突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第27話 山吹姉妹の想い



柚香
 「ここで隠し味を投入して」

料理部は中間テストを終えて、早速活動を再開していた。
部員は4名、普段は料理の腕の向上を目指し、日々数を熟している。
そしてそれとは別に料理部は他の部へ出前も行っている。
出前は盛況で、部員の技術向上にもなるので、一石二鳥だ。

柚香
 「こっち、後は煮詰まるのを待つだけです!」

部員1
 「オッケー!」

部員2
 「こっち手が離せないんだけど、誰かクッキー2年の担任室にデリバリーお願い!」

柚香
 「じゃ、私が行きます!」

この部活三年がいない代わりに一年も私だけ。
料理の腕は私が一番良いけど、料理部では一番下っ端だ。

私は綺麗に包装されたクッキーの袋を持つと、二年の教室を目指す。

柚香
 (そう言えば、お姉ちゃん……様子が変だったっけ)

私はふと、ここ最近のお姉ちゃんを思い出す。
今回は賭けた事もあり、真面目に勉強してたみたいだけど、それは上の空というか、単に気を紛らわせていただけのような気がした。
お姉ちゃんはしっかり者で、自慢の姉だけど、ただ自分一人で問題を抱え込む所がある。

柚香
 「二年の担任室はっと……」

料理部は1階南棟、二年生の教室があるのは3階の北棟だ。
渡り廊下を越えて、北棟に入ると生徒は既にまばらだった。

柚香
 「ここだ、来年から私もこっちになるんだよね」

私は担任室に到着すると、ノックする。
すると中から長身の女性が現れた。


 「はいはーい♪ お、山吹の妹さんね」

柚香
 「料理部の出前です。クッキーを頼まれたのは?」


 「ああ、それ私♪ 良かったら中でお茶でも飲む?」

柚香
 「いえ、直ぐに戻りますので」

蜘蛛のような黒い目をした先生はクッキーの袋を受け取ると、中に入るかと勧めるが、私は遠慮する。
直ぐに踵を返すと、先生は大きな声で言った。


 「貴方のお姉さん、今グラウンドでなんかやってるみたいよー!?」

柚香
 「えっ?」

突然、姉の名が出てきて私は驚いた。
丁度三階からグラウンドを望むが、その姿は見当たらない。

柚香
 「お姉ちゃん? 今度は何をやったの?」

私は階段を目指し、足早に走る。
1階に降りると、グラウンドを眺めた。
すると、本当に端の方で、姉の姿を確認した。



***


カッキーーン!


 「やったー! ホムーラン!」

悠気
 「ホームランな、お前本当に野球を知らないんだな」

浅木が投げたコースは外角低めだった。
しかしそれは甘く、瑞香のバットが先端を捉えた。
結果文句なしのホームランで、瑞香は悠々と三角ベースを周る。
0−1で俺たちの逆転サヨナラ勝利だった。

瑞香
 「はっはっは! どんなもんよ!?」

浅木
 「そんな……く!」

ここにきて、逆転された気分は最悪だろう。
しかし野球部三人は俺達の前で整列した。

野球部
 「「「ありがとうございましたーっ!」」」

帽子を取り、そう言って礼をする。
俺達もそれに倣って礼をすると瑞香は。

瑞香
 「どう楽しかった? 野球好きなんでしょ?」

小金
 「当たり前だ! でも……そうだな、負けたけど楽しかったぜ」

丹波
 「悔しいが、これじゃ俺達甲子園は夢のまた夢だな」

浅木
 「ああ、だけどやっぱり俺たちは野球が好きだーっ!」

悠気
 (瑞香の奴、なんだかんだでお節介な奴だが、それは相手を真剣に考えるから出来ることなんだよな)

瑞香の良いところでもあり、同時に悪いところだろう。
時に自分で出来ることの限界以上も背負おうとする部分があり、今回なんて正にそうなりかけた。

瑞香
 「あっはっは! 悠気−! 本当に勝てちゃった−!」

瑞香はそう言うと俺に抱きついてきた。
俺は驚くが、本人は全く気にしてなかった。
というか、勝利の高揚感で周りが見えてないんだろう。
月代もニコニコ笑顔で、全く動じてないし。

悠気
 「お前勝つ気で挑んだんじゃないのか?」

瑞香
 「まさか! 勝てるなんて思ってなかったわよ!」

どうやら冗談抜きで、ガチンコで挑んだ結果、勝ってしまった訳か。
本人としてはやるからには本気を出す、でもその上で負けても良いかって考えていたようだ。
驚きだが、そうなると瑞香には野球の才能が野球部以上にあったということか。

瑞香
 「あっはっ! いや〜、疲れた! そうだ! ユズの所にご飯に集りに行きましょう!」


 「あ〜、私もお腹ペコペコかも〜」

月代は大して活躍はしてないが、まぁここまで激しい運動をするのは久々だから減って当然だろうな。
実際俺も空腹感はかなりある。

悠気
 「まぁ、タダで集りに行くのも悪いから、俺が一品作ってやる」


 「おおー、楽しみ〜♪」

瑞香
 「期待しちゃうわよ〜♪ あら?」

ふと、肩に抱きついていた瑞香が何かを発見した。
瑞香は俺から離れると、校舎を覗く。
誰かが走って行ったようだが……。

瑞香
 (今の……もしかしてユズ?)



***



柚香
 「……私っ」

私はグラウンドで抱き合うお姉ちゃんと悠気さんを見つけてしまう。
それは、微笑ましい事なのに私は見てられなかった。

柚香
 (私……やっぱり悠気さんが好きなんだ、諦めたのに……なんでこんなに悔しいの……っ!)

私が悠気さんを好きになったのはまだ小学生の頃だ。
よくあるお姉ちゃんの好きな人を好きになってしまうっていう、やっちゃいけない事だった。
どうして悠気先輩ではないのか? そう聞かれた事もあったが、私は答えなかった。
それが私の細やかな恋心だったからだ。

でも、本当は分かってた。
私がお姉ちゃんに敵わないってこと。
悠気さんはいつだって私よりお姉ちゃんの方を見ている。
私はそんな二人の仲を引き裂くような真似は出来なかった。

萌衣
 「柚香ちゃん!? 泣いているの?」

柚香
 「た、高雄先輩?」

突然慌てたように駆け寄ってきたのは高雄先輩だった。
もう三年生の高尾先輩は部活動もしてないし、残っている意味がないはずだけど?

萌衣
 「一体どうしたの? 良かったら説明してくれない?」

高雄先輩は文化祭以来だ。
でも相変わらず優しそうに微笑んでいた。
そう言えば、高雄先輩も悠気さんの事が好きなんだよね……?

柚香
 「高雄先輩、悠気さんの事どう思ってます?」

萌衣
 「えっ!? 悠気の事!?」

悠気さんの事を話すと高雄先輩は分かりやすい程顔を真っ赤にした。

萌衣
 「ま、まぁ大切な弟みたいには〜……」

柚香
 「私、悠気さんが好きです」

萌衣
 「そう、好き……て、はいぃ!?」

素っ頓狂な声をあげて驚く。
恐らく私と高雄先輩は同じだ。
叶わぬ恋を抱いている。

萌衣
 「あ、あはは〜、そう言う事か〜……察したわ」

高雄先輩はそう言うと腕を組んだ。
お互い好きになった相手が問題なのだ。

萌衣
 「悠気は誰とも付き合っていないと思うけど……負けたと考えている訳ね?」

柚香
 「……はい」

萌衣
 「となると、柚香ちゃんは不利かぁ〜!」

高雄先輩はそう言うと頭を捻った。
そう言えば、この人は既に諦めたんだろうか。
少なくとも、悠気さんにアプローチを掛けているとは思えないけど。

萌衣
 「略奪愛……いや、無理か!」

柚香
 「略奪愛……」

……私は諦めた。
だけど心の内でお姉ちゃんと悠気さんが抱き合うのを見て、穏やかじゃいられなかった。
もし、叶うならば……そこにいるのは私なら良かった。
だけど私にはそんな勇気も行動力もない。

悠気
 「あれ、萌衣先輩にユズちゃん?」

萌衣
 「うにゃおぅ〜!?」


 「あはは〜、変な声〜♪」

しまった、追いつかれた。
幸い悠気さんは私が見ていた事に気付いていないようだけど、お姉ちゃんは?

瑞香
 「ユズ! なんか甘い物作って!」

柚香
 「お、お姉ちゃん?」

突然お姉ちゃんは私の肩に手を回した。
そして顔を耳元に近づけると、小さく囁く。

瑞香
 「悠気と一緒に……ね♪」

柚香
 「〜〜〜〜〜!」

私はその瞬間顔を真っ赤に染め上げた事だろう。
この姉は分かっているのか、分かっていないのか分からない。
だけどお姉ちゃんは満足そうに私から離れると、その手を引っ張った。

瑞香
 「さぁさ! 最終下校時刻までにね!」

柚香
 「お、お姉ちゃん!?」



***



萌衣
 「嫌〜、悪いねぇ〜同伴させて♪」

その日料理部は、騒然とした。
いつもの料理好きの料理部員は俺が現れると狂喜した。
相変わらず部への勧誘が鬱陶しかったが、ユズちゃんと一緒にお菓子を作ると、それで休憩をするのだった。

悠気
 「萌衣先輩、この時期彷徨ってて大丈夫なんですか?」

萌衣
 「まぁ、私はもう進学先決めたし〜、今はのんびり〜みたいな?」

瑞香
 「あ、何処の大学へ?」

萌衣
 「そんな良いところじゃないよ、ただゲーム情報科のある専門学校にね」

萌衣先輩は文化祭後も、ゲーム分野を目指しているようだ。
ゆくゆくはプロデューサーを志望しているみたいで、毎日プログラムの勉強のようだった。


 「卒業か〜、私達来年なんだね」

瑞香
 「そうよ〜? 宵は卒業できるかしら?」


 「うー、頑張る」

月代は良くやっている。
これでも出会った頃に比べれば、恐るべきスピードで成長している。
今では授業について行けるようになって、本人も個人の趣味を開拓しているようだ。

悠気
 「そう言えば、月代ってゲーム好きだよな?」


 「うん♪ 好きだよ♪」

萌衣
 「へぇ〜、月代さんどんなゲームが好きなの?」


 「う〜ん、ロールプレイングゲームかなぁ?」

月代の家のパソコンには古いゲームが大量に入っていた。
月代はそれをちょこちょこ遊んでいるようで、好きとは言うが最新ゲームには触れていなかったりする。

瑞香
 「おっ、オタク談義?」

萌衣
 「オタクって……」

柚香
 「お姉ちゃんもゲームするよね?」

瑞香
 「すると言っても、アプリゲーが殆どだけどねえ」

最近はアプリゲームも進化しているから、侮れないが瑞香は据え置き機を買うほどがっつりはやっていないのだろう。

悠気
 「ユズちゃんは?」

柚香
 「え!? あ、私はこの数独を……」

ユズちゃんが見せたのは数独……かつてナンバーロジックと言われたゲームだった。
シンプルながら難しく、ユズちゃんらしい趣味だな。

瑞香
 「ピクロスの懸賞……あれ難しいのよねぇ」

萌衣
 「でも、完成した時の喜びは言い表せないでしょ♪」

悠気
 (そう言えば俺……ゲームやってないな)

携帯端末にプリインストールされていたソリティア位なら遊んだこともあるが、家事が趣味と化していたし、全く興味を抱かなかった。
改めてこれで良く文化祭に出展できたものだ。

柚香
 「……」

悠気
 「?」

ふと、ユズちゃんの視線が気になった。
彼女は目が合うと、直ぐに逸らすが俺は特に追及しなかった。
ただ、俺は元よりユズちゃんもあまり会話に積極的に加わらないため、いつもの事かと考える。

瑞香
 「ふ〜、美味しかった♪」


 「うんうん〜♪ 悠気の作ったお菓子はやめられないよね〜♪」

皆は軽く食べ終えると、立ち上がった。
時間も最終下校時刻が迫っており、後は帰る準備をするだけだ。

悠気
 「使った調理器具はちゃんと洗わないとな」

俺は立ち上がると、洗い場に向かう。

柚香
 「あ、私も手伝います」


 「それじゃ、先帰るね〜!」

月代は満面の笑みを浮かべて手を振ると、調理室を退室していった。
俺は料理部の中に混じって清掃を始める。

柚香
 「悠気さんって凄いですよね……料理の腕もプロみたいだし」

悠気
 「一応進路の一つとして考えてるからな」

ユズちゃんは俺の隣で洗い物をする。

悠気
 「寧ろユズちゃんは姉と違って凄いと思うぞ?」

柚香
 「お姉ちゃんは……アレで凄いんですよ、私の持ってないもの、一杯持ってるから……」

瑞香とユズちゃんは正反対だが、とても仲の良い姉妹だ。
寧ろ顔はとても似ているのに、何もかもが違いすぎるのだから不思議だ。

柚香
 「あの……悠気さんはお姉ちゃんの事、好きですか?」

悠気
 「……嫌いじゃない」

それはどの程度の意味を持った言葉だろうか。
敢えて好きでもないと言わなかったのは、自分の中に好意があるからだろうか。
ただ、ユズちゃんは微笑んだ。

柚香
 「じゃあ、負けられませんね」

悠気
 「え?」

ユズちゃんは洗い物を終えると、手を拭く。
既に他の部員も清掃作業を終えたようだ。

悠気
 (ユズちゃんは控えめな子だ……それでも瑞香と同じ物を持っている?)

最後に鍵を掛けて、調理室を出るとそのまま俺達は下校する。



***



瑞香
 「ユ〜ズ!」

柚香
 「お姉ちゃん、待ってたの?」

学校を出ると、私はお姉ちゃんと遭遇した。
空が完全に暗くなり、先輩や悠気さんと別れるとお姉ちゃんは駆け寄ってくる。

瑞香
 「ふふ、どう久し振りに悠気と喋ったんじゃない?」

柚香
 「う、うん……」

私は悠気さんの事を考えている。
悠気さんは私よりお姉ちゃんの方が好きだ。
だから1度は身を引くことにした。
それでも、私は彼が好きだった。
例えお姉ちゃんといえど抱き合っている姿を見れば、心穏やかではいられない。

瑞香
 「ユズなら、悠気とお似合いだと思うんだけどね〜」

柚香
 「……! あんまり馬鹿にしないで!」

瑞香
 「ユズ?」

柚香
 「私、お姉ちゃんがずっと羨ましいって思ってた。私の欲しいもの一杯持ってて……でも、悠気さんはお姉ちゃんでも渡せないんだから!」

お姉ちゃんは私の啖呵を聞くと、腰に手を当てて微笑んだ。

瑞香
 「……言うようになったじゃない、それでこそ我が妹よ!」

勿論いくら口にしても、お姉ちゃんとの差が埋まりはしない。
私はお姉ちゃんの事が大好きだけど、悠気さんはお姉ちゃんに渡したくない。

柚香
 「お姉ちゃん、勝負だよ!」

瑞香
 「ははっ! やらいでか!」



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第27話 山吹姉妹の想い 完

第28話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/07/09(金) 18:12 )