突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語




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突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語
第16話 高雄萌衣と文化祭



萌衣
 「……」

カタ、カタタタタ……。

私の名前は高雄萌衣(たかおめい)。
もうすぐ進路を決めないといけない高校3年生だ。
今私はパソコンの前にかじりついていた。
私がキーボードを叩いているのはある目的のため。
私は顔を横に向けてカレンダーを見ると、ある日付に赤丸が描いてある。

萌衣
 「後28日……!」

カタタタタ……。

私は急いでキーボードを叩く。
しかし作業は一向に進まない。
私の目の前に広がっているのは所謂プログラム言語と言う奴。
しかし私の作業は一向に進まない。

萌衣
 「はぁ……」

私はついの溜息をついて時刻を確認する。

萌衣
 「……学校行かないと」

私は机の横に置いてあった鞄を手に取ると立ち上がった。



***



萌衣
 「よーし! 今日も間に合ったー!」


 「……あの先輩今日も走ってる」

新学期、ドタバタした夏休みも終わっていつものように学校へと向かうと、もはや恒例の萌衣先輩の通学風景だった。

瑞香
 「もはや学園名物よね」

幸太郎
 「後半年も見れないだろうに……」

悠気
 (そうだよな、3年生はもう受験だもんな……)

俺は萌衣先輩の背中を見送りながら、いつものように校舎へと向かう。



***




 「皆ー、今月末には文化祭よ〜! 文化系は忙しいだろうけど頑張っていきましょう!」


 「文化祭かぁ〜、ワクワク!」

文化祭シーズン、担任の杏先生も言っているように、学年一丸となるイベントはこれが今年最後となる。
ホームルームでは、まずは方向性を決めることから始まり、皆何をするべきか議論を続ける。

男子生徒
 「定番だと喫茶店とか?」

女子生徒
 「お化け屋敷とかも定番よね!」

実は一番文化祭の難関はこの題目決めだったりする。
皆色々意見を言って、御影先生は黒板に書いていくが、イマイチ意見が纏まらない。

瑞香
 「あのー、メイド喫茶とかどうですか?」


 「メイド喫茶? 随分思い切り良いわねぇ〜! 皆どう?」

男子生徒
 「良いんじゃないっすか!」

女子生徒
 「ちょっと面白そうかも……」

意外にも瑞香が提案したメイド喫茶はそれなりに好感触のようだ。
あの小旅行でメイド喫茶初体験の印象が瑞香に残ったのかも知れないな。
しかし、それを反対する者もいた。

幸太郎
 「反対だ、お前たちはメイドのなんたるかを全く理解していない!」

琴音
 「は、百代君?」


 「百代、アンタいつもの寡黙さどうしたのよ?」

普段、寡黙で沈着冷静なコウタが珍しく怒気を強める。
アイツはメイドに対して並々ならぬ思いがあるのは確からしいが……。
しかしあの小旅行に参加した瑞香は口元に手を当てて笑うと、コウタを挑発するように言った。

瑞香
 「あらあら? それならば是非幸太郎にはメイドとはなんたるかを、執事役としてご教授いただきたいわね〜?」

幸太郎
 「なに!? 俺に指導を求めるだと?」


 「良いんじゃない? メイド喫茶に一番詳しいの幸太郎でしょ?」

女子二人にそこまで言われたコウタは、顎に手を当て思案する。
アイツはメイドが関わると熱くなるのな、結構意外だが。

幸太郎
 「良かろう……! ただし俺は一切手加減せんぞ!?」


 「それじゃ、メイド喫茶に決定! 良かったぁ〜、時間内に決まって!」

御影先生はそう言うと、教壇にもたれ掛かって安堵した。
先生方の日々の苦労はこういうところでも出てきているのだなと、俺は高校生ながら思うのだった。



***



悠気
 (メイド喫茶ねぇ?)

放課後、文化祭の準備期間と言っても、今はまだそんな忙しい時期じゃない。
それでも別人と化したコウタは早速準備に取りかかったようだが、まぁ俺にはあまり関係ない。
喫茶店である以上、俺が出来るのはキッチンの方だしな。


 「よぉ、ユウ!」

悠気
 「あ、光先輩」

ふと、直ぐに下駄箱には向かわず、廊下を歩いていると目の前から光先輩が現れた。
今年3年生にとっては最後の文化祭、これが終わると本格的に受験シーズン到来で、早い者には直ぐにでも進路が内定するだろう。


 「ユウ、お前クラブ活動始めたのか?」

悠気
 「は? 俺は無所属ですよ?」

突然訳の分からない事を言う先輩に俺は首を傾げる。
しかし光先輩は、丁度図書室の壁に貼られたチラシを指差す。


 「しかしここに若葉悠気とな?」

悠気
 「な……!?」

この学園では個人サークルの出展も認められている。
ただし、そのためには3人以上の参加人数が要求されるのだ。
そしてその個人サークル名にはゲーム研究会という名前と、高雄萌衣、若葉悠気、山吹瑞香の名があった。

悠気
 「ななな……!?」


 「高雄の奴と一体何をやるんだ?」

事情を知らない光先輩はそんな暢気な事を言うが、こっちはそれ所じゃない。
高雄萌衣、1年前……つまり2年生の時は陸上部で瑞香の先輩にあたる人だった。
だが、去年の10月位で陸上部を退部していた。
それから俺と萌衣先輩はそれほど接点もなく、ただ遠目で見る存在になっていた。

悠気
 「ゲーム研究会? 萌衣先輩ーっ!?」

俺は一目散に駆けだした。


 「あ、こらっ! 校舎では走らないの!」

たまたま巡回していた生徒会も無視して、俺はある教室を目指す。



***



悠気
 「萌衣先輩ーっ!? 理由を説明していただきたい!」

俺は迷わず普段使われていないある空き教室に突入する。
そこは萌衣先輩が良く隠れ家にしていた場所だ。
そこには予想通り、薄暗い机もない空き部屋の中でノートパソコンにかじりつく萌衣先輩を発見する。
萌衣先輩は俺の突然の突入と剣幕に驚き、尻尾の毛を逆立てて振り返った。

萌衣
 「ええっ!? 悠気、どうしたのっ!? 理由って一体!?」

悠気
 「ゲーム研究会、その部員に俺の名前と瑞香の名前が使われていることですよ!?」

その事を聞いた萌衣先輩は、「あぁ……」と気まずそうに目を逸らした。
どうやら後ろめたさはあったようで、俺は溜息を吐いた。

萌衣
 「ご、ごめん……どうしてもサークルを作るのに3人以上必要だからさ? 名前を勝手に借りちゃった」

高雄萌衣先輩、いつも朝に見掛ける先輩はパチリスのPKMだ。
身長は150センチ後半の小柄さで、リスを思わせる尻尾に青い縦縞が一本入っているのが最大の特徴だ。
頬も黄色い電気袋を持ち、耳は普通の第二世代PKM。
青い髪をショートカットで揃え、見た目から文化系というより運動系をイメージさせる。

そんな萌衣先輩と俺は、実は昔近く住んでいたご近所さんだったのだ。
所が俺の方が今の家に引っ越す事になり、離ればなれになったが、今でも俺は萌衣先輩の事ならある程度知っている。

悠気
 「それで、ゲーム研究会って何するの?」

図書室前に貼られていたチラシには出展予定とあった。
順当に考えれば、ゲーム機のレポートとかそう言うのだろうか?
しかし、萌衣先輩がノートパソコンに表示させていたのは、見たこともない文字列だった。

悠気
 「これなんすか?」

萌衣
 「……その、ゲームのプログラム」

悠気
 「まさかゲームを自作してるんですか!?」

萌衣
 「まぁね……」

俺は萌衣先輩の近況はよく知らなかったが、彼女が自作でゲームを作っていた事に驚く。
しかし萌衣先輩は不思議なほど暗い顔をしていた。
一体どうしたのか、俺にはパソコンの画面を見てもさっぱり分からないが、理由を聞くと明白だった。

悠気
 「で、どれ位完成してるんですか?」

萌衣
 「全然……後1ヶ月もないのにね」

萌衣先輩はそう言うと、諦念を顔に浮かべて首を横に振る。
それは俺の知っている萌衣先輩とは真逆だった。
萌衣先輩は明るくて、皆にも人気のある人だった。
少し乱暴な所もあるけれど、決してこんな暗い顔をする人じゃない。

悠気
 「因みに、どんなゲームを作ってるんですか?」

萌衣
 「ロールプレイングゲーム、かな?」

RPGか、アレって1ヶ月かそこらで完成する物なのか?
俺は流石にプログラムを打つとなると素人なので、全く分からないが、これを一人で作るなんて無理だって事だけは分かった。
多分萌衣先輩自身気付いているんじゃないかな……。

悠気
 「先輩、それ文化祭までに間に合うんですか?」

萌衣
 「そ、それは……」

やはりというか、萌衣先輩は口を澱ませた。
昔の萌衣先輩ならやけっぱちでも出来ると言った筈だが、そんな余裕もないほど追い込まれているらしい。

悠気
 「先輩、俺に手伝わせてください!」

俺はそう言って頭を下げると萌衣先輩はキョトンとしていた。
再び、顔を上げると萌衣先輩は一筋の涙を零した。

萌衣
 「ば、馬鹿じゃないの!? ゆ、悠気にプログラム言語分かんの!?」

悠気
 「そりゃ、今は分からないけど……でも一人で無理なら二人でやるしかないじゃないか! それにほら? 俺もゲーム研究会の部員なんだしさ?」

萌衣
 「何よそれ……あれはあくまでこのサークル作るために、名前借りただけで……」

悠気
 「それでも、俺は見捨てない!」

萌衣先輩は大粒の涙を零して、顔面を手で覆った。
きっと萌衣先輩はずっと一人で頑張っていたんだろう。
俺はどうしてもそんな萌衣先輩を助けたい。
かつて萌衣先輩は俺の腕を良く引っ張る活発なお姉さんだった。
交流はお互い10歳にも満たない頃の数年だが、それでも俺は萌衣先輩に恩もある。

萌衣
 「悠気ぃ……、本当に? 本当に駄目なお姉ちゃんを助けてくれるの?」

悠気
 「萌衣姉ちゃん、俺は昔よりはずっと大きくなったろう? 俺に任せて」

萌衣先輩は、久し振りに聞いたであろう姉ちゃんという言葉に目を更に潤ませるものの、直ぐに袖で拭いた。

萌衣
 「わかった……協力して! でももう時間もないし……」

文化祭まで後28日……それまでにゲームを完成させないといけない。
ハッキリ言って、俺一人増えた所で完成するのか疑問だが、俺は諦める気はない。
改善、改善あるのみ。

悠気
 「とりあえずゲームの企画書かなにかないの?」

萌衣
 「それならこれが……」

萌衣先輩はそう言うと、自身の情報端末から企画書らしき物を表示させる。
俺はそれに軽く目を通すが、その内容に唖然とした。

悠気
 「掠われたお姫様を救う為に悪いドラゴンを勇者が倒すか」

凄まじく古典的だ、だがそこは良い。
問題はその後だろう。

悠気
 「……この犬みたいなのは何?」

萌衣
 「ど、ドラゴンよ! ドラゴン!」

企画書に一緒に添付されていたイラストには下手くそな勇者とお姫様? らしきものがあり、3枚目には犬にしか見えないドラゴンがいた。
この時点でハッキリわかった事だが、萌衣先輩に絵心はない。

悠気
 「はっきり言うけど、これを一人で作る気だったの? それなら不可能だ」

萌衣
 「う……っ!」

悠気
 「このゲーム、俺たち二人で作るなら少なくとも1年じゃ無理、数年かかるかも」

萌衣
 「それじゃ、どうするのよ!?」

俺は考える。
要はゲームが完成すれば良いわけだ。
そのためには何をするべきか。

悠気
 「まずは、力を貸してくれる人が必要だ、これじゃ机上の理論と変わらない」

萌衣
 「そんな事言っても、私には誰も頼れる人なんていないし」

悠気
 「兎に角探してみよう!」

俺はそう言うと萌衣先輩の手を引っ張る。

萌衣
 「あっ……」

悠気
 「? どうかした?」

萌衣
 (悠気ったら、本当に大きくなったんだ、掌だってこんなに力強く……)

俺は萌衣先輩の手を放すと、先輩は掴んだ手をもう片方の手で覆って、顔を紅くする。
随分泣いた性か、目を紅くしており、それが恥ずかしいんだろうか?

悠気
 「萌衣先輩、少し落ち着いてから行きます?」

萌衣
 「だ、大丈夫! 行こう?」

萌衣先輩が笑顔で笑うと、俺はホッとした。
出来ることならずっと笑顔の萌衣姉ちゃんであってほしい。



『突然始まるポケモン娘と学園ライフを満喫する物語』


第16話 高雄萌衣と文化祭

第17話に続く。



KaZuKiNa ( 2021/04/23(金) 18:08 )