解したが、かといって俺は痩せすぎを褒めはしないぞ?
そんな俺の背中をポンと突然誰かが叩いた。
後ろ振り返ると大きな尻尾を持った低身女性がいた。

萌衣
 「やっほ悠気♪」

悠気
 「萌衣姉ちゃん?」

パチリスの高雄萌衣姉ちゃんだった。
3年生はこれから受験を控えている。
だが俺は彼女……というか高雄家との約束を思い出す。

萌衣
 「取り込み中みたいね、相変わらず女の子の扱いが下手なんだから」

悠気
 「姉さんにもそう思われていたか……」

琴音
 「えと、あの……?」

萌衣
 「ああごめん! それじゃ若人よ! 青春楽しみなさいよー!?」

萌衣姉ちゃんはそう言うと下駄箱を賑わせる集団に吶喊した。

萌衣
 「悠気ー! 放課後ねー!?」

それだけ伝えると、萌衣姉ちゃんのは人混みに消えた。
俺は見えなくなるまで手を振るのだった。

琴音
 「あの人はどういう関係?」

悠気
 「婚約者(高雄家側の言い分)」

俺は冗談交じりにそう言うと琴音は衝撃に全身を硬直させた。

琴音
 「なん、だと?」

悠気
 「どこぞの死神代行みたいな事を言うんじゃない、半分冗談だ」

琴音
 「半分!? 半分は本当なの!?」

ああ、俺は口にはしないが頷いた。
高雄家の大黒柱正輝氏は俺を婿養子に迎える気満々だからな。
籍をいれるかはまだ議論の余地もある。
勿論俺は萌衣姉ちゃんをこれからも支えるが、そういう浮ついた話は卒業後で充分だ。

琴音
 「悠気君……やっぱり凄い人なんだね……」

悠気
 「あのな? 俺は大した奴じゃない……だからこそ今こうしているんだ」

俺はそう言うと俯いた。
これではいけないと分かっている、だがやはり俺は今も世界を見守る彼女に想いを馳せるのだ。



***




 「今日は全員出席してるわね! 偉いぞガキ共ー♪」

担任のアリアドスの御影杏先生は出席簿を片手に全席埋まった教室に喜んだ。
俺は窓際席に座りながら、そんな他愛ない会話を聞いていた。
全員出席、結局それは現実では達成できなかった。
考えてみればそれは御影先生にも影を落としていたんだな。


 「来週からテスト期間なのは皆承知だろうけど、今からでも気を抜くんじゃないわよー! そんじゃ授業を待ってなさい!」

ホームルームが終わると御影先生は教室を出て行った。
すると自然と教室はしばしば賑やかに談笑が始まった。

瑞香
 「ねぇねぇ、数学教えて!」

丁度真後ろの席に座る瑞香はそんな事を言ってきた。
俺は頭を掻くと後ろを振り返るのだった。

悠気
 「で、どこを教えてほしい?」

瑞香は必死に勉強している様子だが、このままじゃ付け焼き刃だな。
俺は瑞香が指差した教科書のページを見て、ゆっくりと解説をした。



***



琴音
 「ラーララ、ラッララン♪」

お昼休み、俺はいつものように琴音と一緒に中庭にいた。
琴音は食欲もすっかり回復しており、食べるのは格段に速くなっていた。
食後には琴音は俺の監督の下魔術を行使した。
琴音の周囲に立ち込める金色の光は無害で何の効果もない。
しかし琴音にとってそれは安心できる陽だまりの魔術だ。
琴音の魔力が切れると、光は消え失せ、彼女はぐったりとした。

悠気
 「お疲れ、上手くなったな」

俺はそう言うと特別製のハーブティを琴音に差し出した。
琴音はそれを受け取ると、ゆっくりと飲んだ。
このハーブティは父親から教わった魔力の精錬で酷使した身体に良く効くそうだ。

琴音
 「ふぅ……慣れたみたい」

琴音は初めては気絶状態だったからな、それに比べたら相変わらず総魔力は少ないが意識も明瞭としているようだ。

琴音
 「でも、こうやって繰り返していたら私は走ったり、ジャンプしたりできるんだよね?」

悠気
 「出来る、だがその為には筋肉を付けろ、虚弱体質を改善しなければ本末転倒だぞ?」

「たはは」と苦笑する琴音は自分のほっそりとした腕を掴んだ。

琴音
 「そうだね……筋肉、ダンベル持ち上げられるように頑張るぞ! えい、えい、むん!」

琴音はそう言うと気合だけは充分だった。
琴音が本当にダンベル持ち上げるような筋肉少女になるかは疑問だが、意気込みは良し。



***



カツカツカツ。

放課後、俺は萌衣姉ちゃんと一緒に情報科の一室を借りて、パソコンのモニタと向かい合っていた。
高雄正輝に納期一年を期限に完成したゲームを納品するという仕事を受けているのだ。
とはいえ萌衣姉ちゃんはド素人も良いところ。

萌衣
 「あーもう! 分かんないー! 私、やっぱり才能無いのかなー?」

俺は席を立つと、萌衣姉ちゃんにコーヒーを差し出した。
許可を貰って部屋の中にケトルを置いており、インスタントコーヒーだが、萌衣姉ちゃんはそれを勢いよく煽った。

萌衣
 「熱!? アチチ!」

悠気
 「萌衣姉ちゃん、才能は初めからあるものじゃない、それに萌衣姉ちゃんに才能がないなら、俺がそれを補う。そういう約束だろう?」

萌衣姉ちゃんは「うん」と頷くが、やはり表情は堅く不安げだった。

萌衣
 「ごめん悠気、駄目なお姉ちゃんで」

悠気
 「ごめんよりもありがとうが欲しいかな」

俺はそう言うと萌衣姉ちゃんはハッと気付いて顔を逸した。
俺はふふと微笑を浮かべると、萌衣姉ちゃんの真横で萌衣姉ちゃんが躓いた部分を指摘していく。

萌衣
 「ありがとう……悠気、私の為に」

悠気
 「気にしないで萌衣姉ちゃんが好きだからこうしているんだから」

萌衣
 「うん……でも、お姉ちゃんも悠気に何かしてあげられないかな?」

悠気
 「なにか? そうだね……それじゃ笑って欲しい、笑顔の姉ちゃんが一番素敵だから」

萌衣姉ちゃんはそれを聞くと意外そうに、でも可笑しそうに微笑んだ。

萌衣
 「もう、なによそれ〜、アハハ♪」



***



下校時間、やや遅くなった俺は帰り道を急いだ。
だが、ふと暗がりの中あの猫のような額の寺を見上げた。
俺は無意識に石段を登ると、境内には誰もいない。

俺は境内を見渡すと改めて空を見上げた。
星が瞬き、そこには高度な演算が用いられている。
ふと、その時彼女は声をかけてきた。


 『どうしたの悠気?』

悠気
 「いや、やっとこの世界を手に入れたんだなって……」

俺は宵にそう返した。
すると宵は嬉しそうだった。


 『ファイト悠気♪ これから大変な事だってあるんだよ?』

悠気
 「それは予言か?」


 『ふふ……どうでしょ♪』

宵ならば未来の演算は可能な筈だ。
それでもそれをするかは宵に委ねられる。
あくまで理として、この世界を支える宵は本来、地上に干渉するべきではない。


 『悠気、幸せ?』

悠気
 「どうだろうな……きっと幸せなんだろう」

俺には寂しさがあった。
その原因は宵だ。
宵がいない、ぽっかりと不自然に空いた穴に不安になるような感覚だった。

だが、分かっている。
これは無理難題なんだ、宵には宵の道がある。
俺は俺の道を進まなければいけない。


 『じゃあ、もっと幸せになるよ♪ 皆悠気の事好きなんだもん♪』

悠気
 「皆?」

真理恵
 「ユウ様ー?」

ふと、俺を呼ぶ真理恵さんの声が聞こえた。
どうやら俺の帰りが遅くて迎えに来たようだ。
そう……か、皆だな。
俺が愛した皆が俺を愛してくれる。
うん、やっぱり幸せじゃないか。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第39話 幸せの在り処 完

第二部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語 完

to be continued……。

KaZuKiNa ( 2022/10/04(火) 18:00 )