突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
SP02



悠気
 「おはよう」

みなも
 「おはよう御座います、ユウさま」

育美
 「おはよう悠気」

朝、学校へ行く準備を終えて、1階に向かうといつものように二人に挨拶をする。
今日の朝ご飯は簡素な和食だった。
俺は席に着くと、テレビに注目する。

悠気
 「今日も変わらずゲートの話題か」

早ければ今日にも出現するかもしれない超巨大ゲート。
過去類例のないそれは、一体何をもたらすのだろうか?

みなも
 「ユウさま、ゲートも大変ですが、まずはストーカーの方が問題です」

育美
 「え? なに? みなもちゃんストーカーされてるの? 無理もないわね、みなもちゃん美人だから!」

そう言えば、母さんには事情を話していなかったな。
母さんはみなもさんがストーキングされたと思っているようだが、実際は俺の方だ。
このままじゃみなもさんが被害者にされちまうから、俺はさっさと名乗り出る。

悠気
 「母さん、それ俺」

育美
 「まぁ! 悠気だったの。悠気ったらモテモテね♪」

母さんは俺だと気付くと、暢気に笑った。
必ずしも女性とは限らないと思うんだが……。

みなも
 「むー……」

育美
 「あら? もしかしてストーカーに嫉妬?」

みなも
 「ち、違います! ただユウさまの身を心配しているだけです!」

みなもさんは目付きを悪くすると、 母さんはあざとく嫉妬心を見抜いた。
みなもさんはそれを見抜かれると顔を真っ赤にして否定するが、少なからず間違いではないだろう。
なんだかんだで、みなもさんは心配性が過ぎて嫉妬っぽい所があるからな。

悠気
 「ごちそうさま、それじゃ学校行くよ」

俺は朝ご飯を食べ終えると、鞄を持って立ち上がる。

みなも
 「ユウさま、お気を付けてください」

悠気
 「うん、まぁ行きは大丈夫だと思うよ」

月代もいるし、途中で瑞香たちと合流するだろうから、普通のストーカーなら問題ないだろう。
まぁ、普通なら……だが。

悠気
 「行ってきます」

育美
 「行ってらっしゃい♪」

俺は鞄を背負って、玄関を出ると隣の家を見た。

悠気
 (月代、今日は遅いな)

隣に住む月代は不思議といつも家を出る時間が合う。
だが、今日は俺の方が早かったようだ。
とりあえず待っていると、突然横から知らない女性が現れた。

ゾロアーク
 「……貴方が若葉悠気?」

悠気
 「は? そうですが……?」

声を掛けてきたのはかなりの美人さんだった。
赤い毛を肩に掛からない程度に伸ばして先端が黒い。
目付きはやや鋭く、見慣れない民族衣装のような服を着たスタイルの良い女性だった。
一目で分かるのはPKMだということ、おそらくだがゾロアークではないだろうか?

ゾロアーク
 「初めまして、私の名前はニア。私は雫を求めている……!」

悠気
 「雫? ……っ!?」

突然だった。
どこからか見られるような視線を感じた俺は空を見上げた。
それは昨日感じた視線と同じ物ではないか?

ニア
 「突然空を……っ!?」

女性……ニアさんも釣られて空を見ると、そこには空を覆う影があった。

悠気
 「ゲート……!?」

それは超巨大なゲートだった。
冗談抜きに空を覆い尽くすゲートは超巨大な竜巻のようで、ゆっくりと渦を巻いている。

ニア
 「まさか……災厄が来るのか!?」

災厄、彼女はあそこから何が現れるか知っているのか?
だが、彼女は視線を俺に戻すと、険しい顔で突然の行動に出た。

ニア
 「教えて! 雫ってなんなの!? アンタ持ってるんでしょ!?」

悠気
 「ど、ドスだと!?」

ニアさんが突然懐から取り出したのは白鞘だった。
短刀、任侠映画で見るそれを彼女は俺に突きつけるのだ!



***




 「アイリス、ゲートの解析結果は?」

超巨大ゲートは遂に現れた。
それは予想よりも早く、そして危急を報せる物かも知れない。
新次元型量子コンピュータアイリスは、ゲートをスキャンして、ゲートの今後を推察する。

アイリス
 『解析結果出ました。ゲートは約28時間後、放出を開始すると考えられます』


 「……28時間か、嫌な予感がプンプンしやがるぜ」

これ程超巨大なゲートだ、やはり鈍足らしい。
なぜアレから15年、平穏だった世界にあの時のような混沌を呼ぼうとするのか。


 (15年……そうか、老いたな)

一人娘も気が付けば15歳で、嫁は小娘からしっかりとした母親になり、家族はそれぞれの道を見つけて進んでいる。
俺はあの頃は本当に弱かった。
ただ諦めなかっただけ、永遠が力を貸してくれなければきっとこの世界線に辿り着かなかったろう。


 (昨日の子、ニアに似ていたな……15年ならあんな美人に成長するんだろうか?)

アイリス
 「マスター、魔更様から連絡です」


 「繋いでくれ……こっちも対策を協議したい」



***



月代
 「寝ぼけた〜っ!」

朝、私は珍しく寝坊してしまった。
朝ご飯は無理そうなので、とりあえず食パンを咥えると玄関を出る。

バタン!

扉を勢いよく開いて閉じると、私は目の前に悠気を発見した。


 「おはよう悠気〜……て、その人誰!?」

いつものように笑顔で挨拶するも、悠気の目の前には知らない女性がいた。
一見すると真っ黒な人、特殊な格好をしているけどPKMなのは間違いない。
腕輪を付けていないのが疑問だけどそれより……。

悠気
 「宵!? くんな!」

ニア
 「っ! ごめん!」

黒い女性はナイフのような物を悠気に突きつけていた。
私はそれが理解できず、初動が遅れてしまう。

ドカッ!

悠気
 「ぐっ!?」

女性は素早く悠気の頭部を殴打すると、悠気を抱え込む。
私はそこでようやく事態を飲み込んで動いた。
腕輪の機能を切ると、重力が軽くなる。


 「悠気に何をするだァーッ!?」

ニア
 「悪いけど、こっちにも事情があるの!」

私は光を受けて、翼を輝かせる。
ムーンフォース、私はそのエネルギーを収束させる。

ニア
 「っ!」

女性は気絶した悠気を抱え込むと、闇の気を放つ。
それは視界を覆う闇となって、私を襲う。
一瞬、視界が奪われた。
その一瞬が致命的で、女性は悠気を攫って逃げてしまう!


 「くっ!? 目が……っ!」

見たことのない技だった。
威力は手加減されたのか、大したことは無いけど、目の前がぼんやりと薄暗く、おそらく目眩ましを兼ねた技だったのだろう。

みなも
 「月代さん? ユウさま? ユウさま!?」

やがて、異変を嗅ぎつけたのか玄関からみなもさんが現れると、ようやく事態の深刻さが現れるのだった。


 「悠気が誘拐された……!」



***



悠気
 「う……く?」

俺は頭に痛みを覚えながら目を覚ますと、そこは薄暗い廃工場だった。
直ぐに記憶を遡ると、あのニアという女性に頭部を殴打されて、そこで気絶してしまった。
凄い手際であり、あの女性プロの殺し屋か?

ニア
 「それじゃ……災厄は?」

悠気
 「……!」

少し離れた場所で、ニアさんは座り込んで独り言を喋っていた。
ニアさんはまだ俺が目を覚ましたことに気付いていないのか?
兎に角俺はまず自分の状況を確認する。

悠気
 (誘拐された……んだよな?)

とはいえ特に縛られたりしている訳じゃない。
強いていうと、仕方なく連れてきた?

ニア
 「災厄は……」

悠気
 「独り言中申し訳ないけど……」

ニアさんは余程独り言に集中していたのか、俺が声を掛けると驚いて後ろに飛び退いた。
とりあえず抵抗しても勝ち目が無さそうだし、俺は両手を後ろ頭で組んで無抵抗を表す。

ニア
 「気が付いてたの……」

悠気
 「雫……だっけ? 悪いけど俺は何の事を言っているのかさっぱりだぞ?」

俺は誘拐される直前のやりとりを思い出す。
彼女はどうやら超巨大ゲートから出てくる物を知っているらしい。
それに雫って奴が必要らしいが……。

ニア
 「……災厄の名はネクロズマと言うらしい、奴の目的は不明、ただ世界を滅ぼして行っているみたいなの」

悠気
 「それで災厄か……ネクロズマはこの世界を滅ぼすと?」

ニアさんは小さく頷いた。
俺の記憶が確かなら、ネクロズマはウルトラビーストと呼ばれるポケモン。
かなり強力なポケモンだと思うが、生まれる前のゲームの情報じゃ、知らないのと大して変わらないか。

ニア
 「雫、それがあれば災厄に滅ぼされた私の世界を救えるかも知れないの……」

悠気
 「そもそも雫って奴が分からないんだが、どうして俺が持っているって思ったんだ?」

ニア
 「魔神……私と同じ目的を持つ魔神が教えたの……若葉悠気が鍵だと」

悠気
 「なんだそりゃ?」

その魔神って言うのが既に怪しいが、彼女はそれだけ切実なんだろうな。
とはいえ雫なんて、俺は持っていない。
もしかしたら何かの隠語なのかも。

悠気
 (とはいえ、そんな凄いアイテムがあるなら分かりそうな物なんだがな……)

単純に考えれば、ネクロズマが苦手な物……とかそういうものか?
少なくともこの世界を滅ぼされちゃ堪らない。
俺に鍵があるなら勿論協力したいが、生憎俺はPKMですらない。
とても世界の存亡を賭ける価値が俺にあるとは思えない。

ニア
 「……ごめんなさい」

悠気
 「謝るなら誘拐なんてしないでください、こうなれば俺だって協力します」

どうやらこの人は、それ程悪党になれるタイプじゃないらしい。
心から申し訳なさそうに謝るものだから、俺も溜息をつくしかなかった。

悠気
 「とりあえずその魔神さんに会わせて貰えません? はっきり言って凄く怪しいんですが」

ニア
 「魔神はこの世界に入れないと言っていた。同時に出来るなら自分一人でもやっていたとも……」

魔神は現れない、か。
そもそも神と名乗る奴にロクな奴はいなさそうなんだよな。
単に神と嘯くだけなのか、正真正銘の魔神なのか。



***



フーパ
 「へっぷし!」

あたしは突然盛大にくしゃみをしてしまう。
どこかで噂でもされたのかな?

老人
 「ふむ、風邪かね?」

あたしの目の前には老人がいた。
老人は160センチ程度の腰の曲がった老人で顔は白髪化した髪と髭で覆われて、殆ど見えない。
僅かに覗き込んだ眼光からは諦めともとれる瞳があった。
名前は富士という。
私はとりあえずこの老人をぶん殴らないといけない理由があるが、今回は飲み込んでおく。

フーパ
 「この世界に風邪ウイルスなんて存在すんのかよ? ただの風の噂さ」

富士
 「噂など誰がするのかね? 神と呼ばれるポケモンが迷信を信じるのかね?」

あたしがやってきた世界はかなり特殊な世界だった。
外には生命体らしき存在もなく、ただ廃墟が立ち並ぶ。
ここは戦争の跡にも思えるボロボロの地下鉄の事務所だった。
所謂終わった世界……。

フーパ
 「あたしの知る限り、アンタ以上の天才は見つからなかった」

富士
 「だから生かした? 頭を打ち抜いたワシを?」

フーパ
 「そうだ、こっちにはそれだけの理由があるんだよ!」

富士
 「ならばハッキリ言おう。君の求めには応えられない」

富士はそう言うと杖をついて背中を向けた。
アタシの目的はそれだ、コイツの頭脳だ。

フーパ
 「アンタは模造品とはいえ『雫』を生み出した……!」

富士
 「だからこそだよ、ワシでは模造品が限界だった……だからここで死んだんだよ」

フーパ
 「だから本物を求めたんだな……」

富士は足を止める。
事務所の壁には写真が貼られており、老人は写真に触れると。

富士
 「そうだ、ミュウスリーにまで反逆され、もはやワシには何も残っていないがな……」

フーパ
 「……アンタのオリジナルが作り出した可能性はアタシの大切な物を奪いかけた、その事はもういい……だがアンタの力は絶対に必要だ」

富士
 「確か、魔神も雫の継承者だったか?」

フーパ
 「……継承はしていない、ただ保管するように頼まれていただけさ」

『雫』、それはアルセウスに託された神の力そのものだ。
こっちの神様は割と王のご気分次第だったから無用の長物だったが、ネクロズマに奪われて事態は火急に迫られている。
だが、そんな可能性世界の一つなんて富士には関係ないだろう。
もはや終わった世界でずっと感傷の浸るだけの老人。
だがアタシは抗う、少なくとも雫をネクロズマに奪われたのはアタシの責任だ。
その性でアタシは大切な人を危険に晒そうとしている。

フーパ
 「言っておくがな富士……アタシは目的を達せるなら悪魔にだって魂を売るぜ?」

アタシは富士の背中を強く睨む。
もはや達観した富士にとっては涼風のようなもんだろうが、アタシは本気なんだ。

富士
 「お前の言う通り雫を最も知り尽くすのはワシだろう……しかし現物が無ければどうにもならん」

フーパ
 「……! 奪ってこいとでも? 出来るならとっとやってる」

富士
 「雫を持ってこい、そうすれば力も貸せよう」

フーパ
 「……ち!」

アタシは舌打ちして、背中側にゲートを開く。
たった一つだが、可能性がある世界を知っている。
出来れば近寄りたくもない世界なんだが、悪魔に魂を売ると言った手前、えり好みしてられない。

富士
 「一つ聞きたい、何故ジラーチを利用しない?」

フーパ
 「アイツは関係ない!」

アタシは苛立ち気に怒鳴ると、そのまま世界から消え去った。



………。



富士
 「ふっ、魔神め……確かにアレでは不適格か」

ワシは全てを失い、本来ならば死んでなければいけない。
実際ワシの壮大な計画はある少年に全てを覆された。
もはやここにはミュウツーもミュウスリーもいない。
魔神はその可能性の一つからワシをサルベージした。
負け犬となったワシを……。

富士
 「クックク……すでに魂を売ったワシに悪魔にだって魂を売るか……! 愉快な小娘よ!」

初めてかも知れない。
オリジナルとは違い、ワシはクローンであるが故に生き甲斐とは目的だった。
だが今あの孫娘のような魔神に生き甲斐を見い出せそうな気がしている。
あの魔神が、何処まで抗えるか……見せて貰おう。



***



ニア
 「……魔神、応答無しか」

悠気を誘拐して数時間、兎に角魔神に聞きたい事があったが、都合が合わないらしく、私は無駄な時間を消費していた。

悠気
 「魔神に連絡は届かない?」

ニア
 「ええ……」

私達はアレから廃工場を出たが、事態が好転しそうな雰囲気もなかった。
悠気はアレから電話という小さな機械を使って、関係者に連絡を入れたようだ。
悠気は本気で私に協力する気みたいで、私を心配させる。

悠気
 「兎に角災厄……ネクロズマをなんとかすればいいわけだろ? それならPKM管理局に連絡を入れるのが一番とは思うんだが」

この世界には人間という種族とPKMと呼ばれる種族が共存している。
私達ポケモンはこの世界ではPKMと呼称されるらしい。
そんなポケモン関連の問題を専門に取り扱うのが、内閣府直属の公安特務二課を前身とするPKM管理局。
人間の手に負えない事件が起きた時なんかに動く組織らしいけど、テロ対策なんかでも活動するスペシャリストらしい。
確かに民間レベルなら頼れる存在かも知れないけど、相手は神にも等しい相手だ。
到底一筋縄ではいかないだろう。

ニア
 「雫が無ければ、どの道抗うのが限界……」

悠気
 「ニアさんでも無理なんですか?」

ニア
 「一度戦った事があるけど、その時は相手にさえして貰えなかったわ……」

アレが人の次元と神の次元の差なんだろう。
私の攻撃は、光の膜を破ることさえ出来ず、オマケに災厄は私を敵とすら認識していなかった。
気になるのは災厄が『雫』という単語を使っていたこと。
もし付け入る隙があるとしたらそこだろう。

悠気
 「ともかく、雫って奴を知りたいですね」

ニア
 「うん、一体なんなのか……それを知ることさえ出来れば」

悠気
 「それがあればネクロズマを撃退……ッ!?」

突然悠気は空を見上げた。
その顔は険しく、私は心配してその肩に触れる。

ニア
 「どうしたの?」

悠気
 「また視線だ……誰が見ている……?」



***




 「……ッ」

ここ最近私は頭痛に悩まされている。
特にゲートが空に浮かんでから頭痛の頻度が上がった気がする。


 (悠気が誘拐されて、空には超巨大ゲートまで現れるし……何が起きてるの……?)



***



世界が揺れ動いている。
超巨大ゲートを中心に移ろう者たちが右往左往し、移ろわざる者はただ静観していた。

育美
 (討希さんと連絡が付かないか)

私は少し苛立ち気味に携帯電話を弄っていた。
悠気が誘拐された、なんて話も出てきたが、そっちはあまり問題視してはいない。
多分『あの子』が関わっているだろうから、無茶はしないだろう。
だけど悪影響はある……この世界が後どの位残っていられるのか。


 「育美、落ち着いてケーキでも食べましょう?」

私の目の前には、ショートケーキを食べる茜様がいた。
彼女の誘いでママ友同士甘味巡りと称して、喫茶店に入ったが、私はイマイチ乗り気ではない。


 「あのー、すみません。パンケーキ追加で」

育美
 「まだ食べるのですか?」

茜様は逆に不貞不貞しくなられた物だ。
旦那や娘さんまで巻き込む事態を迎えるかもしれないのに、暢気にしている。
だけどかつて王だった時のような愚鈍ではない。
茜様は私の目をその大きな瞳で覗き込むと言った。


 「心配して何かが変わる? 貴方なら言わなくても分かるでしょう?」

……その通りだろう。
茜様は強くなったが、私は弱くなったかもしれない。
昔の私なら心配なんて絶対しなかった。
何故なら心配な事なんて全部自分で解決出来たんだ、不可能なんてなかった。
しかし今は心配が先行している。


 「アルセウスに問う、汝役割は?」

育美
 「……っ! 調律です……あるがままにすること」

突然王の気を放つ茜様に私は身動ぎした。
時として王としての威圧も使うようになった茜様はもはや私の手には届かない場所にいるみたいだ。

育美
 「しかし、私は若葉育美です! アルセウスであるが前に母です!」

茜様はそれを聞くとニコリと笑った。

従業員
 「パンケーキお持ち致しましたー」


 「ん、美味しそう」

茜様は早速パンケーキを食べ始める。
口元をクリームで汚しながら、彼女は言った。


 「私も王じゃないよ、だからこうやって自由」

育美
 「……子供じゃないんですから、口を拭いて」

私はナプキンをとると、茜様の口元を拭った。
茜様は尻尾を激しく振るって喜んでいる。

育美
 「つまり、自由にしていろと?」


 「育美は余裕がなくなると、急にテンパるからね……あるがままを受け入れる、でしょ?」

茜様はきっと本質を見ているのだろう。
私が王に与えられた役割とは創造と調律だった。
神々の調和を整え、必要なら切り捨てる冷酷さも必要だった。
あるがままというのは、不自然さを含まないということ。
つまり神の暴走の抑止だった。


 「ねぇ?」

育美
 「なんですか?」

ふと、茜様はつぶらな瞳で私を見た。
その視線はゆっくりとテーブルまで下がる。


 「食べないなら私が食べていい?」

それは半分も手に付いていない私のショートケーキの事だった。
私は思わず頭を抱えた。

育美
 「茜様……食い意地が張りましたね」


 「食は万里を通ずる……から」

神々の世界に料理はない。
そもそも神の座のある宮殿に時間の概念は通用しないから、物を食べる必要が無かったからだ。
とはいえ知識としてはあったから、どんな味がするのか知らないというのが神々の基本だった。
顕現した結果、ジャンクフードに嵌まる神もいれば、自ら飲食店で働く神までいるし、茜様は本当によく食べるお方になった。

育美
 「茂さんに手料理など振る舞っているのですか? 未だ子供っぽさが抜けないというか……」


 「やれやれ、それも人のサガか。王だもの、月1回は振る舞ってるもん」

育美
 「たった1回ですか!? メイドに甘えすぎでしょう!?」

ウチも最近みなもちゃんに任せてサボりガチだけど……。
茜様は成長している、だけどその成長は些か暴走している気がした。

カランカラン♪

来店を報せるカウベルの音だった。
入口に注目すると2メートル近い巨軀の女性がやってくる。


 「遅い」

天海
 「はっはっは! すまない王よ! 中々多忙でな!」

この巨軀の女性はソルガレオ、名は夏川天海(なつかわあまみ)という。
時の日本国首相夏川慎吾の夫人としても有名だ。
彼女も元神の十柱として、時折連絡を取っている。
一見すると雄ライオンを思わせる金髪、ゆうにそこらの男性を遥かに上回る筋肉の塊。
天海が相席すると、途端に狭くなった。

天海
 「おう! とりあえずパフェデラックスって奴を頼む!」


 「相変わらず元気溌剌ね」

育美
 「声までデカい、これでも十柱時代は一番勇猛で、忠義を重んじる神でしたのにね」

天海
 「はっはっは! それを言えば育美よ! お前とて冷酷無比な上に腹に何を抱えているか分からんかったぞ! 永遠やイベルタルなぞ露骨に睨んでおったし!」

勿論知っている、永遠は隠す気が無かったが、イベルタルは私を信じてなどいなかった。
寧ろ愚鈍な程信じていたのもパルキアと王位で、私はどっちかというと嫌われ者である。


 「ルナアーラは元気にしている?」

天海
 「相変わらず南極よ! 今は昭和基地にいるようだがな!」

今回茜様の提案で旧知の神を呼べるだけ呼ぶことにした。
と言っても来れない者が大半で、集まったのもたった3人だ。
レシラムことターニャは今もロシアにいるし、DJZEROこと、ゼクロムのゼロは各地を放浪してライブ活動している。
ゼルネアスの聖はニューヨークを拠点にNGOを設立して理事として活動しており、イベルタルなぞは消息不明で連絡しようもない。
カイオーガとグラードンは文明の利器を利用できるのか怪しいし、おそらく甘味巡りに興味を示すのか怪しい。
そして「巫山戯んな」と明確に拒否ったのがディアルガの永遠だ。
唯一パルキアだけは、行けないと律儀に返事を返してきたのであった。

天海
 「まぁ十柱と言っても仲良しグループではないしな、カイオーガなぞ15年引きこもりを続けとるし、対人恐怖症か?」

育美
 「トラウマの性ね……」

カイオーガはある存在には絶対服従で逆らえない。
元が控えめかつ臆病な性格の性で、ある存在の暴虐に振り回された結果引きこもりと化したのだ。
流石に憐れとは思うがまさか顕現して15年、引きこもり続けるとは予想してなかった。


 「グラードンはまだ紅色の珠を探してるの?」

育美
 「そのようです、まぁコーラの瓶をオーパーツと思っている残念な子ですが」

天海
 「あっはっは! アレでも武においては俺と同等なのだがな!」

皆15年の間に変わっていった。
変化は様々だけど、人の営みの中でそれに馴染んでいる。
天海なんて、本来ならこんなイベントに時間を裂ける余裕なんて本来ないだろう。

天海
 「しかし茜様よ? 唐突にこのイベント、何か意味があるのか?」


 「特にないよ、ただ楽しもうってだけ」

茜様の真意は分からない。
だが天海は豪快に笑った。

天海
 「あっはっは! そうか! それはいい! 楽しいのが一番だからな!」

従業員
 「お待たせしましたー、パフェデラックスなります」

天海
 「うむ! まずは腹ごしらえと行こうか!」

ドンと小さなテーブルに乗せられたのは高さ30センチの巨大フルーツパフェだった。
それをこの女、腹ごしらえと言ったか?

育美
 「茜様といい天海といい……暴食の罪は恐ろしい」


 「私、どこぞのピカチュウみたいには食べないから……」

天海
 「体重を維持するならこの程度じゃ足りんからな!」

見た目通り食べる天海、見た目以上に食べる茜様。
私はショートケーキ1つで胸焼けしそうで、頭を抱えた。

天海
 「時に育美、お前の息子は大丈夫か?」

育美
 「それはどういう意味ですか?」

私は少しだけ顔を険しくした。
天海は子供がいない、天海の場合家庭の幸せより、旦那の慎吾を立てる事を優先したからだ。
そんな女に息子の事を心配されれば、多少気には障る。

天海
 「他意は無いが、誘拐された聞いたぞ?」

育美
 「少し事情が異なります、現在は悠気は自主的に協力しています」

天海
 「夢はどこまで続くかな……?」


 「そこまでよ。夢はいつかは醒めるわ……でもそれは願いなの。『夢見の雫』……それは神様への細やかな願いでしょ……?」



突ポ娘USP #2 完

#3に続く。


KaZuKiNa ( 2021/05/30(日) 18:34 )