突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第20話 連鎖する悲劇、認めたくない気持ち



幸太郎は取り乱していた。
先生方は幸太郎を取り押さえるが、幸太郎はもがき慟哭する。

女子生徒B
 「この子、B組の吹寄さんよね?」

悠気
 「吹寄さん? 一体何があった?」

俺はこの被害者を知っているらしい女生徒に近寄った。
今はできる限り事情を知りたい。
女子生徒は俺を見ると、少し物怖じしながら彼女のことを説明してくれた。

女子生徒B
 「か、彼女……良くは知らないんだけど、なにか悪い噂はあるんだよね?」

悠気
 「悪い噂?」

女子生徒B
 「本当か、嘘か分からないけど苛められてたとか……それで世を儚んで飛び降り自殺なんて……」

女子生徒は上を見上げた。
俺もその視線を追う、吹寄さんはこの屋上から飛び降り自殺をしたのか?

幸太郎
 「くそ!? 何故だ!? なんで!? これは君の告白を断った俺への罰か!? 畜生ー!?」

悠気
 「こ、幸太郎! 落ち着け!」

俺は幸太郎を見て、見るに見かねた幸太郎を取り押さえた。
しかし幸太郎の腎力は凄まじい、俺は仕方なくアルセウスの力を僅かに引き出す、俺の目は赤く発光すると、幸太郎を力で押さえつける。
やがて、幸太郎は力を失うと、俺はアルセウスの力を抑えその身体を離した。

幸太郎
 「な、なぁ悠気? 俺は、彼女の幸せを願ったんだぞ? 俺なんかよりもっと素敵な人に出逢って欲しいと……それは傲慢だったのか?」

俺はなにも言えなかった。
自由恋愛主義の観点から言えば、幸太郎に責任などあるはずが無い。
俺は思いっきり無慈悲な事を言えば、吹寄さんは所詮赤の他人だ。

悠気
 「残酷な事を言えば気にするな、他人だ」

幸太郎
 「悠気貴様ァ!? 俺にそんな選択を出来る訳無いだろう!?」

ドカァ!

幸太郎は激昂すると、俺の顔を思いっ切り殴り抜けた。
俺はその直撃を受けて、周囲はどよめく。


 「お、お兄ちゃん!?」

やがて、宵と琴音が降りてきていた。
俺は口の中を切ると、口元を裾で拭った。

先生
 「大城落ち着け! 暴力振るってなんになる!?」

幸太郎
 「俺は! 俺はお前のように割り切れん!? お前こそ、なぜ割り切れる!?」

悠気
 「俺が……俺が割り切っていると思うのか!?」

俺は反撃した、幸太郎の事を俺は心配しているからこそ、俺の人格への攻撃も俺は甘んじて受けよう。
だが、俺は誤解を解く必要があった。

悠気
 「俺はこの手で護れる物は絶対に護る! もう瑞香のような悲劇はごめんなんだよ!?」

瑞香の名を使うと幸太郎は怯んだ。
俺の真剣な目を見て、幸太郎は暴れるのを止める。

幸太郎
 「……俺、やっぱり駄目だ、悠気のように、強くはなれ、ない」


 「お、お兄ちゃん顔……」

琴音
 「えと、この事態って……」

宵はハンカチを取り出すと、俺の顔をせっせと拭いていく。
俺は抵抗せず、しかし幸太郎から目は離さない。
やがて、校門の前に救急車が止まった。
警察と救急隊員が急いでやってくる。

警察
 「皆さん離れて!」

救急隊員
 「これは!? くっ、駄目だ……! 即死している!」

俺達野次馬は直ぐに警察達に押し退けられた。
警察は直ぐに黄色いテープで周囲を囲い始める。

悠気
 「幸太郎……俺は強いんじゃない、強いなら俺は宵だけを優先できた筈だ」

幸太郎
 「なら……俺は、なんなんだ? 彼女の告白を受け止めていたら、彼女は死なずにすんだのか? 俺が選択を間違えたから、彼女は……?」

悠気
 「いい加減にしろ、お前まで吹寄さんの後を追う気じゃないだろうな?」

幸太郎は唇を噛んだ。
恐らく幸太郎はそんな馬鹿な真似はしないだろう。
でも幸太郎が厳格で大人だから、自分の選択に必要以上に責任を感じてしまう。
俺は悲しくなった……なぜ幸太郎まで、こんな目に合わないといけないんだ?

琴音
 「悠気君、大城さんはどうして?」

悠気
 「……琴音、もう帰ろう」

俺は琴音の肩を寄せると野次馬達から離れた。
しかし琴音は最後まで幸太郎を心配そうにしていた。

琴音
 「音、悲しい音がする……」

悠気
 「音?」


 「そう言えば大城さんメロエッタっていう凄く珍しいPKMなんだっけ」

メロエッタ、確か旋律ポケモン、音に関する能力を持つポケモンだっけか。
俺は琴音の右腕を見る、その細腕にも白い腕輪、能力制御装置は装備されている。
しかし琴音はメロエッタの本能で音を感じているのかもしれない。

琴音
 「……ラーラララ、ラ、ラーラ、ラ、ラーラララン、ラララッラン……」

それは優しい旋律だった。
琴音の音は優しく世界を包んでいくかのようだった。
それは幸太郎にも届いただろうか、涙に塗れる幸太郎はそっと顔を上げた。


 「この歌は?」

琴音
 「……お母さんがいつも唄ってくれた日溜まりの唄です」

それはとても心地良く心を穏やかにしてくれた。
もしすればそれが琴音のメロエッタとしての能力なのか。
でも、唄い終わった琴音は急に咳き込んだ。

琴音
 「ゴホ! ゴホ!」

悠気
 「だ、大丈夫か琴音!?」

俺は慌てて琴音を抱きしめ介抱した。

琴音
 「だ、大丈夫……は、肺が弱いから」


 「う、歌うだけでも駄目なの?」

琴音は名残惜しそうに、俺から離れると小さく頷いた。
それ程まで琴音もギリギリなんだ。
俺は念の為琴音の手を取ると、下駄箱に向かった。



***



悠気
 「本当に大丈夫か?」

琴音
 「うん♪ 学校から家は近いし、今日はいつもより元気だから」

校門を抜けると、琴音とは帰る道が違うので別れる事になった。
俺は最後まで琴音の体調を心配したが、彼女は笑顔で手を振った。
仕方なく俺と宵は帰路につく。


 「……なんでだろうね?」

悠気
 「なにがだ?」

宵は二人っきりになると静かになった。
普段は明るく、大和撫子ではあるがここまで静かにはならない。


 「誰かが不幸になっていく……神様はサディストだね」

悠気
 「お前だけは……お前だけは不幸にしない」

俺がそう言うと宵はそっと俺に身を寄せてきた。
俺は優しく宵を抱きしめる。


 「うん、信じてるお兄ちゃん……、でも、お兄ちゃんがその性で不幸になるのは嫌だよ」

……俺はそれに対してなにも言えなかった。
俺は今が幸せとは思えない。
瑞香と柚香が苦しみ、幸太郎は悲しみを背負い、琴音は薄氷の上を生きている。
こんな糞みたいな世界が好きになんかなれるか……!

悠気
 「俺は幸せ、だよ」


 「もう……、嘘つき」



***



夢、夢を見た……。
相変わらず真っ白な平原、そしてパウダースノーのようで、まるでケセランパサランのような光の玉が曇天の空から降ってくる。

ガシャン……ガシャン。

今回も《ソレ》はガラクタを運んでいた。
真っ白で色褪せた哀しい世界で《ソレ》は何故愚直にもガラクタを集めるのか。


 「今回こそ、は」

《ソレ》は形も様々、大きさも様々なガラクタを慎重に積み上げていく。
俺は心配した、そんな積み方ではバランスに欠ける。
しかし俺はそれを伝える方法が無い。
《ソレ》はガラクタを二段、三段と積み上げた。
グラグラ揺れるガラクタの山……しかし、今回は。


 「えへへ、やった♪」

なんと、成功したのか!?
《ソレ》は満足そうに微笑んだ。


 「これで、君に届くかな?」

《ソレ》は嬉しそうにガラクタの像を眺めた。
周囲には夥しい数の失敗作達が置かれ、今《ソレ》の眼の前に立ったのは人型のようで、何か疑問符の浮かぶガラクタ人形だった。
《ソレ》は空を見上げると、悲しそうに口から白い息を吐いた。


 「私だけじゃ、やっぱりなにもできないけど、このままじゃ……彼は壊れちゃうよ」

果たしてこの夢はなんなんだ?
俺はこの夢にとてつもない悲しみを覚えてしまう。
もういい、ただ《ソレ》に何を頑張るのか、この言葉を伝えたかった。
でも、俺はこの世界に存在しないから……。



***



チュンチュン……チチチ!

悠気
 「……!」

俺は目を覚ました。
珍しく自然と目を覚ます。
窓際で煩く鳴く小鳥達に気がつくと、俺はゆっくり起き上がった。
小鳥たちはそれに驚くと、直様飛び去ってしまう。

俺はぼうっと呆けながら窓の外を見る。
今日も買い手募集中の更地がそこにはある。
俺は何故かそれが悲しかった。
今日もやる気が起きない……ふと、顔に触れると涙が溢れていた。

悠気
 「くそ……今、何時だ?」

俺は目覚まし時計を見ると、その時間は9時だった。

悠気
 「うん? 9時、だと?」

俺は直ぐに顔が青くなった。
9時……今つまり遅刻?

悠気
 「ど、どういう事だー!?」

俺は直ぐに部屋を出ると階段を降りる。
すると、宵はキッチンにいた。


 「あ、おはようお兄ちゃん♪」

悠気
 「お、おはよう……て、それより9時だぞ!? 何してる!?」


 「何って、昨日の飛び降り自殺で今日は休校だって、だからのんびり朝ごはんの用意してるの♪」

俺は呆然とする。
宵はスープを匙で掬うと、満足そうにテイスティングした。
きゅ、休校?
だからあんなに口煩い宵が起こさなかったのか?


 「直ぐご飯にするから、お兄ちゃん着替えてきて」

悠気
 「あ、ああ……」

な、なんだろう……複雑な気分だった。
恐らく自殺の原因調査とか、今日は学校に立ち入れない状態なのだろう。
そりゃ休校になっても仕方がないか……。
俺はため息を吐くと自室に戻るのだった。



***




 「そう言えばさ? 明日お義母さん帰ってくるって」

俺はパジャマから着替え終えると、いつもように宵と朝ごはんを遅めに食べていた。
宵は母さんの話をすると嬉しそうに笑顔を浮かべた。

悠気
 「父さんは相変わらず?」


 「お義父さん、相変わらずお仕事忙しいみたい」

俺は父さんのことを聞くと宵は悲しそうに首を振った。
俺は舌打ちをすると父親の事を考える。
父さんは海外で事業が成功して、うちはそこそこ裕福になったがその代償に父さんは仕事の忙殺されている。
俺は一度でも良いから宵の為に帰ってきて欲しいと願っていた。


 「お義父さんだってきっと私達の為に働いているんだよ」

悠気
 「だからってさ? 家族に金だけ送って顔も見せないなんて、やっぱりおかしいだろ?」


 「まぁ、確かにそうだけど……」

今の時代リモートワークだって良いはずだ。
確かにテレビ電話で父親と会話する位は出来るが、それも中々電話する機会さえない。
育美母さんもその性で家を外す事が多く、慣れているとはいえ俺は不満もあった。


 「とりあえず今日は留置所行こうか?」

悠気
 「なに!? 遂に自首する気になったのか!?」

ペチ!

宵は顔を真っ赤にする頬を膨らませて可愛らしいチョップを俺の頭に叩き込んできた。


 「なんでそうなるの!? ていうか私無実だよ!? むしろお兄ちゃんこそ何かやってるじゃないの!?」

悠気
 「じょ、冗談だろうが……そんなにマジになるとは……!」

後、俺も前科はないからね!?
こう見えても清く正しく生きてるつもりだぞ!?


 「瑞香ちゃん! 昨日言ったでしょ!?」

悠気
 「……分かってるさ」

ていうか、まさか昨日の今日で留置所に行くとはお兄ちゃんも思ってないぞ?
てっきり日曜にでも行くのかと思ったら、休校日を使うとは。


 「? お兄ちゃん行きたくないの?」

宵は俺の様子を見て首を傾げた。
俺は瑞香とユズちゃんの事を考えていた。

悠気
 「いや、行く……」

俺は決心をつける。
分かっている、瑞香に聞くこと、その意味。
俺はユズちゃんを疑わない、だが……。

悠気
 「ご馳走さま、今日も美味しかったぞ」


 「あ、うふふ〜♪ これだけは得意だからねぇ♪」

宵はそう言うとご満悦の様子だった。
最も宵は家事全般が人並み以上に出来るからな。
俺が自堕落な事もあって、宵は自然と家事が得意になった。


 「片付けたら行こうね〜♪」

俺は席を立つと、宵は笑顔でそう言った。
宵が上機嫌ならそれで良いが、機嫌が良すぎるのも少し不気味だな。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第20話 連鎖する悲劇、認めたくない気持ち 完

第21話に続く。



KaZuKiNa ( 2022/01/28(金) 18:00 )