突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第24話 好きという真実



育美
 「嵐の中で輝いて、その夢を諦めないで〜! 傷付いた貴方の背中の天使の羽根そっと抱いて〜、愛を確かめたい〜!」

悠気
 「母さん……酸素欠乏症に……!」

みなも
 「こんな古臭い回路を!」

育美
 「えっ!? なにこの対応!? 私ってネタを振っちゃ駄目なの!?」

久し振りに家に帰ってきた育美様。
何やら酔ったように歌っていたので、私達は総突っ込みする。
どうやら私にもネタの神様はいたようですね。

育美
 「うえ〜ん! お母さん悲しいよぉ〜!」

そう言って嘘泣きする育美様。
本当にこの人ユウさまの親なんでしょうか?
普段はちゃんとした大人なのですが、どうも外で気持ちよく飲んできたようですね。

みなも
 「ユウさま、育美様は私が対応しますので、ユウさまは先にお風呂に入ってください」

悠気
 「ん、了解」

育美
 「あ〜ん! 悠気〜、一緒にお風呂に入りましょ♪」

ベロンベロンに酔っているのか、育美様はフラフラと千鳥足でユウさまに抱きつこうとするが、私は育美様を抱き留める。
育美様は私より身長が高いから、ジタバタ暴れる育美様を抑えるのは大変だ。

育美
 「むぅ〜、なんで邪魔するの〜?」

みなも
 「ユウさまに迷惑です。ユウさまのためならば例え育美様でもお止めます」

育美
 「ぞっこんって奴ね」

ユウさまはその隙にお風呂場に向かう。
ユウさまの姿が完全に見えなくなると、育美様は急に大人しくなる。
私はそんな育美様をテーブルに運ぶと、育美様はテーブルに顔を埋める。

育美
 「……ねぇみなもちゃん、悠気との仲はどう?」

みなも
 「いつも通りです」

育美様ったら泥酔していても聞くことが同じですね。
本当に公私でギャップの激しい人です。

育美
 「ふふ、本当に?」

育美様は頭だけを回してそう疑ってくる。
私はコップに水を汲むと、それを育美様の前に置いた。

みなも
 「どういう意味でしょうか?」

「ありがと」、育美様はそう言うと水を一気に飲んだ。
私は隣には座らず、あくまで傍に立っていると、育美様は言った。

育美
 「なにか変化はなかった? 例えば悠気の様子が変わったとか?」

みなも
 「ユウさまですか……それ程でも」

ずっとユウさまを見てきたけど、特にこれといって変化はあったろうか?
寧ろ私の方が変わっている気がする。
最近はユウさまに尽くそうと思った事が変化してきた。
だけど、育美様はそんな私を見て怪しく微笑んだ。

育美
 「悠気とは一緒にお風呂に入った?」

みなも
 「い、いえ!? まだ早いかと……」

以前日曜日のこと、ユウさまとデートに出かけて、ラブホテルの前まで行ったのですがユウさまに拒否されてしまい、それ以来そういう事はしていない。
しかし育美様はニヤニヤと笑って腕を絡めてくる。

育美
 「それは諦めよ? ほら……一歩を踏み出さないと、ね?」

みなも
 「〜〜〜!」

つまり今からお風呂場に突撃しろと?
し、しかしそれでユウさまに嫌われでもしたら、私は二度と立ち上がれない気がする!
だけどこのままでいいのか?
このままずっと仲が進展しないままで本当に満足なのか?

育美
 「私、早く孫の顔が見たいわぁ〜♪」

みなも
 「わぁぁぁぁぁ!!?」

私もユウさまの赤ちゃん欲しい!
悪魔(育美様)の囁きに心を躍らされながら、私は逡巡する。
もはやどうすればいいか分からず私は頭を抱えた。
そんな私の肩を後ろからポンと叩いたのは悪魔(育美様)だった。

育美
 「大丈夫♪ 孫の面倒は私が見るから♪」

みなも
 「みなも、吶喊します!」

私は悪魔(育美様)にそそのかされて、もう訳が分からないままお風呂場に突撃した。



***



ガタガタ!

悠気
 「……なんだ?」

何やら外が煩い。
俺は湯船に浸かりながら、外を見ると影が……。

ガタン!

みなも
 「ユウさま!!」

悠気
 「ファッ!? みなもさん!?」

当然みなもさんが浴室に突入してくる!
俺が混乱の中戸惑っているとみなもさんは顔を真っ赤にしながら。

みなも
 「私に赤ちゃんを産ませてくださいっ!」

悠気
 「なにそそのかしてんだ母さーーーん!!?」



***



ドタドタドタ! バン!

悠気
 「母さん!? みなもさんに一体何をした!?」

俺は風呂から飛び出すと、下だけを隠しテーブルに突っ伏した母さんに問い詰める。

育美
 「あら〜、もう終わったの? 早漏ねぇ〜?」

悠気
 「ヤってないから! あと勝手に早漏って決めつけないで!」

育美
 「大丈夫よ♪ お父さんも初めては早かったもの♪」

悠気
 「アンタって奴はァーッ!?」

今回だけは親父も哀れに思う。
なんでこの悪魔は実の夫の初めてを暴露しているんだろう。
俺だったら泣くぞ?
この悪魔一体何を考えてんだ!?

育美
 「ねぇ? 悠気はみなもちゃんが怖いの?」

悠気
  「ど、どういう意味だよ?」

母さんは顔が紅く酔っているはず。
しかし時折見せる真剣な眼差しに俺はたじろいだ。

育美
 「どうしてみなもちゃんの想いを受け止めてあげられないのかな? それって怖いって事でしょう?」

悠気
 「っ! みなもさんの想い……!」

俺はそれを受け止めるのが怖い?
確かに俺はそれを受け止められないでいる。
それって怖いって事なのか?
でもなんで? なんで俺は怖いんだ?

悠気
 「お、俺は……」

みなも
 「ユウさまに、答えを急がせる必要はありません!」

育美
 「あら、もう上がったの?」

俺が言葉に澱んでいると、一部始終を見ていたみなもさんが言葉を挟み込む。
みなもさんは湯上がりの格好のまま、母さんに詰め寄った。

みなも
 「私はユウさまとの将来は求めますが、ですがユウさまはまだ高校生です……。私はやはりユウさまの意思を尊重します……」

育美
 「……ふぅ、分かったわ……母さん急ぎすぎたみたいね」

母さんはそう言うと立ち上がる。
もう寝るのだろう、なんだかんだで帰りが遅かったし、きっと疲れているのだろう。

育美
 「二人とも、風邪を引かないように温かい格好でいなさいよ?」

みなも
 「……畏まりました」

悠気
 「……」

母さんはそう言うと1階の自分の寝室に入っていく。
俺は俯いて、みなもさんとは目を合わさなかった。
一体どうして俺はみなもさんを怖れるのだろう?
この感情は一体何なんだ?

悠気
 「着替えたら、俺も寝ます」

みなも
 「はい、おやすみなさいませ、ユウさま」

俺は着替えを取りに戻ると、そのまま部屋に向かうのだった。



***



悠気
 「……はぁ」

俺は部屋に戻ると、月代の部屋を見た。
窓の向こうに住む月代はいつも通りこの時間はもう就寝している。
話し相手を期待していた訳ではないが、俺は溜息をつくと部屋の電気を消して、ベッドに倒れ込む。

悠気
 (あの感じ……そうだ、月代にも同じ事を思った)

俺は心の中で月代のことを好きだと認めているのに、アイツの顔を見れない時がある。
俺はその時もこの感情の答えを知らなかった。
それは本当に恐れなのか?
一体みなもさんや月代に何を怖れている?

悠気
 「なぁ……月代は分かるか?」

俺は一人そう呟いた。
だけども向こうからの返事は期待していない。
実際早寝のアイツがこの時間帯に起きるのを見たこともないし、ほぼ独り言だな。
寂しい奴だが、話し相手を求めているのかね、俺は。

悠気
 「月代は俺のことどう思ってる?」


 「好き〜」

悠気
 「!?」

俺は慌てて起き上がると、窓を開けて月代の部屋を覗き込んだ。
すると、月代はカーテンも掛けず、プカプカとベッドの上を浮かんでいた。


 「ハンバァ〜グ〜……大好き〜……ふひひ♪」

……寝言だった。
つか、コイツ寝る前に制御装置をオンにするの忘れていやがったな。

悠気
 「たく……なんなんだよ、お前は?」

俺は急に可笑しくなった。
月代はしっかりしてきてきたようで、未だ抜けている。
どうにも俺が見ていてやらないと、コイツは心配だ。

悠気
 「頭打つから、制御装置はオンにしとけって言ってるのに」

ほぼ無意識で飛べる月代は寝ぼけると天井に頭をぶつける奴だ。
さすがに技をぶっ放すことはないが、完全にないとは言い切れない危うさがある。

悠気
 「はは、もう寝よう……明日も早いんだからな」

俺はそう言って窓を閉めると、毛布を被り横になる。
アイツ……あのままで風邪を引かないか、心配だが自業自得なので、俺は放っておく。
訳の分かんない事で頭をモヤモヤさせるのはやめよう。
母さんがなんであんなに急いでいるのか俺には分からないが、どうせ気まぐれだろう。
特に泥酔状態の母さんは手がつけられないし、きっと明日にはコロッと忘れているだろう。



***



みなも
 (育美様……一体どうされたのでしょう?)

私は家の戸締まりを確認して、2階の寝床に入ると、ベッドの中で育美様とユウさまの事を考える。
育美様は常々冗談交じりに私に早く結婚して欲しいや、孫を見たいと言ってきたが、今日ほど押してきたことはなかったと思う。
それには私もユウさまもタジタジで、本当に迷惑でした。
勿論育美様にはご恩があり、それを返すつもりですけど、どうして急ぐのでしょう?
育美様は本来聡明なお方、周りからの信頼も厚く、決して独り善がりな事はしない人の筈です。

みなも
 (ユウさまも……本当のところはどうなんでしょうか?)

私はユウさまの事を愛している。
この想いは誰にも負けない。
でもユウさまにとって私は何番目だろう?
どうしてユウさまは躊躇うのか。
もしかしたら私はユウさまにとってどうでもいい存在なのだろうか……。

みなも
 「……っ!」

私は掛け布団の裾を強く握る。
駄目だ、こんな事を考えていたら私は潰れてしまう。
ユウさまはなにがあっても私にとって最も大切なお方。
これ以上考えるな……!



***



朝、いつものように日が昇る。
若葉家の朝は早く、私が朝の支度をしていると育美様が寝室から現れる。

育美
 「ふぁ……おはようみなもちゃん」

みなも
 「おはようございます、育美様」

育美様は軽く欠伸をされると、そのまま洗面台に向かった。
私はユウさまのためにお弁当を仕込んでいく。

育美
 「ねぇみなもちゃん、今楽しい?」

みなも
 「? 楽しいですよ」

育美様は顔を洗ってきたのだろう。
顔をタオルで拭き、不思議な事を聞いてきた。
私は別に家事が嫌いではない。
寧ろユウさまのためと思えば喜んでやっている位だ。


育美
 「そう、それなら良いけど」

みなも
 「なにか仕事上に問題があるのでしょうか?」

育美
 「ううん、そうじゃないんだけど……無理してないかなって」

みなも
 「無理? 無理なんてしてませんよ……」

私はそう言うとお弁当を仕上げる。
次は朝ご飯の用意だ。
だけど、それは育美様がエプロンを着けて横にやってくる。

育美
 「今日は私がするから、休んでて良いわよ?」

みなも
 「しかし……」

これは私の仕事だ。
だがそれは雇用主に言える事ではない。
ただ、私は家事をしていないと落ち着かない。
そんな風にぐずついていると。

育美
 「やっぱり無理してるわね、少し休んで視野を広げなさい」

みなも
 「視野、ですか?」

育美
 「家事をしてないと落ち着かないんでしょう? それってきっと色々考えちゃうからよね」

みなも
 「っ!?」

育美様は私を退かし、朝ご飯の用意を始めると、私は何も出来ず黙った。
そうだ、家事をしていたら忘れられる。
なにもしてないとユウさまの事を考えて仕方がない。

育美
 「私にも十分非がある訳だしね……、みなもちゃんにはただ幸せになって欲しいのよ」

みなも
 「私は幸せです……」

そうだ、奴隷として娼婦をさせられていた頃に比べれば今はどれ程幸せだろう。
だけど育美様は暗い顔をした。
それは私を憐れむように、自分を責めるように。

育美
 「ごめんなさい、私は貴方に色々強要してしまったかも」

みなも
 「そんな事ありません……」

どうして育美様が謝るんだろう。
私には道を用意してくれた事でさえ感謝なのに

みなも
 「私は人並みの望みは必要ありません、こうやって家政婦をさせていただけるだけで十分です」

育美
 「そう……」

育美様の手は止まらない。
会話しながらでも、完璧に熟していく様は流石だ。
しかしやはり育美様は昨日のことを気にしているのだろうか。
私は気にしていない、実際私の本音はユウさまと添い遂げる事だ。
それを後押しした育美様に責任はない。
ただそれがユウさまには逆効果で、私はユウさまのなんなのかについて考えてしまっただけだ。

育美
 「……よしっと。悠気を呼んできてくれる?」

みなも
 「畏まりました」

育美様は朝ご飯の用意を終えると、それをテーブルに並べていく。
私は2階に登るとユウさまの部屋を念のためノックした。



***



コンコン。

みなも
 「ユウさま、朝ご飯です」

悠気
 「ん、了解!」

いつもの時間、俺は学生服に着替えていると、みなもさんが伝えに来た。

悠気
 (みなもさん……か)

俺はふと、みなもさんを意識してしまう。
みなもさんは俺のことが好きなんだろう。
俺は素直に嬉しいし、そして俺もみなもさんが好きだ。
それは間違いない、だけどなにか齟齬がある。

悠気
 「……みなもさん!」

みなも
 「はい?」

俺は着替え終えると、扉を開いてみなもさんに叫んだ。
みなもさんは不思議そうに振り返る。
今の俺に、素直に答えられるのは……。

悠気
 「ん」

俺は不意打ち気味にみなもさんの唇を奪った。
みなもさんはいきなりのことにビックリしたのか、目を見開いて身体を硬直させる。

みなも
 「んんー!?!?!?!?」

悠気
 「みなもさん、俺がみなもさんの想いにずっと答えないのはアンフェアだと思う……だからこれが俺の今の答え」

俺は数秒のキスから、唇を放すと大真面目に自分の気持ちを答えた。
するとみなもさんは涙を目に浮かべると。

みなも
 「ゆ、ユウさま……私も愛してます!」

みなもさんはそう言うと俺に抱きついてきた。
正直俺の中に得体の知れない恐怖がある。
だが、俺はみなもさんを裏切れないし、好きだって言うのも真実なんだ。

育美
 「ニヤニヤ〜」

気が付くと、いつまでも降りてこない俺達を見に来た母さんが階下から口元に手を当てニヤニヤ笑っていた。
俺は慌ててみなもさんを引き剥がした。
顔面は真っ赤になった事であろう。

悠気
 「か、母さん!」

育美
 「いや〜、ラブラブね〜♪ 最初は女の子がいいな〜?」

みなも
 「ま、まだ早いですから!?」

……結局、その後も母さんは執拗に俺とみなもさんをからかうのだった。
だが、この答えが俺を前進させたと思う。
今すぐ誰かと添い遂げろと言われても、今の俺には答えられない。
それでもいつかは答えないといけないのだから。



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第24話 好きという真実 完。

第25話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/18(金) 18:31 )