突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第10話 現実の世界



人類が未知の知的生命体PKMと遭遇したのは16年前の事だった。
しかし人類はPKMと共に歩を歩め、今日においてその隔たりはない。
母さんはPKMだし俺も戸籍上は人間だが、実際にはPKMだ。
幸い能力を暴発することもなかったし、容姿に不自然な部分も現れなかったからな。
そして妹は血は繋がっていないがクレセリアのPKMだ。


 「お兄ちゃん? どうしたの難しい顔して」

悠気
 「ん? いや、今日の昼飯何かなって」

俺たちはいつものように宵と一緒に通学路を歩いていた。
他愛のない会話に華を咲かせて、歩いていると徐々に人の数も増えてきた。


 「んふふ〜♪ ヒントはお兄ちゃんの好きな物♪」

学校に持っていく弁当は宵が作っていた。
母さんから料理をもう6年も学んでいるから、コイツはプロ並の技術を持っている。
代わりに俺はそんな妹に甘えて自堕落なものだけどな。


 「おはようございます悠気先輩、宵先輩!」

いつものように歩いていると、昔よく遊んだ廃寺がある。
その辺りを差し掛かると、後輩の女の子が挨拶をした。
特徴的なサーナイトのPKM、山吹柚香だ。


 「うん、おはよう柚香ちゃん♪」

悠気
 「おはよう」

料理部に所属するユズちゃんは、宵を尊敬している。
ユズちゃんと宵は早速会話に華を咲かせながら、俺は一歩退いた場所からそれを眺める。

悠気
 (……ユズちゃんは元気だが)

俺は彼女の姉のことを考えた。
山吹瑞香、妹とは違い人間の彼女は所謂不良だ。
と言っても顕著なほど素行が悪い訳じゃないが、家出状態にあった。


 「どうした悠気、難しい顔をして」

そこへ後ろから背の高い男が近づいてきた。
百代幸太郎、幼馴染みで柔道部に所属する肉体系だ。
いつものように物腰落ち着いており、特に悪い噂は聞かないきっての優等生だろう。

悠気
 「別に、他人の事をとやかく言うのは主義じゃない」

幸太郎
 「事なかれ主義か、お前らしい」

日和見野郎と言われれば、実際その通りだろう。
結局俺は瑞香の事を気にはしていても、どうかしようとは考えていない。
俺に出来るのは手に届く範囲を守る事だけだ。
宵なら俺だって、身を挺して守る。
だけど、それを他人までするのは御免だ。


 「あ、幸太郎さん、おはよう♪」

幸太郎
 「ああ、おはよう」

宵は幸太郎がいたことの気付くと、直ぐに笑顔で挨拶した。
うぅむ、宵のやつ幸太郎に気があったりしないよな?
幸太郎も宵に気があったり?

柚香
 「あの、悠気先輩……厳めしい顔をして、どうしたんですか?」

悠気
 「いや、なんでもない……」

どうやら知らぬ間に俺は顔を厳つくしていたらしい。
それを見たコウタは笑う。

幸太郎
 「ふ、ロリコン野郎め」


 「ロリコン?」

悠気
 「五月蠅ぇよタコ」

俺は罰が悪くなり、早足で通学路を歩いた。


 「あ、待ってよお兄ちゃん!」

宵は慌てて追いかけてきた。
俺は何も言わない。

幸太郎
 「……相変わらず仲の良いことだな」

柚香
 「……」



***



学校の前まで来ると生徒の数は一気に膨れ上がる。
俺は人混みをかき分け、校内に入るとそこで見知った顔を見つけた。

悠気
 「萌衣姉ちゃん!」

萌衣
 「あ、悠気♪ おはよう」

見つけたのは昔お隣に住んでいた高雄萌衣だ。
パチリスのPKMで背は低いが、陸上部で快速を誇るスプリンターだ。

悠気
 「おはよう萌衣姉ちゃん」

因みに当然だが、本物の姉弟ではない。
昔は宵と一緒に三人で遊んでおり、その名残で今でも姉ちゃんと付けてしまう。


 「もう待ってたら〜! あ、萌衣姉さん、おはようございます」

萌衣
 「うん、おはよう♪ 相変わらず可愛いんだから、もう!」


 「えへへ♪」

宵は基本的に誰相手でも社交的で仲が良いが、特に萌衣姉ちゃんと仲が良いよな。
まぁ仲が良いのは結構な事なので、俺は校内に向かう。



***



女子生徒
 「若葉君おはよう〜」

悠気
 「おはよう」

男子生徒
 「よぉ若葉〜、宵ちゃんの弁当ちょっとでいいから〜」

悠気
 「駄目だ」

俺は大して友達とも思っていない奴らと会話を交わしながら、教室に入る。
俺の後ろを歩く宵もさっきから次々と挨拶をされており、それに丁寧に返していた。

悠気
 「……」

俺は教室の窓側に座った少女を見た。
少女は朝の喧噪になんてまるで興味がないっていう風に窓の外を眺めている。
俺の席はそんな少女の目の前にある。


 「どうしたのお兄ちゃん?」

悠気
 「……いや、何でもない」


 「授業中に眠っちゃ駄目だからね?」

悠気
 「善処する」

俺は意を決して、自分の席に座ると、少女は目線を俺に向けた。

悠気
 「なんだ?」

少女
 「別に……」

この少女の名前は山吹瑞香、ユズちゃんの姉に当たる。
容姿こそ良く似ているが、こちらは妹とは違って人当たりが悪い。
世間一般では不良のレッテルが貼られている程だ。
だが、俺と瑞香は中学以来の付き合いがある。
昔のコイツは今より明るかったし、なにより不良と言われるような行動はしていなかった。

悠気
 (ユズちゃんも瑞香の事は何も口出ししなかった……つまりそういう事だろう)

ユズちゃんが何も文句を言わないなら、俺が口出し出来る問題じゃない。

キンコンカンコーン。

チャイムが鳴った。
それを聞きつけて慌てて教室に入る者、談笑を止めて席に着く者、皆急いでいると教師は入ってくる。

教師
 「ヤッホー! 元気かガキ共ー!」

担任教師はアリアドスのPKM、御影杏先生だ。
相変わらずちょっとエロいカッターシャツに美脚が目立つショートパンツ姿は思春期の男子を困らせる威力だ。
言動は少し問題があるが、生徒想いの良い先生だ。


 「そんじゃ、出席取るけど……大城は今日も駄目か〜」

大城琴音、このクラスの生徒だが、生まれつき身体も弱く、もう数ヶ月学校には来ていない。
最初は皆心配していたが、今では誰も心配していなかった。


 「まぁしょうが無い! それじゃ今日も一日張り切って行きましょうか!」

杏先生は出席確認を終えると、ホームルームは特に連絡も無く終わった。



***



授業は日々退屈なものだ。
特にこれと言って目新しい事もないし、ただ先生の話を聞いて、それをノートに写す。

悠気
 (ぬぅ……いかん)

それが訪れたのは早くも2時限目の事だった。

悠気
 (……眠い)

俺は瞼を擦るも、睡魔は徐々に蝕んできた。
遂には瞼が閉じてしまう。


 (はわわ〜! お兄ちゃんが〜!)

悠気
 (この……まま、では)


 (もう! お兄ちゃん! 起きて〜!)

睡魔は心地良く、全てを遠ざけた。
眠ってはいけないという自制心は働くものの、それがどうしたと言わんばかりだ。
すまないな、宵……。

だが、直後。

ガタン!

悠気
 「っ!?」

教師
 「ん……どうした若葉?」

悠気
 「い、いえ……」

突然椅子が大きく縦揺れした。
何が起きたか分からず周囲を伺うと、頭に手を当て何かを念じている宵がいた。
宵は目線に気が付くと、顔を真っ赤にして黒板に向き直った。

悠気
 (まさか?)

俺はそっと後ろを振り返った。

瑞香
 「なによ?」

悠気
 「いや……なんでもない」

俺は直ぐに正面を向いた。
まさか瑞香が気を利かせたのか?

悠気
 (瑞香の奴……無関心でもないのか?)

所詮他人の俺では分からない事が多い。
瑞香は昔から自分の事はあまり話したがらなかったし、高校に入る頃から特に周りを遠ざけるのが顕著になった。

悠気
 (イチイチ考えても無駄か……少しは真面目に授業を受けんとな)

俺は宵に釘を刺されていた事もあり、真面目に授業に向き合う。
とはいえ、元が出来の良い兄ではないからな……結局最後は出来の良い妹に甘えるんだろうが。



***



キンコンカンコーン。


 「おーし、今日はここまで!」

4時間目の授業が終了すると、昼休憩だ。
生徒達は学食に行く者、外で弁当を広げる者、実に様々だ。
俺はと言うと宵が弁当箱を持ってくるのを待っている。


 「お兄ちゃん、はい」

俺は自分の席で顎に手を当てながら待っていると、宵は早速二つ弁当箱を持ってくる。
俺は宵の物より一回り大きな弁当箱を受け取ると、宵は近くの椅子を借りた。

悠気
 「今日はどんな弁当だ?」

俺は弁当箱を開けると、そこには宵らしい色鮮やかな食材が並んでいた。


 「ふふ、お兄ちゃんに気に入って貰えると嬉しいんだけど♪」

俺は早速弁当を食べる。
先ずは白ご飯、上に黒ごまを散らしたシンプルな物だ。
次に唐揚げを一つ口に入れる。
食べやすいように小さめに作った唐揚げは醤油だしが染みて美味い。

悠気
 「相変わらず美味いな」


 「うふふ♪ 愛情込めてるからね♪」

俺はこの二人で食べる時間が至福の時だった。
こんな出来の良い妹がいたら、そりゃ堕落してしまうというもの。
しかし、当然それを快く思わない者もいる訳で。

男子高校生
 「くそぅ! 見せつけやがって!」


 「?」

悠気
 「放っておけ」


 「うん……なんだろうね?」

男の嫉妬はまだ宵には早いらしい。
宵は兄から見ても美人で気立てがよく、更に家庭的だ。
性格まで温和で、あまり感情を表さないし、男子人気はかなり高い。
当然近寄る男も数知れずだが、お兄ちゃんは半端な男は許さんぞ?


 「あ、それよりお兄ちゃん、授業中眠ろうとしたでしょ!?」

悠気
 「結果的には、ちゃんと起きてたろう」

随分今更なことをいきなり言及してきたな。
宵は頬を膨らませ顔を赤くして怒るが、その顔は見慣れているのもあってあんまり怖くない。
しかも宵はコロコロ表情を変えて、直ぐに心配そうな顔をするんだから、忙しい奴だ。


 「私、なんとか起こせないかずっと起きろ〜って念じてたんだから!」

悠気
 「ああ、それで変なポーズを」

確か両手を頭に当てていたっけ。
つか、こいつエスパータイプなんだから、しれっと腕輪の機能をオフにすれば良いだけじゃないか?
……まぁ、そういう発想に至らないのが宵らしさなのかも知れないが。

悠気
 (そう言えば、あの時なんで瑞香は……)

俺は眠りそうになった俺を無理矢理起こした女の事を考えた。
瑞香からすれば無視しても良かったはず。
俺の知っているアイツと俺の知らないアイツ……俺はなんで気にしているんだろう?

悠気
 「……」


 「お兄ちゃん?」

俺は後ろを振り返る。
しかし既にそこには瑞香の姿はない。

悠気
 「いや、なんでもない」

俺は直ぐに宵の方を向いた。

悠気
 (……馬鹿らしい、宵だけで精一杯なんだよ、俺は)

それでも俺は、山吹瑞香、その女の事を忘れられそうにはなかった。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第10話 現実の世界

第11話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/11/19(金) 21:35 )