突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
SP08



ヘイト
 「上級ミニオンが次々とやられている……? おかしい、滅びの王の力が正常に供給されていないのか?」

上級ミニオンが次々と出撃していく中、私だけは滅びの王の傍を離れなかった。
滅びの王は今、人間たちが言うスフィアの中にいる。
そこで憎悪を膨らませ、そのエネルギーを上級ミニオンは受けて生成される。
滅びの王の負の念が強ければ強いほど上級ミニオンは強くなり、より効率よく世界の悪意を集められるはずだった。

だが、現実は王の力が想定より弱い。
つまり滅びの王の意思が弱いのだ。

ヘイト
 「本来ならば、雫はこの世界を滅ぼしていたはず……にも関わらず滅びる事さえなく、我々の計画もここまでズレている?」

我々は滅びの王が雫に願い産まれたミニオン。
故に王の記憶から我々は像を得て生成されるが、ポケモンではない。

ヘイト
 「王よ……貴方の真の願いはなんだというのか……」



***



瑞香
 「あーもう、最悪!」

私は小さな白い怪物が溢れかえる街で立ち往生していた。
暗闇に閉ざされた所で、我々人間のバイタリティは衰えはしない。
精々今月の電気代が不安といった所だ。
とはいえそんな楽観視して、妹と一緒にショッピングに出かけたらこの未曾有のモンスターパニックに遭遇してしまったのだ!

柚香
 「お姉ちゃん、兎に角逃げよう!?」

私達はショッピングモールを兎に角走った。
でもどこに逃げればいい?
ユズだけなら、この子はテレポートも使えるし、なんとかなるかもしれない。
でも私はただの人間だ、こんな脅威をなんとか出来る力なんてない。
それでも妹だけは守らないと、私はそれだけを考えて走った。

柚香
 「はぁ、はぁ! お姉ちゃん前……!」

ユズが前を指すと、私は戦慄する。
透明な施錠されたドアの向こう、そこにびっしりと白い怪物が張り付いていた。
ドアはピシピシと音を立てる。

瑞香
 「ユズ、お姉ちゃんの手、絶対離しちゃ駄目よ?」

私はユズの手を握ると、後ろに一歩退いた。
そして後ろを振り返ると、一気に走る!

ガシャァァン!

直後ガラスが重さに耐えきれず崩壊した。
白い怪物は一気にモール内に雪崩れ込む。

瑞香
 「ユズ、念のために制御装置内はオフっとくのよ!?」

柚香
 「で、でも!?」

瑞香
 「今が非常事態って分かるでしょう!? 誰も咎められないわよ!」

ユズはこんな時でも、PKMとしての力を使うことに躊躇いがある。
だけど今は生き残る事が大事だ、誰かが守ってくれるとは限らない状況で生き残る可能性が高いのはPKMの方だ、だからユズだけは絶対助けるんだ!

瑞香
 (ああもう私達テロに巻き込まれたり、モンスターパニックに巻き込まれたり呪われてんの!?)

私は泣きたかったが、泣かない。
私みたいな高校生なんて、それこそ死ぬ時なんてあっさりなんだ。

柚香
 「アイツら……思考がない?」

瑞香
 「ユズ?」

柚香
 「あの怪物、生物じゃ無さそう! 思考らしき物が感じないの!」

柚香は制御装置を解除すると、エスパータイプとしての本領を発揮し始める。
だけど生物でないとしたら機械か何かなの?
だが、よりにもよってそれが私達にとって最悪であった。

柚香
 「お姉ちゃん! 上!」

瑞香
 「え!?」

ユズが上を見上げた。
そこには天井を突き破って降ってくる白い怪物たち。

瑞香
 「きゃあ!?」

私はそれに怯んでしまう。
だが足を止めたことが最悪だった。
白い怪物は目も鼻もなく、口もない。
体長は30センチ位で、白い泥人形のようだ。
それら夥しい数が、私達の周囲を取り囲んだ。

瑞香
 「……く!?」

柚香
 「お、お姉ちゃん……」

私達は身動きを封じられ、怪物は徐々に寄ってくる。

柚香
 「お姉ちゃん……お姉ちゃんは……私が守るんだから!」

ユズは覚悟を決めると、全身に念動力の膜を張る。
そしてそれは強力なサイコキネシスとなって、白い怪物を吹き飛ばした!

柚香
 「お姉ちゃん、今のうち!」

瑞香
 「アンタ、身体は大丈夫!? たしかサイコキネシスは……!」

第二世代PKMには時々あるのだが、技を使うと体調を崩す事がある。
ユズ自体の念動力はかなり強い、だけど慣れない力だけにユズは念動力をコントロール仕切れないのだ。
私は妹の体を案じるが、ユズは笑顔で応える。

柚香
 「今は大丈夫……! それより安全な場所を!」

瑞香
 「く……安全な場所って言ったって!?」

血路は開いた。
だけどその先も地獄ならどうすれば良い!?
私は兎に角我武者羅に走った。
だけど事態は一向に好転しない。
それどころか、どんどん安全な場所が消えている。

瑞香
 「どうすれば……? あれは!?」


 「ああもう鬱陶しいわね!」


 「全くだ」

私達は逃げた先に見慣れた姿を見つける。
生徒会長の七竃星と葛樹光だ。
彼らは私達と違い、怪物に怯まず戦っていた。


 「うん? そこにいるのはミズーたちじゃないか!?」

瑞香
 「その辺なニックネーム止めてください! それより大丈夫ですか!?」

柚香
 「先輩方、私達安全な場所を探しているんですけど……!」


 「安全な場所か……この近くに果たしてあるか……」


 「ふふ、無いならば創るのよ!」

星先輩はそう言うと、手に持った木の枝の先端に火を灯す。
マフォクシーのPKMである彼女は火を巧みに扱う。
それを隣で見た光先輩は何かを察したのか 「はぁ……」と溜息を放つ。


 「昔ガキの頃にやって親父に大目玉食らったっけ……」


 「ふふ、でも今は許されるんじゃなくて?」

迫り来る怪物の群れ、星先輩の振る杖が火の軌跡を描く。
それは火で複雑な印を結ぶようで、彼女の熱量が上昇すると。


 「火の誓い!」


 「ちっ! 建物を倒壊させるなよ!? 草の誓い!」

それは火と草の力の融合だ。
炎が大地を走り、魔方陣のような物を描くと、そこに草のエネルギーが走り、その空間を焼き払う!

瑞香
 「凄い! まるで火の海!?」

一瞬で燃え上がり、白い怪物を駆逐する炎熱空間は火の海となって駆逐する。


 「さてと、これで暫く時間を稼げるわね」


 「解決策とは言い難いがな……」

柚香
 「確かにこれなら暫く安全かもしれないけど」

瑞香
 「あーもう、スマホは使えなくなるし!」

私は一先ず息を整えるチャンスを得るが、果たしてこの先生き残れるのか?
先輩たちは下級生の気も知れず、平気であるが、こんな問題児たちと比べると私達がまだまだだと知れる。

柚香
 「お姉ちゃん! 今ゆ、悠気さんが!」

瑞香
 「え!? 悠気!?」

柚香は外を指すと、怪物たちが群れなす中を走る姿を見つけた。
それは紛れもなく悠気だった。


 「ユウだと?」

瑞香
 「先輩! 援護お願いします!」

私はそう言うと、悠気のいる外に走り出す。

柚香
 「お、お姉ちゃん私が!」


 「可愛い後輩の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に落とすべきかしら?」


 「兎に角血路を開くぞ!」

ユズは私の手を握ると、一瞬でテレポートする。
すると私は悠気の目の前に出た。

悠気
 「うお!? 瑞香!? ユズちゃん!?」

柚香
 「アンタこんな時に何やってんの!?」

悠気
 「いや、その……」

ニア
 「悠気、この子たちは?」

む? よく見ると悠気の隣には知らない女がいた。
紅い髪は短髪で、見た目は大人びており、スタイルの良いPKMだ。
そして、悠気と手を繋いでいる!?

瑞香
 「悠気、その女誰?」

私は二人を睨むと、紅い髪の女も睨んできた。

柚香
 「お、お姉ちゃん……」

瑞香
 「ちょっと待ってなさい、アンタ悠気の彼女?」

悠気
 「な!? ニアさんとはそう言う関係じゃなくてだな!?」

柚香
 「お姉ちゃん! そんな事より!」

後ろでユズがまくし立てる。
流石に私はユズの方を振り向き制しようと思ったが、後ろを見て唖然とした。

瑞香
 「え? ええええ!?」

それは白い巨人だ。
否、一体一体は小さい怪物が群れて巨人のように高く連なったのだ。
おそらくビルにこびりついた物が私達を発見して、振り向いたのだろう。
それらは此方に倒れようとして……。

悠気
 「瑞香、ユズちゃん危ない!」

瑞香
 「あっ!?」

悠気が私の手を引いた。
私はこんな時なのに、それに一喜してしまう。


 「くたばれぇぇ!」

バチバチバチィ!!

私達は退避する時、その巨人に電撃を纏ってぶつかる存在があった。


 「今のもしかして雷鴎さんかしら?」

悠気
 「あ、先輩!」


 「ここは危険だぞ、まだ中の方が安全だ」

至る所にいる怪物たち、ハッキリ言ってどこも安全じゃないけど悠気は首を横に振った。

悠気
 「俺にはやらないといけないことがあります……」

柚香
 「やらないといけないこと?」

瑞香
 「なんなのよそれ……」

悠気は私から手を離すと、歩を進める。

悠気
 「すまないが、理由は話せない……」


 「……訳ありか?」

悠気
 「ただ、俺を信じてくれ、そして今はいない月代を信じてくれ」

瑞香
 「え? 宵を?」

悠気はそれだけを言うと、ニアとかいう女性と共に危険な街へと走った。

瑞香
 「悠気ー! 明日学校にこなさいよー!? 不登校なんて許さないんだからー!?」

私はそれだけしか言えなかった。
私なんかが悠気にお節介を焼けるわけがない。
悠気が知らない女と手を繋いでいる姿に嫉妬した私なんて、あの横にいる資格なんてない。
ただ、悠気は「ああ!」と言って手を振った。


 「信じる、か……」


 「若人を信じるポジティブさ、必要かもね」

柚香
 「悠気さん……どうかご無事で」

瑞香
 (アンタになんかあったら承知しないんだから……だから絶対帰ってきてよ?)



***



フーパ
 「……」

とある実験室。
ここにはアタシと富士、そして魔更聖しかいない。
勿論魔更と言っても、マサラコーポレーションの事じゃない。
ある可能性の中でドロップアウトした少年だ。
アタシはやや陰鬱であり、そしてこれからしなければならない事を考える。

フーパ
 (若葉悠気、アイツは雫を所持している可能性が高い……故に最も可能性は高かった)

だが、実際には彼は今の所なんの役にも立っていない。
それはいい、あの人の子供だからって、あんな怪物と戦わせたくはない。
だけどあの子……月代宵は違った。
月代宵はネクロズマを助けようとしている。
アタシはそれが可能なのか考えたが、やはり不確定な選択を選ぶことは出来ない。

フーパ
 (雫はどんな無邪気な願いでも叶えちまう……だから危険すぎる)

アタシの目的はあくまで雫の回収だ。
回収したら今度こそ誰も触れられないように封印する。


 「ふはは我が世の春が来たー!」

フーパ
 「そんなにムウマが好きかーっ!?」

突然後ろからネタの神が降ってくる聖に私はネタで返す。
まぁムウマって言ってもコイツは覚えてないんだろうけどな。


 「ムウマって俺の一番お気に入りのポケモンだぜ? 好きに決まってんだろ!」

フーパ
 「ははっ、妬けちゃうね。それでどうしたの?」


 「いや、元気無さそうだったからさ」

つまり慰めてくれるらしい。
たく、これだからジャリボーイは。
アタシは微笑むと、聖にもたれ掛かる。


 「ちょ、フーパ?」

フーパ
 「女を慰めるなら、抱くものさ……さぁ、抱いて?」

アタシは妖艶に微笑むと、彼の首筋にキスをする。
聖は体を震えさせて、アタシの背中に手を回すが……。


 「はい! 竜巻落とし!」

フーパ
 「ふんぎゃ!?」

突然、聖はアタシをぶん投げてきた。
おのれ、虚弱君の癖に……!

富士
 「診断結果、死亡」

アタシの傍にやってきた白衣の富士はそう言うと首を横に振る。
やれやれ、悪党の爺にまでネタの神は降るのかよ。

フーパ
 「やれやれ、痛いじゃないかジャリボーイ」

富士
 「全くだ、これだから童貞は」


 「喧しい! 俺は童貞を貫く!」

まぁだろうね。
とはいえ誘惑してみたら、意外と純情な反応を示したね。
全く、向こうの彼なら命令一つでポケモン娘に股を開かせられるだろうに。


 「大体、俺はロリに勃つ変態じゃない」

富士
 「うむ、露骨に巨乳好きだろうからな、しかしそれはフラグだ」

フーパ
 「ふふ……ラスボスには第二形態があるんだぜぇ? 魔神形態がお望みかな?」

アタシはリングから壺を取り出すと、ちらつかせる。
まぁここで変身する気はないんだけど。

フーパ
 「因みに本当のアタシは身長180センチの大人のお姉さんなんだぜ? 人を見た目で判断しない方が良い」

富士
 「さぁ、漫才はそこまでだ。フーパ、用意が出来たぞ」

アタシは立ち上がると、富士は完成させたそれを見せる。

フーパ
 「疑似雫が完成したか」

富士
 「本物が近くにあった事は大きい、思いのほかスムーズに進んだわ」

富士が見せた雫は紅く輝いた。
形は他の雫と同様で、聖の夢見の雫と同じだ。
だけど、中に揺らめく炎が内包されたようで、とても猛々しくも美しい。

富士
 「ほぼ完璧な夢見の雫ではなく、対ネクロズマに特化した人工の雫だ」

フーパ
 「差し詰め、『紅蓮の雫』だね」

アタシはそれを受け取ると、微笑んだ。
それを見て聖は不安そうに言う。


 「大丈夫なのか?」

大丈夫、と言うのは雫の制約の事だろう。

富士
 「嘘をつく理由もないから言うが、通常雫の反動はアルセウスが引き受けるが、コイツにそんな便利な身代わりなぞいない、反動は使用者が受ける」

フーパ
 「つまりアタシが使えば反動を受け、最悪アルセウスみたいに暴走する訳か」


 「っ! フーパ死ぬ気じゃないよな!?」

フーパ
 「なんて顔するんだい、ジャリボーイ。別に死ぬ気はないよ、ただこれが必要なだけさ」

聖は私を見て哀しい顔をするが、私は全力で笑う。
雫をコロコロと掌で転がすと、それを握り込む。

フーパ
 「雫の所持者に正攻法で勝つのは難しい、だから相応の武器を揃えただけ、さぁジャリボーイとはここまでだ」


 「ここまで、だって?」

フーパ
 「ジャリボーイ、君の雫は持ってあと1回、そして君はまだ家族を救うことを諦めてない、そうだろう?」


 「!」

おそらく図星だろう。
ジャリボーイはお人好しだから、アタシまで救おうとするが、それはお節介だ。
自分の目的も果たせぬウチから寄り道すなんて馬鹿げている。

フーパ
 「君の世界に返すよ、君はそこからもう一度滅びの運命に抗うんだ!」


 「フーパ……」

私はリングを広げる。
あらゆる世界を行き来する私なら、もう一度あの世界に返すことが出来る。


 「わかった……だが死ぬな。俺は今度こそ勝つ、そして絶対に家族を助けるから! お前もな!」

フーパ
 「生憎だけど、女を抱けもしないジャリボーイは好みじゃ無いんでね」

聖はリングを通ると、私はそれを見ずに手を振った。
聖は聖の戦いがある。
そして私には私の戦いがあるだけだ。

富士
 「あの少年、次はどうかな?」

フーパ
 「文字通り神のみぞ知る、だな」

富士は暫くリングの先に耽っていた。
おそらく成功したらしたで、その後自分と戦うことを考えているんだろう。
この爺は天才だが、人間に過ぎない。
きっとその閃きで何かを成せないか考えているんだろう。

フーパ
 「さってと……それじゃ行こうかね!」

私は戒めの壺の封を開けると、私はその中に内包された莫大なエネルギーを受け止めて変身する。
魔神フーパ、どっかの世界では魔神訃憂把(ふうぱ)なんても言われてたっけ。
身長は一気に上がり、胸は聖も二度見はする爆乳になり、見事なボンキュッボンの褐色美人の爆誕だ。

富士
 「確かにその形態の力は凄まじい、神の番外に相応しい……が、デメリットは大丈夫か?」

フーパ
 「確かに、精神高揚はする、残虐性の先鋭化も止められないだろう……でもコントロール出来るさ」

かつてこの姿で精神異常によって、大切な人に襲いかかってしまったことがあった。
でも経験から、この姿で自分の心を律する方法を学んだ。

富士
 「細やかだが、ワインでも飲むか?」

フーパ
 「ふ、ロゼか」

富士がどこからか取り出したのは赤ワインだった。
私はワイングラスをリングから二つ取り出した。
ワイングラスに注ぐと、それは思い出の色に似ていた。

富士
 「ワシはここでお主の勝利を祈ってやる」

私はワイングラスを転がし、匂いを楽しむと、赤ワインを呷った。
普段私が用意する物に比べたら安物だったが、今の気分には悪くなかった。

フーパ
 「ジャリボーイとの約束もある、それに私なりにやりたい事だってあるんだ、誰だって死にたくない……そのために無意識に相手を傷つける事だってある」

私はネクロズマと戦う。
果たしてそこに正義があるのか?
私が思っていたネクロズマと現実のネクロズマは違っていて、それでも私は彼女を傷つけなければいけない。
全くこの世は不条理だ、だが不条理の裏に悪意が見え隠れする。

フーパ
 (全てを終わらせる、必ずね!)



***




 「……ふう、事なきを得たか」

会社は洒落にならない位散らかっていた。
だが、社員達は皆疲弊していた。
何せこれより少し前奴らはビルをよじ登ってガラスを割ってきやがったんだからな。



そう、それは1時間前。




 「たく! 一体どうなってんだ!?」

電話が使えなくなって街が阿鼻叫喚になっていた中、危機は俺の元にまで迫っていた。

ピシピシ……!

アイリス
 『マスター、急ぎこのフロアからの脱出を提案します』


 「うん、俺もそう思う」

今決して見たくはないが、数えたくない程の数の怪物たちがびっしりとビルのガラスに張り付いていた。
俺はという訳で、早速アイリスを抱えてスタコラサッサしようとするが……。

サトー
 「社長大変です!?」


 「げぇ!? サトーちゃん!?」

間の悪いことにフロアの反対側からメタグロスのサトーちゃんが会議室に入ってきた。
そんな事している間にもヒビは広がり、それはあっという間に……。

ガッシャァァァン!!


 「ギャース!? 上から来るぞぉ! 気を付けろぉ!」

アイリス
 『マスター、こっちの世界にネタの神様はいません! 冗談言う前に逃げましょう!』

サトー
 「くそっ! 舐めるなぁ!」

怪物が会議場に雪崩れ込むと、サトーさんはその大きな腕を振り上げた。
コメットパンチ、フロアを大きく打ち鳴らす一撃は、怪物たちを吹き飛ばす。
吹き飛ばされた怪物はそのまま溶けるように消えた。

アイリス
 『どうやら、倒せない訳ではないようですね』

アイリスは冷静に分析しているが、こっちはそんな状況じゃない。
サトーさん、怒りのメガトンパンチが炸裂するも、怪物たちはサトーちゃんに次々と群がった。

アルカ
 「たく!? ズラ! 助けてやるからシロクマ寄越せよ!?」

そこに今度はサイバー空間を通ってアイリスの端末から顕現するアルカディア、アルカは強烈な電撃を群れに放つ。


アルカ
 「ボォォルテッカァァァァ!!!」

アイリス
 『ポケモンだけにパルスマンでしょうか?』


 「いや、宇宙の騎士の方だと思うんだが……」

まぁパルスマンってどっちかって言うとピカチュウというよりポリゴンの方が近いから、間違ってもいないんだろうが。
ポケモン初期の設定にも自己電気信号化能力という現実世界とネットワークを行き来できるという通称携通力(携帯獣通信能力の略称。あるいはポケコムとも)と呼ばれる設定がある。
後年のポケモンでも生きている設定かは知らんが、ポリゴンがパルスマンの生まれ変わりの可能性は否定出来んな。

サトー
 「アルカ! 社長を守りながら後退しなさい!」

アルカ
 「そうは言うけど、サトーはどうするの!?」

サトー
 「私は! 奴らを! 殲滅する!」

サトーちゃんは仮にも第一世代PKM、腕っ節は凄まじい。
とはいえ多数に無勢、サトーちゃんは押し込まれつつある。


 「ああっ!? このままではサトーちゃんがアラレもない姿にされて怪物にその熟れた肉を弄ばれてしまう!?」

アルカ
 「このエロ親父! 頭に電極ぶっさして膝をガタガタさせんぞ!?」

アイリス
 『マスター、不潔です』

総スカンだよ!?
これでもサトーちゃんを奮起させようとしたんだよ!?
サトーちゃんあれでMだから!

サトー
 「くっ!? しゃ、社長の調教は受け付けませんから!?」

アルカ
 「えっ? 調教?」

アイリス
 『マスター?』

サトーちゃんは顔を真っ赤にしてそんな事を言うものだから、二人の目は急に冷めるのだった。
俺は顔面真っ青にしながら。


 「誤解です! 俺も流石に嫁が大切ですから!」

そうこう言いながらも、徐々に俺達は部屋の奥に押し込まれていく。
さて、これ以上は本気で余裕がない。
とはいえこれくらいの難事など過去に何度でもあった。


 「サトーちゃん、たしか地震使えたな!?」

サトー
 「使えますが! フロアが落ちますよ!?」


 「構わん! 修繕費は出す!」

サトー
 「分かりました……! とぉりゃぁぁ!」

サトーちゃんは両手を地面に突けると、大地は大揺れを起こす。
そして予想通り、フロアはその衝撃に耐えきれず崩落する。


 「うはは、これぞ我が逃走経路よぉ!」

怪物たちは次々と下の階に落ち、俺達は安全な場所で難を逃れる。
とりあえず何とかなったがサトーちゃんは上等な黒スーツの両袖が取れていた。

アイリス
 『サトーさん、大丈夫ですか?』

サトー
 「身体に問題はありません、少し火照っていますが……」

アルカ
 「やっぱり調教の性……?」


 「はいはーい! 話はそこまで! まずはサトーちゃん着替えようか?」

サトー
 「はい」

アルカ
 「もしかして会社に調教部屋が!?」

サトー
 「アルカ、そんな物はありません! とりあえず頭を差し出しなさい!」

アルカ
 「ギャー!? グリグリは嫌じゃー!?」

アルカは余計に勘ぐり、サトーちゃんの怒りを買うと、そのままアイリスの端末からサイバー空間に逃げ込む。
俺達はとりあえず会議室を出るのだった。

サトー
 (全く……、私が社長にちょ、調教なんて……社長には奥様だっていらっしゃるのに……)

アイリス
 『サトーさん、心拍が上昇しています』

サトー
 「つ、疲れただけです!」


 「うむ、あの数を相手にしたのだからな!」

アイリス
 『計測した限りですが7891匹確認出来ました、悍ましい数ですね』

つーかその大半が下の階にいるわけで、兎に角対策を進めないと。


 「アイリス、他の社員に連絡届くか?」

アイリス
 「保安部担当の薊(アザミ)さんなら、直ぐにでも手配できますが……彼女の方もピンチのようです」

ハブネークのアザミさんはウチの所謂威力部門の担当だ。
元暴力団のバウンサーだったが、ある日会社の前でボロボロの姿で途方に暮れているのを発見して、会社で治療を行い話を聞いたんだ。
曰く暴力で金を稼ぐことに虚無感を覚えていたらしく、俺は彼女を説得してカタギに戻した。
結果的に普段は警備員として会社の安全を守るようになったのだ。

栞那
 「皆さん、ご無事ですか!?」


 「栞那さんこそよく無事で」

会議室の通路に慌てて駆け込んできたのはラプラス娘の七島栞那(ナナシマカンナ)さん。
所謂お手伝いさんで、普段はお茶組みなんかを担当してもらっている会社のお母さんだ。
背中にはカルシウム質の甲羅を背負っており、体格は180を越える長身で、ラプラス種の女性としては平均的のようだ。
年齢もここの女性陣では一番上の人である。

栞那
 「給湯室は今は安全で、職員もそこに避難しています」


 「ならとりあえずそこに行きますか」



突ポ娘USP #8 完

#9に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/03(木) 12:16 )