突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第22話 暖かな悲しみは



夢、夢を見ている。
だが……今回は様子がおかしい。
何故かいつもと違い眼の前が真っ暗だった。
どういう事だ? しかし事情を確かめようにも身体は動か……。

ガション!

う、動いた!?
俺は驚く、まさか動くとは思わなかった。
だけど何も見えない、なんでだ?


 「あ、動いた動いた♪」

突然《ソレ》の声が聞こえた。
近くにいるのか?
俺はフラフラと腕を動かす。
なんだか、身体がグラグラ揺れるな。
もしかして左右のバランスが悪いのか?


 「ほーら、これでいい?」

突然優しい手が俺の腕を掴んだ。
《ソレ》は俺の手を握ったらしいが……しかし、感覚がおかしい。


 「あー、まだ口がついてないのよね?」

口がない? そういえば気にしてなかったが俺は喋ることも出来ない。
いや待て……ということはもしかして何も見えないんじゃなくて、そもそも目が無いのか!?
俺はオロオロすると、突然なにかにぶつかった!

ガシャン!

金属的な音だ、何かが崩れたらしい。


 「ああ、兄弟が〜!?」

兄弟?
《ソレ》には兄弟がいるのか?
いや、もしかして俺の兄弟か?


 「もしかして〜、あ、目か! ちょっと待ってて」

足音が離れる。
俺はどうしていいか分からず、その場に座り込んだ。
しばらくすると足音が迫ってきた、《ソレ》が帰ってきたんだ。


 「これをこうして……」

突然だ、顔がくすぐったい。
俺はしばらく我慢すると、やがてぼんやりと光が差した。


 「どう? 見える?」

俺は初めて《ソレ》を見た。
目は粗悪品なのかぼやけていて、正直ハッキリとした輪郭もわかりやしない。
でも宵に似た少女に思えた。


 「口になりそうなパーツは中々見つからないだよね〜」

俺は首を動かすと、何体ものガラクタ人形の残骸があった。
そして俺は自分の手を見て気付く。
俺が、ガラクタ人形なんだ!


 「フフ、早くお喋りしたいね?」



***



悠気
 「……喋れる?」

俺は気がつくと、朝の日差しを浴びていた。
俺は次に身体を動かす、正常だな?

ガチャリ。


 「お兄ちゃーん? 起きてる?」

相変わらず妹はノックもせずに部屋に入ってきた。
俺はぼうっと呆けながら宵を見る。


 「お兄ちゃん? 起きてる? それとも寝てる?」

宵はベットに近づくと、顔を近づけてきた。

悠気
 「……起きてる」

俺はそう呟くと、宵は顔を離した。


 「そう、それじゃ直ぐに降りてきてね? 二度寝しちゃ駄目なんだから♪」

宵はそう言うと部屋を出ていった。
俺はしばらく宵の背中を目で追いかけた。
やっぱり違う……妹は妹だ。

悠気
 「……だるい、けどなんだか今日は悲しくない」

俺はゆっくりベットから起き上がった。
直ぐに学生服に着替えると、部屋を出る。

悠気
 「……宵の部屋、だわな?」

俺は何故か向かい側の部屋の主が別の人だった気がした。
でもそんな筈はない、誰かって誰だよ?
俺は頭を横に振ると、直ぐに階段を降りていく。


 「あ、お兄ちゃんおはよう! 朝ご飯出来たよー!」

悠気
 「ああ」

俺は素直に朝食の並べられた机の前に座ると食事を始めた。

悠気
 「学校はどうなるんだろうな?」

俺はテレビを見ると、朝のニュース番組が放送されていた。
しかし折しも見えたのはウチの学園のニュースだった。

悠気
 「げぇ、やっぱりか」

俺はうんざりする。
これ、学園の運営にも大きな影響が出るよな。
少なくとも生徒である俺たちはそっとしておいてほしいのに、社会はそれを許してくれないかもしれないな。


 「無理もないよ……どうして神様はそっとしてくれない世界をお創りになったんだろうね?」

運命は呪われている、こんな言葉が笑ってスルー出来る人生を送りたかったって所か。
俺は宵さえ平穏無事なら大抵の事は我慢出来る。
しかし、それは見て見ぬ振りをするって事とは違った。
俺は自分の胸を掴んだ。
確かにそこに俺はなにか温かさを得た気がした。

悠気
 「あんまり悲観ばかりしないでさ? 少しは楽しい話が欲しいよな」


 「そうだねー、悲しい話ばかりじゃ気が滅入っちゃうもんね」

宵はそう言うとお茶を飲んだ。
俺も朝飯を食べ終えると学校へ行く準備をする。

さて、どうするかね……これから。



***



悠気
 「……」

いつものように俺と宵は通学路を歩く。
気持ちいつもより空気が重いように思える。
無理もないか、ここ最近悪い話が多すぎる。
特に瑞香の件、そして一昨日の飛び降り自殺は酷かったと言えよう。


 「あ……あれ、幸太郎君じゃ?」

宵は後ろを頻繁に振り返っており、どうやら目当ての男が現れたらしい。
俺は足を止めると振り返る。

幸太郎
 「……よう、ふたりとも」

幸太郎の様子、俺はそれに危惧感を覚えた。
あの大男が、今は小さく思える。
それ程弱っているように感じる。

悠気
 「幸太郎……お前」

幸太郎
 「何も言うな……俺は!」

幸太郎はやはり割り切れていない。
名も知らなかったような相手なのに、幸太郎は義が強過ぎる。
それは間違いなく、その身を壊す物だ。


 「幸太郎さん、その……辛いと思うけれど」

宵も幸太郎の事情は後で知った。
宵目線でも幸太郎の件は馬鹿げていると思っているだろう。
それ程幸太郎は自分の性で命を落としたと少女に自分の責任だと思いこんでいるんだ。

幸太郎
 「もういいだろ……! 俺の事は、放っておいてくれ!?」

幸太郎は珍しく叫んだ。
普段冷静沈着で殆ど感情を荒ぶらせない男がだ。
俺は哀しかった、何故幸太郎までこんな風に傷つかなければならない?
幸太郎は人が良すぎる、だから義理を果たさずにはいられない。
なんて損な性格だ、俺はそんな親友になにかしてやれないのか?

柚香
 「あの……先輩方、おはようございます……」

俺たちは言い合っていると、突然ユズちゃんが声を掛けてきた。
俺はユズちゃんを見ると、ユズちゃんもまた何処か哀しそうだ。


 「あ、柚香ちゃんおはよう」

柚香
 「はい、おはようございます宵先輩」

悠気
 「……おはよう」

幸太郎
 「……」

俺は幸太郎とユズちゃん、双方を見る。
しかしこの二人はそれぞれ別問題を抱えている。

悠気
 (ユズちゃん、俺だってなんとかしてやりたい、だが)

瑞香の願い、それはどこまでいっても結局はユズちゃんの幸せを願っていた。
だが瑞香はユズちゃんを理解していない、ユズちゃんの願いは瑞香の幸せなんだ。
俺にはユズちゃんを癒やす事なんて出来やしない。
まるであの姉妹は互いを傷つけ合い、その傷を舐め合うかのような歪な関係だった。
一方で幸太郎は単純だが、それ故に業が深い。
贖罪とでも言えばいいのか、俺にできる事は幸太郎がヤケを起こさないように見ている事か。


 「ね、ねぇお兄ちゃん……私どうすればいいんだろう?」

流石に宵もこのギスギスした空気の悪さに参っていた。
俺に助け舟を求めてくるが、どうにか出来るならとっくにそうしてる。
だから俺は宵に言ってやった。

悠気
 「激流に身を任せ同化するのだ」


 「もう! お兄ちゃんったら、諦めちゃ駄目だよ!?」

悠気
 「冗談抜きにして、二人に関わっていたら火傷じゃ済まないぞ?」


 「それで皆笑顔になってくれるなら、私はそれでいいよ」

宵は真剣だった。
俺は身震いしてしまった。
宵は自己犠牲で皆を笑顔にする気なのか?

悠気
 「馬鹿な事を言うな、自分を大切にしろ」


 「……うぅ」

宵は俺の不機嫌な表情を見て、言葉を詰まらせた。
そんなの俺が望んでいない、それを宵は賢い子だから察してくれたんだろう。
分かってる、身勝手な兄ちゃんだよな、俺は。
俺はそんな諦めにも似た気持ちを持って、通学路を歩いた。
その間誰も目線すら合わせず、歩き続け……そして。


 「あーもう! やっぱり駄目! こんなの絶対におかしい!?」

宵が耐えかねた。
俺は驚いて宵を見る、宵は思いの丈をめいいっぱい叫んだ。


 「柚香ちゃん! 笑おう!? 悲しんでたって何も変わらないんだから! 幸太郎さんもよ!? 悲しい事、それを忘れるなんておかしい! でも、それが幸太郎さんの餞なの!?」

柚香
 「っ!?」

幸太郎
 「な……!?」

二人は驚愕する、宵は涙目になって震えていた。
世界はどんどんおかしくなる、それでも宵は精一杯我慢を続け、そして笑顔を護ってきたんだ。
宵の憤慨は二人に響いた。
そして、それは俺自身にも……!

悠気
 (そうか、そうだよな……おかしいよ、俺たちは!)

俺は拳を握った。
幸太郎はゆっくり俯くと、小さく震える。
宵に言われた言葉が、幸太郎を動かした。

幸太郎
 「宵の言うとおりだ、俺がこのままでは何にもならん」

そしてそれはユズちゃんにも。

柚香
 「私はどうしていいのか分かりません……でも、お姉ちゃんは私が泣いていると、いつも心配してたから」

悠気
 「そう、それでいいんだ……」

俺はそう呟いた。
二人の顔は俺に向く。

柚香
 「悠気先輩?」

幸太郎
 「一体どうした悠気?」

悠気
 「二人共教えてくれ、もし夢が叶うならどんな夢を描く?」

俺はこの問を、孤独に苦しむ二人に投げ掛けた。
二人は少し不安そうにしながらも黙考する。

柚香
 「私はお姉ちゃんと一緒に幸せになれる夢が良いです……」

幸太郎
 「もう間違わない……間違った選択をしない、そんな夢、か」

それは後悔からくるものか。
ただ、俺と《ソレ》は空から降ってきた、大きく暖かな2つの光を見た。
《ソレ》は大きな光を受け止めると、優しく微笑んだ。


 「分かる、分かるよ……二人の想い」

《ソレ》はそう優しく呟くと、ガラクタの身体を持つ俺の胸に光を押し込んだ。
ガラクタの身体は内側から光を溢れさせ、溢れ出しそうだった。
その意味、今は分からない……でも、なんとなく俺は理解しかけていた。

悠気
 (暖かい……今は悲しいけれど)

俺は胸を押さえつける。
ユズちゃんと幸太郎はキョトンとしていた。


 「お兄ちゃん? どうしたの?」

悠気
 「……なんでもない、それより学校急ごう!」

俺はそう言うと、歩く速度を速めた。

柚香
 「あ、ま、待ってください〜!」

幸太郎
 「? 一体なんなんだアイツは?」


 「もう! お兄ちゃんったらー!」

この世界は呪われているのだろうか。
それは世界からすればとても単純で小さな変化かもしれない。
俺たちが嘆こう悲しもうと、世界に与える影響は微々だ。
だけど……それ以上、俺に確信はないが……その先に、俺の答えはある気がした。




『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第22話 暖かな悲しみは 完

第23話に続く。


KaZuKiNa ( 2022/04/08(金) 18:16 )