突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第19話 葛藤



育美
 「悠気、明日って文化祭だったわよね?」

悠気
 「うん? 母さん来るの?」

夕食の後、母さんとみなもさんが食器の後片付けをしていると、母さんはそんな事を尋ねてきた。
俺の記憶では母さんは明日パートが入っていた筈だから、少なくとも明日は来れない筈だが。

育美
 「ううん、母さんは行けないけど、みなもちゃんに行ってもらおうと思ってね」

それを聞くと、隣で働いていたみなもさんが「えっ?」と驚いた表情をした。
ウチの学園は一般来場客も来ることが許可されている。
私立だと、こういう辺り寛容というか、そういった来場客を集めることも運営に関わるらしいからな。

みなも
 「私は家事もありますから……」

育美
 「みなもちゃん、四六時中働いているって訳でもないでしょう?」

悠気
 「まぁみなもさんなら、遠慮なく来てくれれば良いよ」

俺がそう言うとみなもさんは少しだけ困った顔をするが、やがてお茶を淹れて俺の隣に座った。

みなも
 「ユウさまがそう仰るなら、行ってみようと思います」

みなもさんはそう言って少しだけ笑った。
俺はみなもさんからお茶の淹れられたコップを受け取ると、それを頂く。
冷蔵庫で冷やされた麦茶で、それ自体には何の変哲もないが、日々気を利かせてくれるみなもさんが淹れてくれたお茶だからか、少し元気を見せる。

悠気
 「さて、部屋に戻るよ」

みなも
 「お風呂が沸きましたらお呼び致します」

俺は軽く返事をすると、席を立って2階の自室に向かった。



***




 「お帰りなさいませ〜ご主人様! ……う〜、違うかな?」

自室に戻ると、向かいの部屋で今も接客の練習をしている月代がいた。
今回文化祭期間は月代に付き合ってやれる時間も少なかったが、彼女はそれでも頑張っており、部屋に鏡を置いて仕草や口調を念入りに確認していた。
しかし俺の部屋に光りが灯ると、月代は笑顔で俺の方を振り向く。


 「あ、ねぇねぇ! ちょっと練習に付き合ってよ!」

月代は窓から上半身を乗り上げると、不満顔でそう言った。

悠気
 「たかが学園祭だぞ? そんなに気にするか?」


 「うぅ〜、だって幸太郎って厳しいんだもん〜」

月代の練習は結局のところコウタが原因か。
コウタは3年生が引退するとまず間違いなく柔道部の部長になるだろう。
人望もあり、ストイックで寡黙な男だ。
ただ自他に厳しく、柔道部のコウタを知らない月代はそれで参ったようだ。


 「それじゃ、そっちに行くから、部屋に入るところからやって!」

月代はそう言うと右手首の腕輪に左手を翳した。
能力を解放してこちらの部屋に渡る気のようだ。
やれやれ、俺はどこに行っても一人になる時間はないらしく肩を竦めると、大人しく月代の言うことに従った。

悠気
 「はいはい、お客役をやればいいんだな?」


 「良いって言うまで入らないでね!?」

悠気
 「イエス、マイロード」

俺は部屋を出て通路で待つと、部屋からガタゴト音がする。
待ち時間は5分くらいだろうか?
妙に待たされた気がするが、やがて彼女の声が部屋から放たれる。


 「もういいよー!」

準備完了らしい。
どうせ二束三文の芝居劇と変わらないんだから、対して心持ちも要らないだろう。
存外月代もそういう所は繊細というか、女の子らしいメンタリティなのかもしれない。

悠気
 「失礼……っ!?」

俺は本当に軽い気持ちでドアを潜った。
そこにいたのは当然月代だが、その姿は予想だにしていなかった。


 「お帰りなさいませ! ご主人様♪」

悠気
 「お前、その格好……」


 「メイド服? 本番に近い格好なら良いんじゃないかなって思って……」

そうメイド服だ。
だがただのメイド服じゃない。
みなもさんが大量に持っている肌面積の少ない英国風メイド服ではなく、月代の太ももや胸元がハッキリ露出した改造メイド服なのだ。
俺は顔を紅くすると、目線を月代に向けられずそっぽを向いてしまう。
それに怪訝とした宵は心配そうに下から覗き込んでくるが、その前屈みな姿勢は露骨に月代の胸を強調した。


 「ちょっと〜? 大丈夫? 調子悪いの?」

悠気
 「胸……! 胸を隠せ! 恥ずかしくないのかお前は!?」


 「胸? そりゃ恥ずかしいけど悠気なら平気♪」

悠気
 (つ、月代の場合、その言葉に他意はないんだよな……?)

月代も「えへへ」と頬を紅くしながら微笑んでいるが、乳首が見えそうで見えない水着のようなメイド服を着こなしていた。
月代のメンタリティははっきり言えばとても子供っぽい。
それこそ小学生のメンタリティからまるで成長していない感じさえある。
だからこそあどけないのに、大人っぽい太ももや胸元の扇情的な魅力が凶器のように感じて仕方がない。


 「ご主人様、席へとご案内します♪」

宵は演技に移ると、朗らかな声で俺をベッドに向かわせる。
ベッドを席に見立てたようだが、これじゃ思いっきり。

悠気
 (コスプレ系風俗店そのものじゃねぇか!?)

まさか月代が狙っているとは思えないが、もしそうであれば、これって据え膳なのか?


 「ん? どうかした?」

悠気
 (月代が俺を誘っている? 据え膳出されれば皿まで……)

俺は必然的に月代を正常な目で見れなくなっている。
落ち着け、もう少し冷静になれ、必死に自分を言い聞かせてカラッカラに渇いた喉でなんとか言葉を紡いだ。

悠気
 「な、何でもない」


 「? やっぱり変だよ悠気?」

月代はそう言うと手を俺の額に当てた。
もしかしなくても熱を計っているのだろうが、それだけのスキンシップでも俺はドギマギした。


 「うーん、熱っぽいような〜、そうでもないような〜?」

悠気
 「月代! もういい、離れろ!」

俺は無理やり月代を撥ねのけると、彼女がベッドの上に転がる。


 「うぅ〜、乱暴は駄目だよ〜」

悠気
 「っ! お、お前もう部屋に戻れー!」

それもやはり偶然なんだろう。
ベッドで跪く宵はまるで犯してくださいと言わんばかりだったのだ。
俺はギリギリの理性をなんとか保って、部屋を出て行く。
すると、入口でみなもさんと鉢合わせた。

みなも
 「きゃ!? ゆ、ユウさま。如何致しました?」

丁度勢いよく扉が開かれた事で目の前にいたみなもさんは驚いているが、俺はその場で深呼吸をして精神を落ち着かせた。

悠気
 「何でもない、それでどうしたの?」

みなも
 「お風呂の準備が出来ましたのでお呼びに」

悠気
 「そ、そう。分かった……直ぐ行く」

俺はそう言うと階段を下って1階に向かうのだった。



***



悠気
 「なんで俺が月代に欲情しないといけないんだよ……」

風呂場、浴槽にゆっくり浸かると次第に俺は正常になりつつあった。
冷静に考えれば、みなもさんは月代よりもっと大人っぽい体付きをしているのだ。
それに比べたら確かに同学年では月代はスタイルがいい。
だが、大学生のような魅力は月代にはない。
月代は手が掛かる子供だ。
今でこそ、色々勉強熱心な月代は出来ることも増えてきたが、それはどれも中途半端だ。
最初は瑞香よりやばかった学業の成績もなんとか中間より上になるようになって、赤点の数も今じゃ見当たらない。
それ以外でも彼女はよくやっているが、逆に言えば彼女がしているのは俺の真似事だ。

勉強も料理も、月代は多くのことを俺に頼っている。
それ自体に俺は悪い気はしなかったし、これからも頼られるんだろう。
だが、今回のメイド接客は俺が一切関与していない。
つまり俺を通さず彼女が学んだ技能だ。

悠気
 (そりゃそうなんだよな……月代は無能じゃない。他より圧倒的に経験が不足していただけだ)

出会ったばかりの彼女はそれこそ無能だった。
だけどそれは才能がない訳じゃない。
普通の高校生がレベル50なら、彼女はレベル5からスタートしただけなのだ。
その分だけ月代は乾いた土が水を吸うように、技術を習得していった。
もう月代にとって俺が不要になるのにそんなに時間は掛からないだろう。
俺の知らない所で一杯学んで、そして彼女は自立していく。
寂しいようだが、それで正常なんだ。
寧ろ今までの付き合い方が異常だったんだろう。

悠気
 「でも、俺は月代のこと……どう思ってんだろうな?」

それは自問自答しなければいけない。

(宵
 「恥ずかしいけど悠気なら平気♪」)

あの言葉……月代の本心だろう。
俺は月代じゃないから、月代の全ては分からない。
それでも月代が人との付き合い方に線引きをしっかりしているのは俺でも分かる。
その中で、彼女は俺を受け入れたのだ。
あれは紛れもなく好意の表れだった。
だけど、それは俺が受け入れなかった。
俺は月代が好きなのか? 嫌いなのか?

悠気
 「くそ……何が正解なんだよ、改善の方法が分からねぇ」

月代のことが好きならば、俺はあの場で彼女を押し倒すべきだったのか。
そもそもアレだけ性的に感じさせる行為をどう捉えればいいか。
だが、それら全てを撥ねのけた俺は月代を好きって言えるのか?

きっと言えない。
俺は月代が嫌いじゃない。
でも好きでもないんだ。
まるでアイツだけは、好きになったら全てが壊れるような気がして臆病になっている俺がいる。
相手の好意を撥ねのける奴に好きって言う資格がないように、俺はやはり月代を好きにはなれないんだろう。

悠気
 (罪悪感、かな?)

俺は湯船に浸かりながら目を閉じていく。
月代を愛してると言い、押し倒す事は簡単だった。
だけどきっとそれは罪なんだ。
そして俺は全てを失う罰を受けないといけない。

罪と罰、俺はきっとそれを怖れている。



***



育美
 「ねぇみなもちゃん」

みなも
 「如何致しました、育美様?」

あらかたの家事を終えると、育美様はいつものようにダイニングテーブルでお酒を呷っていた。
育美様は白ワインを好んでいるようで、節約志向の中では例外的に少し良い物を開けているようだ。

育美様は私を見ると上機嫌にあることを言った。

育美
 「みなもちゃんは悠気を愛している?」

みなも
 「えっ? と、当然です! 許嫁である以上に私はユウさまをお慕い申しております」

育美様は酔っているのか、顔を少しだけ上気させてニコニコ笑っている。
なんというか、普段の育美様は本当に威厳がない。
この方が本当は凄いお方なのは理解しているが、オフの時はとことんオフだった。
私は少しだけドキリとしながら、育美様の対面席に座る。

みなも
 「突然どうされたのですか? そもそも私とユウさまは許嫁でありますが……」

育美
 「うふふ〜、挙式はなるべく速い方が良いかもって思ってねぇ〜?」

みなも
 「きょ、挙式!?」

私は瞬間的に顔を真っ赤に染め上げた。
それはユウさまとの結婚という事でしょうか!?
確かに育美様や討希様は賛成されるかも知れませんが、肝心のユウさまが賛成されるでしょうか?
だけど育美様は空になったガラスのコップをテーブルに置くと。

育美
 「今なら悠気はオーケーするんじゃないかしら? だってみなもちゃんの事を好きなんだもん」

みなも
 「〜〜〜! だとしてもユウさまはまだ高校生です! やはりご卒業まで待つべきでは?」

育美
 「……そうね、それが本来なら正しいんでしょうけど」

一瞬、本当に一瞬育美様は哀しい顔をした。
だけど直ぐにコップに2杯目を注ぐと、直ぐに呷って笑顔を見せた。

育美
 「ふふ、これは幸せの味よね〜♪」

みなも
 (……気まぐれ、だったのかな?)

育美様は上機嫌に、鼻歌なんかを歌ってお酒を楽しんでいる。
どうして突然結婚の話なんか持ちかけたのか私には分からなかったが、育美様の気まぐれだろうと解釈する。

育美
 「さぁ、みなもちゃんも良かったら一献付き合ってくれるかしら?」

育美様はかなりの酒豪だ。
まともに付き合っていたら、私なんていとも簡単に潰される。
それではまたユウさまに迷惑を掛けてしまう事を懸念した。
とはいえ、相手は主の育美様。

みなも
 「分かりました。一杯頂きます」

私はもう一つ用意してあったコップを持つと、育美様はニコニコ顔でワインを注いできた。
私はどちらというとアルコールに弱いので、この一杯で終わらせて、明日に備えよう。



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第19話 葛藤 完

第20話に続く。

KaZuKiNa ( 2021/05/14(金) 18:00 )