突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第15話 儚き価値観



キンコンカンコン♪

悠気
 「やっと昼飯かぁ」

チャイムが鳴ると担当の先生は直ぐに教室を退室した。
生徒達は思い思いに動き出す。


 「お兄ちゃん、はい♪ お弁当♪」

宵はいつものように布で包んだ弁当を持つと、俺の席の前にやってくる。
妹ながら、もうその所作は所帯じみている。
……なんてこと口にしたら間違いなく頭叩かれるな。

悠気
 「気分でも変えて、今日は外で食べるか?」


 「え? 別に良いけど」

普段はほぼ教室で食べているからか、宵は不思議そうに首を傾げていた。
俺も特別理由があるわけじゃない。
ただ、本当に気分を紛らわせたいだけなのだ。
やっぱりなんとなく教室の空気は悪い。
なんとなく、真面目でも不真面目でもなく授業を過ごしたが、俺まで何か悪い気に充てられそうだ。

悠気
 「天気も良いし、中庭なんてどうだ?」


 「私は、何処だってお兄ちゃんについて行くよ」

宵はそう言うと微笑を浮かべた。
俺は席を立つと、校舎の外を目指す。


 「それにしてもお兄ちゃん面倒くさがりなのにねぇ」

悠気
 「面倒好きなんて、それこそどうかしてると思うがな」

妹の言う通り、普段の俺は怠惰が似合う程面倒くさがりだろう。
その分だけ宵に迷惑かけている事は俺もすまないとは思っている。

悠気
 「さっきも言ったが、気を紛らわせたいだけだよ、ほら、教室はさ……?」


 「やっぱり……瑞香ちゃんのこと?」

悠気
 「っ……! それは、俺自身割り切っている。だけど……」


 「……お兄ちゃん、もう少し楽になって、私がいるから……」

そう言うと、少しだけ宵は俺に身体を寄せた。
俺は抵抗することもなく、受け入れている。
瑞香のことは当然棘のように突き刺さっている。
だからと言って、俺個人がどうにか出来る事態は既に通り過ぎている訳だが。
宵に宣言したように、結局は割り切るしかないのだ。
俺が必要以上に瑞香に介入したのは事実。
それでも友達以上の関係を求めた訳ではないのに……。


 「あ、中庭人いないねー」

気が付いたら中庭まで降りてきてきていた。
中庭は校舎に挟まれた位置にあるため、昼間以外はどちからかと言うと薄暗い。
今時学食もあるのに、わざわざ中庭にくる奴は稀だろう。


 「何処で食べるー?」

悠気
 「そうだな」

俺は丁度良さそうな場所を探す。
もう一つ中庭で食べる生徒が少ないのは、ここにはテーブルやベンチのような気の利いた物はない。
基本的に陽の当たる場所を優先に捜すが。

悠気
 「あれ? 大城?」


 「え?」

俺は陽だまりが貯まった場所で、大城琴音の姿を発見した。
大城は幻想的な光の中、まるで人形のように芝生に腰掛けている。
その手には小さな弁当箱が握られているが、その顔は空を見上げ、どこか呆けてしていた。

悠気
 「よお、大城」

俺は大城に近寄って声を掛けると、大城はハッとして俺を見た。

琴音
 「あっ、若葉君……いつから?」

悠気
 「ついさっきだよ、ぼうっと空を見ていたみたいだが、どうしたんだ?」

琴音
 「あ……」

大城はそう言うと目線を落とした。
その目は自身の弁当箱に向いている。

琴音
 「お日様に当たってたら、呆けちゃって……」


 「お日様、好きなの?」

琴音
 「うん、強すぎる陽射しは目眩がするけど、これ位の陽射しは好き……」

そう言うと、大城は柔らかな表情で笑った。
大好き、という感情を控えめに表しているようだ。

琴音
 「えと、二人もここでお昼?」

悠気
 「ああ、そのつもりだ」

琴音
 「あ、あのっ! それなら良かったら一緒に食べませんか?」

俺は宵の顔を見る。
俺は大城の誘いは別に構わないのだが、妹は別に構わないと、表情で語っていた。

悠気
 「そうだな、それじゃ3人で」


 「うん、それじゃお弁当広げるね」

宵はそう言うと、その場に座り込んで芝生に弁当を広げる。
包んだ布はテーブルクロス代わりだ。
俺達がそうやって用意すると、大城もその小さな弁当箱を開いた。

大城
 「二人のお弁当、綺麗ですね」


 「えへへ、私が作ったんだ♪」

宵は大城に褒められると上機嫌だった。
宵の弁当も母親譲りだからな、こういう所の才能は流石と言った所か。
一方で大城の方はあまり脂っこい物もなく、やや質素な物だった。

悠気
 「大城の弁当は?」

琴音
 「これは、お父さんが……」


 「お父さん? お母さんじゃなくて?」

宵は首を傾げるが、今時専業主夫も珍しくはない。
とはいえ、俄然片方が家業に専念するなら夫の方が働く傾向が強いのは確か。
珍しいと言えば、珍しいか。
だが、大城は少しだけ暗い顔をすると。

琴音
 「お母さんが亡くなって、お父さんしかいないから……」


 「あ、ご、御免なさい……」

大城の身体が弱い事は、クラスメイトにも周知されているが、家族構成までは流石に知らない。
宵も過去に両親を失っているから、その意味を誰よりも理解しているだろう。
宵は気まずい顔で俯いてしまった。

悠気
 「それにしても、大城の弁当は足りるのか?」

琴音
 「あ、うん……私小食だから」

大城の弁当箱は殊更に小さい。
宵と比べても半分くらいじゃないか?
俺はそれで身体が保つのかと疑問に思ったが、そもそも大城の細すぎる身体、軽すぎた体重はそれを受け付けないのかも。

悠気
 (このタイプにネガティブな言葉は選ぶべきじゃないが)

俺の中で疑問が生じる。
そもそも大城は本当に学校に来て大丈夫だったのか?
その身体は……本当に学校に来れる身体なのか?

悠気
 「大城……」

琴音
 「な、なに? 若葉君?」

俺は戸惑い、逡巡する。
その結果、出た言葉は。

悠気
 「困ったことがあったら、なんでも言ってくれ」

琴音
 「う、うん! ありがとう……」

結局俺は当たり障りのない言葉を選んでいた。
本当はもっと真剣に心配するべきだったのかも知れない。
でも彼女の事情を俺は何も理解できていない。
もし彼女が自分の意思でここにいるのなら、俺は単なるお節介だ。
俺は……無知で無力で、情けない程弱い。


 「ねぇ大城さん、大城さんお父さんとは仲は良いの?」

琴音
 「え? 良いと思いますけど、お父さんはいつも私のこと想ってくれますし」


 「……そっか。うん! それなら大丈夫だよね」

宵はそう言うと、弁当箱を突いた。
妹は何を知りたかったのだろう?
やはり父親を失った寂しさ?
それとも殺された瑞香の父親か?

悠気
 (くそ! 親父……頼むから一度帰ってきてくれ! 宵のためにも!)

宵には決定的に父性の愛情が足りないのは理解している。
両親は俺達二人なら大丈夫と思っているのかも知れないが、少なくとも宵はそれだけでは足りないだろう。
俺は宵の兄であり続けようと努力しているが、それでも父にはなれはしない。

悠気
 「……ご馳走様」

琴音
 「あ、食べるの早いね」


 「お兄ちゃん、いつも早いから」

俺が早いという言うより二人が遅いんだと思うがな。
見慣れた宵の遅さは兎も角、更に遅いのは大城だ。
量に対して食べ方はゆっくりで、このままでは時間が間に合わないんじゃないだろうか?

悠気
 「二人とも、ゆっくり……という訳にはいかんと思うぞ」

俺は丁度中庭から見える大きな丸時計を指差した。


 「あ、そ、そうだね!」

宵は時間に気づくと、少し早めに食べだした。
もともと食べるのが遅い分、それでも普通の人レベルだが、問題は大城の方だ。
これ間に合うのか? という遅さで食べている。

悠気
 「宵、喉詰まらせるなよ?」


 「う、うん! 気をつける!」

琴音
 「……」

そんな俺たちを琴音はやはり、ポカンと見ていた。

悠気
 「なにか……気になるか?」

琴音
 「う、ううん。本当に仲がいいな〜って……」

悠気
 「まぁ、家族だからな」

俺と宵は血こそ繋がってないが、それでも家族だと思っている。
心配するのは当たり前だし、別におかしな事じゃないだろう?

琴音
 「私、てっきり恋人同士かと……」


 「〜〜〜!? お、お兄ちゃんは! そんな! ち、違うから!」

宵は顔を真っ赤にして否定した。
かくいう俺も恥ずかしすぎて何も言えず、顔を手で覆った。
そりゃまぁ? 親愛の情って言うし?
そりゃ宵は愛おしいけど、恋人同士ってのは……。
駄目だ、意識すると逆上せる、俺は頭を振った。

悠気
 「ば、馬鹿な事言ってないで! 速く食べろ!」

俺はそう言って二人を急かす。
宵はなんとか食べ終えるが、しかし大城は途中で箸を置いた。

琴音
 「……ご馳走さま、でした」


 「え? まだ半分しか食べてないけど……?」

大城の弁当はそれ程大きくもない。
中身は多少色気が無い女の子の弁当らしさはないが、それでも大城の少食っぷりは異常だった。
それで保つのか疑問になるが、彼女は笑顔を浮かべ。

琴音
 「お、お腹いっぱいだから……」

悠気
 「……」

俺は前のめりに倒れた琴音を抱きかかえた時の事を思い出す。
彼女の体は驚くほど軽かった。
虚弱だと思ったが、あれ程とは思わなかった。

悠気
 「……なぁ、大城。お前本当は……」

琴音
 「あ、急がないとっ! 昼休み終わっちゃうよ!」


 「あ、お兄ちゃん急がないと!」

気がつけば、本当に時間が押していた。
俺は舌打ちすると、弁当を布で包んで立ち上がる。

琴音
 「あ……」

立ち上がるとき、大城がふらつく。
俺は無意識に手を伸ばしていた。

悠気
 「大丈夫か?」

俺は大城の腕を掴み、ゆっくりと立たせる。
大城は多少ふらついていたが、やがて安定して直立する。
やはりその姿は不安だった。

琴音
 「あ、ありがとう……若葉君♪」

俺は大城から手を離すと、俺達は教室に向かった。

琴音
 (若葉君……やっぱり優しい♪)



***




 「おーし! 皆お疲れー! それじゃ気をつけて帰りなさいよガキ共ー!」

その日の授業も終わった。

琴音
 (あっという間だった……)

私は学校での生活を乗り切った。
授業にはついていくのがやっとだけど、それでも私はちゃんとここにいる。

琴音
 (私は無価値じゃない……そう、だよね?)

私はそうやって自分を鼓舞した。


 「あ、大城さん! この後少しお話したい事があるんだけど……!」

琴音
 「あ、はい……え?」

その時だった、体に力が入らず立ち上がった私の視界はゆっくりと歪んでいった。

琴音
 (だ、め……このまま、じゃ)

ゆっくりと、目の前に床が迫る。
肝心のこんな時に私は……だけど。

ドサリ!



***




 「大城さん!? 若葉! ナイスキャッチ!」

悠気
 「……大城」

俺は大城が倒れる瞬間、咄嗟に飛び出した。
大城は気絶しており、俺の腕の中で小さく息をしていた。

悠気
 (大城……お前、本当に学校に来ても大丈夫なのか?)

俺は心のなかで、中庭で聞きたかった事を問うた。
だが、大城は何も返してくれない。
俺の手は震えている。
もう瑞香のように、目の前で誰かが傷つくのは見たくない。

幸太郎
 「悠気……お前、震えて?」

悠気
 「先生、とりあえず保健室に連れて行って大丈夫ですか?」


 「そ、そうして! 後で病院と親族にも連絡を!」

俺はゆっくり軽い大城の身体を抱きかかえた。
このまま保健室に運ぶ。


 (お兄ちゃん……お兄ちゃんはやっぱり)



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第15話 儚き価値観

第16話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/12/24(金) 18:02 )