突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第32話 姉妹の愛し方と愛され方



悠気
 「間に合った」

登校直後、俺は本当は大して気にする必要も無いのだが、律儀にホームルーム前には教室に入った。
しかし教室に入ると少し不穏な雰囲気が漂っていた。

悠気
 「む? これは一体?」

俺はその原因を求めた。
そしてそれは直ぐに理解した。
瑞香だ、瑞香がとある女子三人組を相手にしていた。

女子A
 「アンタさ〜、ウザいんだよね〜? 何学校来てんの?」

女子B
 「ていうか、今日に限ってなに? アタシらに興味でもあるわけ?」

イジメの主犯格三人は、瑞香を恐れてはいなかった。
しかし肝心の瑞香は無言で腕組みをしていて、その空気はまるで麻理恵さんのような闘う者の空気だった。
俺は少し警戒する、瑞香を信用するにはこれは少々リスクが高い。

瑞香
 「……今までアンタ達とか、正直どうでも良かった、ていうか今でもどうでもいいんだけど」

女子A
 「ハァ!? 何クール振ってんの!?」

瑞香
 「……っ!」

その瞬間、粋がる女子相手に瑞香は鋭い回し蹴りを放った。
その蹴りは正確に女子の頭部を捉えていた、しかし!

ブォン!

女子の前髪が風圧で跳ねた。
瑞香は当たればどうなっていたかも分からない恐ろしい蹴りを天才的な運動神経で鼻先3センチ手前でわざと掠めたのだ。
女子は何が起きたのか最初分からなかった。
だが、瑞香はクールにエメラルド色の髪を掻くと見下すように女子に言った。

瑞香
 「次は当てるわよ?」

女子A
 「あ……あ?」

瑞香はそう言うと踵を返した。
女子達は皆顔を青くすると、その場にへたり込む。
文字通り『理解らされた』のだ。

悠気
 「ふう、血生臭い事にならずに済んだか」

俺は当たるならその前に止めるつもりだったが、アイツの天才的な格闘センスにミスの二文字は無いようだ。
つーか、やっぱりアイツ格闘タイプじゃねーのか?
瑞香にしても陰湿なイジメを繰り返されては鬱陶しいのは本音だろう。

幸太郎
 「山吹の奴、元に戻ったな?」

同じく見守っていた幸太郎は腕を組んでそう言う。

悠気
 「いや、まだだ」

しかし俺からすればまだ不完全だ。
瑞香にはユズちゃんという凝りがある。
或いはトゲと言ってもいい、兎に角瑞香はまだ完全な笑顔を取り戻してはいないのだ。

キーンコーンカーンコーン。

やがてチャイムが鳴った。
瑞香は机の上に広げられたゴミを片付けると、なにも気にせず席に着いた。
俺も席に着くと、いつものように御影先生がホームルームに現れる。


 「おーいガキ共! ホームルーム始めるわよー!」

悠気
 (ユズちゃん……か)



***



キーンコーンカーンコーン。

瑞香
 「悠気ー! 昼ご飯行くわよー!」

4限目の授業が終わり、直前まで授業を執り行っていた先生が教室を出ると、直様瑞香は立ち上がった。
あからさまに浮かれている。
俺はこいつと昼飯を食う約束を思い出した。

悠気
 「……食堂か?」

瑞香
 「もっと静かな場所が良いわねー、屋上はどう?」

俺は頷く、俺達は布で包んだ弁当箱と水筒を持つと、二人で教室を出るのだった。

瑞香
 「ふんふんふーん♪」


 『それにしても上機嫌だねー』

悠気
 (弁当の何がそんなに嬉しいんだか?)

瑞香は上機嫌にスキップしかねない勢いだった。
俺は少々呆れながら、そんな瑞香を見守る。
瑞香のエンゲル係数がどれだけ悲惨だったかは、推して知れるとはいえ、やはり女心とはかくも難しい。


 『悠気だってさー、みなもさんとかがお弁当用意してくれたら嬉しくない?』

悠気
 (そりゃ嬉しいが……顔に出る程か?)


 『駄目だこりゃ……悠気異性を意識しなさ過ぎ〜』

悠気
 「?」

どういう意味だ?
宵に馬鹿にされるのは心外だが、俺もその程度の男という事か。
俺はそう諦めると、ふと通路で見知った女子生徒を見つけた。
同時に女子生徒も此方を見つけて笑顔で会釈した。

柚香
 「あ、悠気先輩」

悠気
 「ユズちゃんどうしてこっちに?」

瑞香
 「ユズ……」

当然この女子生徒を発見した瑞香は気不味そうだった。
普段1年生は2階が教室であり、2年生の俺達はその上階の3階、用が無ければ下級生が来る事は無い筈。

柚香
 「今日は屋上にでも行こうかと」

瑞香
 「あら奇遇ね、私達もなのよ」

偶然と言えるか、このバッティングは両者に気不味さを生む。
俺はそんな二人を見ていられなくて、こう提案した。

悠気
 「ユズちゃん、一緒に昼飯どうだ?」

それを聞いたユズちゃんは意外な顔をした。
だがそれ以上に困った風に眉を顰める。

柚香
 「その……良いんですか?」

悠気
 「たまにはな」

瑞香
 「悠気……その」

柚香が困れば、瑞香もだ。
俺は瑞香には冷静に諭した。

悠気
 「いいか? 家の事は一旦忘れろ、妹と仲良く過ごす事は悪か?」

瑞香
 「それは……違う、けど……」

兎に角この姉妹はこんな調子でギクシャクしたままだ。
これで状況が好転するなんて、お互い思っちゃいないだろう。
かつてなら瑞香は絶対に第三者の言葉を受け入れなかった。
だが、今なら俺の言葉位なら聞いてくれる筈だ。

瑞香
 「わ、分かったわ、ユズ、久し振りにお姉ちゃんと食べましょう♪」

瑞香はそう言うと、やっとユズちゃんに対して笑顔を見せた。
随分久し振りに笑顔を見たであろうユズちゃんは、少し涙ぐむのだった。


 『アクシデント?』

悠気
 (かも知れないが、災い転じて福となす、かもな)

宵にはこれがチャンスかアクシデントか判断出来ないようだ。
だが俺はこれをチャンスと捉える。
とりあえずユズちゃんと接触する必要性はあったからだ。

瑞香
 「ほら、悠気! 行くわよ!」

俺は立ち止まっていると、ユズちゃんの手を引っ張りながら先を行く瑞香が俺を呼んだ。
俺は意識を宵から目の前に移すと、二人を追いかけた。



***



屋上は空中庭園のように整備されていた。
本来なら屋上はしっかりとした落下防止柵とフェンスで囲まれた学生達憩いの場だった。
ただ、ここは後に立ち入り禁止になる事を知っている俺は少しだけ悲しかった。
安全対策は充分だった筈だが、それでも完璧等存在しない。
俺はそんなフェンスの向こうを見て、飛び降り自殺した吹寄がどんな気持ちだったのか考えるのだった。

瑞香
 「なーに、黄昏てんのよ?」

ポカン!

俺は驚いて目を瞬いた。
瑞香がグーで俺の頭を叩いたのだ。
それを見たユズちゃんは口元を手で塞いで驚いた。

柚香
 「お、お姉ちゃん!? 駄目だよ暴力は!?」

瑞香
 「何言ってんの! 軽い軽い!」

実際、瑞香はちゃんと加減していた。
とはいえユズちゃんが非難しているのはそこじゃない。

柚香
 「もう……すぐ手を出す、お姉ちゃんいつかトラブル起こすか心配だよ……」

瑞香
 「あ、あのね〜? いくらなんでも私そんなに短気じゃないわよ?」

悠気
 (思いっきり今日イジメ主犯格の女生徒を恫喝した女とは思えんな?)


 『アハハ♪ でも久し振りにこんな二人を見た〜♪』

俺は無言で微笑を浮かべ頷いた。
確かに久し振りだ、他愛もない痴話喧嘩も今では久しく見ていなかった。
これがどれだけ尊いのか……世界の誰も知らないのだろうな。

瑞香
 「もう、そんなに私って信用無い?」

悠気
 「信用される要素なんてあったのか?」

瑞香
 「うっさい!」

ゲシ!

割りと本気のツッコミチョップが頭部を捉えた。
俺は首を曲げ、恨めしく瑞香を見る。
当然さっきから口を酸っぱくして暴力非難していたユズちゃんは騒ぎ出す。

柚香
 「お姉ちゃん!? 言ってる側から!? 大丈夫ですか悠気先輩!?」

悠気
 「ああ、俺は大丈夫だ」

柚香
 「良かった……! お姉ちゃん……」

今度はユズちゃんが瑞香を睨む。
瑞香はそんな妹を見て怯んだ。

柚香
 「謝って」

瑞香
 「え? こんな他愛もない事で?」

柚香
 「謝って!! 悠気さんに!!」

悠気
 「ッ!」

瑞香
 「アイエエエ!? ごめんなさいっ!」

随分久し振り見たユズちゃんが本気で怒る姿。
凄まじい剣幕に瑞香は圧倒され、平謝りするが、俺はそれ以上にユズちゃんの一言に意外に思った。

悠気
 (いま、俺の事さん付けで?)

それは些細でどうでもいい事のように思える。
だが、宵ならばその意味を勿論知っているだろう。


 『夢の中と一緒だ』

そう、彼はずっとユズちゃんに悠気さんと呼ばれていた。
彼とユズちゃんは、今の俺と彼女よりも親密だったのだろう。
もしもあれが皆の幸せを統合した世界だったならば。


 『やっぱり柚香ちゃん、悠気の事好きなんだね』

俺もそう確信した。
奇しくも彼は誰の愛も受け入れられない程心が荒んでいた。
例えユズちゃんが愛の告白をしたとしても、彼は心に波風一つ吹かせないかも知れない。
だが現実では良くて親しい後輩止まりだった。
ユズちゃんは中学生の頃は今よりも俺に好意を寄せていたが、それでも瑞香程露骨ではなかった。
ずっと控え目な生き方をしてきたユズちゃんの本当の願いとは。

柚香
 「本当にお姉ちゃんが迷惑をかけてごめんなさい!」

悠気
 「いや、気にしてない……それよりさっさと昼飯を済ませよう」

ユズちゃんは本当に優しく気立ても良い。
ただ欠点を上げるならば、その控え目さ、主張の少なさだろう。
しかしそんなユズちゃんにも姉と同様の気性が存在する。
姉が普段から暴力女と呼称される気性ならば、妹も誰にも見せない暴力的な気性が存在するのだ。

悠気
 (父親を殺す……か)

恐らくユズちゃんも、衝動的に瑞香を守る為に殺害に及んだのだろう。
しかしそれが姉を更に追い込む等考えていなかった筈だ。
本当に損な性分、この姉妹にはそんな性分が付き纏っていた。

瑞香
 「はぁ、それじゃいただきまーす♪」

瑞香は弁当箱を開くと目をキラキラさせた。
それはなんの変哲もない普通の弁当なのだが、なにがそんなに嬉しいんだろうな?
宵曰く俺には分からない物らしいが。
俺ってやっぱり愚鈍なのか?

柚香
 「お姉ちゃん、その弁当って?」

瑞香
 「悠気の手作り♪ 私専用の!」

瑞香の幸福度は絶頂だった。
弁当を掲げると、まるでそれが天よりの宝札であるかのようなオーバーリアクションに流石に俺も突っ込んだ。

悠気
 「たかが一食250円の弁当に大袈裟なアクションをするな」

全く、最近は物価が高いから困る。
節約レシピは幸い彼の記憶から驚く程見つかるから困らないが。

瑞香
 「もう! ユズなら分かるでしょう!? このお姉ちゃんの想い!」

柚香
 「うんうん! 分かるよ! やったね! お姉ちゃん!」

何故かユズちゃんまで感動して何度も頷いた。
な、何故だ? 極普通の弁当だぞ?

悠気
 「いいから食べろ」

俺は呆れながら自分の用意した弁当を頂いた。
うむ、我ながらやれば出来るものだ。

瑞香
 「うーん♪ この卵焼き絶品♪」

柚香
 「お、おおお、お姉ちゃん……良ければ一口」

悠気
 「俺ので良ければどうぞ」

凄く物欲しそうな顔をするユズちゃんに見兼ねて、俺は卵焼き一切れを彼女の綺麗な弁当の上に載せる。
ユズちゃんはまさかの俺からのプレゼントに目を点にすると、顔を真っ赤にした。

柚香
 「あ、あああありがとう御座いますっ!」


 『まーたやっちまった、もうーこれだから朴念仁は〜』

悠気
 (何故呆れられなければいけないのだっ!? 普通だろ普通!)


 『社交性死んでる討希さんの遺伝じゃないなら、間違いなく育美さんの遺伝かぁ〜怖いなぁ』

何故か両親の話になってしまう。
俺は自分の性格に関しては、そういう性分なのだから変えようもない。
果たして父譲りか母譲りかなんとも言えないが、俺の性分案外父親似の気がする。

柚香
 「うそ!? 美味しい!? 料理部でもこんな美味しい卵焼き作れる先輩なんていないわ!?」

そういえば料理部で一番腕が立つのはユズちゃんだったな。
余裕で10万時間以上のプロの条件と言われる実技を熟してきた彼からすれば、料理部部員ではアマチュアと評しても仕方ないのだろう。

悠気
 「因みに豆テクだが、マヨネーズを使うと油節約出来て下味も整うぞ、節約レシピではマジオススメな」

柚香
 「しかもこれで節約レシピ!? 私って一体……」

瑞香
 「もう止めて! ユズのライフポイントはもう0よ!?」

どうやらユズちゃんのプライドをズタボロにしてしまったらしく、ユズちゃんはガックリ肩を落とした。
そんな妹を見兼ねて、弁当をバクバク食べながら瑞香が庇う。
ていうか、こいつ本当に庇う気あるのか?

悠気
 「こ、こほん! まぁなんだ? 精進すればユズちゃんだってこれ位」

柚香
 「うぅ、それもうプロ目指せっていう事ですよね? 頑張りますっ!」

なんだか段々取り付く島が無くなってきたぞ。
俺は戸惑いながら、ただ自分の不甲斐なさを呪った。

悠気
 (うん、我ながらこれが作れたんだな)

瑞香
 「ふぅー、ご馳走さまー、美味しかったわ♪」

悠気
 「ほれ、お茶」

俺は食べ終えた瑞香の水筒を取り出す。
中身は普通の麦茶で、俺は水筒の蓋兼コップにそれを注ぐと差し出した。

瑞香
 「ありがーー!?」

瑞香はコップを受け取ると突然顔を真っ赤にした。
そして瑞香は焦った様子でコップを俺に押し返す。

瑞香
 「や、やっぱりいい!? ユズ、貴方の頂戴!」

柚香
 「は、はい! どうぞ!」

ユズちゃんは水筒を取り出すと、そこに俺と同じように注いで手渡した。
瑞香はそのまま呷るように一気に飲み干した。

瑞香
 「プハー! やっぱりユズのアプリコットティーは美味しいわねー」

ユズちゃんお手製の紅茶は良い匂いがした。
飲み慣れた味に瑞香も一息ついたようだ。

悠気
 「一体麦茶の何がいけなかったんだ?」

瑞香
 「あ、いや、そのー……」

瑞香は顔を真っ赤にすると、上の空でそっぽを向いた。
なぜだかユズちゃんまで顔を赤くしていた。

柚香
 「そ、その……悠気先輩、もうお姉ちゃんとそういう関係なんですか?」

悠気
 「は? 俺と瑞香の関係?」

瑞香
 「ば、馬鹿!? な、なんの関係でも無いわよ!?」

瑞香が慌てる、俺はまだ理解していなかった。
ユズちゃんが求めている答えは。

柚香
 「その……お姉ちゃんとキスとか、そういうの」

ユズちゃんは顔を隠すと、恥しそうに聞いてきた。
俺はそれを聞いてようやくユズちゃんの意図を理解した。

悠気
 「いや、まだだな」

瑞香
 「そーよ! まだ! まだ早いと思うわ!」

早い遅いは別だが、少なくともまだ必要だとは思っていない。
ユズちゃんが俺を好きだっていうなら、ユズちゃんには気になる事だろう。
ユズちゃんは俺が瑞香と付き合っているか知りたいのだ。
乙女という者か。

悠気
 「ユズちゃんも、そういう恋愛に興味があるのかな?」

柚香
 「わ、私、悠気先輩……あの」

控え目に言ってもユズちゃんは可愛い。
もしもっと恋多き子なら、俺なんかに拘る事も無かったろう。
だがもし俺が彼女を惑わせているなら、俺が責任を取らないといけないだろう。

柚香
 「私……悠気先輩の事、好きです」

瑞香
 「ユズ……」

柚香ちゃんは頬を赤くして、掠れるような小さな声でそう告白した。
瑞香は驚いた、だが何かを確信して瑞香は落ち着いた様子で頷いた。

悠気
 「その気持ちありがとう……俺もユズちゃんの事好きだよ」

ユズちゃんはその瞬間顔を明るくした。
そして瑞香は何かを諦めたように微笑を受けべるのだった。
だが……二人は一つ勘違いしている。
俺がこんな歯が浮くような言葉を使った理由、そしてそれは事実でもあり、訂正せねばならない事があるのだ。

悠気
 「だが、同様に俺は瑞香も愛している」

瑞香
 「え? ちょ、え? えええ!?」

瑞香は目を丸くすると、素っ頓狂な声をあげて、後ろに倒れ込んだ。

瑞香
 「あ痛!?」

悠気
 「何やってる? 頭を打ったのか?」

俺は倒れた瑞香を起き上がらせると、瑞香は俺の顔を見て、耳まで真っ赤にして、頭を沸騰させた。

瑞香
 「ピャー!? あふん……!」

悠気
 「おっと」

瑞香は奇声を上げたのを最後に、彼女は気絶した。
力無く崩れる瑞香を俺は優しく抱き止める。
改めて無茶苦茶な女だが、持ってみると意外と軽いものだな。

悠気
 「そういう訳だから……ユズちゃん?」

俺は優しく瑞香を降ろすと、ユズちゃんは哀しい顔をして、胸を抑えつけていた。

柚香
 「私はお姉ちゃん以下ですか?」

悠気
 「以上とか以下とか、そういう物では」

柚香
 「教えて下さい! 悠気先輩は私よりもお姉ちゃんですか!?」

俺は驚いた、ユズちゃんが大きな声を上げた事もだったが、それよりもユズちゃんの飽くなき姉への執着にだった。
俺は俯くと、ユズちゃんが何を求めているのか思考した。
だが、どうやっても理解らない……何故そんなに瑞香に拘る?

柚香
 「ごめん、なさい……私嫌な女ですよね? でも私にとってお姉ちゃんは特別なんです」

悠気
 (特別……!)

ユズちゃんの確執、それは間違いなく姉絡みだった。
だが、俺は彼女の想いを肯定出来るか?
俺は自分の心に一度問い掛ける。
らしくないとは思うが、俺はユズちゃんの全てを受け止めなければいけない。

悠気
 (俺は俺か……どうなろうとも、俺は自分を変えられない)

俺は自分の心に聞いて、その結論はやはり俺のやり方を貫くしかないと知る。
無論それは間違いだろう、俺は間違えを犯す。
だが、その間違いを俺は必ず改善する。

悠気
 「改善、改善あるのみ……か」

俺は彼の口癖をボソリと呟いた。
ユズちゃんも聞き取れない小さな声だった。
だが、俺はそれでマインドセットは完了した。
彼にとってどういう意味があったかは俺には理解らないが、俺には魔法の言葉だった。

悠気
 「ユズちゃん、どうして俺を好きになったんだ?」

柚香
 「え? そ、それはお姉ちゃんと……あ!? いえ……その」

悠気
 「誤魔化さなくていい、正直に答えて?」

俺は彼女を優しく諭すように、そして答えを落ち着いて促した。
ユズちゃんは観念すると、一度大きく息を吸い込み、そして吐いた。

柚香
 「私がまだ小学生の時、お姉ちゃんと悠気先輩が中学校で仲良くなって……それが私羨ましかった。お姉ちゃんが好きな物はなんでも私好きになったんです……それは悠気先輩貴方も」

ユズちゃんにとって、たった一つ年上でも、小学生にとって中学生は大きく見えただろう。
ユズちゃんはいつだって瑞香と一緒にいた、姉が妹の憧れになったんだな。
だけど、ユズちゃんは顔を暗くした、その理由、後ろめたさが彼女にはあった。

柚香
 「お姉ちゃんが悠気先輩を好きなの知ってた、それなのに私は悠気先輩が欲しいと思ったんです……本当に、酷いですよね?」

ユズちゃんは一筋涙を零した。
俺は無言でその涙を拭うと、首を横に振った。

悠気
 「感情に従えばそれは当然の情動だ」

柚香
 「でも! もしかしたら私はお姉ちゃんの真似をして悠気先輩に恋しているだけかも知れないんですよ!? それなのに私はお姉ちゃんより愛されたいって思っている……!」

悠気
 「ユズちゃん、それは君の本当の気持ちだ、君の望みはそれなのだろう?」

この世界は綺麗な物も汚い物も混在した世界だ。
どれだけ取り繕うと、ユズちゃんの意思はそういう略奪愛になってしまうだけだ。

悠気
 「ユズちゃん、俺が好きか? 俺は瑞香も愛するぞ?」

柚香
 「好きなんです! 愛してしまったんです!」

それがユズちゃんの本当だった。
ユズちゃんは結局いくら論理で動いても、感情の前には論理は矛盾を示した。
優しくお淑やかな彼女の本質こそが、こういう論理を超越する感情の暴走なんだろう。

悠気
 「ユズちゃん……ん」

俺はユズちゃんに優しくキスをした。
本の一瞬の触れ合い、ユズちゃんには刺激が強過ぎたかも知れない。
彼女は唇が離れると、吐息が俺に触れた。
欲情した彼女は目を潤わせて、俺に抱きつこうとする。

柚香
 「先輩……ずるいです、でもそんな先輩を愛してしまう私は安い女かもしれない」

悠気
 「そんな事はない、君の好意は本物だ」

俺は優しく彼女を抱きしめた。
ユズちゃんに必要なのはやっぱり愛なんだろうな。
姉の事が好きで、でも姉に対抗してしまう、そんな彼女を俺は癒やしてあげたい。




『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第32話 姉妹の愛し方と愛され方 完

第33話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/08/29(月) 20:06 )