突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第28話 みなもの愛



みなも
 「本日から育美様のお話を受けて、住み込みで働かせて頂く『みなも』と申します」

5月の頃、彼女は古風なメイド服の姿のまま、大きなキャリーバックを引っ張って我が家にやってきた。
その頃の彼女は無表情で、どこか近寄り難かった。



みなも
 「はい、宜しくお願いします。坊ちゃま」

彼女は感情をあまり表すタイプではなかった。
やはり俺と彼女の関係は雇用形式というのが正しいのか、彼女は中々心を開きそうにはなかった。
だが……。



みなも
 「……分かりません、ユウさまは私のご主人様ですか?」

お風呂場で彼女は慣れた手付きで俺の背中を流していた。
彼女は俺の許嫁であり、母からそのような希望を受けていたのだ。
だが、彼女にとって俺はただの若造、それがどれ程の意味があるのか類推する事しか今や出来ない。



それから何ヶ月も経ち、みなもさんは徐々に表情を軟化させ、時にとんちきな行動も見せてくれるようになった。
愛嬌も備える彼女は心地良く、だがそんな彼女の顔を見れば見るほど俺はただ残酷な現実に憎悪した。



チュンチュン。

悠気
 「……っ?」

俺は目を覚ますと、見慣れた天井に気がついた。

悠気
 「今のなんだ……?」

それはまるで夢だった、いや夢の世界で夢とはバカらしいだろう。
だが、俺はまるで夢のように、俺の体験した事のないみなもさんを見せてくれた。

悠気
 「まさか……彼の記憶が混線したのか?」

記憶には無いみなもさんとの付き合いに俺は軽く恐怖した。
何故なら、その時の彼の感情は決して明るいだけの物では無かったからだ。
俺とは別ベクトルに、彼は現世を恨んでいた。
だから夢に逃避行したのだ。

悠気
 (でも何故? 急にみなもさんとの思い出が夢のように現れるなんて)

俺は原因を究明すると、ある事実に行き着いた。
それは恐らくこの世界を構築するのに使った夢の残骸が原因だろう。
彼は俺なんかじゃ及びもつかない天才だったのかも知れない。
アルセウスの力も魔術師の力も使い、必死に抗った末にそれでも本当に求めていた物を得られなかった少年の執念は月代宵を誕生させた。

悠気
 (宵に代理演算させる事で、夢の世界を構築運行する……無茶苦茶な理論だが、宵にそれが出来るだけの機能が備わっているんだから、正真正銘彼の狂気の発想だよ)

俺は今も夢の世界を理として見守る宵の事を考えた。
彼の残した唯一の遺産月代宵、彼のおかげで今の俺は存在している。
彼がただの逃避行としてしか利用しなかった夢の世界を、俺は希望の世界として新たな分岐世界として何百年、何千年でも描くと覚悟を決めたのだ。

悠気
 「ん……! さて」

俺はベッドから起き上がる。
すると、俺はベッドの側で寝息を立てる女性を見つけた。

悠気
 「麻理恵さん? おーい?」

麻理恵
 「んん?」

麻理恵さんはベッドに突っ伏して気持ちよさそうに寝息を立てていた。
ていうか、毎回毎回なんでこの人自分の部屋で寝ないんだ?

麻理恵
 「ふあ……あ、ユウ様、おはよう御座います」

麻理恵さんの身体を揺らすと、流石に彼女も目を覚ました。
しかしまだ眠そうで、どうも朝が弱いようだ。

悠気
 「おはよう御座います、どうして部屋に?」

麻理恵
 「その、私夜行性なので、ユウ様の安眠を守っていました!」

麻理恵さんはそう言うとビシッと背筋を立てた。
まぁそりゃジュナイパーだもんな、暗殺者としても夜行性のほうが都合が良いのか。

悠気
 「でもそれだと昼辛くありません?」

麻理恵
 「問題ありません! 半分脳を休ませるだけですから!」

無茶苦茶だが、麻理恵さんは笑顔でそう言った。

それってイルカとかクジラが持つ能力じゃなかったっけ?
フクロウでも出来るのか?

悠気
 「とりあえず着替えますから、出てってもらえます?」

麻理恵
 「あ、あの……ユウ様?」

麻理恵さんは顔を赤くすると、モジモジと腰を振った。
俺は意味が分からず首を傾げる。

麻理恵
 「わ、私にそろそろ、性奉仕の仕方を教えて頂けないでしょうか……?」

悠気
 「……はぁ!?」

俺は数秒思考が停止したが、直ぐにその異常を理解した。

悠気
 (おい宵!? これって必須イベントか!?)


 『ヨー♪ やっちゃいなよー♪ イエイ♪』

何故かラップ調で煽ってくる宵に俺は半ギレしつつ、この事態を全力で考えた。

悠気
 (性奉仕って、そもそもみなもさんの領分じゃないのか!? いや彼女でもされたら困るのだが!? ていうか麻理恵さんもしかしてみなもさんの真似して!?)

麻理恵さんはモジモジと上目遣いで俺を見る。
すっかり俺に懐いた麻理恵さんは殊の外直球のタイプだった。

悠気
 「性奉仕の必要はありません! みなもさんの真似事なら必要ありませんよ!?」

麻理恵
 「そ、そうなのか? 良き妻になるなら、必要だと頭(かしら)に教わったんだけど……」

情報源母さんかい!?
あの人本気か狙っているのか本気で分からねぇ!?
良くも悪くもそりゃ邪神扱いされるよ母さん!?

悠気
 「兎に角、先にキッチンで待ってて?」

麻理恵
 「分かった、それじゃユウ様待ってますよー♪」

麻理恵さんはそう言うと部屋を足早に出ていく。
俺は出ていった後、顔を手で覆った。

悠気
 「くそ、可愛かった……瑞香の3倍は」


 『それ瑞香ちゃんに聞かれたら絶対蹴られると思う』

……自覚してる、アイツ多分攻撃種族値130族位あると思うぞ?
本当に人間なのか、まぁ俺がやった事を思えばなんだって受け入れるが。

悠気
 「さて、さっさと着替えるか」

俺はクローゼットを開くといつものように着替える。
そして部屋を出るのだった。



***



麻理恵
 「ユウ様、どうぞお茶です♪」

朝ご飯を食べ終えると、麻理恵さんは笑顔でお茶を差し出した。
俺は若干戸惑うが、とりあえず感謝して受け取る。

悠気
 「あ、ありがとう御座います」

麻理恵
 「いえいえ♪ これが私の仕事ですから♪」

育美
 「麻理恵ちゃん生き生きしてるわねー」

みなも
 「……」

本当に何があったと言わんばかりに麻理恵さんが急にデレたな。
元々こういう人だったのかと、疑いたくもなるがどうも何かあったらしい。


 『頭の中で何かがハジケた!』

悠気
 (突っ込まんぞ……)

俺はお茶を飲みながら、宵をスルーした。
つか、アイツ妹とはまるで違うキャラだな……なんでこんなにキャラが違うんだ?
色んな意味で妹を知らない俺にとっての想像はこんなキャラだったのだろうか。

悠気
 「御馳走様」

俺は食べ終えると、麻理恵さんは席から立った。
まーた、俺の代わりに食器を運ぶ気だろう。

麻理恵
 「食器運びます!」

麻理恵さんはそう言うとテキパキと行動をした。
一度覚えると意外と要領は良いのか、麻理恵さんは反復練習が得意なようだ。

みなも
 「あの、麻理恵姉さん……」

麻理恵
 「ん? どうしたの、みなも?」

みなもさんは麻理恵さんに何か言いたそうだった。
麻理恵さんは今上機嫌なのか、ニコニコしており、少し不気味にも思えるな。
しかしみなもさんは、その後の言葉が中々出てこなかった。

麻理恵
 「なに?」

みなも
 「いいえ……やっぱりなんでもありません」

みなもさんはそう言うと、また物静かになった。
一体麻理恵さんに何を言うつもりだったのか。

悠気
 (みなもさん、か)

俺は改めてみなもさんを見た。
文字通り俺にとっては彼女は何も体験として知らない。
あくまで彼のとても大切な人に過ぎない。


 『みなもさん、気になる?』

悠気
 (気にならない訳がない……ただ、分からないんだ)


 『分からないって?』

悠気
 (みなもさんは彼の事が好きだったのか?)

俺の疑問、それを聞いた宵はしばし沈黙した。
俺にとってこれはとても重要な事だ。


 『好きだったと思うよ……悠気は絶対そんな冷たい人じゃないもん』

宵の想像はあくまで彼の善性に基づく。
俺も出来れば信用したい、それでも完全に信じきれない物があった。
彼はみなもさんに対して何度も「許してくれ」と謝罪する彼が記憶から映ったのだ。
しかもそれは憐れみではない、彼はみなもさんを憎悪していた。
いや、あれこそがドロドロの愛憎なんだろう……。
彼はみなもさんの愛情を素直に受け入れられない程、心身共に疲れ果てていたんだ。

悠気
 「俺、部屋にいるから」

麻理恵
 「あ、はい♪」

育美
 「母さん直ぐにパートに行くけど、仲良くするのよ?」

悠気
 「勿論さ」

俺はそう言うと自分の部屋に向かった。



***




悠気
 「みなもさん……俺はやっぱり彼の為なんだろうか……?」

俺はベッドに腰掛けながら、みなもさんを記憶から可能な限り集めていく。
俺にとって唯一なんの関係もない、つまり情も愛も無い相手がみなもさんだった。
麻理恵さんは日毎に愛情を示す機会が増えている。
気がつけば段々麻理恵さんとばかり会話してて、逆にみなもさんとは減っていた。


 『やっぱり、みなもさんは悠気にとって負担だった?』

宵は心配そうにそう言った。
俺は首を振って否定する、そんな筈はない。
だが、宵は理だ、俺の思考さえ彼女には観測出来ているだろう。


 『嘘を付くのは正常な証拠だけど……、そうだよね、今の悠気にとってみなもさんは』

悠気
 「勝手な事を言うな!?」

俺は宵に反論する。
だが、宵は少し怯む程度で、ただ『俺だけ』を心配する。
分かってる……みなもさんを愛せるのか俺には分からない!
彼でさえ心から愛する事が出来なかったのに、俺がどうしろと言うんだ!?


 『私の権能でみなもさんの存在を抹消する事は出来るわ、もし夢の世界の負担になるなら……』

悠気
 「駄目だ! それは妥協でしかない! それを選んだらここは希望の世界ではなくなる!」


 『でも……彼でさえ、全ての不幸を無くせた訳じゃない……、それは矛盾を多く孕んでいる』

分かっている!
彼の記憶は夢の残骸として、宵の創ったガラクタ人形から知ることが出来た!
彼にとって初めから夢の世界はただの現実逃避のアイテムでしかなかった!
あんなに凄い事が出来て! あんなに俺なんかじゃ想像する事も出来ない天才的な事も出来るのに!
彼は妥協した……だから何も信用できなかった!

悠気
 「俺は彼を否定はしたくない、だから論破が必要だ……彼のやった偉業の功績を証明しないといけない……!」


 『似てるけど違うね……彼ね? 私の事ずっとずーと心配ばっかりして、その癖人形の考えが分からないと思うのかって造物主ぶって、全然私を信用してくれなかった!』

だが……それに関しては俺は完全否定する。
彼は確かに造物主として宵を見ていたろう、しかし彼は宵の身に起きたバグを正しく認識していなかった。
だから月代宵は奇跡を起こし、世界線を修正したのだ。
今の俺には逆に月代宵の事はさっぱり分からない、彼女は立派に既に独立した個人になったのだ。


 『ねぇ? 私はあくまで貴方の為ならなんでもするけど……無理に彼の意思を引き継ぐ必要は無いと思うよ?』

悠気
 「彼の感傷、それでもタスクにみなもさんが含まれていたのは、間違いなく彼がみなもさんを愛していた証の筈だ」

兎に角、みなもさんが彼にとっては重要で、俺にとってはそれは負債なのだ。
それも瑞香や琴音と違って、どんな希望をこの世界に持ってきたのか分からない。


 『彼の代わりに贖罪するなんて、やっぱり悠気も馬鹿だね……』

悠気
 「馬鹿さ、落第手前の赤点野郎だぞ?」


 『もう、分かってて言ってる!』

そうだ、宵の言うとおり俺は大馬鹿者だろう。
そうじゃなければこんな世界を創りはしない。
彼の記憶経験が無ければ、夢の世界なんて絶対に辿り着かなかった。
下手すれば俺は月代宵を知らなければ、同じようにタイムパラドックスを起こして、また無闇に別の世界線の俺を苦しませるかも知れない。


 『はぁ……、でもそれが悠気の良いところ、だから皆に愛される』

悠気
 「俺は代わりに皆を愛する」

宵は呆れているが、俺は呆れられようとこの初志だけは曲げる気がない。
俺は希望になる、宵にはそのサポートをしてもらい、この世界を存続する必要がある。



***



麻理恵
 「ふんふんふーん♪」

みなも
 「……」

私は姉さんの背中を見ていた。
姉さんは鼻歌を歌いながら上機嫌に食器を洗っている。
姉さんの笑顔は嬉しい、私は麻理恵姉さんの幸せを願っている。
だけど、それを願えば願うほど私は、胸を締め付けた。

麻理恵
 「みなも終わったぞ! 次はどうする!?」

みなも
 「あ、そ、そうね……えと」

麻理恵
 「みなも? 調子が悪いのか?」

私は深呼吸をした。
こんなんじゃ駄目よ、私は頼れる妹でないと。

みなも
 「ごめんなさい……そうね、今日はお風呂場の掃除をしてもらいましょう」

麻理恵
 「お風呂場か! 任せて!」

麻理恵姉さんは偶にやらかすけど、本当に生き生きしている。
それがユウ様の影響なのは丸わかりだった。

みなも
 「ねえ麻理恵姉さん? ユウ様の事は好き?」

私は胸をギュッと抑えると、顔を背けながら聞いた。
姉さんはユウ様の名を聞くと本当に嬉しそうに言った。

麻理恵
 「勿論大好きよ! だってユウ様私の希望だもの!」

みなも
 「……っ、それは愛してるって事?」

怖かった、解っているのにそれを聞く私自身が。
当然姉さんは頬を照れくさそうに掻きながら肯定するのだった。

麻理恵
 「当然よ♪ ユウ様の事愛してる♪ 今日だって……フフ♪」

麻理恵姉さんは最後は身体をくねらせながら秘密だった。
麻理恵姉さんはユウ様の部屋で夜を過ごす。
元から夜行性の麻理恵姉さんにとって、ユウ様の側にいる事がそれだけで幸せなんだ。

みなも
 (私……ユウ様に相応しいのでしょうか?)

育美様は私達をユウ様の結婚相手候補と呼びました。
私はユウ様を信用している、けれどもしユウ様を幸せに出来るなら、きっと根暗な私より麻理恵姉さんの方が向いている。
それがどうしても私は悔しかった。
私、どんな顔をすればいいのでしょうか?

麻理恵
 「みなも? どうしたの? 早くお風呂掃除に……」

みなも
 「……はい、直ぐに始めましょう」



***



結局は感傷だ。
俺は代理で誰かを好きになろうとしている。
だが、それが本当に愛なのかさっぱり分からない。

悠気
 「はぁ……」

とりあえず溜息が溢れた。
こういう時は何かしている方が気が紛れる。
だから俺はキッチンでシュークリームを作っていた。

みなも
 「……あら? ユウ様?」

みなもさんは浴室から出てきた。
どうやら風呂場の掃除をしていたらしく、腕まくりをしていた。
俺は振り返ると、なるべく笑顔を浮かべる。
まだみなもさんを正常に見られるかって言ったら、俺は難しいからな。

みなも
 「ユウ様なにを?」

悠気
 「ちょっと気紛れにおやつをね?」

彼の経験があるならば、彼が作った物ならば作れる。
この考察は正しかった、下手に考えず身体に任せたらビックリする位スムーズだった。
俺は生地を完成させると、予熱で暖めたオーブンにシュー生地を入れる。
後は神のみぞ知る、だ。


みなも
 「シュークリームでしょうか?」

悠気
 「流石、本当に家事は完璧だね」

俺は続いてシュークリームの本命であるカスタードクリームに手を付ける。

そういえば、彼はみなもさんに手料理を振る舞う姿を何度も見せていた。
特にお菓子に関しては、宵やみなもさんが体重を気にする程だったな。


 『えへへ〜、本当に美味しくてね〜♪』

宵は思い出したのか、まるでよだれでも垂らしてそうに答えた。
こっちからは宵の姿は確認出来ない、というより宵はシステムとして姿を見せる気が無いのだろう。
一方みなもさんは何故か俺をじっと見つめてきた。

悠気
 「て、何事?」

みなも
 「ユウ様……私はユウ様に必要でしょうか?」

悠気
 「はい? みなもさん?」

みなもさんは凄まじく不安そうだった。
その豊満な胸に手を置いて、彼女はその気持ちを吐露していく。

みなも
 「私……ユウ様には麻理恵姉さんがいれば何も問題無いんじゃないかって思いました……姉さんはなんでも吸収して学習していく、いずれ私は何も教える事がなくなれば……」

悠気
 「みなもさん!」

俺はみなもさんが危険だと思い、その言葉を中断させた。
みなもさんは驚いて目を見開く。

悠気
 「俺にとってみなもさんは必要です! それは誰かに比べてじゃない!」

みなも
 「でも……私は麻理恵姉さんのように明るくもない……」

悠気
 「どうして麻理恵さんと比べるんです? 麻理恵さんはみなもさんじゃない」

みなも
 「でも……!」

麻理恵
 「みなもー、後はどうすれば良いのー? あれ?」

麻理恵さんが浴室から出てくる。
みなもさんは驚いて麻理恵さんに振り返った。

麻理恵
 「ユウ様降りて来てたんですか、えと……このいい匂いは?」

みなも
 「ユウ様がお菓子を披露していただくそうよ」

麻理恵
 「お菓子? ああ! みなもは特に好きよね!」

麻理恵さんはそこまででもないのか、そこまで興味はないらしい。
だがそうか、元々みなもさんはお菓子が好きなんだな。

悠気
 (しかし麻理恵さんの次はみなもさんか、どうして他人と比べるんだ?)


 『人が誰かを羨むのは当然の欲求、或いはそれがエゴイズムなのかもね』

宵は時折バッサリ言い切るな。
いや、現実に限りなく近いようにシュミレーションを行う宵だから、それが手に取るように分かるのかも知れないが。

悠気
 「二人共、後1時間程で出来ますから」

俺はそう言うとカスタードクリームを作るのに専念する。
一先ずみなもさん、その本音を聞く必要はありそうだ。



***



麻理恵
 「なにこれ!? 美味しい!? こんなの初めて!?」

麻理恵さんは出来たてのシュークリームを食べると、目を丸くしていた。
お菓子なんて興味が無いって雰囲気だったが、メッキが剥がれたな。
恐らく美味しい物にあんまり縁がなかったのだろう。
一方で料理の鉄人みなもさんはシュークリームを手に取ると、それを見つめる。

みなも
 「クッキー生地のシュークリームですか、クラスト状の生地は全く焼きムラがありません……こんな見事なシュークリームが出来るなんて」

悠気
 「お褒めの言葉、感激ですが先ずは一口」

みなも
 「あむ……!」

みなもさんは本当に小さな一口でアツアツシュークリームに齧りついた。
これは温かい状態で食べる事で最高の食感を再現する物だ。
更に冷たいカスタードクリームがこのシュークリームにアクセントを与える。
みなもさんは表情を変えた。


 『いいないいなー、私も食べたいー』

悠気
 (食べれないのか?)


 『無理じゃないけど……今はこっちに集中したいから』

宵が集中しているのは夢の世界の演算だろう。
神様はサイコロを振らないって、物理学では言うそうだが、生憎こっちの神様は常にサイコロを振って、乱数を調べているような物だ。
今はまだそこまで忙しくないかも知れないが、宵も理としてこの世界を守るのはまだ慣れていない。

みなも
 「美味しい……生地の発想といい、相手の事を想う気持ちも……」

みなもさんは静かに目を閉じてそう言った。
美味しい、その素直な感想が俺には嬉しい。
しかしみなもさんの本当の気持ちはやはり麻理恵さんへの劣等感なのか?
麻理恵さんにとってはみなもさんが理想で、みなもさんはその逆なんて、俺は流石に呆れてしまうぞ?
馬鹿みたいに、自分を誇れない二人は本当に同じミスを犯している。

悠気
 「みなもさん、素直になって下さい、俺に何を求めているんですか?」

みなもさんはそれを聞くと暗い顔をした。
それを見て口元を汚す程夢中でシュークリームを食べていた麻理恵さんが気が付く。

麻理恵
 「みなも? どうしたの? ユウ様は貴方を……」

みなも
 「っ、ユウ様……私を愛してくれますか?」

みなもさんは決心した、まるで不安な子供のように、或いは神に懺悔するように彼女は俺に愛を求めた。

悠気
 「愛します」

俺は真面目にそう答える。
嘘偽りはない、迷いもしない……それが誓いだから。
だがみなもさんは納得しなかった、更に俺に掛かってくる。

みなも
 「ウエディングドレスを求める訳じゃありません……それでも私を麻理恵姉さんより愛してくれますか?」

悠気
 「っ!?」

それは予想外だった。
麻理恵さんも同様に驚き、みなもさんを呆然と見る。
みなもさんは暗い顔で震えていた、自己嫌悪に陥っているのだろう。

麻理恵
 「みなも! お前は私より愛されていないと思うの!?」

意外にもテーブルを叩いて、真剣にそう言ったのは麻理恵さんだった。
みなもさんが待っていたのは俺の言葉で、麻理恵さんが真剣な顔で怒っていたのは予想外だった。
しかも麻理恵さんはみなもさんに対抗するのではなかった。
まるでみなもさんの全てを見透かすかのようだった。

麻理恵
 「みなも……私は勿論ユウ様を愛している、だがみなもを愛するなとは思っていない!」

みなも
 「麻理恵姉さん……?」

麻理恵
 「みなもにとってユウ様はそんな不安の種にしかならない程度の相手か? もしそうならば私は本気で怒るぞ?」

みなもさんは首を振った。
麻理恵さんはそんなに俺を信頼してくれるのか。
やっぱり俺は女心に疎いままだな……。
俺は頭を掻くと、まず麻理恵さんにキスをした。

麻理恵
 「んん!?」

麻理恵さんは驚くが、離れようとしなかった。
麻理恵さんの口元はシュークリームで汚れていて甘い、だがそれ以上に麻理恵さんはトロンと顔を赤くして弛めていた。

俺は口を離すと次にみなもさんの肩を掴む。
みなもさんはビクっと震えるが逃げなかった。

みなも
 「ユ、ユウ様……」

悠気
 「みなもさん、俺は二人共愛している……だから」

俺はみなもさんにキスをした。
みなもさんは静かにそれを受け入れた。
激しいキスではないが、みなもさんはやや俺に身体を寄せてくる。

悠気
 「ん……みなもさん、俺がみなもさんを不安にさせたんですか?」

俺はみなもさんから唇を離すとそう聞いた。
みなもさんは目元を潤せると震えた声で言った。

みなも
 「私……ユウ様に甘えたかった……! でも、姉さんがユウ様を好きになれば好きになる程私は怖かった……! ユウ様を取られたら、私なんにも出来ないって……!」

それが……みなもさんの不安だったんだな。
なら後は簡単だ、俺はみなもさんの希望になる。

悠気
 「なら安心して、俺はみなもさんを蔑ろにしない、麻理恵さんもみなもさんも愛してみせる」

麻理恵
 「ユウ様……」

二人は泣き出してしまった。
どちらもそれほど涙脆い筈じゃないのに、だがそれは悲しい涙じゃなかった。

みなも
 「ユウ様、こんな卑しい私を本当に愛してくれるんですか?」

悠気
 「ああ、本当だ」

みなも
 「なら……!」

今度はみなもさんが俺に抱きついてきた。
俺はみなもさんに押し倒されないようにみなもさんを受け止めると、みなもさんは情熱的にキスをしてくる。
それを見て、麻理恵さんも我慢出来ず席を立つと身体を寄せてきた。

麻理恵
 「ユウ様、私も、抱いてください……!」

俺は二人を共に愛する。
やっと二人が分かった。
お互いは鏡のような存在だ。
お互いが大切で、同時にその存在が気になって仕方がない。
麻理恵さんが愛されるのをみなもさんは我慢が出来ないし、それは麻理恵さんもやっぱり同じなんだ。
そんな不安こそが、彼女の光りを閉ざしていた。

俺は二人を抱きしめると、何度も愛し合った。



***




 『どうして二人にそこまで真剣になれたの?』

俺は風呂に入っていると、宵はそんな事を突然聞いてきた。
俺は穏やかに風呂で安らぎながら逆に質問する。

悠気
 「そんなにおかしい事かな?」


 『だって……悠気にとって彼女たちは彼の負債、悠気にとってそれはただの義務だったんじゃないの?』

悠気
 「間違ってない……実際彼女たちの事は何も知らなかったんだからな……」


 『それならどうして?』

俺は天井を見上げる。
どうしてか、それは実にシンプルな答えだった。

悠気
 「俺がただ……好きになっちゃったんだ、それだけ、さ」

そう……彼が愛した彼女たちを、俺はどこか他人目線で見ていた。
だけどそうじゃないんだ、何故彼女たちは俺を愛してきれたのか?
そこに確たる意思はない、ならば俺も彼女たちを本気で愛してしまったのは、簡単な事だった。


 『好きって事、そんなにシンプルに纏められるんだ』

悠気
 「恋は理屈じゃない、ただそれが分かっただけさ」

俺はそう言うと、浴室の外に気配を感じた。
浴室の前に立った女性はそこで止まると、声を掛けてきた。

みなも
 「あの……ユウ様、入ってもよろしいでしょうか?」

悠気
 「みなもさん、なにか?」

俺は身体を起こすと、みなもさんは意を決して入ってきた。
その際みなもさんはタオルで前を隠しただけの姿だった。

みなも
 「ユウ様、私このような奉仕の仕方しか出来ない女です……どうかお背中流させてください」

みなもさんは顔を真っ赤にするとそう言った。
俺は流石に頭が沸騰して、顔を赤くする。


 『愛してるんでしょ?』

宵はここぞとばかりに嫌らしく煽ってきた。
くそう!? こういう時に限って鬱陶しい!
だが、これを否定したら、それこそ本末転倒!

悠気
 「わ、分かりました……お願いします!」

俺はそう言うと浴槽から上がった。
みなもさんに背中を向けると、彼女は健気にお湯を汲み、俺の背に掛けていく。
暫くすると、みなもさんは洗剤を取り出した。
俺は意を決して、せめて煩悩に負けないように覚悟する。

みなも
 「ん………ん、はぁ、ん」

みなもさんの甘い妖艶な呟き、俺は脳がどうにかなりそうだった。
なんと彼女は自分の身体を洗剤で泡立たせ、その身体で俺の背中を洗ったのだ。
そんな事をされれば俺はイチコロだった。

悠気
 (忘れていた!? 彼女が元娼婦だったという事を!?)

それは完全にソープ嬢のやり方で、彼女が最も得意とする奉仕だった!
だ・が! 健全な少年の俺にそれは刺激が強過ぎる!
俺は前屈みになると下半身を隠した。
しかし、それを見て、いかにも慣れたみなもさんはクスリと笑う。

みなも
 「前も……洗いましょうか? ユウ様♪」

悠気
 「宵ーっ!? 理に命ずる、ここからは大人の時間!」


 『ブラックアウト!』

その瞬間、全てが一旦暗黒に染まった。
俺は煩悩に完敗だった。
というか元娼婦に風呂場で挑むなんて無謀だった!?
麻理恵さんが所詮甘ちゃんなら、こっちはプロだ……俺の負けだった。
だ・が! 俺はそれはまだ速いと無かった事にした。
大人ってやっぱり怖ぇー!?



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第28話 みなもの愛 完

第29話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/08/29(月) 19:59 )