突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第9話 夢の終わり



私はタイムパラドックスの産物だ。
過去から未来にかけて存在するの月代宵とリンクした私は思う。
何故悠気は私をもっと自分にとって都合の良い存在に改変しなかったのだろう?
悠気の求めるオリジナル、月代宵を夢の中に再現することを求めたが、悠気には完全再現は出来なかった。

最初のバグであり、そして特異点になった私月代宵は、僅か1年しか生きられない短命な存在だ。
それでも私は悠気に創ってもらえて嬉しかった。
私にはオリジナルの持つ感情は到底理解できなかったけど、悠気が好きだって感情はきっと共通すると思う。

HOPE49
 『……タイムトンネル安定、それ程長くは存在を維持できないぞ』

HOPE49の姿は見えないけれど、声は時間と空間さえも越えて、私に届いた。
今私はタイムスケールを過去に遡っている。
HOPE49が私の核を触媒にすることで、魔術の極みに達する術を起動させた。
光すらも置き去りになる速度、ブラックホールをもってしても留めることは出来ないだろう。
そしてその超重力力場を1周すると、物理学ではタイムスリップ出来るというらしい。

ただ、夢は現実には至らない。
まして私は現実には存在しない。
それが無理矢理、夢の世界から抜けだそうとすれば、どうなるのか?



***



10年前……。
時刻は夜だった。
その時街は死んでいた。
遠くを見れば火の手が上がっている。
歴史には残らなかった魔術師たちの戦い。
そこに若葉討希はいたらしい。


 (成功……?)

私は周囲を伺った。
身体は空の上にある。
座標がズレていた。


 (……速くしないと存在が……!)

私は自分の状態を確認すると、身体から光りが溢れて消えていった。
当然、私は現実に存在してはならない。
タイムパラドックスの原罪そのものなんだろう。
それでも……私は決めたのだ!


 「悠気!」

私はある場所に向けて飛翔する。
ある廃寺、私にとっては始まりの場所、そしてそれは悲劇の場所。



***



当時5歳の悠気は境内に不安そうに座っていた。
その隣には月の羽を優しく明滅させた少女がギュッと悠気の手を掴んでいた。
かつて討希と育美が出会った場所、そこには今も神はいないのだろうか?

魔術師
 「ちぃ……冗談じゃないよ! ヨハネの奴何を考えている!?」

それは女の魔術師だった。
敗走でもした後なのか、焦燥した様子で境内に侵入してしまう。
それが悲劇の入口だったのだ。

オリジナル宵
 「ひっ!?」

オリジナルは魔術師を見て、悲鳴を上げた。
それを見た魔術師は舌打ちする。

魔術師
 「くそ! ガキか……PKM?」

魔術師はオリジナルを見た。
人あらざる光の羽はまるで天使の羽のようにも見えなくない。
だが魔術師にはそれは憎悪の象徴だった。

魔術師
 「ち……! 化け物がうじゃうじゃと!」

魔術師は魔力を溜め込んだ。

悠気
 「止めろ!」

悠気は魔術師に立ち向かう。
如何にアルセウスの子と言えど、覚醒前の子供が大人の魔術師に敵う訳もなく、足蹴にされた。

魔術師
 「邪魔だよガキ! お前は人質になる! だがPKMは殺す!」

魔術師はPKMを憎む。
かつて魔術師は人外の力で世界を裏方から支配していた。
しかし今や魔術師はPKMに駆逐されている。
PKMはその人外の力を持って人類の上位存在として君臨する事を魔術師達は恐怖した。
今更セフィロトの上位存在なぞ誰も求めていないのだ。

魔術師
 「PKM! 天使のつもりか!? 目障りなんだよ!」

オリジナル宵
 「ヒゥ!?」

オリジナルは臆病だった。
ただ頭を抱えて、嫌なことから目を背け、嫌な声を聞きたくなくて耳も塞ぐ。
今、殺意を乗せた魔術は力となって放たれようとした……その時!


 「ムーンフォース!」

それは夜空を切り裂く月の光だった。



***




 (あれが悠気、そしてオリジナル……!)

私は空から境内を俯瞰した。
悠気は地面に倒れているが、命に別状はないはずだ。
それは歴史が証明しているし、問題はオリジナルの方。
悠気が救えず絶望した少女がそこにいる。

魔術師
 「増援だと!?」

魔術師は私の出現に驚愕した。
不気味なほど静かな街はまるで眠っているかのようだ。
私は活動している気配をエスパーの力で知覚しているが、その数はそれ程多くない。


 「その子はやらせない!」

私はオリジナルの前に降り立った。
オリジナルはそっと涙目で顔を見上げると、呟いた。

オリジナル宵
 「お母さん?」


 「……アンタ絶対守るから」

オリジナルは私をお母さんだと思ったらしい。
私は母の記憶がない。
多分悠気が正確な両親の記憶を持っていなかったから創れなかったんじゃないかと思ってる。
でも、それは別にどうでもいい……どうせもうすぐ無意味になるんだから。

魔術師
 「お前……何者だ?」


 「正義の味方」

私は魔術師の女を睨みつけた。
魔術師の女は私を憎悪の対象にしている。
それほどPKMが気にくわないのか。
私は特段魔術師に恨みはないが、この二人に危害を加えるなら許さない!


 「オリジナル……悠気を絶対離しちゃ駄目よ?」

オリジナル宵
 「……え?」


 「ま、言っても分からないわよね……!」

私は羽の推力を使い、魔術師に体当たりする。
突然の事に、魔術師は怯んだ。

魔術師
 「こんなの聞いてない!? ヨハネの奴はここに迎えとしか!?」

相手は相当戸惑っていた。
一方で私も苦虫を噛む思いだ。
身体は徐々に力を失いつつあり、そして存在が曖昧になっていく。


 「ごちゃごちゃと……!」

私はムーンフォースを放った。
ただし今度は真上に。

魔術師
 「なっ!? なぜ外した!?」

私はニヤリと笑う。
未来でも変わらない気配の持ち主が接近しているからだ。

悠気
 「うう……お姉ちゃんだれ?」


 「悠気……もう安心して良いんだからね?」

私は悠気にニコッと笑った。
悠気もまさか、10年後に私を創るとは夢にも思わないだろう。
でも……それでいい。

魔術師
 「なに……半透明に……?」


 「バトンタッチよ……」

私はついに……光の塵になった――。



直後、境内に突入したのはアルセウスこと、若葉育美だった。

育美
 「悠気! 宵ちゃん!?」

魔術師は絶望した。
その女の持つ圧倒的存在格の差に。

悠気
 (あのお姉さん……どうしてだろう、知っている気がした)

悠気はぼんやりとあの光になって消えた存在を考えた。
とても神々しく、そして暖かい……でも何故か悲しかった。
悠気はポッカリと胸の中から大切な物が消えた気がした。
そしてそれがどうしても怖くて悠気は傍らで泣く、宵を見た。

悠気
 (分からない……けど、怖いよ、宵、宵だけは絶対に護らない、と)

悠気はそう言うと泣きじゃくる宵の手を優しく握りしめた。
宵はビクンと肩を震わせると、目の焦点を震わせながら悠気を見た。
今ここに、あり得なかった命が残った。
宵は泣きながら悠気に抱きつくのだった。



***



歴史改変の代償はどれ程だろうか?
月代宵達は、恐らくその結末に気付いていた事だろう。
だが、誰一人それに反対はしなかった。
私は薄れゆく意識の中で満足そうに笑っていた。

HOPE49
 『ありがとう……』


 「……」

私は何も答えられなかった。
タイムパラドックスの代償はすでに出ている。
やがて、HOPE49の気配は消えた。
この結末をHOPE49は理解していただろう、お互い納得の上での選択なのだ。

オリジナルが生き残った結果、この世界はもう価値がない。
つまり夢は終わりを告げたという事だ。
後は静かに……誰に知られる事も無く、消滅する……だけだ。

満足よね?
私は自分に聞いた。
核が徐々に機能を失いつつあり、今や指一つ動かせない。
それでも私には不安も怖れもない。
悠気が夢から目覚めたのは、私にとっても喜ばしいことなんだ。

核は鼓動する。
悠気が産み出した17枚のプレートと現実改変魔術を内包した擬似魂魄。
夢の世界にあって唯一、現実にも存在できる概念。
魔術師が一度取り扱えば、歴史改変すら成し遂げた。
でもそれももう終わりだろうか……。
私という概念は消滅していっている。
やがて、虚無の中に核だけが残るのだろうか――。



***



かつて街に不可思議な事件があった。
それは魔術師たちが起こした小さな戦争であった。
あれから10年後……誰もがその記憶を忘れていった頃。


 「お兄ちゃん、起きてお兄ちゃん!」

悠気
 「……ん?」

いつも通りの朝。
俺は変な夢を見ていた気がする。
俺はゆっくり目を開くと、そこにはピンク色の光輪の羽を持つ大人しげな少女がいた。
月の光のような綺麗な髪を腰まで伸ばし、制服の上からエプロンを着ている。
俺はぼんやりした意識の中で、ふとある言葉を呟いた。

悠気
 「月代?」


 「懐かしいね、でも今は若葉だよ、寝ぼすけお兄ちゃん?」

そうだった、10年前両親を失った月代は若葉家で引き取り、養子になったんだ。
月代は旧姓、今は若葉宵だった。
俺はゆっくりと起きあがると、欠伸をしながら頭を掻いた。
制服の上からエプロンをつけた宵は、温和な微笑みを浮かべながら。


 「朝ご飯出来てるんだからね、このままじゃ学校に遅刻しちゃうよ?」

宵はそう言って部屋を出て行った。
俺はふと、窓を見た。
窓の外は空き地だ、今は買い手を捜している状態だ。

悠気
 「なんでアイツの事を月代って呼んだんだ?」

俺はゆっくりと意識を正常に戻していく。
まるで何年も夢を見ていたような気分で、徐々に現実を理解していく。

悠気
 「妹にドヤされる前に着替えねば」

妹、と言っても宵は俺と同い年だ。
ただ、いつ頃か宵が俺をお兄ちゃんと呼ぶようになってからは、これが普通になっていた。

悠気
 「よし! これで準備良し!」

俺は制服に着替えると、部屋を出た。
部屋の向かいには可愛らしい三日月のプレートに宵と描かれた部屋がある。
だが、俺は脳裏に『みなも』という質素なネームプレートが映っていた。

悠気
 (みなもさん……? 一体誰だ?)

俺は首を捻ったが、何が何だか分からない。
やがて1階に降りると、宵はいた。


 「おはようお兄ちゃん♪」

悠気
 「ああ、おはよう……母さんは?」


 「朝早く出て行ったけど……」

俺達の母親若葉育美はいないのか。
俺は朝飯の並べられたテーブルの前に座ると、宵を見た。

悠気
 「……」


 「どうしたの? お兄ちゃん?」

悠気
 「いや、美人になったなって」

俺がじっと宵を見ていると宵は視線に気が付いた。
とりあえず適当におだてると、宵は顔を紅くして俺の後頭部を叩いた。


 「もう! お兄ちゃんのエッチ♪」

悠気
 「そう言って嬉しそうにするんじゃない」

宵はどちらかというと嬉しかったようで、腰をくねくねさせた。
宵が美人になったって言うのは本音だ。
淡い月の光のような髪が腰まで伸びており、スタイルも高校生にしてはかなり良い。
おまけに料理も得意で、はっきり言って出来過ぎた妹だ。
だが、逆にそれがなぜか俺には疑問だった。
その過程をずっと見てきたのだから、当然なのだが……なぜ俺は正反対の宵をイメージしてしまったのだろう?


 「先に食べちゃおうか?」

悠気
 「そうだな」

そう言って俺たちは、簡素に並べられた朝食を二人で食べるのだった。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第9話 夢の終わり 完

第10話に続く。

KaZuKiNa ( 2021/11/13(土) 13:43 )