第23話 残酷な天秤の歪み
校門を迎えると、生徒たちが集合している。
マスコミの姿も見えて、まだ事件の爪痕は残されていた。
琴音
(はぁ、人混みは避けたいのに)
私はそんな事を思いながら、校門に近づいていく。
今日は少し身体が重たい、なるべく無理はしたくないんだけど。
琴音
(大丈夫、私はやれる、私は価値がある!)
私はマインドセットするように胸に手を当て、そう願った。
やがて、人混みを避けながらやや団体の後方を歩いていると。
琴音
「あ……!?」
私は不意に足をもつれさせた。
危ない、そう前のめりに倒れながら顔を青くしていると。
ボフ!
突然、私は誰かに抱きかかえられた。
私はそっと後ろを振り返ると、そこには彼がいた。
悠気
「大丈夫か琴音?」
悠気君は咄嗟に私に駆け寄り、倒れるより早く助けてくれた。
琴音
「え、えへへ♪ ありがとう、悠気君」
私は照れ笑いしながら、悠気君から離れた。
悠気君って本当に私にとってヒーローだよね。
だからこそ私は悠気君を好きになったんだ。
お父さんは私の直感的な恋を肯定してくれた。
だから私はそれに甘える事にする。
琴音
「悠気君、おはよう♪」
私はなるべく笑顔を顔に浮かべ、悠気君に挨拶した。
悠気君は相変わらずだけど、小さく微笑むだけである。
悠気
「ああ、おはよう」
悠気君、大人っぽいというか、誰が相手でも喜怒哀楽が薄いんだよね。
一度でいいから、悠気君の子供っぽい所見てみたいなぁ。
宵さんだったらいっぱい知っているんだろうけど。
私は悠気君の後ろを見た。
そこには宵さんに百代君、そして確か山吹さんの妹さんかな?
宵
「大城さん、おはよう♪」
琴音
「おはようございます」
宵さんは晴れやかな笑顔だった。
私相手でも優しくしてくれる宵さんはある意味大物だよね。
悠気
「ほら、教室行くぞ?」
琴音
「あ、う、うん」
悠気君は先に下駄箱に行ってしまう。
私はその背中を慌てて追いかけた。
柚香
「あの、私こっちなんで」
山吹さんの妹さんは下級生だから、下級生の下駄箱に向かった。
私はぶつからないように気をつけながら自分の下駄箱に向かう。
悠気君はそんな私を常に気遣い、守ってくれる。
悠気
「琴音、大丈夫か?」
琴音
「う、うん、悠気君がいるから平気♪」
なんて可愛らしく惚気けてみるが、悠気君には全く効果が無かった。
悠気君は目を細めると寧ろ「頭大丈夫か?」って蔑むようだった。
琴音
(うぅ、失敗した〜)
私は顔を赤面させると目線を逸した。
大人しく自分の下駄箱に向かうのだった。
***
悠気
「……ふむ」
俺はある程度人が捌けていくと琴音の為に道を確保する。
かなり普段と比べればゆっくりとした歩みだが、チャイムには遅れないだろう。
幸太郎
「ふ……まるで王子様だな?」
悠気
「む? 幸太郎?」
本来の幸太郎はこうやって戯けた事を言う奴だ。
だが、今の幸太郎がそんな戯けた事を言うとは思わなかった。
少し元気になったんだろうか?
幸太郎は壊れかけている、それを繋ぎ止め、その心を修復しないといけない。
悠気
「幸太郎、本当に大丈夫か?」
幸太郎
「お前の妹に言われて気が付いた……このままじゃ確かに駄目だ、俺自身を納得させる為にはまだ時間は掛かるが、自分を変えようとしなければ、いつまでも俺は駄目になる」
幸太郎はそう言うと戯けた顔から直ぐに真剣な顔に戻し、腕を組んで深刻さを表した。
俺は目を細め、幸太郎の容態を考慮する。
悠気
「……お前が前みたいに軽口を普通に言える日を俺は待つよ」
俺はそう言うと微笑を浮かべた。
やがて、女子達は上履きに履き替えこちらに向かってきた。
宵
「お兄ちゃん、幸太郎さん、お待たせ♪」
宵は笑顔で琴音の手を引いてきた。
琴音は少し照れくさそうに宵の後ろを歩く。
琴音
「悠気君、一緒に行こう?」
琴音は頬を紅くしてそう言うと、俺は頷く。
悠気
「琴音、無理はするなよ?」
琴音
「う、うん♪」
琴音は嬉しそうに頷いた。
宵の手を離れ、駆け足で俺に寄ってくる。
俺はそれさえ無茶ではないかと心配するが、琴音は少し息を切らしていたが、健気に並び立った。
琴音
「はぁ、はぁ……だ、大丈夫、私はまだ」
幸太郎
「フッ、お邪魔虫にならない内に退散するとしよう」
幸太郎はそう言うと、足早に先に教室へと向かう。
宵
「あ、待って幸太郎さん! お兄ちゃん、ゆっくりで良いからね〜♪」
宵は幸太郎を追いかけると、振り返って極めて笑顔でそう言った。
俺は頭に?を浮かべるが、隣で琴音は顔を真っ赤にした。
悠気
「宵の奴……何を言ってるんだ?」
琴音
(悠気君……やっぱりそういう感情には疎いんだね……)
***
教室へゆっくり向かうと、俺達は最後の方だったろうか。
俺は周囲を見渡すがやはり空気は重く感じた。
琴音
「悠気君、今日も頑張ろうね♪」
悠気
「ああ」
琴音はそう言うと自分の席へと向かった。
俺は特に表情も変えず窓側に向かう。
キーンコーンカーンコーン。
杏
「オイーッス! 元気かガキどもー!」
チャイムが鳴ると、生徒達は静まり返り席に付いた。
そんないつもとは違う暗い雰囲気でも、御影先生は極めて明るく登壇した。
そんな御影先生の独特な雰囲気に呑まれて何名かが笑った。
杏
「今、きっと皆も辛いとは思うわ、でもそんな時こそ笑いなさい! 不謹慎だからって心まで暗くしたら、何もかも駄目になるんだから!」
宵
「それ、誰かの格言でしょうか?」
杏
「私の持論! 辛い時程笑いなさい!」
先生程、この事態で苦労する者はいないだろう。
生徒の相次ぐ不幸は、やがて社会に影響を及ぼす。
そんな中で学園の雰囲気を少しでも改善しようと御影先生は考えているんだな。
生徒に平気で暴言を吐く問題先生だが、誰よりも真剣に生徒の事を想っているのも御影先生なんだろうな。
悠気
(改善、改善あるのみ……?)
ん? 俺はふと脳裏に過ぎったその言葉に首を傾げる。
如何にも俺には似合わない言葉だったが、何故かしっくりきた。
杏
「さっ、それじゃ出席取るわよー!」
御影先生はそう言うと出席簿に記入していく。
俺は一つ後ろの席をなんとなく見た。
そこは空席で、未だ除籍されていない山吹瑞香の席だった。
悠気
(どれだけ笑った所で瑞香は帰ってこない)
杏先生とは対照的に俺はどうしても笑えなかった。
だがそれでは幸太郎と真逆ではないか?
幸太郎は前に進もうと努力している。
なのに俺は後ろを見ていいのか?
気持ちの整理の仕方は人それぞれだろう。
多分、俺はそれだけ不器用なんだよな。
悠気
(司法は間違いなく瑞香を裁く、だがそれは瑞香が望んだ裁きだ)
もし瑞香の偽証を立証しても、それでは瑞香は救われない。
瑞香を救うには柚香と一緒でなければ必ず成立しないんだ。
しかしそこまで考えて俺は首を振った、やはり俺は未練がましいのかもな。
未だ瑞香の事を諦めきれない、現に彼女の座らない後ろの席を見てしまう。
悠気
(瑞香だけじゃない……琴音もだってだ)
俺は今度は琴音を見た。
周囲の女子と比べても、あまりにも細く儚い。
あの一挙一投足がこれ程心配になる女はいない。
本来なら無視する事も出来た筈だが、俺は彼女の告白を無下に出来る程頭は良くなかった。
悠気
(本当に可笑しいよな、俺に護れるのは宵一人だ)
俺はそんなに大きな男じゃない。
宵一人でさえ、俺は何かがまた起きるんじゃないかって、気が気じゃないんだ。
悠気
(あの時、10年前……俺はそれを誓ったんだから)
それは10年程前の事だった、訳のわからない事態に巻き込まれた俺と宵は殺されかけた事があった。
俺は宵を護ろうとしたが、まるで力が足りず、結局は母さんに助けて貰った。
あの時、宵はワンワン泣いていたのを覚えている。
それから俺は多くを求めず、ただ宵を二度と不幸にしない為に俺は人生を捧げた。
そんな馬鹿げた俺は、更に馬鹿になるのか、そう思うと苦笑してしまう。
悠気
(結局俺は俺なんだな……俺が俺を否定出来る訳がない)
杏
「若葉悠気ー!」
悠気
「はい」
出席に軽く返事を返すと、俺は窓の外を見た。
宵が一番大切なのは本当だが……だが。
***
キーンコーンカーンコーン。
授業はそれ程異変も無く進んだ。
俺は真面目に授業を受け、時刻は正午を迎えた。
昼休みになる頃には教室の空気も少しは和らいでいる。
大多数にとって他人の不幸なんて、甘くも苦くもないのだ。
地球の裏側で戦争が起きていた所で、それは対岸の火事でしかない、それが普通の人間なんだ。
悠気
(意外と、勉強難しくないよな?)
俺は直前の授業で使った教科書やノートを片付けながら今日の授業を反芻した。
今まで真面目に取り組もうと思わなかっただけで、やってみればこんなに簡単だったのか?
それとも、俺の中で何かが変化しているのか?
俺はそれとなく自らの掌を見た。
自分には普通じゃない血が流れている、アルセウスの血……俺自身の訳のわからない力だ。
悠気
「ふぅ、さっさと昼飯にするか」
俺は教室から宵の姿を見渡した。
宵はいつものように可愛い風呂敷の包まれた弁当を持って此方にやってきた。
宵
「お兄ちゃん、はい! これ今日のお弁当だよ♪」
宵は笑顔でいつものように弁当を渡してきた。
悠気
「宵、今日は……」
宵
「あ、私今日は友達と食べるからー♪ お兄ちゃんもね?」
俺は今日は一緒に食べるか、そう言おうとしたものの宵は先に友達と食べると言って、さっさと教室を出ていった。
俺は呆然とした、アイツが友達と食う約束をしてただと?
宵は確かに俺より遥かに社交的で友達もいるだろう。
だが、今までアイツがそんな先約を入れた事は無かった。
というよりも寧ろ俺と宵が一緒に食べるのはずっと当然の結果だった。
だが、最近宵がおかしい?
悠気
「俺、避けられてるのか?」
俺はそんな不穏な想いに包まれた。
宵と喧嘩した覚えはないが、宵は最近なんだか俺と一緒にいる時間が減っている気がするぞ。
悠気
(どうする……それ位普通と許容するべきか、それとも追いかけるか?)
琴音
「あ、あの悠気君? 一緒にお昼御飯食べよ?」
俺が答えを出す前に琴音が来てしまった。
むぅ……今日は宵も含めて3人で食べたかったのだが。
悠気
「やむを得まい、いつもの場所で良いのか?」
俺はそう言うと席を立った。
琴音はいつも中庭で食べていたな。
強い日差しには弱いが、それでも陽光を好むのは琴音らしい。
琴音
「う、うん……多分空いているし」
琴音は上目遣いで俺を見ると、そう頷いた。
それならと、俺は琴音に合わせてゆっくり歩く。
琴音はモジモジしながら隣を歩いていた。
琴音
「悠気君、こういうのって恋人ぽかったりするのかな?」
悠気
「えっ? さ、さぁ? 俺にはちょっと分からないな」
恋人という言葉に俺は驚いた。
何故だろう、自然に考えれば当然なのに、心の中ではどこか琴音は宵と同じように見ていた。
悠気
(恋人……だから宵は?)
朴念仁、まさか自分がそうだったのだろうか?
人の好意に気付かないから、俺は宵を遠ざけた?
宵は俺が琴音と付き合う事を、本当はどう思っているんだ?
俺は段々不安になってきた、宵は……宵だけは失いたくない!
琴音
「悠気さん?」
悠気
「すまん琴音! やっぱり昼飯はキャンセル!」
俺は琴音に頭を下げると、急いで食堂に向かった。
後ろから琴音の声が聞こえる、俺は罪悪感に駆られるが、それよりも焦燥してしまった。
***
琴音
「悠気さん……」
突然悠気さんが顔色を変えて走り去った。
私は廊下で呆然としながら、ただ切なくなった。
琴音
(私にまだ悠気さんの恋人の振りなんて早かったんだ……っ)
悠気さんのびっくりした顔を見た時、私は自分が恋人未満なんだと理解した。
悠気さんの心にはやっぱり。
琴音
(宵さんがいるんだね……)
あの人があそこまで真剣になれる人、それはやっぱり宵さんしかいないだろう。
私は悲しい、そして悔しいと思った。
私じゃ宵さんにはなれないし、変えられない。
琴音
(でも、でもだよ? 悠気さん、貴方は誰かを救う為に必死になれる、だけど誰が貴方を救ってくれるの?)
私はなんだか怖かった、悠気さんはきっと無理をしている。
***
悠気
「宵!? 何処だ……?」
俺は急いで食堂に向かった。
食堂は学生で溢れかえっており、俺はそれでも必死に宵を探す。
何処だ、何処にいる?
悠気
「居た! 宵ッ!」
宵はまだ席に座ってはいなかった。
俺は人混みを掻き分け、真っ直ぐ宵の下に向かう。
そして俺は宵の腕を掴んだ!
宵
「きゃ!? お兄ちゃん!?」
宵は驚いて俺に振り返った。
「なんだなんだ?」と周囲の野次馬の目を引くが、俺は迷わず宵の手を引っ張った。
宵
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
俺は黙って宵を引っ張ると、ある程度人混みの捌けた所で足を止めた。
宵
「も、もうお兄ちゃんったら、突然どうしたの?」
宵は顔を赤くするとまだ戸惑っていた。
恐らく俺が宵の手を今も強く握っているからだろう。
だがこんな事昔っからやってるのに、宵の反応はやはり俺の思っていた物と違う。
悠気
「宵、俺は宵の事を!」
俺は宵を失いたくない。
宵の事を考えると、どうしようもなく駄目な兄だ、俺は。
それでも俺は藻掻き、抗い、不安になってしまう。
宵
「ま、待ってお兄ちゃん!? そ、そのまず恥ずかしいから、その手……」
宵はもじもじしながら握られた手を見る。
俺は沈黙すると、その手をゆっくりと離した。
この手を離したら宵は逃げるんじゃないか、そんな不安を覚えながら俺は泣きたい顔で宵を見た。
宵
「お兄ちゃん……あの、ね? 私はお兄ちゃんの事……」
悠気
「お兄ちゃんがなんだ? 俺は宵のなんなんだ?」
宵は逃げなかった、いやそんな物俺がただ不安から生み出した幻だろう。
ただ、宵は俺から目線を反らし、顔を赤くする。
宵
「お兄ちゃんは、お兄ちゃん……だよ」
悠気
「それじゃ分からない! 宵、お前なんで俺を避けた!?」
宵
「そ、それは……」
思えばだ、最近の宵はどこか変だった気がする。
遠慮するというか、一緒にいる時間が少しずつ減っていて……俺は一番大事な物を失おうとしているんじゃないかって、どうしても頭から離れなかった。
宵
「……あのね、お兄ちゃん……私嬉しかったんだ」
悠気
「え……? なんで……?」
嬉しい……?
俺は宵の意図がさっぱり分からない。
ただ、宵は自分の指を絡めると静かに優しくその理由を喋る。
宵
「お兄ちゃん、段々素直になってきて……大城さんの事、お兄ちゃんは変わっていく……もう心配ないんだって」
それは……、あまりにも予想外だった。
俺が変わった?
変わったのは宵じゃなくて、俺だった?
俺は愕然とした、そんな俺を見て宵は微笑む。
宵
「私お兄ちゃんの事大好きだよ♪ でもね、もうお兄ちゃんは私という呪縛から離れてもいい時期なんだと思うんだ……」
悠気
(宵が呪縛……?)
そんな筈はない……そう思っても、それならなんで宵はこんなに晴れやかなんだ?
まるで俺が宵にとって憑物だったかのようで、それなら俺のこれまでは何だったんだ?
宵
「逆に聞くよ? お兄ちゃんにとって私はなあに?」
悠気
「宵は……俺の妹、で……」
宵
「お兄ちゃん?」
俺はビクリと身震いした。
宵は艶やかな笑みで下から俺の顔を覗き込む。
宵
「……やっぱり、お兄ちゃんだよね……だから」
悠気
「ど、どういう意味だよ!? だってそうだろう!? 俺たちは兄弟だぞ!?」
俺だって宵の事は好きだ、素直に愛している。
家族に愛情を持つのは当然だろう。
それなのに宵は何が不満なんだ!?
宵
「お兄ちゃん、私はお兄ちゃんに幸せになって欲しい、それが叶うなら私は悪魔に魂を捧げても良い、そういう悪い子だよ? お兄ちゃんは考えた事ある? どうすれば自分が幸せになれるか……その方法」
俺が幸せになる方法?
そんな物俺が知るわけがない。
いや、考えた事もなかった。
俺はいつも宵の事で頭が一杯で、全ては宵の為に妥協してきた。
本当に駄目なお兄ちゃんなんだと思う。
でも自分が幸せになるなんて、考えている余裕はまるで無かった。
だが、宵は違った。
宵は俺の幸せをずっと願っていたのだろう。
それを宵は琴音に押し付けた。
俺は宵と一緒なら不幸になり、琴音と一緒なら幸せになれるのか?
悠気
「……っ、俺は幸せになれるのか? 俺みたいなどうしようもなく駄目な奴が」
その時だ、突然誰かが叫んだ!
男子校生
「おい!? なんか女子生徒が倒れたってー!?」
悠気
「ッ!?」
俺は琴音を想起する。
まさか琴音が倒れたのか!?
宵
「お兄ちゃん、行って!」
悠気
「よ、宵……」
宵
「何してるの!? お兄ちゃん!?」
宵は真剣な表情で叱責する。
俺は宵と琴音を天秤に掛けた。
だが、逡巡していては何も変えられない!
悠気
「クッ!? 琴音ー!?」
俺は宵を背にすると、琴音を探しに向かう。
宵と琴音、俺は二人を天秤に掛けた、何故二人を比べないといけないんだろう?
だが、俺には迷う暇など無かった。
***
宵
(うん、それで良いのお兄ちゃん)
私は大城さんを探しに向かったお兄ちゃんを満足げに見送った。
私はもうお兄ちゃんの足枷になんかなりたくない。
お兄ちゃんはいつも私の事ばっかりで、本当に駄目なシスコンお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんが私は大好きで、でも……それはとても残酷だった。
宵
(お兄ちゃん、私の事やっぱり妹でしかないんだもんなぁ)
もし、もしもお兄ちゃんが私を妹じゃなくて、月代宵として見てくれたなら……私はもう妹を辞めて、お兄ちゃんを遠慮なく独占していただろう。
でも現実は残酷だ……私の想いが兄から一人の男性に変わった時、きっと天罰が降ったんだ。
これ以上お兄ちゃんを苦しめたくない。
宵
「だから……後はお願いね?」
私は『誰か』に涙を流しながらお兄ちゃんの事を託した。
私の側には誰にも見えない誰かがいる、その人はずっとお兄ちゃんの事を心配そうに見守っていた。
宵
(ああ、いっそ……これが夢であれば良いのに)
『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』
第23話 残酷な天秤の歪み 完
第24話に続く。