突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第29話 山吹瑞香の問題



悠気
 「……改めてまだこれからなんだな」

俺は今、重力もままならない極彩色の時空中にいた。
みなもさんと麻理恵さんの二人はもう心配いらない様子になり、俺は更に夢の世界の完成を進めるのだった。


 『次は誰を助ける?』

宵がそう言うと、俺は情報端末に表示されるリクエストを見た。
次に叶えるべき夢は?

悠気
 「瑞香だ」


 『瑞香ちゃん?』

俺は頷く、やはりいつまでも瑞香を放ってはおけない。
だが、それでも不安はある。
瑞香はあれで頑固なのだ、果たして俺の言葉を受け入れてくれるか?


 『じゃあ時空改変を行うわよ?』

俺は覚悟を決めると、宵は理に則って、時空を歪めた。
次に俺がいたのは……。



***



ミーンミンミン!

瑞香
 「暑う……」

私は河川敷にいた。
ここは私の今の住処、橋の下のダンボールハウスがこの山吹瑞香の唯一安心出来る場所なのだ。
とはいえ既にセミが鳴く季節、少々この暑さは応える。

瑞香
 「はぁ、泣き言は言ってられないわね」

私は訳あって野宿で過ごしている。
訳って言っても家族と大喧嘩した末に私が出ていっただけなんだけど。
私は学生服に着替えると、鞄を持った。

瑞香
 「後少しで夏休み……そしたらバイトでしこたま稼いでこんな生活おさらばしてやるんだから!」

私はそう自らに活を入れると、橋の下から夏日の下に出た。
暑い……これ本当に朝の暑さじゃないわよ……。



***




 『瑞香ちゃんの事は説明いらないと思うけど、この日は瑞香ちゃんのターニングポイント、悠気解ってる?』

悠気
 「……理解している」

俺は瑞香を救う為、再びこの世界に戻ってきた。
いや、戻ったというのは正しく無いが、俺にとっては正真正銘忌わしき世界線だ。

悠気
 「まずは瑞香を探す!」

俺は学生達で賑わう通学路から離れると、瑞香の姿を探す。
大凡だが宵のナビゲートで俺は目的の場所を目指した。


 『それにしたって、どうして瑞香のお父さんたちは子供にそんな酷い事が出来るのかな?』

悠気
 (毒親の気持ちか、考えたくもないがな……)

宵にとっては、親とはどういう存在なのだろう?
彼は記憶では父親を恨んでいたが、実際はただの八つ当たりだった。
実際の事情は父さんは魔術師である為に家族と一緒にいられないという事だった。


 (討希さんの場合、魔素汚染だね……悠気はともかく並のPKMには毒でしかないからね)

ハーフのPKMは第一世代より耐性はあるらしいが、それでも毒は毒。
魔術師の放つ魔素はPKMの身体には危険だった。

悠気
 (妹もハーフだったが、父さんが俺に魔術を教えなかったのは、俺が下手に魔素を放出しない為か?)

もしそうであれば俺の存在が妹への害となる。
今は宵がその理によって、俺の魔素は封じられているが、ことごとく俺は知らなかったからな。


 『ッ!? 悠気走って!』

突然宵が走れと言った。
俺は迷わず神速で走る!
俺は風となり走る中、瑞香を見つけた。
しかその後ろにはダンプカーが!?

悠気
 「瑞香ー!? 危ない!?」

瑞香
 「え……?」

俺は迷わず瑞香を抱きとめると、横に飛び退いた。
ダンプカーはやや乱暴な運転だが、そのまま俺達の横を通過した。

瑞香
 「え? 悠気……アンタどうして……?」

悠気
 「瑞香!? それより怪我はないか!?」

俺は瑞香の様子を心配した。
瑞香は転んでいるが、特に怪我は見当たらない。
とりあえず物理的な一つの関門は切り抜けたな。
だが、瑞香は俺を睨みつけると立ち上がった。

瑞香
 「アンタ学校はこの方向じゃないでしょ?」

悠気
 「関係ない、瑞香が大事だ!」

瑞香
 「はぁ? アンタ馬鹿? 私より自分を大切しなさいよ、この赤点野郎!」

瑞香は刺々しい態度でそう言い放つと、スカートに掛かった砂を手で払い退けた。
その姿、態度も俺を全く受け入れない強行な態度だった。


 『ヒエ〜、あの瑞香が悠気を?』

悠気
 (俺の知る瑞香はむしろこういう奴だったんだがな)

どうも彼の世界の瑞香は普通のツンデレだったようだが、こっちの瑞香はかなり拗らせている。
彼の場合、そもそも事件なんて起きないようにして瑞香を護っていた。
両親との不仲も臭い物には蓋をする方向で調整していたのだ。
だが……本当にそれで瑞香は救われるのか?

瑞香
 「はぁ……アンタも遅刻しないようにしなさいよ?」

悠気
 「待て、一緒に行こう!」

俺は瑞香の横に並ぶと、瑞香はあからさまに不機嫌そうに眉を顰めた。

瑞香
 「嫌よ、噂されたら恥ずかしいじゃない!」


 『何処ぞのラスボスヒロインみたいな事を言ってるー!?』

悠気
 「お前……そこまで嫌か?」

瑞香
 「ええ嫌よ! アンタも悪い噂を立てられたく無いなら私に付き纏うな!」

瑞香はそう言うと走り始めた。
アイツは元陸上部だから足が滅法速い。
まぁアルセウスの俺からすれば実際はスローなんだが、彼女の前では瑞香よりも弱い男という設定だからな。


 『追わなくていいの?』

悠気
 「宵……瑞香の希望を覚えているか?」


 『瑞香も柚香も不幸にならない、ずっと仲良しの幸せ、でしょ? とっても温かい希望の欠片だったよ』

そうだ、俺も今でもあの胸の温かさを忘れられない。
だが見ての通り瑞香は自分を自らを不幸に追い込む性質なのだ。
ユズちゃんの幸せだけを追い求めて、自分を蔑ろにする女だ。


 『考えてみたら悠気そっくりだね』

悠気
 「笑えないな」

俺も妹ばかりを気にするあまり、瑞香を知らずに追い込んでしまった。
ユズちゃんの恋心に気付きながらも、俺はそれを受け入れられなかった。

悠気
 「瑞香はやっぱり強敵だな……」

俺は頭を掻くと、今後に悩むのだった。
とりあえず瑞香から目を離すのは愚行だ。



***



学校はいつも通りといえばいつも通りだ。
違う事があるとすればこの時空には妹が存在しない。
妹はもう心配がいらない、だから夢の世界は必要無いのだ。
俺としては……やはり寂しいがな。


 『NPCとして登場させる方法もあるけど、どうして?』

悠気
 (なんとなく怖いんだ……本当は俺のほうが妹から離れられないんじゃないかって)

俺は神のような力があるが、肝心の精神はやっぱり若葉悠気という個人からは逃れられなかった。
彼でさえ、神ではなく一個人としてしか結局は振る舞えなかったんだ。


 『そっか、気が狂っちゃうのね……』

狂気へ墜ちるのはあまり簡単で、今の俺だっていつまで正常でいられるかなんて正直分からないんだ。

悠気
 (俺がどうにかしちまったら、宵、お前に任せるからな?)


 『うん♪ 絶対悠気を助けるよ♪ それに……悠気は私よりも強い子だよ、だから大丈夫♪』

宵はそう保証してくれるが、正直逆になんで俺はそんなに信じて貰えるんだろうな?
確か宵は無条件で若葉悠気に好意を持つという基本機能が備わっていた筈だが、実際の所その機能はどう考えてもバグで壊れている。
つまる所、純粋な宵の好意と受け取るべきか?

悠気
 (あんまり買い被らないでくれよ……俺はまだ15年しか人生経験の無いガキなんだから)


 『私なんて製造されてからまだ11年だけどね!?』

そういえば生年月日でいえばそもそも月代宵は今年なのか。
自分を製品扱い出来る程度にメンタルは強いというか、バグ塗れだが、これでも俺は彼女に全てを賭けたんだからな……この世界の理として期待するしかない。

さて、宵の事はともかく俺は教室を眺めた。
瑞香の席にはいつものようにイジメの証が置かれていた。
瑞香はやや不機嫌に目を細めるが、少し離れた場所でクスクス笑うイジメの主犯格女子グループに対して抗議するつもりは無いようだ。
瑞香はいつものようにゴミをゴミ箱に捨てると、俺はどうするべきか目を細めて考える。


 『断固! イジメ反対!』

宵は割とシンプルなメンタルで全うな事を言うが、俺はあえて手は出さなかった。
というより瑞香に手を出すなら容赦はしないが、この状況そのものと瑞香の絶望の世界はイコールじゃない。


 『うぅ、それじゃイジメを放置するの?』

悠気
 (なら宵はどうやって止める?)


 『イジメっ子達に思い知らせてやる……今日本人達が受けている恐怖をなぁ!』

悠気
 (○ッターかよ!?)

俺は宵のボケに突っ込むと、宵は『あはは』と笑う。
現実問題イジメは社会問題だが解決は簡単じゃない。
何より不可解なのは瑞香の方だ。
アイツが一発でも回し蹴りで見せてやれば、あの女子達は間違いなく顔を青くしてイジメは停まる。
なにせ彼女は暴力女の異名を持つほど足グセが悪いのだから。


 『でも瑞香ちゃんの本当に怖いのは拳なんだよねー?』

俺は瑞香の暴力を思い出し、少しだけ震えてしまう。
あいつの暴力はアルセウスでも怖いぞ。


 『ふふふ、悠気、暴力はいいぞ〜? 時代は暴力を求めている!』

悠気
 (貴様の事を一番知らなかったのは貴様自身だったようだな!)

俺は宵を黙らせると、やがてチャイムが鳴った。
俺は席に座ると、一先ず様子を見るのだった。



***




 『うう数学は嫌いだ〜』

今日の授業も終わった。
宵は一緒に楽しそうに授業を受けていたが、俺とは全く正反対の状況だった。

悠気
 (まるで昨日読んだ小説のよう、だな……簡単過ぎる)

宵は特に数学が苦手らしく、未だにうんうん唸っていた。
対して俺は既に彼の経験があるせいか、逆に自分が引く程問題も簡単だった。
いや、真面目に勉強すれば意外と俺でも出来たし……今までに方がアルセウスの知能を無駄にしていただけか?

悠気
 (というか逆にお前数学苦手なのに、なんでこの世界をシュミレート出来るんだ?)


 『それはなんかビビっときたら、シュパパパーンってして、なんかピッカーン! するのよ!』

悠気
 (さっぱりわからん)

どうやら宵は感覚派らしい。
才能と勘のみで夢の世界を構築しているかと思うと、少し恐ろしいぞ。
やはりバグった奴を信用するのがおかしいのか?

悠気
 (まぁそれより瑞香だ、これから何が起きるか……見極めないと、な)

瑞香はバッグを手に持つと席を立つ。
俺は気づかれないように帰宅の準備すると、瑞香の尾行を開始する。
瑞香はまるで不良のように学園では腫れ物扱いだった。
故に誰かが瑞香の関わろうとしない。

瑞香
 「……」

瑞香は静かにいつものように歩いている。
周囲の生徒は瑞香を見ると、警戒して道を譲る有様だ。


 『改めて瑞香ちゃんって背中綺麗だよねー、歩き方も綺麗だし』

父親がエルレイドな事もあり、翠色の肩まで掛かる髪は美しいし、運動部で鍛えられた体幹は歩き方にも現れる。
余りにも当たり前に付き合ってきたからか、宵の一言に俺は目を丸くした。

悠気
 (馬子にも衣装……)


 『ナチュラルにそう言う言葉が出るから、瑞香ちゃんに蹴られるんだと思うなー』

……うん、自覚してる。
というか、今更俺が瑞香をベタ褒めしたって、瑞香は俺を不気味に思うか、見なかったことにして永久に無視され続けるかの二択だろう。
もうお互いがどういう奴か俺と瑞香は分かりきっているのだ。


 『瑞香って中学校からの付き合いなんだよね? よくそんなに仲良くなったねー』

悠気
 (向こうから絡んできたんだよ)

極力人付き合いを否定していた俺は、当時から妹の事で頭が一杯で、誰かに一々構う余裕はなかった。
そこに、いきなりチョップから入ってきたのが当時の瑞香だった。
俺の態度が気に入らないとイチャモンをつけられてからは、暫くは険悪な関係が続いたが、次第に和解して気がついたら無二の親友みたいになっていた。
俺にしても何かと暴力で解決しようとする瑞香の事はあまり好きではなかったが、徐々に瑞香の本質を知った頃には目を離せない存在になっていた。
逆に向こうは俺になにを求めていたんだろうな?


 『瑞香ちゃんはねー? きっと切っ掛けが欲しいんだと思う』

悠気
 (切っ掛け?)


 『あくまで女の勘だけどね、悠気の事好きだけど素直になれないんだよ』

宵に女の勘が語れるのかは甚だ疑問だが、今は取り付く島もない。
なんとか糸口を見つけないとな……。



***


店員
 「いらっしゃいませー」

俺が入ったのは何処にでもあるであろう普通のファミレスだった。
瑞香はここで働いており、俺は端の窓席に座ると、瑞香を見た。
瑞香は熱心に働いており、片付けにテーブルの清掃等自動化出来ない部分では真面目に働いているようだ。
今時珍しい苦学生を地で行くその姿は、やはり生半可な覚悟ではないんだな。


 『私も喫茶店でアルバイトした事あるけど、瑞香ちゃんはやっぱりすごいなー』

悠気
 (喫茶店とファミレスじゃ客入りも違うだろうからな)

宵からすれば瑞香はそりゃ何もかも経験値の上位互換だろう。
彼の記憶でも宵が瑞香にとても懐いていたのが分かる。
俺の知っている瑞香も今みたいになる前は後輩に慕われる奴だったんだがな。

瑞香
 「お客様、ご注文の方はお決まりですか?」

瑞香は客の応対をしている時は笑顔だった。
そういえばも長いことアイツの笑顔なんて見た記憶がない。
俺はそんな彼女を見つめながら、どうすれば瑞香を納得させられるのか考える。

瑞香
 「……!」

瑞香がこちらに気付いた。
俺の方を振り返ると、しかし瑞香は一瞬で背を向ける。
瑞香はやはり俺の事を意図的に無視している。

悠気
 (切っ掛け……か)

俺は宵の言葉を反芻した。
切っ掛けさえあれば、瑞香は心を開いてくれるのか?



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第29話 山吹瑞香の問題 完

第30話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/08/29(月) 20:01 )