突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第28話 命日の日



……ここはドコだろう?
周りには霊園が広がっている。
ならばマリエの霊園?
でもそれならば、カプ・テテフが黙っていないはず。
あそこは彼女のテリトリーだ。
一体……ここは?



***



琴音
 「もう! お父さん!?」

12月、寒さが厳しくなってきたこの時期は我が大城家にとっては大きな意味があった。
それはお父さんがお母さんと初めて出会った頃、私が産まれた月、そして……お母さんが亡くなった頃だ。

道理
 「ん……あぁ、朝か?」

休日という事もあり、父のグータラぶりは筆舌に尽くしがたい。
私は容赦なく布団を剥ぎ取った。

道理
 「うおお……寒いぃ」

琴音
 「そうやってガタガタ震える位ならさっさと起きて!」

お父さんにそう言うと、お父さんは渋々起き上がった。
まだ眠いのか眼を擦っている。

道理
 「ふぁあ……! おはよう琴音」

琴音
 「うん! おはようお父さん、ほら掃除するから、退いて退いて!」

道理
 「やんなるぜ……男親ってのは肩身が狭い」

もう! そうさせるのはお父さんなのに!
私は心の中で憤慨しながら布団を丸めていく。

道理
 「メシは?」

琴音
 「用意しているから、勝手に食べて」

私はそう言うと、布団を両手で持ち上げた。
寒いけれど、今日は快晴だし少し早いけど、年末の大掃除だ。




***



道理
 (12月か……嫌なこと思い出すな)

俺は琴音に部屋から追い出されると、キッチンには朝ご飯にラップを掛けて用意されていた。
ご飯はまだ仄かに温かく、琴音の気遣いが分かる。

道理
 「ズズ……美味しい」

俺は味噌汁を頂くと、そう一人呟いた。
味は母さん……奏から受け継いだ正真正銘のお袋の味だ。
琴音は日に日に奏に似てきている。
性格は大分違うものの、やっぱり奏の子で、気配りの上手な優しい子だった。

だけど、それが無性に哀しくもある。
似れば似る程、俺はアイツを忘れるのが辛くなっていき、徐々に奏の記憶が消えて行きそうで怖い。
ましてこの日は……。

琴音
 「お父さん、お墓参り……いつ行く?」

琴音は寝室の掃除を終えると、キッチンに現れた。
俺はその言葉に俯いてしまう。

道理
 「そう、だな……夕方に、でも……」

今日は奏の命日だった。
12月は喜ばしい祝福の月でもあり、同時に忌まわしい月でもある。

琴音
 「……分かった。それじゃそれまでに大掃除終わらせないとね!」

琴音はそう言うと、笑顔で部屋に戻っていった。
普通大掃除は大晦日にする物だが、ウチの場合琴音の誕生日は12月31日なため、慣例的に前倒しする事になっている。
この命日に掃除するって言うのも、そうすれば母さんも喜ぶだろうって、琴音が始めた事だ。

本当は、琴音だって辛い筈だ。
それなのに、全くおくびにも出さず、気丈に振る舞っている。

俺は朝飯をとにかく食べることにした。
食べていれば、多少気は紛れるだろうから。

ルルルル!

道理
 「着信?」

キッチンの片隅に置きっぱなしのスマートフォン。
もうかなりの年代物で、一部じゃアンティーク扱いされている代物が着信を報じていた。
俺はスマートフォンを手に取ると、表示された懐かしい名前に驚く。

道理
 「もしもし、大城ですが、何用で元首相殿?」

電話の相手、それはかつて同僚だった仲の良い男からだった。
名前を夏川慎吾(なつかわしんご)、実に平凡な名前だが、日本国首相にまで上り詰めた凄い奴だ。

慎吾
 『久し振り……その、元気?』

道理
 「歳の割には元気だと思うよ」

電話の向こうの顔は俺には分からない。
だけども声は、その人柄をありありと映し出していた。
俺の皮肉めいた言葉を聞くと、夏川は小さく笑った。
まぁそんな事よりも目的は別だろう。

慎吾
 『それで、さ……あ、常葉はもう連絡した?』

常葉、常葉茂は俺の親友とも呼べる男だ。
ウチの琴音とアイツの娘である命ちゃんは今でも仲が良いし、お互い袂は別れたが、今でも小さく繋がっている。

道理
 「いや、無いな」

常葉はアレでも現役の社長さんだ。
日曜でも仕事に追われたり忙しいんだろう。
しかしそれ聞くと夏川は。

慎吾
 『そうか……うん。あの、それでな? 今日は確か奏ちゃんの命日……だったろ?』

流石ポケモン娘オタク、人の嫁の命日まで覚えているとは、嬉しくて拳を固めるぜ。

道理
 「冥福でも祈ってくれんのか? ありがとよ」

慎吾
 『うん……あのさ、今日会えるかな?』

道理
 「……」

夏川の目的はそっちか。
俺は苛立ってスマホを強く握り混む。
奏がいなくなってから、俺はアイツらと距離を取った。
俺にとって奏は全てであり、それを失った時、世界を呪ってしまったからだ。
夏川も常葉も今を幸せに生きている、俺はアイツらを真っ直ぐ見る事なんて出来ない。

道理
 「申し訳ないが……」

慎吾
 『18時、場所は昔三人で飲んだあそこ、待ってるから!』

夏川の奴、こっちが喋っている間に言いたいこと言って通話を切りやがった。

道理
 「……はぁ」

琴音
 「お父さん、どうかした〜?」

会話が聞こえてきたか、琴音が顔を出した。
俺は首を振ると、立ち上がる。

道理
 「掃除、一人じゃ大変だろう? 俺も手伝う」

琴音
 「もうその前に着替えて! 私その間に洗い物済ませるから!」

……何言っても怒られてるな、俺。
琴音は使い終わった食器を纏めると、洗い場に向かう。
俺は後ろ髪を撫でると、素直に従うのだった。



***



琴音
 「お父さん、やっぱり嫌なのかな?」

正午、お昼ご飯を買いに外に出た私はお父さんのことを心配した。
私だってこの日を迎えることは辛い。
それでも私は前を見て歩いている。
お父さんはずっと後ろを見て歩いている気がした。
ずっと過去に囚われて、周りが心配しても見向きもしない。

悠気
 「――だからだな?」

琴音
 「あれ、若葉君?」

それは若葉君の姿だった。
何やら電話中の用だったが、直ぐに電話を終えると、向こうも私に気が付いた。

悠気
 「大城か、買い物か?」

琴音
 「うん、もしかして若葉君も?」

若葉悠気君、私の憧れの人だ。
私は瑞香ちゃんや宵ちゃんのような勇気はないから、一歩退いた位置にいつもいるけど、きっと好きっていう想いは同じだと思う。

悠気
 「ちょっと用事があってな」

若葉君はそう言うと頭を掻いた。
もしかして面倒ごとなんだろうか。
若葉君は日々平穏を望む大人しい少年だけど、妙にトラブルに巻き込まれるというか……巻き込まれに行くんだよね。
多分根っから良い人だから、面倒を放っておけないんだろう。

琴音
 「用事って……もしかして宵ちゃんだったり?」

私はかなり適当にそう言うと、若葉君は目を見開いた。
どうやら正解みたい。
若葉君って本当に宵ちゃんにばっかり構っているよね。
それはちょっと嫉妬してしまう。

悠気
 「……そう言えば琴音ってエスパータイプだったな」

琴音
 「ノーマルタイプの方が色濃いけどね、あと制御装置あるから読心は無理だよ」

私はそう言うと右腕の腕輪を見せる。
メロエッタのPKMである私はノーマル、エスパータイプ。
エスパーと言っても、そんな超常の能力は使えない。
むしろ、よく若葉君は私のタイプを覚えていたわね。

悠気
 「まぁ、な……月代の奴、期末テストを前にバイトなんて入れてやがるから、アイツ切羽詰まってるみたいでな」

宵ちゃんはまだ喫茶店でアルバイトしているんだ。
生活に困っているようには思えないけど、宵ちゃんは呆れるくらいポジティブで前向きだからなぁ。

琴音
 (私も宵ちゃん位に行動力があれば、今とは違ったのかなぁ?)

まぁあり得ないんだろうけど。
母さんも相当の奥手だったらしいけど、困った事に奥手な部分は私も引き継いでしまった。

悠気
 「……大城って、普段日曜日って何しているんだ?」

琴音
 「普通だよ、お出かけしたりとか、友達と遊んだり」

悠気
 「そうか、案外俺は大城のことを、あまり知らないからな」

うん、それが私達の距離感だよね。
私は必要以上に彼に接近しなかったし、彼も必要以上には来なかった。
お友達とは言えても、それ以上の親しさなんてない微妙な関係。

琴音
 「ねぇ、若葉君は普段どうしてるの?」

悠気
 「俺か? 俺は殆ど家だな……用事があれば出かけるが」

そうか、若葉君ってインドアなんだね。
確かに運動神経で瑞香ちゃんに勝ってる姿見たことないし、身体を動かすの嫌いなのかな?
私もちょっと運動は苦手だけど、もしかして若葉君それ以下だったり?
なんて考えるが、流石に失礼だから止めとこう。

琴音
 「私お昼ご飯の材料買いに来たんだけど、若葉君は?」

悠気
 「俺は幾つか足りないものがあるんでな」

そう言うと、若葉君は目の前のスーパーに向かう。
どうやら目的地は同じのようだ。
私はその隣を歩くと微笑んだ。

琴音
 「若葉君は何が必要なの?」

悠気
 「とりあえず小麦粉だな」

若葉君は料理の腕がプロ並みだ。
特にお菓子作りには天性の才能があるのか、それらに必要な材料が枯渇気味なのかもしれない。

琴音
 「若葉君ってやっぱり料理人目指しているの?」

悠気
 「どうかな……、まぁ選択肢の一つとは思っているが」

琴音
 「私なんてまだ全然将来のこと、分からないなぁ〜」

まだ早いようにも思えるけど、それでも3年生になるまでもう100日を切っている。
先輩方ももうとっくに進路を決めているだろう。
同じように私は進路を決められるだろうか。

悠気
 「大城は音大にはいかないのか?」

琴音
 「うーん、音楽は好きだけど、仕事に出来るかって言ったら私には難しいと思う」

音楽で食っていける人はそれこそ一握りだ。
芸術文化の世界はそれだけ厳しい。

悠気
 「大城なら、アイドルになれそうじゃないか?」

そこで、突然若葉君はとんでもない事を言ってきた。
私は顔を真っ赤にすると、激しく左右に振った。

琴音
 「な、ないない!? わ、私にアイドルは無理だよ!?」

そ、それは私だってアイドルに憧れがない訳じゃない。
歌唱力には自信だってあるけど、女子にとって憧れのアイドルがそんなに簡単な道じゃないって知っているもの。
ましてどちらかと言うと奥手の私じゃ、人前に立つこと自体難易度が高いよぉ〜。

悠気
 「大城ならそこらのアイドルより可愛いけどな……小麦粉は良し、後は……」

琴音
 「か、可愛いいって……本当に?」

若葉君は小麦粉1キロをカゴに入れると、次の目当ての物を探す。
私は真っ赤な顔が恥ずかしくて顔を覆ってしまった。

悠気
 「そりゃ可愛いだろ、学園一の美少女様なんだから」

琴音
 「〜〜〜ッ」

きっと若葉君はお世辞で言っているのだろう。
だけど私は口角が緩んでしまう。

琴音
 (若葉君に可愛いいって言われちゃった♪)

子供っぽいとは思うけれど、お世辞でも若葉君に言って貰えた事が嬉しかった。
私ってこんなに単純だったかな?

悠気
 「大城は何を買うんだ?」

琴音
 「あっ、えと!」

私は言われて思い出し、必要な物をどんどんカゴに入れて行った。
その間にも幾つか言葉を交わしながら、若葉君もカゴに砂糖や塩等を入れていく。

琴音
 「ふふっ」

悠気
 「どうしたんだ? 突然笑って?」

琴音
 「ううん、なんでもないよ♪」

きっと若葉君はちっとも気にしてないのが少し哀しいけど、私はこの状況が嬉しかった。
だってこれって。

琴音
 (買い物デートみたい、だもんね♪)

きっと舞い上がっているのは私だけで、若葉君はいつも通り淡々としている。
感情表現が苦手なのは相変わらずみたいだけど、若葉君って良い人なんだよね。

悠気
 「重そうだな、持とうか?」

琴音
 「ありがとう♪ でも大丈夫、と言うか若葉君の方が重いでしょう?」

若葉君が買うのはs単位の物ばかり、意外と力持ち?
とにかく、多分無意識なんだろうけど、気遣いとかポイント高いよねぇ。

琴音
 (う〜ん、ライバル多いはずだよねぇ)

瑞香ちゃんや宵ちゃんが甘えまくる気持ちが良く分かる。
最大の難点は本人が朴念仁の可能性が高い事だけど……。(苦笑)

私はそうやって、楽しく買い物を終えるのだった。
別れ際、また明日学校でね、なんてたわいも無い会話を交えて、お父さんの待つ家に帰るのだった。



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第28話 命日の日 完

第29話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/07/16(金) 18:00 )