突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第14話 価値ある人生



ザワザワ!

琴音
 「ふぅ……、身体弱ってるなぁ」

私はなんとか学校に辿り着いた。
学校は病院に比べるととても騒々しく、私は後ろの方から下駄箱に向かう。
人混みに巻き込まれたら大変だからね。

男子生徒A
 「おい、今日のテレビ見たか?」

男子生徒B
 「内の学生が殺人事件を起こしたって奴?」

琴音
 (え?)

ふと、目の前の男子生徒達の会話が聞こえてくる。
その内容はあまりに現実離れしていて、私は肝を冷やした。

男子生徒A
 「確か……山吹瑞香って不良だろう?」

琴音
 (山吹さん!?)

更にドキッとする。
山吹瑞香さんは同じクラスの学友だ。
きっと向こうは私のことを知らないだろう。
でも私は1年の頃から同じクラスだから覚えている。
正直、まともに会話もしたことがないし、どんな子だったかうろ覚えだけど……あの人が殺人?

琴音
 (そんな人だったかな……?)

先ほど会話していた生徒は下駄箱を過ぎると見えなくなった。
私はやや遅れて上履きに履き替える。

琴音
 「……すぅ、はぁ」

私は一度深呼吸をした。
改めて学校を見上げる。

琴音
 「私はまだ、生きているんだから」

それは誰に言い聞かせているんだろう。
多分神様っていう概念になんだと思う。
私は自分が不必要な存在じゃないかってずっと不安に思っていた。
でもお父さんは私が入院していても、必ず毎日来てくれたし、私を不要だなんて絶対に言わなかった。
それだけでも私には救いがある。

琴音
 「私は価値がある……よし」

私は校舎へと踏み出した。
喧噪の中から一人外れた私はさぞ浮いているだろう。
一人だけ新品の様にもみえる制服もある意味で異様だ。
リノリウムの床はカツンカツンと、足音を響かせる。
それは心臓の脈拍に似ていた。
私は教室を目指した。



***



悠気
 「……」

教室は騒然としていた。
それもその筈、クラスメイトが殺人を犯したのだ。
我関せずな奴は兎も角、それを喜ぶ奴はいない。
俺の後ろの席は誰も近寄らず皆複雑な顔をしていた。


 「瑞香ちゃん……もう来れないのかな……?」

幸太郎
 「難しいだろうな、恐らく退学処分は免れないだろう……」

幸太郎は腕を組み冷静に瑞香の現状を判断する。
ちょっとずつ現実が突きつけられる度に、俺は昨日何をやったと、自問自答が繰り返された。
過ぎたことはどうしようもない……だが俺は昨日瑞香と会ってるんだぞ?
あの時、こんな事になるなんて分かる訳がないだろう……!
このクソッタレな現実は本当になんなんだ……。


 「あの、と、通してください……」

悠気
 「ん?」

入口の方で誰かが困っているようだ。
丁度別のクラスの野次馬が集まっており、教室に入れなくて困っているようだ。


 「う、ん……きゃ!?」

無理矢理少女が入ろうとすると、丁度顔を出した所で前のめりに倒れかかる。

悠気
 「おい……!」

俺は咄嗟に助けるため、少女を抱えた。
少女は俺の胸にもたれ掛かりながら、顔を上げてポカンとしていた。

少女
 「……あ」

悠気
 「うん? 大城?」

琴音
 「わ、若葉君……お、お久しぶり……あはは」

少女は大城琴音だった。
随分久しく学校を休んでいた少女は頬を紅くして、笑っていた。

琴音
 「あ、あのっ、もう大丈夫ですからっ」

悠気
 「あ、すまん」

俺は大城から離れると、大城は「はぁ」と呼吸を整える。
まだ顔が若干赤いが、大丈夫か?

悠気
 「大城、身体大丈夫か?」

琴音
 「え? あ……うん、しばらくは大丈夫だと思う」

大城は身体の事を聞かれると、少しだけ暗い顔をした。
本来ならこういうことは聞くべきじゃないだろう。
だが、彼女を抱えて分かった。
彼女は凄く軽い、腕も細く……決して健康体には思えなかった。


 「お兄ちゃん突然走って……あ」

琴音
 「あはは、若葉さん久し振り」

幸太郎
 「ほお! 懐かしい顔だな」

琴音
 「百代君も」

徐々に懐かしい学友を見て、生徒が集まってきた。
線の細い美少女は決して目立つ存在ではない。
他の生徒とは一線を画する可愛らしさはあるが、あまり学校に姿を現すことはなく、出席日数が足りるのかも疑問だ。

大城は丁寧に一人一人に挨拶をしていく。
生徒の方は正直大城と喋った事もない者も多いだろう。
イマイチ顔を見てもピンと来ていない生徒がいる中、大城は一人一人の顔と名前を覚えているようだ。


 「お兄ちゃん、変なところ触ってないよね?」

宵はやや不機嫌そうな顔でそう言った。
もしかして疑われています?

悠気
 「馬鹿言え、咄嗟に助けただけだ、決して邪な思いは……」


 「今はちょっと触れるだけでもセクハラで訴えられる事あるんだからね?」

悠気
 「昨今のハラスメント事案は加減を知らないから恐ろしい」

とはいえ触れなきゃ助けられない訳で。
一応触れず助ける方法はあったが……俺名目上陰性の人間だから、PKMとしての力を使う訳にはいかん。
アルセウスの力は強大だが、逆にこれ程無力な力もない。
新しい命を産み出せても、失った命は取り戻せない。
宵一人を護るのも精一杯の力だ、学生生活では本当に役に立たん。


 「はいはい! 邪魔邪魔! ガキ共教室に入れ!」

まだホームルームではないが、相変わらず来るタイミングの読めない担任の姿だった。
御影先生は教壇に立つと、やはり触れたのは瑞香のことだった。


 「皆もう知っていると思うけど、山吹瑞香さんが逮捕されたわ……」

幸太郎
 「先生は山吹が本当にやったと?」

幸太郎が手を上げ、問題に突っ込む。
アイツも瑞香の事はよく知っている。
俺たちはある意味で腐れ縁のような関係だったからな。


 「心情的には否定したいけど、なにせ本人が自供しているからね……」

御影先生も瑞香が本当にやったのか、疑問に思っているようだ。
だが一番問題なのが瑞香自身が殺したことを認めているという事。
今はそれも含めて警察は検証を進めている様だが、覆りそうな様子はない。


 「近く退学が受理されると思う……生徒を護れなかった先生の責任よ……」

御影先生はそう言って悔しそうに唇を噛んだ。
口は悪いが生徒の面倒見が良くて、熱血気味の先生だからこそ、感情移入もしてしまうんだろう。

キンコンカンコーン。


 「はぁ、皆席について!」

御影先生も仕事は仕事、チャイムが鳴るとまた普段の先生の顔に戻った。
俺たちは自分の席に着くと、出席の確認が行われる。


 「あら、大城さんもう大丈夫なの?」

御影先生は大城の存在に気が付くと驚いた。
大分長いこと学校を休んでいたからな。
だが同時に悲しい顔もする。

大城
 「激しい運動をしなければ大丈夫だと……」


 「そう、それじゃ体育は駄目ね……それにしても折角大城さんが来てくれたのに、全員出席が叶わないなんてね……」

何か呪われているのか、それ位内のクラスの出席率は悪い。
不登校者がいるわけじゃないが、大城は滅多に顔を見せないし、見せたときに限って瑞香がいない。
呪いじゃなきゃ、これはなんなんだ?


 「うん、それじゃ大城さんの事は先生が伝えておくわ、出席確認続けるわよ?」

御影先生は一人一人声を出して、出席表に書いていく。
俺はふと、大城を見た。
大城はぱっと見ではそれ程不健康な様子はない。
だが、あの体重の軽さは異常だ。

悠気
 (本当は出歩くのも危ないんじゃないのか……?)

大城は非情に珍しい病を患っている。
原因は不明、症例も極めて少なくPKMのみが発症する病。
症状は著しい衰弱が特徴で、酷いと呼吸困難にもなるようだ。
何が原因で発症するかも分からない、そして有効な治療法すら判明していない。

悠気
 (思えば、大城もか……)

俺はこの世界の不条理を思い知る。
殺人を犯したと言う瑞香、生きることさえ精一杯の大城。
宵だって、幼い頃に母親を殺されている。
このクラスは不自然な程、ロクな運命を持っていないらしいな。


 「それじゃホームルームは終わり、その内校長から今回の事件についてスピーチがあると思うわ……皆お願いだから、道は踏み外しちゃ駄目よ?」

御影先生はそう言うと教室を出て行った。
ホームルームの後には少し時間がある。
と言っても直ぐに1時間目の授業は始まるが。

悠気
 (やる気が起きん……)

元々怠惰な方だが、俺は全くやる気という物が沸かず、机に突っ伏した。
すると、早速目敏い女が現れる。


 「あ、お兄ちゃん!」

悠気
 「……」

俺は宵の声を無視する。
兎に角怠いのだ……朝から相変わらずよく分からない夢を見るわ、冗談かと思えるニュース見るわ、うつ病にでもなってしまいそうだ。
だが、当の妹はその程度でめげる奴じゃない。
俺の肩を掴むとぐらぐらと揺らしながら。


 「寝ちゃ駄目! 授業はちゃんとして!」

悠気
 「なぁ宵……」

口喧しい宵に俺は突っ伏しながら、あることを言う。
宵は「え?」という感じ、で聞いていた。

悠気
 「人間はどんなに努力したって報われない時があるよな……真面目に生きたって何の甲斐もない無駄な人生だってある……だから俺は……寝る!」


 「だから……じゃなーい!」

宵の声が教室中に響くと、驚いた生徒達が宵を見た。
俺は顔を上げると。
宵は「しまった」と言う風に周囲に虚どる。

悠気
 「全く恥ずかしい奴め」


 「お、お兄ちゃんの性でしょ!?」

宵はそう言うと顔を真っ赤にした。
感情を自制出来ないタイプではないが、どうにも俺が関わると感情を剥き出しにする傾向がある。

悠気
 「感情をコントロール出来ん奴は屑以下だと教えた筈だが?」


 「お兄ちゃんの方がコントロール下手だと思うけど……」

……否定できん。
周囲からは俺はシスコン扱いだ。
実際宵の事になると、俺も感情をコントロール出来ない事がある。


 「今日だって……馬鹿みたいに瑞香ちゃん助けようとして……」

悠気
 「……!」

俺は今朝のことを思い出した。
確かにあの時の俺はらしくなかった。
生の感情を剥き出しにして、自分に出来ない事をしようとしていた。
もしあのまま家を飛び出していたら俺はどうしていた?
結局それは瑞香を困らせるだけの行為じゃないか……。

悠気
 「なぁ宵、お前瑞香は学校に行って意味のある事はあったと思うか?」

アイツは他の生徒からイジメを受けていた。
勿論アイツはそんな程度で相手を傷付ける奴じゃない。
しかしそれでも、まだ高校生なんだぞ?
家にも、学校にも、アイツが安心して過ごせる場所なんて無かった。
結局アイツにとってこの学校生活は無駄だったんじゃないのか?


 「私には……分からない、私にとっては――」

悠気
 「?」

最後の方聞き取れなかった。
私にとっては……なんだ?
しかし宵は首を振ると席に戻っていく。



***



琴音
 (若葉君……)

私はそっと静かにあのご兄弟の様子を眺めていた。
私から見てもとても仲の良い兄弟だと思う。
だけど……なら何故あんな悲しい顔をするのだろう。
若葉君はまるで自らを茨で鎖りを作り、それを巻き付けているかのよう。
若葉さんはそんな兄を咎めているようにも、自分の傷口を怖れて見て見ぬ振りをしている様にも思えた。
総じて健全な関係には思えない。
あの二人は自分の傷に気付いていないんだろうか?

琴音
 「若葉君……無理をしている?」



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第14話 価値のある人生

第15話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/12/20(月) 18:51 )