第25話 希望の欠片
夕方、どん底に落ちた俺を最初に声を掛けたのは宵だった。
宵
「お、お兄ちゃん?」
悠気
「……」
俺はもう、何も応えられなかった。
言葉が誰かを不幸にする呪いの言葉なら、もう俺はそんな呪言を吐きたくない。
時刻は既に放課後、俺は無言で席を立った。
***
?
(後少しなのに……このままでは悠気の心が壊れちゃう!?)
ソレは降りしきる雪のような光りの玉を全身に浴びていた。
周囲は無限に広がる漂白された野原、空は曇天に包まれ、まるで何かが終わりかけているように、強風が時折ソレを襲った。
この世界は呪われている、もしかすればその通りかも知れない。
だが、ソレは肯定する気はなかった。
?
(けれどどうすれば……最後のキー、それさえあれば!?)
ソレは必死に無限に広がる雪原を走った。
雪原にはポツポツと黒い塊が落ちている。
ソレはそれを夢の残骸だと言う。
まるで夢であるように、かつて幸せな夢に浸る舞台装置に過ぎなかったソレは必死に夢の残骸をかき集めた。
両手一杯に集められた夢の残骸というガラクタを持ったソレは、急いである場所に向かう。
そこは無数の失敗作達、ソレが築き上げたガラクタ人形達が待つ場所だった。
無数の失敗作達の果てに、ソレはついに限りなく成功作に近い人形を築いた。
しかし、それでもそれは今のままでは失敗作と変わらなかった。
?
(器に希望は入る……! でも起動するためのプロセッサーが無い!?)
目はあるが口は無い、一見すればオブジェでしかないガラクタ達だが、それはまるで生命のようだ。
ソレは必死に夢の残骸から、ガラクタ人形に使えるパーツを探した。
しかし幾ら試行錯誤しようと、そのガラクタ人形が最後に応えてくれる事なんてなかった。
?
「あ……!?」
不意に今までに無い、まるで嵐のような強風が周囲に吹き荒れた。
ガラクタ人形達は次々と崩れ落ちていき、夢の残骸達は飛ばされた。
ソレは絶望のような顔を浮かべたが、それでも気丈に首を振ると、必死に残った最後の一体を護った。
この世界は呪われている……その通りなのかも知れない。
だけども、怨念返しでは何も救われない。
***
悠気
「……」
目の前が真っ暗だった。
特に部活もやっていない俺は無言で誰とも関わらず下校していた。
琴音と、そして宵、二人の言葉が俺に去来する。
悠気
(俺は誰なんだ!? )
俺は自分が何者か分からなかった。
俺は誰の為にある?
ずっと宵の為にあるべきだと俺は思っていたのに、宵はそうは思っていなかった。
なら琴音の為にあるべきか?
それが本当に分からない。
今すぐ琴音の下に向かうか?
いや、それ以前に琴音は何処にいる?
病院? どこの病院だ?
悠気
(くそ!? 何をやっているんだ俺は!?)
次第に焦燥が増し、おかしな考えばかりが浮かんで更におかしくなる。
俺は頭を抱えた、なんで俺はこんなに馬鹿なんだ!?
俺がもっと利口なら、少なくとも瑞香を孤独にしなかったか?
俺が少しでも優しければ、ユズちゃんに嘘を突かせずに済んだか?
俺がもっと正しければ、琴音を悲しませずに済んだか?
もっと……もっと……!
?
「悠気……」
ふと、突然悲しげな声で呼びかけられた。
俺は顔を上げると、そこには母育美の姿があった。
悠気
「母さん……? いつ日本、に?」
母さんは哀しげに俺を見ていた。
まるで全て理解しているというように。
そして母さんはそんな俺を見て、突然抱き締めてくる。
育美
「悠気……ごめんなさい、貴方に重責を背負わせて」
悠気
「なにを……言っているんだよ母さん? 重責って……?」
訳が分からなかった、だが母育美の流した涙が俺に伝わる。
悠気
(母さん、泣いて?)
何故かは分からない、だが母はこんな俺の為に泣いているのか?
重責って、俺はなんなんだ?
母さんは知っているのか!?
育美
「悠気……貴方一杯悲しんだでしょう? 一杯苦しんだでしょう? ごめんなさい……」
悠気
「あ、謝ったって訳が分からない! それとなにが関係ある!? 俺は選んでこうなったんだ!」
俺は怒鳴るようにそう言った後、自分で後悔した。
普段から感情制御が苦手な俺は、つい八つ当たりのように大好きな母さんに噛みついてしまう。
それでも、そんな気まずい俺を母さんはギュッと抱き締めてくれる。
育美
「そう、ね……でも今の貴方がそこまでを背負う必要は本当なら無かった」
悠気
「母さん……母さんは俺が誰なのか、答えられるの?」
母さんはゆっくりと身体を離すと、涙をその美しい手で拭った。
アルセウスというPKMの母は、浮世離れした美しさ、そしてなにか覚悟したように俺を見捉えた。
俺はそんな母の気に気圧された。
育美
「少し……歩きましょう?」
俺は無言で頷くと、母さんは歩き出す。
俺はそんな母の背を見て、普段のおちゃらけた母ではない何かを見た。
悠気
(普段の母さんじゃない……だけど、こんな母さん何処かで?」
ふと、そんな風に思っていると母さんが足を留めた。
俺はそれに気が付き足を止めると、母さんが見上げていた物を目で追った。
悠気
「お寺?」
育美
「ここです」
母さんはそう言うと、石段を登った。
俺もその後をついて行くと、そこは猫の額のような小さなお寺だった。
育美
「悠気、ここ覚えている?」
悠気
「覚えて……ッ!?」
俺はそこを知っていた。
10年程前に、まだ父さんが当たり前に家にいて、そして出ていくきっかけになった事件。
宵の母親が死んだのを切っ掛けに宵が若葉家の養子になる間、この寺は宵とよく一緒にいた場所だった。
だが、宵を狙う謎の人物に襲われた時、その時の記憶が酷くあやふやなのだ。
分かっている事は俺も宵も無事だったということ。
俺が目を覚ました時には泣き崩れる宵と、母さんの姿があった事を今でも鮮明に思い出せる。
育美
「貴方が何者、か……だったわね?」
突然母さんが真剣な顔で振り返った。
すると母さんは宙に浮かび、その周囲に17枚の長方形の板状のプレートを円を描くように並べた。
育美
「私はこの世界線を守護する神、十柱の長、調律と創造の神アルセウス」
母さんの放つプレッシャーは正に人のそれを遥かに超えた規格外な物だった。
俺は一歩後ろにたじろぐと、母さんはプレートを全て消失させ、目の前に着地した。
育美
「それが母さんの正しい正体……そして貴方もまた、私の血を半分受け継いだ半神なの」
悠気
「半神……でも、俺は……」
育美
「そう、幾ら調律と創造の力を受け継いだとしても、今までの貴方じゃその力の意味も、扱い方もまるで分かっていない」
悠気
「今でも分からないよ!? こんな恐ろしい力!? ちょっとイラッとしただけで簡単に目の前の物が壊せる力! こんな訳の分からない力なんか理解出来る訳がない!?」
俺は自分がアルセウスであること、そしてそれがどれだけ恐ろしい力を秘めているのか知っていた。
だが、だからこそ失った物は帰ってこない、その現実がいとも容易く俺を絶望させた。
悠気
「半神? だから何!? 調律も創造も! そんなもの求めちゃいないんだ!!」
?
「……それはまだ表の側面に過ぎない」
突然、気配無く後ろから見慣れた男が出現した。
相変わらず藍色のローブを身に纏い、どの角度から見ても伺い知れない表情をした男は俺の父、討希だった。
悠気
「父さんまで?」
討希
「すまない悠気、俺に対して不満等幾らでもあるだろう」
不満と聞いて俺は眉がピクリと上がった。
無いわけじゃない、特に宵の父親として少しでも一緒に居てくれればとどれ程思ったか。
だが、そんな不満は俺は飲み込む。
今はそんないざこざを俺も望んじゃいない。
悠気
「いや、今はいい……それよりも表の側面? なら裏の側面があるの?」
父さんはそれを聞くとニヤリと笑った。
いや、笑った? 普段は見えない父さんの顔が?
気がつくと風もないのに父さんのローブははためき上に持ち上がる。
紫色の魔法陣の上に父さんは立っていた。
討希
「お前はPKMであり、この世界で唯一魔力を持つPKMだ」
悠気
「魔力……?」
ふと、俺は自分の手を見た。
そして父親を見ると、俺はその意味を理解した。
父さんの魔力を認識している、だから見えない筈の顔が見えたんだ。
そしてそれは父さんが魔術師だと言うこと。
悠気
「俺は、魔術師なのか?」
討希
「そうだ……いや、正確にはそうではない……だが、それが不幸だった」
悠気
「不幸、だと?」
父さんは首を振ると、魔力が収まった。
俺は怪訝な表情をすると父さんは語りだす。
討希
「お前はまだ魔術師ではないために、魔術を制御出来ていなかった……それに気付いていながら、俺はある理由でお前に接触が出来なかった」
悠気
「どういう意味だよ!? 俺の魔術って!?」
育美
「確証は取れていないけど、悠気……貴方はね、望みの未来を確定出来る魔術、希望の魔術を操れる筈なの」
突然少し離れた場所で母さんはそう言った!
希望の魔術? 歴史改変だとでも?
だが……それなら!?
悠気
「それなら何!? 俺は望んで皆を不幸にしたのか? 俺がそう望んだと!?」
討希
「魔力が親子で受け継がれる以上、お前が俺と同質の魔力を持つ可能性は高い、だが…この力は厄介でな、制御が効かないんだ」
悠気
「制御が、効かない?」
父さんは自分の手を見ると、そんな無力さを噛みしめるように手を強く握った。
そして父さんはどこか哀しげに俺に真相を伝える。
討希
「この俺の魔術希望は、厳密には現実改変に属する……しかし最大の欠点として希望を持てば希望を、絶望を持てば絶望を周囲に与える」
悠気
「ッ!? そんな都合の良い物じゃない?」
討希
「加えて俺の魔術の有効射程は精々手の届く範囲だが、お前の魔術は街一つを覆うほどだった」
俺はその時さらなる絶望に叩き落された。
俺はあまりの悲しさに膝から崩れ落ちると、ただ泣いた。
悠気
「それじゃ俺が無意識でも、それを思ったから皆酷い目にあっていったのか?」
今もまた、俺が絶望を意識すればする程、誰かが不幸になるのか?
俺は、そんなただの疫病神だったのかよ!?
討希
「お前は宵の事を一番に考えただろう? その結果宵だけは無事だった」
育美
「私達も貴方達二人が無事ならそれで良いと黙認したの、魔術なんて……知らない方が幸せだから」
両親がそんな風に思っているなんて知りもしなかった。
だけども宵は俺を否定した。
このままじゃ宵にだっていつその不幸が降り注ぐか分からない。
討希
「だから……俺達は選択をする事にした」
悠気
「なにを?」
討希
「10年前夏の日、魔術師に襲われた時、お前は誰かに助けられたな?」
それは記憶が曖昧な部分だった。
確かに魔術師に抵抗した事は覚えている、しかしまるで叶わず地べたを這いずり、その後記憶がまるで霧が掛かったように思い出せない。
だが、確かに光りを纏った誰かがいたような気がする。
討希
「月代宵」
悠気
「宵の旧姓? それとなん関係が?」
討希
「お前と宵が命の危機に瀕した時、声を聞いたのだ……この世界に若葉宵とは異なる月代宵が存在する」
悠気
「えっ?」
その時だ、俺は一瞬、真っ白な世界でガラクタ人形を必死に抱き締め、嵐のような風から護る少女を幻視した。
育美
「私は調律と創造の神として」
討希
「希望を体現する者として」
二人は正面と背後から俺を挟んた。
そして二人は言う。
育美
「願いなさい、希望の世界を」
討希
「望め、届かせろ夢の果てまで」
突然、眼の前が光に包まれた。
そして気がつくと俺は……。
***
?
「? 風が止んだ?」
ソレは突然風が止んだのを理解した。
ずっとこの希望だけは護り通すとソレは必死に守り抜き安堵した。
だが、突然世界が安定しだした。
空からこの世界に降り注ぐ希望の欠片達、悠気は少しずつ希望を集めてくれた。
ふと、ザッと足音がした。
ソレは立ち上がると後ろを振り返る。
そこには若葉悠気の姿があった。
?
「え? 悠気……どう、して?」
悠気
「お前が、月代宵、なのか?」
ソレは大いに驚いた。
もはや歴史改変によってその名は消滅した筈。
ここにいるソレはそんな歴史の歪みによって消滅するはずが、悠気の内面にある世界に僅かながら存在出来る程度だった。
?
「あ、はは……久し振り、悠気♪」
ソレは自分が月代宵だということを認めた。
そしてそれを知った悠気は涙ぐんでしまう。
宵
「わわ!? ど、どうしたの悠気!?」
悠気
「思い出した……そのお団子ヘアーに月の羽……貴方が俺と宵を」
今悠気にとって過去のピースが完全に嵌った瞬間だった。
あの時助けてくれた存在は未来から来た存在だったのだ。
宵
「た、たはは〜、お陰様で歴史改変の結果私は存在しなくなっちゃった……筈なんだけど」
宵は照れくさそうに頬を掻くと改めて悠気を見る。
そして改めてこの悠気が自分の知る悠気であり、同時に宵が夢の世界で見てきた悠気とは違うのだと理解した。
宵
「えと、私がどういう存在か、それは理解してる?」
悠気
「いや……命の恩人、それ位しか、それよりも母さんと父さんとはどういう関係なんだ!?」
悠気にはこの宵の事はまるで知らなかった。
だが確かに両親はこの月代宵を認識していた。
宵
「その、ね? 言いにくいんだけど……いや、こっちの方が早いか」
宵はそう言うと、悠気に近づいた。
悠気は少し緊張した、シルエットは若葉宵、彼の妹にそっくりだが、中身はまるで違うのだから。
宵
「ん」
宵は悠気に触れると、突然悠気の眼の前でグチャグチャに歪みだした。
悠気はギョッとするが、突然宵だった物は、複雑な17枚のプレートで構成された多面体の箱だった。
その箱は心臓の鼓動のように脈打っており、また時折箱の形を変化させていく。
大凡箱としての機能に疑問を覚えるそれは、宵を構成するコアだった。
宵
『私は今の貴方とは異なる世界線を歩んだ貴方が創り出した人工魂魄、或いは秩序なの』
箱はテレパシーのように直接悠気にそれを伝えた。
悠気はその反応に驚嘆するが、箱はゆっくりと悠気に近寄った。
悠気
「ど、どうなってんだ?」
宵
『もー! そんなのこっちが聞きたいっての! ていうか創ったの悠気なんだから、説明書とか無いの!?』
悠気
「理不尽!? 俺君の事は知らないんだから!?」
悠気はこれまで晒された別の理不尽に嘆いた。
だが、箱は悠気の前で止まる。
悠気は恐る恐る箱に触れた。
その時、悠気は箱から魔力の波動のような物を感じ取った。
悠気
「こ、これは!?」
宵
『蓋を開いて……今から完全なる貴方になる』
悠気は喉を鳴らすと、恐る恐る箱を開いた。
箱は無茶苦茶な形で開くと、中には己と殆ど同質の魔力で構成された幾何学的に蠢く七色の光だった。
悠気
「なっ!?」
悠気は驚いた、七色の光が悠気の視界全てを塗りつぶす。
そしてそれは宵の知る悠気の全てが彼に明かされた。
悠気は本の一瞬で、月代宵が産まれるまでの己の後悔、そして月代宵を散々自己感傷の贄にしてきたそれを理解した。
宵
「……悠気?」
気がつくと、そこには学生服姿の月代宵が立っていた。
悠気は彼女が何者なのか、そして自分が何者なのか理解した。
悠気
「そうか……やっぱり俺は最低の男なんだな」
宵
「もう! なんでそうなるのっ!?」
悠気
「異なる世界線の俺は君をただの玩具としか見ていない、そして俺はそんな宵以外をただ玩具にしていた……」
悠気は顔を抑えると静かに震えた。
宵はどうしていいか分からず、ただ不安げ悠気を見つめていた。
宵
「私本当に馬鹿だから、こういう時なにをすればいいのか分からないけど……悠気! もう本当に心配したんだからね!? プンスカプン!」
宵は子供っぽく顔を赤くすると、頬を膨らませた。
悠気はこんな妹とはかけ離れた、言ってみれば宵を知らない奴が創った偽物に意外な顔で目を丸くする。
悠気
「しかし似ていない……その性格、一体どうすれば産まれるのか?」
宵
「そんなの私だって知らないわよ……本当の私が死んで10年だもの、それだけ記憶も薄れて乖離が進んだんでしょ?」
悠気は先程異なる自分の経験に触れた為、その言葉に目を細めた。
宵が無事だったのは本当に幸運であった。
だが根本的に自分が屑だから、絶望ばかり募らせてしまう。
悠気
「俺には君がやはり分からない、君の世界線の俺を説き伏せた君はやはりイレギュラーだ、何よりも何故この世界線に存在しない君が存在する?」
悠気は宵が自分の全ての魔力とアルセウスの力を凝縮したコアだと理解した。
宵は自己推論、自己進化によってこの姿を象っている。
自己進化においてはあくまでもイレギュラーの介入によって発生したというのが分かるが、最も単純に言い表せば。
悠気
「神、か……創っておいて難だが、無茶苦茶だなお前の世界の俺は」
神、それも絶対の運命そのものを司る神。
宵は夢の世界を維持する為の機構を備え、イレギュラーを自ら廃するデバッガーとして機能を有している。
基本的に能力は通常なら制限されていたが、つまり宵はある程度の広さを制限はするが、あらゆるルールを自由に設定出来る改変空間を展開出来る。
宵
「うーん? あんまりそういう実感沸かないんだよねー」
悠気
「当然だな、そうは言っても君自身は普通の高校生としての記憶人格しか与えられていない、そもそもコア形態に戻れる時点でイレギュラーだ」
悠気はそう言うと、宵の後ろを見た。
そこには凄まじく出来の悪いガラクタ人形が鎮座していた。
悠気
「ところで……このガラクタはなんだ?」
宵
「ガラクタじゃないもん! 悠気君5号君だもん!」
悠気は心底呆れてしまった。
夢の中、或いは深層の奥でずっと宵を見てきて、そのガラクタの中に宿ってさえいた。
だが、同時にそのガラクタが夢の残骸なんだと理解した。
悠気
「何故創った? お前に創造する機能は無い、にも関わらず夢の残骸を集めて?」
宵
「自分でも分からない……私ってね? 外の事は何も分からないの、無茶しちゃった性でバグまみれだし、ただ貴方を助けたいって」
悠気はガラクタの前で屈むと、そっと触れた。
するとガラクタから凄まじい熱を感じる。
悠気は驚いて立ち退くと、ガラクタは光り輝いた。
悠気
「これは!?」
宵
「やった! 最後のピースが嵌ったんだわ!」
その熱と輝きは悠気と宵が集めた希望だった。
空から降り注ぐ希望の欠片を少しずつ集めてガラクタに注ぎ込み、そのガラクタには悠気の知る多くの者達の想いが詰まっていた。
瑞香
「夢? 夢を見るなら幸せな夢がいい……私もユズも不幸になんてならない夢……」
萌衣
「夢? そうね……悠気の言うように、ゲーム製作者として結果を出せたら、父さんも認めてくれたかな? そんなのあり得ないけど、それが夢になるのかしら?」
柚香
「私はお姉ちゃんと一緒に幸せになれる夢が良いです……」
幸太郎
「もう間違わない……間違った選択をしない、そんな夢、か」
琴音
「もっと走り回って、元気に生きて、一杯恋をしたい……これが私の夢」
数多くの夢、それは幸せな希望だった。
悠気は魔術を知らない、その力を絶望に染る力だと思っていた。
しかし、逆に悠気は無意識の内に誰かの希望になりたかった。
それがここに希望の欠片が集まる原因だった。
『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』
第25話 希望の欠片 完
第26話に続く。