突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第27話 極道家政婦



チュンチュン♪

悠気
 「……んん」

小鳥の囀りが聞こえた。
俺はそれを合図に意識を取り戻すと、まず五感を確かめた。
この夢の世界はまだまだ完成から程遠い、だが少しずつ完成させていけばやがて何物にも代えがたい物になるだろう。

さて、五感を感じた俺はまず目蓋に光りを感じた。
これは間違いなく朝だ、そして俺はなにやら掛け布団の重みを感じていた。

悠気
 「ん……どういう事だ?」

俺はゆっくりと目を開くと、そこはいつもの俺の部屋。
いや、正確にはそれを模倣したレプリカだ。
俺はさっきまで上海で事の成り行きを見守った末に戻ってきた筈だが、気がついたら気を失っていたらしいな。
最もこの世界を管理している宵がいる以上、それほどこの時空移動に問題は無いが。

悠気
 「とりあえずどうなったか、確認が必要だな」

少なくとも前は今よりもっと世界は滅茶苦茶だった筈だ。
俺はゆっくりと上半身を持ち上げる、すると違和感があった。

悠気
 「ん? ベッドに誰か?」

掛け布団が重たかった。
俺は改めてベッドを見た、しかしその時俺は全身に電撃が走る!

ジュナイパー
 「スゥ……スゥ」

アシレーヌ
 「ん……」

なんとそこには二人のメイド服を着た女性が俺の側で眠っていた!
いや、どういう事だってばよ!?

悠気
 (ヘイ宵! 状況説明プリーズ!)

俺は心の中で宵を呼ぶ!
とりあえず猛抗議だ!


 『サービスシーン♪ 楽しんでってね♪』

悠気
 「なんのサービスだぁー!?」

俺は思わず叫んでしまった……勿論直ぐに後悔したが。
俺の声は相当煩かったろう、その声に応じてジュナイパーさんはガバっと起き上がる。
すると彼女は咄嗟に俺の首を掴んだ。

悠気
 「ぐっ!?」

ジュナイパー
 「は!? あ……」

ジュナイパーさんの握力は凄い、伊達に非合法組織の暗殺者なんてやってなかったか。
しかしジュナイパーさんもあくまで条件反射だったのだろう、俺の苦しむ顔を見ると彼女は呆然自失という雰囲気で手を離した。

悠気
 「ケホ! ケホ!? ご、ごめん……驚かせて」

俺は涙目になりながら大きく息を吸い込んだ。
しかしジュナイパーさんは顔を青くすると、直ぐにその場で頭を下げて謝罪する。

ジュナイパー
 「こちらこそ出過ぎた真似をして、申し訳御座いません!!」

ジュナイパーさんは更に大きな声だった。
当然そんなクソ真面目な態度も、俺にはどうしていいか分からない。
ただ隣のアシレーヌさんはあまり動じないようにゆっくり起き上がった。

アシレーヌ
 「ユウ様おはよう御座います」

アシレーヌさんは起き上がるとのんびりと頭を下げた。
両者あまりのテンションの違いに俺はあ然とする。

悠気
 「あの……いつからこの部屋に?」

タッタッタ!

突然部屋の外から足音がした。
俺はこの足音に聞き覚えがあった。
足音は部屋の前で止まり、無造作に扉を開いたのは。

育美
 「おはよう悠気♪ あら二人とも……こっちにいたの?」

いつもと変わらないほんわか母さんだった。
俺はまだ状況がまるで分からなかった。
ただ、二人は母さんに向き合うと、ペコリと礼儀正しく頭を下げる。

アシレーヌ
 「奥様おはよう御座います」

ジュナイパー
 「頭(かしら)、おはよう御座います!」

方や優雅にメイドらしく、方や体育会系……というか何処ぞのバウンサーのような態度であった。

育美
 「クスクス、麻理恵(まりえ)ちゃん、そんな畏まる必要はないわよ?」

悠気
 「麻理恵?」

ジュナイパーさんは「ハイッ!」とやはり快活に返事した。
俺の記憶ではこの人もみなもだった筈だが。


 『出海麻理恵(いずみまりえ)、どうやらこの二人を迎えた場合、そう名付けらるみたいね』

宵の補足を聞いて俺は納得する。
ならアシレーヌさんは出海みなもとなるのか?

育美
 「それにしても……ふふ、昨日からお楽しみかしら? ウフフー♪」

お母さんは部屋を見渡すと、口元を手で隠しながら嫌らしく笑った。
俺は顔を真っ赤にすると母さんに怒鳴る。

悠気
 「そんな訳無いだろう!? もう出ていってくれ!!」

育美
 「あらあら♪ 朝ご飯出来てるから早くきなさい♪」

母さんは普段はこんな風におちゃらけている。
ある意味で見慣れた本来の姿だ。
だが実際には相当に巨大な力を秘めた、神たる存在……なんだよな。
母さんそんな神性の雰囲気等見せずに扉を閉めると、階段を降りる足音が聞こえた。
俺は母さんがいなくなると、改めて溜息を吐く。

みなも
 「あの、改めましてユウ様のお世話をさせていただきます、みなもとと申します」

麻理恵
 「麻理恵です、ご覧の通り私はみなもに比べて未熟の極みですが……全力で奉仕する所存であります!」

悠気
 「えと……その、俺は若葉悠気です、二人は姉妹でしょうか?」

改めて二人は正反対だった。
深い深緑のような髪を短髪で揃えた麻理恵さん、逆にゆったりとウエーブヘアを腰まで伸ばし、真珠のような輝く髪留めを使うみなもさん。
麻理恵さんはスレンダーで身体も鍛えられている、みなもさんは柔かそうな肉付きで、正にボン・キュッ・ボンというタイプだ。

麻理恵
 「私が姉という設定です」

みなも
 「麻理恵の妹です♪ うふふ♪」

みなもさんはなんだか楽しそうだった。
俺の俺じゃない方はこんなみなもさんを何度も見てきたのだろうか?
俺はそんなみなもさんを見ても、ただ困惑するしかないのだった。

麻理恵
 「あの、如何が御座いましたユウ様?」

麻理恵さんは本当に心配そうだった。
俺はこれではいけないと顔を叩くと、ベッドから出るのだった。

悠気
 「と、とりあえず着替えるので出ていって貰えませんか?」

みなも
 「いいえ、勿論お着替えの方もお手伝いさせていただきます」

麻理恵
 「も、勿論ユウ様が望むなら、どのようなシチュエーションでも受け止める所存で……!」

麻理恵さんは顔を赤くすると、俺まで顔を赤くしてしまう。
これ、明らかに俺の貞操が危ない!?
見るとみなもさんも動じていないようで、しかし態とらしくそのたわわな胸を縦揺れさせる。
それを見てしまった俺はゴクリ喉を鳴らすも、直ぐに煩悩を振り払い、やましい思いを捨て去る。


悠気
 「二人共! 先にご飯待ってて下さい!!」

俺はそう言うと、二人を部屋から押し出す。

パタン!

俺は改めてプライベート空間を取り戻すと、改めて部屋を見渡す。

悠気
 (再現されてる……な)

改めて部屋の中は完璧だった。
次に俺は窓を見た、しかし窓の外は極彩色に輝く超次元だった。

悠気
 「完成度は家一つ分か?」


 『そうだねー、玄関を出たら、もうそこからは未完成のブランクデータ』

このような超常現象でさえ、とりあえずみなもさん達は全く気付いていなかった。
ひとまず救えた……のか?

悠気
 「……っ」


 『どうしたの? なにか問題あった?』

俺は俯いて難しい顔をすると、宵は心配そうに声を掛けてくれる。
俺は正直この問題だけは深刻だと思い、宵に相談する。

悠気
 「なぁ、みなもさんは救えたと思うか?」


 『どうかな……不安なの?』

俺は頷いた。
何故なら俺は全くあの二人を知らないのだ。
ただ、月代宵を創った俺が救わなければならない程思い入れのある相手だったのは確からしい。

悠気
 「なあ、お前の世界線の俺を教えてくれよ」


 『私の知ってる悠気? うーんと、とても真面目で、ぜんっぜん笑わないで仏頂面で、でも凄く面倒見が良くて、いつだって私の味方だったんだー♪』

宵は「えへへ」と笑い、その声はとても幸せそうだった。
きっと俺は宵が本当は大好きで、ただ謝罪の念が強すぎたのだろう。
俺の体験した彼はずっと宵に対して後悔や、諦念、不審があった。
きっと本当に好きだった俺の妹を知らない彼は、それを月代宵への八つ当たりに使ったのだろう。
だが、月代宵はこれ程彼を愛していたのだ。
少し嫉妬する程度には……。


 『あーそれと、料理の達人だった! 特にお菓子作らせたら世界一!』

悠気
 「お菓子、か」

それは俺とは決定的に違うスキルだな。
俺の場合そういう家庭的な事は全て妹がしてくれた。
だが彼の場合そんな頼れる相手がいなかったから自分のスキルを磨くしかなかったんだろう。
そう考えると宵のいなかった10年が如何にゾッとする程恐ろしい時間がか分かるな。

悠気
 「俺は彼女達を愛せるのか?」

彼はみなもさんのフィアンセだった。
きっと正史においても彼を支えうる女性こそが彼女達なんだろう。
俺にとってはそれはきっと妹だったんだろう。
俺が妹の事しか考えられない馬鹿だから、結局は皆を不幸にしたんだよな。


 『悠気……? あんまり自分を追い込まないで?』

悠気
 「ああ、分かってる……俺はもう絶望しない」

俺はそう言うとクローゼットから服を取り出すと着替えた。
急がないと、母さんが戻ってくる。



***



1階に降りると、テーブルを囲むように母さん達がいた。
俺はその光景にやはり違和感はあった。

麻理恵
 「あ、ユウ様、こちらへ」

普段妹が座る席には麻理恵さんが座っていた。
彼の時間でもそこはみなもさんの席であり、これは俺の自己感傷だろうな。
俺は促されるまま、席に付くと、朝食が始まった。

育美
 「ふふ、賑やかで母さん楽しいわー♪」

悠気
 「父さんは?」

育美
 「お父さんはお仕事よ、もしかしたら母さんまたお父さんの所に行くかも知れないけど」

みなも
 「ご安心を、ユウ様のお世話は私達のお仕事ですから」

……とりあえずそういう設定になっているらしい。
今の所家一つ分の領域しか確たる設定は無いのに、母さん達には外が存在するのだ。
みなもさんと麻理恵さんにとって、重要な領域はこんなにも狭いのだな。

悠気
 (俺の向かいの部屋……二人の部屋になってた)

そこは元々妹の部屋、いやこちらではその妹が存在しない。
妹はその希望で、俺を選びはしなかった。
もし妹が俺を選ぶのなら、全てを無かった事にしてでも妹を選ぶつもりだった。
だから夢の世界に妹は存在しない。

麻理恵
 「ユウ様、お食事の後は?」

いつものように朝食を頂いていると、麻理恵さんが顔を覗かせた。
鋭い瞳は睨まれるとびっくりするが、やや心許ない困り顔は可愛らしい。

悠気
 「ん、学校……」

俺は淡白にそう言うが、実際には学校などまだ存在しない。
良くも悪くも、まだ夢の世界は不完全……完成を急がないと。

麻理恵
 「そう、ですか……」

育美
 「あれれー? 麻理恵ちゃんもしかして悠気に学校へ行って欲しくないとかー?」

母さんはそう茶化すと、麻理恵さんは顔を真っ赤にして首を振った。
そのわかり易過ぎる反応には俺まで気付いてしまう。

悠気
 「不安、ですか?」

麻理恵
 「……はい、せめてユウ様がいてくれれば」

恐らく麻理恵さんはまだ普通の生活に慣れていないからだろう。
それはみなもさんも同じ筈だが、俺の記憶では麻理恵さん程酷くはなかった。
いや、俺の知らない所では、実は不安で震えていたりしたのかも知れないが。

みなも
 「いけません麻理恵姉さん、ユウ様に迷惑を掛けては」

麻理恵
 「あ……う……」

麻理恵さんはガックリと肩を落とすが、しっかり者のみなもさんはそんな駄目な姉を叱咤激励するのだろう。
これはどんな俺も経験した事が無い事だろう。

悠気
 (出来れば麻理恵さんの為に一緒に居てあげたいけど)

俺は心を鬼にしてあくまで日常を演じる事にする。
とりあえず俺は一番に朝食を食べ終える。

悠気
 「御馳走さま、食器片付けるね?」

麻理恵
 「そ、それ! 自分にさせて、いいえ!? 任せて頂けませんか!?」

麻理恵さんは席から立ち上がると、必死な顔でそう懇願した。
焦っている? 一体何にだ?
少なくともみなもさんはまるで焦っていない……ならこれはどういう意味が?

悠気
 「わ、わかりました……それじゃ後はお願いします」

麻理恵
 「はいッ! 受けたまります!!」

俺は席を立つと、麻理恵さんはビシッと俺に敬礼した。
やはりどこか家政婦というより、任侠者みたいに感じるな?
まるで慣れていないのか……。
俺は席を立つと自分の部屋に向かう。
とりあえず鞄を手に取ると、後は時間を待つだけだ。



***



学校へ行く時間になると俺は部屋を出た。
1階には既に母さんはいない、恐らく仕事に向かったのだろう。
そんな時二人は今、キッチンにその姿があった。
俺は二人の姿を後ろから観察するのだった。

みなも
 「いい? お皿は優しく持って、こうやって洗うのよ?」

麻理恵
 「う、うん! やってみる!」

みなもさんは手慣れているように、スムーズに食器を洗っていたが、一方で麻理恵さんは全身を震わせながら非常に緊張していた。
家事スキルにおいて、ここまで二人の性能に差があるとは。

みなも
 「あら、ユウ様?」

麻理恵
 「ユウ様!? あの、これはその!?」

麻理恵さんは不出来な自分の振る舞いに、顔を真っ赤にしてどよめいた。
俺は階段を降りると、玄関に向かう。
二人は俺を追いかけて玄関前で足を止めた。

みなも
 「ユウ様、行ってらっしゃいませ」

麻理恵
 「出来れば護衛致したいのですが! 私はまだ未熟者でして! ユウ様! オタッシャデー!」

悠気
 「ああ、うん……行ってきます」

俺は靴を履き替えると玄関を出た。



***



玄関を出ると、そこは不安定な時空間だった。
当然外なんてまだまだ未完成、だからこそ俺はこの未設定領域から、あの二人を観察するのだった。

悠気
 「麻理恵さん、やっぱ空回りって感じだよな」


 『仕方ないよ、だって麻理恵さんって暗殺者なんでしょ? そりゃ家事なんて経験ないでしょ?』

悠気
 「だが今は普通の家政婦だ」

宵の言う事は正しい。
だが、同時にそれは彼女を幸せにはしなかった。
麻理恵さんだけが生き残った世界線では、彼女こそがみなもであり、必死に家事を覚えていたのが記憶にある。
だが、ここまで焦っている彼女は記憶にない。

悠気
 「麻理恵さんが焦る原因はやはりみなもさんか」

みなもさんも高級娼婦でしかなかったが、それでも学ぶ機会は麻理恵さんより遥かに多く、そして適正でも上なのだ。
今の麻理恵さんにはみなもさんに相当の劣等感があるだろう。

悠気
 (二人共ごめん……俺は正直まだ貴方達を知らない……だから観察させてくれ)

俺は彼女達をちゃんと知らないといけない。
その上で彼女たちの幸せがなんなのか知る必要がある。
俺は必ず希望になる、だから俺にその姿を教えてくれ!



***



麻理恵
 「はぁ」

私はユウ様を見送ると溜息を吐いた。
完璧に間違えた! ユウ様絶対に顔引き攣ってた!
どうして私はみなもみたいに笑顔が出来ないんだー!?

麻理恵
 「あああー!? ヨシッ! 兎に角次だ! みなも! 次はどうする!?」

私は頭をグシャグシャと掻くとみなもに次の指示を求めた。
私は家事等今まで一度も経験が無く、全てみなもから学んでいる状態だった。

みなも
 「そうね、それじゃ洗濯と掃除をしましょうかしら?」

麻理恵
 「洗濯と掃除だな!?」

私は自分に活を入れると、やる気を見せる。
みなもは浴室前に向かった。

みなも
 「私が洗濯を担当するから、麻理恵はフローリングの掃除をお願い」

麻理恵
 「ハイヨロコンデー!」

みなも
 「……個性的だけど、その業界用語(?)、早く直した方が良いんじゃないかしら?」

私の癖になっているスラングはどうも受けが悪いらしい。
うう、とにかく掃除だ掃除!

麻理恵
 「駆逐してやる……! ゴミ共を塵一つ残らず!!」

私はそう熱意を持つと、ホウキにモップ等掃除グッズを用意する。
まずはホウキでゴミを払うだっけ?
とりあえず、これ位なら簡単そうだ!

みなも
 「ちゃんと出来る? て、きゃあ!? カーペットをホウキで掃いちゃ駄目よ!? 表面が傷つくわ!?」

麻理恵
 「え? ええええ!?」

みなもはあわてて駆け寄ると静止した。
わたしは思いっきりホウキで掃いてしまい、カーペットの毛は滅茶苦茶だった。

麻理恵
 「グワーッ!? 確なる上は自害致す!!」

私は遠隔の力で包丁を手に取ると、上着を開く。
もうこのまま死んで詫びるしかー!?

悠気
 「何をやってんすかー!?」

突然ユウ様が音もなく現れた!
私は驚くと、包丁を落とした。



***



悠気
 「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 麻理恵さんが掃除を始めたと思ったら、突然包丁を取り出し自害しようとしだした、な……何を言っているのか、わからねーとは思うが、俺も何をされたのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……催眠術とか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」


 『ポ○ナレフ状態なっとるー!』

宵に思わずノリツッコミをさせる程完璧なボケを麻理恵さんにされるとは思いませんでした。
つか、いきなり人の家で死のうとするとか、色々気が狂ってるだろ!?
兎に角そういう訳で、黙って観察しているという訳にも行かず俺は無理矢理乱入したという訳だ。

麻理恵
 「も、申し訳御座いません!! ユウ様もはや私は生き恥を晒すならば!」

悠気
 「いい加減にしてください!!」

俺は自分でも珍しく本気で怒っていた。
俺の怒気を浴びると、麻理恵さんはビクっと身体を震わせる。
俺はそんな麻理恵さんを抱きしめた。

悠気
 「麻理恵さん! 誰だって得意な事も、苦手な事もあります! それなのに無理矢理自分のやり方を捻じ曲げたって上手く行くはずがないじゃないですか!」

麻理恵
 「ひう!? で、でも私……私なんか」

麻理恵さんは酷く弱気だった。
いや、本当は強い人なんかじゃない。
強く見せていただけなんだ。

悠気
 「みなもさんと自分を比べても意味はありません、百倍頑張ったって麻理恵さんはみなもさんにはなれないんですから」

みなもさんは放っておいても本当に頼れる人だが、麻理恵さんは逆だった。
良くなるどころか悪化する、それが麻理恵さんに悪循環を及ぼしていた。

麻理恵
 「じゃ、じゃあ私はどうすれば良いんです!? 私はユウ様に尽くしたい! ユウ様は私の希望だから!」

麻理恵さんは泣き出すと、思いっきり俺の胸に飛び込んでいた。
そうか……それが麻理恵さんから求められた希望だったのか。
麻理恵さんは暗殺者から足を洗いたかった。
俺の無茶苦茶な言葉を信じて、母さん達に投降して生き延びた。
俺が麻理恵さんの生殺与奪権を奪ってしまったから、麻理恵さんは本当に必死だったんだ。

悠気
 「麻理恵さん、自分流で良いんです、俺と一緒にやりましょう?」

麻理恵
 「ひっぐ、ユウ様と?」

俺は頷く。
麻理恵さんを救う方法はなんとなく見えてきた。
麻理恵さんに必要なのは一緒にいる時間だ。

みなも
 「麻理恵姉さん、涙を拭いて、ユウ様をいつまで困らせるつもり?」

麻理恵
 「う、うん! 失礼しましたユウ様!」

麻理恵さんは涙を拭うと、俺から離れた。
俺はなるべく温和な笑みを浮かべ、麻理恵さんを安心させる。

悠気
 「間違えたら俺が指摘しますし、分からない事は俺かみなもさんに聞いてください」

麻理恵
 「は、ハイ!」

とりあえず掃除の再開だが、まずはカーペットからだな。

悠気
 「カーペットはコロコロを使いましょう」


 『正式名称は粘着カーペットクリーナーと言うらしい』

俺はリビングの端に掛けられた掃除グッズを持ってくると、麻理恵さんの前で実演する。

麻理恵
 「なる程、そうやって転がして掃除するんですね?」

悠気
 「汚れとかはもっと専門的な知識もいるんで、とりあえず取れるゴミから対処しましょう」

麻理恵
 「ハイ!」

俺は麻理恵さんを見守りながら、掃除を手伝う。
麻理恵さんは俺に教えて貰ったのが嬉しかったのか、何度も念入りにコロコロを転がして掃除した。



***



カーペットの掃除が終わる頃、洗濯が終わったらしく、みなもさんは洗濯カゴを持って現れた。

みなも
 「んしょ」

麻理恵
 「手伝うぞみなも! 何処に運ぶんだ!?」

みなも
 「今日のように晴れている日は裏庭で干しましょう」

悠気
 (晴れ?)

裏庭は確かに明るく照らされているが、空は見事なまでにカオス空間だ。
なにせ極彩色の空は平気で滅茶苦茶な時空が融合している状態だ。
宇宙の法則はまだ定義されておらず、まだまだ違和感だらけだ。

だが、そんな事は全く認識もしていない二人は洗濯カゴを裏庭に運ぶと、物干し竿に洗濯物を掛けていった。
その際干し方等、みなもさんは一つ一つ麻理恵さんにレクチャーしていく。
傍から見ればみなもさんの方が年上だな。


 『因みに二人共20歳の同い年、同じ日に顕現する程縁もあるみたいね』

結局はたまたま麻理恵さんが姉になっただけで、実際に二人に上下はない訳だ。
得意分野が違うってだけで、それでも本人はみなもさんになりたかったんだな。

麻理恵
 「む!? ザッケンナコラー! スッゾオラー!!」

突然野蛮なヤクザスラングを放つ麻理恵さん、何事かと思うと彼女は直様影の弓矢を生成し、即座に撃った!
すると、バシッと音を立てて、真理恵さんの手元で何かが弾けた。

悠気
 「ど、どうしたんです突然!?」

麻理恵
 「不貞虫如きが、今しがた洗濯物に触れようと、既に抹殺しましたからご安心を」


 『ぶっ殺したなら使ってもいい人だー』

悠気
 「ぶっ殺すと心の中で思ったなら?」

麻理恵
 「その時既に行動は終わっているんだッ!」

うん! この人ネタを分かっているのか天然さんかやっぱりわからねぇー!?
とりあえず落ち着いて問題点を正すとしよう。

悠気
 「あ、あのね麻理恵さん? 虫なら適当に追い払うだけで充分ですから」

麻理恵
 「いいえ! それは図に乗らせる行為! 見せしめ、ここが何処か思い知らせる必要があります!」

悠気
 「ウチはそういう怖い事務所じゃねーから!?」

改めて生きてきた世界や価値観が違いすぎる!?
マジモンの筋者を折れさせるのは骨が折れそうだ。

麻理恵
 「む! そこの鳥! それ以上近づくなら容赦せんぞ!?」

悠気
 「許してあげてー!?」

今度は小鳥に矢を構える麻理恵さん。
俺は慌てて静止するのだった。


 『因みに麻理恵さんの影の弓矢って、とっても小さくて射程距離も短いんだって、その代わり取り回しを良くして、接射を重視するガンカタアーチャーなんだって』

悠気
 (いらんわそんな情報!?)

***



みなも
 「はい、ユウ様お茶を」

悠気
 「ありがとう御座います、みなもさん」

あれから麻理恵さんの天然っぷりは歯止めが効かず、俺を疲労させた。
一通り家事を終えた事で、みなもさんは冷蔵庫から麦茶を用意してくれた。
麻理恵さんは今、裏庭で正座したまま精神集中していた。

みなも
 「あの……ありがとう御座います」

悠気
 「え? なにが?」

俺は冷えた麦茶で喉を潤すと、みなもさんは麻理恵さんに目線を移して言う。

みなも
 「麻理恵姉さんはきっと不安でした、この世界に顕現した時私達は5歳でとても幼かった……マフィアの中で育った中、麻理恵姉さんは戦士として適正が見いだされ、組織の暗殺者になったんです」

悠気
 「だが、本人はなりたくてなったんじゃないって」

みなも
 「……はい、姉さんは見ての通り感情を殺せるタイプではありませんでした、それでも生きるために誰かを殺し続けたのです」

想像すればする程重たい話だ。
そしてPKMっていうのは、それだけで凄い力を持つ。
まして第一世代PKMの麻理恵さんなら、相当の価値があるんだろう。
だが、それが本人の望む道ではない、か。

みなも
 「正直まだ麻理恵姉さんは陽の道に戸惑っているんだと思います……それでもユウ様のお陰で姉さんは明るくなりました」

それこそが俺の存在理由だと俺は思っている。
麻理恵さんにとって光指す道は無かった。
だから麻理恵さんを照らす存在に俺はならなければならない。
例え自惚れでも、俺がドン・キホーテであっても、俺はもう諦めたくない。

みなも
 「正直不安でした……私は姉さんを支えられるか」

悠気
 「みなもさん……麻理恵さんが好きなんですね?」

みなも
 「血は繋がっていなくても、ずっと一緒だったので……」

みなもさんは顔を赤くするとそう言った。
きっと辛い時も二人で支え合ったんだろう。
麻理恵さんは自覚していないが、本当はとても幸せ者だったのかも。
勿論それに気づかなければ俺のように全てを失う可能性はあるのだが。


 『うーん、本当に仲良しなのに、じゃあどうして二人は行き違ったのかなー?』

悠気
 (言葉は100の意味があってもそれを全て伝える事は出来ない)

宵の疑問、それは琴音が言っていた誤解の意味だろう。
麻理恵さんとみなもさんが素直になって初めて二人は以心伝心になれる。
だが、そこまでには無数の誤解がある筈だ。
だからまだギクシャクする物もあるんだろうな。

みなも
 「ところでユウ様学校の方は?」

悠気
 「あ……」

そういえば設定上では俺は学生で、学校に行っている筈だった。
まぁ、実際にはまだ学校なんて存在しないんだが、理由が必要か。

悠気
 「その、今日は学校休みでした!」

みなも
 「まぁ、そうでしたか」

俺は苦笑いを浮かべるとみなもさんは納得してくれた。
う、うむ……なんとなく嘘つくの罪悪感あるぞ。
俺は麦茶を飲み終えると席を立つ。
なんだか、居心地が悪いからだ。

悠気
 「そろそろお昼ですし、俺が作りましょうか?」

みなも
 「いえ! それは私にお任せ下さい! 育美様に徹底的にレクチャーされてますので!」

俺はそれを言われるとぐうの音も出なかった。
そういやみなもさん日本に来るまでの3ヶ月間母さんの手解き受けてたんだっけ。


 『というかそもそも、悠気料理できるの?』

悠気
 (彼の記憶があるから、不可能じゃないと思う……多分)

俺の今を形作る、もう一人の俺の記憶。
実際掃除においては特に問題はなかった。
もう一人の俺は、本当に家事完璧のビックリする位主夫してた。
結局妹か俺は、どっちかが家事完璧になる未来らしく、にわかには信じがたいが、俺はそのスキルを継承しているのだ。

悠気
 (とはいえ、包丁さえまともに触った事もないからなー、本当にお菓子なんて作れるのか?)

記憶の俺は当たり前のように作っていたが、俺は俺だからな。

悠気
 「じゃあ少し手伝わせてくれませんか?」

みなも
 「ユウ様が? どうしてもと仰るなら……」

麻理恵
 「みなも! 料理なら私も手伝うぞ! というか手伝わせてくれ!」

麻理恵さんは戻ってくると、みなもさんにグイグイ詰め寄った。
みなもさんは困ったように背を仰け反らせると、コホンと咳を払った。

みなも
 「わかりました、それでは皆でお昼ごはんの用意をしましょう♪」

悠気
 「おー」

麻理恵
 「ガンバルゾー!」



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第27話 極道家政婦 完

第28話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/07/09(土) 18:33 )