突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語


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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第21話 高雄萌衣のやりたかった事



悠気
 「やばい、ちょっと急がないとな!」

14時から行われるゲーム研究会の発表。
俺はなんとかメイド喫茶の休憩時間を縫って、足早に図書室に向かった。
たしか図書室では読書部の論文発表が行われているはず、その後からゲーム研究会の発表が始まる。

萌衣
 「ゲーム研究会、間もなくゲームの発表をしまーす! 良かったら見ていってくださーい!」

図書室前は人通りも少ない。
はっきり言えば出し物の客受けが悪いのが原因だが、親子連れなんかは昼前に学校を出て行っているのも理由だろう。

悠気
 「萌衣先輩!」

萌衣
 「あ、悠気……来てくれたんだ」

俺は萌衣先輩を見つけて近寄ると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
萌衣先輩にとってこの学園祭は最後のお祭りだと言える。
まだ先輩が進学するのか就職するのか知らないが、そのどちらかを彼女は選ぶのだろう。
そんな萌衣先輩を俺は、せめてこの文化祭までは絶対に支えたい。
それは俺の感謝であり、償いだから。

萌衣
 「図書室に入ろうか、そろそろ発表だし」

悠気
 「なにか手伝えることありますか?」

萌衣
 「それじゃ、暗幕降ろしておいて」

俺達は図書室に入ると、読書部の発表も終わっており人の姿はまばらになっている。
文化祭は後1時間で終業のため終わってしまうから、この発表時間は本当に最後の最後だ。
俺は窓の掛けられた暗幕を降ろして行きながら萌衣先輩を見ると、萌衣先輩は用意したノートパソコンでテストプレイをしているようだ。

悠気
 「プロジェクターの方は大丈夫ですか?」

発表会はどの位の人数が集まるか分からない。
だが万が一想定以上の数が集まった場合に備えて暗幕を降ろしてプロジェクターで大画面を確保して発表する事になったのだ。
萌衣先輩はプロジェクターの電源を入れると、こちらを見て「うん」と頷いた。

萌衣
 「ねぇ悠気、どれ位集まるかな?」

悠気
 「個人サークルですし、たかが知れているでしょう」

なにせこれといった宣伝もしておらず、ほぼ情報は掲示板の告知程度だ。
10人でも集まれば上出来、下手をすれば0もあり得る。
しかし少し冷淡だったか、俺の言葉を聞くと萌衣先輩は暗く俯いた。

萌衣
 「そう、だよね……」

萌衣先輩はこの発表に掛けて強い想いがある。
それは多分人生を決めるような決断なんだろう。

悠気
 「……大丈夫ですよ、確信はないけど、きっと見てくれる人はいます」

少なくとも俺はその一人だと思う。
流石に口にするのはキザ過ぎるかと思って、自重したが萌衣先輩には前を見てもらいたい。

萌衣
 「私ね……この発表会が成功したら進学しようと思うの」

悠気
 「進学ですか」

萌衣
 「うん、ゲーム情報科のある専門大学にね。そこでもっと学んでゲーム会社に就職したいの」

萌衣先輩はハッキリ卒業後の事を視野に入れているらしい。
恐らく順風満帆な未来などないだろう。
就職したって作りたいゲームが作れるとは限らない。
それ以前に未来は誰にも分からないのだから。

萌衣
 「悠気は……来年上級生よね、進路の方はどう?」

悠気
 「まだ決まってませんよ」

この2年の時点で明確に進路が決まっている奴も珍しいだろう。
それを見て萌衣先輩はクスリと笑った。
先輩はある意味去年のこの時点でその未来を描いていただろう。

悠気
 (確かに後1年か……)

ふと浮かぶのは当然みなもさんとの約束だ。
卒業を期に俺はみなもさんと結婚するか決断しないといけない。
だが、それ以上に胸に突き刺さったのは月代だった。
アイツと俺は所詮他人でしかない。
なのに、なぜか月代が俺の脳裏を過ぎていくのだ。

悠気
 (俺にとってお前は何者なんだ? 俺がおかしいのか? 狂ってるのか?)

萌衣
 「悠気? どうしたの? 大丈夫?」

悠気
 「先輩……俺っておかしいですか?」

それは無意味な質問だ。
自分でそれを理解しているのに、八つ当たりめいて萌衣先輩に聞いた。
萌衣先輩は口元に手を当てて、俺の目を直視した。

萌衣
 「私の知っている悠気は二人いる……子供の頃の貴方と、今の貴方……」

それは萌衣先輩しか知らない俺の二面だろう。
ユングの言うペルソナには人間には4つの面があると言うが、自分自身では2面しか知ることは出来ないという。

萌衣
 「……こういう言い方したら変かも知れないけど、あなた弱くなった? ううん……忘れちゃったの?」

悠気
 「忘れた……?」

俺は怪訝と眉を顰める、一体何を?
しかし彼女はそれ以上は答えず、発表の準備を進めた。

悠気
 (忘れた、だと? 一体何を? 俺が何かを忘れた?)

俺はその不気味な違和感を覚えつつも、準備を進めると次第に図書室に人が集まりだした。

瑞香
 「やっほー、大して協力出来てないけど来たわよ〜」

柚香
 「いよいよ発表ですね」


 「同僚と一緒に見させていただきますです!」

余程忙しかったのか、瑞香は着替える暇も無かったのかメイド服のままであり、妹のユズちゃんもエプロンを付けっぱなしだった。
二人とも忙しい中でも、なんとか時間を作ったという事だろう。
一方で常葉は、Eスポーツ部の部員を引き連れてやってきた。
Eスポーツ部にとっては、ジャンルは違えどゲームであることは同じだから興味もあるのだろう。

やがて彼らはまるで堰を開いたかのように図書室に観客は集まり始めた。

萌衣
 「―――それでは、ゲーム研究会の発表を行わせていただきます!」

図書室に集まったのは20人くらいだろうか。
決して多くはないが、皆興味を持ってくれたということは俺にも誇らしい。
萌衣先輩はノートパソコンを操作すると、ゲームを開始する。
ゲームは所詮素人が作ったものだ。
声優が用意出来る訳じゃないし、プロのグラフィッカーがいる訳でもない。
何十年も前のゲームを思わせるチープな代物だが、内容は滞りなく進んでいた。
だが、内容は無難な意味で白雪姫を選んだが……それだけでは意味がないと萌衣先輩は考えた。
だからこそ……あのトンチキルートを入れたのだ!

萌衣
 「……ゴクリッ」

萌衣先輩も緊張の一瞬だった。
王道のルートを選ぶ選択肢もあった、だがそれでは凡作止まり。


魔女
 『イッヒッヒ、お嬢さんこの美味しいリンゴは如何かね?』

白雪姫
 『ばあさん、試しに食ってみろ』

魔女
 『エヒ!? あ、あたしゃもうお腹いっぱいで……』

白雪姫
 『いいから食ってみろ』

魔女
 『うくく……! キェェェ!』

突如魔女の腹部から三つ叉の槍が白雪姫を襲う、しかし!

白雪姫
 「イヤーッ!」

目にも止まらぬ白雪姫のハイキック!
魔女のおばあさんは顔面を砕かれた!

魔女
 「あ、あががが……なんで変装がバレたんだ?」

白雪姫
 「貴様のような魔女がいるか……! 化けるなら牛にでも化けるのだったな」

魔女
 「さ、サヨナラ!」

魔女はそのまま爆発四散!
白雪姫はその場でザンシンを決めた。
こうして白雪姫は7人の小人と共に暗い森の中へと消えていった……。
しかし、それにしても魔女は何故白雪姫を魔の手に掛けようとまでしたのか?

白雪姫
 「奴ら、必ず生かしては帰さん……!」

……to be continued.



萌衣
 「以上でゲーム研究会の発表を終了します。今回の内容は数種あるルートの一つですので、皆さんにはゲームディスクを配布するほか、後日ホームページで無料ダウンロードにも対応します!」

パチパチパチ!

それは拍手だった。
誰からともなく拍手が起こり、一般学生や来場客も含め小さな喝采が起きた。

その後は少ない時間を使ってゲームディスクを一人一人に配布していく。
俺もその作業に参加しながら、ゲーム研究会の活動は一先ず成功だと言えた。

悠気
 (みなもさん……! 見に来てたのか)

図書室にみなもさんの姿もあった。
今日はずっと調理室にいたから、肝心のみなもさんを案内も出来なかったが、彼女は俺を見ていたのだろうか。

萌衣
 「ねぇ悠気」

悠気
 「なんです?」

萌衣
 「ありがとう……! 私一人じゃ絶対無理だった」

思えば、1カ月間俺はずっと萌衣先輩とゲームを作ってたんだな。
本来なら萌衣先輩は一人で作っていたんだろう。
きっと一人だと、発表なんて無理だったろう。
奇跡というには烏滸がましいが、この縁から完成したこの発表会は大切な思い出にしたい。

悠気
 「……またなにかあったら俺は絶対助けますよ」

萌衣
 「……うん」

萌衣先輩は、ただ優しく微笑んでいた。



***



終業時間、空は茜色に染まり一般来場客は皆帰り、学生は後片付けに追われていた。

幸太郎
 「皆! お疲れ様!」


 「疲れた〜」

瑞香
 「一体いくら稼いだのかしら? まぁどうせ全額寄付なんでしょうけど」


 「んっふっふ〜♪ 先生から差し入れよ〜! 皆よく頑張ったわね!」

教室で後片付けをしていると、担任の御影先生は人数分のドリンクを用意したらしく俺達はありがたく受け取った。

瑞香
 「宵〜♪ お疲れ〜、で労働はどうだったかしら?」


 「お疲れ、うーん……忙しすぎてよく覚えてない」

瑞香の方を見ると月代とじゃれ合っていた。
瑞香は馴れているのか割合余裕があるが、馴れていない月代はすでにゲンナリしており、気持ち痩せ細ったようにさえ思える。

瑞香
 「まぁ無理もないわねぇ、まぁこの経験があったら大体のアルバイトなんて楽勝よ!」


 「アルバイトか〜、どうしよう今日何やってたか忘れちゃってそう」

悠気
 「……っ!?」

忘れている……。
俺はその言葉になぜか背筋が冷たい思いをした。
俺は恐る恐る周囲を見渡すが、祭りの終わりを疲れた者や充実した者がいつも通りいるだけだ。
しかし何故俺は周囲を見渡したのだろう?
時々意思を無視して身体が動くときがある。
俺は何を忘れたんだ?


 「? 悠気〜、顔色悪いよ?」

悠気
 「え、あ……」

突然心配そうに月代が近寄ってきた。


 「あら、本当! 若葉、保健室に行っとく?」

悠気
 「……大丈夫です」

俺は正直無理をしていたが、なるべく月代と顔を合わせたくなくて、黙々と片付けを進めた。
片付けが終わり帰宅する頃には既に暗くなっている。



***



悠気
 (なんなんだろう……)

俺は最後の方まで片付けのために残っており、一人で下校していた。
一人で帰ることは馴れている事だし、そんなに気にする事じゃない。
だが、気分が悪い。
疲労か? それともストレスなのか?
俺は気怠げに帰り道を進み、時々対向車がやってくると、俺はぶつかりそうになりながら避けた。

悠気
 (なんでトゲみたいに引っかかってるんだろう……どうせ明日には忘れるような事なのに)

ここ最近何かが変なんだ。
明確に言葉で表せる訳じゃないし、それが悪意だとかそういう類いの物でもない。
俺が妙なほど月代を意識していて、その理由が分からないんだ。
それが余計にモヤモヤになって、どうすればいいか分からなくなる。

悠気
 「あ、寺……」

通学路の脇には小さな境内に佇む廃寺がある。
そこは初めて月代と出会った場所だ。
俺は半ば無意識に石段を登って寺の前までやってきた。

悠気
 (月代はここで俺にスカートを覗かれたと勘違いしたんだよな)

俺は寺の周囲を見渡すが、やはり人の気配はなく、なぜずっと残っているのか不思議に思った。

悠気
 (妙に小綺麗だよな……誰かが清掃しているのか?)

謎だ、しかし何故か引きつけられる。
何でもない廃寺に用などないはずだが、俺はここに何かがある気がした。

悠気
 (思い出……?)

俺は薄らとこの廃寺の事を思い出そうとする……が、思い出せない。
何かが、何か引っかかるんだが……。


 「悠気? こんな所でどうしたの?」

悠気
 「母、さん?」

声に振り返るとそこには優しく微笑む母さんがいた。

悠気
 「母さん、どうして?」

育美
 「ふふ、夜の散歩♪ 家のことはみなもちゃんに任せてきちゃった♪」

母さんはそう言うと俺の腕に抱きついてきた。

育美
 「さぁ、帰りましょう♪」

悠気
 「う、うん。母さん少し離れて」

俺は恋人歩きを母さんとするのは照れくさかったが、母さんは遠慮なく胸を押し付けてくる。

育美
 「嫌よ♪ このまま♪ お願い……もう少しだけ……」

悠気
 「母さん?」

最初もしかしたら母さんは酔っているんじゃないかと思ったが様子が違う。
母さんは女性としては身長が高いから、抱きつくと殆ど顔が直ぐ近くまで寄ってしまう。
俺も母さんのことは好きだが、異性として好きという訳じゃない。
だからそのキスしそうな距離感は好きになれないが、その性で母さんの憂いた顔を覗き込んでしまう。

育美
 「ふふ、早く晩ご飯にしましょ♪」

悠気
 「あ、ああ……」

母さんは俺の腕を引っ張ると、俺は仕方なくそのままの姿勢で帰った。



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第21話 高雄萌衣のやりたかった事 完

第22話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/05/28(金) 18:07 )