突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第12話 夢より残酷な現実



チュンチュン……。

瑞香
 「ん……朝?」

私は日差しに気が付くと、目を開けた。
目の前に広がったのは鬱蒼と繁る雑草と川の流れ。
ここは河川敷、橋の下に建てられた仮設テントだ。
私は家を飛び出して、ここに住むことにした。
いわゆるホームレスだ。
妹には猛反対されたが、両親は知らんぷり。
どうせ私が野晒しでくたばっても、涙一つ流さないだろう両親だから気にもしない。
私は他人となることを決めたのだ。

瑞香
 「んん……!」

私は大きく伸びをすると立ち上がった。
まだ日は昇ったばかりで、この時間は過ごすのに丁度良い。
私は適当に身嗜みを整えると、学校に行く準備を進めた。

瑞香
 (なんか今日は嫌な予感するのよね)

別に私は占いとかそういう迷信がかった物は信用していない。
第一妹はサーナイトらしく、抜群の予知能力の持っているから、余計にそういう嘘っぱちは信用できないのよね。
とはいえ、私も胸くそ悪い話だが、エルレイドの父親の血が流れている。
病院の判定は陰性、私は人間の血が濃いと判定された訳だが、PKMとのハーフに違いはない。
念動力が扱える訳じゃないが、少なからずエスパーとしての片鱗はあるかも知れないのだ。

瑞香
 (……こういう時は善は急げね)

私は急いで出発の準備を進める。
自分自身の直感は大事にする方が精神的には楽だからだ。



***



悠気
 「永遠はあるよってAMRよって聞こえるのは気のせいだろうか?」


 「お兄ちゃん突然どうしたの?」

悠気
 「いや……なんでもない」

突然ネタの神が降ってきたようだが、俺は頭を振った。
母さんが出張に出て行った次の日も、宵は生真面目にいつも通りルーティンのように俺を起こしにやってきた。
そしてやけに気合の入った朝飯を食べて、俺達はいつも通り通学路を歩いていた。

柚香
 「おはようございます悠気先輩、宵先輩」

後ろから現れたのはユズちゃんだ。
宵も大概だが、ユズちゃんもルーティンを大切にする子だから、大体同じ場所で出会うんだよな。


 「おはよう柚香ちゃん♪」

悠気
 「おはよう」

そう言えばユズちゃん、昨日姉の瑞香と放課後に何か話していたな。
今のユズちゃんを見る限り、そんなに気にする話でもないんだろうか?


 「あ、ねぇねぇ! 昨日のオカルト番組見た!?」

柚香
 「あ〜、私その日は〜」

悠気
 (オカルトねぇ……?)

俺は仲良く話す二人を横目で見ながら呆れてしまう。
なんでもありのPKMが溢れるこの世界にオカルトがあるとすれば、正真正銘魔術の類いだろう。
だがそれこそ眉唾だし、あるのなら科学が普及したのは何故だと言うのか。
PKMは少なからず人類史を大きく進めただろう。
もはや現代は魔術を必要とはしてない。

悠気
 (宵も宵だよな、エスパータイプなんて一番得体が知れないのに、割と迷信とか信じるんだからなぁ)

宵はクレセリアのPKM。
あらゆる状況下で引力を無視して飛行を可能とする優れた推進装置、三日月の羽とエスパータイプ特有の念動力を持つポケモン娘だ。
三日月の羽は悪夢を浄化する作用があるという伝承もあるらしいが、あれは嘘っぱちだった。
第一宵自身悪夢は見る方だし、俺もたまに頓珍漢な夢を見る事があるんだから。

柚香
 「あの、悠気先輩?」

悠気
 「ん?」

突然ユズちゃんが横顔を覗かせてきた。
俺なんて放っておいて、女達で会話に華を咲かせていればいいのにと思いながらそちらを向くと。

柚香
 「悠気先輩は、説明できない現象を信じる方ですか?」

悠気
 「……信じない」

俺は少し迷った。
さっきのオカルトの続きだが、俺自身はリアリストだと思っている。
だけども説明できない事もある。

悠気
 (時々、どっちが夢か分からなくなるんだよな……)

俺は昔から夢にある悩みがあった。
真っ白に漂白された世界を見る俺は、何故かいつも漠然とした無気力さに苛まれ、哀しくなる。
その後は大抵、自然に変な言葉が出たりするんだ。

……とはいえ夢は夢であるし、それが俺に何か影響を与える訳でもない。
俺は宵だけは絶対に護る、それだけを誓って生きてきたんだから。

柚香
 「私はある気がしてしまうんです……」

そう言うと、ユズちゃんの顔は暗かった。
普段から特別明るい子ではないとはいえ、それは明確な悩みを持つ顔だ。

悠気
 「宵じゃなくて、俺に相談か?」

柚香
 「お姉ちゃんの事です……」

瑞香か……。
瑞香はユズちゃんにも悩みの種ではあるだろう。
二人の在り方は仲の良い姉妹、だが傍目から見て本当にそうだろうか?
瑞香は意図的にユズちゃんに近づこうとはしない。
ユズちゃんもそれが分かっていて無理強いをしない。
結果としてこの姉妹はまるで他人同士のように振る舞ってしまっている。

柚香
 「……こんな話信じてくれますか?」

悠気
 「なに?」

柚香
 「それは……」

ゴクリ、ユズちゃんが喉を鳴らす。
その顔は全く晴れない。
やがて意を決したユズちゃんは静かに喋りだす。

柚香
 「私が……姉さんを殺す未来予知です……」

悠気
 「っ!?」

全くもって想定外の言葉だった。
無論冗談を疑ったが、ネタばらしをする様子はない。
ユズちゃんはサーナイトのPKM、エスパータイプとしての力はほぼ万能に扱える。
当然未来予知も可能で、ユズちゃん自身積極的に使おうとはしないが、何故……?

悠気
 「笑えないな……お前姉に殺意でもあるのか?」

柚香
 「あ、ある訳無いじゃないですかっ!」


 「あのー、二人とも〜?」

深刻な顔で言うユズちゃん、気が付けば宵は蚊帳の外であまりにも溜まりかねたのか、宵は嫌そうな表情を浮かべて話に割って入ってきた。


 「もうすぐ学校ですよ! ほら、離れて!」

ある程度宵に聞こえないように話すため、俺とユズちゃんは気が付けばかなり接近していた。
ユズちゃんは顔を真っ赤にすると慌てて離れた。
そして顔を膨らませた宵はズイッと間に割り込む。
コイツって普段はほんわか人の良い顔してるんだが、同時に結構嫉妬深いんだよな。
俺の方はその気がなくても、女子と仲良くしているとよく宵はこういう顔をする。

柚香
 「あ、友達いたんで、もう行きますね!」

ユズちゃんは茶色い筆のような大きな尻尾をしたPKMの少女の背中を見つけると走り出した。

柚香
 「宵先輩、悠気さん、それでは!」

ユズちゃんがそう言って背中を小さくさせていく。
その中で俺は妙な感覚に囚われていた。

悠気
 「宵……違和感なかったか?」


 「え? さ、さぁ?」

どうやら宵は全くピンと来なかったらしい。
こういうところで宵は昔っから鈍くさいな。

悠気
 (ユズちゃん、普段俺の事を先輩って呼ぶはずなんだが……)

単純に言い間違えたのかも知れないが……なんなんだろうか、俺の中にある違和感。

悠気
 (瑞香を妹が殺す? そんな馬鹿げた話があるのか?)

ユズちゃんの予言は宵に比べると信憑性がある。
だからと言ってそれは絶対ではない。
ユズちゃんの未来予知が外れる事はあったし、解釈違いな事もあった。
間違ってもあの妹が姉を殺す理由は存在するはずもなく、きっと何かの間違いであろう。

悠気
 (だが、どうしてそんな予知を俺に話したんだ?)

それが分からない、ユズちゃんが俺に好意を寄せてくれている事は知っているが。
とはいえ、俺に何が出来る?

悠気
 「考えても仕方がないか」


 「? お兄ちゃん?」

俺は仕方なくそこで考えることを放棄すると、校門を潜っていく。



***



教室に入ると俺はある女を捜した。
それは勿論瑞香だ。
まぁアイツは今のようになっても、遅刻とかサボった日はない。
去年までは陸上部に所属していたし、朝練だってサボった事のない女だからな。
しかし何か今日は様子がおかしいな。

悠気
 「一体なにが?」

俺は教室を見渡すと、俺の席の周りに嫌に人だかり出来ている。
だが、正確には俺の方じゃない。
集っているのはその後ろ、瑞香の席みたいだ。

悠気
 「一体どうしたんだ?」

幸太郎
 「……イジメだ」

俺の声に反応したのは幸太郎だった。
幸太郎は逞しい二の腕を組むと不機嫌そうな顔をした。
俺は眉を顰めるとその内容を聞く。

悠気
 「どういう事だ?」

幸太郎
 「そうか……悠気は知らないんだったな」

悠気
 「なに?」

幸太郎
 「山吹は陰湿なイジメを受けていた、まぁ普段はいつもアイツが直ぐに片づけるから、知らない奴もいるだろうが」

俺はその言葉に、瑞香の普段の行動がフラッシュバックする。
瑞香の席をよく見ると、何かの液体とガラスが撒き散らされていた。

悠気
 「……? 瑞香は?」

俺はそこで最大の違和感を思い出す。
ならイジメの対象にされた瑞香はどこに居るのだ?

幸太郎
 「さぁな、今日に限り、その姿が見えん」

その時だ……。
突然ドタドタと教室に入ってくる女子生徒がいた。
それは一学年下の子で、俺がよく知る人物だった。

柚香
 「お、お姉ちゃんここに来ましたか!?」

悠気
 「ユズちゃん!」

それは瑞香の妹柚香だった。
血相を変えて上級生の教室に来るなんて普通じゃない。
しかしその後ろから、背の高いスレンダーな教師がユズちゃんの肩を叩く。


 「気持ちは分かるけど、現実よ」


 「先生!」


 「皆、聞いて! 山吹さんが通学中事故に遭ったの!」

悠気
 「な!?」


 「え!?」

それは……誰もが驚いた衝撃だった――。



***



瑞香
 「……だからって、何でアンタ達までいるのよ?」

放課後、俺は瑞香の見舞いに教えて貰った病院に向かった。
その付き添いは一番心配していたユズちゃんと、宵に幸太郎だった。
流石に後ろ二人は瑞香も予想外らしく、清潔なベッドの上で溜息を吐いていた。

柚香
 「お姉ちゃん、大丈夫? 痛くない?」

瑞香
 「車に轢かれてねぇ、ま、幸い骨は無事だったし、直ぐに退院出来るわよ♪」

交通事故に遭ったと聞いたときは肝を冷やしたが、病院にいた瑞香を見ると、大丈夫そうで俺は胸を撫で下ろす。

瑞香
 「で、どうして悠気までいるのよ?」

悠気
 「ユズちゃんの付き添いだ……」


 「因みに私もでーす」

幸太郎
 「右に同じく」

正直こんな奴の相手にこれだけ集まるというのもおかしいわな。
ユズちゃんを理由にしているのも、それが適当な事は瑞香も察しているだろう。

瑞香
 「かー、もう妹と付き合ってんの? ええ?」

瑞香はジト目でそう言及すると、ユズちゃんは顔を紅くして否定した。

柚香
 「ま、まだだよ!?」

瑞香
 「まだって事は、いつかは?」

柚香
 「お姉ちゃん! もう馬鹿なこと言ってると、もう帰るよ!?」

瑞香
 「えーえー、良い若者が病院なんて辛気くさい所にくるなっつーの!」

瑞香はそう言うと、手でユズちゃんを払いのける。
瑞香としては、出来れば自分の今の姿を見せたくなかったのだろう。
瑞香は本当にユズちゃんを愛している。
それは同時にユズちゃんも瑞香を愛しているのだ。

柚香
 「もう、知らない!」

ユズちゃんは頬を膨らませると、病室を出て行った。
俺は頭を掻くと。

悠気
 「……瑞香、元気でな」

瑞香
 「アンタこそ人生不意にしちゃ駄目よ?」

俺はそう言うと立ち上がり、病室を出る。
宵たちも、別れの挨拶を行っているようだ。
病室を出ると、俺はある夫婦を目撃した。

PKMの男性
 「柚香、アイツと会ったのか?」

柚香
 「は、はい……」

人間の女性
 「駄目よ柚香! アナタが悪い子になる理由なんてないでしょう!?」

身なりの良いスーツ姿の男性は、髪がユズちゃんと同じくエメラルドグリーンで、肘から特徴的なブレード生えている。
エルレイドの男性のようだ。
隣の女性は普通の人間みたいで、どうやら夫婦のようだな。

山吹父
 「兎に角、アレはどうしようもない屑だ! お前と同じ血が流れていると思わん事だ!」

柚香
 「ッ!? それお父さんが言うの!?」

山吹父
 「よせ、病院だぞ?」

山吹母
 「兎に角、もう帰りなさい柚香……あ、娘のお見舞いですか?」

悠気
 「え……あ、はい」

俺は突然話しかけられ、やや要領の得ない返事を返してしまう。
それを見て山吹姉妹の父親は見下したような三白眼で俺たちに鼻を鳴らす。

山吹父
 「ふん、アイツらしい頭の悪そうな交友関係だな」


 「む」

幸太郎
 「……」

宵があからさまにムッとするが、幸太郎は冷静に抑えた。
どうやらアイツの父親、自分の感情を隠す気がないらしい。
瑞香もたまにカッとなる事があるが、案外これは血なのかも知れないな。

悠気
 「どうぞ、俺達はもう用が済みましたので」

俺はそう言って道を譲ると、二人は一瞥した。

山吹父
 「うむ、失礼する」

山吹母
 「いい、柚香? 兎に角家へ!」

アイツの両親が病室に入ると、俯いて暗い顔をしたユズちゃんの肩を俺は叩いた。

悠気
 「兎に角、一旦病院を出ようぜ?」

柚香
 「……はい」

俺達はそう言って真っ直ぐ病院を出て行った。



***




 「それにしてもなんだか感じ悪かったね」

幸太郎
 「ああ、こう言ってはなんだが、両親には苦労してそうだな?」

病院を出ると、宵なんかは不満を爆発させていた。
モンスターペアレントなんて言葉はあるが、アレは真逆のタイプだったからな。

柚香
 「お父さんとお母さんは自分達に出来なかった事を、私達に押し付けたんです」

悠気
 「どういう事だ?」

柚香
 「お父さんは第一世代PKMで色々苦労したみたいなんです。今の家庭を得たのも自分の努力の証であると考えています……、だから自分の理想の子供が欲しかったみたいです」

……ユズちゃんはゆっくりとそれを語り出す。
両親ともにその人生は苦労が多く、自分たちが出来なかった事を子供に希望として託した。
最初は二人に差別などしていなかったそうだ。
だが、成長するにつれて姉は妹に追いつかなくなってしまった。
PKMの父親はそれが許せなかった。
妹はPKMで結果を出し、差を付けた結果、妹の溺愛が始まったという。


 「そんなの、ただ陰性か陽性かってだけなのに……」

悠気
 「……」

俺は押し黙りながら、考える。
PKMは分野は異なるが、人間より優れた部分が多いのは事実だ。
だが一方でその子供はどうなのだろう?
陽性のハーフと陰性のハーフ、そこに種族格差はありえるのか?
偉い学者の先生は交雑化が進めば、やがてPKMという概念は消滅して、新人類として統合されると言っていた。
遅かれ早かれ、PKMの血が薄れていくのは必然。
そこに人間というだけで、差別する材料はない。

柚香
 「お姉ちゃんは、そんな環境に嫌気が差して家を出て行きました」


 「え? じゃあ今何処に住んでいるの?」

柚香
 「河川敷にダンボールハウスで……」

幸太郎
 「正真正銘のホームレスか」

その事実、俺は知らなかった。
アイツが何処かに消えた事は知っていたが、まさかホームレスなっていたとは。
瑞香の奴も友達を頼るとかなかったのか?

幸太郎
 「しかし、そうなるともうホームレスとはいかんだろうな」

悠気
 「もしあの状態の瑞香をまた放るなら、今度は社会問題になるだろうからな」

もしあの両親が体面を気にしているのなら、瑞香は家に帰る事になるだろう。

悠気
 (……他人の問題、か)

俺は自分の家庭と当てはめて考えた。
今両親は家にはいない。
だが、あの人たちは俺だけでなく、養子の宵までちゃんと愛してくれる人たちだった。
俺にも宵にも不満はない。
だけど、瑞香と柚香には不満があった。
正当に評価されない瑞香と、過剰に評価される柚香。
近くに潜む、歪んだ家庭はそこにある。


 「ねぇ? 家庭内暴力とかで訴えたりは?」

さらりと物騒な事を言う妹の宵だが、ユズちゃんは首を振った。

柚香
 「暴力は使いません……無視が殆どで、刑事告訴は流石に……」

幸太郎
 「兎に角、瑞香が心配だな」

柚香
 「……私、こっちですから」

ユズちゃんは最後まで暗い顔だった。
俺達は別れを告げると、やがて幸太郎も道を変えて別れていく。
気がつけば、いつも通り宵と一緒だった。


 「ねぇ、お兄ちゃん?」

悠気
 「ん?」


 「私達は、幸せだよね?」

悠気
 「……そう、だな」

俺は……幸せなのか?
何故疑問に思う必要があるのだろうか?
現に妹の宵は今日も平穏無事に過ごしている。
俺が絶対に護ると誓った世界だ。
だが……何故か俺はそれを素直に受け入れられなかった。
多分理由は瑞香の性なんだ。
瑞香がチラついて、俺は幸せだと感じられない。



***



その日の夜――その事件は起きた。

瑞香
 「……たく、またこの家に逆戻りとはね」

夜遅く、皆寝静まる時間、私は足にギプスを付けた状態での生活を余儀なくされて不便ながらトイレに向かっていた。
改めて不幸は平等にやってくると言うが、本当だった。
不便そうに松葉杖を使う人を見て、運が悪いなと思った事は無かったが、今回からは運がなかったと思うだろう。
それ位偶然が重なったのだから。

瑞香
 「ん……リビングでなにか?」

私は喧噪が聞こえて足をリビングに向けた。
聞こえたのは妹の声だった。
私は苦労しながら、リビングに向かうと薄暗い中で柚香が父と何か激しく言い合っていた。

柚香
 「いい加減にして!」

山吹父
 「お前こそいい加減にしないか! あんな屑がなんになる! 文字通り今は足すら引っ張ってくるではないか!?」

瑞香
 (っ……実の娘に向かって屑とは言ってくれる、相変わらず感情を隠すのが苦手なんだから)

だが、私も父の血を引いているだけに、短気なところは似てしまった。
まぁそれでも父はある会社の重役にまで上り詰めたバリバリのエリートなのだ。
凡人の私を見捨てるのは、分からないでもない。
捨てられる位なら、自分で出て行くと家出した訳だけど、結局逆戻りだもんな。
それにしてもユズのやつ、えらくいつもより噛みついているわね?

それは滅多に見ないユズの姿だった。
ユズは普段家族にはあまり逆らわない良い子だ。
それこそがあの父親達が望んだ姿でもあるし、あの子がいれば私なんて必要ないと思えた原因だ。

実のところ、両親の事は嫌いだが、別に憎くは思っていない。
妹を大切にしてくれれば文句を言うつもりも無かった。

柚香
 「どうして実の娘を大切にできないの!? お母さんだって人間でしょ!?」

山吹父
 「娘はお前だけだ、アイツは忘れろ……今日のお前はおかしいぞ?」

柚香
 「お父さん……私だって人形じゃないの……! お父さん達のワガママずっと聞くのだって我慢してたの……自分が傷付けばお姉ちゃんに危害が加わらないと思ってずっと我慢してたの!」

瑞香
 (なっ!?)

それは私にとって衝撃だった。
ユズはずっと良い子にしていたのは私のためだった。
私はそれがあまりにも驚きで、リビングに入るのに遅れた……しかし、それが良くなかった。

山吹父
 「く……! あの屑のためだと!?」

父さんが右手を上げる。
滅多に手を出さない父さんが柚香の頬を叩いた!

パチン!

柚香
 「うっ!?」

ユズはよろめいて、カウンターキッチンの縁に腰をぶつけた。
その姿に私は激昂するのには充分だった。

瑞香
 「ユズに何すんのさ!?」

柚香
 「お姉ちゃん!?」

私は松葉杖を不便に使いながら、父親に向かう。
そしてユズを庇うように立ち塞がると。

瑞香
 「アンタも地に落ちたものね! 大切な愛娘に手を出すなんて!」

山吹父
 「黙れ! お前なんて産むのではなかった! 産まなければ柚香は!」

父さんが拳を握る。
私に対してはグーパンか、本当に損する性格ね。
だけど私は抵抗はしない、出来ないというのが正しいが、妹を護るのが私の願いだ!

柚香
 「だめ……ダメェー!?」

その時だった。
私は妹の本当の気性を知らなかった事がこうも裏目に出るとは予想だにしなかった――。



***



姉さんが父さんに食ってかかる。
だけど激昂した父は、怪我人に容赦する気はなかった。
このままでは姉が危ない。
そう思った私は、悪魔に魂を売ってしまったのかもしれない。
丁度、頬を打たれた衝撃で、カウンターキッチンに背中をぶつけた私はその衝撃で腕輪を誤作動させてしまう。
突如PKMとして制御を外された私は、キラリと光ったそれを手元に転送していた。
それは包丁だった。
もはや考えている余裕は無く、お姉ちゃんを護るために私は父親に突撃した。

柚香
 「お姉ちゃんに、触れるな−!」

瑞香
 「ユズ!? だ、ダメ!?」

直後、お姉ちゃんが振り返った。
まるで父親を庇うように。
それはある未来予知と一致していた。
それは……私が姉を殺すという未来。
まるで……死神が収穫に来た、とでも言うように包丁を持った私は止まれなかった。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』

第12話 夢より残酷な現実

第13話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/12/03(金) 18:00 )