突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第34話 負け犬達の恋



12月24日、多くの学校では今日が終業式だろう。
そして短い冬休みを迎える。
だが、同時に今日はクリスマスイヴ、多くの人にこの夜は意味のある日となるだろう。

悠気
 (今日俺は……)

終業式、体育館で行われる学園長の挨拶。
それを聞き流しながら、俺は今夜のことを考えていた。
余程集中していたのか、いつの間にか学園長のスピーチも終わっており、御影先輩が誘導し、今年最後のホームルームは始まった。


 「今さら先生こういうこと言うの嫌いなんだけど、警察にお世話になるような事するんじゃないわよ!?」

生徒達
 「「「はーい!」」」


 「宜しい! それじゃプリント配るわよー!」

御影先生がプリントを配る時も俺は呆けていた。
前の席に座る大城からプリントを渡された時も、大して印象に残らないほど。
ただ、時間だけが不自然なほど早く進み、いつの間にか終業式も終わっていたのだ。


 「悠気〜?」

悠気
 「月代?」

ふと、気が付けば月代が俺の目の前にいた。
宵は首を傾げると、和やかに笑う。


 「今日がクリスマスなんだよね? 美味しい料理、期待して良いのよね!?」

ふ、コイツは今後に及んでも、まだ食い意地が張っているのか。
だが、そんな邪気の欠片もないからこそ、俺は笑って言う。

悠気
 「任せろ、目玉が飛び出るご馳走を用意してやる!」

そうだ、俺はコイツの笑顔が好きだ。
コイツが幸せそうに食べている姿が好きだ。
難関にぶつかって泣きそうになっても、いつかはそれを乗り越えていく姿が好きだ。

悠気
 「なぁ……その、よ、いや月代?」


 「ふえ?」

俺はつい彼女の名前を使おうとして呼び直してしまう。
お陰で宵は不思議そうに頭に?を浮かべてしまった。
情けない話だが、まだ口に出して宵と呼べる程、俺は勇気が持てないらしい。
宵は人懐っこいし、躊躇わず名前の方を使うが、俺には今更それを変えるのが余計に難しい。

悠気
 (それでも、今夜俺は宵に……!)


 「それで……どしたの?」

悠気
 「あ、ああ……、この後買い物に行きたくてな」

大凡の食材はみなもさんが買い終えているだろうが、追加したい食材もあった。


 「それ、重くなりそう? 私手伝おうか?」

悠気
 「いや、それ程じゃない……ただ」


 「ただ?」

その時だった。

瑞香
 「悠気! 話があるから屋上に来なさい!」


 「え!? もしかして決闘!?」

男子生徒
 「なに!? ついに若葉と山吹が決着を付けるというのか!?」

何故か突然、瑞香が大声で俺に屋上へ来いと言うと、場は一瞬で騒然とした。
何故か誰一人として、愛の告白とかじゃなくて、決闘だと思っているようだが、そもそも俺と瑞香はそんな因縁はない!
とはいえ、これでは宵と話が出来そうになかった。

悠気
 「月代、先帰ってろ」


 「う、うん! 身体に気を付けてね!?」

宵はそう言うと鞄に荷物をパンパンに詰め込むと、教室を出て行った。

瑞香
 「……待ってるわよ」

そして瑞香もまた、そう言って教室を出て行く。

男子生徒
 「伝承者は一人、なんて業の深い拳なんだ……」

悠気
 (いや、伝承者とかないし、そもそも俺は格闘技とか嗜んでもいない!)

この2年、いや中学時代を含めたら5年か。
お互い名前で呼び合う仲なのに、まるで兄弟かなにかのように付き合ってきた俺達は、周りから見れば恋愛フラグもなく、そして俺が蹴られ続けた結果、そう誤解されたのだろう。
だからって流石に瑞香も妙な拳法の伝承者だったりはしないと思うが……。

幸太郎
 「あの顔、山吹は本気だぞ?」

悠気
 「コウタ? それはどっちの意味だ?」

幸太郎
 「ふっ、俺は少なくともそんな愚鈍なつもりじゃないぞ?」

そう言って逞しい二の腕を組むと、微笑を浮かべる。
コイツは俺と瑞香がくっつく事を望んでいる節がある。
瑞香にとっても良き理解者であるだろうコウタは、もしかすればそれが一番平和に丸く収まると考えているのかも知れないが……。

幸太郎
 「ほら、行けよ。無視したら後が怖いぞ?」

悠気
 「確かにな……」

瑞香は良識は弁えているが、性格は烈火のような奴だ。
余程才覚があったのか、習いもしないのに格闘技の達人だから手が付けられない。
なんでもありなら、コウタ相手にも勝つような女を怒らせると、どうなるか火を見るより明らかだろう。

悠気
 「行ってくる」

幸太郎
 「お前らに限って間違いは起きないと思うが……いや、逆だな、むしろ問題を起こしてこい」

悠気
 「巫山戯んなこの野郎!」

俺はイマイチ思惑の読めない親友に悪態をついて教室を出るのだった。



***



悠気
 「寒……!」

屋上に上がると、俺は重たい扉を開いた。
その瞬間12月の冷たい風に身を縮こませる。

瑞香
 「来たわね」

屋上には瑞香だけがいた。
念のため、周囲を確認するが誰もいないらしい。
俺は扉を閉めると、瑞香と向き合う。

悠気
 「で、要件は?」

瑞香
 「簡単よ、アンタの気持ちが私は聞きたい! アンタがクリスマスを過ごしたいのは誰?」

悠気
 「それは……」

こいつらが俺を狙っていることは薄々だが気付いていた。
むしろ瑞香がここまで何もアクションをかけなかったのが不思議な位だ。
例年なら、俺と瑞香が同じクリスマスを過ごすことはなかった。
それが普通であり、俺達がそれを意識するには遅すぎたのだ。
だが、その遅すぎた青春が今さらやってきた。
その理由は?
当然宵だろう。

瑞香
 「やっぱり……宵なのね?」

瑞香は溜息をつくと、それを確認した。
ケジメ……その言葉が俺の脳裏を過ぎる。
そうだ、俺はこれから選ばないといけないのだ。
例え目の前の少女を泣かすことになったとしても……。

悠気
 「そうだ……俺は宵が」

瑞香
 「……そうよね、私なんて所詮路傍の石っころ」

悠気
 「瑞香! 俺は!」

瑞香
 「惨めよね……こっちは5年なのに、宵は1年足らず……全く惨めで仕方がない……だから……悠気、私は手段を選ばないわよぉ!?」

その瞬間、突然俺は両腕を後ろから二人の少女に捕まれていた!

悠気
 「なっ!? 何処から!?」

柚香
 「悠気さん……私達は本気なんです……!」

それはユズちゃんと大城だった。
そうか、ユズちゃんの力でテレポートして俺の背後を取ったのか。

琴音
 「若葉君確保!」

悠気
 「これは一体どういうことだ!?」

瑞香
 「ふふ、我ら負け犬が取れる道はもう一つだけ……そう、これが最終計画! 刮目せよ! 悠気を寝取っちまおう計画!」

悠気
 「うおー!? くあーっ!? ざけんなぁーっ!?」

(幸太郎
 「お前らに限って間違いは起きないと思うが……いや、逆だな、むしろ問題を起こしてこい」)

コウタのあの発言がフラッシュバックすると、それは貞操の危機だと理解した。
間違いない、普段まず使わないポケモンとしての力を解放したユズちゃんといい、大城といい、コイツらは本気で俺の貞操を狙っている!

萌衣
 「……さて、後の問題は誰が初めて頂くかよね?」

悠気
 「萌衣姉さん!?」

萌衣姉さんは後ろから屋上に入ってくると、その手には縄が握られていた。
その瞬間、俺は萌衣姉さんも味方じゃないと気付いた。

悠気
 (畜生四面楚歌か!? コイツらこんな暴挙に走るほど追い詰められていたのかよ!?)

瑞香
 「悠気が悪いのよ……だから、私のヴァージン……」

そう言ってスカートを捲る瑞香、その顔は妖艶に笑っていた。
だが……俺はそれよりもその後ろを見ていた。
やがて、その視線に気がついた瑞香が後ろを振り向く。


 「ねぇ……悠気に何をしているの?」

瑞香
 「え?」

それは宵だった。
三日月の羽で推力を得て、まるで反重力で浮かぶように瑞香たちを見下ろす。


 「何をしているって聞いてるの!!」

その瞬間、宵はムーンフォースを容赦なくぶっ放した。



***



突然現れた宵のお陰で俺の貞操は守られた。
だがその代償は、担任室で払わされるのだった。


 「ア、ン、タ、た、ち!!! 私言わなかった!? 問題を起こすなって!!?」

御影先生の怒りっぷりと言えば、正に鬼の形相だった。
そもそも屋上は立ち入り禁止であり、そこで学生が屯して、挙げ句ムーンフォースをぶっ放したのだ。
停学処分ものであるが、なんとか反省文を書くことで許された。

因みにムーンフォースで吹き飛ばされた瑞香たち女子軍団は奇跡的に無傷だった。
宵も一応は考慮したのか、当たらないようにしたのだろう。
問題は激情で制御装置を解除して、技を使ってしまったことだ。


 「はい、ズビバセン……」

もう宵なんて大泣きで、反省文を書かされて、最後まで泣いていた。
こうして女子軍団の最終計画はあっさりと失敗に終わったのだった。


 「あーもう! さっさと帰れガキ共! 学校は遊び場じゃねぇぞ!」

悠気
 「はい、それでは失礼します」

瑞香
 「すいませんでした……」

琴音
 「反省します……」

相当追い込まれていたのか、大城と萌衣先輩は後々顔を真っ赤にしていた。
きっと空気感に流されて、俺を犯そうとしてしまったのだろう。
結果的に逆レイプは未遂に終わり、彼女たちもその罪を追及される事は無かった。
俺達は担任室を出ると、まず瑞香はなぜ失敗したのか宵に聞く。

瑞香
 「ていうかさ? なんであそこに宵がいたわけ?」


 「うーん、なんでか分かんないけど、妙な胸騒ぎがしたって言うか?」

萌衣
 「なにそれ? もしかして未来予知?」

柚香
 「私も多少出来ますけど、でも制御装置を付けた状態では不可能ですよ?」

同じエスパータイプであるユズちゃんは、ある程度宵の能力も分かるだろう。
宵自身どの程度のサイキックを持っているのか分からないが、彼女は自分の力を使い慣れている。
飛行能力といい、ムーンフォースといい完璧に制御しており、そこらの第一世代PKMよりも洗練されているだろう。

琴音
 「運命……なんでしょうか、ご都合主義が過ぎますけど」

悠気
 (運命か……本当にあるのかもな)

俺は宵には説明できない力があるんだと思う。
でなければ、あのピンチに現れられる筈がない。

瑞香
 「はぁ〜、負け犬確定しちゃったし、これからどうしようかしら?」


 「負け犬?」

未だに宵はその辺り意識もしていないのだろうか。
俺は宵を選んだ、瑞香は気丈にも泣きはしなかったが、その空笑いは傷心の証だろう。
大城や萌衣先輩もそうだ。
その顔はやっぱり暗い。

琴音
 「……やっぱり駄目だったね」

柚香
 「う、うん」


 「あのっ、あのね! 皆元気出して!? 私……皆悲しい顔するの嫌だよ……」

宵は事情も分からず、皆を慰める。
それを敗者を追い詰める行為であり、宵はまだ優しさが人を傷つけることを知らない。

悠気
 (俺は間違ったんだろうか……)

今さら、俺はこの結果を後悔する。
ずっと覚悟していたのに、誰かを幸せにするためには誰かを不幸にしないといけないって分かっていたはずだ。
それなのに、選んでしまった事に後悔している。
宵がいなければ、今年も例年通りのクリスマスだったろう。
でも宵が現れたから、皆が動き出した。
この1年、中心にいたのは常に宵だった。
だからこの結果は必然なんだ。

悠気
 「皆、クリスマス、ウチに来るか?」

瑞香
 「えっ?」

柚香
 「悠気さんの家に……?」

皆はハトが豆鉄砲を食らったかのような顔をした。
それは、俺の自己満足だろう。
贖罪にしても、きっと最低のやり方だ。
それでも、俺は嫌なんだ。
コイツらが悲しむ顔を見て、宵まで悲しむのが。

悠気
 (俺は最低だな、宵のためにコイツらを犠牲にしたのに、許されたいと願っている……)

だが、そんな打算の見えた贖罪でも選ばなければいけないのだ。

瑞香
 「はっはっは! こりゃいい! それじゃお世話になりましょうか!」

萌衣
 「……ん、こうなりゃやけ食いね!」

琴音
 「私、お父さんに連絡入れなきゃ」

彼女たちは、そう言うと笑った。
俺の慰めなんて、彼女達には複雑だろうけど、それでも彼女たちも前へと進まないといけないのだ。

瑞香
 「それなら、用意しないとね!」

柚香
 「うん、ただでお世話にはなれないし」

萌衣
 「私も一度家に帰るわ」

琴音
 「それじゃ後で学園前に集合で良い?」

悠気
 「ああ、瑞香は俺の家覚えてるよな?」

瑞香
 「まぁね、昔は結構遊びに行ったものね!」

そうだ、中学の頃から俺と瑞香は仲が良かった。
きっと瑞香はその頃から俺のことが好きだったんだろう。
でも持ち前の攻撃的な性格がそれを素直に出来なかった。
だから文字通り、俺達の恋は遅すぎたんだろう。


 「うふふ」

悠気
 「月代?」

突然、宵が口に手を合わせて笑う。
珍しく見せる大人っぽい仕草に、俺はドキリとした。


 「皆笑顔が一番だね♪」

そう言うと、宵の顔も満点の笑顔だった。

瑞香
 「……こりゃ強敵だったわ、それじゃ解散!」

琴音
 「想っていた時間では負けていなかったのに……ね」

それぞれ、想いは様々だが、こうして校門を出て、それぞれ歩いて行く。
やがて、俺の周りには宵だけが残った。


 「悠気、買い物は?」

悠気
 「人数分増えるな、手数が足りん」


 「じゃ、手伝いがいるね!」

宵はやる気満々だった。
急遽瑞香達4人を招待するのだ、当然買い直さないといけない。
そしてその時間は当初の予定を不可能としていた。

悠気
 (空いた時間でデートを申し込む予定、だったんだけどな……)



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第34話 負け犬達の恋

第35話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/08/27(金) 19:02 )