突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第13話 無慈悲な現実は



チュンチュン。

小鳥が鳴いてる。
朝の日差しは四角い窓から注いでいた。
久し振りの実家、今日から学校に通える。

琴音
 「……大丈夫、よし」

私は胸に手を当て、心臓の鼓動を聞く。
大丈夫、まだ動いている……まだ生きている。
私は久し振りの寝室で目を覚ますと、戸棚に置かれた位牌を見た。
お母さんだ、原因不明の病で亡くなった。
そしてその原因不明の病は私まで蝕み、病院での生活を余儀なくされていた。
そう言えば昨日若葉君を見た気がしたけど……お見舞いだったのかな?

道理
 「琴音……起きてるか?」

お父さんは寝室の襖を開けると、まだ出勤前の格好だった。
朝にも関わらず忙しそうで、無精髭まで生えている。

琴音
 「お父さん、御免ね……迷惑かけちゃって」

道理
 「何言ってる? 子供が親に迷惑を掛けるなんて普通だろ?」

琴音
 「でも……」

お父さんはシングルファザーになって、お仕事も大変なのに家事全般を引き受けてくれた。
私がもっと元気だったら、お父さんを楽にさせてあげられるのになぁ〜。

道理
 「琴音、朝ご飯出来ているからな」

お父さんはそう言うと襖を閉めた。
私は立て掛けてあったクリーニング済みの制服を見る。
3ヶ月ぶり……かな?



***



夢……夢を見ている……真っ白な夢だ。
まるで雪でも降っているかのように一面真っ白だ。
漂白された世界、色褪せ……脱色したような無味乾燥した世界だ。

生き物はいるのか?
目を動かそうとするが動くことはない。
この世界に俺は肉体を持っていないのだ。
ただこの漂白された世界を眺めるだけ……ずっと変わらない世界に心が乾いていく気さえする。
だが、《ソレ》がいることは救済のようにも思えた。


 「うんしょ……うんしょ」

《ソレ》は何かを運んでいた。
ガラクタ? 兎に角そんな物だ。
《ソレ》はガラクタを積み上げていく。
大きいの、小さいの、中くらいの。
だが、あまりにも出鱈目な積み方で、しかも大きさも形もバラバラなガラクタでは直ぐに崩れてしまう。


 「ああ……!」

《ソレ》はとても哀しそうにしていた。
なんだか俺まで哀しくなる。


 「独りぼっち……だね」

《ソレ》は呟いた。
まるでここに誰もいないかのように――。



***



悠気
 「……」

気がつけば俺は手を伸ばしていた。
真っ白な天井、朝日がカーテン越しに入る。

悠気
 「……夢、か」

ふと、目元に温かい物が垂れた。
涙だった……一体俺は何故泣いている?

悠気
 「夢の内容は……くそ、思い出せん」

俺は頭を振ると身体を持ち上げた。
直後、ドアが外側から開かれた。


 「お兄ちゃーん? 朝……あ」

悠気
 「……おはよう」

俺は気怠げにしながら挨拶した。
宵は口を開いたままポカンとしている。


 「お兄ちゃんが起きてる……? じ、事件だよ!? 寝ぼすけのお兄ちゃんが起きてるなんておかしいもん!?」

突然宵が騒ぎ出した。
俺が起きていたらそれ程異常事態だというのか?
なんだか全てが馬鹿らしく思えてきた俺は再び布団を被り、横になる。


 「て、お兄ちゃんなんで二度寝しようとしているの!?」

悠気
 「だるい……学校行きたくない」


 「駄ー目ー! お義母さんいないんだから起きて起きて!」

そう言えば、母さんまだ出張だったな。
俺は仕方なく起き上がった。
あの夢の後はいつも怠くて仕方がない。
虚無感、俺はなんのために生まれたのだろうなんて哲学的な事を考えるが……どうせそんなに頭も良くないので、直ぐにその考えは捨てた。

悠気
 「着替えるから、下で待ってろ」


 「うん、二度寝しちゃ駄目だからね?」

悠気
 「しないから安心しろ」

宵は若干眉を顰めていたが、渋々扉を閉めると階段を降りていった。

悠気
 「瑞香……今日はさすがに学校来ないよな」

俺は頭を切り替えていくと、瑞香の事が浮かんだ。
元気だったとはいえ、足をやってしまった以上、直ぐに学校とはいかないだろう。
とりあえず経過はユズちゃんに聞けばいいとして。

悠気
 「なんで宵意外の奴の事考えているんだろうな……」

俺は唐突にそんな事を思い、苦笑した。
全く馬鹿みたいだった。
俺はゆっくり制服に身を通しながら、自分に出来る事を考える。
俺には宵だけで精一杯だ。
瑞香に出来る事なんて結局何もない。
俺は所詮その程度なんだから……。

悠気
 「さて」

俺は鞄を持つと部屋を出る。
そして階段を降ると、ダイニングで宵は俺を待っていた。


 「朝ご飯、和食で良かったよね?」

悠気
 「ああ、構わん。お前の和食は絶品だからな」

俺はそう言ってテーブルに座った。
宵は褒められた事が嬉しいようで、ニコニコ顔でご飯を盛る。
五目ご飯に味噌汁、副菜は沢庵の漬け物か。


 「えへへ〜♪ 少しはお義母さんに追いついたかな?」

悠気
 「母さんは別格だ、それこそ料理店を出せば三つ星取れるレベルだろ」

ちょっと大袈裟かもしれないが、宵も同じ事を思ったのか「うんうん」と頷いていた。
宵の料理の師匠はなんと言っても母さん。
なまじ父さんの仕事で世界を駆け回っている性か、様々な国の料理法を習得しており、レパートリーも質もそこらのレストランとは比べものにならないレベルだ。
宵は料理の腕は本物だが、超一流にはまだ届かないな。
とはいえ、俺はこの味が好みだからな。

悠気
 「ん、美味しい……好みなら宵かもな」

俺は味噌汁を頂く。
白出汁の上品な味付けに、僅かながら赤味噌を混ぜだ我が家の味付けは俺好みで抜群だ。


 「そう言って貰えると嬉しい♪ 私家事くらいしか熟せないから」

宵は箱入り娘という訳ではないが、本当に家事意外やらない女だ。
部活にも所属しないし、バイトをする訳もでもない。
お洒落に気を遣うかといえば、全くと言っていいほどお洒落しないし、本当に所帯染みている。

悠気
 「もういつでも結婚できるな」


 「け、結婚!?」

なんて事を冗談交じりに言うと、宵は顔を真っ赤にした。


 「やだもうー!? お兄ちゃんったらー♪」

バチン!

そう言って宵は俺の頭を思いっきり叩く。
ぐふ、結構痛いぞ……。


 「もう、煽てたって何にもでないんだからね!」

宵は顔を真っ赤にすると、テレビのリモコンを手に取った。
この時間だとほぼニュース番組だが、宵は日課にしてるからな。

テレビ
 『本日深夜1時○○県○市で殺人事件が発生しました』


 「え……?」

テレビから聞こえたのはお馴染みのニュースキャスターの声だった。
ただ……今キャスターはこの町の事を言った?
俺達は箸を止めて、テレビを見るとそこには信じられない物が映っていた。

テレビ
 『被害者は山吹真(ヤマブキマコト)氏、○×商事の重役でエルレイドのPKMで知られています』


 「あの人……昨日病院で?」

俺は静かに頷く。
俺達に対して感情を隠そうともしなかった瑞香の父親だ。

テレビ
 『死因は胸への包丁の刺突、警察は司法解剖の結果即死と発表しています、犯人は事件直後自首しており、山吹瑞香さん高校生』

ガタン!

俺はその言葉にテーブルを叩いていた。


 「お、お兄ちゃん……?」

悠気
 「あり得ないだろ……アイツは足を怪我してんだぞ!? 出来るわけがない!」

テレビ
 『山吹瑞香さんは警察に口論になり、手元にあった包丁でついカッとなってしまったと証言したと――』

悠気
 「くそったれ!」

俺は直ぐに立ち上がった。


 「お兄ちゃん何処に行くの!?」

悠気
 「瑞香の家だ!」

直接問い詰める。
俺は瑞香には犯行は不可能だと思っている。
それにアイツは口でカッとなったからって、命を奪おうとする女じゃない。
だが……同時に嫌な汗は止まらなかった。
何故なら瑞香以外に誰が犯人になれる?
あの母親か? いや、夫を殺す動機がない。
ユズちゃん? 優しいユズちゃんにそれが出来るか?

悠気
 (そんなはず……そんなはずないよな?)


 「お兄ちゃん……多分瑞香ちゃん、もう家にいないと思うよ」

宵は冷静だった。
宵にとっても瑞香は友達の筈なのに、俺より冷静でいられるのか。


 「それに多分現場検証とかで近づけないと思うし、多分拘置所だよ……」

悠気
 「そう、だな……」

俺は俯いた。
カッとなっていた頭が急激に冷えていく。


 「お兄ちゃん……辛いのは分かる……でも私達に何が出来る?」

悠気
 「それは……」

言葉に詰まってしまう。
宵の言う通りだ、俺が現場に行ってギャーギャー騒いでも何もならんだろう。

悠気
 (俺には瑞香は……遠い……!)

瑞香の事を諦める俺は悔しかった。
それでも俺は宵を選ばないといけない。
宵もまた、『あの日』から俺だけを選んできた。


 「ご飯、食べよ?」

宵はテレビを消すとそう言って朝ご飯を食べ始めた。
俺は大人しく座席に座り直すと、再び食べ始める。


 「お兄ちゃん……私、お兄ちゃんがとっても優しい事を知っているよ? だから私よりも辛いんでしょう?」

悠気
 「……ッ!」

俺は奥歯を強く噛んだ。
分かっている……だから諦めろって言うんだろ?
俺はそうやって出来ないことは諦めてやってきた。
今回もそうだ、出来ないことは諦めろ……!


 「私は……ずっとお兄ちゃんと一緒だから」

悠気
 「……俺もだ、お前だけは絶対に護り抜く」


 「うん……」

俺達は弱い。
今でこそ身体も大きくなった、だけどもし10年前のような事件に巻き込まれたら?
今度こそ俺は宵を護ってみせる。
もう誰かに頼ったりしない、偶然や奇跡に期待しない。
俺や宵が助かったのは本当に幸運だったんだ……だから。

悠気
 「……ご馳走様」

俺は朝ご飯を食べ終えると使った食器を片付け始める。
そして俺を追うように宵も食べ終わった。


 「お兄ちゃん、学校行こうか」

悠気
 「そう、だな」

俺は今の状況が凄まじく居心地が悪かった。
無理に明るい顔をすれば気が晴れるか?
無理だろう、第一宵だって表情が暗い。
大分無理している感じはあるが、それでも空気が重いのだ。
いっそ外に出れば紛れるかもしれない。

ガチャリ。

外に出ると快晴だった。
まるで俺達とは対照的に。

悠気
 「……っ」

俺は太陽を見上げ、目を細めた。
宵は家の戸締まりを終えると、俺の横に駆け寄ってくる。


 「お兄ちゃん、行こ!」

悠気
 「ああ」

宵は多少なり表情を明るくすると歩き出す。
こういう時は女の方が強いよな。
俺は宵に連れられて道を歩く。
やがて道には徐々に人の姿も増えてきた。

悠気
 「……」

俺は猫の額のような小さな境内を持つ寺のある石段の前で立ち止まった。


 「どうしたのお兄ちゃん?」

宵が振り返る。
俺はここであったあの事件を思い出した。
そしてそれを今回の事件に当てはめる。
それが間違っていることも、意味の無い事なのも分かっているつもりだ。
だが……それでも人間は簡単には割り切れないんだな……。

悠気
 「ユズちゃん……こないな」


 「一番辛いのは間違いなく柚香ちゃんだよ……」

悠気
 「そうだな……」

父が死に、姉が犯人……そりゃ辛くない訳がない。

幸太郎
 「お前たち……ここで立ち止まってどうした?」

やがて後ろからコウタが追いついた。
普段ならユズちゃんの方が先に現れるが……。

悠気
 「なんでもない……学校行こうぜ」

幸太郎
 「悠気……お前なら気にしない訳がないと思うが……」

悠気
 「分かってるよ……でも割り切るしかないだろ」

幸太郎
 「……」

コウタはそれっきり何も言わなかった。
コイツは空気が読める男だ。
俺の様子を見て、これ以上触れるべきじゃないと思ったのだろう。



……結局その日、ユズちゃんが学校に来ることはなかった。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』

第13話 無慈悲な現実は

第14話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/12/10(金) 18:00 )