突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第39話 好きな程残酷な愛



悠気
 「何を見るか」

次の日、俺は学園に向かいながら、俺が琴音に何をすればいいか考えた。
気がつけば学園は目の前であり、俺は校門を潜り抜けた。
やや混み合う時間、下駄箱前は人の山だった。
俺は後方で捌けるのを待つと、目の前にあの儚いシルエットの少女を見つけた。

悠気
 「琴音?」

琴音はこっちに気づいていない。
しかし人混みに立ち往生する様は見覚えがあった。
しばらく観察していると、不意に琴音は体勢を崩した。
後ろに倒れる琴音に俺は直ぐに駆け寄る。
彼女の身体を受け止めると、琴音は不思議そうに顔を見上げた。

琴音
 「え? 若葉君……?」

悠気
 「えと、大城……怪我はないか?」

俺はゆっくりと琴音を放すと、琴音から目を反らした。
正直どういう顔を見せればいいか、下手に近寄るのも有害だから困ったもんだ。

琴音
 「そ、そのありがとう……あ、昨日はごめんなさい」

琴音はそう言うと頭を下げた。
とりあえず昨日みたいにパニックは起こしてないな。


 『うう、やっぱりもどかしいよぉ〜』

宵は焦れったいというような声を上げた。
どうにも今回ばかりは、下手な手を打てないというスーパーハードな状況だからな。
だが、俺は琴音の人生をバッドエンドにするつもりはない。
大衆は悲劇を好むというが、そんなものは他所でやれ、俺の目の黒い内はそうはさせない。

琴音
 「そ、その若葉君、ぐ、偶然だね?」

悠気
 「なにがだ?」

琴音
 「昨日も……ここで会えたから」

琴音はそう言うと指を絡めて頬を赤くした。
俺はなるべく琴音を見ないようにしたが、その表情に俺は顔を隠してしまう。

悠気
 (くそ、やっぱり反則的だよな……)

琴音の可愛さはやはり群を抜いている。
儚い印象がそうさせるのか、それとも彼女の一途さがか。
兎に角俺は照れくさくなって、頭を掻いてそれを誤魔化した。


 『もしかしてだから琴音は学園一の美少女って?』

悠気
 (なんだそれ?)


 『私の元々いた夢の世界での話だけど、琴音って、一年生の時に学園美少女コンテストっていうのに優勝したんだって』

彼の創った夢の世界は救済をベースとした誰もが救われる世界だった。
真の意味で救われるかは、妥協も多く疑問だったが少なくとも琴音は救われた事だろう。
しかしなんでまた美少女コンテストなのだ?
美人だというなら他にもいるだろうに、いや美人ではなく美少女か。
もしかして琴音の願望だったりするのか?

俺は琴音を見ると、琴音も視線を返してきた。
「えへへ♪」と照れくさそうに笑う琴音に俺は不覚にも萌えてしまう。

琴音
 「あ、そろそろ大丈夫そう」

気がつくと下駄箱周辺の人集りも少なくなっていた。
琴音はその隙に自分の下駄箱に向かうと、俺も同様に向かった。
男女の下駄箱は壁を挟んだ反対側だ、とりあえず琴音と別れられたな。


 『ねぇ、悠気って本当に好きなのは琴音?』

突然だった。
あまり俺の色恋事情には無頓着な宵がそんな事を聞いてくると、俺は押し黙ってしまう。
いや、こんな物は陳腐か、そもそも宵は俺の思考を読める。
ただ宵は言葉にして欲しかったのだ。

悠気
 「正直多分そうなんだろう……」

宵はそれを聞くと、なにも言わなかった。
ただ、宵は黙して俺の背中を推す。
俺の本当に好きという感情、そこに嘘はない。
しかし本当に琴音が一番なのか……そこに俺は自信がなかった。
その脳裏には常に妹、そして宵があったからだ。

琴音
 「あっ、若葉君、まだなんだ」

気がつくと琴音の方が先に上履きに履き替えていた。
琴音は俺がまだなのを知ると、嬉しそうに俺を待つのだった。

琴音
 「若葉君、折角だから一緒に行きましょう?」

悠気
 「ああ……」

俺はやや顔を暗くしながら、上履きに履き替える。
教室に向かうと、琴音も横に並んで歩き出す。
俺は琴音を直視出来なかった。
寄りにも寄って直前に宵とのやり取りの性で凄まじく気不味いのだ。
しかし意外と察しのいい琴音相手には不味かったかも知れない。

琴音
 「若葉君、どうしたの……? 少し怖いよ?」

悠気
 「む……すまん、他意は無い」

俺は素直に謝罪した。
琴音に誤解を与える可能性も考慮しなければならなかったのだが、俺もまだまだだな。

琴音
 「……若葉君、なにか悩みとか?」

悠気
 「そんな所だ」

琴音
 「あっ、もしかして授業についていけないとか!? て、あはは……もしそうなら教えてあげたいけど、私も自信ないや」

悠気
 「大城はそれ以前に出席日数の問題があるだろう?」

琴音
 「あはは……仰る通り」

琴音はもうどうしようもないという風に苦笑した。
だが正直留年で済むならそのほうがいい、現実は来年を迎える事すら今の琴音には無理なのだ。

琴音
 「あ、教室もう……だね」

琴音は名残惜しそうにそう言った。
もう少しお喋りしたいのだろう。

琴音
 「若葉君、そのありがとうね」

悠気
 「なにがだ?」

琴音
 「うふふ♪ お喋り出来て楽しかったわ♪」

琴音はそう言うと先に教室に入っていった
俺は少しだけ待つと、後ろ頭を掻きながら中に入る。


 『分かっている事だけど、残酷だね』

悠気
 (会話が楽しいか……本当にそんな当たり前の事で)

俺の琴音を救いたいという想いはそれだけで強くなっていた。
だが方法は? 父さんは魔素に冒された琴音を救う事は不可能だと言った。
しかももう末期の琴音は残る余生をどう生きるかにかかっているのだ。

悠気
 (くそ、何を見る? 俺が今見ている物が答えなのか?)

魔術への至りの難しさ、しかし知らねば救えない女がいる。
俺は悪戦苦闘する状況に苦心しながら、それでも道を模索し続けた。

悠気
 (魔術とは空想の先にあるもの)

例えるなら掌から火を出すイメージ。
科学的には不可能だ、そんな知識の限界の先にこそ魔術はある。
だが、そんな基礎を知っても……いや、知れば知るほど俺は闇を実感した。
闇にはなにも見えない、ただ畏れしかなかった。
だが魔術とはその闇にあるなにかを手に入れる事だ。
まるでシュレーディンガーの猫の実験のように、闇にはなにかが『ある』と『ない』に別れている。

俺はそっと、闇に手を入れるイメージをする。
そこには何がある? だが俺は何も掴めずイメージは霧散した。

悠気
 (至らない……か)

俺はそれ以上は考えるのを止めた。
しばらくは魔を考えるのは止めておこう。



***



キンコンカンコーン。

4限目の授業が終わった。
昼休みが始まると各々動き出す。
俺は琴音を見ると、琴音は小さな弁当を手に持つと教室を出て行った。
恐らく目的地は中庭だな。


 『追いかけないの?』

悠気
 (とはいうものの……近づくだけで有害ときた、第一今は何をすればいいかさえ分からんのではな……)

俺は思わず溜め息を吐いた。
幸運を口から出ていくとは言うが、本当にそれどころではない。


 『もう! 駄目だよっ!? 悠気は琴音が好きなんでしょう!? だったら一緒にいてあげないと!』

悠気
 (お前……! 分かっているだろう!? 俺は魔素を放出しているのと同じなんだぞ!?)

正直何故宵が一番それを知っている筈なのに叱責するのか解らなかった。
宵は時折感情的になる事はあったが、今回はなにか珍しい。


 『悠気こそ分かっている!? 意図的に距離を取るのって、女の子はそっちの方が辛いんだよ!?』

悠気
 「ッ!?」

俺はこの可能性世界に来る前のやり取りを思い出した。
宵はずっと一人ぼっちで、俺の支援を続けてくれていた。
宵にはずっと俺だけ、もし俺が宵を忘れれば、その瞬間宵という存在は事実上消滅する。


 『私……悠気にはそんな風になってほしくない、琴音は悠気に無視されても、何も喜びなんて産まれないんだよ?』

痛感だった、俺は何をやっている?
まるで俺は琴音を恐れているかのようではないか?
違う、そうじゃない!

悠気
 「く!」

俺は急いで立ち上がると、琴音を追いかけた。
中庭に最短で向かう中、俺はそこに向かう小さなあの背中を発見した。

悠気
 「大城!」

その小さな背中は振り返った。
琴音は俺を発見すると、嬉しそうに微笑んだ。

琴音
 「あれ? 若葉君どうしたの?」

悠気
 「……大城、昼飯だろう? 一緒にどうだ?」

俺は琴音に近づくとそう言った。
琴音は少し驚いた顔をしたが、直ぐに微笑んだ。

琴音
 「いいの? 私、食べるの遅いし」

悠気
 「気にするな、俺がそうしたいだけだ」

そう言うと琴音は顔を赤くした。
俺自身浮いた言葉だなと思う。
だが、考えて泥沼に突っ込むなら、考えず宵の言うとおり、琴音と一緒にいる事を選ぶことにした。

琴音
 「う、うん……! それじゃよ、よろしくお願いします」

琴音は顔を真っ赤にしながらお辞儀する。
まるでお見合いするみたいな雰囲気だった。
俺達は一緒に歩くと、中庭に向かった。

琴音
 「あ、ここ……良いと思う」

琴音は相変わらず陽だまりのある場所を好む。
俺は何も言わず腰掛けると、琴音もそっと腰を芝生におろした。

琴音
 「え、えへへ♪ まさか若葉君に誘われるなんて思わなかった♪」

悠気
 「ふ、良いだろう? 仲良くしたってさ」

琴音
 「ふええ!? それって、それって!?」

悠気
 「また倒れるぞ、興奮は抑えておけ」

琴音は些細な事で声を上げた。
意外とメンタル面に問題を抱えているようで、迂闊な言葉は確かに危険だな。

琴音
 (うぅ、若葉君もしかして私に気があるのかな? でもでも! 私の片想いの筈なのに、都合が良すぎるよぉ〜!?)


 『琴音に尻尾があったら、すっごい振っていたろうね』

宵は琴音の心を読んだのか、そんな事を言った。
喜んでいる、という事か?

琴音
 「も、もう! 女の子に軽々しくそう言う事言っちゃ駄目なんだからね!?」

悠気
 「ふふ、流石に大城意外には使わないさ」

琴音
 「〜〜〜!!」

浮ついた言葉は得意じゃないが、必要であれば使わなければいけない。
実際琴音は他とは違う距離感にいる相手だから、まずはこういうやり方から探るしかないのだ。

琴音
 (これってもしかして誘われているの!? もうこのまま若葉君に押し倒されたり!?)

琴音は顔を真っ赤にしたままプルプル震えた。
改めてこういう彼女を知らない俺は珍しい物を見た気分だ。
俺と琴音、自然と付き合うようになったのはもっとゆっくりとしたものだったからな。

琴音
 「も、もう! 早くお昼ごはん食べましょう!?」

琴音はそう言うとお弁当箱を開いた。
その中身は相変わらず男性の弁当を想起させる。
作ったのはあの親父さんだろう。

琴音
 「えと……若葉君は?」

俺は言われて弁当箱を開いた。
中身は極普通の洋食弁当だ。
最もただ練習も兼ねての自作だがな。

琴音
 「わ、すごい! 茶色くない!」

茶色、というのは弁当における油物の比率だな。
洋食弁当という事で、主食はペペロンチーノ、サラダにはミニトマトとコーンをレタスにトッピングしてある。
メインは白身魚のフライだな。

悠気
 「意識しておけば、茶色の配分は減らせる」

琴音
 「うーん、でも私の場合お父さんだからなぁ」

琴音も本当なら自炊できる女性になりたいのだろう。
しかし今はそれも不可能、それほどやはり琴音の魔素汚染は厳しいと言える。


 『琴音、夢の世界ではとっても綺麗なお弁当だったんだよ』

悠気
 (それも細かく言えば琴音の願望なんだろう)

琴音の元気一杯に生きて、走って、恋をしたいという願いの欠片。
極当たり前のこと、女子高生の当たり前さえ奪われた少女の願いは残酷でさえある。

悠気
 (そもそも琴音が魔素に冒された原因はなんだ?)


 『私にもそこまで昔だと分からないけど、琴音が産まれた時には症状があった、つまりお母さんからの遺伝の可能性はないかしら?』

遺伝? 魔素は子に引き継がれるのか?
いや……考えてみればそもそも魔術の素養は遺伝する。
本来なら魔術師は結婚相手も魔術師の家系を選び、血を濃くしようするようだ。
俺のようなイレギュラーは魔術師の世界では相当珍しい事なんだろう。
なにせ陽性のPKMで魔術の素養を持っちまったんだもんな。


 『……確証が取れない事だけど、悠気なら魔素を除染出来るよね?』

悠気
 (当然だ、最もそれは魔術の行使に他ならないから、自己防衛の為だがな)

魔素そのものは人間にもPKMにも、等しくこの世界の存在にとっては毒である。
俺もまた魔素中毒にならないように、常に溜まった魔素を消費しなければならない。


 『だったらさ? 半分は人間って意味なら琴音だって一緒でしょ?』

悠気
 (まさかお前?)

俺はまさかと思った。
確かに俺と琴音は同じ陽性のPKMだ。
だがしかし、俺は父から魔術の素養を引き継ぎ、アルセウスの強靭な血肉があるからこそだぞ?
一方で琴音の両親にそのような素養があるとは思えない。
失敗すれば琴音の身体はどうなる?
俺は確証を取れない事は出来ないぞ?


 『琴音に魔術を行使させれれば、魔素は抜けていく筈なんだけど……』

机上論だ、宵の意見は理想も良いところ。
しかし俺だけではそれは決められない。
よりまざまざと琴音の苦しむ姿など見たくはないんだ!

琴音
 「どうしたの若葉君? なんだか顔色悪いような?」

悠気
 「琴音! あ、いや……その」

琴音
 「また琴音って言った……ふふ、じゃあお返しに私悠気君って呼ぶね?」

琴音はそう言うと屈託のない笑顔を浮かべた。
俺はいたたまれなかった。
彼女が俺に片想いする気持ちがあった事を知っているからこそ、彼女の健気さを見なければならない。
琴音を幸せにしてやりたい、その真実に俺は怯えているのか?



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第39話 好きな程残酷な愛 完

第40話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/09/30(金) 18:01 )