突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第18話 お姉ちゃんの想い



悠気
 「白雪姫?」

俺達はゲーム制作の方向性が決まってから、まずその内容を話し合った。
その際、萌衣先輩が上げたのは童話でも有名な白雪姫だった。

萌衣
 「うん……どうかな?」

瑞香
 「良いんじゃないですか? 白雪姫なら皆知ってるでしょうし」

柚香
 「うん、それにこれは高雄先輩の作品ですし」

悠気
 「それなら作品は白雪姫をベースにで確定だな、早速作り始めたい……所だが」

皆の意見も纏まって、とりあえず作れそうな段階までやってきた。
しかし俺は時計を見て、溜息を吐く。

悠気
 「最終下校時刻だ……続きは明日だな」

萌衣
 「あ……気が付いたら」

瑞香
 「いけない! ウチ門限が厳しいのよねぇ!」

気が付けば、学校に殆ど人は残っていない。
最終下校時刻を迎えたため、俺達も帰らないといけない。
瑞香は柚香を立たせると、手を引っ張って出て行く。

瑞香
 「じゃね〜♪」

柚香
 「あ、明日からよろしくお願いします!」

大きな足音を響かせて、二人が出て行くと俺と萌衣先輩は二人っきりになった。
どちらからか分からなかったが立ち上がると、お互い帰りの準備を進めた。

萌衣
 「ね、ねぇ悠気?」

悠気
 「なに?」

萌衣
 「その、ありがとうね。お姉ちゃん悠気に助けられっぱなしだから……」

悠気
 「助けるさ……約束だから」

10年前、萌衣姉ちゃんはご近所に住んでいる年上の女の子だった。
俺はそんなお姉ちゃんが好きだった。
当時の俺は本当に弱かったから。
だから俺をいつも守ってくれた萌衣姉ちゃんに俺は絶対報いたかった。

萌衣
 「帰ろう?」

悠気
 「うん」

俺達は一緒に並ぶと、校舎を進む。
一旦下駄箱で別れて、正門で合流すると、俺は萌衣先輩にある疑問をぶつけた。

悠気
 「萌衣先輩、どうしてゲームを作ろうと思ったんですか?」

萌衣
 「ゲームってね、残るのよ、いつまでも」

悠気
 「え?」

それはとても哀しそうな顔だった。
彼女がゲームに掛ける想い、それは軽はずみな物ではないのかも知れない。
彼女は俯いたまま、言葉を続ける。

萌衣
 「私去年まで陸上部だったでしょ? 実際今も陸上は好きなんだけど……怖くなったんだ」

悠気
 「好きなのに怖い?」

萌衣
 「陸上の記録ってね、塗り替えられたらそれで終わりなの、私の中学記録もとっくに塗り替えられて、多くの過去の記録が塗り替えられた瞬間、過去は忘れ去られるの……それがある日とても恐ろしく思えた」

確かに、陸上の偉人たちで記録に残るのは本当に一握りだ。
ただでさえ日本記録など、誰も見向きもしない。
だからなのか、萌衣先輩は顔を上げると。

萌衣
 「ゲームってね、凄いんだよ。30年前のテレビゲームだって面白いんだもの! 面白いゲームはいつまでも残るの! 絶対基準なんてない、名作は生涯残るの! だから私はゲームを作る側に来たの!」

萌衣先輩の切実な想い。
彼女は絶対基準の存在する陸上の世界が怖くなった。
だから絶対基準の存在しない創作の世界を目指した。
しかしそれには遅く、また他にも選択肢はあった筈だが彼女はそれを選んだのだ。
俺はそれに掛けられる言葉がない。
だが、応援はしたかった。

悠気
 「必ずゲームは完成させましょう!」

萌衣
 「う、うん!」

俺達は校門で別々に別れる。
お互い手を振るような真似はせず、ただまた明日会いましょうと笑顔で応える。
こうして、俺達の文化祭準備は始まった。



***




 「フリーツールを探せば、結構良いのが見つかりますよ」


 「人物もシルエットにして、背景は実写を加工すれば一応様になる」

改めて作業に協力してくれる事を表明してくれた常葉と光先輩。
常葉は文句なしに一番頼れそうだ。
俺達でもなんとか使いこなせそうなフリーツールを教えてもらい、更に必要なサンプルも幾つか見つけられた。
光先輩も作業上のテクニックを教えてくれて、作業はある程度進んでいる。

萌衣
 「ねぇ葛樹、ここ生徒会に占拠されたりしないわよね?」

基本的に萌衣先輩は光先輩を信頼していない。
まぁ大多数にとって光先輩は学園の問題児なのだから仕方がないが。


 「その心配はいらんだろう、ちゃんと正式に許可は取った」

学校のパソコンはやや古いが、正式に使えるようになった事は大きい。
光先輩は確かに問題も多いが、頼れる先輩であるのは確かだ。

瑞香
 「残り20日、もうこうなりゃ利用出来る物はなんでもでしょうよ!」

元々期間1カ月というのが無茶苦茶なのだ。
そこから方向性を決定して、プロットを作成したら作業開始。
今の所問題なのが音楽関係といった所だが、こっちは光先輩が担当してくれている。
SEなんかは意外とフリーでも良い物があったりするし、後の問題は制作時間だろう。

柚香
 「えーと、文章これで大丈夫かな?」

柚香ちゃんはストーリーを担当して貰っている。
白雪姫という童話とはいえ、そのままでは見向きもされないだろう。
だから適時文章チェックして、議論する。

萌衣
 「ここ、もう少し描写増やせる?」

柚香
 「分かりました」

基本作業は役割分担だ。
命ちゃんは不定期で、ある程度一定の作業を手伝って貰い、光先輩はサウンド担当。
萌衣先輩はプログラマーとプロデューサー、ユズちゃんはシナリオライター。
瑞香は雑用で、俺がグラフィッカー。

なんとか様になっており、俺も光先輩に教授を貰いながらキャラの立ちグラやCGを作成していく、更にフレームの作成なんかもあって、殊の外この作業は苛酷であった。
ビジュアルノベルでなかった事が本当に幸いだった。
土台一ヶ月で作りきれなんて、それこそ当初だったら不可能だったろう。
だけどそれをどれだけ短縮出来るか、今はその勝負だ。



***




 「いらっしゃいませ〜♪」

幸太郎
 「月代! 笑顔が足りんぞ!」


 「ふぇぇ〜、幸太郎厳しいよぉ〜」

悠気
 「……随分盛り上がってるな」

放課後はこの時期どこも文化祭の用意に忙しくなる頃だ。
俺はゲームを開発しながら、様子を見て教室に向かうと女子数人がコウタに扱かれていた。
しかしコイツ、メイドが関係するとキャラ変わるのな……。
俺は半ば感心するような呆れるような思いで周囲を伺うと、コウタは苦言を呈する。

幸太郎
 「悠気、山吹を少しは練習に参加させてくれ! アイツ一向にこっちに顔を出していないんだが?」

悠気
 「そこで俺に丸投げするな、俺は瑞香の保護者じゃないぞ」

幸太郎
 「ならさっさと婚姻届を出せ、お前の女関係は少し面倒くさい」

おっと、コウタにそういう風に思われてたのか?
にしても高校生に婚姻届って、気が早すぎだ。
結婚前までには考えておかないと、みなもさんが不憫だが正直そんな簡単に伴侶なんて見つけられるか。
俺自身誰が好きなのか、正直判然としていない。
瑞香や宵が嫌いな訳じゃないし、ユズちゃんやみなもさんはお嫁さんとして相応しいとは思う。
だけど、結局俺が一生の伴侶と誓えるかは別問題なんだ。

悠気
 「とりあえず瑞香には忠告しといてやる……それより厨房はどうなってるんだ?」

俺はその下らない下世話な問題をさっさと頭の隅に追いやると、メイド喫茶で使う厨房の事を聞いた。

幸太郎
 「家庭調理室が使える、後は予算内で済むかだが」

悠気
 「節約術なら任せろ、必ず最良の仕入れ先を見つけてやる」

教室に残っているのは半数にも満たない。
運動系ならいざ知らず、大城のような文化系はまずこっちまで手が回らんし、それ以外も内装の準備に取りかかっている。


 「悠気、最近付き合い悪い〜!」

そう言って不満垂れる月代はその場でへたり込んだ。
慣れないサービス業に月代も戸惑っているらしく、相当疲れているようだ。

悠気
 「まぁ頑張れ、月代はやれば出来る子だろう?」


 「うぅ〜、幸太郎厳し過ぎるの〜」

幸太郎
 「何を言う、接客業がそんなに甘いものか」

悠気
 「だから時給の割にアルバイトが集まらないんだけどな」


 「社会の荒波は厳しいよぉ〜」

冷静に考えれば月代って普段の生活費どうしてんだ?
幾らかツテはあるみたいだが、アルバイトしている様子はないし、第一いつになったら親御さんは現れるんだ?

悠気
 (? 親御さん……そもそも月代の親御さんって一体?)

俺はふと妙な違和感を覚えた。
もう月代がこの街にやってきて半年が経つのに、あの家には月代一人しか住んでいない。
母さんの性格を考えたら、みなもさんのようにホームステイさせているはずだ。
俺はずっと月代はあの大きな家は家族で住むためだと思っていた。
だが、何時まで経っても彼女は独りぼっち。
なんだ? この当たり前の事が欠落している感覚は?


 「どうしたの〜?」

ふと、宵は心配そうに俺の顔を下から覗き込んできた。
俺は即座に頭を振ると、嫌な予想を振り捨てる。

悠気
 「何でもない、いいか月代? お前が学んでいる物は何一つ無駄にはならない。これも社会勉強と思え」


 「うぅ〜、は〜い」

もし……、もし月代に初めから親なんていないとしたら、この矛盾はなんなんだ?
いや、そもそも月代の親御さんはきっとまだ仕事の都合とかでこっちに来れないんだろう、そう……その筈だ。

悠気
 「調理室の方を見てくる」

幸太郎
 「ああ、お前のパティシエとしての実力は信用しているからな」

悠気
 「任せろプロのパティシエに必要とされる1万時間、俺はとっくの昔に越えている!」

と言っても、プロというのはその先も無限だから、俺なんてその入口に立っているだけだが。
しかし料理の中ではお菓子作りは一番得意だったりする。
それというのも母のお陰だが、みなもさんも和食を中心に腕が立つから、必然的にパティシエとしての技術を発達させるしか、あの人達と差別化出来なかった。


 「ああ〜、今日はスフレが食べたい気分〜」

悠気
 「あれは賞味期限10分だ、用意は出来るが最高のコンディションで出せん」

スフレはフランス語で膨らむの意。
その名の通りメレンゲを焼いて膨らませるのだが、これがあっという間に萎んでしまうから、お菓子屋などではまず食べられない。
特にスフレと一言に言えば、基本的にはオムレットスフレを指すが、コイツは本当に膨らんでいる時間が短い。
だからコンビニとかではまずチーズスフレ位しか売っていない。

悠気
 「明日差し入れ考えてやる」


 「本当? やった〜♪」

月代はそう言うと手を叩いて喜んだ。
喜怒哀楽の激しい月代は、さっきまで泣きそうだったのに、もう満面の笑顔だ。
俺と違って悩みも無さそうである意味羨ましいな。
以前大城に笑わない男だと評された、気にはしているんだが俺の喜怒哀楽は乏しいらしい。
一体いつの間に俺はそんなに感情を表さなくなったのかな?



***



萌衣
 「……ああもうっ! 分かんないー!」

悠気
 「落ち着いて萌衣先輩! 甘い物食べて落ち着く!」

文化祭開催まであと1日に迫っていた。
既に大半は完成して、デバッグを開始しているのだが……そこで躓いた。
何度やってもエンディング前で必ずフリーズを起こす。
俺達は総員でプログラムミスのチェックに挑んでいるが、何分相手は慣れない英文のプログラムコードたち。
それに数時間戦った萌衣先輩も流石に悲鳴めいて音を上げた。
俺も必死に目を皿にして文字列を洗っているが、プログラム初心者の俺にこれは拷問に等しい。

萌衣
 「タルト食べて、ストレス解消〜……」


 「悠気、お前去年からお菓子の腕を上げたな?」

悠気
 「改善、改善あるのみ。ですよ」

皮肉にもパティシエとしての実力は開花しており、皆にも絶賛して貰えているが、デバッカーとしては二流らしい。
とにかく、愚鈍でもやるべき事を熟すしかない。

柚香
 「もう駄目……」


 「流石に精根尽きますです……」

あまりの苦行に崩れゆく仲間たち。
たかがCD一枚分のゲームに、ここまで難苦するとは、世のゲームメーカーがどれだけ凄いか分かる。
常葉のようなプロゲーマーでも、ゲームは好きでも作るのが好きなわけじゃない。
300万本とか売り上げるゲームを作った人達は、これだけの地獄なんてなんなく乗り越えるんだろうな。

萌衣
 「ねぇ悠気、悠気も少し休んだ方が……」

悠気
 「そうは言うけど、出来ませんでしたじゃ格好悪いでしょう?」

俺はカレンダーを見て、希望と絶望を同時に味わう。
まず希望は、なんとか文化祭までに間に合った事。
そして絶望はそんな文化祭前によく分からないバグが見つかったってこと。
俺はとにかく何がおかしいのかプログラムの最初の行からチェックしていった。


 「テキストサイズだけで見ればADS以下なのに……」


 「逆に考えろ、ADSはそんだけ常人には意味不明なのだ」

柚香
 「二人が何言ってるのか分からない……」

因みにこういう時、突っ込み役の瑞香はここに居ない。
アイツは今頃コウタに鬼の扱きを受けている頃だろう。
とはいえ、いかにも接客業の得意そうな瑞香が泣き言言うとも思えんが。

悠気
 「? 先輩! こ、これ!」

俺はひたすら何時間もプログラムテキストと睨めっこした結果、ある違和感を覚えて、何度も画面を見直した。
皆がディスプレイに集まると、俺はある部分を指差した。

悠気
 「ここ、ここだけよく見たら全角になってる!」

萌衣
 「ほ、本当だ! 直ぐに修正してテストプレイよ!」

それはとても簡単なイージーミスという奴だ。
プログラムコードは半角でなければ読み込めない。
強制終了が必ず同じ場所で起きていたのは、こんなにも簡単なことだったとは。
早速修正して、そのデータを反映させると、問題箇所のテストプレイが行われた。

萌衣
 「……おわ、たぁ〜……!」

萌衣先輩が最後まで見届けて、全力で脱力した。
それを見て、他の皆も疲れ果て崩れ落ちていく。
かく言う俺も流石に疲れた……!

萌衣
 「後はこれダビングしないと……」

ゲーム研究会は図書室で発表を行うことになる。
その後30枚程度を無料で配布する予定なのだ。
流石に学校ではダビング出来ないので、萌衣先輩はこのマスターデータを自宅に持ち帰る必要がある。

萌衣
 「皆……ここまで本当にありがとう!」


 「最後までやり遂げると、結構作るのも面白かったです」

柚香
 「正直こんなに苦労するとは思わなかったけどね」


 「フッ、まぁ卒業制作と思えば」

結果的に色んな人間が集まって一つのゲームになった。
もっと時間があれば、もっと本格的な物も作れたかもしれないが、これが俺達の限界だろう。

萌衣
 「ゲーム研究会は文化祭の後解散だけど、皆と作れて私良かったわ!」

悠気
 「話も良いですけど、もう下校しましょう」

俺は時刻を見て、そう言うと皆笑いながら荷物を纏めた。
一人、また一人と帰っていき、俺も帰りの用意を済ませると。

悠気
 「鍵、俺が返しときますよ」

萌衣
 「ううん、これは私の役目」

最後、いつものように二人っきりになると萌衣先輩は鍵を持って部屋を出る。
既に物静かになり、空は暗くなっている。
萌衣先輩は一度俺を振り返ると。

萌衣
 「悠気、私本当に貴方に感謝してる」

悠気
 「それは、俺だって昔萌衣先輩に一杯助けられた」

萌衣先輩はクスリと笑った。
そしていつものような調子を取り戻すと。

萌衣
 「よっし! 明日からまた頑張ろう!」

悠気
 「ああ、文化祭だからね」

萌衣先輩はそう言うと鍵を持って職員室へと向かった。
俺はその背中を見送って下駄箱に向かう。



***



萌衣
 (悠気、やっぱり格好良くなった……)

私は鍵を返却すると、真っ直ぐ下駄箱に向かう。
その途中で私の想いを振り返った。
私が悠気を好きになったのはいつからだろう?
6歳の頃? あの頃には流石に恋愛感情なんてなかったろう。
なら中学生になってから?
具体的な所は分からない、だけどいつの間にか好きになっていた。
きっと愛しているんだ。

萌衣
 (でも悠気はどうなのかな? 私は親しいお姉ちゃんに過ぎない?)

正門を迎えると、そこには悠気の姿があった。
私は少し早足で悠気の元に向かうと、悠気はこちらに気が付いて振り返った。

悠気
 「萌衣先輩」

萌衣
 「悠気! もしかして待ってたの?」

悠気は小さく頷くと、私に近づく。
私はそれに少し嬉しくなり、笑顔を見せた。

萌衣
 「そうなんだ? 何か用?」

悠気
 「萌衣姉ちゃん、その……今までごめん」

萌衣
 「え?」

訳が分からなかった。
悠気は何を謝っているの?
私は悠気に感謝しかない。
だけど彼はただ神妙な面構えで。

悠気
 「本当ならもっと早く恩返しするべきだった……ここまで遅くなるなんて」

萌衣
 「ぷっ! 何よそれ……。悠気は考えすぎよ!」

私は思わず笑い出してしまう。
悠気は責任感が強い子だとは思っていたけど、これ程までとは。

萌衣
 「悠気、お姉ちゃんは一杯助けられました! でもそれに遅いも早いもないの! ほら、帰るわよ!」

私は悠気の手を取った。
悠気の手は私の手より大きくて、肌の質感も全然違う。
こんなにも立派なったのだと感じながら、私はそれでまだ悠気が子供なんだと理解した。

萌衣
 「悠気、また明日ね!」



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』

第18話 お姉ちゃんの想い

第19話に続く。


KaZuKiNa ( 2021/05/07(金) 18:00 )