突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
SP09



悠気
 「ニアさん大丈夫!?」

ニア
 「問題ない! それよりもうすぐよ!」

俺達は危険な街を駆け抜け、宵達の居る避難地区へと到達した。
そこまでには群がる怪物たちが押し寄せ、俺達はなんとか突破して、スフィアの前まで来た。

ヘイト
 「ようこそ特異点……」

ニア
 「ヘイト!?」

スフィアの前には中東風のフードで全身を覆ったヘイトがいた。
差し詰め最後の番人か、ヘイトはくぐもって見えない瞳で俺を捉える。

ヘイト
 「誤算でしたよ、まさか上級ミニオンが早くも私だけになるとは」

ニア
 「答えろヘイト、ライは何者だ? どうして私の知っているゾロアークの姿をしていた?」

ヘイト
 「簡単なこと、我々上級ミニオンはネクロズマの深層意識にある物が姿を形取った物、故に我らにオリジナル性はなく、あくまでもレプリカポケモンに過ぎない、それがミニオンだ」

悠気
 「レプリカ……」

ヘイトは淡々と語るがそれって、こいつらは軍隊アリみたいな物って事か?
もしかしたら自分で考える意思さえなく、ただプログラムされた行動だけを行うように。

ヘイト
 「無駄話はそこまでだ、さぁ憎悪を滾らせろ。我が名はヘイトなり!」

ビュオオオオ!

ヘイトの全身を覆う布が大きくはためいた!
俺は目も満足に開けられない砂嵐の中で二人を見る。

ニア
 「憎しみ……そうか、思えば私たちは災厄に憎悪だけを抱いていた……それがお前の力になっているのか」

ヘイト
 「人は愚かだ、我々が何もしなくとも勝手に憎悪を持つ、故に私は根源であり、最も強力なミニオンである!」

ビュオウ!

風がニアさんを襲う!
ニアさんは砂嵐に頬を斬られると、血が一筋滴った。

ニア
 「この程度かすり傷……だ!」

ニアさんは駆ける!
ヘイトは身体から大量の砂を吐き出して、強風を吹かせる中ニアさんの刃が襲いかかる。

ニア
 「はぁ!」

ニアさんの刃が闇に包まれる。
辻斬りが、ヘイトに迫る!

ヘイト
 「はっ!」

当た直前、ヘイトの両腕の布が刃に絡みつく!
刃は固い物は斬れても、柔らかい布を斬ることは難しい!
ヘイトは攻撃を防ぐと、直ぐに反撃に打ってでた!

ヘイト
 「砂地獄……!」

ヘイトの足下に貯まった砂が蠢いた!
砂はまるで生きているみたいに動き、ニアさんの足を絡め取る!

ニア
 「くっ!?」

ヘイト
 「ここまでだな、特異点。最も混沌勢にも秩序勢にも属さぬ半端者だが」

ニア
 「なに?」

ヘイト
 「さぁ潰れるがいい! 地震!」

ヘイトはニアさんの足を砂で絡め、身動きを取れない所に必殺の技を放つ!
ニアさんは避けることも叶わず、踏み潰されるように地面に倒れた!

ニア
 「がはっ!? くそ……!」

悠気
 「ニアさん!?」

ヘイトはそのままニアさんの背中を踏みつけた。
強い……、攻防に優れ、知略に富んでいる。
このままじゃニアさんが危ない!

ヘイト
 「そちらの特異点、貴様では無理だ」

悠気
 「っ!?」

俺はヘイトに飛びかかろうとすると、ヘイトはそれを見抜いて静止した。
確かに俺の力では敵わないかもしれない。
だがそれでもニアさんは助けないと!

ニア
 「ふ、ふふ……勝ったつもり?」

ヘイト
 「なに?」

ニアさんが笑った。
ヘイトは訝しんでニアさんを見る。
しかしニアさんは。


 「私がいつ正攻法で戦っていると勘違いしたの?」

ヘイト
 「なん、だと?」

それは後ろだった。
ヘイトが踏み潰しているニアさんは掻き消えると、後ろに現れたニアさんは炎を手に掴む。

ニア
 「とりあえず素顔を拝ませて貰う!」

ニアさんの火炎放射、それは炎の竜となってヘイトの全身を焼く!

ヘイト
 「ヌゥーッ!?」

ヘイトは炎に苦しみ、その体の全身を覆う布が焼け落ちると、顔が顕わになった。

ヘイト
 「お、己……小癪な真似を!」

そこにあったのは女の顔だ。
黒髪で肌の浅黒いカバルドン娘だった。

ニア
 「へぇ? 話の通りならかなりの美人が元になったみたいね」

ヘイト
 「オリジナルに興味はない! それよりもまさか、全て幻影だったとはな?」

ヘイトは激しくニアさんを睨むと憎しみを募らせる。
一方でニアさんは様子見を終えたのか、やや中距離で短刀を構えた。

ニア
 「私はゾロアークのニア。お前はどうやって私を本物と定義する? こうやっている私も偽物かもしれないぞ?」

ブラフだ、ニアさんはヘイトにブラフ戦術を仕掛けている。
ヘイトは先ほどのイリュージョンによる幻影を見て疑心暗鬼している。
状況はニアさんが有利だ。

ヘイト
 「貴様!」

ビュオオオオ!

ヘイトは全身から砂を吐き、砂嵐を発生させる。
強風は砂を載せて鋭利な刃物に変えてニアさんを襲う!
しかしニアさんは駆けた!
それは砂嵐の中で輝く、一筋の光の軌跡だった。

ザシュウ!

ニア
 「さようなら、最後のミニオン」

ヘイト
 「かはっ!? く……ふふふ、強い……だが滅びの王には遠く及ばぬ」

ヘイトは血を吐くと倒れた。
ニアさんは電光石火の速さで切り払うと、短刀を鞘に戻す。

ニア
 「それでも抗ってみせる……!」

ヘイト
 「ふふふ……私はここで退場だ。しかし覚えておくがいい、上級ミニオンなど所詮替えの効く使い捨てに過ぎん……時が経てば滅びの王が、全て、ほろぼ、す……」

ヘイトはそのまま光に変わっていく。

悠気
 「やりましたね?」

俺は戦いが終わるとニアさんに近づいた。
ニアさんは汗を拭うと大きく息を吐いた。
結果的に完勝だったが、ニアさん自身精神的な疲労があるのだろう。
ヘイトは楽に勝てる相手ではなかった、ただ達人同士の戦いは一瞬で決着がつく、それだけだ。

そして最後の問題は目の前の巨大なスフィアだろう。
スフィアは真っ黒で、その中でもマーブル模様のように濃淡が蠢いている。
ニアさんは触れるも、やはり壁となるようだ。

ニア
 「ち! 辻斬り!」

ニアさんは思いっきり辻斬りで斬りつけるも、やはり無駄だ。

ニア
 「……どうしようもないのか」

結局、当初の目算通りなのだが、辿り着いても俺達にはどうしようもない。
この先には宵もいるってのに、一体どうすれば良いんだ。

悠気
 「くそ……! 俺は無力なのか!」

俺はスフィアをぶっ叩くが、スフィアを叩くという感触はない。
ただ俺の手がスフィアに阻まれる。

悠気
 「月代……」


 『悠気!?』

悠気
 「え!?」

それは……月代の声だった!



***




 「うううう!?」

ネクロズマ
 「あああああああ!?」

私達は徐々に強まる負の波動に苦しみ悶えた。
ネクロズマは半狂乱になって悶え打ち、私は彼女の精神をブロックするように励ました。


 (大丈夫私が付いてる! だからお願い! 憎しみに囚われないで!)

ネクロズマ
 (五月蝿いぃ……! この痛みも苦しみも悲しみも全部人間の性じゃないか!?)

憎しみの波動が強まると、ネクロズマは次第に憎悪を抱き始めている。
だけどそれではネクロズマは一生救われない!
そんなの駄目だ! 憎しみで世界を滅ぼせば、ネクロズマは一生その怨念を背負って生きることになる。
それでは彼女は絶対に幸せにならない!


 (でもどうすれば……私一人じゃ受け止めきれない……!)

悠気
 『月代……』


 「!? 悠気!?」

それは悠気の声だった。
でもどうして声が?


 「ううん! 考えるより後! 悠気……私に力を貸して!」

私は願った。
ネクロズマを救うことを、悠気の力を。
そして、私とネクロズマは同じ魂を持つ、それが奇跡を起こす。



***



悠気
 「宵! 絶対助ける! 絶対だ!」

俺は願った宵の無事を、そして月代の求めを!
すると俺と宵の願いが通じたのか、スフィアに変化が起きる。

ニア
 「スフィアが、開いた?」

悠気
 「……そこにいるんだな? 宵ー!」

俺は穿たれたスフィアの穴に飛び込んだ!
俺は暗闇の中、我武者羅に走る!
永遠に代わり映えのしない風景、どこまでも続く闇。
気が付けば後ろにニアさんの気配はなくなり、俺は一人だった。

悠気
 (なんだこの闇? ただの闇じゃないのか?)

その闇は不思議と意識があるような気がした。
実際に意思があるかは兎も角、それが普通じゃない事だけは分かる。

悠気
 「お願いだ! 月代の元に通してくれ!」

俺はそう願うと、闇は道を作る。
俺はその先に月代がいるのだと、確信した。

悠気
 「宵ー!」

俺は再び全力で駆ける。
頭にはあの馬鹿みたいな笑顔を浮かべる月代の姿が映り、あの尊い日常を思い出す。

悠気
 (俺がいないとお前は駄目なんだ! いつだって傍にいて、なんでも頑張ろうとする……宵、お前はまだ俺が護らなくちゃ!)

やがて、ある二人の姿が見えた。
片方は月代宵、そしてもう片方はネクロズマだ!


 「悠気!?」

悠気
 「無事か!?」

俺は頭を抱える月代を見つけると急いで駆け寄った。
月代は俺を見つけると嬉しそうに微笑む。


 「ずっと会いたかったんだから……馬鹿ぁ」

悠気
 「馬鹿はどっちだ! 落第しかけの癖に! いや、今はとやかく言うまい」

俺達は互いに笑い合うと、ネクロズマを見る。
ネクロズマも同様に頭を抱えて苦しむが、俺を見つめると激しく睨んだ。

ネクロズマ
 「特異点……! もうウンザリだ、私は憎しむ! 何故こんな感情を抱えてお前たちはまともでいられる!?」


 「まともじゃないよ、だから人は争うし、心を防御するんだよ?」

悠気
 「だけどだから思いやる……、こうやって大切な奴と手を繋ぐ」

俺は月代と手を結んだ。
久しく忘れた月代の体温に、俺はギュッと強く握り混むと月代も微笑を浮かべて、強く握り返す。


 「私とリンクしている貴方なら分かるでしょう? この温かさ」

月代はそう言うと手を胸に当てる。
俺は胸がドキドキしていた。
きっと宵も同じだろう。

ネクロズマ
 「ううう……何故だ? 人間は憎しみの根源だ、だから殺し合う、だから奪い合う……なのにどうしてそんなにお前たちは安らかなんだ!?」


 「当然よ、それでも私達は信じ合って、分け合って、助け合うんだから」

ネクロズマはヒトの負の部分を感じすぎているようだ。
一方で月代は真逆だ、まるで聖母のように微笑み、ネクロズマと対を成すように輝く。

ネクロズマ
 「う……うわぁぁぁぁぁぁ!」

ネクロズマが叫んだ!
その瞬間、闇が消し飛び光りが溢れ出す!

悠気
 「これは!?」


 「ネクロズマの姿が変わって!?」

ネクロズマ
 「それなら! 私から抗ってみせろ!! この天焦がす滅亡の光で!」

その姿は光だった。
光り輝く女性が天使のような翼を広げ、激しく輝く。


 「明るいね……でも、私はその光を受けて誰よりも輝く!」

宵はこれまでに無いほどその三日月に羽を光り輝かせた!
月の僅かな光でさえも増幅し、その羽を満月のように輝かせる。
太陽が輝けば輝くほどに月は美しく光を放つのだ!

今、ここに二人の輝く者がいた!

ネクロズマ
 「光になれぇぇぇぇ!」


 「負けない! 絶対に!」

ネクロズマが一層輝くとそれは凄まじい熱波となって放たれる!
もはや光爆、目も開けられずただ宵はその光に立ち向かった!

チュドォォン!!!

悠気
 「くうううう!?」

俺はその衝撃波に吹き飛ばされた!
目を開けると、そこには二人の姿がある。
輝く天使と化したネクロズマと、ボロボロになりながらも耐え抜いた宵だ。


 「はぁ、はぁ……これで、どう?」

ネクロズマ
 「なぜ……? 何故だ!? 何故耐えられる!?」


 「それが分からないなら、憐れだね」

悠気
 「だ、誰だ……?」

突然だった。
光りが歪むと中から、長身褐色の美女が出現する。
それは俺を見下ろすと、手を差し出した。


 「やぁ初めまして若葉悠気君、私はフーパと言う。そこのネクロズマに因縁がある者だよ」

悠気
 「フーパ? 幻のポケモンの?」

俺はフーパの手を借りて立ち上がると、フーパはネクロズマに近寄る。

フーパ
 「アンタについて少し調べたよ……憐れなネクロズマ」

ネクロズマ
 「なんだと? フーパ、お前は私を知っているのか!?」

フーパ
 「ああ、他の者よりはね、それでもまぁ全容を掴むには至ってないけど」


 「はぁ、はぁ。ネクロズマが何者か?」

フーパ
 「お嬢ちゃん、よく頑張った。後は休んでな」

俺は月代に駆け寄ると、月代のボロボロの身体を抱き留めた。
月代は立っているのもやっとみたいで、俺の体にもたれ掛かった。

フーパ
 「ネクロズマ、雫を出しな、アンタには不要のアイテムだよ」

ネクロズマ
 「……!」

ネクロズマは掌に、何やら濁った水晶のような物を出現させた。
もしかしてあれが雫なのか?
雫は一見するとビー玉程度の大きさで、透明な中に煙のような濁りを抱えている。
総じて個体か液体か、それとも気体なのか判別のつかない物だった。

ネクロズマ
 「これは私が私になるために必要な物だった」

フーパ
 「それで受肉を目指したのか? だとしてもこの世界に引き寄せられた時点でアンタは失敗に気付いていない」

ネクロズマ
 「失敗だと!? 何を失敗したという!?」

フーパ
 「アンタはこの世界の特異性に気付かなかった……気付いていれば、さっきお嬢さんがアンタの致命の一撃を耐えた理由も分かるんだけどねぇ」

悠気
 「耐えた理由?」

そう言えば確かにあの威力はPKMの身体とはいえ蒸発してても不思議じゃない。
フーパとネクロズマの会話は俺にはとても理解できそうもない。
だけど、この世界の秘密が月代を護ったのか?

フーパ
 「さぁ、もう終わらせよう。私はアンタの雫を奪い返す! アンタが返さないなら力尽くにでもだ!」

ネクロズマ
 「く!? 私はまだ願いを叶えていない! 雫は渡せない!」

フーパ
 「ならさ!」

フーパはその瞬間、ネクロズマの全方位からリングを出現させた。
金のリングからは、褐色の腕が伸びている。
それらはフーパの6本の腕だった。

フーパ
 「いくよ!?」

フーパの6本の腕はランダムな軌道を描き、ネクロズマに襲い掛かる!

ネクロズマ
 「何!? ぐっ!?」

フーパの異次元ラッシュだ、ネクロズマは光で迎撃しようとするが、この技は防ぐことが出来ない。
あのチートクラスのプリズムガードは使えなくなったらしく、苦戦していた。

フーパ
 (ち……! とはいえ雫越しの防御力だ、こっちの人工雫でどこまでやれるか!?)

ネクロズマ
 「調子に乗るなぁ!」

ネクロズマが吼える!
翼を広げた大天使は、極太のビームをフーパに放つ!

フーパ
 「フォトンゲイザーか!? はは! 詰めが甘い!」

フーパはフォトンゲイザーを受けきった!
それはフーパが悪タイプでエスパーの技が通らないからだ。
だが、ネクロズマにとってそれは布石だった!

ネクロズマ
 「雫! この一撃を致命に変換! 龍の波動!」


 「だ、だめ……その願いをキャンセル」

悠気
 「宵?」

戦いは続いた。
ネクロズマとフーパの激闘、その中で月代は俺にはこう言った。


 「私ね、あの雫って言うのを使えるみたいなの」

悠気
 「なんだと? それじゃ雫って……!」

月代を救い、世界を救うために追い求めた雫とは、こんなに近くにあったのか。
ネクロズマとリンクする月代は雫というアイテムを使えるらしく、ネクロズマを必死に阻止しようとしていた。
今も月代はネクロズマと繋がっているのか。


 「ネクロズマ……もう戦いを止めて、貴方はね? もう叶ってるんだよ?」

フーパ
 (ち……そろそろ限界か)

ネクロズマ
 「はぁ、はぁ! 負けてたまるか! 私は……私は人間になりたいんだー!!!」

悠気
 「!? 人間に!?」

それは衝撃の告白だった。
世界を滅ぼす魔王の目的は人間になること。


 「そう……私は彼女の中でその願いを見てしまった……彼女がしていたのは人間の観察だったの……でも、人間の悪い部分ばっかり見て、彼女は人間が怖いと思った……」

悠気
 「でも、今は違うよな?」

宵は頷く。
アイツはそんな醜い人間を見ても、人間になりたいと言ったんだ。
それはもしかしたら月代のお陰かもしれない。


 「お願い、肩貸して……悠気」

悠気
 「ネクロズマの下までだな?」

俺は月代に肩を貸すと、ネクロズマの下に向かった。
ネクロズマは月代だけを見つめ、後数メートルの距離まで来ると、俺から離れた。


 「ふふ、ネクロズマ♪」

月代はフラフラになりながらも、ネクロズマの胸に飛び込む。
そんな月代をネクロズマは優しく受け止めた。
そこには世界を滅ぼす存在なんて欠片も無い。

ネクロズマ
 「月代宵……」


 「もうそれ以上ストレスを溜める必要はないよ?」

ネクロズマ
 「ストレス? これが?」


 「貴方の願いはもう叶っているわ」

ネクロズマ
 「叶っているだと? 私は化け物だ、皆私を化け物や、災厄、滅びと言ったんだ!」


 「でもここでは貴方はPKM、どんなに強くたってこの世界は貴方を受け入れてくれるわ」

宵はそう言うと、ニコリと笑った。
直後、ネクロズマは光を失っていく。

フーパ
 「はぁ、はぁ……ふぅ」

フーパは戦いの終わりを見届けると、ダラリと両腕を降ろした。

フーパ
 (なんとかなったか? 世界を滅ぼす力)

ネクロズマ
 「私が、人間に?」

悠気
 「ああ、お前は人間だよ、誰がどう見たって人間だ」

フーパ
 「人間ってな、力の有る無しじゃない。自分がそうであるという、黄金の精神なんだぜ?」

ネクロズマ
 「なら……雫は……」

ネクロズマは手元の雫を見た。
雫はドス黒く濁っており、その色はこれ以上にない純黒だった。
だけど……美しい黒でもある。


 「願いは誰だってあるもの、これは神様がくれた奇跡なんだよ」

ネクロズマ
 「だけど……私の願いを叶えるのに、要らなかった……!」

フーパ
 「返してもらうよ」

フーパはその雫を奪うと、それをどこからか取り出した壺に封じ込めた。
ネクロズマはそれを見てぼそりとと呟く。

ネクロズマ
 「雫の棄却を確認……」


 「ねぇネクロズマ? こう考えない? 雫が私と貴方を巡り合わせたの♪」

宵はどこまで行っても屈託のない笑顔で応える奴だ。
無邪気で、そして頑張り屋。
ネクロズマはその目元に一筋の涙を浮かべた。

ネクロズマ
 「宵……私、私ぃ……うわぁぁぁぁぁん!」

泣いた、ネクロズマは宵を抱きしめて大泣きを見せる。

悠気
 (あれ? いつの間にかフーパがいない?)

俺は気が付くとさっさと撤収したフーパに気が付いた。
だがまぁ、アイツはアイツで目的があってここに現れたようだし、今は俺もお暇するべきか。
二人の幼気な少女達は、ただ抱擁し、ネクロズマは泣いていた。

ネクロズマ
 「ごめんなさい! 私、一杯迷惑かけた!」


 「私も一緒に謝るよ? だから、ね?」



***



その日、2日に渡って起きた闇の閨は取り払われた。
地上に出現した怪物たちも、雫の棄却と同時に消え失せ、人類は久方ぶりの空を取り戻す。


 「ズズ、ほら、なんとかなった」

育美
 「茜様の仰るとおりで、寿命が10年は縮みましたがね」

私たちは今、帰りのバスに乗っていた。
1泊2日の小旅行は、結局茜様の思惑通り進み、今はのんびりお茶を飲んでらっしゃる。


 「たった10年じゃない、貴方今何歳?」

育美
 「それはお答えできません」


 「まぁ女はいつまでも若くありたいわよね、それよりもう行ってもいいわよ?」

育美
 「……そうさせていただきます」

私はゲートを開くと、その中に飛び込む。
茜様は最後まで昼行灯にお茶を呑んでいたが、内心ではこの世界を優しく見守っているようだ。



育美
 「フーパ!」

私はゲートを出ると、とある異世界の回廊に踏み込んだ。
そこにはフーパの後ろ姿がある。

フーパ
 「あらら、神の座長様で御座いますか」

フーパは私を見るといきなりバツの悪そうな顔をした。
まぁ無理もないですが、フーパは私が封印しましたからね。

育美
 「雫をここに、浄化致しましょう」

フーパ
 「えっ? いいんですか? 言っちゃ悪いですけど、かなり濁ってますよ?」

育美
 「その蒼穹の雫は私が産みだしたもの、そして私が貴方に委ねただけ、その責任を取るのも私の勤めです」

フーパ
 「もう人妻なんですし、そういうのは止めといた方が……」

育美
 「ふっ、だからですよ。この世界に夢見の雫なんて物は必要が無い……それでもこれが誰かを救えるのなら一介の主婦でも誇らしいのです」

フーパは流石に折れると壺から雫を取り出した。
私は雫に触れると、その濁りを体に吸収する。
さすがに厳しいが、幸か不幸かこの濁りには邪気はそこまで含まれていない。
私は深呼吸すると、もう一つを要求する。

育美
 「人工的に創った雫も此方に」

フーパ
 「うげ!? 知ってたんすか!?」

育美
 「当然です、私は完璧ですよ?」

と言う物の、さすがに完璧は自虐的か。
フーパも苦笑いしており、我ながらもう化けの皮が剥がれたなと思う。
とはいえフーパの性格くらいは熟知している。
あの責任感の強いフーパがそんな失態を犯したらどう動くかなんて予想するのは簡単だ。

フーパ
 「あ〜、人工の雫なんですけどね? このザマなんですが……」

フーパは掌に赤黒い雫を取り出す。
ほぉ、これが人工的に創られた雫……しかしそれは、真っ二つに割れているではないか。

フーパ
 「まぁ所詮急場で創ったもんですから、壊れました」

赤黒の雫は割れており、触れると粉々になって事象の先へと消えていく。
私はため息を吐くと、フーパの愚かな行いに怒るのだった。

育美
 「濁りの反動を直で受けるなぞ、貴方馬鹿ですか!? 全くもう少し大人を信用しなさい!」

フーパ
 「あはは〜、サーセン」

フーパは永遠に比べれば大人だと思うけど、一旦走り出すと周りが見えなくなる所は子供だ。
そもそもだって、今回の事件はフーパが私に報せれば良かったんだ。
本人は家族を持ったカタギを巻き込めないとか思っているのでしょうが、それは私を舐めすぎです!

育美
 「所でネクロズマは?」

フーパ
 「……多分だけどとある世界で人工的に創られたんだ、それもとびっきり悪意のある奴らに」

育美
 「混沌勢(カオスサイド)か?」

フーパ
 「そこまでは何とも、だけどネクロズマを創った奴らは多分だけどこの展開は想定してないんじゃないかな?」

全宇宙レベルに渡って争う者たちがいる。
それらは時に神とも呼称されるが、特異点と言う。
混沌勢と調和勢は幾星霜、宇宙が何巡しても争いを続ける。
それらを警戒しながらも関わらない我々は傍観勢と呼ばれる。

フーパ
 「まぁとりあえず、影響はないでしょ」

育美
 「でしょうね、でなければ茜様もあの落ち着きはありません……それよりも、フーパ、一体どこへ行くつもりですか?」

フーパ
 「ギクゥ!? あはは〜、さすが元神の座長っすね」

恐らくだが、フーパはこれから世界線を渡るつもりだろう。
彼女はケジメはしっかりする方だ。
利用した分のケアをする気だろう。

育美
 「はぁ、一応これ向こうの私に渡して謝るのですよ?」

そう言って小包をフーパに渡す。
全く宇宙一威厳のないアルセウスは私でしょうね。
まぁ女になった時点で、威厳なんて犬に喰わせしまいましたが。

フーパ
 「浜松銘菓うなぎパイっすか……」

育美
 「それじゃ、私はもう行きます」

私は用事を終えると、再びゲートを産み出して潜る。
次に居たのは、バスの座席だった。
隣ではお菓子を頬張る茜様がいる。


 「お帰り、コンポタージュ味だけど食べる?」

育美
 「○ールですか、こっちでは買えないですからね」



***



フーパ
 「……正にマジックモンキーってやつか」

富士
 「孫悟空は大空を我が物顔で飛び回ったが実は仏陀の掌の上だったという故事か」

私は小包を受け取って富士の居る地下鉄の事務所に寄っていた。
本当の目的はこの先なんだが、一応爺にも恩があるしな。

フーパ
 「富士……その、サンキュー」

富士
 「ふっ、その甲斐らしさがあれば、嫁の引き取り手など引く手あまただろうにな」

フーパ
 「うるせぇクソ爺! 私はもう行くけど、息災にな!」

富士
 「既に死んでいる者に息災もなかろう……」

富士はもう一生この時の牢獄からは出られないだろう。
本人も出る意思はなさそうだしな。

富士
 「ワシの力が必要になったらまた来るがよい」

フーパ
 「へ! そうならない事を祈ってるぜ!」

私は次の世界へと飛ぶ金のリングを用意すると、そう言って別れた。
さて次の世界はアイツへのアフターサービスか!



***



ネクロズマ
 「……ごめんなさい」

ニア
 「それだけな訳?」

世界に空は戻った。
今は快晴で、太陽が眩しい。
そこで私は目の前にネクロズマを迎えていた。
私はネクロズマに自分の大切な物を奪われた。
まだ返して貰っていないのだ。

ネクロズマ
 「私はなぜ産まれたのか……それは今も分からない。でも、私は考えて生きる事が出来るって分かった……これから私は贖罪していくつもり……」

ニア
 「……そう、本当ならいいけどね」

ネクロズマはこの世界に多大な被害を与えている。
きっと彼女が原因で死んだ人だって大勢いるはずだ。
彼女はきっと石を投げられ、迎えられはしないだろう。
それでも彼女は謝るのだ。

ネクロズマ
 「人間とは力の有無ではなかった、多くのポケモンが幸せに暮らせているのはその証拠だった」

ニア
 「そうね、貴方は人間を理解することを急ぎすぎたのね」

ネクロズマ
 「まずは、特異点、お前の世界から解放しよう」

ネクロズマは世界線を移動する能力を有するポケモンだ。
それは自由自在にウルトラホールを操作して、世界線を移動する。

ネクロズマ
 「行こう」

ニア
 「彼らと別れはいいの?」

私はここまで協力してくれた彼らを思い浮かべる。
だけどネクロズマは首を振った。

ネクロズマ
 「宵たちに会うと別れが辛くなる」

ニア
 「世界を滅ぼせる程の力を持つのに、センチメントな事ね……まぁいいわ」

私もお兄ちゃんに何も言えなかったんだから、きっと彼女と同じだ。
だから異邦者は大人しく退場しよう。

ニア
 「待っててね……皆」



***



悠気
 「……」

全てが終わって1日が経過した。
結局ネクロズマの事は最後まで伏せられて、人々はあの事件を嫌なものとして早く忘れようとしていた。
だけど俺はあれから何かが変わった気がしてぼうっとしていた。

瑞香
 「こぉらぁ!」

ドゲシ!

悠気
 「うおっ!? 痛いぞ、瑞香」

通学路、いつものように登校していると瑞香は俺の背中を蹴ってきた。
その顔は怒り心頭といった感じだ。
その前後を見た月代は心配そうに見ていた。

瑞香
 「アンタ! 人のこと心配させて!」

柚香
 「お、お姉ちゃん!」

悠気
 「だから五体満足で登校しているだろうが!」


 「瑞香、柚香。もう大丈夫だから、ね?」

……そう、全ては丸く収まった。
だけど月代は何か寂しそうなのだ。
それはきっと新しい友達がなんの連絡も無く、消えてしまったからだろう。

幸太郎
 「お前らおはよう、悠気、久し振りの登校だな」

悠気
 「まぁな……心配かけた」

瑞香
 「んもう! ほら競争よ! 負けたら昼のデザート奢りだからね!?」

悠気
 「は!? いきなり何を!?」

瑞香
 「はいどーん!」

瑞香いつものように横暴さを見せると、走って行った。

柚香
 「ま、待ってお姉ちゃ〜ん!」

柚香ちゃんはいつも通り鈍くさく追いかける。
俺は頭をポリポリと掻くと。

幸太郎
 「いいのか?」

悠気
 「賭けが成立していないから、無効だ」

俺はそう言うと、ゆっくりと追いかける。
きっと後で瑞香は何故走らなかったかと怒るに決まっているが、俺はこのゆっくりさがいい。


 「ふふ、悠気楽しそう」

悠気
 「楽しい? そうだな……この普通が一番だからな」

月代はそう言って俺の隣を歩く。

悠気
 (母さんも旅行から帰ってきて、学校も再開して、何かもがいつも通りだ)

街の復興は魔更コーポレーションが最新機器を運用して、急ピッチに進んでいる。
きっと1月も経たずして、事件の痕は消え去るのだろう。

悠気
 「……うん、これでいい」



突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語

special 輝く者




KaZuKiNa ( 2021/06/03(木) 18:12 )