突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第5話 お手伝いさん




ウチにお手伝いさんが来ることになった。
幸い今日は休日、母さんは朝早く家を出て、俺はのんびり家の掃除なんかをしていると突然インターフォンが鳴る。

悠気
 「はーい」

おそらくインターフォンを押したのは件のお手伝いさんだろう。
一体誰だろう、母さんが呼んだお手伝いさんって。
俺は玄関を開けると、そこにはキャリーバッグを持った一人の女性が立っていた。


 「本日から育美様のお話を受けて、住み込みで働かせて頂く『みなも』と申します」

そう言って、女性は礼儀正しく会釈した。
みなもという女性は俺の予想を越えて若かった。
大学生位? 俺たち高校生よりは大人びているけれど、それでも大した年の差には感じなかった。

悠気
 「てっきり年季の入ったおばちゃんがくるものかと……」

みなも
 「はい?」

お手伝いさんとなれば、定番はドラマに出てくる家政婦のイメージがどうしても付きまとう。
ところがみなもさんは、格好こそ家政婦然としているが随分フレッシュな方だ。

悠気
 「まぁ、その……どうぞ中へ」

俺は家へと招待すると、女性はキャリーバッグを引きずって中へと入った。



***



悠気
 「それで、住み込みって言ったよね?」

みなも
 「はい、育美様からは、悠気お坊ちゃまを宜しくと」

悠気
 (はぁ〜……)

どうせ母さんの知り合いなんだろうな。
俺は深いため息を吐くと、もうこの状態を諦めるしかなさそうだった。
2階に使っていない部屋があるから、そこをみなもさんの部屋にすればいいか。
多分母さんも同じ事を考えるだろう。

悠気
 「とりあえず、お茶でもどうぞ」

と言っても、出したのは冷えた麦茶だが。

みなも
 「ありがとうございます」

しかみなもさんは、本当に恭しく、頭を下げて麦茶を口に含んだ。

悠気
 (みなもさんかぁ……)

年若い女性というのはさっきも言ったが、それは人間のそれではない。
瞳はサファイアのような美しさで、肌はどちらかというと白い。
綺麗な水色の髪をパールのような髪留めで纏めており、足の付け根にヒレのような物が見受けられる。
丁度足をくっつけると多分アシカの尾ビレのように見えると思う。
身長は俺と同じくらい、所謂メイド服を着ており、女性としては美しいが適切か。
PKMの力を制御する白い腕輪は左腕に装着している。

悠気
 「みなもさん、なんのPKM?」

みなも
 「あ……その」

みなもさんはそれを聞かれると、少し哀しげな顔をした。
もしかして聞いてはいけないワードだったか?
しかしみなもさんは、麦茶の入ったコップをテーブルに置くと。

みなも
 「アシレーヌのPKMに、なります」

悠気
 「その、無理矢理聞いたみたいな雰囲気になっちゃってるけど、言いたくないなら言わなくて良いからね?」

みなも
 「……はい」

みなもさんは小さく頷くと、俺はキャリーバッグに手を掛ける。

悠気
 「これ、中身開けてもいい?」

みなも
 「構いませんが、着替えが殆どですよ?」

俺は本人の許可を得ると、キャリーバッグを開ける。
すると確かに何着も同じ服が出てきた。

悠気
 「2階にみなもさんの部屋を作るから」

みなも
 「あ、いけません! そういうことは私の仕事ですから!」

みなもさんは荷物を抱えた俺を慌てて追いかけるが、俺はさっさと2階に上がる。
『悠気』とネームプレートの貼られた部屋の向かい側に空き部屋がある。
俺はドアを開けると、荷物を幾つか事前に用意していたベッドに置いた。

悠気
 「まだ完全に掃除が終わってないんだけど、とりあえずここね?」

みなも
 「はい、掃除は得意です」

後ろからついてきたみなもさんは部屋を見ると、早速仕事人魂に火が付いたのか、やる気を見せた。
流石に昨日聞かされたから、荷物は全部別の部屋に移したし、ある程度掃除もした。
今日が休日じゃなければそんな暇も無かったが、その点は幸いだな。

悠気
 「なにか必要な物があれば言ってくださいね」

みなも
 「はい、宜しくお願いします。坊ちゃま」

悠気
 「……ご免、それやっぱり耐えられない!? その坊ちゃまっていうのやめてくれない!?」

最初の時点で正直気になっていた。
だが、流石にむず痒くて我慢できない。
少し年上のお姉さんに坊ちゃま呼ばわりは、15歳には厳しいです!

悠気
 「悠気って呼び捨てでいいから」

みなも
 「い、いけません! 雇用主にそのような暴言は……、では悠気さまとお呼びすれば良いでしょうか?」

悠気
 「もう少し妥協できない?」

みなも
 「ゆ、ユウさま」

みなもさんは物凄く恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
うーん、まさか折半か。

悠気
 「オーケー、それで妥協する」

みなも
 「ではこれからはユウさまと……」

様付けもユウとフレンドリーなら中和してまだマシか。
俺は一先ず妥協点に納得すると、その場を離れた。



***



みなも
 (育美様、私これからユウさまと上手くやっていけるでしょうか……)

ユウさまが部屋を出た後、私は部屋の掃除を始めた。
ユウさまはまだ私に心を開いてくれていなかったように思える。
育美様には、ユウさまなら安心出来ると言っていたけど、私がまだ安心出来ていない。

みなも
 (あの方々への恩義は忘れません……でも、やっぱり怖いです)

ユウさまが私をなんのPKMか聞いた時はドキリとした。
悪意なんて無いのが分かっていたのに、昔のトラウマが呼び起こされた気がした。
これからもユウさまは私のことを聞いてくるだろう、その時私は耐えられるだろうか。
ユウさまを本当に信じられるだろうか……。

みなも
 「ユウさま……」

ガチャリ。

悠気
 「掃除機持ってきたけど?」

私は突然の事にビクッと肩を震わせた。
丁度この方と仲良くなりたいと思っていた矢先だから心臓に悪い。

みなも
 「で、ではお借りします」

私は掃除機を受け取ると、ユウさまはついでというように一つ聞いてきた。

悠気
 「お昼御飯何が良い? これから買い物行ってくるからさ!」

みなも
 「あ、買い物なら私に任せてください!」

悠気
 「……と言っても、この街のこと知ってるの?」

ユウさまの鋭い目線、私はそれに怯むと言葉を返せない。
確かにこの街に来たのは今日が初めてで、まだ全然知らない。

悠気
 「もうすぐゴールデンウイークだしさ、その時でも街を案内するから! 今日の買い物は俺に任せて!」

ユウさまは笑顔でそう言うと、軽くウインクする。
私はなるべくこの主人の命令に従わなければならない、だから恭しく頭を下げた。

みなも
 「で、では……ユウさまの好きな物で」

悠気
 「そう来ましたか、了解! あ……そうだ連絡先交換しよ!」

ユウさまはそう言うと小型のスマートデバイスを取り出した。
私は育美さんから渡されたスマートフォンで、ユウさまと連絡先を交換する。

悠気
 「ん、なにかあったら連絡宜しく!」

そう言ってユウさまは部屋を出る。
後にはドタドタと階段を降りる足音が響いた。

みなも
 「……ユウさま」

私は連絡帳に『ユウさま』と登録する。
ユウさまは私のことをどう思っているのだろう?
他人行儀さが無くなれば、私はユウさまの……。



***



若干みなもさんを一人で家に残すのは不安だったが、問題が起きればメールなり、電話なりで連絡を寄こせば良い。
俺は外に出ると、とりあえず買い物に行く。

悠気
 (それにしてもみなもさんか……)

連絡先にはみなもとしかない。
性に当たる部分がなく、名前がみなもとだけ。
仕方なく連絡帳には『みなもさん』と登録したが、彼女はなんだか謎が多いようだ。
好奇心は猫を殺すというが、これはみなもさんにも同様に思える。
あまり不用意に彼女の過去を聞くような真似は控えよう。
どうにもキナ臭いからな。

悠気
 (俺より上の世代のPKMなら殆ど第一世代、あの世代にはどうしても今と違って『凝り』があるからな……)

15年前、中国重慶で端を発したPKMが関与したテロ。
更にその後、ヴィランと呼ばれる犯罪に手を染めたPKMがアメリカの社会問題にまで発展した。
今でもイスラームに反するとして中東はPKMを一切受け入れていないし、やり場のないPKMは今も紛争地帯で傭兵しているって話もある。

そんな最も激動の15年前、PKMは迫害を受ける立場だった。
右翼団体が世界各地で産まれ、第二のKKK団を産むに至った。
日本はその中で最初にPKMを保護して人権獲得まで導いたが、これは過去の夏川慎吾首相と御影真莉愛PKM人権保護長官の働きが大きい。
第二世代の数が増える中で国連条約でPKMの人権の確立、新たな地球人として認められた今日ではあるが、第一世代には忘れられないトラウマ持ちもいるという。

特に酷かったのが中国だ。
中国マネーに長じて、マフィアがPKMを家畜として売買いしていたのだ。
重慶のテロも端を発するのはこれが問題であり、中国政府が一斉摘発を行った時には200人以上もPKMが奴隷として働かされていたのだ。

日本にとってPKMは福音だった。
人口の減少から、外国人労働者枠の拡大が議会で検討された頃に何万人もPKMが日本に現れたのだ。
日本政府にとってPKMは理想的な労働枠であった。
今だ国内GDPの推移は低迷しているものの、外国人ではなく日本人として扱えるPKMは人口を僅かだが回復させたのだ。
現在PKMと判定される国民は100万人だという。
第一世代と第二世代、そして第三世代が今この世界で繁栄している訳だ。


 「ん? よぉユウ!」

悠気
 「あ、光先輩、おはようございます」

街へと出ると、たまたま光先輩と遭遇した。
光先輩はラフな格好で街を散策していたようだ。

悠気
 「光先輩って……第一世代ですよね?」


 「そうだが? 確か顕現したのは5歳位だったか?」

とすると約10年前か、確か既に人権条約が締結された頃だったかな?

悠気
 「光先輩、第一世代として苦労はありました?」


 「苦労ねぇ……そりゃあったさ、初学校の頃はPKMってだけでイジメの対象だったからな」

小学生位だと血も涙もないからな。


 「まぁ最も! 全員ぐうの音も出ない位黙らせてやったがな!」

……小学生の光先輩がまざまざ浮かぶわ。
きっとガキ大将だったんだろうなぁ。
絞められたいじめっ子達も相手が悪かったとしか言いようがない。


 「しかしどうしたんだ? 突然俺の過去なんて聞いて?」

悠気
 「第一世代って……どんな気分なのかと思って」

光先輩はそれを聞くと普通の人がやらないであろう格好いいポーズで腕を組む。
学年トップクラスの俊才なら、どういう事を考えるのだろう。


 「第一世代でも、個人差があるからな……PKMナンバー01番が観測されたのは6月……そこからインフレーションを起こして2年後の10月前後に収束したが、今も細々とだが顕現は観測されている」

今では国内でもすっかり聞かなくなったが、ゲートの観測は今もされていた。
アメリカでは人工ゲートの発現を目指しているらしいが、神の先の世界は遠いようだ。


 「辛かったのは概ねこの初年度から3年度位までのPKMに集中するだろう……日本に顕現したならまだ運は良いが」

悠気
 (みなもさん……もしかしたら日本人じゃない?)

俺はふと考える。
正確な年齢は分からないし、顕現年代が不明だが、もしその時代に該当したならば。

悠気
 「光先輩、ありがとうございます」


 「ああ、少年よ大志を抱け!」

クラーク教授っすか。
俺は光先輩のエールを受け取って、別れる。
なんだか大いに勘違いされた様子だが、まぁ良いか。
みなもさんとの関係、改善したいな。
改善……改善あるのみ。



***




 「ん〜、お出かけ中か〜」

私は久し振りの休日もあり、のんびり長寝していると悠気は家に居ないみたい。
悠気は窓を閉めると、それが外出の合図。
今日は私の料理を見てもらいたかったんだけどなぁ〜。

毎週お休みの日には、悠気を家に呼んで料理を判定して貰っている。
今だ40点が限界の私だけど、今日こそはと息込むのだ。

ガチャリ。


 「あれ? 帰ってきた……て、誰!?」

みなも
 「きゃあ!?」

ドアを開けて現れたのは悠気じゃなかった。
見たこと事も無いメイド服を着た大人の女性。
育美さんに匹敵する美人で、私は女子高生のプライドを打ち砕かれそうになる。


 「あ、貴方誰!? もしかして貴方悠気の言ってた泥棒ポケモン!?」

私は制御装置に手を掛ける。
制御装置は装備が義務化されているが、拘束具ではない。
法律でも命の危機や、それに類推される場合は外す事が許可されている

泥棒なら、私のサイコキネシスでぶっ飛ばしてやる!

みなも
 「ち、違います! 私はユウさまのお部屋を掃除しようと……!」


 「まさか……愛人!? 愛人なのね!?」

みなも
 「わ、私がユウさまの愛人!? はう………」

バタン!

謎のメイド服美人は顔を真っ赤にすると横に倒れてしまう。


 「わわ!? 大丈夫!?」

私はやむなく制御装置の機能をオフにすると、彼女をサイコキネシスで悠気のベッドに移動させた。
人命救助でも許されたはず……だよね?


 「制御装置オンっと」

再び制御装置を機能させると、身体からサイキックの力や、浮遊感は無くなる。
PKMの力は便利だけど、あったらあったで面倒ごとも増える。
結局人間相応が一番いい。


 「PKMみたいだけど、一体何者なの?」



***



悠気
 「ただいま〜」

俺は買い物を終えて家に帰ると、返事が無い。
もしかしてまだ掃除が終わっていないんだろうか?

俺は荷物をキッチンに置いてくると、2階へと登る。
まだネームプレートも貼っていない、開けたばかりの部屋。
一応ノックするが返事が無い。

悠気
 「入るよ?」

俺はドアを開けて、中に入ると無人だった。
掃除も終わって、まだ殺風景だが一応寝泊まり出来るだけの用意は出来た感じか。

悠気
 「ここに居ないとなると、まさか?」

俺はまさかとは思うが、自分の部屋のドアを開ける。
すると、ベッドに横たわるみなもさんの姿があった。

悠気
 「……なんで?」

恐らくこの家に来るまでにも疲れが溜まっていたのだろう。
一眠りする分には構わないが、それなら自分の部屋で眠れば良いはずだ。
なのに俺の部屋で眠っている……これはミステリーですか?

悠気
 「おい! 月代!」

俺は窓を開けて月代を叫ぶと、月代はビクッと身体を奮わせた振り返った。


 「わ!? ビックリした! なになに!?」

悠気
 「みなもさんが俺のベットで眠っているんだが……なぜだ?」

俺は原因が月代にあるのではないかと疑うが、ぶっちゃけ動機が分からん。
しかしみなもさんを指差すと、事もあろうに月代は。


 「その人泥棒!?」

悠気
 「どの世界にメイド泥棒がいる?」


 「じゃあ愛人なのね!?」

悠気
 「どうしてそこまで発想が飛躍する!?」

みなも
 「ううん……あれぇ? ユウさま?」

突然始まったコントが五月蝿かったか、みなもさんが目を覚ます。


 「あ、愛人が目を覚ました!?」

悠気
 「いい加減その発想捨てろ!?」

みなもさんは起き上がるとなんだかキョトンとしていた。


 「うーん、愛人でもないとすると……許嫁だったり!?」

みなも
 「許嫁……」

悠気
 「ありえ――」

ありえんと言おうとした時だった。
みなもさんは胸に手を当てると静かに呟いた。

みなも
 「はい、私はユウさまのその気さえあれば婚約をと、育美様には言われています」

悠気
 「は……? 婚約?」



***



同時刻、上海にて。

育美
 「討希(うつき)さん、久し振り」

私は合流地点である上海の湾港で夫の若葉討希さんと合流した。
討希さんは相変わらず紺色のローブを着て顔は殆ど見えない。
高度経済発展した大都市上海では浮いた姿だけど、誰も彼に注目は払わない。
何故なら彼は魔術師、魔術によって存在を希薄化させているのだから。

育美
 「とりあえずみなもちゃんは、ちゃんと家に送ったわよ」

討希
 「……そうか」

討希さんは口数の少ない人だ。
良く冷たい人だと言われるが、実際には熱い物を持っている。
今もきっとみなもちゃんのことを心配しているじゃないかしら。

討希
 「アイツは……元気か?」

育美
 「アイツって? 悠気のこと?」

討希さんは不器用だから、小さく頷いた。
私は彼に寄りそうにようにして、微笑む。

討希
 「アイツは、俺を恨んでいるだろう?」

育美
 「そうね……理解しろと言うのも無理があるけれど」

夫の討希さんはテロリストだ。
魔術師として、人間としても追われる立場。
それは彼の正義のため。
私はそんな彼を一生支えると誓ったけど、討希さんの意見で悠気には一切関わらせなかった。
それは悠気を守ることでもある。

育美
 「宵ちゃんも、みなもちゃんも上手くやっているわ」

討希
 「そうか……それなら良いんだが」

育美
 「それで次はどこ?」

討希
 「中東だ、テロリストに偽装した魔術結社を叩く、お前と俺なら3日もあればカタがつくだろう」

育美
 「2日で終わらせるわよ! そして余った時間でデートしましょ♪」

私はそう言うと討希さんと腕を組む。
みなもちゃんは今頃日本よね?
同意が得られれば、そのまま結婚しても良いって含めておいたけど、どうなるかしらね?



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第5話 お手伝いさん

第6話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/02/10(水) 21:22 )