突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第6話 ループ世界の真実




 「悠気〜……あれ?」

頭痛の後、私は直ぐに部屋に戻った。
部屋の目の前には悠気の部屋があるし、基本的に悠気は部屋にいることが多い。
だけど、カーテンは開いているのに、悠気の部屋は嫌に殺風景に様変わりしていた。


 「えっ? 部屋替えでもしたの?」

分からないが、そこが悠気の部屋とは思えない。
やがて、ガチャリと部屋の扉が開かれると、そこにいたのはメイド服姿のみなもさんだった。

みなも
 「声がすると思ったら……月代様か」


 「み、みなもさん!? この部屋どうなってんの!?」

私はもぬけの殻と化した悠気の部屋を指差すと、みなもさんは眉を顰めた。

みなも
 「どうしたって……普通じゃないか?」


 「は……?」

なにを言っているんだ……?
みなもさんは、少なくとも冗談を言う人には思えない。
だけど、これは悪ふざけが過ぎる!


 「悠気の荷物、どこにやったんですか!?」

私は怒気を高め、そう言った。
しかしみなもさんは首を傾げると、あり得ない事を言い出した。

みなも
 「誰だそいつは? 冗談に付き合っている暇は無い」

みなもさんはそう言うと部屋を出る。
私は慌てて手を伸ばすが遅かった。


 「待っ……! 冗談って……そっちこそ冗談でしょ?」

悠気が消えた。
いや、違う……存在が抹消されている。


 「ま、さか……私の性、なの……?」

私は余りの絶望感に立っている事が出来なかった。
悠気の気配が消えて、何故かみなもさんが悠気の事を忘れていた。


 「そ、そうだ! 育美さんなら!」

私は携帯端末から育美さんに電話を送る。
コールが鳴る中、私は心拍音を高めていた。
もし、育美さんすら忘れていたら……その恐怖が私の呼吸を荒くする。

育美
 『は〜い♪ もしもし〜?』


 「あっ! 育美さん!?」

電話から聞き慣れた声が帰ってきた。
いつもの惚けたような喋り方、間違いなく育美さんだ!

育美
 『宵ちゃんどうしたの〜? なにか困りごとかしら?』


 「悠気が……若葉悠気がいないんです!」

その言葉を発するのが恐かった。
それでも私は真実を知らなければならない。
例え地獄が待っていても……。

育美
 『若葉悠気……? 知らない名前ね?』


 「……っ!? 貴方の息子ですよ?」

育美
 『息子? 私、子供は欲しいと思っているけど、まだいないわよ〜? 宵ちゃん、夢でも見たんじゃない?』


 「ゆ、め……?」

育美さんは嘘をついているようには思えなかった。
同時になんだか恐ろしい現実を突きつけられている気がする。
もしも……もしもだ?
私が今見ている物が現実だと、どうすれば証明できる?
2周目なんて初めから無くて、実はずっと夢を見ていたら?

育美
 『宵ちゃん? おーい?』


 「はは、あはは……」

育美
 『よ……ブツン!』

私は通話を終わらせると、バタンとその場に倒れた。
乾いた笑いしか出てこない。
夢……そうか、夢か。


 「でも、どっちが夢……?」

悠気が消えた今が現実で、楽しく過ごした時が夢?
それとも今こそが夢なの?
ははは……人知れず私は笑ってしまう。
分かる……分かってる。
どうせこっちが現実なんでしょ?


 「一体なんなんだこのクソゲーはぁ!?」

私は心の底から叫んだ。
私が何をしたって言うんだ?
どうして悠気が消えなくちゃならないんだ。
今度はなにが起きる?
もう嫌だ……もう耐えられない。
これなら死んだ方がマシじゃないか?
この世界はクソゲーだ。
理不尽で無慈悲で意味不明。

私はベッドに横たわりながら天井を見た。
天井にあった染みがまるで笑った顔のように見える。
私はただ不快感を覚え、ゆっくりと目を閉じた。
もう何も知りたくない、これ以上訳の分からない事態は御免だ。
そうやって、全てを忘れるよう……ゆっくりと眠りにつく。



***



現実は非情だ。
心が疲弊しても、肉は渇きを訴えるように私は目を覚ました。
時刻は真夜中、ベッドで大の字になって眠っていた私はゆっくりと上体を持ち上げる。


 「悠気……」

悠気の部屋は何もなかった。
この世界は無慈悲なままだ。
やっぱり現実なのか、現状は何も変わっていない。


 「……はぁ」

出てきたのは溜息だけだった。
私はベットから起き上がると、空を見上げる。
窓からは三日月が部屋を照らしていた。


 「優しい光ね……そうだ」

私は窓を開けると、腕輪を外して空に飛び立った。
空には優しい風が吹いている。
そして上を見上げれば、三日月は優しく私を照らしていた。
私は三日月ポケモン、この優しい光の心地が気持ちいい。


 (こんな訳の分からない世界でも月は変わらないのかな?)

世界を等しく照らす月はとても美しい。
私はそのまま、空を自由に飛行して、遊覧を楽しんだ。
本当はPKMの飛行は禁止されているんだけど、今の私には関係なかった。
もうこの世界がどうなろうと、私にはどうでもよくなってしまった。
悠気まで消えて、無力な私に何が出来るというのか。
いっそ悠気のように、この世界から消え去りたい。
そういう思いにまで囚われてしまう。


 (悠気……なんで消えたのよぉ……!)

悠気が消えた理由、それが私には分からない。
この世界は謎だらけで、ただ只管私を翻弄する。
一体私ってなんの意味があるんだろう?
誰のためにもならない私に一体なんの価値がある?
唯一の支えであった悠気さえ失った私には、もうこの月の光位しか、私を優しく迎えてはくれないのだろうか?


 「月……飛んで、もっと飛んで!」

私は羽に指令を届ける。
羽は光の粒子を撒き散らしながら、反重力で推進する。
あらゆるポケモンで見ても特異な推進方法を扱う私は、最高速はないが、上下左右に音もなく飛び回れる。
やがて、地上の世界がゆっくりと闇に包まれていく。
雲より高く飛べば、下は地上の星だ。
都市の光が幻想的にちりばめられ、全天の星とは違う美しさが地上の星々にはある。
そこは大地と空の狭間に思えた。


 (幻想的ね……このまま空に上がって行けば、私はどうなるのかしら?)

原種のクレセリアなら宇宙まで飛翔出来るかも知れない。
三日月の羽は宇宙空間でこそもっとも力を発揮する推進装置だ。
だがPKMである私は人間だ。
その気圧に耐えられるか?
宇宙線に耐えられるだろうか?
三日月の羽は指令を送り続ける限り、無限に推力を得る。
段々と、空気が薄く寒くなっていくのを感じながらも、私は飛ぶのを止めなかった。
もう並の鳥ポケモンではたどり着けない高度に達している。


 (い、しき、が……)

朦朧とする。
ただ苦しさより安らぎを覚えた。
私は例え意識を失っても飛翔できる。
やがて、月にさえも肉体はたどり着き、私は滅び去るのだろうか。
でもそれで良かった。
月に抱かれて死ねるなら希望があるし、悠気を失った苦痛よりマシだ。


 (ごめ、んね……)

誰に謝った?
それは私自身分からなかった。
ただ心の中で誰かに謝っている。
懺悔したい事なんてあったかな?
強いて言えば、お父さんとお母さんになんだろうけど、その記憶すらないし。

思えば、どうして私って存在しているのだろう?
お父さんもお母さんも知らない私は異常の塊じゃないか。
そう、私にあるのは1年分の記憶だけ。
当たり前の思い出が私にはないのだ。


 (……あれ?)

やがて、もう肉体的には死んでいても不思議ではないのに、不思議とまだ意識のある自分に気が付いた。
じっと死を待つ私は目を閉じて、だけど気が付けば何も感じなくなった。


 「ここは……」


 「未設定領域」

私が目を開けて、見た物は真っ暗な空間だった。
そして謎の男性の声が闇に響いた。


 (なによここ!? 重力がない? なのに立っていられる?)

そこは不自然な空間だった。
ある意味でどの方角にも重力が働いているかのような感覚。
だけど三日月の羽は重力を捉えられない。


 「誰なの? 未設定領域って?」


 「この世界の真理」


 「は?」

どっちに対する解答だろう?
声は男の声だが、検討はつかない。
ただ、思い付いたのは。


 「貴方が観測者?」

私は緊張していた。
もしも予想が当たりなら、意図が不明なのだ。
もし敵対するような相手ならかなり危険かもしれない。
思わずその緊張で喉を鳴らすと、声は笑った。


 「くくく……緊張が見て取れるな。安心しろ、敵ではない」


 「え?」


 「観測者かという解答だが、一応YESだ」

やっぱり観測者!
でもそれならなぜ顔を見せない?
敵じゃないなら、顔を見られたくない理由があるの?
少なくとも気は置けない相手だ。


 「ど、どうして観測するの?」


 「ふ、辛うじて及第点という感じだな」


 「あのっ! 気分悪いんですけど!? 貴方誰なの!? ちょっとはこっちが分かる言葉で喋ってよ!?」


 「ふ、我を出したか……腹芸は存外苦手らしいな。俺はHope49」


 「はい? ホープさん?」

暗号かなにかだろうか?
少なくとも人の名前には思えないんだけど……。


 「あ!? まさかコードネーム!?」


 「くくく」

鼻で笑われた気がする。
うぅ……私の浅はかさが露呈していくよぉ。

Hope49
 「俺はずっと求めていた……アイツを救える個体を」


 「アイツ?」

Hope49
 「この世界の矛盾には気が付いているな?」


 「矛盾? 2周目とかまずそれがおかしいんですけど」

このHope49さん、割と自分勝手だね。
次々訳の分からない事、喋りだして人を混乱させる。
少しは私と読者に優しい説明をお願いします!

Hope49
 「この世界の寿命はたった1年だ、本来なら12月25日に全て終わっていた……だが、世界にダミーデータが混じった事でバグが発生した」


 「バグ? ダミーデータって……」

Hope49
 「世界線がループしたのはその性だ、本来の月代宵はリセットされる筈だった……だがバグの影響で経験値を持ち越すことに成功した……」


 「経験値の持ち越し?」

この男の言は意味不明だ。
まるでゲーム世界かなにかのようじゃないの。
バグが発生して強くてニューゲームが発生した?
正常ではないプロセス、それが悠気を消したの?


 「教えて! 悠気が消えたのもそのバグの性!?」


 「そうだ……そしてこの世界の真実に気付いてしまった」

悠気がこの世界の真実に気が付いた!?
それが理由で消える……消されたのではなく消えたの!?


 「お、教えて……本当は恐いんだけど、この世界の真実を……っ!」

私は震えていた。
真実を知った私は正常でいられるだろうか?
もしかして悠気のように消えるんじゃないだろうか?
でも……それでもこんなクソッタレな世界はどうにかしたい。


 「確認したい、お前は何があっても若葉悠気を信じられるか?」


 「悠気を? 当たり前じゃない!」

なぜここで悠気が関わるのだろう。
それこそが嫌な予感の正体にも思えるけど、それでも私にとって悠気は全てだから。


 「教えなさい!」

Hope49
 「……この世界は悠気が創ったんだ」


 「……え?」

悠気が創ったんだ?
どういうこと? ここが創られた世界?


 「っ!? まさか……!?」

この世界には矛盾があると言った。
それは私自身だ。
でもその矛盾の意味って?

Hope49
 「気付いたか、月代宵……お前は悠気に創られた感傷に浸るだけの個体なんだよ、それも10番目のナンバー」


 「私が1年しか記憶がないのって……」

Hope49
 「アイツがお前を創る際に不必要だから省いたのさ」

なんてことだ……私は記憶喪失なんかじゃない、初めから記憶なんて持ってなかった。


 「お、教えてください……なぜ私を創る必要があったんですか?」

分からない事だった。
悠気が神だとして、その意図はなに?
悠気は私にずっと親身に付き合ってくれた。
お互いが好きになったのも、これは創られたストーリーに過ぎないの?

Hope49
 「切欠は10年前だ……悠気には友達が二人いた」


 「二人……ですか?」

Hope49
 「一人は君も知っているだろう、高雄萌衣だ、あの子は悠気やもう一人のお姉ちゃんとしてとてもよくしてくれていた」


 「あ、の……もう、一人は?」

Hope49
 「月代宵だ」


 「っ!?」

ある程度予想はしていた。
でも本当であった事に愕然とする。
やっぱり私のオリジナルは存在する。

Hope49
 「月代宵は悠気にとても懐いていた、いつも背中を追いかけて、二人はとても仲が良かった……だが」

Hope49さんの声色が澱んだ。
それはHope49さんにも厳しい記憶なんだろうか?
私は息を呑み、不安な身体を両手で押さえつけながら待った。

Hope49
 「……月代宵は死んだ、全ては俺の責任だった。ある魔術師と戦っていた俺では月代宵までは護れなかった……」

それは後悔の念だった。
Hope49さんはきっと懺悔するほど、その記憶を辛いものと思っているんだろう。
私にとっては予想できる事だったけど、やっぱりそれが今の私に繋がったんだ。

Hope49
 「悠気は君を失った事で、大きく絶望し……そして自分が感傷するだけの世界を創り出すことにした」


 「あの、ちょっと待ってください? 創ったって簡単に言いますけど、ゲームじゃないんだから、そんな簡単には無理でしょ?」

Hope49
 「くくくく……ある意味魔術とプログラムコードは表裏一体、それに加え悠気は母親から受け継いだアルセウスの力があった」


 「アルセウス!? ……て、なにそれ食べられるの?」

Hope49さん、ずっこけただろうか?
生憎私はポケモンにそんなに詳しくないし、アルセウスってなんなのさ?

Hope49
 「アルセウスは創造の神と言われるポケモンだ、命を産み出すことさえ可能だが、世界を一から定義するには不十分だった……だからアイツは俺から受け継いだ魔力を使った」


 「待って! 貴方から受け継いだ?」

それじゃこの人は……!?

Hope49
 「アイツは俺とは比べものにならない魔力を持っている、だからこの規模での現実改変を可能にした! 俺の弱い魔力ではブランクデータとしてこの未設定領域に潜むことしか出来なかった!」

Hope49……この人は若葉討希さんだ。
なぜか見たこともないのに、記憶の片隅にこの人が映る。
それはオリジナルの記憶だろうか?

Hope49
 「アイツは現実改変魔術を完全には使いこなしてはいない、だからそこにダミデータが入る隙間が出来た」

ダミーデータ、もしかしてレヒレの霧?
きっとあの時見たのがオリジナルなんだ。
アレがダミーデータとして機能したんだろう。
実際なにか違和感を感じるようになったのもアレからだった。
今では違和感の方が多くて、逆に正常な方が少ないけど。


 「悠気は……現実の悠気も私を見ているんですか?」

Hope49
 「いや、悠気は現実の記憶をこちらには持ち込んでいない、こちらは悠気にとっては夢を見るようなものだ」

それが悠気の感傷?
なぜ魔術とアルセウスの力を用いてまで、こんな不完全な世界を産み出すのか?

Hope49
 「現実の悠気は誰にも関心を抱かない、全て無感情だ……ただ1年毎に君を更新して、未来永劫記憶に浸り続ける……」


 「それは、オリジナルが死んだ性で?」

私自身にオリジンがいたことは衝撃的だったが、それが原因で益々病んでいるのなら悠気は相当深刻なんだろう。


 「私は何をすればいいんでしょうか?」

Hope49
 「……この世界には必ずデータの更新が必要な瞬間がある。その瞬間を利用すれば、創造主である悠気の元にたどり着けるだろう……その後は君次第だ」


 「……私次第ですか」

Hope49
 「俺も育美も、誰にも悠気の心は救えなかった……やはり可能性があるのは、君しかいない」

責任重大だった。
それだけじゃない、討希さんはずっと息子を心配している。
悠気はお父さんの事を家庭を顧みない最低の父親って言うけど、きっと言えない事情があるんだ。


 「私の声……悠気に届きますかね?」

Hope49
 「分からない……だが、出来るまで何周でもするしかない」

何周でもするしかない……それが現実か。
悠気はそうやって楽しい時間の中にだけ浸って、現実を棄てたのか。
悠気にとってそれだけオリジナルの月代宵は大切な存在だったのだろう。
だから何体も創っては、一通り楽しんで廃棄を繰り返したのだろう。
時が経つにつれて、多分私はオリジナルから乖離を始めている。
悠気は私の全てを知らない。
だから私は空虚で空っぽで、そこに1年分の経験値を溜め込んだ。
本来なら無意味に棄てられる筈だったけど、Hope49さんが拾ってくれたのだろう。


 「……やります! 私はオリジナルの気持ちまでは分からないですけど、悠気が大切って気持ちならオリジナルにも絶対負けませんから!」

Hope49
 「……それを信じよう。ではタイムスケールを弄くるぞ」

この世界はデバッグルームなのだろうか?
Hope49さんは祝詞のような言葉を呟くと、闇が明滅した。

Hope49
 「頼むぞ……月代宵!」

その瞬間……世界線はオーバーラップした。



The new world order……。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第6話 ループ世界の真実 完

第7話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/10/22(金) 20:39 )