突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第9話 大城琴音



それは私大城琴音が高校に入学したて、当初のこと。



琴音
 「……」

中学生から高校生へ。
それは全てが夢や希望を持ってなるものじゃない。
特に私は、この頃からお父さんが笑わなくなった事を気にして、学校では塞ぎがちだった。
特にお父さんはいつも死んだお母さんと話している。
お母さんはもうこの世にはいないのに……。
そんなどうすることも出来ない私は、ただ惰性で高校に入ったような物だった。

瑞香
 「あら高校の制服、似合ってるじゃない!」

悠気
 「お前の場合は馬子にも衣装だがな」

瑞香
 「うっさいわボケ!」

当時、私にとって彼、若葉悠気は、他の男子と何も変わらない人だった。
ただ普通に友達がいて、普通に馬鹿をしているどこにでもいる高校生だと思ったんだ。
そしてある日、瑞香さんが若葉君を蹴り飛ばした反動で、私は巻き込まれたのだ。

悠気
 「うおっ!?」

琴音
 「きゃ!?」

瑞香さんの強烈な蹴りで、若葉君は蹴り飛ばされ、私は若葉君の下敷きにされた。
それを見て、瑞香さんは勿論、他の生徒も心配してやってくる。

瑞香
 「あ、ご、ご免……! えと、大城さん、だっけ?」

琴音
 「痛……!」

私は足を捻っていた。
その痛みに立つことも出来ず、若葉君は起き上がると私の足に触れて、症状を判断する。

悠気
 「たく、いい加減子供じゃないんだ、加減くらい覚えろっつーの……大城さんだっけか? すまないな、ゴタゴタに巻き込んで」

琴音
 「え……あ」

笑わない人だ、私は若葉君が私を心配する顔がお父さんとダブった。
若葉君は症状が捻挫だと気付くと、無言で私を背負う。


 「ちょっと!? 大丈夫なの!? 怪我人は!?」

慌てて先生も現場に飛び込んでくる。

悠気
 「先生、大城が軽い捻挫をしています。保健室に運びますから」


 「そ、そう? もう……気を付けなさいよ!?」

私は若葉君の大きな背中に背負って貰うと、保健室に入った。
先生はその時たまたま留守で、若葉君はとりあえずベッドに降ろした。

悠気
 「幸い湿布を貼って安静にしていれば、特に問題ないだろう。それより本当にすまなかった」

琴音
 「どうして謝るの?」

悠気
 「そうだな……大城を二次被害とすれば、瑞香が一次被害を起こしたと言える。……だが俺は二次被害を想定出来なかった、だからこれは改善するべきだと考える」

琴音
 「改善?」

悠気
 「初めからなんでも出来る奴なんていない、だから失敗して、それを改善する……、その繰り返しだから」

そうか、だから若葉君はこれを教訓とした。
でもそれは私にも同じ事を考えられた。
私は何かを変える勇気があっただろうか?
お父さんがどこか遠くへ行きそうなのを止めようとしたか?
答えはしなかった……私は何もしていない。
変わろうとさえしていなかった。

若葉君はその後は終始無言で、保険医の先生が帰ってくると、そのまま教室に戻った。
少し残念だったのは、若葉君は私を見ていなかった事。
お父さんと同じだと思ったのは、笑わない人というだけじゃない。
どこか、見ている場所が違う気がしたからだ。

それから若葉君とは全く接点はなかったけど、自分なりに改善をしてきた。
お父さんが駄目なときは叱って、時に褒めて。
お父さんはお母さんに似てきたって言うけれど、私だけじゃこうはなれなかった。



***



琴音
 「……覚えてる?」

俺は大城に昔の出会いを説明されると、そう言えばそんな事もあったと思い出した。
あの後から、瑞香の成長もあって暴力が厳しくなってきた。
流石に大城の件は気にしてか、瑞香も本気で蹴ることは少なくなり、あのような事故はアレ以来起きていない。
俺にとっては、確かにどうでもいい一幕だったかも知れないが、逆に大城にとっては違ったのか。

悠気
 「それならなんであの後、また他人に戻ったんだ?」

琴音
 「その、いつも瑞香さんと仲良くしてて、悪いかな……て」

悠気
 「ないわー」

どうも俺は瑞香を押し付けられている気がするんだが、まさか大城まで同じ事を考えていたとは。
どうして俺はいつも貧乏くじを引かねばならんのだ?
瑞香に月代、みなもさんもか? 兎に角俺の周りにはどうも問題児が多い。
こんな事言えば、コウタ辺りには最大の問題児は俺だと言われそうだが。

琴音
 「でも……ふふ、やっぱり若葉君は笑わないね」

悠気
 「全く自覚がなかった」

これでも喜怒哀楽は正常だと思っていたんだが、そうでもなかったらしい。
うーむ、まだまだ精進が足りんらしい、改善、改善あるのみ。

瑞香
 「何してんのー? 授業遅れるわよ〜」

時間はすでにお昼休みが終わりかけている。
俺は大城と一緒に先行する瑞香たちを追いかけた。



***



大城琴音、彼女が注目されたのは確か6月位からだったと思う。
まだ月代もいない時代、あの頃から物凄く可愛い新入生がいると、学園中で話題となったのだ。
そうだ、それから彼女は俺にとっては遠い存在になった。
俺はどこにでもいる平凡な男子高校生、一方で相手は学園のアイドル。
土台立場が違い、敬遠したのは俺の方じゃないか?
だけど、大城はそうではなかった。
雰囲気が変わった彼女は確かに魅力的で、遠くの存在になったが、それで大城の全てが変わる訳がない。


 「へ〜、吹奏楽って凄いね〜」

放課後、俺は吹奏楽部に顔を出していた。
吹奏楽部は僅か6人、コンクールにも顔を出さない弱小だ。
そんな中で大城の姿を改めて見る。
フルートを手にして、音を奏でる姿は確かに美しい。
これで人気が出ない訳がないわなと、改めて実感した。
メロエッタは調べてみると、音楽を司る幻のポケモンらしい。
このPKM世界に幻もくそもないが、それだけの価値が彼女にはあるのかもしれないな。
演奏が終わると、大城は部室の外から中を眺める俺たちに気が付いて、駆け寄ってくる。

琴音
 「二人とも、もしかして入部希望だったり?」

悠気
 「いや、大城が気になってな」

琴音
 「えっ?」

大城が珍しく驚いて、素っ頓狂な声を上げた。

悠気
 「上手なんだな、その一芸を見ると俺もまだまだと実感した」

琴音
 「改善あるのみ?」

悠気
 「そうだな……ふふ」

俺は先に言われて、そっと微笑んだ。
笑うってのはそんなに難しい事じゃない、むしろ自然と出来て当然だ。
それが出来ていなかったという事に気付くこと、それはとても重要な事だった。

琴音
 「ふふ、まだちょっとぎこちないね」

悠気
 「勘弁してくれ、そこまで情動豊かじゃないんだ」


 「う〜? いつの間にそんなに仲良くなったの? まぁいいや! 友達だもんね!」

琴音
 「うふふ、そうね宵さん。まずは友達からよね」

悠気
 (まずは?)

それは友達になった初日、俺はもう少し大城の事をちゃんと見ようと思う。
これは俺の改善だ、まずは友達と呼べるくらいに精進してみよう。



***



道理
 「ただいま〜」

琴音
 「あ、お帰りなさいお父さん」

お父さんが帰ってくるのはいつも19時位。
疲れたのか直ぐに小さなキッチンを抜けて、寝室に向かう。
着替えをしたらそのままだらしなくするのだろう。
今更だから私は何も言わない。
でも、一つだけ言うことにした。

琴音
 「お父さん、笑わなくなったよね」

道理
 「え? そうか?」

お父さんには一杯思い出がある。
家族三人で撮影した写真には大好きなお父さんの笑顔が収まっている。
あの頃のお父さんは一杯笑う人だった。
親友の茂おじさんにはいつもお母さんを自慢して、呆れられて。
亡くなった時には誰よりも泣いて、感情が豊かな人だった。
それが今では全く笑いもしない。

琴音
 「あのね! お母さんだってお父さんのそんな顔を見たいなんて思ってないと思うの! だってお母さんはお父さんの笑顔が大好きだったと思うから!」

道理
 「……奏?」

お父さんは私を見て、お母さんの名前を言った。
私は涙腺に涙を溜めて言う。

琴音
 「私は、お母さんじゃないよ」

道理
 「……っ、分かってる、すまない」

お父さんはそう言うと俯いて寝室に向かった。
私の言葉はお父さんに届いただろうか。

琴音
 (お父さん、私だっていつまでも子供じゃないんだからね? いつかは巣立っちゃうんだから)

私はお父さんに口酸っぱくはもの申さない。
でもそれは従順なだけではない。
私だってワガママを言うときだってある。

琴音
 (お父さんがダメダメだと、私出て行っちゃうかもしれないよ?)



***



育美
 「悠気〜、お酌して〜♪」

悠気
 「なんで今日はそんな上機嫌なの?」

夜、夕ご飯の後、母さんはみなもさんを突き合わせて、顔を上気させていた。
母さんは時々だけど酒を呷る時がある。
それは理由は不明だが、なにか楽しい事があったのかも。

育美
 「みなもちゃん、もう酔い潰れてさ〜?」

悠気
 「て!? みなもさん!?」

よく見ると、髪留めを乱れさせてみなもさんがテーブルに突っ伏していた。
みなもさんはフラフラと顔を上げると、顔を真っ赤にしていた。

みなも
 「も、申し訳ございません……ユウさま」

悠気
 「待ってて、今お水持ってくるから!」

母さんは酒豪だから、強い度数の酒も平気で呷る。
みなもさんがどれ程飲まされたか知らないが、状態を見るにかなり強いのを飲まされたようだ。

育美
 「みなもちゃんったら、鬼ごろしに殺されちゃった♪」

悠気
 「まじで出来上がっちゃった?」

俺はみなもさんに水を飲ませると、母さんはケラケラと笑っている。
母さんは本当に喜怒哀楽豊かだよな。
俺も特段感情に乏しいとは思ってなかったんだが、笑わない男とは思わなかった。
でもこれからはもっと笑おう。

育美
 「お酌〜!」

悠気
 「はいはい、みなもさんは休んでて」

みなも
 「い、遺憾ながらそうさせていただきます」

俺は母さんの隣に座ると日本酒を注いでいく。
母さんは相手を得ると、上機嫌に呷る。
普段は酔うほど飲まない筈なんだが。

育美
 「そう言えば聞いたわよ〜? 琴音ちゃんって娘と仲良くなったんだって〜?」

悠気
 「それ、母さんの想像する仲良くとは違う気がする」

ていうかその情報どこで手に入れたんですか?
相変わらず謎の情報網を持つ母さんに俺は呆れながらお酌をする。
まぁ母さんとは付き合いなれているから、冗談も分かりやすいからな。

育美
 「あっはっは♪ 悠気〜、愛してるわよ〜♪」

悠気
 「駄目だこりゃ、ははっ」

みなも
 「ユウさまの笑顔も……愛おしい……」



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第9話 大城琴音

第10話に続く。



KaZuKiNa ( 2021/03/05(金) 18:03 )