突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第24話 希望無きこの世界



悠気
 「琴音ッ、琴音はどこだ……?」

女子生徒が倒れた、そんな話が出回った時、俺は琴音が倒れたんじゃないかと学校を駆けずり回っていた。

幸太郎
 「おい、どうした悠気?」

通路で幸太郎と出会う。
俺は足を止めると、幸太郎に琴音の行方を尋ねた。

悠気
 「こ、琴音、大城琴音を見てないか!?」

幸太郎
 「大城か? いや、見ていないな……少なくとも教室にはいなかった」

必死な思いで聞くと、幸太郎は冷静に有益な情報を出してくれた。
教室にはいない?
いや、冷静になれ……時間は昼だぞ?
確か琴音はいつも中庭に……!

悠気
 「ッ!?」

俺は直ぐに窓に寄ると、眼下を覗く。
通路の下は中庭が見え、俺は琴音の姿を探した。

幸太郎
 「いないな……保健室は?」

幸太郎も隣で琴音を捜してくれた。
しかし中庭にあの少女の姿は無く、幸太郎は保健室を提案する。

悠気
 「くっ……!」

俺はそれを聞くと、直ぐに保健室に向かった。
頼む……外れてくれ、俺はもう誰かが何処かで傷付く姿を見るのは嫌なんだ!
何故宵は俺を琴音に押し出した?
琴音が俺の幸福に繋がるのか?

いや、そんな事はもうどうでもいい!
お願いだから、無事でいてくれ琴音!



***



悠気
 「はぁ、はぁ! 大城はいますか!?」

俺は保健室に駆け込むと、琴音の姿を探す。
しかし中には琴音の姿は無かった。
ただ、先生だけがそこにいた。

保健医
 「貴方若葉君? 大城さんなら来てないわよ?」

保健医の先生がそう言うと、俺はあ然とし、汗を吹き出した。
保健室にもいない?
なら一体何処にいるんだ……琴音、お前は俺の杞憂なのか?
それとも俺は何か勘違いしているのか?

保健医
 「随分疲れているみたいだけど、一体どうしたの?」

悠気
 「……いいえ、なんでもありません」

俺は落胆すると、保健室の扉を閉める。
結局琴音は何処に行ったんだ?
昼休み時間はもう無い。
もしかしてただ行き違ったか?

悠気
 (教室に戻るか……?)

俺は逡巡する。
今は兎に角落ち着けない。
こんなに俺は情けなかったのか……女の子一人の為にこんな右往左往するなんて、本当にみっともないよな。
けれど胸騒ぎがするんだ……取り返しがつかない事があるんじゃないか、そんな理由もない不安がただ俺に募っていく。

悠気
 (まだ行っていない場所……)

俺は琴音がどこに向かったか推測する。
ここまで探すのに手こずるってのは、改めて俺は琴音の事をまるで知らないんだな。
なんて馬鹿なんだよ俺は……こんな俺が一体誰を護れるんだ?

ガキの頃、宵を護るのに必死だった。
だが今や宵が俺を心配するなんて状態だ。
俺がどれだけ驕っていたのか、どれだけ現実を見ていなかったのか?

悠気
 「く!? 後行ってないのは屋上位か!?」

俺はそれ以上考えるのを止める。
兎に角今は琴音が無事な事を知りたい。
不安は余計に自分を不安定にする。
負のスパイラルは不毛だ、兎に角今は前を向け!



***



屋上に向かった。
もうすぐ昼休みも終わるというのに、俺は重い扉を開くと屋上を臨む。

琴音
 「悠気君……? どうしてここに?」

悠気
 「あ、あ……!」

いた……! 琴音がいた!
琴音は落下防止柵の前にいた。
網目の柵に手を掛け、どうやら眼下を覗いていたようだ。
俺は涙が零れ落ちた。
ようやく……安心できたからだった。

琴音
 「え? 泣いているの……?」

悠気
 「ち、違う! これは汗だ!」

俺は急いで涙を拭くと、汗と言い張った。
それを見て琴音はクスリと笑う。

琴音
 「クス、どうして屋上に?」

悠気
 「琴音を捜していたんだ」

琴音
 「私を? 宵さんはいいの?」

俺は一度琴音と昼飯を食う約束をキャンセルしている。
それは少し皮肉っぽい言い方だった。
俺はバツが悪く、後ろ頭を掻くのだった。

悠気
 「宵には会ったさ……だが、宵に突っぱねられた」

琴音
 「えっ? あんなに仲が良いのに? そんなことがあるの?」

実際、兄弟仲は良い。
俺と宵が喧嘩した事は殆どない。
つまらない喧嘩はしても、本気の喧嘩は一度もなかった。
そんな宵は一体何を考えているんだろうな。
俺には本当に分からん。

悠気
 「琴音こそ、なんで屋上に?」

俺は逆に琴音に尋ねた。
琴音は中庭を好むが、屋上のような日差しの強い場所は苦手だった筈だが。

琴音
 「死にたい人の気持ち考えていたの……」

俺はピクリと眉を顰めた。
琴音は暗い顔でフェンスの下を覗く。
それは恐らく飛び降り自殺した吹寄の事だろう。
飛び降りたのは反対側の棟であり、そちらは今も封鎖されていた。
実際の飛び降りた現場ではないが、その意味を考えるにはどちらでも構わないのだろう。

琴音
 「大好きって人に自分を否定されるってとても辛いよね……それこそ、心不安な時なら、自分なんてどうでもよくなるものなのかな?」

悠気
 「俺には飛び降りた人間の考えなんて分からん、だが幸太郎は死んでほしくて否定したんじゃない……いや、そもそもアイツが告白を断ったのは彼女の為だったんだ」

琴音
 「でもね? 言葉はその人の百の想いを全て、届けてなんてくれないの……」

悠気
 「ッ!?」

琴音は全てを見透かすように振り返った。
俺は琴音の言葉に衝撃を覚える。
それじゃ幸太郎は彼女に何も伝えられなかったって事か?
与えるべきはずのものが絶望になったその時、吹寄は自殺した?

琴音
 「好き、って言葉でもね……色んなニュアンスがあるように、言葉は時に誤解を与える」

悠気
 「誤解……?」

俺はその時、色んな物が過ぎった。
瑞香の誤解、アイツは悪いやつじゃない、むしろ妹の為に全てを犠牲にする女だった。
ユズちゃんの誤解は、そんな姉の想いを間違えていた。
ユズちゃんが瑞香の言葉を呪いに変える度に、あの姉妹は傷を増やしていく。
幸太郎の誤解は、全てに与える幸太郎自身の人格。
幸太郎は決して気難しい奴ではないが、その厳ついシルエットや寡黙な性格は必然と周囲に威圧感を与えていた。

誤解、そうだ……この世界はそんな誤解だらけだ。
じゃあなにか? そんな些細な誤解がこんな取り返しのつかない世界にしてしまったのか?

悠気
 (俺も……誤解していたのか?)

俺は宵の事が急に分からなくなった。
でももしかしたら俺が宵を誤解していた?
宵が何故俺の幸せを願った?
何故、その為なら悪魔になってもいいと?

琴音
 「私ね……ちょっと自殺した彼女に共感しちゃった。大好きな人が本当の好きをくれないって、やっぱり苦しいよ」

悠気
 「……え?」

琴音
 「クスリ、とは言っても私は前向きなので、自殺しようとは思いませんが♪」

琴音は一瞬とても哀しい顔をした。
だが直ぐに戯けた彼女は笑顔を浮かべる。

あの哀しい顔、瑞香も宵もしていた。

悠気
 「教えてくれ琴音! 俺が……俺が悪いのか?」

琴音
 「え? どういう意味?」

悠気
 「俺が好意を否定し続けたから、みんな傷付くのか!? 俺が誰も好きになれないから……!」

俺は全身が震え、涙が頬を流れた。
琴音が俺に好意を抱いている事を俺は承知だった。
友達以上恋人未満の関係は心地良かったが、結局は俺は琴音を傷つけていただけなのか!?

琴音
 「……はぁ、甘ったれるな! 私はそんな甘い覚悟で悠気君を愛したんじゃない!!」

俺は今まで聞いたこともない琴音の怒号に驚き、怯んだ。
琴音は胸元で腕を組むと、ツカツカと歩み寄ってくる。

琴音
 「悠気君? 今の貴方じゃ絶対幸せになれない……私は好きになった人が涙に暮れるなんて、絶対に嫌だ」

悠気
 「こ、琴音……」

琴音は強い子だった。
いや、琴音が強いのは初めから分かっていた。
どんな時でも前向きで、彼女はいつだって笑っていた。
俺とは対象的な存在だった。

琴音
 「フフ……ゴホ!? あうっ!?」

悠気
 「な!? 琴音ーッ!?」

突然、琴音は咳き込むと膝から崩れ落ちた。
俺は顔面を蒼白にしながらすぐさま琴音を受け止める。

悠気
 「琴音!? しっかりしろ!?」

俺は彼女を抱きとめると、驚愕した。
琴音の顔は蒼白で、その細くか弱い身体から力が失われてきていた。

琴音
 「ケホ!? かは!? ゆ、悠気君?」

悠気
 「喋るな琴音!? 今すぐ保健室に!」

琴音
 「お願い……聞いて、悠気君」

琴音は俺の腕をギュッと握り込んだ。
決して強い力じゃない、でも俺はその必死さに息を呑んだ。

悠気
 「な、なんだ?」

琴音
 「私ね……一つ不安があったの、悠気君、私と宵さん、どっちが好き?」

どっちが好きだと!?
それは今答えないといけないのか!?
俺は考える、どう考えても今は琴音と問答している場合じゃない。
だが、琴音は真剣な顔だった。

琴音
 「その顔……やっぱり宵さんか……」

悠気
 「お、俺は……ッ!?」

見透かされた俺の手は震えていた。
その震えが抱いた琴音に伝わる事が怖い。
でもそれじゃ琴音にはなんの救いもないじゃないか!

悠気
 「俺に好きって……言わせてくれないのかよ!?」

琴音
 「フフ……♪ それだけ、でも……私、には、誇り、かな……?」

段々と、段々と琴音の身体から力が落ちていた。
これ以上は本当に不味い、琴音の命が吸われていく。

悠気
 「もうこれ以上は!? 保健室に運ぶぞ!?」

琴音
 「フフ……私も、大好き、だよ♪」

俺は琴音の身体をしっかり抱きかかえると、保健室に急いだ。
その間、徐々に力を失う琴音に恐怖しつつ、しかし琴音の顔は何故か穏やかな笑顔だった。



***



琴音
 (私は悠気君の事が好き、ライクじゃなくてラブだから)

私は気がつくと暗闇の中にいた。
ここは夢か、と思うが確証は取れない。
死んだ……の、かな?

琴音
 「好きな人にちゃんと告白してほしかったなぁ」

私はクスリと笑うと、そう後悔を零した。
もう今更だろうか、しかしこんな情けない私の身体でも、それ位の欲張りな夢がある。

本当なら、大好きな人と恋愛をして、結婚をして、幸せな家庭を私も築きたかった。
ああ、でも……そんな物は高望みでしかない。

『ザザ、ザ、ザザザんな事は、ザザよ』

琴音
 「え?」

突然ノイズ塗れの声が聞こえた。
私の回りは暗闇で、何も見えやしない。
それでもノイズ塗れの声は私には聞こえ続けた。


 『ザザねは、欲張ザになっザザ、ザザザだよ?』

琴音
 「……貴方は?」


 『ザザザ、今は、何者でもないのかも、ザザザ』

何者でもない?
いや、その声はよく聞くと女の子のようだ。
しかもその声には聞き覚えがあった。

琴音
 「若葉宵さん?」


 『ザザザザザ……琴音、ザザ、教えてザザ貴方の夢、願いを』

その声は確かに宵さんそっくりだった。
でも何かが決定的に違う。
でも、彼女の問う願いなんて初めから何も変わらない。

琴音
 「もっと走り回って、元気に生きて、一杯恋をしたい……これが私の夢」

そう、ずっとずっと私の中で変わらない夢であった。
しかしそれを聞いた声は満足したかのようだった。

琴音
 「ッ!? え? 私の中からこれって……?」

突然私の中から光の玉が飛び出した。
温かい光を放つそれは、何処かへと飛んで行っていしまう。
しかし、私はそれに不安は感じなかった。
寧ろ……安心、だろうか?


 『ありザザう、ザザザザァ』

やがて、声は遠ざかって行く。
宵さんそっくりの声なのに、宵さんとは決定的に違う何か。
その答えは私なんかには到底推し量れない。
でも……きっとあの問いには意味があったんだ。



***



悠気
 「ッ!?」

俺は保健室に琴音を連れて行くと、直ぐに保健医の先生は病院に連絡を入れてくれた。
やがて救急車が来ると、直ぐに琴音は運ばれていった。
そんな放課後の事、俺は突然琴音の光を受け止める幻視をしてしまう。

悠気
 「壊れていく……何で、俺、なんだ?」

俺は段々とこの世界の意味を、そのおかしさを理解し始めていた。
それは俺がアルセウスだから、なのか?

悠気
 「……!」

俺は掌に力を込める。
そうすると、俺の掌に力が集まった。
それは母から受け継いだアルセウスの創造と調律の力。
俺が5歳になる頃、俺はこの力に気がついた。
人間のように育てられた俺は、この力が最初なんなのか分からなかった。
最初、何気なく命あるものを創った時、それは不完全な命だった。
命を理解出来なかった俺を母は、優しくこの力は神様の力なんだと説明してくれた。
俺は大きくなるにつれて、俺が異端な存在なのだと気がつくと、自ずと自らの力を封印した。

悠気
 「くそ!? なにが……!」

俺は徐々に力場を形成しつつある、純粋な力を握りつぶした。
力は周囲に拡散すると、エネルギーを失い霧散、消滅した。
こんな力があっても、結局俺はこの力の意味を未だ理解していなかった。
いや、寧ろ恐ろしくあった。
俺はこの力を使った時、果たして正常な倫理観を保てるか?

悠気
 (誰か……教えてくれ……! 俺は、一体誰なんだ!?)

俺は悔しくて蹲る。
結局は俺は誰も救えない。
俺がどれだけ足掻こうと、どれだけ抗おうと、俺の眼の前はいつも真っ暗だ。

悠気
 「誰か……もう、俺は疲れた……誰か助けて……」

俺は掠れた声でそんな哀れな助けを請うた。
だが誰なら助けてくれる?
神様が助けてくれるのか?
それとも神が死に、もう希望さえ無いなら悪魔に縋るしかないのか?



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第24話 希望無きこの世界 完

第25話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/06/17(金) 18:54 )