突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語 - 突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第25話 山吹姉妹の学園風景



瑞香
 「おはよ〜♪ あ、おはよう〜♪」

柚香
 「……」

お姉ちゃんは今日も元気に行く先々で挨拶している。
私と違ってお姉ちゃんは積極的で社交性があるから、こうやって登校中は色んな人が挨拶してくる。
それは学生だけじゃなくて、道すがらのお爺さんやお婆さんにも。

瑞香
 「お、悠気発見〜♪」

柚香
 「悠気さん?」

お姉ちゃんは悠気さんの後ろ姿を発見すると、足早に近寄る。
私はその後ろを離れないようについていく。

瑞香
 「悠気〜、おはよう〜!」

柚香
 「おはようございます悠気さん」

私達が後ろから挨拶すると、悠気さんは振り返った。

悠気
 「二人ともおはよう」


 「おはよう〜♪」

柚香
 「宵さんもおはようございます」

私達四人はいつものように一塊になると、姉さんはいつものように悠気さんの直ぐ横で捲したてる。
私はその後ろでそれを見ていた。
ただ、楽しそうに笑顔で話す姉さんを眺めるだけ。

幸太郎
 「相変わらず騒がしいな、お前たちは」

悠気
 「お、コウタ、おはよう」

瑞香
 「おはよう百代!」


 「おはよう〜♪」

柚香
 「おはようございます百代先輩」

やがて最後に百代先輩が合流した。
これでいつものメンバーは全員揃ったと言える。
今は中間試験の時期だから百代先輩も朝練がないみたい。

瑞香
 「ねぇねぇそう言えば、テスト勉強の方はどう?」


 「う〜、今勉強中〜」

悠気
 「付け焼き刃はやめておけと言うに」

幸太郎
 「同感だな、赤点を取らない程度なら授業を聞いていれば十分だろう」

瑞香
 「ふふ、よーし宵、次の中間は勝負よ!」


 「えー? 賭けは無しだよ〜?」

お姉ちゃんは良く小さな事を賭け事にするから、宵さんは嫌がった。
お姉ちゃんも賭ける物は、お昼ご飯のおかずだとか、些細だけどとにかく賭けるのが好きだからね。
そのうち賭博黙示録ミズカとかスピンオフが始まらないといいけど……。

幸太郎
 「柚香ちゃん? 最近ずっと後ろにいるな?」

柚香
 「え?」

私は突然それを指摘されて驚く。
まさか百代先輩が私のことを見ているとは思わなかった。
私は昔は悠気さんの隣にずっといた、それこそ宵さんもいなかった頃は。
だけど私はもう悠気さんの隣にいる訳にはいかなかった。
悠気さんの隣にはお姉ちゃんがいるから。
お姉ちゃんなら絶対に悠気さんと上手くいくって信じてるから。

幸太郎
 「……とやかく言えるほど、俺は君を見ていた訳じゃない。だが遠慮ばかりしていても良いことはないぞ?」

柚香
 「いいんです……私は諦めたから……」

私がそう言うと、百代先輩は何も言わなかった。
そう、私はお姉ちゃんと同じ人を好きになってしまった。
だけどそれは両方が得られる物ではなかった……だからお姉ちゃんに譲ろう。
私なんか、あの隣にいるのも烏滸がましいから。

幸太郎
 「姉の方は気付いているのか?」

柚香
 「……」

私は首を振る。
お姉ちゃんには何も言っていない。
勘のいいお姉ちゃんの事だから気付いている可能性もあるけれど、お姉ちゃんは何も言ってはこない。
お姉ちゃんからしたらライバルが一人減った位だし、丁度良いんだろう。

瑞香
 「……」

悠気
 「? どうした瑞香?」

瑞香
 「ん〜、なんでもない」

気が付くと学校が見えてきた。
いつものように高雄先輩が校舎に駆け込んでいくのを見ると、私達は別れる。
代わりに声をかけてきたのは。


 「柚香ちゃん、おはようなのです!」

柚香
 「おはよう命ちゃん」

同じ1年生で同じクラスの命ちゃんだ。
今日も元気いっぱいのようで、彼女は私の前を歩いた。


 「柚香ちゃんはテスト勉強はしてますか?」

柚香
 「うん、予習程度だけど」


 「私は予習も復習もバッチリなのです! お父さんにも満点とって褒めてもらうのです!」

柚香
 「はは……相変わらずだね」

命ちゃんのファザコンっぷりは学校内でも有名だ。
本人も隠す気もないし、なまじマイペースだから皆生暖かい目で見るようになったよね。
それにしても命ちゃんの凄いところって、運動神経だけじゃなく、頭もいいってこと。
私は平均より頭はいいけど、でも命ちゃんには敵わない。
だからといって命ちゃんはなにも授業もロクに聞かず満点出せる天才ではない。
なんでも真面目に取り組んで、努力していく天才だ。
所謂並外れて吸収力が高いのが命ちゃんの特徴だ。

柚香
 「命ちゃん、凄いよね」


 「まだまだです! 目指せメンサ!」

柚香
 「それって人類の上位数%の知能を持っている人が会員になれるっていう?」

あれって東大なんかを上位で卒業するような人達だったよね……。
命ちゃん目指している所が凄いなぁ。


 「というか、柚香ちゃんは私にないもの一杯持っているのに、それを卑下しすぎです!」

柚香
 「良い所って……?」


 「身長! それと料理が上手です!」

相変わらず身長コンプレックスだね……。
私も平均より下なんだけど、それでも学年最下位クラスの命ちゃんには羨ましいのだろう。
それと料理だけど、命ちゃん唯一の弱点が料理なんだよね。
なぜか出来ない、これが正に不思議だ。


 「あ、教室です! それじゃまた後でです!」

柚香
 「うん」

教室に入ると直ぐにチャイムが鳴った。
私は席に座り、ホームルームを待つ。



***




 「琴音〜、ここ教えて〜」

琴音
 「え? えーとそこは……」

悠気
 「飯の時まで勉強か」

そろそろ寒さがキツくなってきたこの頃だが、俺達は律儀に中庭で昼飯を食べていた。
一年中ずっと外で食べる大城には感服するが、そろそろ瑞香辺りは厳しそうだな。

瑞香
 「寒ぅ……まだ11月でしょうに」


 「もう11月だよ〜、中間終わったら、すぐ期末テストだよ?」

琴音
 「あはは、宵さんは赤点取らないように頑張らないといけないもんね」


 「それもあるけど、瑞香に負けたくないもん」

瑞香
 「ふふふ、賭けた時の私は強いわよ〜?」

柚香
 「お姉ちゃん……」

結局月代は中間をダシに宵と賭けをすることになった。
柚香ちゃんも呆れてるが、まぁ瑞香だからな。

柚香
 「因みに賭けの報酬は?」

瑞香
 「負けた方が罰料理食べるの♪」


 「うう〜、絶対ヤダ〜……」

宵は意外と舌が肥えているから、不味い物には敏感だ。
まして瑞香なら何を用意してくるか分からないから、泣き言言いながら勉強を頑張っている。

琴音
 「所で、宵さんどうして私に聞くの? 若葉さんに聞けば良いんじゃ?」

瑞香
 「それは反則行為として禁止よ」

悠気
 「だ、そうだ」

宵と瑞香の成績は五分五分だ。
故に今回は俺が手出し無用と言う事になった。
最も瑞香は月代が俺の隣の家に住んでいることを知らないんだよなぁ。
まぁ瑞香もユズちゃんと一緒に住んでるんだから、教えて貰っているだろう。
下級生に聞くというプライドを捨てなければならないが。


 「だーかーらー!」

瑞香
 「うん、この煩い声って……」

俺達は突然響くやたら喧しい声に振り向いた。
その甲高く耳障りな声はある意味俺達2年には馴染みのある物だった。

鈴音
 「分かっているのか貴様らはー!?」

瑞香
 「やかま詩子、じゃなかった、白雪鈴音じゃん」

現生徒会会長の白雪だ。
秋の終わりだというのに未だ半袖で、一番寒そうな姿をした少女はけたたましくなにか叫んでいた。
どうやら相手は……野球部か?

琴音
 「一体どうしたんだろうね?」


 「うう、煩ーい」

悠気
 「お前は食うか、勉強するかどっちかにしろ」

さっきからギャアギャア確かに白雪の声は煩い。
とはいえ関わる程面倒な事もないのが事実だ。

悠気
 「さっさと片づけないと、午後の授業に間に合わんぞ」


 「う〜」

宵は呻き声をあげながら、弁当を急いで食べる。
やがて、白雪も喋り終わったのか、踵を返して校舎に向かうと、数人がとぼとぼと近づいてくる。

瑞香
 「ねぇー、アンタたち野球部でしょう? 一体どうしたの?」

瑞香の奴、持ち前のお節介しいを発症しやがった。
俺は頭を抱えるが、瑞香はズイズイいくだろ。

野球部員
 「陸上部の山吹か……知ってるだろう? ウチが弱いの」

瑞香
 「まぁね、ウチのスポーツ部で強いのって言ったら陸上部に柔道部、あと剣道部ってとこだしね」

野球が精力的な高校は多いが、それが盛況かと言えばその限りではない。
特に近隣に強豪校なんかがあったら、大抵の学生はそっちに行くものだ。
そしてウチは典型的なそんな学校だ。
特に野球部が弱いのは有名で、たしか部員はギリギリ9人って話だったが。

野球部員
 「次の練習試合で結果を出せなきゃ廃部だって言われたんだよ、俺達は直訴したんだが結果は駄目だった……」

瑞香
 「それがさっきの光景か、んで調子はどうなのよ?」

野球部員の男達はその言葉に苦笑した。
そこから出てきた言葉は衝撃的だった。

野球部員
 「実は6人退部しちまって残りは俺達しかいねぇ」

瑞香
 「はぁ!? それどうやって練習試合すんのよ!?」

野球部員
 「無理だよ……ただでさえこの時期だぜ? 今更6人集めるなんて……」

悠気
 「来年なら兎も角な……」

瑞香
 「だから直訴してた訳ね……」

野球部員
 「まぁ結局駄目だったからな……どのみちウチに野球部は必要ないってことさ」

野球部員達はそのまま寂しい足並みで校舎に入っていく。


 「……私よく分からないんだけど、楽しくやっちゃ駄目なのかな〜?」

宵の奴はいつの間にか食べ終えていると、そう呟いた。
闘争心とかが極端に薄い宵だと、競う系はトコトン苦手だ。
そういう意味では勝ち負けを追求するスポーツはまず無理だろうな。
萌衣姉ちゃんでも、大雑把そうで記録伸ばすのにナイーブになって退部してるからな。

琴音
 「難しいね、同好会って訳じゃないから」

瑞香
 「……」

柚香
 「お姉ちゃん?」

瑞香
 「……やめ、やっぱり無理ね」

なにが無理なのか。
それだけ言うと瑞香は立ち上がる。

瑞香
 「ここは寒いし早く戻りましょう!」

悠気
 「そうだな……もうすぐ昼休憩も終わるからな」

琴音
 「それじゃ急いで片づけないと」

柚香
 「そうですね」

俺達はすぐに荷物をかたづけると、教室に戻る。
その間瑞香はずっと難しい顔をしていた。
なんとなく予想できるが……そこまでお人好しかね?



***




 「はいはーい、皆寄り道せずに帰るのよー!」

放課後、もうすぐ中間テストという事もあり部活もなく皆帰る事が出来る。
とりあえず俺はやることもないので、さっさと鞄を手に取るのだが。

瑞香
 「悠気、ちょっと付き合ってー」

悠気
 「なに?」

瑞香は鞄を持つと、真っ先に俺の元にやってきた。
どういうことか、俺の言及も待たず瑞香は俺の手を取った。

瑞香
 「グラウンドに来て」

悠気
 「グラウンドに?」

俺はとりあえず瑞香から手を放すと、その後ろをついていく。



***



グラウンドに出ると、テスト期間という事もあり、当然生徒はいない。
一体瑞香はどうする気なのか……そう思っていると、おもむろにグラウンドの倉庫を開いた。

瑞香
 「実は鍵掛かってないのよね〜」

悠気
 「暴露しやがったな、セキュリティ大丈夫かよ」

瑞香は陸上部だけあって慣れているようで、やたら臭いの篭もった倉庫の奥に入ると、突然此方に何かを投げつけた。

悠気
 「これは、グローブ?」

それは野球のグローブだった。
瑞香はグローブを手に嵌めると、ボールを投げてきた!

悠気
 「おい!?」

俺はなんとかグローブで捕球するが、瑞香の奴何考えてやがる!?

瑞香
 「ん〜? 私って才能ある方?」

悠気
 「は? 才能って……」

瑞香
 「ボール!」

瑞香はグローブを掲げるとボールを待った。

悠気
 「たく、お人好しめ!」

俺はそう言うとボールを返す。
ボールは瑞香のグローブに吸い込まれ、瑞香はそれを確認すると。

瑞香
 「ふむ、初めての割には……か」

瑞香は感触を確かめながら外に出る。
そのまま俺から距離を取ると瑞香はピッチャーのようなフォームを取る。

悠気
 「お前まさか!?」

瑞香
 「そぉい!!」

瑞香はボールを思いっきり投げると、俺は胸にきたボールをなんとかグローブで受け止めた。

悠気
 「く……、いきなり全力投球するな!?」

瑞香
 「おー! 私って結構やれるじゃん!」

俺は冷や汗を流し、全力で抗議するが、瑞香は全く悪怯れない。
むしろ好感触を抱いたらしく上機嫌だ。
瑞香の奴、どうやら本気で野球をする気らしい。
そしてそれを見ていたのか、ある奴らがいた。

野球部員
 「山吹!? お前何をやっているんだ!?」

瑞香
 「なーに暇つぶしよ!」

悠気
 「野球部、お前たちこそ今は部活はない筈だが?」

野球部員
 「……それは」

瑞香
 「大方、練習がどうしてもしたかったんでしょう?」

野球部員
 「く……! それよりなんで山吹が野球やってんだよ!?」

瑞香
 「だ〜か〜ら! 暇つぶし!」

瑞香の奴、多分いつものお節介しいが出てしまったのだろうが、素直じゃないな。
俺はボールを瑞香に返す。

瑞香
 「それじゃ、次はもっと鋭く行くわよ!?」

悠気
 「頼むから暴投はするなよ!?」

俺はキャッチャーのように構えると、なるべく変なコースに来ないことを祈る。
何せ俺達は素人だ、瑞香の運動神経は評価するが、だからといって信用出来るわけじゃない。

瑞香
 「ひっさーつ! ○ェノサイドスクリュー!」

ズバン!

必殺とは言うが、ただのストレートだ。
しかしマジでさっきより速くなってる。
それには野球部員も目を見開いた。

瑞香
 「どうよ!? 本職!」

野球部員
 「なかなかやるようだが……それ位のストレートじゃ、話にならん」

瑞香
 「なにをー!?」

悠気
 「ほら、ボール!」

瑞香
 「おっと!」

俺がボールを返すと、瑞香は慌ててそれを受け取った。
ボールはかなり暴投のなってしまったが、それでも取るのだから瑞香はよくやるよ。

瑞香
 「む〜、こうかー!」

瑞香は思いっきり振り上げると、その勢いのままぶん投げる。
今度は大暴投、三球目でついに瑞香もボロが出てきたか。

瑞香
 「ちゃ〜!?」

野球部員
 「いい加減にしとけ、それじゃ肩を壊すぞ?」

瑞香
 「む〜……」

瑞香は肩をブンブンと回す。
身体は猫のようにしなやかで、インナーマッスルは特によく鍛えられている瑞香はそう簡単には壊れないだろう。
しかし野球、特にピッチャーは肩に大きな負担が掛かる。
身体のことを考えて投げないと瑞香でも危険だろう。

瑞香
 「……はぁ、分かったわ。やめる」

瑞香はそう言うと、グローブを外す。

野球部員
 「一体なんで暇つぶしに野球を選んだんだ?」

瑞香
 「さぁね」

瑞香はそう言ってはぐらかすとグローブを野球部員に投げつけた。
多分だが、瑞香のことだから次の練習試合をやらせてあげたいと、考えたんだろう。
でも冷静に考えて無理だろ。
帰宅部の俺ならともかく、瑞香は陸上部、そもそも畑が違う。

瑞香
 「む〜」

結局瑞香はそのまま、顔を膨らせたまま帰宅するのだった。
俺には瑞香の考えている事がなんとなく予想できても、それに対して的確なアドバイスなんて出来はしない。
ただ、なんとなくこの後アイツはやらかすんじゃないか。
そんな不安なのか、期待なのか分からない予感を持ちながら、中間テストは差し迫るのだった……。



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第25話 山吹姉妹の学園風景 完。

第26話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/25(金) 18:05 )