突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
SP07



みなも
 「アンガーさんと仰いましたか、なにゆえユウさまを狙うのです?」

アンガー
 「特異点は既に不要となったのだ、滅びの王は逆に世界を滅ぼすのに特異点は邪魔となると考えている。だから俺がやってきた」

みなも
 「……成る程、虫唾が走りますね……! ならば貴方を生かしておく訳にはいきません!」

この方は生きている限りユウさまを狙うだろう。
それはユウさまのためにならない!
私は水の泡を周囲に浮かべる。
それらは直径2メートルはある大きなバブル。

みなも
 「泡沫のアリア……!」

私は空間に声を響かせる。
すると宙に浮かぶバブルは共振し出す。

アンガー
 「ちっ!」

アンガーは危険を察知して熱風をばらまいた。
音波に共振するバブルはアンガーの周囲で弾けると、アンガーはそれを熱風で弾き飛ばす。

ポツポツ……ザァァァァ!

雨が降り出す。
大量の水分が熱されて、一時的に雨になったのだ。
アンガーは恨めしそうに私を見て、その全身から蒸気を噴き出す。

アンガー
 「我が怒りは炎……良いだろう貴様が俺の怒りを全て受け止められるか試してやろう!」

アンガーは再び両手から火炎放射を放つ。
私は滝登りで、迎撃した。
雨の影響でアンガーの火力は落ちている。
ポケモンバトルのセオリー通り、水タイプである私は有利だ。

アンガー
 「まだまだぁ!」

アンガーはしかし構わず火炎放射をばらまく!
私は再びバブルを産み出していく。

アンガー
 「ち!? またあの技か!?」

アンガーは接近を試みる。
だがそれは危険行為だ!
私の泡沫のアリアはそこまで器用に発生場所を指定できない。
ユウさまが近くにいたら絶対に使えない大技だ。

みなも
 「泡沫のアリア!」

私は構わず歌声をバブルに共鳴させた。
周囲を漂う巨大バブルは激しく震動する。

アンガー
 「舐めるなぁーっ!!!」

バブルが弾けると、同時にアンガーは発光した!
私は咄嗟に顔を護る!

ドォォン!

みなも
 「きゃぁ!?」

それは爆風だ。
アンガーのオーバーヒートが水蒸気爆発を起こしたのだ。
私は吹き飛ばされると、よろめきながらアンガーを見た。
アンガーは靄に包まれて、姿はよく見えない。
ただ、立っているシルエットがそこにあった。

みなも
 「く……ダメージを……!」

不覚にも手痛いダメージを受けてしまった。
これではユウさまに顔を合わせられない。
だが問題はアンガーだ。
もう一度同じ事をされれば、冗談抜きに死ぬかもしれない。

しかし、小規模な雨が止み靄が晴れるとそこにいたのは……。

アンガー
 「くく……お前の勝ち、だ……」

アンガーは全身が背中の殻のように固まっていた。
おそらくオーバーヒートによる一時的な体温低下が原因であろう。

みなも
 「……無茶をしましたね」

その姿を見て私はもう助かるまいと判断した。
全身を溶岩で構成したマグカルゴはPKMと比べても異形だ。
それ故に常識の範囲では生きていない。
火が消えれば、それは死を意味する。

アンガー
 「我らミニオンなぞ、所詮使い捨て……さぁ滅びの王よ! わが怒りを受けとれぇ!!」

アンガーはそう吼えると、その体を光の粒子に変えていく。
物の数秒で、そこは凄惨な焼け跡の残る住宅街が残った。



***



幸太郎
 「やばいぞ……! 買い出しに出たら、なんなんだこれは!?」

臨時休校となったこの日、既に30時間近く空は真っ暗で、更に近隣でスフィアと言われるドーム状の謎の物体が出現した。
ほんの数日前まで世界が滅びるかもなんてクラスメートと談笑していたが、それが現実となったのか?
白い小人は地面から無数に生えだして、人間やPKM、果ては犬猫も無差別に襲う。
俺はなんとか、逃げるがどこに逃げればいい?
家に逃げても安全なのか?
こんな時に限ってスマホは使えなくなるし、本当にこの世の終わりなのか?

幸太郎
 「ん? そこのPKM! ここは危険だ! 逃げ……?」

それはダゲキのPKMだった。
上半身を裸にしているが、青みがかった体色、片眉を剃った姿。
スキンヘッドで筋骨隆々な偉丈夫、それが鬼のような顔をして俺を睨む。

ヴァイオレンス
 「我が名はヴァイオレンス(暴力)、我が行うは破壊なり!」

幸太郎
 「なっ!?」

ヴァイオレンスと名乗る男は、いきなり踏み込んできた。
凄まじい踏み込みを見せると、俺に正拳突きを放ってくる!

幸太郎
 「うおおおっ!?」

俺は寸前で横に転がり、受け身を取る。
相手はそのままコンクリートの壁を粉々に砕いた。

幸太郎
 「な、なんだ!? お前気が狂ってるのか!?」

ヴァイオレンス
 「狂う? 否、これが正常なり。我はその眼前の者全てを破壊するのみ!」

幸太郎
 (完全に狂人じゃないか!? どうなってんだこの国は!?)

俺は兎に角立ち上がると、一旦構えた。
高校レベルの柔道家が、この狂人に通じるか分からんが……!

幸太郎
 (無様に逃げて、死を待つのは御免だ!)

ヴァイオレンス
 「ほう? 我が暴威に立ち向かうか?」

俺は身体をガタガタと震わせていた。
相手は格闘ポケモン、拳一つでコンクリート製の外壁も破壊するような化け物だ。
俺の柔道が通じる相手か、そんな事も分からん異種格闘技戦なんて狂気の沙汰だ。

だが、現実は非情にも俺に選択をさせる。
ただ脱兎の如く逃げるか、抗うか。

ヴァイオレンス
 「ならば受けよ我が豪拳!」

ヴァイオレンスが再び踏み込んだ!
俺は相手の足下を見る!

幸太郎
 「やってる事は人間のそれと変わらん! 全てが規格外なだけだ!」

俺は自分を鼓舞した。
相手の拳が俺の顔面を捉える。
俺はなんとか身を捻ると、相手の道着の帯を掴みアスファルトの地面に投げた!

幸太郎
 「うおおお!?」

ヴァイオレンス
 「ぬぅ!?」

ヴァイオレンスは地面に叩きつけられると、やや距離を離して飛び起きる。
くそ……まるでダメージになってない!
逆に俺は片膝をついた。

幸太郎
 「ぐぅ……!」

脇腹が痛む。
ヴァイオレンスは投げられながらも、脇腹に掌底を放ってきたのだ。
密着していたうえ、両足が浮いていたからこの程度で済んだが、力の差は歴然だ。

ヴァイオレンス
 「中々の技前だが、相手を壊せなければ意味はない」

幸太郎
 「柔道は……、暴力ではない……!」

相手を壊す技は暴力だ。
そんな野蛮さを捨てるために、柔術から柔道は誕生したはず。
奴の原始的でも合理的な破壊とは違う。

ヴァイオレンス
 「ふん! もう動けまい? ならば次の一撃で貴様の身体を砕いてくれよう!」

幸太郎
 (く……南無三!?)

俺は目を閉じた。
ただ後は終わりを待つだけ。
だが、終わりが来ることはなかった。
ポンと、肩に乗せられた小さな手、それは覚えのあるものだった。

セローラ
 「はいはーい♪ よく頑張りましたね〜坊ちゃん♪」

幸太郎
 「セローラ……さん?」

それはセローラさんだった。
いつものように古風なメイド服に袖を通して、優しく微笑む。
ヴァイオレンスはセローラさんに警戒して飛び出さなかったのか。

セローラ
 「さて、坊ちゃんを可愛がって頂いたお礼がまだですね」

セローラさんは前に出ると、その目の炎を青く燃え上がらせた。

ヴァイオレンス
 「女、我は老若男女容赦はせんぞ?」

セローラ
 「それが遺言? 冴えない遺言ですね」

まるで吐き捨てるように、セローラさんは相手のテンションなどお構いなしだ。
ヴァイオレンスは訝しむが、これがセローラさんなのだ。

ヴァイオレンス
 「良かろう! ならば受けよ!」

ヴァイオレンスは再び、踏み込む!
しかしセローラさんは拳に当たる直前、前にステップした!

ヴァイオレンス
 「なに!?」

セローラ
 「ゴーストステップ、初めてかしら?」

PKMは人間とポケモンの合いの子とよく言われる。
実際普段のセローラさんは物理的干渉を受けるが、彼女が一度力を奮えば、世界は彼女を全て通過させる。
簡単に言えば、今のセローラに物理的な攻撃は無効だ。

セローラ
 「ま、こっちも物理的な攻撃は不可能なんですけどね♪」

ヴァイオレンスの後ろに着地すると、セローラさんは実体を取り戻す。
ヴァイオレンスは振り返った、しかしセローラさんも黙っていない!

セローラ
 「○ャイニング・フィンガーとはこういうものか!!!」

ヴァイオレンス
 「なっ!?」

セローラさんはヴァイオレンスの腹部に拳を差し込む!
そのまま彼女の温度は最高度に達すると、ゼロ距離から煉獄が放たれた!

ドォォォン!!

爆炎が巻き起こる!
俺は吹き飛ばされないように踏みとどまるが、状況はどうなった!?

セローラ
 「ははは! 凄いよこのランプラー! 流石シャンデラの進化前!!」

爆炎が晴れると、とりあえず高笑いするセローラさんは確認できた。
問題のヴァイオレンスだが、奴は10メートルほど吹き飛ばされた末、動かない。

ヴァイオレンス
 「ぐふ……いいぞその暴威、我は満足だ……後は滅びの王よ、我が暴威を受けとれ……!」

ヴァイオレンスはなんとか片腕を空に伸ばすと、指先から光に変わっていく。
俺は何が何だか分からないが、ただセローラさんは。

セローラ
 「うふふ……アハハ! アーハッハッハ! 最高にハイって奴だぁ!」

幸太郎
 「……楽しそうで何よりです、セローラさん」

とりあえず相手のテンションガン無視のセローラさんは今日も平常運転のようだ。
多分世界が滅びても、この人だけは生き残ってるんだろうなぁ。



***



悠気
 「はぁ、はぁ……! くそ、どうなってんだよこの世界は……!」

白い怪物は徐々に数を増やしている。
それはまるで地球を覆うまで増えるつもりだろうか?
だが、こんな芸当がネクロズマに出来るなら何故今までしなかった?

悠気
 (分かってること、1つネクロズマは世界を滅ぼすなど一言も言っていなかった。2つミニオンたちの目的は世界を滅ぼすこと。3つネクロズマにとって特異点と呼ばれる人間が重要、しかし今は邪魔になった)

結果から考えると、ネクロズマの気が変わったという事になる。
今のネクロズマは本気で世界を滅ぼす気があるのか?



***



ネクロズマ
 「うぅ……!」


 (くぅ……悪意が雪崩こむ……! こんな負の感情を浴びてたら心が壊れる!?)

依然変わらない明るい闇の中、その静寂な世界は姿を変えずとも、中に変化はあった。
私達は外から雪崩こむ様々な負の感情に苦しんだ。
そう、私だけじゃない、ネクロズマだってだ。


 「アンタ、満足なの? こんな物を本気で望んでたの!?」

ネクロズマ
 「うるさい、うるさいうるさいうるさい!!? お前がいなければこんなに苦しまなかった!」

ネクロズマの吐き出す、とびっきりの負の感情に私は呻いた。
しかし、決して私は彼女に悪意は向けない。
ネクロズマはただ駄々っ子のように泣きわめいているのだ。


 「アンタの望みって、世界を滅ぼすことなの?」

ネクロズマ
 「違う……そうじゃない、ただ知りたいんだ、私は何者なのか?」


 「っ、質問を変えるわ……それじゃ結果として多くの人が苦しんでる、それは望んだ結果?」

ネクロズマ
 「その結果は否定する。私が産まれた時与えられた命令は世界を闇に閉ざすことだった」


 (コイツが産まれた時? なんでそんな誰の得にもならなさそうな命令が?)

ネクロズマは機械的だ、もしかしたら普通の産まれ方をしていないのかもしれない。

ネクロズマ
 「お前は、違うのか?」


 「私は普通にお母さんが産んでくれただけ、何かを命令されて産まれたんじゃない」

そう、ネクロズマには当たり前に存在する母性が全く存在しない。
まるで試験管から産まれてきたかのような感覚、或いは産まれたときから役割の決まる兵隊アリのよう?

ネクロズマ
 「分からないから、私は知りたい……何故産まれてきた? 私は何をすれば良い?」


 「アンタ……今世界が滅びようとしている事、悩んでいるでしょう?」

ネクロズマ
 「悩む、とは?」


 「アンタが根っからの悪党じゃないことは分かった、ただ赤子の悪意が世界を滅ぼしかけているという事も」

私は右腕に嵌められた白い腕輪を見た。
それはPKM能力制御装置、PKMの持つ過ぎたる力を封じ込めて、日常生活を送るために開発された物。
多かれ少なかれ、PKMの力は日常を壊す凶器になってしまう、それを望まない誰かが優しい世界を創りたくて産み出したんだ。


 「アンタに必要だったのはこれよ」

私は腕輪を外して、ぷらぷらと振った。
ネクロズマはキョトンとしながらもそれを見る。

ネクロズマ
 「対象を観測、それはなんだ?」


 「アンタみたいな悪い子を黙らせる必殺アイテム、て所かしら?」

私はネクロズマに制御装置を握らせると、装置のシステムをオンにする。

ネクロズマ
 「う……あ!? 力が奪われる!?」

ネクロズマは驚き、それを投げ捨てた。


 「ちょ! これ精密機械で壊れやすいんだから!」

元々拘束能力の弱いものだから、緊急時に能力を解禁できるように壊れやすく作られているらしい。
とはいえネクロズマは随分と驚いたようで、今もハトが豆鉄砲をくらったかのような顔で装置を睨みつける。

ネクロズマ
 「分析の結果、ポケモンの能力を強制的に封じる物だと判明。なぜそんな物を装備する必要がある?」


 「普通に暮らしたいからでしょ?」

私は普段の生活を思う。
いつも悠気と一緒に学校に行って、瑞香や幸太郎、琴音と談笑して、帰ったら育美さんやみなもさんがいる。
あの世界にこんな大きな力は全く要らない。
そんな物無くても私は笑ってられる。

ネクロズマ
 「そう、か……お前にとって力は災いなんだな」

ネクロズマは私の思考を読み取ると、そう分析した。
すでに互いの感応はかなり進行しており、ある程度までなら私も分かる。
ネクロズマには存在しない物だった。
ただネクロズマは目的に真っ直ぐで、躊躇いがない。
ただ最短距離を走って、生きてきたのだろう。


 「アンタは一度だって人の目線で世界を見た? 見てないわよね……まるで神様のように俯瞰しかしてこなかった……」

ネクロズマ
 「……」

ネクロズマは暗い顔をして俯いた。
お互い隠し事は不可能な状態だが、それでも嫌なことは顔に出る。


 「もしもアンタが一度でも人の目線で世界を見ていたら、きっと貴方はもっと違う形で生きていたわよ」

ネクロズマ
 「だけど……命令なんだ」


 「命令、誰にされたの?」

ネクロズマ
 「分からない……うぅ!? 創造主の言葉なのか、それとも第三者の誰かなのか……! ただ、世界を観測して闇に閉ざせ、そう命令されて私は産まれた……!」

もしそれを命令した奴がいるなら、それこそきっと悪意なんだろう。
ネクロズマは泣きそうな顔で震えており、命令をきっと正しい物だと思えていない。
疑問が、その命令の正当性を失わせている。


 「ならそんな命令捨てちゃえばいい! 産まれたアンタには自由がある! そうでしょ!?」

ネクロズマ
 「自由……? うあ!?」


 「くう!? でかいのが……!?」

ネクロズマは闇の外、つまり悠気達のいる世界を受信しているらしい。
ネクロズマの力は強大で、特に認識するという能力に長けているらしく、世界線移動や、別の世界線の監視まで出来る。
だからこそ、今外にばらまかれた悪意を私達は直接その身に受け取っているのだ。


 「心が痛いでしょう? 怖いよね? そんな物捨てたら良い!」

ネクロズマ
 「うううう……ああ!」

私は震えるネクロズマを後ろから抱きしめた。
ネクロズマは私より大きいから不格好だけど、私に出来ることは説得だけなんだから。



***



ニア
 「どこに逃げ込めばいい? どこが安全地帯だというの!?」

突如奇襲を受けた街は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
私はピジョットの女性から女子高生を託されると必死に安全な場所を探すが、どこに行っても怪物は湧き、人々は逃げ惑っている。
警官やポケモンたちは必死の抵抗を行っているが、そもそも無限湧きする怪物に悪戦苦闘していた。

ニア
 「それにしてもあの怪物はなに? 行く先々に現れて!」

女子高生
 「はぁ、はぁ……」

ニア
 「大丈夫? どこか休憩できる場所は……?」

私の後ろを着いてきた女子高生は息を切らしており、このままでは逃げられなくなってしまう。
怪物は飛ぶことは出来ないが、壁さえも登り、ビルの中にまで侵入しているようだ。
ただし単体は弱い、数が少ないウチは一般人でもなんとかなる。

フーパ
 『聞こえるかニア!』

ニア
 「魔神!? 今までなんで応答しなかったのよ!?」

突然頭にあの小さな魔神の声が響いた。
魔神はよく分からない奴だが、ネクロズマを打倒する目的では一致している。
だが魔神にも怪しい部分は多い。
まず、すでにネクロズマは出現しているにもかかわらず、どうして現れないのか?

フーパ
 『済まない、こっちも込み入っててな! それより若葉悠気は一緒か!?』

ニア
 「どうしてここで彼の名前が出るのよ!? 彼は雫とは無関係だったわ!」

フーパ
 『違う、そうじゃない! 兎に角一緒にいろ! それが重要なんだ!』

ニア
 「アンタに聞きたい事もある……どうしてアンタはこっちに来れないの?」

私は最も疑問に思っていることを聞くと、魔神は少し口黙った。
だが、観念したのか魔神は語り出す。

フーパ
 『制約だ、私はその世界は特異なんだ……故に弾かれる、或いはオーバーフローするのさ』

ニア
 「どういうこと?」

魔神はあらゆる世界を繋ぐ、ルーターになれる存在。
実際私も彼女のゲートを潜ってこの世界に来た。
だけど私が大丈夫で魔神が駄目の理由が分からない。
世界への帰属? それは私自身どうなんだ?
なにゆえ魔神は特異点になれない?

フーパ
 『兎に角若葉悠気から離れるな! 後はネクロズマの元に向かえ!』

魔神はそれっきり念話を送るのを止めた。
私は舌打ちをして、周りを見渡す。

ニア
 「今、それ所じゃないってのに……」

女子高生
 「若葉悠気……」

女子高生がそう呟いたのを私は聞き逃さなかった。
なぜその名前を知っている?
私は口にしたか?
そして、その答えは目の前にあった。

悠気
 「ニアさん!?」

若葉悠気だ、私を遠目に発見して、駆け寄ってくる。

ニア
 「っ!? こっちに来るな!!」

女子高生
 「目標、特異点の排除」

女子高生が悠気に向かって走る。
私は一瞬速く、気が付いて女子高生の背中に斬りつける!

悠気
 「え!?」

ニア
 「ミニオンだな!?」

流石の事態に悠気も驚いているが、私は冷静だった。
女子高生は背中を斬られると、ゆっくりと此方を振り向きその像をぼやけさせる。
そして像が新たな姿に変わると、そこには高身長で常闇のローブで顔を隠した男がいた。
しかし、その姿に私は驚愕する。

悠気
 「い、イリュージョン?」

ニア
 「そん、な……ネオ、なの?」

そのシルエットは間違いなくネオだった。
かつてネクロズマに対抗するために世界を滅ぼそうとしたゾロアーク。
しかし曲がりなりにも対ネクロズマという観点では共闘したネオがどうして……?

ライ
 「ネオ? 俺はライ(嘘)、滅びの王より産まれし上級ミニオン……」

ライ、そう名乗るゾロアークは声までもネオと同じだった。
私は動揺してしまうが、直ぐに短剣を構える!

ニア
 「悠気、この場を離れて! 狙われてる!」

悠気
 「生憎なんだけどさ……足が動かねぇ!?」

私がそれに気付くのは遅かった。
もしもライがネオと同一人物なら、彼には強力な幻術がある。
そしてその射程は優に大陸を覆うほども。
そしてその効果は肉体にまで影響を与える!

ニア
 「くっ! はぁ!」

私はライに斬りかかる!
しかしライは動じず、右腕を振るう。

キィン!

私の短剣とライの右腕がぶつかり合うと、火花が散った。

悠気
 「嘘だろ!? 身体が金属で出来てんのか!?」

ライ
 「強力な幻影は肉体にまで影響する、俺の体を硬質化させる程度訳がない」

私は舌打ちする。
厄介さもネオと同レベルだ。
それにしてもなぜネオそっくりのゾロアークをネクロズマは産み出したんだ?
自らに挑んだ者への当てつけか?
ならばここまで悪質な物もない!

ニア
 「お前は不愉快だ、ネオを真似たのか、それとも偶然かもしれないが、アイツには確固たる芯があった……! お前にはあるのか!?」

ライ
 「……!」

ライが右手を振り上げると、その腕を伝うように炎が噴き上がる。
それをライは無造作に私に向けて放った。

ニア
 「ナイトバースト!」

私は炎よりも強い意志を込めたナイトバーストを放ち、炎を押し返す!
あいつと同様の仕組みの幻影ならば、私の意思力で弾き飛ばせる!
同時に私だって同じ事は可能だ!

ニア
 「炎よ!」

お返し、そう言わんばかりに私は炎を地面から噴き上がらせ、ライを襲わせる。
ライはその身を炎に包まれるも、あくまでも無感情だ。
ただ、つまらなさそうに手を振ると、周囲に氷の柱が立ち、一瞬で炎を鎮火した。

ライ
 「くらえ」

氷の柱はそのまま私に直進する、その先端は尖っており、容易に人体を貫通する威力があるだろう。
しかし私は!

ニア
 「無駄だ」

私は氷柱を蹴り砕くと、数人に分身する。

悠気
 「増えた!? つーか、どうなってんだよこの戦い!?」

精神耐性の無い者はこれら当たり前に展開されるイリュージョンは本物同様の効果を有している。
私は10人程度に増えると、一斉に襲いかかる!

ライ
 「幻影、使い慣れてる?」

そうだ、私はまだゾロアークなって長くはない。
それでも私の経験が私のイリュージョンを彩る!
分身一つを軽視すれば、それはその肉を切り裂く!

ライ
 「……!」

ライは両手を広げると、その掌から光の剣が無数に飛び出す。
それらはまるで意志を持っているかのように、私に襲いかかる。
光の剣は正確に私達を次々と貫く。
だが、私の戦いはそれで止まりはしない。

ニア
 「ここっ!」

私がライの後ろを取った!
ライは振り返っていない!

ザシュウ!

私はの一撃がライの背中に突き刺さる!
その感触は、決着であった。



***



ライ
 「分身は……囮、だったか……」

ニア
 「教えて……貴方はネオのなんなの?」

勝負は決した……?
俺は動かない身体でその戦いを見た結果、動かない両者を固唾を飲んで見守った。

ライ
 「何故そんな無意味な事を聞く? 俺は俺だ……」

ニア
 「……そう」

ニアさんは残念そうにすると、短刀を背中から抜いた。
そうするだけでライの背中からは血が噴き出して止まらない。

悠気
 (あんな凄いイリュージョンのぶつかり合いでも、決着は一瞬か……恐ろしいな)

それはニアさんの強さであり、それは平凡な俺達とは一線を画す物だ。

ライ
 「……ぐふ、ここまでだな、後は滅びの王へ、我が魂捧げる……」

ライは喀血するも、その二の足を踏みとどませると、その体を光の粒子に変えていく。

悠気
 「なんだ? どうなってるんだ?」

ニア
 「……悠気、無事?」

ライの身体はあっという間に消え去った。
ニアさんは汗を拭うと、俺に振り返る。
俺は身体が動くことに気が付くと頷いた。

悠気
 「大丈夫、それよりこれからどうすれば……」

ニア
 「ネクロズマの元に向かおう……手がかりはそれしかない」

悠気
 「でも、あの閉鎖空間……スフィアはどうするんですか?」

俺はもっともな疑問をぶつけると、ニアさんは俯いて黙ってしまう。
おそらく明確な作戦もないのだろう。
正直俺だって、雫が何かってのが分かってないんだが。

悠気
 「……分かりました。どの道俺達に出来る事なんて殆どない、なら最も近そうな方を選ぼう」

ニア
 「……ごめん。勝手に巻き込んで、そして勝手に迷惑かけてる……」

俺はそんなニアさんは手を握った。
ニアさんは驚いて尻尾を立てると、俺は。

悠気
 「もうそう言うの止めましょう? 全部丸く収めて最後に大笑いしましょうよ」

些か脳天気な言葉かもしれない。
だが、ニアさんはその言葉に顔を綻ばせた。

ニア
 「に〜、そうだね」

悠気
 (ネクロズマ……俺は宵を救う! 宵を信じる!)



突ポ娘USP #7 完

#8に続く。


KaZuKiNa ( 2021/06/02(水) 18:00 )