突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第8話 お昼時間



悠気
 「ただいま」

俺は衣服に纏わり付く雨を振り払うと家に帰った。
早速玄関までやってきたのはみなもさんだ。

みなも
 「お帰りなさいませユウさま、まぁびしょ濡れではないですか! 直ぐにお風呂を用意しますので、衣類は下にお願いします」

育美
 「お帰り悠気、傘どうしたの?」

悠気
 「友達に貸した」

海外から帰ってきた母さんは、みなもさんに家事を任せてのんびりしていた。
自堕落という程ではないが、これはみなもさんが甲斐甲斐しく働き過ぎる性だろう。
まぁ本人も手伝おうとすると「私の仕事を奪わないで下さい」って悲しい顔されるんだからなぁ。

俺は上着を脱ぐと、脱衣所に置き、自分の部屋に向かう。



***



 「クシュン!」

部屋に上がると、隣の家の月代がクシャミをしていた。

悠気
 「やっぱり女の傘で二人は無理があったな」


 「冷静に考えて、私の傘を貸して、悠気の傘を使えば解決したんじゃない?」

全くもってその通り。
俺はカーテンを閉めると、着替えを始める。
この時期は窓も閉めなきゃいけないし、俺には中々鬱陶しい時期だった。


 「う〜、下着びしょびしょ〜」

悠気
 (コイツ、どうしてそういう羞恥心のないこと言えるかな〜?)

俺はどうしても頭を悩ませるが、コイツは俺を男と認識していないらしい。
軽く肌に張り付いたシャツから透ける月代の肌が想像されるが、これって水着とかより遥かにエロいだろっ!?
俺は慌てて想像することを辞めて、私服に着替え終えた。

悠気
 「お前も風呂入れよ、身体を冷やすなよ? 風邪引いても知らんからな」


 「はーい」

俺はそうやって忠告すると、水分を含んだ衣類を持って1階に戻った。



***



育美
 「み〜な〜も〜ちゃ〜ん♪」

みなも
 「育美様? どうされました?」

今も急いで、歩き回るみなもさんに母さんが後ろから抱きついた。
非常に百合百合しいが、これが年齢差倍の二人とは誰が想像するか。

悠気
 (母さん、大学生って言ったら9割方信用されるからな)

母さんも自分の若さと美貌を自覚しているからか、街の人格者として頼られる一方でそういう茶目っ気のある冗談も言う人だ。

育美
 「ねぇねぇ、今は何月だっけ?」

みなも
 「? 6月ですが?」

育美
 「そう! で、結婚式はいつかしら?」

ガタン!

俺は階段からずっこけそうになる。
そりゃジューンブライドって言えば6月だけどさ?

みなも
 「ま、まだそのような予定は〜……!」

みなもさんは顔を真っ赤にして困惑した。
母さんはそんなみなもさんを更に困らせる。

育美
 「お母さん早く孫の顔が見たいわぁ〜♪ ね? 悠気〜?」

悠気
 「グワーッ!? 流れ弾!? 俺15歳なんだけど!?」

突然不意打ちで俺に話題を振ってくる母さんに呆れながら、洗い物を乾燥機の前に置いておく。

悠気
 (母さん、冗談か本気かたまに分からないんだよなぁ)

本気で孫の顔見たがってる気がして、俺にはどうすりゃいいんだか。
いくらみなもさんが許嫁とはいえ、せめて高校を卒業するまでは待って欲しいもの。

みなも
 「ユウさま、お風呂は出来ましたらお呼びしますので」

悠気
 「ん、いつも母さんのお相手させて悪いね」

みなも
 「いえ……普段の育美様は尊敬できる方ですから」

とは言うが、茶目っ気の抜けない困った母さんだからなぁ。
尊敬は俺もしているが、得体が知れないのも事実。
一体親父と一緒に何をやってるんだ?
俺は未だその事を母さんには聞けなかった。
みなもさんは親父達がいなければ、今も奴隷だったかもしれないって聞いたら、益々分からない。

悠気
 「部屋にいるから」

俺は少し一人になりたくて、脱衣室を出ると2階に登った。



***




 「う〜……?」

1時間後、風呂から上がると月代が窓の向こうで何やら頭を捻っていた。
勉強しているのかも知れないが、それにしては妙なうねり方だな。

悠気
 「お〜い、どうした?」

窓の向こうの月代は半袖短パンと随分ラフな格好だったが、俺はなるべく見ないようにした。


 「分かんな〜い! あのね! パソコンって言うの貰ったの! でも使い方が全然分かんない〜……」

悠気
 「パソコンって……誰から貰ったの?」


 「天海さ〜ん、買い換えたから要らなくなったって〜」

天海(あまみ)さんって誰?
まぁ宵も俺の知らない交友関係があっても不思議じゃないが、それにしてもパソコンと来たか。

悠気
 「もしかして今時デスクトップパソコン?」


 「よくわからないけど〜、ドライバ? インストール? ふええ?」

悠気
 「……お前機械オンチっぽいな」

宵の頭の悪さは筋金入りだが、その上機械音痴とはな。
冷静にに考えて下請けしたなら、そのまま使えそうだが。

悠気
 「お前の家LANケーブル接続出来るのか?」


 「なにそれ美味しいの?」

悠気
 (……駄目だ、コイツ真正の機械オンチだ)



因みに後で、設定をしに行ったら電話線と一緒に引かれていたのでネットに繋ぐのは簡単だった。
寧ろ驚いたのは、PC本体の方でかなり改造が施された所謂ゲーミングPCという奴で驚かされる。
ハードディスクにも幾つかデータが残っていたが、その内容は中々コアで更に驚かされたのだ。

天海さん……一体何者なんだ!?



***



悠気
 「晴れたなぁ」

翌日、大地は濡れてまだ水溜まりがある。
ただ陽光は大地を暖め、濡れたアスファルトが光を反射させる。


 「うお!? 眩しい!?」

そう言う月代だが、一番眩しいのはお前の羽だ、と心の中で突っ込む。
僅かな光でも集めて反射するクレセリアの羽は、もはや後光を出している。
見え方次第では大変綺麗なクレセリアの羽も、淡い太陽の照り返しでさえ過剰なようだ。

瑞香
 「悠気〜♪」

悠気
 「お、おはよう二人とも」

柚香
 「はい♪ おはようございます♪」

相変わらず仲良しの山吹姉妹だが、今日は姉の方が大変上機嫌だ。
瑞香は俺の横まで来ると、バッグを小突く。

瑞香
 「約束の品は?」

悠気
 「昼までのお楽しみ」

昨日の約束で、プリンの用意をすることになった俺は前日の段階から用意を開始した。
みなもさんが手伝おうとするもんだから、俺はあくまで一人でやると言うと、凄くシュンとしていたな。


 「プリン〜♪ 抹茶プリン〜♪ 紫芋プリン〜♪」

幸太郎
 「なんだそのアンコールエクストラステージで来そうなのは?」

気が付くとコウタも合流していつもメンバーになった。
俺たちは談笑しながら水溜まりの上を歩いて、学校に向かう。
バッグの中には保冷剤を入れた保温パックを入れ、その中に収めたプリンに気を留める。
学校の前まで辿り着くと、今日も元気に先輩が走り去った。

だが、今日に関してはその先、すでに校門を潜ったある背中を追った。

悠気
 (大城……か)

柚香ちゃんとも別れ、俺たちは2年生の下駄箱の向かい教室へ行く。



***



悠気
 「大城、おはよう」

琴音
 「あ、おはよう若葉君」

教室に入ると俺の前の席に座る大城に挨拶して、俺は自分の席に着席した。

男子生徒A
 「ぬぅ〜! 二日連続だと!?」

男子生徒B
 「暴力女一人で満足すればいいものを〜!」

瑞香
 「アンタらも学習しないわねぇ〜!?」

相変わらず今日も学習しない同輩の皆さん。
瑞香はポキポキと手を鳴らすと、男子生徒達は悲鳴を上げた。

琴音
 「ふふっ」

悠気
 「お? 何が可笑しいんだ?」

琴音
 「だって、挨拶なんて普通なのに、あの人達いつも羨ましそうだから……」

悠気
 (そりゃ畏れ多くて、大抵の男子は近寄れないって……て本人には言えんか)

琴音
 「皆若葉君みたいに遠慮しなれば良いのにね」

悠気
 「まるで俺が変みたいだ」

俺はそう言うと机に突っ伏す。
大城は困ったようにしたが、直ぐにチャイムが鳴ってホームルームが始まる。

悠気
 (なんか、まともにしゃべったな?)

俺自身大城の事をよくは知らないが、ちゃんと喋った事も殆どない。
正直、遠くの人って言えば、去年までなら間違いなく俺もその他大勢と同じだった。
たまたま席が近くて、少し意識すると不思議になる。
大城だって機械じゃないから、感情はある。
ただ、それが誰にも分からないんだよな。



***



お昼時間、いつものように俺の席を中心に集まるが、今日は瑞香が提案した。

瑞香
 「ねぇ、外も気温上がってきたし、今日は外で食べない?」

柚香
 「それなら中庭なんてどう?」

悠気
 「俺は別にどこでもいい」


 「私も同じ〜」

俺は弁当入れには少し大きなバッグを持つと、提案に従い中庭へ行くのだった。
だが、中庭と言っても、普段利用しない俺たちは、最適な場所がまず分からない。
どこがいいか、ゆっくり探していると。

瑞香
 「あ、あそこの陽溜まりが良いじゃない!」

中庭へ降りると、4人で食べるのに丁度良い場所を見つけた。
今日は快晴もあり、中庭は既にベストコンディションだった。

柚香
 「あ、でも先客が……」

悠気
 「大城?」

それは大城だった。
陽溜まりの中心で、まるでスポットライトに当たるかのように緑の髪が輝く。
美しい……月代の羽を初めて見たときと同じ感想だが、その印象は真逆だった。

悠気
 「大城……ここ使っても大丈夫か?」

俺はゆっくりと横から大城に近寄った。
大城は少し驚いたように顔をこちらに向ける。

琴音
 「若葉君? ええ、どうぞ」


 「ありがとう大城さん〜♪ 一緒に食べよ?」

琴音
 「月代さん、山吹さんも……」

瑞香
 「ごめんね〜大城さん、迷惑なら別の場所行くから」

琴音
 「ううん、どうぞ」

大城は少しだけズレると、俺たちは円陣を組むようにその周囲に座る。

瑞香
 「お〜、相変わらずアベック弁当ねぇ〜!」


 「? それなら瑞香と柚香もアベック?」

柚香
 「こ、これは一人分も二人分も手間が変わらないからで!」

弁当を並べていくと、こっちと月代はみなもさんが作った弁当で、山吹姉妹は妹のユズちゃんが作った弁当だ。
奇妙と言えば奇妙な光景で、大城がクスクス笑う。

琴音
 「うふふ、皆変なの」

瑞香
 「へぇ〜! 大城さんってそういう風に笑うんだ、初めて見たわ」


 「そうなの?」

悠気
 「大城の事を知っている奴なんて、多分そんなにいないだろう」

琴音
 「……うん」

大城は自分から積極的な姿を見せることは全くない。
本人も自覚しているのか、小さく頷いた。

瑞香
 「おっ、その唐揚げ美味しそう! こっちの揚げ春巻きと交換しよ!」

悠気
 「そう言って勝手に入れ替える」

瑞香は俺の弁当箱に箸を突っ込むと、サッと素早く唐揚げを取り、代わりに斜めに切られた揚げ春巻きが置かれた。
俺は仕方なく、揚げ春巻きを頂く。
うん、美味しい……流石料理部だな。


 「大城さんもおかず交換しよ♪」

琴音
 「え、でも私の手料理なんて」

瑞香
 「あら、少なくともこの学校の男子なら札束積んでも食べたい価値があるんじゃないかしら?」

琴音
 「そんな……」


 「あ、このジャガイモ美味しい〜♪」

月代は大城の弁当から肉じゃがを選んで口に運ぶ。
弁当に汁物は難易度が高いからな、大城はかなり手慣れているようだ。


 「ねぇねぇ! 好きなの選んで!」

琴音
 「じゃあ卵焼き……」

みなもさんの卵焼きは少し甘めの味付けだ。
大城は口に運ぶと、美味しさに少し目を開いた。

悠気
 「大城は自分で用意してるんだな」

琴音
 「あ、うん。ウチは父子家庭だから……」


 「お母さんいないの?」

琴音
 「5年前に死んじゃった……」

……少し話題を間違えたか。
俺もそうだが、少なからず家族に問題を抱えている奴はいる。
宵もあの大きな家に今も一人暮らしだ。
ここで満足な家庭生活を送れてるのは山吹姉妹位だろう。

瑞香
 「お父さんは……いい人なの?」

琴音
 「うん……でも笑わなくなった」

悠気
 「大城は幸せか?」

琴音
 「え?」

悠気
 「俺も殆ど母子家庭と変わらん。親父は全く家庭を顧みない奴でな、もう10年は帰ってきていない。だが俺は不幸とは思わない」

俺は自分を幸せだと思っている。
少なくとも、母さんは好きだし、みなもさんも好きだ。
ウチは確かに父親がいないが、だからってそれが不幸にはならない。

琴音
 「若葉君も……私は、分からない。幸せなのかどうか……」

瑞香
 「〜〜〜! 悠気! プリン出して!」

悠気
 「ん? お、おう」

俺は食後に用意した保冷パックから瓶詰めのプリンを取り出す。
瑞香のお好みの抹茶プリンを奴は引ったくると、それを大城に突き出した。

瑞香
 「これあげる」

琴音
 「え? でも……」

瑞香
 「その代わり友達になりましょ? よろしくね琴音!」

瑞香の図々しさは筋金入りだ。
だが真っ直ぐで、曲がったことを嫌い、言葉に遠慮がない奴だが、良い奴だ。
瑞香はニコッと笑うと、大城も遂に折れてプリンを受け取った。

琴音
 「うん、えと……瑞香さん?」


 「それじゃ私も〜! 私も宵って呼んでいいよ! 琴音!」

琴音
 「うん、宵さん。よろしくね」

柚香
 「私は下級生ですけど、先輩とお友達になりたいです」

琴音
 「私もだよ、えと」

柚香
 「山吹柚香といいます」

琴音
 「うん、よろしくね柚香ちゃん」

女子が仲良くなっていく中、デザートも含むお食事会は楽しく進んでいるようだ。
プリンはユズちゃんのも含め3つ用意してあり、瑞香は大城と一緒にプリンを食べた。
プリン自体はユズちゃんや月代にも好評で、俺は安心する。
随分久し振りな上に湿度の高いこの時期にプリンは難易度が高くて、実は少し不安だったのだ。

やがて、一人二人と食べ終えると気が付けばお昼時間も残り少しだった。

瑞香
 「さーて、そろそろ戻らないと間に合わないか」

柚香
 「うん、それと次はレジャーシートも用意しないとね」

今日は想定外とはいえ芝生で食べたので、その点ではやはり食べづらい。
皆が立ち上がって行く中、ふと大城が俺に話しかけてきた。

琴音
 「ねぇ若葉君、私ね……実は1年生の頃から、若葉君と話してたの覚えている?」

悠気
 「え? 1年の時に?」

俺は去年の事を思い出すが、確かに大城は同じクラスだった。
だが、全くと言っていいほど俺は大城の事を覚えていない。

悠気
 「何時のことだ?」

大城は胸に手を当てると。

琴音
 「アレは去年の4月……」


『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第8話 お昼時間

第9話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/02/26(金) 19:10 )