突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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第2部 突然始まるポケモン娘と夢を見る物語
第3話 強くてニューゲーム



朝、目覚めはいつも通りだった。
私はゆっくりとベッドから起き上がる。
窓の向こうを見ると、悠気はまだ寝てるのかな?


 「ん……朝ご飯作ろう」

私はそう思い、「んっ」と背筋を伸ばして、部屋を出る。
しかし階段を下ってキッチンまで辿り着いた時、致命的ミスを思い出す。


 「……だから食材ないって」

もはや冷蔵庫の中身も見ずに項垂れてしまう。


 「うぅ……かくなる上は!」

私は冷蔵庫の冷凍庫から氷を取り出そうとする!
しかし庫内のドアを開くと、なにか保存パックが入っていた。


 「あれ? これって?」

私はその保存パックを取り出すと、中には昨日の余りの肉じゃがが入っていた。
そして更にパックの上部には張り紙があった。

『もしお腹空いたら何時でも来てね♪ 育美』

それは育美さんの計らいだった。
私はパックを手に震えて涙した。


 「ありがてぇ……ありがてぇ……!」

私は最後の手段として氷に手を出そうとしていた。
だが、この事態を見越していた育美さんは既に手を打ってくれたらしい。
これはもう、二度と育美さんに粗相は出来ないな。
私も育美さんのような完璧な女性に早くなりたいわ。


 「ん……やっぱりおいしい♪」

私はパックを開き、冷たい状態で食べる。
冷めてても美味しい、流石育美さん、悠気の師匠だ。



***



身嗜みを整えて、最初の授業に必要な物を揃えると私は家を出た。
本来なら少しおかしいけど、今の私には馴染んだ時間。
玄関の鍵を閉めていると、隣の若葉家の玄関が開いた。

悠気
 「それじゃ……母さん行ってきます」

悠気だった。
いつも通り、ほぼ同じ時間に家を出るからタイミングは覚えやすい。
玄関を出ると、悠気は私に気が付いた。


 「おはよう悠気♪」

私は和やかに微笑んで挨拶する。
悠気は若干顔を紅くすると。

悠気
 「おはよ、宵……いや、月代」


 「別に宵でいいよ?」

悠気
 「……いや、母さんに言われたからって中々変えられない物がある」

変な拘り、そう思うが悠気には重要なのかも知れない。
でも知っている、悠気は最後には私のことを宵って呼んでくれた。
悠気が私のことを好きって言ってくれた。
それを思い出すと、私も少しだけ紅くなってしまう。


 「えへへ〜♪」

悠気
 「なんだ突然にやけ笑いして……あ、そうだ」

悠気は何かを思い出すと、バッグから見覚えのある弁当箱を私に差し出してきた。
それは何度も使った私のためのお弁当箱だ。


 「もしかして悠気が!?」

この時間軸ではまだ、悠気が私にお弁当を作ってくれる動機はない。
それでもその弁当箱は間違いなく私が1年間使ってきたものだ。

悠気
 「そんな訳あるか! 母さんがお前にってさ」


 「そうなんだ〜」

私はそれを受け取って少しガッカリする。
育美さんの方が料理の腕はハッキリ言って上だけど、悠気は私だけのために作ってくれるから嬉しいんだよねぇ〜。

悠気
 「さっさと行くぞ」


 「あ……う、うん」

私は少しだけ戸惑ってしまう。
勿論学校に行くのが嫌とかっていう訳ではないけど。

悠気
 「どうした?」


 「私本来の歴史だったら、少し遅れるから」

悠気
 「そうか……分かった、遅刻するなよ?」

悠気は理由に納得してくれると先に行ってくれた。
私は悠気の姿が見えなくなると、歩み出す。


 (昨日の今日で瑞香にどんな顔見せればいいか分かんないよ……)

本当の理由はそれだった。
やがて周囲には同じように学生の姿が増えていく。
私はそんな中に紛れながら、学校に向かうのだった。



***




 「よーし、ガキ共ー! 席替えするわよ〜!」

次の日、私の記憶通り席替えが行われた。
私は悠気に言われた警告を脳裏に浮かべながら、現状を考える。


 (今の所私自身なにか変ってことはないけど)

時空改変や歴史修正……難しい事は分からないけど、なにかが致命的に変わってしまう恐れがある。


 「次、月代さんね」


 「あ、はい」

席替えは杏先生が用意したクジを引いて行う。
私はあまりそちらには注視していなかったが、クジを見ると番号が違っていた。


 「え?」


 「はいはい! 引いたら移動!」

私は移動する生徒に押し退けられながら、クジが示す場所を見る。
だってそこ……。


 (悠気の座ってた席じゃない!)

そこは窓側中段。
本来はその隣が私の席だ。


 (これが小さいパラドックス?)

瑞香
 「あ……!」

私の目の前には瑞香がいた。
間が悪いことに、私の席の前が瑞香らしい。
とりあえずいきなり睨まれた。


 (うぅ……瑞香のこと、よく分かんない)

私はあくまで瑞香の一側面の事しか知らない。
今の瑞香は少なくとも私を快く思っていないようだ。
どうすればもう一度仲良くなれるだろう?


 (悠気達は……?)

私は悠気の姿を探す。
悠気は反対側入口の近くにいた。
丁度幸太郎の席が近く、談笑している。


 (うぅ……改善、改善あるのみ)

思いっきり不安な状態だが、悠気に泣きつく訳にもいかない。
というか、瑞香と仲良くなるには対等に話し合わないと。


 「それじゃ1時間目の授業まで静かにしてるのよ!」

ホームルームが終わると、杏先生は退室してしまう。
それを見て、生徒が大人しくしているかといえば別問題だ。
早速私は周囲から再び質問責めを受ける。

女子生徒
 「月代さんもう部活決めた!?」

男子生徒
 「なぁ若葉とはどういう関係!?」


 「あ、あううう〜!?」

私はエスパータイプだけどマルチタスクは苦手だ。
というか他方から質問責めをされて、捌けるなんて聖徳太子じゃないんだから!
しかし、私がハッキリしないものだから、生徒たちの熱も増していく。
やがて……目の前の彼女が苛立ちながら立ち上がった。

瑞香
 「うっおとうしいぞオラー!?」

男子生徒
 「うわぁ!? 暴力女が暴言を放っているー!?」

女子生徒
 「ヒェェェ!?」

瑞香
 「さっさと散れぇ!」

瑞香=暴力女というイメージの定着は完全に不良扱いされてるね……。
実際には悠気以外に手を出すの見たことないんだけど……。
瑞香は生徒を大人しくさせると静かに着席する。


 「あ、ありがとう」

瑞香
 「……勘違いしないでよ、近く騒がれたら迷惑だったからよ」

そう言って瑞香は腕を組む。
……なんていうか、瑞香自体は複雑だけど悪い子じゃない。
それになにか無理している気がする。


 「ね、ねぇ?」

瑞香
 「授業始まる!」

私はなんとか瑞香と話をしようとするが、瑞香は聞き入れてくれなかった。
そして本当に先生はやってきて、授業は始まるのだった。



***



授業内容は簡単だった。
それもそのはず、私はこの授業を一年前に通り過ぎたのだから。
殆どが復習で退屈だったけど、前回の中間テストは赤点3つとやばかったから、今回は高得点を狙いたい。
そして、そんな退屈な午前の授業が終わり、昼休憩が始まると、私は真っ先に悠気の元に向かった。


 「悠気!」

悠気
 「屋上使うか……」

悠気は弁当箱を持って教室を出る。
私は今朝育美さんから渡された弁当を持参して悠気の後を追った。
前の周では育美さんにお弁当が用意される事はなかった。
本来なら今日は私が弁当を自作して、その失敗振りに悠気が呆れた日の筈だ。
これも小さなタイムパラドックスなのだろう。
徐々に私には予測できない歪みに変わっていくのだろうか。

悠気
 「月代、なにか異変は?」

悠気はやや足早に歩きながら聞いてきた。


 「席順が違った……」

悠気は「ふむ」と顎に手を当てると、屋上に辿り着く。
適当なところを探し、腰掛けると私は悠気に聞いた。


 「これってやばいの?」

悠気
 「分からん、因みに前の席順は分かるか?」


 「全部は流石にだけど……今の私の席が悠気ので、私は隣、前が琴音だった」

悠気
 「大城か?」

あ、そう言えばまだこの頃ってどちらかといえば他人だったっけ。
この頃は全然知らなかったけど、密かにもっと前から淡い恋心抱いていたんだよね琴音って。

悠気
 「……意図が存在するならば、なぜ変更されたのか、か」

私達はお弁当を開く。
普段から割と忙しそうにしているのに、私の分まで用意して貰ったお弁当は色鮮やかだった。
悠気ともみなもさんとも違う絶品に舌鼓を打ちつつ、現状を相談する。


 「このままで良いのかな……?」

悠気
 「それを決められるのはお前だけだ」


 「うぅ〜」

既に歴史は相当変わっている。
いや、そもそも2周目として私が今を認識しているのだから当然同じになるはずがないのだが。
勉強だって出来るし、バイトのお陰で接客力も上がった。
1周目のこの時点の私と比べれば、圧倒的に私は成長しているのだ。


 (ん? 成長している?)

私は卵焼きを食べながら、自分の言葉を精査する。
もしかして意味があるのはそちらなのか?
あるゲームに例えるなら。


 「強くてニューゲーム?」

悠気
 「あん?」

この世界で私だけが、この1周目の経験値を持ち越して2周目に入っている。
正にゲームに例えるなら引き継ぎしてのニューゲームだ。
もしかしたらこれに意味があるのだろうか?

悠気
 「……」

悠気は箸を置いて、考え込む。
私の言葉から真実を推理しているんだろうか?


 「でも、なんで2周目なんだろうね」

私はそんな物は望んでいない。
ただ普通に3年生を迎えればそれで良かった。
理不尽に2年の4月からもう一度はじめさせられ、今では戸惑いより怒りの方が強い。

悠気
 「本当に、そうか?」


 「えっ?」

悠気
 「本当に2周目は月代だけなのか?」

それってどういう意味?
しかしそれを問う暇も無く、屋上と踊り場を繋ぐドアが開かれると。

瑞香
 「あ、こっちにいたー!」

瑞香だった。
どうやら悠気を捜していたみたいで、お弁当箱をぶら下げていた。

瑞香
 「あ、月代さん……」

しかし、私が先客でいるのを見ると瑞香は顔を曇らせた。


 (瑞香、初対面から馴れ馴れしいのは嫌いなんだよね)

私は一刻も早く瑞香との関係を回復したかった。
そのためには選ぶ言葉も慎重に決めないと。


 「えと、山吹さん、一緒に食べよう♪」

敢えて瑞香じゃなくて、山吹さんと言う違和感はどうしても拭えない。
でも仲良くもない相手にファーストネームを使われて嫌がるのは当然だろう。
悠気は逆に全然ファーストネームを使ってくれないけど。

瑞香
 「そ、そうね……それじゃ座らせて貰うわよ」

瑞香が隣に座ると、悠気は弁当を食べ始める。

瑞香
 「相変わらず惚れ惚れする弁当ねぇ〜」

悠気
 「お前の所は相変わらず柚香が作ってるのか?」

瑞香
 「あの子料理部だしね」

悠気
 「高校でも相変わらずか」


 (く、加わりにくい……)

知っていても、時期が時期なのでまだ会話が去年含めての話になっている。
柚香が料理部なのは、特に変化がないみたいだけど、初対面の妹の話アレコレ聞くわけにもいかないよねぇ。

瑞香
 「アレ? 月代さん、そのお弁当箱って……」

ふと、瑞香が気が付いた。
まぁ当然気付くだろうけど。

悠気
 「母さんがコイツの分も作ってな」

瑞香
 「なんで?」


 「その、家隣だから……」

育美さんは私のことをとても気に入ってくれている。
なぜ、こんなにもよくしてくれるのか分からないけど、それはとても有り難かった。

瑞香
 「はぁ!? 隣ぃ!?」

しかし、瑞香は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
そう言えば、何故か1周目ではクリスマスまでバレなかったよね。
アレって逆に考えるとすっごく不思議だよね。

瑞香
 「えと? なに? もしかして幼馴染みとか?」

悠気
 「そういう設定はない」

瑞香、混乱しているなぁ。
一方で悠気は相変わらずタンパクだった。
ここまでタンパクだと、私のことどう思われてるのか逆に気になるよ。

瑞香
 「はぁ〜、馬鹿らし……わたしゃピエロか」


 「そ、そんな事ないよっ」

私は、なんとかフォローするが瑞香は自嘲気味に笑った。

瑞香
 「ははっ、月代さん御免……私貴方のこと勘違いしてたのよね」


 「山吹さん……」

瑞香
 「瑞香で良いわ、その変わり宵って呼ばせて貰うからね!」


 「……うん!」

瑞香の心理は私には分からない。
だけど、これまで見てきた瑞香のことなら知っているつもりだ。
瑞香は妹の柚香に甘く、悠気に好意を抱いている。
でも告白する勇気を持てなかった。
暴力女という異名もあるが、その性格は非常に面倒見が良く、世話焼きだ。
一方で嫉妬深いのかも知れないけれど、友人としては付き合いやすい、……筈だ。

瑞香
 「はぁ〜、馬鹿やったな〜私」

悠気
 「早とちりしたお前が悪い」

瑞香
 「早とちり〜? そっちは別よ! で、何処まで進んだ訳!?」


 「進んだ?」

私は意味が分からなかった。
だが、悠気は気まずそうに顔を背けた。

瑞香
 「んふふ〜、その顔は不純異性交遊ですな〜?」

悠気
 「しとらん! ただのお隣さんだぞ!?」


 (そういう風に断言されるのって、結構傷付くんだけど……)

改めて好感度リセットされているとはいえ、この時点で私って悠気にとっては異性じゃないんだね……。
2周目の感覚で付き合うのは気を付けないとなぁ。



『突然始まるポケモン娘と夢を見る物語』


第3話 強くてニューゲーム 完

第4話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/10/01(金) 18:06 )