突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第34話 百代幸太郎について



瑞香
 「ふーん、お嫁さん、ねぇ?」

瑞香はみなもさんと二人で会話しているようだ。
そこに麻理恵さんやユズちゃんの姿が無いのは、二人で買い物に出掛けたせいだろう。
しかしその節々に時々不穏なワードが混ざって聞こえるのは何故だろう。
みなもさんはやや瑞香を警戒しているのか、不安げに胸を抑えた。

みなも
 「瑞香さん、それがなにか問題でしょうか?」

瑞香
 「別に〜、まぁ悠気が選んだんだし、私だって分かってますよー」

不安だ、明らかに瑞香の態度が不安なのだ。

悠気
 「おい……突然どうした?」

俺は堪らず二人の下に向かう。

瑞香
 「あ、悠気〜」

みなも
 「ユウ様」

二人は対象的だ、みなもさんは困った顔で、瑞香は笑顔だが心は笑っていないな。

悠気
 「一体何があった?」

瑞香
 「別にー、ただ悠気は私の事どう思ってんのかなーって」

俺は頭を掻くと、この夢の世界を安全に見守るのも楽じゃないなって実感した。
そしてそれは宵も同じだった。


 『だから言ったのに〜、やっぱりこうなるんじゃん〜』

悠気
 「あのな? 俺は瑞香の事を愛してる!」

みなも
 「そ、それでは私はどうなのですか!?」

今度はみなもさんが反応した。

悠気
 「皆愛してますよー!」

俺はそう言うと、その場から消え去るのだった。

悠気
 「はぁぁ……」


 『モテモテだねぇ』

俺は転移すると、空の上にいた。
空と言っても相変わらず、車やビルが浮かぶわ、極彩色の空が広がる超空間だが。
しかし瑞香と柚香の願いを大成させた事で、夢の世界は少しずつ確かな像を持つに至った。

悠気
 「次だ、次! 今は夢の世界完成が優先!」

俺はそう言うと今はあの四人の事は忘れる事にする。
ていうか麻理恵さんとユズちゃんは割と仲良くなったのだが、どうしてみなもさんと瑞香が問題を起こすのだろう?


 『ま、嫉妬なんて可愛い問題だけどね♪』

悠気
 「当事者からしたら堪ったもんじゃないぞ」


 『心配しなくても、彼女達は悠気を裏切らないよ、悠気が裏切らない限りはね?』

少し怖い言い方だった。
俺は裏切らない、だがこれは信念だけでどうにかならない事も知っている。

悠気
 「本人になんの落ち度も無い……それでも心に傷を負った奴がいる……奴は絶対に己を裏切れない」


 『幸太郎?』

宵が不安げに聞いた、俺は小さく頷く。
次のタスクはコウタだ。


 『分かった、それじゃ可能性世界線に悠気を連れて行くね?』

宵はそう言うといつものように時空改変を行った。
限定的なエリアに限るが、宵は理となって、俺は誘う。
次の瞬間俺がいたのは教室だった。

ワイワイガヤガヤ。

悠気
 「……」

俺は冷静に周囲を伺うと、そこがいつもの教室である事が分かる。
窓際には瑞香がいて、逆に通路側にはコウタの姿があった。


 『幸太郎の願い、一応おさらいね? 幸太郎はもう間違わない……己への戒めを願ったわ』

悠気
 (あいつらしいストイックな願いだよな)

だが、それがコウタ本人には難しかった。
文武両道、他よりも頭一つ抜けた超人が、女の子一人護れずに自責の念に潰されるなんて、どうやったら想像できるか?

悠気
 (とりあえず、先ずは観察だな)



***


放課後を迎えると、各々が動き出した。
俺は普段帰宅部だが、今回はコウタの背中を追う事にした。
コウタはいつものように体育館に向かうと、柔道着に着替えて柔軟運動から始める。


 『わぁ、幸太郎身体柔らかいねぇ』

悠気
 (相変わらずクソ真面目な男だ)

コウタはその後も柔道の練習に励んでいく。
2年生でありながら、実力はトップクラスであり、来年には部長を任されるだろう有望な男は改めて、観察すると凄まじくモテる。

女子A
 「百代先輩! ドリンクです!」

幸太郎
 「ああ、ありがとう」

女子B
 「タオルです!」

幸太郎
 「助かる」

女子C
 「キャー! 格好良い!」


 『うわ、知らなかった。幸太郎ってあんなにモテるんだ』

宵も驚く程、幸太郎には女子が纏わりつく。
だが幸太郎はまるで眼中に無いと言わんばかりに、色目を使う事さえ無いストイックさだった。

悠気
 (モテるのは知っていたが、ここまでとはな)


 『私の知っている幸太郎は人望はあったけど、全然モテなかったのになぁ?』

宵は大層不思議そうだった。
だが、俺は宵の証言から幸太郎の本質を考察する。
宵の生まれた世界線では幸太郎がどんな人生を送ったのかは解らないが、一つ分かるとしたら、アイツは平穏を求めているのか?

悠気
 (お前の知っている幸太郎は本当に誰にもモテなかったのか?)


 『うん、あ……でもね? 幸太郎ってメイドフェチらしいよ?』

悠気
 「ぶっ!?」

俺は思わず吹いてしまった。
その声は体育館に響いてしまい、コウタが俺に気がついてしまう。

幸太郎
 「悠気?」

悠気
 「退避!」

俺は慌てて体育館を離れた。
裏庭で俺は呼吸を整えると、宵に思わず突っ込んだ。

悠気
 「マジか? マジでコウタの奴メイドを?」


 『本当だよ! メイド喫茶ポケにゃんの常連だったから間違いない!』

悠気
 「それは……隠し通した方がいいだろう」

俺は一瞬、コウタは実はゲイなんじゃないかと疑ったが、夢の世界でメイドフェチなのがバレているということは、正真正銘のメイド好きなのかよ!?

悠気
 (それでJKに全くなびかないと思ったら……!)

俺は凄まじくやるせなくなると、コウタに対して怒りで拳を震わせた。
まさかコウタがそんな変態さんだなんて想像出来るか!?


 「あの、やめて!?」

悠気
 「?」

突然、裏庭の奥で一人の女子生徒がヤンキーっぽい男子生徒に腕を掴まれていた。
どう見ても暴漢であり、俺は無言で助けようとしたその時。

悠気
 (吹寄さん?)

俺はその女子生徒の顔に見覚えがあった。
眼鏡を掛けた茶髪三編みに地味な少女、間違いない。
だが、そうやって出遅れていると。

幸太郎
 「そこで何をしている?」

ヤンキー
 「あん? テメェ百代か?」

柔道着姿のコウタが現れると、ヤンキーも臨戦態勢に入った。
だがコウタは構えない、そこには武人としての彼の道があるからだ。

幸太郎
 「止めろ、負けるつもりもないが、喧嘩程無益な物はない」

ヤンキー
 「野郎……! 良い子ちゃんぶりやがって!」

幸太郎
 「お前こそ、その有り余る体力を青春に活かしてはどうだ? 柔道部は歓迎するぞ?」

ヤンキー
 「だれがやるか! ボケが!」

ヤンキーは幸太郎に殴りかかった。
だが、体格差で見ても幸太郎は一回り大きい。
しかも俊敏で、いとも簡単にヤンキーの拳を回避した。
俺はこのままじゃ不味いと思い一計を講じた。

悠気
 「先生ー! こっちです! こっちー!」

俺はそう叫ぶと、一番嫌な反応をしたのは当然というかヤンキーだった。

ヤンキー
 「ち!? 運が良かったな!?」

ヤンキーはそう言うとその場から逃げ出した。
残ったのは吹寄と幸太郎だったが、幸太郎は先ず吹寄の安否を確認するのだった。

幸太郎
 「大丈夫か? 怪我はないか?」

吹寄
 「あ、ありがとう御座います! 助けていただいて……!」

吹寄は深く頭を下げるが、あくまでストイックな武人たる幸太郎は首を振る。

幸太郎
 「偶然だ、たまたま知り合いがこっちに逃げたから追っていたら、現場に遭遇しただけだ」

悠気
 (追ってきたのかよ!?)

俺は呆れながら茂みに隠れるのだった。


 『それにしても幸太郎はやっぱり男前だねー』

悠気
 (侍かなにかの転生者って感じの性格だからなぁ)

コウタの武人的性格は武士道を特に重んじるかのようだった。
精神的にも大人であり、行動の一つ一つをよく考えている。
誰がどう見てもヒーローだが、アイツはそれを粛々と否定する。

幸太郎
 「それにしても悠気め…。突然逃げるとは、どんな悪巧みを?」


 『なにかしたの?』

悠気
 (記憶にない!)

全く身に覚えがないのだが、幸太郎は何度も俺を柔道部に勧誘しようとしてきたから、その関係か?
兎に角俺は身を潜めて様子を見る。

幸太郎
 「それじゃ俺は部活に戻る、君は直ぐに帰ることだ」

幸太郎はそう言うと、体育館に走って向かった。
取り残された吹寄はそんな幸太郎の背中を見つめ、ただ頭を下げると反対の方角へと足早に去っていった。

悠気
 「なるほど、吹寄がコウタに一目惚れしたのはここか?」


 『まぁ肝心のコウタは名前さえ聞かず去っちゃったけどね』

おそらく取るに足らない一生徒に過ぎない吹寄では、コウタの記憶にも残らなかったろう。
だが、もしかしたらそれこそが今回の願いの解決法ではないのか?


 『むむ? 悠気? 悪巧み?』

悠気
 「ふふふ、人聞きの悪い」


 『まぁ一応聞くけど、どうするの?』

悠気
 「コウタと吹寄をくっつけちまおう!」


 『お主も悪よのう! ムハハハ!』

今回の願いの一番の解決作、それはそもそも吹寄の告白イベントを成功させる事ではないか?
そうすれば吹寄も自殺しないし、コウタを自責の念に取らわさせない!

悠気
 「完璧だ!」


 『悠気他人の色恋凄く嬉しそうだね〜』

そうやって俺達は楽観視していた。
しかし今の俺達は知らない、それが絶対に不可能っていう理想プランだということを。



***




 『そもそも吹寄さんって?』

悠気
 「娘のことは、わしにも分からん」


 『一体その拳に何を聞けというのか?』

次の日、早速調査対象は吹寄に移っていた。
吹寄の事はよく知らんが、かつて彼女の噂で2年B組だと聞いていた。
因みに俺はA組な、そんな隣の教室を覗くとビックリする位地味な少女は直ぐに発見できた。
吹寄は真面目な文芸少女で、授業態度も先生の評価も良好であった。
だが生徒達の間では、吹寄の話は少し違った側面が見えてくる。

悠気
 (イジメか)


 『うぅ、瑞香ちゃんに引き続き?』

確証が取れる程じゃないし、瑞香の方ほど露骨でもないが吹寄には黒い噂が纏わりついていたのだ。
曰く売春をしている、教師と肉体関係だの……根も葉もない噂ばかりで、真相を知るならある程度覚悟が必要そうだった。

悠気
 「目に見えるイジメなら簡単なんだがな」


 『瑞香ちゃんぶつけるとか?』

悠気
 「それ絶対瑞香が停学食らうパターン!」

因みにこっちの可能性世界線では瑞香はイジメられたという形跡もなかった。
かつてと同様に陸上部に在席しており、どうも可能性世界線も少し変化してきているようだ。
いずれにせよ、瑞香なら他人のイジメでも黙っている訳がないが、あの女は下限を知らんからな。
そんじょそこらのPKMヤンキー位なら平然としばき倒すような奴だ。


 『肝心の幸太郎もさ? どうやって吹寄さんを印象づけるの?』

悠気
 「ぐ……さて、どうしたものか?」

恋のキューピットの方がよっぽど楽かと思ったが、全然そんな事はないな。
ただ間違いなく吹寄はコウタに恋心を寄せていて、そしてコウタはそんな吹寄に全くと言って良いほど興味を持っていない。
このまま手をあぐねいたら、いとも容易く史実再現は成されるだろう。

幸太郎
 「おい、悠気? 通路に突っ立って一体どうした?」

通路側に席のあるコウタは俺が気になったか声を掛けてきた。
つか、冷静に考えたら意外と吹寄とコウタの物理的距離は近いな。

悠気
 「なぁ? コウタ、B組にお前が助けた奴がいるだろう? 覚えているか?」

幸太郎
 「B組に?」

コウタは目を細めると、B組を覗いた。
吹寄は……気付いていない、どうやら本に夢中の様子だった。

幸太郎
 「いや、覚えていないな」

悠気
 「吹寄って言う奴だ」

幸太郎
 「吹寄? ふむ……だが、どちらにしろ興味がないな」

コウタはそう言うと興味を無くした。
こいつにとって他人がどう映っているか、端的に現しているようだった。

悠気
 「お前、助けた相手にとことん興味ないのな?」

幸太郎
 「それより、昨日は何しに体育館にきた? もしかして柔道に興味があるんじゃないか!?」

コウタはもはやそんな事はどうでもいいと、柔道勧誘に切り替えてきた。
俺はウンザリすると、その場から逃げ出す。

幸太郎
 「待て! お前には才能がある!」

悠気
 「オタッシャデー!」

俺は逃げ出すと、屋上に向かうのだった。



***



 『あれ? そう言えば立入禁止じゃないんだ?』

悠気
 「ん? 夢の世界だと違ったのか?」

こっちでは少なくとも今は立入禁止ではない。
だが宵の知っている世界だとはじめから立入禁止だという。
もしかしたら飛び降り自殺を防止する為か?
いや、そもそもコウタの願いは己の戒めだ。
夢の世界でそもそも浮ついた話をコウタが望む筈がない。
吹寄も下手すれば存在しないかも知れないのだ。

悠気
 「はぁ……どうすれば先ず吹寄を印象付けられる?」


 『吹寄さんも、結局は自殺するほど追い込まれていたんだよね?』

俺は深刻な顔で頷いた。
本当にお先真っ暗で、俺には千日手のように思えた。
コウタは女に興味や関心を持たない。
関心を持つのはメイドだ、それもどちらかと言うと年上好きだろう。
あんな隠れ性癖持ちを振り向かせるとか無理ゲーでは?
いっそ暴露して、公然の事実にするか?


 『幸太郎が胸に7つの傷を持つような事はやめてあげて〜!』

流石に冗談だが、宵は俺の暴虐を批難した。

悠気
 (分かってる……俺もそこまでイカれちゃいない)

俺はゆっくりと飛び降り防止フェンスの前に寄った。
優に背丈を越える金網フェンスだが、金網はその気になればニッパーで簡単に切れる、それこそPKMなら如何様な方法でも穴を開けられるだろう。
俺はそんなフェンスの下を覗いた。

悠気
 「吹寄はここから飛び降りを……」

その下はグラウンドの前で、吹寄は花壇の前の煉瓦敷きの下に頭から落下した、それは即死だった。
頭から吹き出る血は、想像以上に赤く、絶対に許してはいけない物だった。
何よりコウタはあんなにも素っ気ないのに、あの時我を忘れる程取り乱したのだ。

悠気
 (コウタは正常な感性を持っていた、他人の無様に取り見出せる奴だった)

いつも鼻に付くように達観していたが、アイツも同じなんだ。

悠気
 「コウタ……どうすれば気づく? 過ちは過ぎればそこまでだぞ?」

俺はムカつく程青い空を見上げながら、刻一刻と迫るタイムリミットに苛立った。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第34話 百代幸太郎について 完

第35話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/08/26(金) 18:01 )